自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2021年4月14日 10:40 城塞都市ダルコニア 帝国駐留軍本営

<<わかった、全員退避後に地下に手榴弾を投げ込め。
 それで誘爆しなければ、申し訳ないが突入だ>>

 報告を受けた佐藤大隊長の決断は早かった。
 敵が粉塵爆発を狙っているのであれば、こちらはその意図を利用してやる他はないというわけか。
 確かに、攻撃を開始した以上は粉塵が収まるのを待っている時間はない。
 かといって銃剣片手に隊員たちを突入させるわけにもいかない。
 着火役の者には申し訳ないが、これは必要最小限の犠牲だな。

「わかりました。それでは直ぐに実行します」

 自分の部下を許容される犠牲として計算されることに思うところがないわけではないが、俺も公務員だ。
 血税で飯を食っている以上、部下に死ねと言うことも受けれなければなるまい。

<<まあ待て。この手の任務は俺の部下のほうが慣れている。
 もう到着するから部隊を施設の外まで退避させろ。以上、オワリ>>

 意外な言葉を掛けられると同時に、一方的に通信が切られる。
 こんなデリケートな任務を一般隊員に任せられるわけがない。
 直ぐに送り返そうと振り向いたところで、俺は目撃した。

「通信は聞いておりました。
 以後は自分たちが行いますので、速やかに退避願います」

 既に取り出した焼夷手榴弾片手のその陸士は、どこからどう見ても最精鋭だった。
 別に何か特別な装備を持っているわけではないのだが、立ち振る舞いから身にまとう雰囲気まで、明らかに普通の日本人ではない。
 正直なところ、どうして一般部隊にいるのかが分からない。

「あ、ああ、ご苦労。
 本当に任せていいんだな?」

 声が上ずるのを止められない。
 自衛隊はどうなってしまったのだ。
 特別な訓練を受けていない一般隊員の中からこんな隊員を生み出すようになってしまったのか。

「有り難くあります。
 さあ、急いで下さい」

 どちらが上官か分からない態度で陸士は退出を促してくる。
 それに対抗する意欲すらわかずに、俺は部下たちと共に施設から退出した。
 施設の周囲には適度に分散された分隊達が既に展開しており、軽機や小銃があちこちを狙っている。
 一般部隊の手に負えない戦闘に駆り出されたとばかり思っていたが、どうやら実際には俺たちが訓練を受ける側だったらしい。


そこから先の展開は、ここに至るまでの経緯を考えれば意外なほどに早かった。
 焼夷手榴弾による粉塵爆発の誘発は成功し、施設周辺にあったらしい換気口と思われる部分から猛烈な噴煙が発生する。
 さらに司令部施設の一部が崩落を始め、死体以外にも可燃物があったためか一階部分では火災まで発生している。
 どう考えても生身の人間が乗り込むような場所ではなくなってしまったが、だからといって施設内へ突入して目標人物を発見しなければならない事に変わりはない。
 地下施設の存在は事前の調査でも確認されていたため、彼らはそこに入るための機材を準備していた。

「沖合の施設科に出動要請。
 最悪の場合は、掘削しながら深部に突入するぞ」

 CAFSと呼ばれる圧縮空気泡消火システムを構えた隊員たちが施設内へと接近していく。
 石造りの建物が相手なだけあり、初期消火にしか効果を発揮しないこのような装備であっても出番がある。
 徹底した砲爆撃を実施したお陰で、市内の敵軍はかなりの損害を受けているようだった。
 そのお陰で、こうして戦闘部隊以外も徐々に敵司令部前に到着しはじめている。

「佐藤一尉、艦隊と連絡取れました」

 無線機を背負った通信士が受話器を寄越す。
 すぐに来てくれるそうです、では無いということは、出動要請に対して了解しました以外の何かを言いたいという事なのだろう。
 佐藤は憂鬱そうな表情を浮かべて受話器を取った。

