自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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「やっぱり、来なければよかったな」
鈴木一尉は小さな声でひとりごちた。
夏の青々とした草原に土が抉れた痛々しい地肌がのぞく、造りたての黒々としたアスファルト、
塹壕を補強する真っ白なコンクリートに黒緑のコンテナとテントが見える。
埃っぽい空気、照り付く太陽、アスファルトとブルの排気煙。
車両やタンクの上には迷彩色のカバーが掛けられて
剥き出しの地肌には鉄条網と金網、各所の台座には中機関銃が置かれ、
監視塔とトーチカの間を塹壕が繋いでいる。
大型トレーラーから下ろされた司令部コンテナの周囲では
通信科と施設科がケーブルを持ち忙しく走り回っている。

この陣地に地雷はない。
国の法律のためである。
日本は島国でかつ人口密集地が多い土地であるため敵軍に上陸された時点で終わりであるし
戦争後も土地に残り続け、土地を使えなくするであろう地雷は書類上持ってはいない。
敵の土地に行った時必要であろうと思うかもしれないが
日本は攻められにくく攻めにくい地形であったし、国の方針で専守防衛を掲げているため
外征のための装備を持ち合わせていなかったためである。
たとえ地雷を持とうとしても内外からの圧力を受け持てなかったであろう。
そしてこの出動は想定外のことであった。

此処はエイジア大陸03地区自衛隊第一前線基地のテント内部。
鈴木は日本から派遣された自衛隊の第一陣、補給科の一尉である。
補給科とは軍隊の兵站、つまりは食う寝るを補完する役職で
銃弾と砲音の代わりに電話と書類相手に格闘する仕事である。
鈴木は治安維持活動と現地の復興支援のため
本国から現地の復興支援を一方的に言い渡され任務に当たっていた。

「いやはや、これなら万全ですなあ」

鈴木の耳にのんびりとした、この忙しい状況では嫌味な男の声。
本国から送り届けられてきた外務省官僚の田中である。
田中の顔は取り立てて特徴がないのが特徴の人物で、
曲者揃いの官僚の中でどうしてこの人が出世できたのかと鈴木は思った。
あえて特徴を見つけるなら歳は40代でキャリアにしては若い。
その程度の人物であった。

先ほど鈴木が作業の進度状況と物資の備蓄状況を伝えて書類を渡し、
その後施設見学の先導をしているのである。
ふらふらと施設を歩き回られて工事中の重機にひき潰されては困るからだ。
外務官僚がどうして霞ヶ関に居ず物騒な前線基地に居るのか。
それは・・・

西暦20XX年7月某日、日本各地を深夜12時に震度7を超える<魔震>が襲った。
不思議な事に地震が発生したにも関わらず地震による死者や建物の倒壊、
津波などは全く起こらなかった。
ただ、震度計だけが各所で震度7を超える数値を叩き出したのだった。
異変はそれだけに留まらなかった。
地震と呼応して突如海外からの連絡が途絶えた。
有線無線アナログハイテク問わず、あらゆる通信手段で海外へと連絡を試みたが完全に途絶。
南は琉球諸島から北は樺太、日本海は対馬や竹島、東は硫黄島、
日本列島とされている以外全ての地域と連絡が取れなくなった。
36時間後日本政府は非常事態宣言を発令、何らかの事態によって連絡が途絶えた諸外国との
通信を回復及び現状確認を行い、被災地の治安活動と復興支援のため旅団規模の自衛隊派遣を決定した。
被災地派遣となっているのは異常事態が海外で確認されたことによるものらしい。
通信が途絶したことなどによる明らかな異常事態により
被災地派兵は世論に押され速やかに決定した。

そして異常事態に襲われてしまった被災民と速やかな交渉を行うために
派遣されてきたのが外務官僚の田中である。

「もちろん万全です」
「自衛隊の施設科は一流ですよ。海外派兵でも架橋や復興支援で活躍していますから。
いつ弾が飛んで来るか判らない状況でも、ろくな武器も持たずに頑張ってくれています」

施設科「は」と前置いて説明する。皮肉だ。
鈴木の目に映る陣地は牙を抜かれたそれだった。
GPSによる位置確認や同盟国の通信支援なしに「地図に載っていない」未知の大陸へ上陸。
戦後初となる自衛隊単独での名前も知らない諸外国、それもアンノウンへの強襲上陸である。
幸い抵抗などもなく上陸は成功し、予定通りに橋頭堡を確保する作業が行われている。

喋ってからしまったと鈴木は思った。
キャリア組みに暴言を吐くのは当然止めておいたほうがいい。後が怖い。
けれど田中には言ってもいい。なんとなく彼はそう思わせる人物であった。

「いやはや手厳しい」
全く済まなくなさそうに田中は愛想笑いを浮かべた。
「鈴木さんは補給仕官として今回の上陸はどう思いますか」

鈴木は考えた。
現在鈴木達が居るのは何処で何を目的にしているかすら明かされておらず、隊内では不安が広がっている。
本作戦では今までの自衛隊ではあり得なかった陸海空のヘリ支援と航空支援が受けられるらしかったが
陸海空の自衛隊がこれほど活発に動くのは歴史上初めてでありどう見ても異常だ。
本土ではデフコンでも発令されているのかもしれない。
未知の事態に不安は拭えず警戒しすぎてもし過ぎることはなく、地雷の一つも欲しい。

手元の端末を取り出し、ディスプレイをタッチペンで叩くと一覧が表示された。
戦闘糧食Ⅱ型■■■■セット、96式装輪装甲車■■台、87式偵察警戒車■■台、120mm迫撃榴弾・・・extext
鈴木が担当したリストは歩兵連隊の物資が中心で、中には120㎜砲弾なんてトンデモまであった。
更に倉庫の備蓄でもかき集めてきたのだろうか。
演習でも大して撃たせて貰えない弾がたっぷりとある。

噂では後続も含め約10万tが運ばれる予定らしい。
上陸戦力は旅団規模、1万人近くが上陸し一人当たりの割り当て物資が10t。
人数に対して妥当な量だといえる。
鈴木は以前PKOに派兵されたことがありその時にも多くの物資を扱っていたが
海外派兵を鑑みても10万tは異常過ぎた。

「まるで戦争ですね」
自分の考えを否定しながら半ば本気半分で答える。

「戦争?ただの復興支援と平和維持活動ですよ。
近日中に自衛隊の皆様には面白いものを見せることが出来るでしょう」
田中はニヤリと口元を歪めた。

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