自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2021年2月16日 12:00 ゴルソン大陸 日本国西方管理地域 ゴルシアの街

 国益や最大多数の利益に反する存在には容赦しない一方、真っ当な日本国民に対する手当と配慮は並々ならぬものがあった。
 当然といえば当然である。
 国家や自治体という存在は、税金によって運営されている。
 従って、公務員たちはその所属階級を問わず、全てが税金によって給与や賞与、手当を与えられる形になる。
 そんな彼らにとって、日本国民という存在は老若男女を問わず、いわば雇用主的存在である。
 雇用主に従わない、あるいは雇用主に損害を与えるような事など、労働者としてあってはならない事である。
 そう言った観点から、彼らは判断し、行動していた。
 もちろん、救国防衛会議という絶対的存在が彼らの後頭部に常に銃口を向けていたという事もあるが。

「我々は良識ある日本国報道関係者として行動する」

 佐藤たちのお膝元、ゴルシアの街にはこの日、そんな最大多数の利益に反する存在がいた。
 彼らは自分たちの主義主張こそが正しく、そして平和につながっている。
 それ以外全ての理論思想主張が間違っており、戦争へつながっている。
 そんな思想に染まった、戦闘的平和主義者と呼ぶべき、あるいは平成時代の汚物と呼ぶべき存在だった。


「なぁ、ちょっと待ってくれよ」

 そんな一団の中。抗議に近い声音で声を上げた男がいた。
 報道の腕章を付け、それなりの性能を持つデジタルカメラを首から提げた男だった。

「俺は今回の活動を全面的に知っている訳じゃないんだぞ。
 報酬の話もまだ決まっていないし、そもそも何をすればいいんだ?」

 袖口が痛んでいる防寒着を纏い、それでも目は油断無く周囲を伺っている男が尋ねる。
 年齢は31歳、海外を駆けめぐった経験から体は鍛えられており、経年による色気を醸し出している。
 強い意志を感じさせる顔つき、日本人離れした体つきをしている。
 彼は日本人戦場カメラマンとしてそれなりに名の知られた男だった。

「決まっているわ」

 一同のリーダー的女性が答えた。
 彼女は野党の名の知れた幹部の長女だった。
 男性に生まれていれば、今頃は二世議員として与党相手に噛みついてくれただろうと期待された人材だった。
 本人の意向もあり、政界入りはせず、現在は与党の汚職やスキャンダルを指摘する、野党のための国民の代弁者的存在だった。

「私たちは現在の与党的存在である救国防衛会議が隠している、日本国の国家的危機を暴くためにここに集まっている。
 彼らは自分たちの考えが、絶対に正しいと盲信している。
 それを国民たちにも信じさせようとしている。
 私たちは、そんな事はないと声を上げるため、ここに集まったのよ」

 今年30歳になったばかりの彼女は、ますます美しくなる一方の顔を興奮で染めつつ続けた。

「信治、貴方はそんな事でいいと思っているの?
 救国防衛会議の考えこそが全ての日本国で、本当にいいと思っているの?」
「そりゃあまあ、今の軍事政権の連中がやっている事が100%正しいとは言わないさ。
 でも、ある意味しょうがないところはあるんじゃないか?」

 彼はあえて場の空気を読まずに言葉を続けた。

「確かに軍事政権は素晴らしいものだと叫ぶ気はないさ。
 人権どころか人命すら軽くなっている世の中が住みやすいというつもりもない」
「だったらなんだっていうのよ!?」

 苛立った様子の女性が叫ぶ。
 彼女は信じられなかった。
 大学時代にいわゆる親密な関係になり、その後も密接な関係を保ってきた男が、自分の意見に反対しようとしている。
 彼女にとって、それは大変に不快な事だった。
 
「強圧的な政府は、民主主義的観点から見ればあってはならないものだ。
 それは俺にもわかる。
 だが、今の日本国を取り巻く現状は、国内外を問わずにそれを許す状況じゃないのか?」
「どういう意味よ、それ」

 押し殺した声で彼女は尋ねた。

「国民生活の統制なしに、今の状況はありえなかった。
 鉄砲と戦車による、躊躇も遠慮も例外もない恐怖によってのみ、この国は崩壊から免れられた。
 そういう考え方は、ないか?」

