自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2021年2月21日 22:49 日本国領海 佐渡島沖合い20km 海上保安庁第九管区保安本部所属 巡視船『えちご』

<停船せよ。停船せよ。停船せぬ場合、30秒後に警告射撃を実施する>

 スピーカーからは発砲前最後の警告が流れている。
 ゴルソン大陸に近い海域を担当する第九管区保安本部では、他の管区からの巡視船の増派を多く受けている。
 海自の護衛艦や航空機、それに数ある巡視船がいる中で自分の指揮するこの船が不審船を発見できたのは嬉しい限りだな。
 夜間双眼鏡を片手に船長は満足げな息を漏らした。

「安全装置解除、警告射撃用意!」

 部下たちのやり取りが聞こえる中、船長は報告書の作成に備えて現状を再確認した。
 現在この船は海上レーダーに反応のあった不審船を追尾している。
 異常な速度で航行する漁船らしき反応を発見したのが2120時。
 その船が盗難届けの出されている漁船である事が判明したのが2132時。
 接近したえちごからの旗りゅう信号、発光信号、音声信号のいずれにも応答しない盗難船が増速したのが2158時。
 そこから逆算すると、夜中の追跡劇はかれこれ50分以上続けられている計算になる。
 既に周辺海域には四隻の巡視船が展開しており、陸には戦闘態勢に入った陸上自衛隊と警察もいる。
 しかし、できれば最初に発見した自分たちが捕まえたいという心理が働くのが人間である。

「船長、臨検隊の準備完了しました」

 自動小銃と防弾チョッキ、それに救命胴衣を身に付けた臨検隊隊長が報告する。
 船を止めるまでが船長たちの仕事だが、止めた後は彼らの仕事となる。
 転移前の事件により防弾を強化した船に乗る船長たちとは違い、彼らは最悪の場合銃火の中へ飛び込まないといけない。

「負傷者を出さないよう頼む」
「心得ております。それでは失礼します」

 敬礼を交わし、彼は部下たちの待つ船室へと駆けて行った。

「警告射撃を実施します!」

 やや興奮した部下の叫び声と同時に、25mm多銃身機関砲が発砲される。
 護衛艦の装備する艦砲に比べれば随分と小さい物だが、小さな漁船に対しては十分な破壊力を持っている。
 曳光弾の輝きが盗難船の上方を通過する。
 目標は減速の様子すら見せず、むしろこちらに対して舵を切った。
 接近すれば発砲できないとでも考えたのだろう。
 
「舵そのまま、臨検隊発砲用意」
「舵そのまま!臨検隊は近接防護発砲体制にて右舷へ!」

 副長が命令を復唱し、待機している臨検隊へ指示が出される。
 ある程度以上に接近された場合、船の備砲は射角の関係から使用できなくなる。
 不審船がそれを狙っているらしい事は明白であるが、残念な事に海上保安庁には用意があった。
 近接防護発砲とはややこしい名前であるが、要するに極度に接近した敵船舶は備砲を除く携行火器で蜂の巣にしてしまおうというわけだ。

「右舷第1から第3機関銃座発砲準備完了、安全装置解除を確認」

 この世界に来て時間の経つ海上保安庁でも、警察に習って重武装化が進められている。
 苦しい予算の中でも強引に進められている大型巡視船の追加もそうだが、従来の船艇においてもそれは例外ではない。
 その最たる例は、12.7mm機関銃座の増設である。
 元より巡視船には25mmや40mmといった大型の機関砲が装備されているが、それ以外となると89式小銃や拳銃と一気に威力が低下してしまう。
 装備の強化のために海上自衛隊から来たアドバイザーは、これがいけないと指摘した。
 
「海上保安庁は、もっと近距離戦闘に特化して頂く必要があります」

 その一等海佐は、予算関係から反論してくる海上保安庁の上層部にそう反論した。
 彼曰く、海上自衛隊の大規模な拡張が終わるまで、海上保安庁には海の警察ではなく、海軍として振舞って頂く必要がある。
 したがって、追加建造する船艇は当然として、従来のものに対しても戦闘能力の向上をして頂きます。
 
「予算は?装備は?ミサイルでも積み込めと言うのか?」

 海の警察としての誇りに基づく反感と、どうしたら良いのか分からないという困惑を混ぜた反論に対し、彼は明確な回答を直ぐに出した。
 12.7mm重機関銃の増設である。


