自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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ランゲルハンス島攻略作戦がやっと終わった…

此処は海の上。魔法艦隊のとある部屋。

他の職場からは「監獄」「懲罰部隊」「タコ部屋」「強制収容所」と呼ばれる指揮所。
一度でも所属したら転勤しようが退職しようが予備役として呼び出されただ働きさせられる恐怖の部屋。
超過勤務当たり前、一日二食徹夜付き、将軍様の腰巾着。
精神が参っちゃって病気になったりバタバタ倒れるところ。

だから他の兵士達は恐ろしがって「そこに移動したら殺される」とメチャクチャ嫌がる。
事実、隣の部屋には魔法使いの政治将校殿が常に控えていて、命令違反は見せしめとして即射殺される。
魔法の使用は現場指揮官の裁量として認められている。
後ろから魔法を放つのも裁量の内だ。

兵士には逃亡や反乱防止に二重三重の呪いが掛けられている。
第一段階で頭に彫られた刺青が疼き、耐え難い頭痛に苛まれ
第二段階で頭痛が酷くなって動けなくなり
第三段階で首に付けられた魔法の輪が炸裂して頭がパーン。

前任者は昨日の作戦後、無能扱いを受けて船の甲板上で火踊りさせられ氷の槍で貫かれた。
私はその彼の下に居た部下だ。
船が港に着いたら何人が処刑されるのだろう?
劣悪な環境。
「私がそこから逃げないのは組織への忠誠ではなく、祖国に家族が居るからだ」
遺憾だがバッサン帝国参謀には乱暴や不正を行う者が多い。
やってられないのも理解できる。
「でも他人を巻き込まないで欲しい」と思う。
連帯責任は困るから。

此処は天国に一番近い部署。

知らない者のために説明しておくとランゲルハンス島とはクリーチャーホール殲滅作戦時
新たに発見した島を政治将校である彼が付けた名前だ。

数年前、地方の一国家が反乱を起こした。
大規模殲滅魔法技術を持っているかどうか調査する聖ルーデル教査察団を事実上の拒否。
その国の背後にはダークエルフ反政府組織、槌と銀の葉旅団が関わっていると考えられており
反政府組織壊滅と大規模殲滅魔法の排除の為
独裁者デ・キッコ・ナイサに率いられたかの国をバッサン王国は攻め滅ぼした。
殲滅後調査と査察は速やかに行われたが儀式の発動は間に合わなかったとされている。
無駄足だった。儀式の跡は綺麗に解体され証拠を見つけられなかった。

彼らは大規模魔法を発動させたが、ないものは発動はしなかった。
占領後、魔法自爆テロと槌と銀の葉旅団の反乱が凄かったからな。
事実上支配をあきらめたといっていいだろう。

しかし滅ぼされた後アビア湾沖にその兆候は現れ始めることとなる。
バッサン王国はかの国での残党狩りと支配を中断し魔法の兆候へ対処を始めた。

調査の結果、アビア湾沖にクリーチャーホールが出現する可能性があると示された。
クリーチャーホールは魔物が出てくる穴のことで、
魔法の失敗によって魔法学的な確立で出現するとされている。
クリーチャーホールは大小様々なものがあって下は兎一匹から上は巨大怪獣まで色々だ。
前回軍が派遣されたときはゴッドジューラと呼ばれる口のデカイ大きなトカゲの魔物に国一つが滅ぼされた。
魔物一匹滅ぼすために呼ばれた我軍の魔道士は10人程、総兵力1万人、同盟軍10万人近くが動いたとされている。

今回の作戦ではそれの更に大規模なものらしい。
魔道士500人、総兵力3万人、艦船150隻を超える大艦隊。
海上兵力としてはバッサン帝国の総兵力の約半数。
残りの半分はライバー国などとの国境沿いに張り付き牽制を続けている。
軍事大国バッサンの名に相応しく異常な戦力である。

