紅月飛鳥が気がついたとき、紅暗い霧の立ちこめる森の中にひとりぼっちだった。
家にいたはずなのに、いつのまにか変な広場にいて。
他にもたくさんのこどもたちがいる中で、変なウサギから突然殺し合えと言われて。
それで……
他にもたくさんのこどもたちがいる中で、変なウサギから突然殺し合えと言われて。
それで……
「……っ!」
ハッとして首に手を触れる。指先に感じたヒヤリとした感触に、背中が冷たくなる。
その首輪がどういうものかを実感して、思わず土の上にへたり込みそうになった。
ウサギの言葉でまばゆい光が輝き、死んだように硬直していく侍っぽい人。
そしてその後の、不良っぽい人が何かをして息を吹き返す光景。
わけのわからなさに、自分が見たものが夢か現実かわからなくなる。
それでもこうして首輪をはめられているなら、事実なのだと思わざるをえなかった。
その首輪がどういうものかを実感して、思わず土の上にへたり込みそうになった。
ウサギの言葉でまばゆい光が輝き、死んだように硬直していく侍っぽい人。
そしてその後の、不良っぽい人が何かをして息を吹き返す光景。
わけのわからなさに、自分が見たものが夢か現実かわからなくなる。
それでもこうして首輪をはめられているなら、事実なのだと思わざるをえなかった。
「殺し合いなんて……そんな……」
自分で口にして、これ以上は思い出しくないと頭を振る。
それにあの広間でのことは夢のようにあいまいだ。本当にあったことのはずなのにそうとは思えない妙な感じに、言いようのない気持ち悪さを感じる。
頭を切り替えようと、辺りを見渡した。
どう見ても森だ。なにか違和感を感じるが、どこにでもありそうな森だ。赤い霧というものが無ければ、の話だが。
空を見上げると、こちらも赤い空だ。赤黒い雲の間には雷が見える。
あれはどうやって作ってるんだろうと不思議に思う。霧とか雲に色って付けられんだろうか、もっと理科勉強してたらわかったかなと、どうでもいいことが頭を通り抜けていく。
それにあの広間でのことは夢のようにあいまいだ。本当にあったことのはずなのにそうとは思えない妙な感じに、言いようのない気持ち悪さを感じる。
頭を切り替えようと、辺りを見渡した。
どう見ても森だ。なにか違和感を感じるが、どこにでもありそうな森だ。赤い霧というものが無ければ、の話だが。
空を見上げると、こちらも赤い空だ。赤黒い雲の間には雷が見える。
あれはどうやって作ってるんだろうと不思議に思う。霧とか雲に色って付けられんだろうか、もっと理科勉強してたらわかったかなと、どうでもいいことが頭を通り抜けていく。
「また、『レッド』かぁ。」
特にその『赤』が気になる。
アスカは2代目怪盗レッドだ。
ねずみ小僧の末裔だったり末裔じゃなかったりする、現代の義賊。
まさか自分が怪盗になるなんて思っていなくて、なった今でも少し、いや割とかなり実感が無いのだけれども、とにかく今は、いとこのケイと2人で怪盗レッドになっている。
アスカは2代目怪盗レッドだ。
ねずみ小僧の末裔だったり末裔じゃなかったりする、現代の義賊。
まさか自分が怪盗になるなんて思っていなくて、なった今でも少し、いや割とかなり実感が無いのだけれども、とにかく今は、いとこのケイと2人で怪盗レッドになっている。
「そうだ! ケイ!」
相棒役を思い出して大きな声を上げた。
ものすごく頭はいいが、無愛想だし運動苦手だし(アスカが常人離れしているとも言える)で、1人でいたら生きていられるか心配だ。ケイだけではない。お父さんや学校の友だちだって巻き込まれているかもしれない。
あの変なウサギの話を信じたくはないけれど、信じてはいないけれども、心配な気持ちは止められない。
とにかく探しに行かないと。こんな森の中じゃどうしようもない。手近な石を取ると目印をつけて歩き出した。小さい頃から怪盗になるための英才教育を知らず知らず受けていたので、元々体力には自信がある。ふつうのこどもなら苦労するだろう山歩きもへっちゃらだ。
ものすごく頭はいいが、無愛想だし運動苦手だし(アスカが常人離れしているとも言える)で、1人でいたら生きていられるか心配だ。ケイだけではない。お父さんや学校の友だちだって巻き込まれているかもしれない。
あの変なウサギの話を信じたくはないけれど、信じてはいないけれども、心配な気持ちは止められない。