 近距離目標に対しては携行火器で十分ではないのかという疑問は、この世界においては愚問であった。
 元の世界では存在しない強固な外皮・装甲を持つ存在との近接戦闘は、離島や近海のシーレーン確保に当たる海上保安庁においても想定されうる。
 ぼかした表現であるが、要するに巨大海蛇とか巨大蛸とか、そういった化け物との戦闘を想定する必要がある。
 海上自衛隊は、近海や船団護衛という場面において必要な場合には、海上保安庁にそういった存在との戦闘も求める。
 そういう事であった。
 大陸派遣隊のために増産が進められている12.7mmM2重機関銃は、こうして海上保安庁にも配備される事となる。
 陸海空自衛隊の緊急予算による追加生産に加え、警視庁、海上保安庁と需要と顧客が急増しているメーカーは狂喜した。
 防衛産業各社が来るはずがないと諦めていた戦争の時代である。
 それも、自分たちの頭上に核ミサイルが降ってこないとわかっているタイプの、いわば望んでいた戦争だ。
 以前からの顧客である防衛省は作っただけ買うと景気の良い事を言い、新規の顧客である警察と海上保安庁も、数量はさておき導入を開始した。
 陸上自衛隊では正面装備の拡張として、航空自衛隊では数量は少ないが基地防衛用として。
 そして海上自衛隊では、根拠地防衛と従来の艦艇への追加装備として。
 ここに警視庁を含む各都道府県警に海上保安庁まで加わるとあっては、ラインの増設まで検討しても良い。
 当然のことながら、今後世界に羽ばたく日本国である以上、これらの需要は落ち着く事すらあれど減少する事はない。
 多量の発注に対するボリュームディスカウントにある程度ならば気前良く応じられるほどに気持ちの良い話であった。


「不審船さらに接近!近接防護発砲範囲!」

 右舷見張りからの報告に船長は意識を戻す。
 サーチライトにライトアップされた不審船は、既にはっきりと視覚できる距離にある。
 
「マイク貸せ」
「どうぞ」

 用意を整えていた副長からマイクを受け取り、不審船へ最終警告を出す。

「こちらは海上保安庁巡視船えちごである。
 これは最終警告である、接近を止め、直ちに停船せよ。接近を止め、直ちに停船せよ。
 この警告の終了後1分以内に指示に従わない場合、船体射撃を実施する」

 マイクを切り、副長の方を見る。
 彼は最終警告が終わった時点からストップウォッチで時間を計っている。
 既に近接防御発砲の準備は完了している。
 
「1分経ちました」

 副長が報告する。
 夜中の追跡劇もこれでおしまいだな。
 船長がそう思った瞬間、船体に何かが激突する音が聞こえた。

「発砲を受けています!」

 右舷見張りが叫ぶと同時に、船長も叫んでいた。

「近接防護発砲!」

 そこから先は一瞬の出来事だった。
 船長の命令を受けた全員が反撃を開始した。
 三つの銃座から12.7mm弾が、そして8名の臨検隊員たちが89式小銃を、不審船の船橋と船上の人影めがけて発砲した。
 装甲などあるはずもない船橋は一瞬でその上半分を穴だらけにされ、そして小銃弾が殺到した人影は甲板へと打ち倒された。
 反撃がなくなったことを確認した彼らは、直ぐにその目標を船の機関室へと変える。
 船橋を破壊したからには、燃料切れになるかエンジンを破壊しない限り不審船は止まらないからである。
 鉛玉を全身に浴びた不審船が航行不能になったのは、それから五分後の事であった。
 沈没までに行われた調査により、船内からは非常に好ましくない物品が押収された。
  


西暦2021年2月22日 10:20 日本本土 防衛省 救国防衛会議

「厄介な話です」

 公安調査庁のヤマダを名乗る男は、各員に配られている書面を見つつ言った。

「前々から可能性は指摘されていましたが、まさか本当に発生するとは」

 彼の手元には、公表されなかった強盗事件の報告が記されている。
 今から一週間前、都内某所の区立図書館にて強盗事件が発生していた。
 犯人は極道会という冗談のような名前の広域指定暴力団に属する男である。
 この男は図書館のいくつかの図書を、普通に借りようとした。
 しかし、彼は以前借りた本を返却していなかった。
 そのために貸し出しを拒否した図書館員に対し、暴力を振るったのだ。
 強引に図書館から退出しようとする男は、市民の通報を受けて駆けつけた警察官によって現行犯逮捕される。
 それだけならば、いい歳をして感情も制御できないのか、と笑い話で済む。
 しかし、暴力を振るってまで持ち出そうとしたそれらの書籍は、笑って済む内容ではなかった。
 中学校の途中から学ぶ事を放棄していたこの男は、どういうわけか25歳になった今、多種多様な歴史書を意地でも持ち出そうとしていたのだ。
 ある本は日本の歴史であり、別の本は漫画で描写された世界史であり、他の本はキャラクターがコミカルに解説する技術の発展の歴史だった。
 つまり、彼は地球人類が何千年もかけて築いてきた歴史と、その結果を持ち出そうとしたのだ。
 今からでも勉強して社会の役に立ちたかったので、と本人は供述したが、当然ながら誰も信じようとはしなかった。
 そういうわけで、彼の身柄は地元の警察署から公安調査庁の所有する、とある施設の地下尋問室へと移された。
 
