自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

外伝的掌編『皇国に雇われる現地人労働者』

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Turo428

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『皇国に雇われる現地人労働者』


大陸に軍を派遣し、貿易で大量の物資を得ようとしていた皇国は、現地の港湾や
倉庫等で働く多くの肉体労働者を必要としたが、最初から重大な問題にぶつかった。

賃金を円で払うか、現地通貨であるリルス(と、その補助貨幣)で払うかである。
皇国には、そもそもリルスの手持ちが無いのだから、労働者達に気前良くは払えない。
円ならば紙幣もあるから、出来るなら円で払いたい。
しかし、現地の労働者達にしてみれば、円で賃金を支払われても、それを使う場所が無い。
何万円あろうと、それを受け取ってくれる店は無いのだから、百円札だって鼻紙と同じだ。

皇国は、当面の貿易で使うための金貨や銀貨も大量に持ち込んだが、
これも円の価値や信頼度ではなく、含まれる貴金属の
量目を基準にされるから、延べ板と大差無い扱い。
円安な上に金や銀の海外流出が止められなくなる、皇国経済にとっては痛い状況だ。
しかも、その貴重な金貨や銀貨も国家や大商人相手の大規模取引に
使う物だから、個々の日雇い労働者になど払っていられない。
第一、そのような労働者には銀貨すら過分で、銅貨が必要。
『なら寛永通宝でもやるか?』という議論すら出た程だ。

だから、皇国が直接雇うのではなく、現地の労働者達を取り仕切る
元締業者と一括契約する事になったのだが、それもまた問題がある。
結局は現地通貨で払わねばならないし、元締業者を通す分、中間経費がかかってしまう。

そこで“仕方無しに”考案されたのが、現地の業者に紙幣で纏めて賃金を払い、その円で
皇国の珍しい物品を購入してもらって、それを富裕層に転売してリルスを得てもらう。
という回りくどい方法だ。実質的には“現物で支払う”のと変わりないのだが、
しかし、円でしか皇国の品物を買えないとなれば、円の価値は高まるはずだ。

実際、両替手数料等を含めると20円金貨は現地1リルス金貨と等しいとされた。
皇国内では20円金貨と等しい価値の20円紙幣も、この世界において殆ど価値は無い。
つまり、1リルスの買い物をするのに、20円金貨なり相当の地金が必要だった訳だ。

だが、20円紙幣でもって皇国内の20円相当の物品と“交換”し、その物品を
転売すると、現地業者の手腕にも拠るが10リルスくらいの“収入”になる事がある。
皇国の織物や陶器などは、珍しさや質の高さから貴族や富豪にとても高値で売れる。
これで、皇国は20円で10リルス分の“買い物”が出来た事になり、現地業者に
とっても本来1リルスにしかならなかった報酬が10リルスになったら大儲けだ。
現地業者にとって博打性はあるにせよ、相対的に高い報酬を得られる。


両者が得するこの方法で、皇国は“破格の好待遇”で現地人労働者を雇えた。
勿論、貴重な皇国の貿易船の扱う貨物品の窃盗には、現地の待遇。つまり鞭打ち刑が適用される。
監督に皇国軍の憲兵隊や海兵隊が目を光らせているから、事によっては死刑も適用されるだろう。
米粒一つを取っても、皇国の米と現地の米は明らかに違う物だから、言い逃れは出来ない。
労働者達を取り仕切る元締めも、何か粗相があって皇国に雇って貰えなくなると損だから、
厳しく管理し、他国の船を扱う労働者達とは明らかに風紀が違うようになって来た。

その為、皇国は平均すれば質の高い労働者を雇えており、荷役効率も(この世界の基準からすれば)高い訳だ。
一部では、真夜中でも深夜手当てを出す事で24時間作業させる現場もある。

“仕方無しに”始めた方法が、思いの外上手く運んだ事で、皇国の貿易は最初からコケなくて済んだ。
というより、ここまで上手く行って漸く、現地の皇国軍のための物資輸送や、
輸入する穀物の荷役が現状の如く運んだのだから、そうでなかったら、
兵站や貿易の計画が根本から狂わされていたかも知れないのだ。
運輸大臣など、それを考えて初期の泥縄に胆を冷やしていた。

転移以降の神賜島の件にせよ、我々は何と“運が良かった”のだろう……。

しかし安堵とは裏腹に、すぐまた別の大問題が発生した。
皇国の後先考えない振る舞いによって、現地の労働者単価が跳ね上がっているのだ。
今までの2倍や3倍以上の賃金でなければ、労働者は皆皇国に取られてしまう。
資本力のある大商人はまだしも、中小規模の現地企業主にとっては地獄だ。

下層階級の労働者にとっては朗報だが、彼らを束ねて労働させる中層以上の社会には大打撃。
皇国自身にとっても、本来であればもっと安く雇えていたかも知れない
現地人労働者の価値を上げてしまった事は、後々まで響く事になる。

あちらを立てればこちらが立たず。

皇国の行動によって引き起こされる数々の混乱が収束し、
世界が安定を取り戻すには、数年以上の時を待たねばならない。

後世の歴史家から『史上唯一にして最も長命な超大国』と称されるようになる
皇国も、転移初期は“目隠しをして綱渡りをしていた”と評価されるような、
一歩踏み外せばどうなるか分からない危険と隣り合わせにあったのである。

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