とにかく探しに行かないと。こんな森の中じゃどうしようもない。手近な石を取ると目印をつけて歩き出した。小さい頃から怪盗になるための英才教育を知らず知らず受けていたので、元々体力には自信がある。ふつうのこどもなら苦労するだろう山歩きもへっちゃらだ。
「なんだろう、ほこらかな?」
歩き始めて少しして、アスカは森の中にぽつんと立つ小さな建物を見つけた。
身長が高いとはいえこどもと同じ程の高さしかないそれは、神社とかにあるような木造のなにかだ。あんまりそういうのに詳しくないアスカから見ても、なにか神様的なものをまつっているやつだとは思う。
森の中ではじめて見つけた人工物にとりあえず近づく。すると、お供え物の中に奇妙なものを見つけて小首をかしげた。
遠目にはおまんじゅうのようにも見えるそれは、大きめの鈴だろうか。そういう物が置かれていることは不思議ではないが、それに変な輪っかがついている。手に取って触ってみて、その感触が自分の首輪と同じことに「どういうこと?」とまた首をひねった。
今度はいろいろひっくり返したりしてまじまじ見てみる。どこからどう見てもただの焼き物で、何か特別な何かを感じなくはないが、ふつうに鈴だ。もしかしたらかなり古いものかもしれないが、正直ガラクタにしか見えない。
なんでこんなのに首輪がついているんだろう?
身長が高いとはいえこどもと同じ程の高さしかないそれは、神社とかにあるような木造のなにかだ。あんまりそういうのに詳しくないアスカから見ても、なにか神様的なものをまつっているやつだとは思う。
森の中ではじめて見つけた人工物にとりあえず近づく。すると、お供え物の中に奇妙なものを見つけて小首をかしげた。
遠目にはおまんじゅうのようにも見えるそれは、大きめの鈴だろうか。そういう物が置かれていることは不思議ではないが、それに変な輪っかがついている。手に取って触ってみて、その感触が自分の首輪と同じことに「どういうこと?」とまた首をひねった。
今度はいろいろひっくり返したりしてまじまじ見てみる。どこからどう見てもただの焼き物で、何か特別な何かを感じなくはないが、ふつうに鈴だ。もしかしたらかなり古いものかもしれないが、正直ガラクタにしか見えない。
なんでこんなのに首輪がついているんだろう?
「……ほっ、ほっ! ふふっ。」
一応振ってみる。バーテンダーっぽくシャカシャカしてみた。なんか人の悲鳴っぽいものが聞こえる。あんまりいい音色ではない。ていうか人の声聞こえない? 耳元で聞こえた気がしたんだけど。
「もしかして、もしもーし?」
「入ってます!」
「うわあああっ!?」
「入ってます!」
「うわあああっ!?」
冗談で言ってみたら本当に返事がした。悲鳴を上げて落としそうになり、慌ててキャッチする。ホッとするとアスカは、あらためて鈴をまじまじと見る。と、なんか半透明の小鬼がちょこんと鈴の上に現れた。
「……! ……!」
「え、え、えええええ!!」
「あぶないっしゅ!?」
「え、え、えええええ!!」
「あぶないっしゅ!?」
また落としかけて、今度は小鬼も悲鳴を上げた。手から離れた瞬間に声も姿もなくなり、かと思えば手に取った瞬間に見えるようになり、聞こえるようになる。
「ホログラム、じゃないよね。AR?」
「うーん、おっこさんみたいに素質があるわけでは無いみたいですね。その割には感じ取れてるみたいですけど。」
「あのー、もしもし? わたし、紅月飛鳥。あなたは?」
「ああ、これはご丁寧にどうも。鈴鬼です。鈴木じゃないですよ、鈴の鬼って書いて鈴鬼です。」
「ど、どうも。」
「うーん、おっこさんみたいに素質があるわけでは無いみたいですね。その割には感じ取れてるみたいですけど。」
「あのー、もしもし? わたし、紅月飛鳥。あなたは?」
「ああ、これはご丁寧にどうも。鈴鬼です。鈴木じゃないですよ、鈴の鬼って書いて鈴鬼です。」
「ど、どうも。」
とりあえず挨拶だ。挨拶は基本だと昔の偉い本にも書いてある。
アスカは1度目をこすると、鈴鬼をじっくり見た。
茶色い肌に金髪に角。たしかに鬼と言われれば鬼である。体の小ささもあってマスコットっぽい。どっかのゆるキャラにいそうな感じだ。
指でつついてみる。サラサラとした髪とプニプニとしたほっぺだ。かわいい。
