「すみませーん! 誰かいませんかー?」
赤い霧が立ち籠める商店街の店先を、一つ一つ大きな身振り手振りで検める桃色の髪の人影が一つ。
藤原千花はもう何件かもわからない無人の店を前に困惑した表情で立ちすくしていた。
意識が戻ってからというもの大声を出して呼びかけること十分ほど、人っ子一人どころか猫一匹スズメ一匹見当たらない。電信柱を見てここがどこか知ろうにも、なぜか標識が外されている。更には建物の外に貼られているポスターの類にも、ここがどこかを判断するような情報のものが無い。
まるで外国の日本人街みたいだ、と思いながら千花はまた別の店をノックした。
藤原千花はもう何件かもわからない無人の店を前に困惑した表情で立ちすくしていた。
意識が戻ってからというもの大声を出して呼びかけること十分ほど、人っ子一人どころか猫一匹スズメ一匹見当たらない。電信柱を見てここがどこか知ろうにも、なぜか標識が外されている。更には建物の外に貼られているポスターの類にも、ここがどこかを判断するような情報のものが無い。
まるで外国の日本人街みたいだ、と思いながら千花はまた別の店をノックした。
「すみませーん! すみませーーん!! ……ここもダメ?」
ちなみに彼女に、殺し合いに巻き込まれたという考えは、無い。
オープニングの曖昧な記憶も、その中のファンシーなぬいぐるみが言っていたことも、それが瞬間移動のように消えて突然また眠気が襲ってきたことも、変な夢ぐらいの認識である。
だいたい本当に殺し合いならもう銃弾の一発も飛んできてもおかしくないぐらい大声を出している。それもあって彼女の警戒心はとうに無くなっていた。
オープニングの曖昧な記憶も、その中のファンシーなぬいぐるみが言っていたことも、それが瞬間移動のように消えて突然また眠気が襲ってきたことも、変な夢ぐらいの認識である。
だいたい本当に殺し合いならもう銃弾の一発も飛んできてもおかしくないぐらい大声を出している。それもあって彼女の警戒心はとうに無くなっていた。
「すみま――開いてる!」
そして店のドアを押すこと数十軒目、ついに鍵がかかっていない店を見つけた。
道に面した窓ガラスが開放的な喫茶店。店内を覗いた感じから、ふだんなら学生――彼女のような上流階級の子弟の――や若者で賑わいを見せているであろう、商店街からは少し浮いている店だ。「おじゃまします」と言って忍び足で入る。開いたら開いたでちょっと怖い。それでももちろん入るが。
道に面した窓ガラスが開放的な喫茶店。店内を覗いた感じから、ふだんなら学生――彼女のような上流階級の子弟の――や若者で賑わいを見せているであろう、商店街からは少し浮いている店だ。「おじゃまします」と言って忍び足で入る。開いたら開いたでちょっと怖い。それでももちろん入るが。
「すみませーん。あのー……」
ガタッ!
「ピャッ!?」
思わず変な奇声が口をついた。
店の奥から微かだが物音がした。
誰かがいる。
店の奥から微かだが物音がした。
誰かがいる。
「…………」
入ってくる時よりも恐る恐る、千花は店の奥へと進む。
もしかしたら、空耳だったかもしれない。
もしかしたら、冷蔵庫とかの機材が立てた音かもしれない。
でももしかしたら、誰かいるかもしれない。
期待半分恐怖半分、キッチンへと足を進めて。
もしかしたら、空耳だったかもしれない。
もしかしたら、冷蔵庫とかの機材が立てた音かもしれない。
でももしかしたら、誰かいるかもしれない。
期待半分恐怖半分、キッチンへと足を進めて。
「――大丈夫?」
千花はコンロの前でうずくまっている幼女を見つけると、膝を折って問いかけた。
「そっか、ユイちゃんも迷子なんだね。」
「おねえさんも?」
「うん。気がついたら、アッチのベンチで寝ちゃってて――はい、どうぞ。」
「おねえさんも?」
「うん。気がついたら、アッチのベンチで寝ちゃってて――はい、どうぞ。」
温めたポットからぬるめの紅茶を注ぐ。
気を休めたいときはやっぱり温かいものだ。そこに甘いものがあるとなお良い。
落ち着いて話せる空間が、こんな場所だからこそ必要なのだから。
気を休めたいときはやっぱり温かいものだ。そこに甘いものがあるとなお良い。
落ち着いて話せる空間が、こんな場所だからこそ必要なのだから。
互いにお茶菓子を食べつつ自己紹介――といっても幼いユイから聞き出せたのは名前とヒロトという兄がいることぐらいだが――をして、千花はあの光景を自分以外も見たのだと把握した。
それとともに、千花は認識を改めた。
自分とユイ、二人に首に仕掛けられた首輪。そしてなによりまだ幼いユイの存在。この二つからドッキリという線は消える。さすがにどんなに悪辣なプロモーターでも、小学校にも上がらないぐらいの女の子に爆弾付きの首輪を着けて殺し合わせる、なんてドッキリは表ではやれない。
ということはドッキリではなく、本気でバトロワ的なものをさせようとしているのだと考え直さざるを得ない。もしくはそれに準ずる何か。
というか、よく見たら店の床に普通に拳銃が落ちている。しかもゴツいやつ。
それとともに、千花は認識を改めた。
自分とユイ、二人に首に仕掛けられた首輪。そしてなによりまだ幼いユイの存在。この二つからドッキリという線は消える。さすがにどんなに悪辣なプロモーターでも、小学校にも上がらないぐらいの女の子に爆弾付きの首輪を着けて殺し合わせる、なんてドッキリは表ではやれない。
ということはドッキリではなく、本気でバトロワ的なものをさせようとしているのだと考え直さざるを得ない。もしくはそれに準ずる何か。
というか、よく見たら店の床に普通に拳銃が落ちている。しかもゴツいやつ。
(この首輪も、たぶん本物かなあ。)
首輪の重さが十倍になった気がする。
あんがい今まで意識しなかったが、殺し合いのリアリティを感じると途端に息苦しく感じるものだ。
あんがい今まで意識しなかったが、殺し合いのリアリティを感じると途端に息苦しく感じるものだ。
(……イジってたら外れたりしないかな?)
