「まったく、妙なことになったもんだねえ……」
住宅地の中に作られた公園で、一人の男が独白する。
彼の名は岡田似蔵。盲目の剣客だ。
彼の名は岡田似蔵。盲目の剣客だ。
彼は、内心穏やかでなかった。
岡田は人斬りだ。人を殺すことに、何らためらいはない。
だからといって見ず知らずの相手に拉致されて「さあ、殺せ」などと命令されたのでは、気分が悪い。
ましてや桂小太郎という大物を斬り、上々の気分だったところにこんなことをされては興ざめもいいところだ。
岡田は人斬りだ。人を殺すことに、何らためらいはない。
だからといって見ず知らずの相手に拉致されて「さあ、殺せ」などと命令されたのでは、気分が悪い。
ましてや桂小太郎という大物を斬り、上々の気分だったところにこんなことをされては興ざめもいいところだ。
「おまけに何やら、俺の鼻を鈍らせる妙なもんが撒かれてやがる……。
天人の新兵器か何かかねえ」
天人の新兵器か何かかねえ」
岡田は目が見えないながらも、会場に何か得体の知れないものが充満しているのを感じ取っていた。
それが、自分の頼みの綱である嗅覚を鈍らせていることも。
それが、自分の頼みの綱である嗅覚を鈍らせていることも。
「まあ、いいさ。さっさと終わらせて……場合によっては、こんなところに連れてきた連中も斬って帰るとしよう」
そう呟きながら、岡田はある方向へ体を向ける。
赤い霧に阻害されているとはいえ、彼の感覚が一般人よりも鋭いのは変わらない。
岡田は、こちらに向かって歩いてくる誰かの気配を感じ取っていた。
若い女。特に鍛えている様子はない。
斬って面白い相手ではないが、まあ最初の獲物ならそんなものだろう。
赤い霧に阻害されているとはいえ、彼の感覚が一般人よりも鋭いのは変わらない。
岡田は、こちらに向かって歩いてくる誰かの気配を感じ取っていた。
若い女。特に鍛えている様子はない。
斬って面白い相手ではないが、まあ最初の獲物ならそんなものだろう。
「まずは肩慣らしといくか。なあ、紅桜よ」
岡田は、自らの右腕に輝く桜色の刃に向けて、愛しそうに語りかけた。
◆ ◆ ◆
「はあ……」
天野ナツメは、ため息を漏らしながら舗装された道を歩いていた。
鬼王・羅仙による人類滅亡を防いだと思ったら、今度は妙な妖怪に拉致されて殺し合いを強制されるとは。
さすがに立て続けに事件に巻き込まれすぎではないだろうか。
とはいえ、文句をつけたところで状況は改善しない。
なんとかこの殺し合いを止める方法を見つけ、生きて帰らねばならない。
そんなことを考えながら歩き続けていたナツメだったが、その足が不意に止まる。
ナツメは普通の中学生である。だが、一度生死をかけた戦いを経験している。
ゆえに、気づくことができた。おのれに向けられた、すさまじい殺気に。
まともに回避しては間に合わないと判断し、ナツメは着地後を考えない無茶な姿勢で跳ぶ。
その直後、刃が空を切ってアスファルトに叩きつけられた。
鬼王・羅仙による人類滅亡を防いだと思ったら、今度は妙な妖怪に拉致されて殺し合いを強制されるとは。
さすがに立て続けに事件に巻き込まれすぎではないだろうか。
とはいえ、文句をつけたところで状況は改善しない。
なんとかこの殺し合いを止める方法を見つけ、生きて帰らねばならない。
そんなことを考えながら歩き続けていたナツメだったが、その足が不意に止まる。
ナツメは普通の中学生である。だが、一度生死をかけた戦いを経験している。
ゆえに、気づくことができた。おのれに向けられた、すさまじい殺気に。
まともに回避しては間に合わないと判断し、ナツメは着地後を考えない無茶な姿勢で跳ぶ。
その直後、刃が空を切ってアスファルトに叩きつけられた。
「あれぇ? 外れちゃったねえ。
思った以上に感覚がずれてるのかねえ」
思った以上に感覚がずれてるのかねえ」
攻撃の主……岡田は、いぶかしげに独りごちる。