ミルク色の濃霧が立ち込めるアビア沖。
輪陣形を組み、船を並べ霧が晴れるのを待ちながら俺達は配置に付いていた。

「まるで壁みたいな霧ですね」
「ああ。シャルルはホールを見るのは初めてだったな」
「いい機会だ。霧について説明しよう。聞くか?」
「宜しくお願いします」

クリーチャーホール、つまり魔物の穴ができるとだな魔物が溢れ出して来るのは知ってるな。
その穴ができる際にきまって濃い霧が出る。霧は現実との境を隔てる壁だ。
過去、数多くの学者達が調べようとしたが霧の向こうに何があるか観測できた奴は居ない。
勇敢にも霧に入っていったやつも何人かいたが向こうから帰ってきた奴は誰もいない。
学者さんたちは霧のことを事象の境界と呼んでいるそうだ。
俺達がホールと呼んでいるのは便宜上だ。
霧の向こうには扉があるかもしれんし、巨大な穴があるかもしれない、何もないかもしれない。
俺達に出来るのは近寄らないことだけだ。

「帆は畳んであるな。巻き込まれたら二度と帰ってこれんぞ」

アビア湾以降南一帯を包む巨大な霧。
歴史に残る超巨大クリーチャーホールの前兆。

カツカツと革靴の音を立て政治将校のランゲルハンス(以下ハンス)がやって来た。
背筋を伸ばし敬礼を行う。恐怖で身が締まる。

「読め」

ぶっきらぼうに片手で渡された命令書を両手で恭しく受け取る。
いい加減な内容の長ったらしい説明書きをまとめるとこうなる。

第一段階として使節団が魔物との交渉を行う。
この段階で相手に知能が認められれば交渉を続ける
知能がなければそのまま殲滅する。
第二段階として交渉の成否に関わらず前進。攻撃を開始する。
第三段階として再度の交渉を行うとする。

「交渉の成否に関わらず攻撃とありますが?戦闘になった場合はいかがするのでしょうか」
「君に発言権は認められていない」
「が、答えてやろう。圧倒的火力で撃滅し、叩きのめしてからの交渉だ」

この命令書は重大なことが書かれていない。
負けることを想定されていないのだ。

敗北の言葉をオブラートに包んで話す。
「魔物が思ったより粘った場合はいかが致しましょうか」
「そのための魔道士521名と156隻の艦だ。我々は魔物に対して常に勝ってきた」
「これからもだ。現にゴッドジューラ相手でも勝ったではないか」

甚大な被害を受けてだがな。
今回の海戦に参加している一般兵はほとんどが予備から引っ張り出されてきた者たちである。
軍の半分はオーリア大陸で編成中だ。
正確な数すら聞かされていなかったことに愕然とする。
前に話したときは魔道士50名だった。

「魔道士が521人だぞ?君らが束になっても勝てない魔道士がだぞ?負ける理由がないな」
かの国では手に負えなくなって撤退したじゃありませんか。アンタ。
俺達は数に入らないのかよと頭の中で悪態を付いた。

「君は敗北主義者かね?」
「めっそうも御座いません。念には念を入れようと思いまして」
「君は臆病だ」
「はい」

事務的に返事を返す。
ハンスは勝ったあとの政治争いに頭が一杯なのであろう。
顔がにやけている。
ご機嫌取りに機嫌が良くなりそうな質問をしてやる。

「勝利した後、いかが致しましょうか」
「知能がない魔物なら家畜化する。家畜化できないなら交易に使う。領地も増える」
「知能があるなら奴隷狩りだ。戦利品ぐらいならくれてやるぞ」
「了解しました」

予定通り霧が開けてくる
霧の向こうにあるのは巨大な土地と小島。

「帆を揚げろ。予定通り戦闘を開始する」

「これは、予想よりも大きいようです」
「素晴らしい。実に素晴らしい」
「記念すべき島の名前を考えた。私の名から取ってランゲルハンス島だ」

ハンスは悦に入っていた。
勝てばこれだけの土地が彼のものになるのである。
思った以上の大収穫になりそうであった。

「報告です」
「どうした?」
「別働隊の竜騎士から連絡です」
「島の周囲に飛ぶ、金属の巨大鳥に妨害され危険と判断。後退すると」
「金属の鳥は信じられない速「腑抜けが」