「佐藤一尉です。
 申し訳ありませんが厄介な仕事になりそうです」

 危険は承知しているが、ここで施設科に出てきてもらえないと仕事が進まない。
 戦闘装甲車が無力化され、ヘリが落とされ、普通科小隊が全滅した場所にそう簡単に部隊は出してもらえないということか。
 苛立ちを覚えないわけではないが、佐藤も指揮官をやっている以上、相手の気持ちは理解できている。
 同時に護衛部隊も上陸するはずだし、こちらからも出迎えは出す。
 それであっても、米軍のような戦闘工兵ではない以上、施設科の最前線投入は難しいのだ。

<<久しぶりだな佐藤一尉。
 地下神殿以来じゃないか>>

 受話器の向こうから聞こえてきたのは、佐藤にとっては実に懐かしい人物の声だった。
 正確には、世話になった時点では彼は重傷を負って意識不明の重体だったのだが、回復してからも挨拶すらしていなかったわけではないのだ。

「ああ、これは佐々木三佐殿。
 ご無沙汰しておりました。今回の支援は三佐殿の部隊が?」

 2020年の12月に発生した北方管理地域有事でその真価を発揮した施設科では、一部の部隊にある任務を与えていた。
 堅苦しく言えば敵施設破壊工作。
 ロマンチックに言えばダンジョン攻略。
 第一坑道支援大隊と呼ばれる彼らは、この世界ならではの大規模な地下施設の攻略を主要な目的としていた。
 その中でも北方管理地域有事を切り抜けた佐々木三尉達は敬意を込めて“匠”と呼ばれている。
 敵襲、崩落、孤立、その他様々なストレスに晒される中、任務を全うし、閉じ込められた友軍を救出したのだから当然と言えよう。
 まあ、実際には厄介極まりない特殊な地形を、削岩機やコンクリート、発破によって好きに作り替えるという大胆な発想から付いたあだ名なのだが。


<<一部では崩落も起こっているようだな。
 ああ、艦隊からUAVを飛ばして状況は見ているし、通信も聞かせてもらった>>

 何とも仕事の早いことだ。
 感心しつつ佐藤は言葉の続きを待つ。
 これだけの動きをする人々ならば、情報収集と分析だけでは済まないはずだ。

<<揚陸艦からヘリを使って一個小隊を出した。
 それ以外は海岸から車両ごと投入予定だ。
 海岸堡からの経路確保も兼ねているのでこっちは時間がかかるかもしれんが、人員と可搬機材は早急に送り込む。こちらからは以上だ>>

 当然といえばそうなのだが、戦争状態の自衛隊では日本の組織とは思えないほどに迅速に全てが変化していく。
 日本国の命運を決める決戦が大部隊を投入できない地下で行われる可能性を認識した自衛隊は、世界に冠たる土木技術の粋を集めた精鋭を用意したのだ。
 その必要性が認められた2020年12月から僅か四ヶ月。
 明日その時が来るかもしれないという恐怖感に怯えた彼らは、その四ヶ月を気の遠くなるほどに時間を浪費したと認識している。
 敵は岩盤を崩落させる攻撃を行うかもしれない。
 海と坑道を繋げて浸水させるかもしれない。
 神経ガスが可愛く見えるような猛毒で可燃性で強い腐食性を持つガスで進入不可にするかもしれない。
 いやいや、灼熱の溶岩を溢れ出させないと誰が決めた?
 要求仕様は担当者が発狂したのかと思うような表現が乱れ狂い、それでも想定外の事態は無数にあるだろうと結んでいた。
 そのような状況のため、非常時に備えた特殊機材を用意するための専門家会議には常に主だった企業から技術者が召集されることになってもいる。
 この異常な世界では、それだけの準備を整えても不足しか感じないほどに不思議が満ち溢れているのだ。

「ありがたくあります。通信士に戻します」

 通信を切った佐藤の表情は明るかった。
 施設の一部が崩落を始めたときにはどうなるかと思ったが、ロクな準備もない状態でラストタンジョンのような場所から自分たちを救出した部隊が来るのだ。
 油断できるほどではないが、明るくなれる情報ではある。