(うわぁ……いかにも悪そうな人に出くわしちゃったよ)
一方のナツメは、岡田の姿を見て心中でそう呟く。
リーゼントじみた髪型にサングラス、和服で日本刀を振り回す男。
ナツメの知識に照らし合わせれば、岡田の外見は「そっちの人」にしか見えない。
リーゼントじみた髪型にサングラス、和服で日本刀を振り回す男。
ナツメの知識に照らし合わせれば、岡田の外見は「そっちの人」にしか見えない。
「悪いねえ、お嬢ちゃん。
次はちゃんと、一撃で殺してあげるよ」
次はちゃんと、一撃で殺してあげるよ」
薄ら笑いを浮かべながら、岡田は刀の切っ先をナツメに向ける。
だが、ナツメはたじろがなかった。
彼女自身に、戦う力はない。だがそれは、彼女が敵意に立ち向かう手段を持たないということではない。
ナツメは、いつでも取り出せるようにしていた「それ」を手に取る。
鍵を連想させる形状のその物体は、「アーク」と呼ばれる代物。
人と妖怪が心を通わせた証だ。
凶悪な顔つきの猫が描かれたそれを、ナツメは左手に装着された時計……妖怪ウォッチエルダに差し込む。
ウォッチのカバーが開き、盤面が露出する。ナツメはそこに、抜き取ったアークをかざす。
だが、ナツメはたじろがなかった。
彼女自身に、戦う力はない。だがそれは、彼女が敵意に立ち向かう手段を持たないということではない。
ナツメは、いつでも取り出せるようにしていた「それ」を手に取る。
鍵を連想させる形状のその物体は、「アーク」と呼ばれる代物。
人と妖怪が心を通わせた証だ。
凶悪な顔つきの猫が描かれたそれを、ナツメは左手に装着された時計……妖怪ウォッチエルダに差し込む。
ウォッチのカバーが開き、盤面が露出する。ナツメはそこに、抜き取ったアークをかざす。
「召喚! 私の友達、出てこいジバニャン!」
ナツメが叫ぶと、ウォッチが光り輝く。
光が生み出したナツメの影は異様に長く伸び、そこから異形の存在が飛び出してきた。
光が生み出したナツメの影は異様に長く伸び、そこから異形の存在が飛び出してきた。
「何だぁ? この気持ち悪い場所は」
姿を現すなり悪態をつくのは、まさにアークに描かれていた強面の猫。
化け猫・ジバニャンである。
化け猫・ジバニャンである。
「おねがい、ジバニャン! あの人を追い払って!」
「あぁ? 人間じゃねえかよ、あれ。
いやまあ、たしかに刀なんぞ持ってたら危ねえからな。
軽く相手してやるか」
「あぁ? 人間じゃねえかよ、あれ。
いやまあ、たしかに刀なんぞ持ってたら危ねえからな。
軽く相手してやるか」
あまり乗り気ではなさそうなジバニャンだが、彼も友情を結んだ相手を見殺しにするほど薄情ではない。
ナツメに迫る危険を排除すべく、ゆっくりと岡田に近づいていく。
ナツメに迫る危険を排除すべく、ゆっくりと岡田に近づいていく。
「驚いたねえ。何もないところから、急に気配が出てきた。
しかも、獣の匂いだ。
お嬢ちゃん、ポ○モントレーナーか何かかい」
「わけのわからねえこと言ってんじゃ……ねえ!」
しかも、獣の匂いだ。
お嬢ちゃん、ポ○モントレーナーか何かかい」
「わけのわからねえこと言ってんじゃ……ねえ!」
間合いに入ると同時に、ジバニャンは右の拳を放つ。
岡田はそれを悠々と回避し、刀を振るう。
だがジバニャンも、それを左手の爪で弾く。
岡田はそれを悠々と回避し、刀を振るう。
だがジバニャンも、それを左手の爪で弾く。
「ほう。獣にしてはやるねえ」
「妖怪舐めてんじゃねえぞ!」
「妖怪舐めてんじゃねえぞ!」
今度は、ジバニャンが回し蹴りを放つ。
爪が岡田の頬をかすめ、わずかながら血が飛び散る。
だが岡田は意に介さず、愛刀を振るう。
その切っ先が、ジバニャンの肩を浅く切り裂いた。
爪が岡田の頬をかすめ、わずかながら血が飛び散る。
だが岡田は意に介さず、愛刀を振るう。
その切っ先が、ジバニャンの肩を浅く切り裂いた。