竜騎士の倍以上の速度で飛行し、一定範囲に入ると攻撃が開始される。
魔法は竜さえ一撃で粉砕する破壊力を持っている。

「我々の傍には飛んでいないではないか。周囲の竜騎士隊からも不信な連絡は入っておらん」
「野生の竜にでも襲われたのだろう」

後退した報告を受けて地図上のマーカーを動かす。
反論したくもあったが言い返しても碌なことがないので止めた。

事象の境界が消えた直後に侵攻してから三日、敵は我々の奇襲を受けて今頃あわをくっているはずだ。
事象の境界の外は観測できない。
霧が出来てからクリーチャーホールが開くまでは間がある。
我々はその間に準備をし境界の外ギリギリで待機を続け、消えると同時に侵攻した。

敵から見ると突然軍が海上に出現したように見えるに違いない。
急に3万の軍勢が現れたのに驚いていることだろう。

ひょっとすると
「3万の兵力を1日で派遣できるほど即応性と機動力に富み、中世の光通信網の様な通信技術が開発されている軍隊」
とでも思われているんだろうか。

「それとも3万の兵力を1日で派遣できるほど即応性と機動力に富んだ軍隊」だと思われているだろうか。
「準備期間なしで大軍団を派遣できる国力と航海技術を持った文明」
「いきなり300万の兵力を目の前に召喚できる恐るべき魔法文明」とでも思われているだろうか。
「3万の兵力がいると判断できるほどその司令部の情報収集能力および分析力がある」と考えられているだろうか。

たぶん「こんな作戦は実現不可能だ!」と魔物語で会議でもやっている。

「手始めに手前の小島へ上陸しよう。敵の戦力を見る」
「命令書通り、まず使節団の帰りを待ち、交渉を失敗してから戦闘を行うべきでは」

ハンスに提案する。
本来、作戦権限や指揮系統は完全に分離されていて指揮権は俺にあるのだが、自分には提案しかできない。
彼は緑のものを青いと言い切れる権限を有し、逮捕権限を持っている。
懲罰房行きは勘弁したい。

使節団はどうせ無理な要求を突きつけるのは目に見えている。
断られてから大義名分を得て戦闘に移る。
そんな意味の命令書だったはずだ。

竜騎士隊の報告によれば基地の守備隊は300名程度であるとされていて
街や施設などは何もない。軍事的価値は皆無だろう。

「島には戦略的価値はありません」
「君は敵の正体も不明なのに戦うのかね」

ハンスにしては一応、的を得た答えだ。
が、魔道士の数を誇っていた彼にしては妙に弱気に聞こえる。
指示を出す顔は相変わらずにやけていた。
表情を見ていて理解できる。こいつは無意味に敵を蹂躙したいだけだと。

「上陸作戦には多大な出血を伴います。どうか再考を」
「どうせ戦うことになる。速いも遅いも同じだ。勝てば官軍だよ」
「兵は使い捨てではありません」
「我が軍の兵士は勇敢だよ」

獅子心薬を飲ませておいてよくもいえた物だ。
ゾンビの集まりじゃないか。

「どちらにしても後ろの大きな島で上陸戦をやるんだろう?」

既に陣地が展開されている土地に上陸戦を仕掛けるのと
そうでないのとではまるで難度が違う。

「報告です!使節団が島からの魔法攻撃で迎撃されました!」
「魔導士のシールドはどうした」
「一撃で貫かれました!」

ハンスは報告を聞いて余裕たっぷりの顔をする。
「使節団を殺した連中を放っておくのかね?政治的意味だ」
「敵の兵器は一撃で魔法シールドを貫通したのだよ?技術的興味もある」
「放っておいたまま上陸したら竜騎士隊に甚大な被害が出るよ。竜騎士一騎の値段は知っているかね?」
「上陸を開始しろ。これは政治的決断だよ」

「私なら瞬きをする間に君をギロチンに掛けることができる。忘れないことだ」

政治将校の鶴の一声で作戦は決まった。

こうして無意味な戦闘は始まったのである。

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