 彼の言っている事は、国民とその生活を保全するためならば、国家にも緊急避難が認められるという考え方だった。

「まさか貴方までそんな危険思想に毒されているなんてね」

 彼女は言った。

「本土でもこの地でも起きた先の争乱は、現政権と自衛隊の能力を上回っていた。
 彼らは野蛮な突撃と後先考えない攻撃で偶然勝てたに過ぎないわ。
 この世界では、日本の科学技術だけでは生き残れない敵がいる」

 彼女は、父親が存在していた頃に構築した情報網によって、それを知っていた。

「私たちは、国民へ正しい情報を伝える必要があるのよ。
 救国防衛会議は自分たちが対処できない事を隠そうとしている。
 国民たちへ真実を隠そうとしている。
 私たちは、それを暴こうと、何も知らない国民たちへそれを教えてあげようとここへ集まっているのよ」

 興奮で上気した顔を笑顔で歪め、彼女は演説を続けた。

「それはジャーナリストとしてやらなければならない事よ。
 信治、どうしてそれがわからないの?」

 大げさなジェスチャーで彼女は尋ねた。

「そんな事を国民へ知らせてどうする?
 対処のできない強敵が存在する事を知って、国内にどんな影響がでるか考えないのか?」
「そんな事は国民が考えて判断すればいいのよ。
 日本は民主主義国家なんだから」

 当事者意識が皆無の回答を聞いた彼は、全てを諦めた。
 付き合いの長い彼女との今後も、ここに集った見知らぬ同志たちの今後も。
 そして答えた。

「俺は、そんな無責任なジャーナリズムにはつきあうつもりはない」
「だからこそ、民衆と責任を分かち合うために、この地へきたんじゃない」

 彼女は矢継ぎ早に言葉を続けた。

「この地で大衆行動を起こし、それを報道し、日本国民を行動させるために」


 結局の所、公務員でも民間人でもない報道機関の人間という立場で、名を残したいだけなんだな。
 彼女の言葉を聞いた彼は、心の中で思った。
 知る必要のない事を暴き、必要十分以上に騒ぎ立てる。
 そんな事をして、国民にどのような得があるというのか。

「知らしめ、行動させるのは、解決策が見つかってからでもいいんじゃないか?
 年金や財源の話とは訳が違う、生きられないかもしれないという話だぞ。
「だからこそ、知る権利が国民にはあるのよ!
 そして、私たちは国民へ知らしめる義務があるのよ!」

 遂に彼女は絶叫した。
 だが、そんな彼女の魂の叫びを無視し、彼は続けた。
 
「国民を混乱に陥れてどんな意味があるというんだ?
 折角安定し始めた国内を、再び混乱に陥れかねないぞ」

それはいわゆる正論という物だった。
 大抵の物事にはタイミングというものがある。
 そして今は、そのような事を楽しんでいられる時期ではない。

「出て行って」

 彼女は感情を感じさせない声音でそう言った。
言いつつ、ポケットの中に納めた小型密造拳銃に手を伸ばす。
 戦場で虐げられる人々と野蛮な軍隊を思う存分見てきたはずなのに。
 彼女は思った。
 どうして?どうして彼は軍国主義的危険思想を持つ不穏分子になってしまったんだろう。
 この拳銃を分けてくれた奇妙な話し方の革命同志の言葉を思い出す。

「ちゅうちょするだめ!敵全部必殺これわかってます」

 彼が後ろを向いて無防備になったならば、射殺しよう。
 安全装置を解除し、その時を待つ。
 そうしている間にも男は荷物をまとめ、一同へ別れの言葉を放つ。

521 :物語は唐突に ◆XRUSzWJDKM :2008/04/06(日) 20:19:21 ID:???
「裏切りごめん、と言っても許してくれないんだろうな。
 でも後ろから撃たないでくれよ」

 彼は奇妙なまでに朗らかな笑顔でそう言い放つ。
 誰もが一瞬あっけにとられたその瞬間にドアノブを勢いよく引き、そのまま壁の陰へと隠れる。
 開いた扉の向こうには、自動小銃を構えた自衛官たちがいた。