アスカは1度目をこすると、鈴鬼をじっくり見た。
茶色い肌に金髪に角。たしかに鬼と言われれば鬼である。体の小ささもあってマスコットっぽい。どっかのゆるキャラにいそうな感じだ。
指でつついてみる。サラサラとした髪とプニプニとしたほっぺだ。かわいい。
「おっほっほっ、くすぐったいです。」
「あ、ごめんね。あの、あなたは?」
「はい、あなたと同じ参加者です。首輪は鈴に付いてますけれども。」
「あ、ごめんね。あの、あなたは?」
「はい、あなたと同じ参加者です。首輪は鈴に付いてますけれども。」
まさかの参加者だった。そういえば首に首輪が無い。代わりに鈴に付いている。
「ふつうの人には見えませんからねえ」と本人(本鬼?)は言っているので、まあ、なんかそういうものなのだろうと納得した。
鬼という存在にも、それが殺し合いの参加者であることにも驚いているが、ぶっちゃけ殺し合いの段階で驚きすぎて冷静になっていた。
「ふつうの人には見えませんからねえ」と本人(本鬼?)は言っているので、まあ、なんかそういうものなのだろうと納得した。
鬼という存在にも、それが殺し合いの参加者であることにも驚いているが、ぶっちゃけ殺し合いの段階で驚きすぎて冷静になっていた。
「──というわけで、あのツノウサギというのは、魔界の鬼かもしれません。こういう悪いことはただの人間では無理ですし、機械に関しては鬼だけではできなさそうなので、人間の仲間がいるのかもしれませんね。」
「……なるほど!」
「よくわかってませんね?」
「うっ、だって。」
「まあ、そりゃそうなりますよね。いきなりこんなこと言われても。わけわかんないと思うんで、ごま塩程度に覚えておいてください。」
「それどのぐらい?」
「……なるほど!」
「よくわかってませんね?」
「うっ、だって。」
「まあ、そりゃそうなりますよね。いきなりこんなこと言われても。わけわかんないと思うんで、ごま塩程度に覚えておいてください。」
「それどのぐらい?」
2人が出会って少しして。
鈴鬼から自己紹介がてらに話されたことに驚きながらも、アスカはすっかり打ち解けていた。
鈴鬼はアスカと同じぐらいのおっこという女の子と一緒に温泉旅館で暮らしている小鬼らしい。
アスカも話せる範囲で家族のことを話した。
鈴鬼から自己紹介がてらに話されたことに驚きながらも、アスカはすっかり打ち解けていた。
鈴鬼はアスカと同じぐらいのおっこという女の子と一緒に温泉旅館で暮らしている小鬼らしい。
アスカも話せる範囲で家族のことを話した。
「どうやら、未成年ばかりを集めて殺し合いを開いたようですね。まさしく鬼畜の所業です。」
「本当に、殺し合いなんてやってるのかな。」
「残念ながら、はい。なんらかの儀式なのか、ただのゲームなのかはわかりませんが。あのツノウサギの後ろにいる誰かはとんでもなくたちの悪いタイプですね。」
「本当に、殺し合いなんてやってるのかな。」
「残念ながら、はい。なんらかの儀式なのか、ただのゲームなのかはわかりませんが。あのツノウサギの後ろにいる誰かはとんでもなくたちの悪いタイプですね。」
鈴鬼の言葉に、アスカの表情が曇る。たしかに、世の中に悪い人がいることはわかる。それでもこんなことをしようとする意味がわからない。
アスカの表情を見て、「ま、今はできることを考えましょう」と鈴鬼は話題を変えた。
アスカの表情を見て、「ま、今はできることを考えましょう」と鈴鬼は話題を変えた。
「たぶんおっこさんと、ピンフリさんあたりは巻き込まれているかもしれないです。2人ともタフですけど、なるべく早く合流したいですね。」
「どうしてその2人なの?」
「こういうことしでかす人は、なるべく面白くなりそうな人選をします。おっこさんとピンフリさんがツートップなんですよ、面白さの。」
「どうしてその2人なの?」
「こういうことしでかす人は、なるべく面白くなりそうな人選をします。おっこさんとピンフリさんがツートップなんですよ、面白さの。」
他にも面白い人たくさん居るんですけどね、と優しく言う姿に、アスカの胸が傷んだ。
きっと鈴鬼の周りにいるのは良い人たちばかりなのだろう。
アスカの周りだってそうだ。
こんな殺し合いに巻き込まれてほしくない大切な人たちはたくさんいる。
そしてその中で、一番狙われそうなのはと考えると、やっぱりケイだ。
