自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年12月16日  12:15  日本国北方管理地域  陸上自衛隊ゴルソン大陸方面隊第18地区駐屯地  

駐屯地内部は実に賑やかだった。  
無数の装甲車輌たちがエンジンを始動させ、黒煙を大気中にばら撒いている。  
90式戦車の一団が隊列を整え、96式装輪装甲車の一団が自衛隊員を飲み込む。  
89式戦闘装甲車の車列が移動準備を整え、戦闘ヘリコプターたちが空中へと移動する。  
スピーカーが叫ぶ。  

「敵は最大級の魔術的儀式を開始したとの報告が入った!  
ダークエルフたちは気絶か殉職、しかし位置は特定できた!  
現在第一基地より空爆部隊が急行中!  
全部隊は直ちに出撃、敵軍脅威を撃滅せよ!」  

普段は硬く閉ざされているはずの扉が開かれ、基地守備隊が集まるゾンビたちに銃弾を浴びせかける。  
装甲車、戦車、戦闘装甲車の順番で車列は出発し、最後に戦闘ヘリコプターが上空に付く。  


日本人たちは、それほど魔法について造詣が深いわけではなかった。  
しかし、彼らにとっての魔法レーダーであるダークエルフたちが、感じただけで死傷したとき、彼らは理解した。  
控えめに言って、愉快ではない事態が進行していると。  
統合幕僚監部の指示の元、ゴルソン大陸方面隊の全ての戦力に行動命令が下されたのは、無理もなかった。  
よくわからないからこそ、それは過大評価する必要がある。  
日本人たちは、そう考えたのだ。  
大陸全土で、航空部隊が空中に舞い上がり、機動力のある部隊が出動していた。  
本土も例外ではない。  
燃料に余裕の出た航空自衛隊各機が緊急発進し、海上自衛隊の艦艇が港を出港する。  
陸上自衛隊各方面隊は緊急出動の準備を整え、国民たちは出来るだけ安全な場所への移動を始めた。  
何が起こるかわからない。  
だからこそ、出来る限りの事をする。  
極めて健全な思考に従い、日本を動かす救国防衛会議は行動を決断していた。  


<<戦闘団指揮官より各隊。現在各地より増援が急行中。  
   目標は北西30km地点の遺跡、現在航空自衛地が在日米空軍と攻撃を敢行中。  
   我々は結果に関わらず現場へ急行する。以上>>  

無線機から通信が入る。  
位置的に一番乗りするであろう第18地区駐屯地の彼らは、戦闘準備を完全に整えていた。  
程よく緊張した下士官兵たち。  
実弾を装填した兵器たち。  
休む事なく頭を回転させる幹部たち。  
全ての軍たちが理想とした、必要な時に全力を発揮できる軍隊がそこにいた。  
戦闘ヘリコプターたちが加速を開始する。  
その遥か上空を通過する飛行機雲たち。  
微かに見える黒い点は、B-52かそれ以外か。  
何はともあれ、彼らは現地へと急行していた。  
音速に近い、あるいは音速以上の速度で。  



日本国北方管理地域  陸上自衛隊ゴルソン大陸方面隊第18地区駐屯地北西31km地点  

そこはロマンチックに言うところの超古代文明の遺跡だった。  
闘技場のような楕円形の建築物。  
辛うじて形をとどめている建築物だったらしい何か。  
その中心に、エルフ第三氏族たちはいた。  
航空自衛隊の偵察や爆撃に分散する事で対抗し、今までこの地で生き延びていたエルフたちだった。  
第三氏族たちは、最後の仕上げに入ろうとしていた。  
遂に継続してまともな数を召喚できるようになっていた異世界の化け物たち。  
その王を呼び出そうとしていた。  
儀式は佳境に入っていた。  
無数の人間の女性を切り刻み、生きたまま引きずり出した臓物や血液をぶちまける。  
泣き叫ぶ子供たちを惨殺し、逃げ惑う老人たちを殺害する。  
そうやって作り上げた血の池地獄に切断した四肢で魔方陣を描く。  
魔方陣は黒い光という器用な存在で輝き、何かが現れてくる。  
エルフたちは狂喜した。  
彼らの欲望を満たす、何もかもを破壊する存在がこちら側の世界へ来ようとしている。  
もう少し、もう少しで全てを破壊できる。  

魔方陣から、無数の黒い影が湧き出す。  
地を這う魔物、見上げるような巨大な魔物、空を駆ける魔物。そういったなにか。  
それらは狂喜する第三氏族や辛うじて生き残っていた人間たちを飲み込み、一斉にこの世界へと飛び出していった。  
大地を砕き、空を切り裂き、聞くもおぞましい奇声を上げて大地を進む。  
名前を語るのも憚られる存在たちは、この世界に生きる全てへの明確な敵意を示しつつ、この近辺で最も生き物が多い場所へと突進した。  
それらが進む先にいるのは、誇張なしにこの世界で最強の存在。  
日本国である。  