「そっちが妖怪なら、こっちは妖刀さね」
「はぁ? 何が妖刀だ。妖力なんざ、かけらも感じねえじゃねえか。
というか、どう見ても機械仕掛けだろ!」
「はぁ? 何が妖刀だ。妖力なんざ、かけらも感じねえじゃねえか。
というか、どう見ても機械仕掛けだろ!」
不気味にコードを揺らめかせる刀を見ながら、ジバニャンが毒づく。
彼の見立てどおり、紅桜とは科学の力を宿した刀である。
人工知能を搭載し、おのれの意志で進化を続ける兵器。
それが紅桜の正体だ。
彼の見立てどおり、紅桜とは科学の力を宿した刀である。
人工知能を搭載し、おのれの意志で進化を続ける兵器。
それが紅桜の正体だ。
「なぁに、科学で妖刀を作っちゃいけないなんて決まりはない。
新時代の妖刀さ」
新時代の妖刀さ」
口元をにやつかせながら、岡田は改めて刀を構える。
だがその時、新たな声がその場に響いた。
だがその時、新たな声がその場に響いた。
「その辺にしておきなさい、岡田さん」
現れたのは、岡田と同じく和装の男。
なんとなくファンタジー世界で仏をやっていたり、超能力者が通う学校で校長をしていそうな雰囲気を漂わせている。
なんとなくファンタジー世界で仏をやっていたり、超能力者が通う学校で校長をしていそうな雰囲気を漂わせている。
「このペヤングみたいな匂いは……武市さんか。
あんたも来てたのかい」
「誰がペヤングだこの野郎」
あんたも来てたのかい」
「誰がペヤングだこの野郎」
男の名は、武市変平太。岡田と同様にテロリスト集団「鬼兵隊」の所属であり、参謀を任されている男だ。
「それで武市さん、何で止めるんだね」
「その化け猫はどうでもいいですが……。後ろのお嬢さん、彼女を殺すのはいけません。
女性はあの年頃が、一番美しい」
「……武市さん、ロリコンも大概にしてもらえませんかねえ」
「ロリコンじゃありません、フェミニストです」
「その化け猫はどうでもいいですが……。後ろのお嬢さん、彼女を殺すのはいけません。
女性はあの年頃が、一番美しい」
「……武市さん、ロリコンも大概にしてもらえませんかねえ」
「ロリコンじゃありません、フェミニストです」
堂々と言い放つ武市に、岡田は肩をすくめる。
「こっちはあなたの趣味に付き合う義務はないんでね。
好きにやらせてもらうよ」
好きにやらせてもらうよ」
武市を無視し、戦闘を再開しようとする岡田。
だがその前に、武市が立ちはだかる。
だがその前に、武市が立ちはだかる。
「言ってわからないのなら仕方ありませんね……。こうです!」
武市が取った行動。それは、駄々っ子のように岡田にしがみつくことだった。
「……何やってるんだい、武市さん」
「さあ、そこの少女よ! 今のうちに逃げるのです!
私が彼を食い止めているうちに!」
「さあ、そこの少女よ! 今のうちに逃げるのです!
私が彼を食い止めているうちに!」
岡田はすっかりあきれかえっているが、武市はいたって真剣である。
ナツメに対しそう言うと、ジバニャンは召喚を解除して帰ってしまった。
「ちょっと、ジバニャン! 置いてかないでよ!」
ジバニャンが帰ってしまっては、ナツメに戦うすべはない。
いや、別の妖怪を召喚すればいいだけなのだが……。
この時のナツメは、困惑するあまりそこまで頭が回っていなかった。
いや、別の妖怪を召喚すればいいだけなのだが……。
この時のナツメは、困惑するあまりそこまで頭が回っていなかった。
「あの二人、知り合いみたいだし……。殺されるまではいかないよね、たぶん……。
好意に甘えさせてもらいます、おじさん!」
好意に甘えさせてもらいます、おじさん!」
意を決すると、ナツメはその場から全速力で走り去った。
【0000過ぎちょい 住宅地・公園】
【武市変平太@銀魂映画ノベライズ みらい文庫版(集英社みらい文庫)】
●大目標
生き残る
●小目標
少女の参加者を守る
●大目標
生き残る
●小目標
少女の参加者を守る