自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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連日総理官邸で会議が開かれている。
会議を取り仕切るのはこの60を過ぎた総理、武原秀雄の役割だ。
事件から2週間の間に事態は慌しく動き、国会は紛糾し機能不全に陥っている。
内政を立て直すために事件直後に閣僚を呼び出し、いち早く主導権を掌握して官僚を押さえ
国会を通さず政治官僚達へ直接指示する独裁に近い形で
一手に支持と情報収集を行っていた。

日々押しかける訪問者達と話し合い、山と積み上げられる書類全てに目を通し、
腱鞘炎になるほどサインを書き込み、他の大臣や関係省庁へ指示を出す。

そんな毎日。

日本の異世界への強制転移、侵略してきた謎の軍隊、国内の備蓄、メディアへの対応。
解決しなくてはならない問題は多すぎ、回答までの時間は余りにも少ない。

その日の夜遅くに届けられた書類は各種省庁からもたらされた報告であった。
武原は書類を読み終えると肩を落とし、紙も床に落とし、髪も落とした。

「このままでは日本国民は餓死するか」
「それとも凍死の方が早いか」

日本の石油備蓄は3ヵ月、食料備蓄は4ヶ月、鉱石,粗銅及び地金は5ヶ月先までしか持たず
燐などの化学肥料やゴム。アルミニウムといった各種のレアメタルは致命的に足りない。
休眠させていた原発の再起動や、比較的進んでいるとされる
資源回収や再利用、流用を用いても各備蓄は2ヶ月と伸びないと考えられている。

「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ」
第二次世界大戦中流行った言葉だ。
でも武原は声を大にして言いたい。

足りないものは足りないのだと。

一時期持て囃されたメタン採掘やバイオエタノールも検討されたが
前者は研究中であり設備も整っておらず、後者は出来ても材料がないか少なすぎ
製造に時間が掛かるといった有様である。
マスコミへ正確な情報を流すことが出来ないほどに泥沼であった。

「先は暗いか」

そうつぶやき、何の気なしに壁に立て掛けられた日本地図を見て
顔色が変わった。

懐から携帯を取り出し耳に当てて目を細める。
それは変わってしまった国と経済水域。
最初に竹島へ目線が移動し
北海道、千島、旧中国国境線と移る。

「悪い時期に総理になってしまいましたね」
「ああ、全くだ」

無意識に言葉を返す。
憔悴のせいで部屋に人が入ってきたのに気づかなかったらしい。

「死んでから休んでください」
「手厳しいな」
「相手がいなくなって初めて解決する問題もあるか。パンドラの箱だな」




振り返ってみると今回の竹島襲撃事件が発生したのは些細なミスの積み重ねによって
起こったものと考えられる。

当時政府は日本周囲の地形を既に確認していたのだが
情報統制のため「通常通り」の警戒態勢を敷いていたのが仇になった。
パニック防止のため、自衛隊には旧来での範囲と「旧世界地図に対応した軍の展開」
に留めさせていたがために竹島周囲の巡回ルートに穴が開いていたのである。

テロ事件後も韓国駐留軍に連絡を試みるのは遅かった。
当時日本本土は混乱しており竹島駐留軍を相手にする暇がなかった為だ。
韓国軍自体も祖国と連絡が取れなくなったのは日本のせいであると考えていて厳戒態勢を取っていたこと。
韓国軍による疑心暗鬼がバッサン王軍9000名死亡の悲劇を産んでしまった。

偵察機により正体不明の大船団が発見された後も対応が悪かった。
議会内でも対応が二つに割れた。つまりは様子見か即攻撃か。

通信妨害のパニックが終わると同時に日本海側に現れた150隻を超える大船団。
対応に答えあぐね経済水域に入った時点で使者を出そうと考えていた日本政府。

20■■年7月3日、謎の大船団から飛び立った竜に酷似した謎の生物は竹島上空で撃墜された。
竹島に配備された約300名のヘルメットを被り小銃を構え迷彩服を着た、警察官の対空機関砲によって。