「消火作業急げ。
 増援が来たときに火も消せていないのでは笑われるぞ」

 振り返った佐藤の視界に入ったのは、市外から突入してきた更なる増援だった。
 どうやら、砲爆撃による敵性住民への損害は思っていた以上に大きいものだったらしい。
 抵抗らしい抵抗もなしにあっさりとここまでの連絡線確保ができてしまったようだ。

「施設を出迎えるぞ、二曹、人選は任せる」

 通信士から手渡された作戦地図を見る。
 聞かされた座標からして、どうやら撃墜されたヘリの落ちている広場付近に降りるらしい。

「ああ、そのあたりだと墜落機の捜索隊も出ていたな。
 こっちへの到着が遅れても構わんから、遺体収容を手伝ってもらえ」

 自衛隊と名前を変えてみたところで、軍隊である。
 不可能でなければ戦死者の収容を怠らないという基本方針は揺るがない。
 劣勢なわけではないし、ちゃんと連れて帰ってやりたいものだ。
 そんな事を思いつつ、佐藤は指揮に戻った。




グレザリア帝国暦1490年 二代目皇帝の月13日 城塞都市ダルコニア 派遣兵団総司令部地下 転移の間

「クソっ、石材が邪魔で魔方陣が作動しない」

 魔方陣に落下してきた大きな石材を動かそうとしていた兵士が憎々しげに呟く。
 最深部に位置する転移の間に集まっている彼らは総勢61名。
 騎士団長を始めとする大半が地上で討ち死にした今、この大陸に残された帝国軍は彼らしか存在しない。
 現在の指揮官はセレー・オニシア・ファミアである。

「一体いつになったら転移が出来るの!?
 あなた達がそこで遊んでいる間にも敵は近づいてきているのよ!」

 アニタの残骸が激突したお陰で折れた腕を魔法で癒しつつ叫ぶ彼女の表情は、まるで悪魔のように歪んでいた。
 全兵士の劣情の対象にまでなっていた彼女は、護衛艦の砲撃で吹き飛ばされた騎士の腕が命中したお陰で残念な具合になっている。

「セ、セレー、落ち着こうぜ。
 建物が崩れた以上、自衛隊は直ぐにはこれないよ」

 彼女の肉体を存分に味わうという幸運のお陰で判断能力が鈍っている託狼は、怒り狂う女性を根拠もなしに諌めようとするという過ちを犯した。
 納得出来るだけの根拠を提示できていれば話も変わったのだが、残念なことにその言葉に根拠など存在しなかった。
 自衛隊と今回始めて敵対した彼は、自分の知っている知識の範囲内でしか物事を語れない。
 そこには明確な出典元もなければ、誰もが納得するような経験則も存在していないのだ。

「黙りなさい!」 

 馴れ馴れしく声をかけてきた敵国の糞餓鬼に、セレーは激昂しつつ平手打ちを食らわした。
 今まで物見程度で収めていたニホンがいきなり総攻撃を仕掛けてきたのは、どう考えても目の前の異世界人であると。
 それはこの世界の人々からすればただのヒステリーであったが、統幕長が聞けば驚愕の余り失神するほどの現状に対する正しい認識だった。

「お前が表をブラブラしていたせいでニホンにこの街が襲われたのがまだわからないの!?
 だからあれほど出歩かないでと言ったでしょう!?この糞餓鬼がっ!」

 短時間で自軍どころか自分たちの街までもが壊滅した事により、彼女の精神は崩壊の一歩手前だった。
 日頃の余裕のある演技は吹き飛び、深いところに押しとどめられていたはずの歪んだ人間性が前面に押し出されていた。

「いってぇ、何、するんだよ!」

 予想以上の力で顔面に平手打ちを喰らった彼は、瞬間的に頭に血が上ったために腰の剣に手を伸ばしてしまった。
 それは、理不尽極まりないこの状況下においても絶対に行ってはならない行動だった。