『怪盗レッド』という存在を考えたると、どうしてもそうなる。
きっと鈴鬼の周りにいるのは良い人たちばかりなのだろう。
アスカの周りだってそうだ。
こんな殺し合いに巻き込まれてほしくない大切な人たちはたくさんいる。
そしてその中で、一番狙われそうなのはと考えると、やっぱりケイだ。
『怪盗レッド』という存在を考えたると、どうしてもそうなる。
「さて、提案なんですが、よろしいでしょうか?」
考え込みそうになったところに、また鈴鬼から声をかけられた。
「実はアスカさんとこうして会話するの、けっこう体力を使いまして。というのも、本来は霊能力とかそういうのがないと感じ取ることができないはずなんですよ。こっちサイドでなんとかできなくもないんですけど、ちょっとバテてきちゃいました。」
鈴鬼の体がだんだん薄くなっていく。
慌てるアスカに「見た目が変わるだけでここにいるのはかわりませんから」と言うと、姿が消えて声だけ聞こえるようになった。その声もだんだんと小さくなっていく。
慌てるアスカに「見た目が変わるだけでここにいるのはかわりませんから」と言うと、姿が消えて声だけ聞こえるようになった。その声もだんだんと小さくなっていく。
「ごめんね、ムリさせちゃって。」
「いえいえ、こうして会えなければ、ずっとあの祠で待ちぼうけでしたし。それではすみませんが、ポケットに入れてもらえますか。ぶっちゃけ鈴の上に乗り続けるのが疲れるんですよけっこう。バランスボールみたいで。なんかあればまた話しかけますし、アスカさんもなんかあったら鈴を優しく振ってください……」
「いえいえ、こうして会えなければ、ずっとあの祠で待ちぼうけでしたし。それではすみませんが、ポケットに入れてもらえますか。ぶっちゃけ鈴の上に乗り続けるのが疲れるんですよけっこう。バランスボールみたいで。なんかあればまた話しかけますし、アスカさんもなんかあったら鈴を優しく振ってください……」
鈴鬼の姿が見えなくなった。アスカはそっとポケットに鈴を入れる。心なしか暖かい気がした。
動かなきゃいけない理由がもう一つできた。アスカは「よし」と気合いを入れて歩き出した。
動かなきゃいけない理由がもう一つできた。アスカは「よし」と気合いを入れて歩き出した。
時は少しさかのぼり、アスカが鈴鬼と出会っていた頃。鑑秀人は未だ赤い霧に包まれた森から満足に動けずにいた。
彼は兄の隼人ように戦士としての手ほどきも軍人としての訓練も本格的には受けてはいない。もちろん、ラ・メール星の人間として常人を超える身体能力はあるが、それでも視界も効かない見知らぬ森を歩く技量など無かった。
なにせ、彼が暮らしていた火の国には、このような自然がない。核兵器により荒廃しきった地上はガラスの砂が広がる不毛の地で、国民は地下都市で暮らしている。今暮らしている北海道は広大な自然が広がっているので慣れていないわけではないが、その経験から迂闊に動かないほうがいいと判断した。
なにより、彼が心配したのは今の自分が殺し合いに巻き込まれたという事実だ。自分の身が惜しいというわけではない。もちろん死にたくなどないが、いい加減そんな小さいことを気にする自分に嫌気も差しているし、なにより気がかりなことがあまりに多い身の上た。それに今の秀人は半ば人質の立場である。その彼を気づかれぬ間に拉致できる存在は極めて限られている。彼がパセリたちを裏切り軍門に降った赤い鳥軍団か、でなければその監視をも凌ぐ想像もつかないような存在か。
彼は兄の隼人ように戦士としての手ほどきも軍人としての訓練も本格的には受けてはいない。もちろん、ラ・メール星の人間として常人を超える身体能力はあるが、それでも視界も効かない見知らぬ森を歩く技量など無かった。
なにせ、彼が暮らしていた火の国には、このような自然がない。核兵器により荒廃しきった地上はガラスの砂が広がる不毛の地で、国民は地下都市で暮らしている。今暮らしている北海道は広大な自然が広がっているので慣れていないわけではないが、その経験から迂闊に動かないほうがいいと判断した。