直後船団は行動を開始、竹島へ上陸を始め。7月8日の戦闘終了後占領せず撤退した。

『武原秀雄回顧録』より抜粋




武原は手元の報告書を読んだ。
「竹島での戦闘が終了したか。もっと速く奴らに気づければ互いに良かったのだがな」
「戦闘中に竹島駐留軍は日韓同盟に基づく支援を要求、ねぇ。
両国はアメリカに対しての同盟は結んでいたのだが、日韓同盟などは存在しないと理解しているだろうか」
「日中の架け橋だぁ?寝言いってんじゃないよ。どちらに付くか不明な相手ほど厄介な相手はいない」
「今後は国内に潜伏する外国人の対処も考えないといけないか」
大量の溜息と共に幸せが逃げていった。

「報告書によると、奴らは通信テロ直後に日本近海に150隻を超える船団で現れ、
韓国軍が島上空を通過しようとする未確認飛行物体を撃墜後、突如3万名の軍隊を率いて侵攻、
何の軍事的価値の無い竹島を襲撃し、韓国軍を一人残らず殺戮、占領せず撤退した」
「通常ならこれは宣戦布告と見なされる訳だが、彼らなりの理由があるはずだ。予想できるか?」

武原は秘書の原に問うた。

「いいえ判りません。文化や価値観が同じとは限りませんから。
しかし自分達が彼らの立場の際に取る行動でしたら理解できます」

原は少し考えて答える。

「例えば、あなたがアメリカ合衆国の大統領だったとする。
ある日突然宇宙から巨大な船がやってきてホワイトハウス上空に陣取る。
あなたはそこで友好か敵対か迫られることになった。どうしますか?」
「ようこそ宇宙人と書かれたプラカードを持ってビルの屋上に上るつもりはないな。
極太レーザーで撃たれても困る。かといって軍をださんわけにもいかん。
いきなり総攻撃を掛けるのも論外だ」

「おっしゃるとおりです。一方的な敵対も友好も外交において好ましくありません」
「軍を上げて使者や通信を送る。敵対されたらいつでも攻撃を掛けられるようにするか。
攻撃は最初から全力でだ。一瞬で勝負を付ける。反撃されたらたまったものじゃない。
謎の超文明と戦争するのはリスクが大き過ぎるからな」

とそこまで言って

「まいったな。俺達は宇宙人か」

武原は苦い顔をした。

「この戦闘を教訓に自衛隊の配置を見直すべきかもしれないな。
詳しいことは理解できんから簡単でいい」

武原は防衛大臣の浜口を呼び出していた。
大臣を直接呼び出したのは異世界に日本が召還されてしまった件を国民へ隠すため
知る者は少ない方がいいとする防諜上の理由と書類上の問題である。
本来防諜は内調が行うのだが今彼らは別の仕事に集中している。
書類から事情を読み取ることも出来るのだが偽装の関係もあって、
実際に会って口で伝えた方がはやいこともあった。
事態が事態だけに知るべきことが数多くあり口頭での報告を選んだのである。

「韓国軍の竹島戦後、対露西亜を想定した形で上陸阻止を目的に
日本海を中心とした形で艦が配置されています。
目標にあたる港などが存在していないために相手国の港湾封鎖などは行われていません。
機雷の散布も行われておらず、疎開や避難も行われていません。
他の海上保安庁などと協力し港湾を封鎖、また民間空港は全便欠航となっています」

「世界地図を出してくれ。位置関係がはっきりせん」

原が部屋の隅に置かれている衛星写真を縮小した地図を取り出し
浜口が指を指し示しながら説明する。
「召還後の世界は地形が大きく変わりました。召還前の世界地図を見てください」
召還前の世界地図の北と南をひっくりかえし、南にロシア、カナダ、グリーンランドを置いて
オーストリアをアメリカ近くの太平洋沖に移動させる、そのオーストラリアの下部分に
もとの通り北を上にした日本が召還されています。
無理やり召還前の土地と大まかに比較するならこのような違いがあります」

「召還前の地図と類似点を見つける方が難しいな」
地図を前に唸る。

「召還された日本は幸運にも緯度や経度は大きく変わりません。
気象庁の報告によると周囲の大陸や海域が違うにもかかわらず
気候などの召還前の世界との隔たりは余り無いものと予想されています。
もっとも、余りアテにはなりませんが」
「そうか」
武原は頷きながらメモを取った。