「異世界人っ!」

 隣から発せられた言葉は、託狼にとってあまりにも予想外の表現だった。
 剣を掴もうとしていた右腕に強い衝撃が走り、続いてその右腕自体が視界を横切る。

「え?」

 それは大変に間の抜けた声ではあったが、仕方がない。
 隣から聞こえた敵意に満ちた言葉は彼と何度も体を重ね、どのような行為でも喜色に塗れて受け入れてくれた相手の声だったのだ。
 自分と結婚したいと何度も言ってくれた相手。
 シンディという名の女性騎士の放った斬撃は、彼の右腕を軽々と切り飛ばした。

「ご苦労」

 託狼の絶叫をBGMに、セレーはシンディに対し労う言葉をかけた。
 ニホン軍の攻撃が開始されたことにより、もはや異世界人を篭絡して情報を集めるという任務は終わりを告げていた。
 皇帝の後宮から選抜された魅力も能力もある彼女たち。
 人間的な魅力と房中術、そして外見に話術に戦闘能力と様々な点で選ばれた彼女たちは、皇帝が満足出来るだけの成果を挙げていた。
 託狼という異世界人からももう少し情報が集められたかもしれないが、今の時点でも明日のためになる情報が無数にある。
 これ以上、汚らしい黄色猿に甘い言葉を掛ける必要はないと彼女たちは判断したのだ。


信じていたはずの人々に裏切られ、さらに致命傷まで負わされた託狼は後悔していた。
 どうして自分はこのような目にあっているんだ。
 愛する女性たちのために尽くしたはずなのに、誰もが笑って暮らせる明日のために行動していたはずなのに。
 腕から流れ出る血液は、医療的な知識をほとんど持ち合わせていない彼でも危険と判断できる量になっている。
 体が動かせなくなり、末端から冷たくなっていく。
 思考が鈍り、視界が霞がかったようにぼやけていく。
 ちくしょう、どうして、セレー、シンディ、なんで。

「敵が来ました!」

 転移の間の扉を守る騎士が叫んだのと、託狼の出血量が致死量を超えたのは同時だった。
 扉の向こうから聞こえる銃声、絶命したらしい兵士たちの絶叫。
 彼女たちが頑丈で巨大な扉を向いたその瞬間、それは轟音を発して爆発した。
 砕かれた木材が音速で室内に飛び散り、不運な六名の顔面に突き刺さる。
 煙すら晴れない中、何かが飛び込んできたことを何人かは知覚する。
 事前に聞いていたシュリュウダンと言うものだろう。
 その何人かは盾を前に出して地面に腹ばいになろうと身を投げ出す。
 だが、やってきたのは破片ではなく、目を焼くような閃光と、脳を揺さぶる轟音だった。
 視界を染める白。
 脳の奥に響く耳鳴り。
 どちらが上かが分からない。
 室内にいた全員が平衡感覚を奪われて倒れこみ、床の上で溺れるようにして手足を動かす。
 生まれてきたことを後悔するような地獄はなおも彼女たちを蝕んだが、騎士たちはそれほど苦しみはしなかった。
 閃光をかき分けるようにして室内に突入してきた自衛隊員たちは、手際よく騎士だけを銃撃して止めを刺していったからだ。
 それはここに至る経緯を考えれば余りにもあっけない幕引きであった。
 ゴルソン大陸に展開していたグレザール帝国軍の最後の部隊は、精鋭揃いであったにも関わらず、反撃どころか抵抗することすら出来ずに全滅した。