なにより、彼が心配したのは今の自分が殺し合いに巻き込まれたという事実だ。自分の身が惜しいというわけではない。もちろん死にたくなどないが、いい加減そんな小さいことを気にする自分に嫌気も差しているし、なにより気がかりなことがあまりに多い身の上た。それに今の秀人は半ば人質の立場である。その彼を気づかれぬ間に拉致できる存在は極めて限られている。彼がパセリたちを裏切り軍門に降った赤い鳥軍団か、でなければその監視をも凌ぐ想像もつかないような存在か。
「このダンゴムシもだ。これは死んでるんじゃなくて、もともとこういうふうに生産されたものか?」
秀人は後者であると、石をひっくり返したところにいたダンゴムシを見て思った。
火の国の科学技術は軽く百年は現代世界の先を行っている。特に機械工学はロボット兵やレーザー兵器を実戦配備しているほどだ。もちろん軍事分野だけが先進的なわけではなく、民生用のロボットやエアバイクなども広く普及している。その最たるものが、工業的に『生産』された自然だ。
環境破壊により地上の生命は死に絶え、生活の基盤が全て地下都市に依存している都合、当然日の光が差さぬ場所では動植物などあるはずもなく、食糧以外の自然はあらかた工場で生産されたものだ。
驚くべきはその精度だ。基本的に似せようとしたものは全くと言っていいほど本物と区別がつかない。そして秀人が見つけたダンゴムシは、彼が知る火の国のものよりもなお先を行っていた。火の国と北海道で自然物と人工物の両方を見ているため辛うじて区別がつくが、普通の人間ならばまず見抜けないだろう。高い技術で作られた製品であるがゆえに個体差が無いことは、プラスチックなどの無機物ではなく有機物で作られたらしいダンゴムシ達にも共通していた。
火の国の科学技術は軽く百年は現代世界の先を行っている。特に機械工学はロボット兵やレーザー兵器を実戦配備しているほどだ。もちろん軍事分野だけが先進的なわけではなく、民生用のロボットやエアバイクなども広く普及している。その最たるものが、工業的に『生産』された自然だ。
環境破壊により地上の生命は死に絶え、生活の基盤が全て地下都市に依存している都合、当然日の光が差さぬ場所では動植物などあるはずもなく、食糧以外の自然はあらかた工場で生産されたものだ。
驚くべきはその精度だ。基本的に似せようとしたものは全くと言っていいほど本物と区別がつかない。そして秀人が見つけたダンゴムシは、彼が知る火の国のものよりもなお先を行っていた。火の国と北海道で自然物と人工物の両方を見ているため辛うじて区別がつくが、普通の人間ならばまず見抜けないだろう。高い技術で作られた製品であるがゆえに個体差が無いことは、プラスチックなどの無機物ではなく有機物で作られたらしいダンゴムシ達にも共通していた。
「バイオテクノロジーによるクローンか。これを作った奴らはどれだけの技術を持ってるんだ……?」
石を戻して秀人はまた慎重に歩き始めた。最初にいた場所から渦を描くように森を散策する。こうしておけばさほど最初にいた場所から離れずに抜かりなく調べられる。
そのかいがあって、彼は一時間ほど歩いた末に木に刻まれた傷を目にした。
高さはちょうど彼の腰の位置。そこに横に一本傷が付いている。その傷の向きに歩くと何本か先の木に矢印の傷が付けられていた。矢印に従い歩くと、傷の付けられた木が続きまた何本か先に矢印の傷が付けられた木がある。
そのかいがあって、彼は一時間ほど歩いた末に木に刻まれた傷を目にした。
高さはちょうど彼の腰の位置。そこに横に一本傷が付いている。その傷の向きに歩くと何本か先の木に矢印の傷が付けられていた。矢印に従い歩くと、傷の付けられた木が続きまた何本か先に矢印の傷が付けられた木がある。
「迷わないように自分が通った道に目印を残したのか。」
もしくは罠か。嫌な想像が頭をよぎるが、秀人は足を早めた。この一時間で全く人と会えていない。このまま状況に変化がないことは耐えられなかった。彼の兄である隼人や裏切ったとはいえ友人であるパセリたち、そして彼と家族のように育ち――そして今は彼を軟禁している『彼ら』もまたこの場所にいるかもしれないからだ。
しばらくして秀人は、森の中に人影を見つけた。女の子のコンビが歩いている。首には同じように首輪が巻かれているため参加者だろう。武器も持っていないし、複数で行動しているのなら殺し合いに乗っているとも思えない、それに普通の人間には負ける気はない。そう思っていると、肩にポンと手が置かれた。
