※注意
世界観がかなり乱れておりますが、あくまでネタです。
皇国陸軍第4師団、歩兵第8連隊に所属する空閑穂積(くが ほづみ)少尉。
少尉に任官された皇紀2600年の目出度い年に伯爵令嬢の大原貴子と結婚し、一児の父となった男である。
何故、伯爵令嬢が何でもない市井の陸軍将校と結婚する事になったのか謎なのだが、
慎ましくも幸せな家庭生活を築いて、のんびりゆっくり暮らせているのは確かだ。
鶴の恩返しの話もある。謎の婚約を勘ぐっては、罰が当たるというものだ。
穂積が何か、大原伯爵に恩を売った覚えは無いが……。
そんな穂積が、このまま大阪は堺の自宅に暮らしながら、
退役まで内地で気ままな軍隊勤務かと思っていた矢先、悪夢が始まった。
『空閑穂積少尉を中尉に任ず。空閑穂積中尉に神賜島第三連隊への転属を命ず』
――歩兵第八連隊長――
野生の猛獣や地竜以外に目立った脅威の存在しない神賜島の警備部隊には、各連隊や
大隊、予備役から抽出した人材で非常設の独立連隊のようなものが編成されている。
神賜島の首府だ何だと言ったところで、未だに寒村同然、無人島同然の島に軍隊を駐屯させる意味は無い。
まずは資源開発と農地開拓、その為の都市開発が先で、その発展に従って常設部隊が編制されるだろう。
だから神賜島を衛戍地、管区とする常設部隊は設置されていないし、設置される予定も当面は無い。
神賜島は、皇国が直轄領として国土に編入した広大な土地
なのだから、常設の陸軍部隊が駐屯しないのは本来ありえない。
今はまだ、本土の資源状況が悪いから軍が駐留していないだけで、
現行制度上では非常設の外地派遣部隊に過ぎないが、このまま行けば、
なし崩し的に常設部隊に“昇格”する事になるのは間違いないだろう。
神賜島連隊の連隊長は予備役大佐で、3個連隊があるのだが
それを纏めて旅団なり師団として司令部を置くつもりは無いらしい。
内外に皇国の領土だと高々に宣言した割りに、満州より広い土地に旅団すら存在しないとは……。
一応、神賜島陸軍司令部に予備役少将が座っているが、お飾りの感が強く、神賜島にいる将軍は彼だけだ。
少将に従う参謀達も多くが情報か兵站関係の人材で、これは神賜島の海軍基地も似たり寄ったりだった。
昨今は常にピリピリしていた在満州軍の雰囲気とは真逆の、怖いくらいに時間がゆっくりな軍司令部である。
神賜島第1連隊は島の南部。内地から一番近くて安全で、
一番の敵は暇だとされる、農林業が“本業”の開拓部隊。
兵士としての戦闘訓練は、宿舎を建てたり飛行場や道路を
整備したり、農地を開拓したりする合間に行っているだけ。
食料とする為の鳥や猪を撃つ事を実地訓練と称したり、
ここでは内地や東西大陸派遣軍の常識は通用しない。
神賜島第2連隊は島の北部。内地からの距離は一番遠いが、港や飛行場は
一応整備されているので時間的にはそう遠くないし、ここも概ね安全。
暇を持て余している隊員の“本業”は、鉱物資源採掘の手伝いだ。
そんな陸軍神賜島隊が自慢の、機械化部隊の主力兵器はブルドーザー!