ちょっと強めに引っ張ってみる。首が痛いだけだ。意外と頑丈に作ってあるのかもしれない。
大きさによるものか?と思って、今度はユイの首輪を見てみる。もしサイズで機能が変わらないのならば、同じ力で引っ張っても壊れたりはしないだろう。まあ本当に引っ張ったりはしないがそれはそれとして首輪を調べてみようと手を出して。
大きさによるものか?と思って、今度はユイの首輪を見てみる。もしサイズで機能が変わらないのならば、同じ力で引っ張っても壊れたりはしないだろう。まあ本当に引っ張ったりはしないがそれはそれとして首輪を調べてみようと手を出して。
「おいアンタ正気か? 冗談キツイぜ。」
「……どなた?」
「……どなた?」
店のドアが開け放たれて一人の少年が入って来た。
「だから、そんな気はなかったんだって!」
「それにしても怪しすぎだぜ。なあ?」
「……」
「お前もなんとか言えよ。」
「はい、ケーキ!」
「……ありがとう。」
「子供には話すのかよ。つれねえなあ。」
「それにしても怪しすぎだぜ。なあ?」
「……」
「お前もなんとか言えよ。」
「はい、ケーキ!」
「……ありがとう。」
「子供には話すのかよ。つれねえなあ。」
ユイと二人で囲んでいたテーブルには男子二人が新たに座っていた。
一人は天野司郎、ユイの首輪を触ろうとしたところで店に入って止めてきた少年。
もう一人は神田あかね。天野の同行者、というと語弊があるが、天野と二人で店に来た美少年である。
この語弊というのは、天野があかねをつけていたということだ。そしてあかねも千花をつけていた。二人とも事態が飲み込めなくとも警戒心を持っている動いていた結果、大声を出していた千花に気づき、遠巻きに見ていたというわけだ。
そこで千花が自分の首輪どころか幼女の首輪にまで手をかけようとしたことで止めに入った次第である。
「そんなわけないじゃん」と言いつつ千花は男子たちにもお茶を振る舞うが、ちょっと考えてはいたことなのであまり大きな声では言えない。「ねー」とケーキを運んできてお手伝いするユイを盾にする。「ねー」とユイも返す。この短時間に懐かれたらしい。カワイイは正義だ。そのユイがバタリと倒れる。同じタイミングで、天野とあかねも倒れる。全員が自分の手で自分の首を絞めるような、チョークサインと呼ばれる窒息時に起こす動きをしている。
一人は天野司郎、ユイの首輪を触ろうとしたところで店に入って止めてきた少年。
もう一人は神田あかね。天野の同行者、というと語弊があるが、天野と二人で店に来た美少年である。
この語弊というのは、天野があかねをつけていたということだ。そしてあかねも千花をつけていた。二人とも事態が飲み込めなくとも警戒心を持っている動いていた結果、大声を出していた千花に気づき、遠巻きに見ていたというわけだ。
そこで千花が自分の首輪どころか幼女の首輪にまで手をかけようとしたことで止めに入った次第である。
「そんなわけないじゃん」と言いつつ千花は男子たちにもお茶を振る舞うが、ちょっと考えてはいたことなのであまり大きな声では言えない。「ねー」とケーキを運んできてお手伝いするユイを盾にする。「ねー」とユイも返す。この短時間に懐かれたらしい。カワイイは正義だ。そのユイがバタリと倒れる。同じタイミングで、天野とあかねも倒れる。全員が自分の手で自分の首を絞めるような、チョークサインと呼ばれる窒息時に起こす動きをしている。
「だ、大丈夫みんな!?」
そこまで認識して、千花はようやく立ち上がった。
なんだこれは、なにが起こっているんだろう。
まるでわからない。
突然三人が倒れて、窒息している。
同じタイミングで喉をつまらせた? そんなことはありえない。
じゃあなんだ――毒? それもありえない、自分も紅茶を飲んでいる。ユイと一緒に、少し前から。二人が飲み始めたのは今から。というか一口目だ。じゃあなぜ……………………
なんだこれは、なにが起こっているんだろう。
まるでわからない。
突然三人が倒れて、窒息している。
同じタイミングで喉をつまらせた? そんなことはありえない。
じゃあなんだ――毒? それもありえない、自分も紅茶を飲んでいる。ユイと一緒に、少し前から。二人が飲み始めたのは今から。というか一口目だ。じゃあなぜ……………………
ダォン!