西暦2020年12月16日  12:20  日本国北方管理地域  第18地区上空  

<<こちらはAWACS、コールサインスカイアイ。第18地区駐屯地へ>>  

遥かなる高空を進む空中管制機から通信が投げかけられる。  

<<警報、警報、多数の空中目標を確認>>  

レーダースクリーンは敵を現す反応で光り輝いている。  

「制空部隊は前進、長距離攻撃で数を減らせ」  

命令を伝えつつ、管制官は体の震えが止まらなかった。  
なんなんだ敵軍は。  
20や30を越える数が空中に集合している。  
味方の制空部隊はあくまでも非常時に備えて上がってきているだけだ。  
止められないぞこんなの。  
怯えつつ、彼の中の訓練された部分は指示を出し、要請を伝え、増援を懇願している。  

「警報、警報、こちらは第18地区航空管制機、コールサインスカイアイ。  
無数の敵航空戦力を確認。ブリップでレーダーが見えない。  
120ノットで移動中の友軍部隊に接近中。警報、警報」  
<<こちら第一基地所属メビウス飛行隊、作戦エリアに侵入した>>  

数えるほどしかブリップがない友軍支配地域に、八つの反応が現れる。  
管制官は素早く状況を確認し、戦闘指示を出した。  

「メビウス飛行隊、戦闘を許可する。長距離攻撃を実施せよ」  
<<了解スカイアイ、メビウス1より全機、IFF作動確認、スカイアイの指揮下に入る>>  

友軍機たちは素早く散開し、長距離攻撃の準備に入る。  
だが足りない。  
大空を埋め尽くす敵軍を倒すのには全く足りない。  
このままでは人類は、いや、正確には日本国は終わってしまう。  
レーダー画面を、コンソールを見る。  
そこにあるのは動かない現実。  
足りない味方、多すぎる敵、現状の打開には何の役にも立たない機器の群れ。  
    
「どうしたらいいんだ」  

隣に座る同僚の呟きが聞こえる。  

「神様」  

別の同僚が呟く。  


<<こちらはUSSジョージ・W・ブッシュ>>  

突然、同盟国用の周波数から声が流れる。  
  
<<航空自衛隊管制機へ、当方は所属機の全てを投入する。  
   現在第一波が移動中、無口なんだが腕はイイ連中だ。上手く使ってくれ>>  
「こちらはコールサインスカイアイ、支援に感謝します」  
<<コールサインはラーズグリーズ、隊長は無口な奴だが、根はいい奴だ。そっちから呼びかけてやってくれ>>  
「了解」  

在日米軍とのデータリンクが作動する。  
沿岸部のデータが一気に更新される。  

「すげぇな」  

再び同僚の声が聞こえる。  
日本海が海上自衛隊と第七艦隊の艦艇で埋め尽くされているのがわかる。  
空中給油機を囲むようにして本土から無数の航空部隊が接近してきている。  
  
<<ラーズグリーズ飛行隊へ、こちらは航空自衛隊所属AWACS、コールサイン、スカイアイ。  
   こちらの声が聞こえますか?>>  
「はい」  

随分と簡潔な答えだな。  
増え始めた手駒の使い方を考えつつ、彼はそんな事を思った。  



西暦2020年12月16日  12:30  日本国北方管理地域  第18地区  

<<第一基地飛行隊は全機出撃>>  
<<第18地区駐屯地、防空部隊は全て出動。地上部隊を守れ>>  

無線機は随分と賑やかになっている。  
敵が大量に押し寄せてきている事はわかっていたが、こちらも随分と投入しているようだ。  
ドラゴン殲滅戦で名を馳せたメビウス飛行隊、朝鮮半島有事で一躍有名になったJWB所属ラーズグリーズチーム。  
第三氏族に教訓を与えたウォードック飛行隊。  
あいつらは対地攻撃が任務じゃなかったのか?  
  
「空で敵を撃てるなら何でもいいんでしょうね」  

待機している装甲車の中で、佐藤たちは暢気に会話を楽しんでいた。  
周囲では自走対空機関砲が空を睨んでいる。  
今のところ、彼らは銃を手に空を見上げる事しか出来ない。  

「肝心な時に手駒が足りなくならなければいいんだがな」  
「それは大丈夫でしょう、B-52Lが大量に空中待機しているんですから」  

特科を連れまわす事の出来ない彼らにとって、航空戦力は貴重な遠距離攻撃手段だった。  
例えそれが近接航空支援の出来ない戦略爆撃機であっても。  

無線機は、どうしようも内容に思えた状況が好転していく様を伝えてくる。  
敵は呆れるほどに湧き出してきたが、それだけだった。  
ミサイルの爆発で吹き飛ばされ、機関砲で切り裂かれる。  
実に貧弱だった。  
航空部隊は獅子奮迅の活躍を見せている。  
どれほど数を揃えた所で、雑魚は所詮は雑魚、そういうことなんだな。  

「上空は綺麗なんだな?」  

空自と連絡を取り合っている通信士に尋ねる。  

「はい、大丈夫です。直衛でいくつかの部隊が張り付いてくれるそうです」  

うん、一つの質問で予測される先を答える。  
自衛官はこうあるべきだ。  

「前進する。直ぐに移動準備を整えろ」  
「既に完了させております」  

二曹が狭い車内で器用に敬礼しつつ答える。  
時々、俺は必要のない人間じゃないかと思えてくる瞬間だな。  
そんな事を思いつつ、佐藤は居心地悪そうに椅子に座った。  
  
「一尉っ!」  

運転席から悲鳴のような声が聞こえてきたのはその瞬間だった。

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