対する機甲部隊の最強兵器は12.7mmの連装機関銃を装備した豆戦車。
本業の軍人からも、ブルドーザーの方が強そうに見えると評判だ。
問題の神賜島第3連隊は島の中部を東西に走る山脈地帯で、道も悪ければ害獣の危険度も高い。
“本業”は奥地の測地と資源調査、さらに害獣の駆除(捕獲)と、まるで秘境の探検家である。
当地で死ぬとしたら、人間の軍隊と戦って討ち死にではなくて、
山道から滑落とか肉食竜に食われるとか、そういう可能性が高い。
任地派遣手当が出るとは言え、大陸派遣軍の手当よりは安いし、戦死でない殉職だと遺族年金も安い。
~現地連隊長~
『空閑中尉は、立派に滑落されましたよ! 美しい最期でした!』
~貴子~
『穂積さん……200mも垂直に落ちるなんて。やはりあなたは、只者ではなかったのですね!』
……状況によっては、遺体の回収も難しいかもしれない。
神賜島の北部は夏場は良いが、秋から冬にかけては寒さも厳しい。
中部の山岳地帯も、冬場は降雪があるから無理な進出は危険が大きい。
何故、そんな場所に都会育ちの大阪の連隊から出張させられるかと言えば、
「お前……登山が得意だったよな? 好きなだけ山登り出来るぞ!」
という第8連隊の福山連隊長のありがたい御言葉のためだ。
中学校ではずっと山岳部に居たのが、こんな形で裏目に出るとは。
しかも、連隊長は穂積を手放す事に何の躊躇いも無さそうだ。
新米のぺーぺー将校だから、連隊から居なくなっても痛くない人材だという事だ。
『神賜島第3連隊』が『近衛歩兵第3連隊』だったら良かったが、現実は甘くなかった。
陸軍大学校への道も多分、凄く恐らくかなり遠退いただろう事は確実だろう。恐らくは。
そもそも、穂積が士官学校へ行って陸軍将校になったのは、
『このまま大きくなると、徴兵されて一兵卒になる可能性がある。志願するとして海軍は船酔いが嫌だ。
だったら、先手を打って陸軍士官学校に入学してしまえば良い。学費も無料だから、一石二鳥!』
という、非常に後ろ向きな理由による。
小学校や中学校時代の学業成績は平均より上で、体力もあったから、
難なくとは言わないまでもそれなりに順調に将校街道を歩き出した。
……筈だったが、早々に夢は潰えたのだ。
自宅で荷物の整理をしていると、貴子が赤ん坊を抱いて寄って来た。
「また、負けて帰ってくるんですか?」
「縁起でも無い事、言わないで下さい……それに、八連隊が負けたことはありません。
事実無根です。まあ、行くのは僕一人だけなようなので、八連隊はもう関係無いですし、
そもそも戦いに行く訳ではないので、負けるとしたら大自然に負ける事になるでしょうね」
「まあまあ、そう落ち込まなくとも」
「落ち込みますよ。貴子さんと離れ離れになるんですから。神賜島まで何マイルになりますか」
神賜島北部の各種拠点が置かれている神北市の神北飛行場までは、
新都飛行場での乗換えを含めれば軍の輸送飛行機でも6時間はかかる。
さらに、神北市から南下する事400km程の場所が、神賜島第3連隊の勤務地。
流石に神北市から徒歩で現地までという事は無く、建設工兵連隊の
やっつけ仕事ではあるが、橋や道路と人員輸送用の車両の用意はある。
ただ、その第3連隊本部の置かれる北神央(きたかみなか)市から先は、
殆ど何も整備されていない場所を、自力で切り拓いて行かねばならない。
色々な意味で、建設工兵が道路や隧道を開拓する為の露払い部隊なのだ。
神賜島で最高峰の神尾山を中心とする中央山脈地帯(連峰は神賜アルプスという俗称が
付けられたが、本家アルプスや皇国アルプスと比べても海抜2000m以上は足りない。
どこら辺がアルプスなのか不明)は、単純な距離的には神北市より内地に近い。
だが、距離的な遠さよりも困るのが精神的な遠さ。
内地と神賜島との間には定期便が無いし電話線も通じていないので、
北神央市から神北市との連絡は取れても、内地との連絡は容易ではない。
「そんなに心配されなくても、私も一緒に神北市に行きますけれど?」
「はっ……? 今、何と?」
「神北市の、軍の宿舎に住まわせて貰えるそうです」
「初耳なんですが」
「今、言いましたから」
「はぁ……。そうですか……しかし、そんな家族一緒になんて、可能でしたっけ?」
さも当然のような顔をして微笑んでいる貴子だが、穂積は疑念を隠せない。
神賜島に派遣される人員は、所帯持ちでも単身赴任という形になる筈だ。
何故、自分だけ家族一緒に行けるのだろう?
「福山さんは、とても話の分かる方ですね。私が是非にと
お願いしましたら、新世界の空気を吸うのも良いでしょうと。
私がバイオリン演奏などの慰問活動をすれば現場も活気付く
だろうから、向こうからも是非とも神賜島へ来て欲しいと。
北神央市まで馬車の用意もして下さるそうで、毎日は
無理でも、週に一度くらいは会えるそうですから」
連隊長は貴子と会ったのか……大佐は何をされた? 何の弱みを握られた!?