「ヒィッ!?」
銃声と髪を焦がす匂いが正気に戻す。
あかねが、床に転がっていた銃をいつの間にか手にして撃っていた。
弾丸が掠めたのだ。
失神しかけの目が合う。
何かを訴えかけている目だった。
あかねが、床に転がっていた銃をいつの間にか手にして撃っていた。
弾丸が掠めたのだ。
失神しかけの目が合う。
何かを訴えかけている目だった。
「た、助けるから!」
スマホを取り出して救急へと連絡。
スピーカーにすると、ユイをうつ伏せに膝に乗せ、背中を叩いて吐き出させにかかる。
が、駄目。
それならばと、心肺が停止した三人を見比べ、繋がらない電話を無視して、AEDを取り出す。
成人用から小児用に変えている時間は無い。天野に取り付けると即使う。その合間合間にユイへの心臓マッサージ。
スピーカーにすると、ユイをうつ伏せに膝に乗せ、背中を叩いて吐き出させにかかる。
が、駄目。
それならばと、心肺が停止した三人を見比べ、繋がらない電話を無視して、AEDを取り出す。
成人用から小児用に変えている時間は無い。天野に取り付けると即使う。その合間合間にユイへの心臓マッサージ。
そして十分後、喫茶店には三つの死体と、その前に呆然と座る哀れな少女がいた。
【0030頃 商店街】
【藤原千花@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
???
【目標】
●大目標
???
【残り参加者 297/300】
【大場結衣@絶望鬼ごっこ くらやみの地獄ショッピングモール(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【天野司郎@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【神田あかね@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【大場結衣@絶望鬼ごっこ くらやみの地獄ショッピングモール(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【天野司郎@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【神田あかね@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
「『アクア・ネックレス』は元通り使えるみたいだな。」
その光景を、喫茶店の外から見ている男がいた。
彼の名は、片桐安十郎。
アンジェロというあだ名で呼ばれた連続殺人鬼である。
そして今まさに三人の子供を殺したのが彼だった。
スタンド使い、彼はそう呼ばれる種類の超能力者だ。その超能力の内容は、水を操ること。自らの半径数十メートル以内に具現化させた精神エネルギーを水分へと溶け込ませ、自在に操ることができる。たとえば、オシャレな喫茶店で幸せそうに談笑する若者の、ポット内の水分に溶け込んで、狙った標的のティーカップに注ぐよう操作し、胃に入ったタイミングで逆流して気道を塞ぐ、なんてことができるわけだ。
彼の名は、片桐安十郎。
アンジェロというあだ名で呼ばれた連続殺人鬼である。
そして今まさに三人の子供を殺したのが彼だった。
スタンド使い、彼はそう呼ばれる種類の超能力者だ。その超能力の内容は、水を操ること。自らの半径数十メートル以内に具現化させた精神エネルギーを水分へと溶け込ませ、自在に操ることができる。たとえば、オシャレな喫茶店で幸せそうに談笑する若者の、ポット内の水分に溶け込んで、狙った標的のティーカップに注ぐよう操作し、胃に入ったタイミングで逆流して気道を塞ぐ、なんてことができるわけだ。
「あのガキ、死ぬ寸前で撃ってきやがって……許せねえ。」
……まあ、近い方がより操作がしやすいのと、苦しむ姿を見たくて店前まで行ってしまった結果、死にかけの子供に撃たれるハメになったが、本来ならばなんらリスクを起こさず殺人できる能力なのだ。
なにせ具現化させた精神エネルギー、ヴィジョンは同じスタンド使いでなければ見えない。今回のように完全犯罪も下手を踏まなければ簡単なのだ。
なにせ具現化させた精神エネルギー、ヴィジョンは同じスタンド使いでなければ見えない。今回のように完全犯罪も下手を踏まなければ簡単なのだ。
「まいっか、死んだし……次だ。」
呆然と座る千花の姿に溜飲を下げて、アンジェロは密かに歩き出す。殺し合いというのは興味無いが、殺し合わなければいけないのだから仕方ない、俺は悪くない、だから殺そう。そんな殺意を胸に。
ちなみに彼が千花以外を襲った理由、それは「自分が入れたお茶で人が死んで呆然としてるところを笑いたい」ただそれだけである。
【0030頃 商店街】
【片桐安十郎@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
殺す
【目標】
●大目標
殺す