「無力化完了」

 突入部隊の指揮官は、余りにあっけない結末に唖然としつつ報告した。
 現代軍の情報を仕入れた敵国の最精鋭が相手と聞いていたのに、蓋を開けてみれば訓練のようにスムーズに全てが完了している。
 もちろん、自衛官である以上、彼らに油断はない。
 頭部に怪我を負っていない騎士たちには漏れ無く銃弾を撃ちこんでいったし、事前情報にあった女性たちは縛り上げた上で蹴りつけて手足を骨折させている。
 死者続出の大苦戦よりは経験にもならないような一方的な戦いのほうがいいに決まっているのだが、いや、贅沢な悩みだな。
 そんな事を思いつつ、指揮官は部下たちの生死確認の様子を見守る。

「対象人物の身柄を確保。もう死にます」

 閃光が収まりつつある中、隊員が死にゆく託狼の髪を掴んで顔を確認している。
 切断された腕部から床へと広がる血の海は明らかに致死量と判断されるだけの面積を誇っており、止めを刺さなくとも助かりようがないものだった。

「はい、チーズ」

 無理やり起こされている顔に向けて別の隊員が証拠写真を撮影し、さらに血液や所持品からサンプルを回収していく。
 この場で直ぐに確実な答えが出せないのは残念なことではあるが、後になってでも確認だけはしたい。
 それが統合幕僚監部からの要望だった。

「間に合うかどうかはわからんが、止めだけは刺しておけよ」

 方針としては生け捕りではあったのだが、現状ではどうしても助けようがない。
 そのため、彼らは目標人物に対する対処項目乙。
 つまり、確実な殺害を実施した。
 仰向けに床に倒し、89式自動小銃で頭部を銃撃する。
 額に生じた弾痕は小さなものだが、飛び込んだ5.56mmNATO弾は山田託狼、別の言い方をすれば勇者様の頭蓋骨内部を蹂躙し、多くの脳組織を従えて床へとたどり着いた。


「これだけやっとけばいいだろう。
 地上部隊へ報告。安全確認終了、調査隊の到着を待つ」

 破壊された入り口からは、制圧を待っていた施設科の先発隊が入場しつつある。
 派遣兵団司令部の上級将校の捕虜から拷問で情報を得ていた彼らは、この地下広場に何があるかを伝聞ながら知っていた。
 大陸間瞬間移動魔方陣。
 格好良く言うなればそうなる施設が、この部屋にはあるのだ。
 事前の情報を肯定するように、部屋の中央には魔方陣が描かれていた。
 何もないそこを隊員たちが警戒しているが、彼らの視線の先には真っ黒な板のようなものが立っている。
 そこに荷車が突き刺さっているのだが、板の反対側には何も異常がない。
 手の込んだオブジェでない限り、これは常識を超越したタチの悪い何かだ。

「これが本当に話し通りのものだとしたら、困ったことになるな」

 捕虜から聴きだした情報によれば、目の前の黒い板のような存在は、一万キロ近く向こうにあるグレザール帝国本土の魔法学園とかいう場所に繋がっているらしい。
 一日に三時間だけ、大地の力とやらを借りてゲートのような物が開き、大陸と行き来できるのだそうだ。
 専用の魔方陣がなければ使うことはできないそうだが、それにしてもこんなに便利なものがあるとは、さすがは異世界である。
 もしこの技術を手に入れることが出来れば、日本国は更なる繁栄を手に入れることができる。
 パイプラインを通せば、ベルトコンベアを設置すれば、タイムラグ無しで大陸から本土へ石油やその他物資を運びこむことが出来る。
 確かに日本の持つ海運力は、世界最強のものであったが、もっと楽にできるのであればそれに越したことはない。
 固定したポイントではなく、任意の場所へゲートを開くことが出来るのであれば、例えば空挺や特殊部隊で橋頭堡を確保し、そこへ機甲師団をダイレクトに送り込むことも可能だろう。
 優れた技術力、機動力、戦闘能力、後方支援能力。
 日本国のもつあらゆる優位点が、さらに覆しようのないものへと変化する。
 そうなれば、世界征服も夢ではない。
 全ての国家を破壊し、必要最低限の戦力と現地人の協力者、そして機動防御を行うための部隊で、日本は新たな日の沈まない帝国を建設することが出来る。
 そこまでいければ、救国防衛会議を解散し、あの懐かしい議会制民主主義を復活させることも可能だろう。
 部下たちには言ってはいないが、統幕長はそんな未来を夢見ていた。
 自衛隊が国家の一機関にすぎない、その程度の重要さしか持たない立場に転落する未来を。
 この世界の将軍や騎士たちが聞けば耳を疑い、次に自分の正気を疑いたくなるようなそれは、間違えなく統幕長を始めとする自衛隊将官たちの夢だった。
 彼らは、好きで次々に押し寄せる待ったなしの大問題を解決しているわけではない。