「何よあんたたち!!」

 彼女は叫びつつ立ち上がった。
 その返答は銃声だった。



西暦2021年2月16日 14:10 ゴルソン大陸 日本国西方管理地域 ゴルシアの街

「馬鹿じゃないのかこいつら」

 並べられた死体を前に、情報幕僚が毒づく。

「頭のいい馬鹿と悪い馬鹿の一個分隊といったところですな」

 恐怖や驚愕にゆがんだ顔と、隠し撮りされた手元の写真を見比べつつ公安調査庁派遣監督官は答えた。

「これでよし、と。
 8人全員の死亡を確認しました。
 もういいですよ」
 
 手早く写真を懐にしまうと、彼は部下たちに命じた。
 すぐに死体袋を持ったスーツ姿の男たちが現れ、手慣れた様子で回収作業を開始する。

「そう気軽にバンバン殺さないで欲しいな」

 高機動車から降り立ったばかりの佐藤は、口を開くなり面倒そうに言い放った。

「彼らには、生きていられると困るんですよ」

 上機嫌な様子で衛星電話を取り出しつつ、彼は言った。
 そのままどこかへと電話をかける。

「はい、はい」

 作業を続ける部下たちを眺めつつ、佐藤は公安調査庁派遣監督官の通話を盗み聞きしていた。

「はい、ご安心下さい。
 我々の関与が発覚する恐れはありません。
 はい、そうです。全員処理しました」

 笑顔で物騒な事を言う。
 それも心底嬉しそうに。
 水筒を口に運びつつ佐藤は思った。
 治安維持活動に関わりすぎると、人間はおかしくなってしまうんだな。

「一尉」

 そんな佐藤へ二曹は声をかけた。

「面倒な連中は消え去ったわけですし、いいんじゃないんですか?」
「奴らの行方を捜しに、絶対に人が来るぞ」

 佐藤は面倒そうに答えた。

「俺は面倒ごとは嫌いなんだ。
嫌だぞ、ここを報道関係者の墓場なんかにするのは」

 搬送される死体を横目に愚痴る。

「大丈夫ですよ」

 報告を終えた公安調査庁派遣監督官が会話に参加する。

「彼らの死体はここから少し行ったところにある廃墟で焼却処分される予定です」
「焼却処分?」

 人間の死体に対する表現ではない言葉に佐藤は不思議そうに尋ねる。
 そして、直後に後悔した。

「自由と平和を愛する彼女らは、不運にもこの付近を荒らし回る盗賊に誘拐され、人質になった後に殺害されます。
 そしてその死体は鎮圧作戦に巻き込まれ、盗賊の首領が潜む砦ごと焼かれてしまうのです。
 嗚呼、何という悲劇でしょう!
 自由と平和を運ぶ伝道師たる彼女らには、この世界は野蛮すぎたのです!!」

 大げさな身振りで叫ぶ公安調査庁派遣監督官。
 いつの間にか来ていた馬車に死体が積み込まれていく。


「拠点を落とすのにはそれなりの苦労が伴う訳なんだが。
 俺たちがそれをしなければならない理由があるんだろうな?」

 税金と人命の浪費は冗談じゃないぞ。
 ただでさえここは地の果ての拠点なんだ。
 弱卒一人、拳銃弾一発でも大切に使う必要がある。

「いまだに生き残っている反社会的な報道局で頑張って愛国的な報道をする記者がいましてね」

 タバコを取り出して一服しつつ彼は続けた。
 その記者は民間武装警備員を雇う予算も満足に与えられず、それでも意地で最前線を取材したいと。

「熱意はとてもあるようだが、能力はどうなんだ?
 まあ、民間人を救出するためという事ならばいいが」
「そういう人間は、あの新聞社では取材のイロハも教えてもらえないんですよ。
 まぁ、それ以前に社会人としてどうだという所もありますが、宜しくお願いしますよ。
 ちなみに、現地にいる誰に雇われたのかわからない盗賊上がりの傭兵たちは、全員射殺してかまいませんので」

 それでは、と笑顔で敬礼し、公安調査庁派遣監督官は部下を引き連れて町の中へ消えていった。

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