自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年12月31日 20:00 佐藤の病室

「畜生、いつか殺してやる」

 病室に勢揃いしたスタッフと機材を眺めた佐藤は、そう呟いた。
 いつか助けたダークエルフの一族、氷の精霊とやら、怪しげなローブの集団。
 医師、医師、医師、看護士と技師の群れ。
 いろいろなものをとらえる各種カメラや測定器。
 全身に設置された測定器。
 
「ただベッドに寝ていていただいて、傷を癒していただければ結構ですよ」

 鈴木の言葉に思わず感動し、頷いてしまったのが失敗だった。
 すぐに彼は携帯電話を取り出し、あちこちへと電話をかけた。
 それから数時間、慌ただしく色々な人間が出入りし、このような状況となった。

「まあそう言わないでくださいよ。
 一応実験の結果では良好なものが出ているのですから」

 スーツの上に白衣を羽織った鈴木が愉快そうに笑う。

「今回のじっけ、治療の結果では、多くの日本国民が救われますよ。
 もちろん自衛官も」

 鈴木の言い分はこうだった。
 間に合えば四肢の切断すら回復できるこの世界の魔法を使えば、多くの人々が救われる。
 例えば全身麻痺の交通事故の犠牲者が、戦闘の結果四肢がとりあえず接合されただけの自衛官が。
 五体満足になれる。
 魔法は、病気は治せない。
 だがしかし、逆に怪我に関しては絶大な効果を発揮する。
 実験と言いかけたのは気になるが、まあいいだろう。
 佐藤はそう思った。
 怪我さえ治ってしまえば、あとは精神科医を騙せれば現役復帰できる。
 そうなれば、自分は再び前線へ戻れる。

「初めてなので、優しくお願いします」

 気色の悪い事を言いつつ、佐藤は姿勢を正した。
 遺伝子レベルで差異が見られないこの世界の人々が日常的に、それも長期間使用しているのならば問題ない。
 そう思い、目を閉じる。

「心拍数が増大してますよ一尉。落ち着いてください」

 うるせえ。
 鈴木の言葉に内心で呟きを返しつつ、佐藤は心を落ち着けようと努力した。
 ふと、目の前が心地よい冷たさに包まれる。

「落ち着くがよい佐藤よ。
 わっちも手伝う。何も考えず、身をゆだねてくれれば良い」

 どうやら精霊の親玉様も手伝ってくれるらしい。
 それならばなおの事問題はない。
 彼はそう判断した。
 あの事あるごとに異世界人を虐殺したがる原田を諫められる存在だ。
 自分程度に狂っている人間ならば、造作もない事だろう。
 安心して、身をゆだねよう。
 それに、それなりにスペシャリストの集団も来てくれているわけだ。
 何も問題はない。



西暦2020年12月31日 23:59 施設屋上

「年の初めの試しとて、終わり無き世の目出度さを」

 誰かが詠っている言葉が聞こえる。
 何とも古風な事だ。
 苦笑しつつ、佐藤は上空を見上げた。
 綺麗な夜空だな。
 日本以外全てが変わってしまったこの世界では、夜空とは芸術品と同義の存在である。

「本土での正月とは、幸運だったな二曹」
「一尉がご無事だった事だけで十分ですよ」

 既にかなりのアルコールを摂取している二曹は、随分とご機嫌なようだ。
 
「もう少しで新年ですね」

 いつの間にか隣に来ていた鈴木が言う。
 彼の手には、日本酒がなみなみと注がれたコップがある。

「生きて新年を迎えられて、本当に良かったですよ」

 医師には内緒で酒の入ったコップを持っている佐藤が答える。

「日本国民全てが、本来ならば等しくそのような認識を持つべきなんですけどね」

 また小難しい話を始めると、佐藤は興ざめした表情で鈴木を見る。

「ですが、皆さん自衛隊の努力のおかげで、何事もなければ来年の末も同じ事ができます。
 もちろんその先も、さらにその先も。
 こんな事は、自衛隊がいなければ絶対に起こりえない事でした」

 文官からかけられた思いもよらない言葉に、佐藤は絶句した。

「私たち武官以外の人間は、あなた武官に感謝しなくてはなりません。
 あなた方が体を張り、傷つき、倒れ、それでも戦い続けてくれたおかげで、この国の今と未来があります。
 そのことについて、私は感謝の気持ちと言葉を惜しむつもりは毛頭ありません」

 そこで鈴木はコップを置き、佐藤の方を向くと、深々とお辞儀をした。

「本当に、ありがとうございました。
 そして、これからもよろしくお願いします」

「頭を上げてください鈴木さん」

 佐藤はあわてた様子で彼の頭を上げさせた。

「文官の皆さんがいるからこそ、我々は前線で戦う事ができます。
 救国防衛会議があるからこそ、我々には誇りと名誉が保証されています。
 我々こそ、これからもよろしくお願いしますと言わせてください」

 佐藤の言葉に鈴木は苦笑しつつ頭を上げ、そして、一同による合唱が行われた。

「5・4・3・2・1・0」

 カウントダウンは終わった。
 そして、佐藤が、鈴木が、二曹が、その場に居合わせた全ての人々が、口を揃え、言った。

「新年、明けましておめでとうございます」

 日本国の、新しい1年が始まった。

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