「キャリバー50はまだ来んのか?ミニミで対抗できない奴らが来たら困るぞ」

 後ろから聞こえた声に振り返れば、部下を引き連れた佐藤一尉の姿が見える。
 この場を預かる指揮官は、目に入った光景に呆れた。
 おいおい、どうしてこの人はいつもいつも気軽に最前線に出てきてしまうんだ?
 いくら悪意に満ちた考え方をしたとしても、彼は今後の陸上自衛隊に絶対に欠かせない人材のはずだ。

248 名前:物語は唐突に ◆XRUSzWJDKM [sage] 投稿日:2011/11/01(火) 00:56:14.36 ID:QHasPj4t [7/8]
「直ぐに施設の先遣隊が来る。
 あのよくわからん板に近寄るなよ」

 またもや最前線にフラフラとやってきた佐藤の指示は簡潔極まりなかった。
 彼の部下たちは十分な経験を積んでいるだけあり、その行動に無駄はない。
 転がっている石材を積み上げて即席の陣地を作り、軽機関銃や自動擲弾銃を据え付けていく。
 この時、統合幕僚監部は作戦発動後にもかかわらず意見が分かれていた。
 主流派は、何がやってくるのか分からないので即座に破壊するべきというもの。
 まあ、その主張が主流になるのは当然である。
 魔法というものは、日本国にとっては未だによく分からない奇跡の親戚のような存在である。
 仮に鋼鉄の箱と陣地で囲ったとして、本当に危険な何かが攻め寄せてきたときに、それで防げるという保証がない。
 ゴルソン大陸は日本本土に比較的近く、そして本土を運営するために必要な様々な資源がある。
 そのような場所に、敵本土と通じた場所があるというのは好ましい事ではない。
 破壊できないとしても、せめてコンクリで封印するべきだ。
 それも、できるだけ早く。
 彼らの主張は当然である。

「遅くなりました。機材の準備はできているので直ぐに始めます」

 様々な機材を担いだ施設科が入室してくる。
 彼らは時間の許す限り細かく目標物を調査し、完全に破壊することを目的としている。

「任せる。
 ああ、上の階で拷問やってるから、分からないことがあったら聞きに言ってくれ」

 今回の作戦で得た捕虜の数は非常に少ない。
 だが、それでもある程度の人数を確保しており、積極的な情報収集のために情報本部から派遣された拷問のスペシャリストが動員されている。
 地球では表向きには根絶されたはずの組織的な拷問は、この異世界において復活を遂げていた。

「はあ」

 施設科の先遣隊を率いていた三尉が何とも頼りない声で返事をしている間にも作業は続けられている。
 様々な測定器が設置され、あちこちで写真や動画が撮影されていた。

「それにしても早かったな。
 佐々木三佐殿によろしく伝えてくれ」

 地上へと通じる入り口から重機関銃班が入ってくるのを横目で見つつ、佐藤は三尉にそう告げると歩き出した。
 この街には総数は不明ながらも身柄の拘束か殺害が必要な人々が未だに多数存在している。
 彼の本来の任務は、未だに終わっていないのだ。
 帰りついでに託狼少年の遺体を蹴りつつ、彼は地上へと戻っていった。
 佐藤は部下たちの生命に責任を持たなければならない指揮官である。
 だからこそ、彼には部下たちの生命を奪う遠因となった存在への憂さ晴らし程度は許される。

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