「緯度経度は旧来の地図基準だそうです。
国土地理院の担当が久々の大きな仕事でやたらテンションが高かったのを覚えています」
「此れだけ情報が用意できたのも内調の面々のお陰です。
衛星の軌道を変える大仕事を観測と同時にやり遂げたんですから」

「官僚達や組織そのものは優秀だな。私達を除いて」
「君達はやるべきものをやり遂げているのに国会は責任問題と政権争いの場だよ」
「私達には見たくないものは見えないらしい」
武原は自嘲気味に笑った。
浜口が押し黙ると武原は言葉を続けた。

「良かったな。無事四季が迎えられる。少しでも北や南寄りだったら農作物は全滅だ」
「今後の防衛省の予定は?」
「日本の上にあるオーストラリア大陸の警戒と沖縄近くにあるアメリカ大陸の警戒が主で
目下の課題はオーストラリア方面からやって来た船団の対処ですかね。
アメリカ方面は特に何も変化はありません」

「情報封鎖は進んでいるかな」
「現時点で異世界の大陸について知っているのは、
北海道の千歳、青森の三沢、大湊、京都の経ヶ岬の一部の隊のみです。あとは一部の役人。
海では部隊が中国が消滅しているのを発見し北方領土の北に新しい大陸を見つけているでしょうね」

「艦隊を派遣してきた潜在敵国は何処か判るかね」
「現在哨戒機や早期警戒機が偵察しています。
予想ではオーストラリア大陸の下部、
現代のダーウィンに近い地域から船出したものと考えられています。
都市の規模としては30万人もいないそうです。本拠が別にあるのでしょうね」
なるほどと武原は考えた。
30万人で3万人の兵士は養いきれまい。
彼らの首都が別に何処かにあるのかも知れない。
都市間の連合国家や近代的な政治形態を取っているのかも知れなかった。

「それにしても3万人は少ないな。君はどう思う?」
「現代の基準から考えればそうですが、中世レベルの文明、彼らの文明にしては十分な数かと」
「なるほどな」
陸戦では古来から大量の人員が動いているが、
海上戦闘になると実際に動く人員は驚くほど少ない。
元々、船とは高価なものであるし、動かせる人員も限られているからである。
むしろ150隻を超える船を用意できたことに驚くべきなのだと浜口は語った。

「他、哨戒機からも巨大生物を確認したとの報告が」
「巨大な海蛇やクラーケンでも出たかね」
「モケーレ・ムベンベとニンゲンです」
「ロバート・ムガベ?」
「モケーレムベンベは身長5mの首長竜、ニンゲンは全長数十メートルで全身真っ白の人魚です」
「頭が痛い」
一体この世界の生態系はどうなっているのか。

「他の新情報としては」

武原は冗談めかして聞いた。
「敵は魔法でも使うか?」

「仰るとおりです。報告している私も信じられませんが」
「もう嫌」

中世に海賊船に魔法使い。おまけに竜にモンスター。
エルフとドワーフが出てくれば完璧だな。
どれだけファンタジーなんだよこいつらは。
重なる激務と相次ぐ報告に武原は倒れこんだ。

「総理ーーー!」
「医者を呼べーーーーー!」

夜、武原は疲れていた。
シャワーを浴びた後、睡眠薬を飲み、薬が効いてくるまで待つまでの間。

「非常事態宣言は既に出してしまったからな。
外出禁止令、物資統制令も出した。自衛隊の迅速な行動を国民に示してアピールも見せた。
北の油田と南のガス田についても部隊を派遣し接収も開始した。
北海道の油田の存在誇示と産油量を増やして国内に一応の安定を得させることもできた。
原油精製プラントについても稼動準備をさせている。
精製量は足りんが全く無いよりもかなりマシだ。心理的余裕が違う。
数年以内に新しい油田を見つけねばいけないか」

ベッドでひとりブツブツ喋る。
奇怪この上ないが、これが彼流のストレス解消法であった。

ただの愚痴、ただのひとりごとタイムだ。
最近は愚痴が増えて、一言二言で済んでいたのがストレスで時間が伸びている。

「事件から2週間で手を打ったにしては上出来だろ?」
「・・・だが・・・やったところで誰も褒めてくれんがな。野党議員に叩かれるのが関の山か」
「次は食料備蓄か」
「先が見えんよ」
「はあ・・・・・・」

武原秀雄の憂鬱は続く。

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