「あらあら、うふふ……」
貴子はいつもの笑顔で、顔面蒼白な穂積を優しく見つめていた。
世界観がかなり乱れておりますが、あくまでネタです。
皇国陸軍第4師団、歩兵第8連隊に所属する空閑穂積(くが ほづみ)少尉。
少尉に任官された皇紀2600年の目出度い年に伯爵令嬢の大原貴子と結婚し、一児の父となった男である。
何故、伯爵令嬢が何でもない市井の陸軍将校と結婚する事になったのか謎なのだが、
慎ましくも幸せな家庭生活を築いて、のんびりゆっくり暮らせているのは確かだ。
鶴の恩返しの話もある。謎の婚約を勘ぐっては、罰が当たるというものだ。
穂積が何か、大原伯爵に恩を売った覚えは無いが……。
そんな穂積が、このまま大阪は堺の自宅に暮らしながら、
退役まで内地で気ままな軍隊勤務かと思っていた矢先、悪夢が始まった。
『空閑穂積少尉を中尉に任ず。空閑穂積中尉に神賜島第三連隊への転属を命ず』
――歩兵第八連隊長――
野生の猛獣や地竜以外に目立った脅威の存在しない神賜島の警備部隊には、各連隊や
大隊、予備役から抽出した人材で非常設の独立連隊のようなものが編成されている。
神賜島の首府だ何だと言ったところで、未だに寒村同然、無人島同然の島に軍隊を駐屯させる意味は無い。
まずは資源開発と農地開拓、その為の都市開発が先で、その発展に従って常設部隊が編制されるだろう。
だから神賜島を衛戍地、管区とする常設部隊は設置されていないし、設置される予定も当面は無い。
神賜島は、皇国が直轄領として国土に編入した広大な土地
なのだから、常設の陸軍部隊が駐屯しないのは本来ありえない。
今はまだ、本土の資源状況が悪いから軍が駐留していないだけで、
現行制度上では非常設の外地派遣部隊に過ぎないが、このまま行けば、
なし崩し的に常設部隊に“昇格”する事になるのは間違いないだろう。
神賜島連隊の連隊長は予備役大佐で、3個連隊があるのだが
それを纏めて旅団なり師団として司令部を置くつもりは無いらしい。
内外に皇国の領土だと高々に宣言した割りに、満州より広い土地に旅団すら存在しないとは……。
一応、神賜島陸軍司令部に予備役少将が座っているが、お飾りの感が強く、神賜島にいる将軍は彼だけだ。
少将に従う参謀達も多くが情報か兵站関係の人材で、これは神賜島の海軍基地も似たり寄ったりだった。
昨今は常にピリピリしていた在満州軍の雰囲気とは真逆の、怖いくらいに時間がゆっくりな軍司令部である。
神賜島第1連隊は島の南部。内地から一番近くて安全で、
一番の敵は暇だとされる、農林業が“本業”の開拓部隊。
兵士としての戦闘訓練は、宿舎を建てたり飛行場や道路を
整備したり、農地を開拓したりする合間に行っているだけ。
食料とする為の鳥や猪を撃つ事を実地訓練と称したり、
ここでは内地や東西大陸派遣軍の常識は通用しない。
神賜島第2連隊は島の北部。内地からの距離は一番遠いが、港や飛行場は
一応整備されているので時間的にはそう遠くないし、ここも概ね安全。
暇を持て余している隊員の“本業”は、鉱物資源採掘の手伝いだ。
そんな陸軍神賜島隊が自慢の、機械化部隊の主力兵器はブルドーザー!