「どういうわけか、極道会では歴史書や入門書の類が高額で取引される事になったそうです」

 尋問の結果を記した書類を見つつヤマダは報告する。

「彼の返還していない図書と、先日の佐渡島沖不審船事案で回収された書籍は一致しています。
 なお、不審船の乗組員の一人は極道会の幹部である事が確認されています」
「持ち物から回収された粉末は、大陸で使用された麻薬と同じ成分との報告があがっています」

 外務省の鈴木が後を続ける。

「外務省としては、このような重大犯罪に対しては、再発を防止できる対策をしていただける事を期待します」

 鈴木の言葉を受け、警察庁の代表者が立ち上がる。
 彼はもはや懐かしいとさえ言える東京事件の際の担当者の後任だった。
 年齢は27歳、いわゆるキャリア組と呼ばれる集団に属している。

「既に全国6箇所の拠点への強制捜査の準備を始めました。
 明日の19時には開始できる予定です。捜査関連部署を筆頭に、各都道府県警機動隊、SAT、SIT、それに空港警備隊や重武装選抜警官隊も動員します」
「陸上自衛隊からは各地の普通科と装甲車両、輸送ヘリコプターの提供が可能です」

 警察庁の代表が意気込んで全国一斉強制捜査のメンバーを読み上げ、そこに陸将が支援を申し出る。
 
「警察活動は我々だけでも十分です。自衛隊にはその間の重要拠点防備と海岸警備を担当して頂ければ結構!」

 先の東京事件のような市街戦ならばともかく、純粋な警察活動に手出しは無用と彼は断ち切るような口調で申し出を断る。
 
「海岸防備を軽視されては困るんですが」

 大変に失礼な態度を受けた陸将は、苦笑しながら反論した。
 警察官の階級に例えるのならば警視長や警視監、つまり県警本部長クラスに匹敵するのが陸上自衛隊における陸将である。
 それに引き換え、警視という階級は陸上自衛隊に例えると二等陸佐程度である。
 
「原発や官公庁は当然として、いまやこの国を取り巻く全ての海岸線が監視対象になっているのです。
 そこに展開している警察官たちを、警察庁の一存で引き上げてもらっては困ります。
 ただでさえ人手不足で日本海側は自衛隊の担当地域になっている位なのですから」

 しかし、陸将はこの場での無礼をあえて無視した。
 正直なところ、自衛隊と警察の階級差も知らない人物を相手にしていられるほど、現状に余裕は無いのだ。

「次に私どもからですが」

 文部科学省の代表が立ち上がり、発言を開始する。

「国会図書館を含む全国の図書館、これらに対しての防備が必要と考えております。
 具体的には四つ、侵入と盗難の防止、本事案のような強盗の撃退、市民サービスの継続です」

 ここで再び警察庁の代表が手を上げ、発言する。

「侵入と盗難の防止は防犯設備の充実で対処してもらうしかないでしょうな。
 強盗の撃退については、現地の警察署にパトロールの強化を命じましょう」

 その言葉に一同から失笑が漏れる。
 パトロールの強化をしたところで、いない時に強盗が現れたらどうするのだ?
 周囲の空気を察した彼は、顔を赤くした。
 彼は全く失敗を経験せずにこの地位まで上ってきた官僚だった。
 それ故に侮蔑に慣れていない。

「それでしたら、自衛隊さんから図書館司書に軍事教練でも提供してはいかがですかな?
 先ほどそちらの陸自さんから指摘を受けたように、我々は人手不足で常駐を置けるほどの余裕はありません」

 自動小銃を肩にかけて、児童たちに絵本を朗読している図書館員をイメージした一同が笑い声を漏らす。
 当然ながら、笑い声には憐憫も含まれている。
 議事の最中に冷静さを失い子供のようにわめき散らす存在を、救国防衛会議は必要としていない。
 警察庁の代表の、どうやら輝かしかったらしい履歴はこれで仕舞いとなる。
 
「当面は武装した予備自衛官を動員します。
 今後についての解決策は防衛省と文部科学省の間で協議を持ちましょう」

 陸将が笑顔で応じ、統幕長を見る。 
 サインの意味を正しく理解した統幕長は、全員に向かって命令を発した。

「図書館の防備強化については先ほどの通りだ。
 予算措置については補正予算案を財務省と練ってくれ。
 また、本事案が解決するまでの期間、民間人の海外渡航を禁止する。
 沿岸部および港湾施設の警備は従来どおりの運用とし、救国防衛会議の許可無く部隊を移動させる事は硬く禁ずる
 強制捜査については、各地の陸上自衛隊普通科および警察の合同部隊でこれにあたる。以上だ」

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