対する機甲部隊の最強兵器は12.7mmの連装機関銃を装備した豆戦車。
本業の軍人からも、ブルドーザーの方が強そうに見えると評判だ。
問題の神賜島第3連隊は島の中部を東西に走る山脈地帯で、道も悪ければ害獣の危険度も高い。
“本業”は奥地の測地と資源調査、さらに害獣の駆除(捕獲)と、まるで秘境の探検家である。
当地で死ぬとしたら、人間の軍隊と戦って討ち死にではなくて、
山道から滑落とか肉食竜に食われるとか、そういう可能性が高い。
任地派遣手当が出るとは言え、大陸派遣軍の手当よりは安いし、戦死でない殉職だと遺族年金も安い。
~現地連隊長~
『空閑中尉は、立派に滑落されましたよ! 美しい最期でした!』
~貴子~
『穂積さん……200mも垂直に落ちるなんて。やはりあなたは、只者ではなかったのですね!』
……状況によっては、遺体の回収も難しいかもしれない。
神賜島の北部は夏場は良いが、秋から冬にかけては寒さも厳しい。
中部の山岳地帯も、冬場は降雪があるから無理な進出は危険が大きい。
何故、そんな場所に都会育ちの大阪の連隊から出張させられるかと言えば、
「お前……登山が得意だったよな? 好きなだけ山登り出来るぞ!」
という第8連隊の福山連隊長のありがたい御言葉のためだ。
中学校ではずっと山岳部に居たのが、こんな形で裏目に出るとは。
しかも、連隊長は穂積を手放す事に何の躊躇いも無さそうだ。
新米のぺーぺー将校だから、連隊から居なくなっても痛くない人材だという事だ。
『神賜島第3連隊』が『近衛歩兵第3連隊』だったら良かったが、現実は甘くなかった。
陸軍大学校への道も多分、凄く恐らくかなり遠退いただろう事は確実だろう。恐らくは。
そもそも、穂積が士官学校へ行って陸軍将校になったのは、
『このまま大きくなると、徴兵されて一兵卒になる可能性がある。志願するとして海軍は船酔いが嫌だ。
だったら、先手を打って陸軍士官学校に入学してしまえば良い。学費も無料だから、一石二鳥!』
という、非常に後ろ向きな理由による。
小学校や中学校時代の学業成績は平均より上で、体力もあったから、
難なくとは言わないまでもそれなりに順調に将校街道を歩き出した。
……筈だったが、早々に夢は潰えたのだ。
自宅で荷物の整理をしていると、貴子が赤ん坊を抱いて寄って来た。
「また、負けて帰ってくるんですか?」
「縁起でも無い事、言わないで下さい……それに、八連隊が負けたことはありません。
事実無根です。まあ、行くのは僕一人だけなようなので、八連隊はもう関係無いですし、
そもそも戦いに行く訳ではないので、負けるとしたら大自然に負ける事になるでしょうね」
「まあまあ、そう落ち込まなくとも」
「落ち込みますよ。貴子さんと離れ離れになるんですから。神賜島まで何マイルになりますか」
神賜島北部の各種拠点が置かれている神北市の神北飛行場までは、
新都飛行場での乗換えを含めれば軍の輸送飛行機でも6時間はかかる。
さらに、神北市から南下する事400km程の場所が、神賜島第3連隊の勤務地。
流石に神北市から徒歩で現地までという事は無く、建設工兵連隊の
やっつけ仕事ではあるが、橋や道路と人員輸送用の車両の用意はある。
ただ、その第3連隊本部の置かれる北神央(きたかみなか)市から先は、
殆ど何も整備されていない場所を、自力で切り拓いて行かねばならない。
色々な意味で、建設工兵が道路や隧道を開拓する為の露払い部隊なのだ。
神賜島で最高峰の神尾山を中心とする中央山脈地帯(連峰は神賜アルプスという俗称が
付けられたが、本家アルプスや皇国アルプスと比べても海抜2000m以上は足りない。
どこら辺がアルプスなのか不明)は、単純な距離的には神北市より内地に近い。
だが、距離的な遠さよりも困るのが精神的な遠さ。
内地と神賜島との間には定期便が無いし電話線も通じていないので、
北神央市から神北市との連絡は取れても、内地との連絡は容易ではない。
「そんなに心配されなくても、私も一緒に神北市に行きますけれど?」
「はっ……? 今、何と?」
「神北市の、軍の宿舎に住まわせて貰えるそうです」
「初耳なんですが」
「今、言いましたから」
「はぁ……。そうですか……しかし、そんな家族一緒になんて、可能でしたっけ?」
さも当然のような顔をして微笑んでいる貴子だが、穂積は疑念を隠せない。
神賜島に派遣される人員は、所帯持ちでも単身赴任という形になる筈だ。
何故、自分だけ家族一緒に行けるのだろう?
「福山さんは、とても話の分かる方ですね。私が是非にと
お願いしましたら、新世界の空気を吸うのも良いでしょうと。
私がバイオリン演奏などの慰問活動をすれば現場も活気付く
だろうから、向こうからも是非とも神賜島へ来て欲しいと。
北神央市まで馬車の用意もして下さるそうで、毎日は
無理でも、週に一度くらいは会えるそうですから」
連隊長は貴子と会ったのか……大佐は何をされた? 何の弱みを握られた!?
「あらあら、うふふ……」
貴子はいつもの笑顔で、顔面蒼白な穂積を優しく見つめていた。