しばらくして秀人は、森の中に人影を見つけた。女の子のコンビが歩いている。首には同じように首輪が巻かれているため参加者だろう。武器も持っていないし、複数で行動しているのなら殺し合いに乗っているとも思えない、それに普通の人間には負ける気はない。そう思っていると、肩にポンと手が置かれた。
「うわあっ!?」
「あらごめんなさい。驚かせてしまったかしら?」
「あらごめんなさい。驚かせてしまったかしら?」
軽く叩かれただけなのに、すさまじいプレッシャーを感じた。
秀人は慌てて振り返り、飛び退く。
そこにいたのは銃を肩に担ぎメイド服のようなものに身を包んだふくよかな女性。シスター・クローネは彼にニッコリと笑いかけていた。
秀人は慌てて振り返り、飛び退く。
そこにいたのは銃を肩に担ぎメイド服のようなものに身を包んだふくよかな女性。シスター・クローネは彼にニッコリと笑いかけていた。
「牛の頭のバケモノ?」
「ここから少し行ったところにある廃村で襲われてね……信じられない?」
「それは……いや、信じます。」
「ここから少し行ったところにある廃村で襲われてね……信じられない?」
「それは……いや、信じます。」
秀人が出会ったのは2人の子供と1人の大人だった。
紅月飛鳥はほんの数分前に秀人のように声をかけられたらしい。なるほど、あの気配の消し方ならば、気配を探ることもできるのだろうかと感心してしまう。それほどまでに、その大人は強烈な個性を放っている。
シスター・クローネと名乗るライフルを提げた女性。それだけで個性的なのに、なぜか半裸で泣きじゃくる幼女を連れている。そんな怪しさの塊のような女性が言った荒唐無稽な話を、しかし秀人達は信じざるを得なかった。
紅月飛鳥はほんの数分前に秀人のように声をかけられたらしい。なるほど、あの気配の消し方ならば、気配を探ることもできるのだろうかと感心してしまう。それほどまでに、その大人は強烈な個性を放っている。
シスター・クローネと名乗るライフルを提げた女性。それだけで個性的なのに、なぜか半裸で泣きじゃくる幼女を連れている。そんな怪しさの塊のような女性が言った荒唐無稽な話を、しかし秀人達は信じざるを得なかった。
「ヒック……へんな……黒い服の男の人に……ヒック!」
「この子も、廃村の近くで変な男に襲われたらしくてね。男の子が助けてくれて逃げてきたらしいのよ。たぶん、私を助けてくれた男の子と同じ子ね。」
「男の子、ですか。」
「金髪って言ってたからたぶんね。私も彼に助けられて逃げてきたのよ。」
「この子も、廃村の近くで変な男に襲われたらしくてね。男の子が助けてくれて逃げてきたらしいのよ。たぶん、私を助けてくれた男の子と同じ子ね。」
「男の子、ですか。」
「金髪って言ってたからたぶんね。私も彼に助けられて逃げてきたのよ。」
脱げかけた服を自分ごと抱きしめるように抑えつつ話した幼女の言葉に、秀人とアスカは言葉を失った。ずっと俯き一向に顔をあげようとしない幼女からは、ぽたりぽたりと涙がこぼれ落ちて止まらない。よほど怖い目にあったのだろうと、いやがおうにも感じさせる。
そんな幼女を見て、秀人も俯きつつ渋い顔になった。この殺し合いの場にバケモノがいることよりも、不審な男がいることのほうが彼には恐ろしかった。いわゆるバケモノならばロボットなどと同様に破壊する手段が思いつくが、同じ人間で幼女相手に乱暴するような大人を相手にすることなど、今まで考えたことがなかった。火の鳥軍団の連中も相当な外道だと思っていたが、それを軽く上回る人間がいるなどと想像もできない。それにこんな状況でそんなことをしようとするなど秀人には発想すらできないものだ。
それは秀人だけでなくアスカも同様だ。彼女も多少はあくどい人間について普通よりかは詳しいが、さすがに突然誘拐されて殺し合えと言われておいて小さな女の子に襲い掛かるオッサンなど見たことも聞いたこともなかった。
とはいえ、普段の彼女を知る人間ならば思っただろう。なにか幼女と距離があると。
そんな幼女を見て、秀人も俯きつつ渋い顔になった。この殺し合いの場にバケモノがいることよりも、不審な男がいることのほうが彼には恐ろしかった。いわゆるバケモノならばロボットなどと同様に破壊する手段が思いつくが、同じ人間で幼女相手に乱暴するような大人を相手にすることなど、今まで考えたことがなかった。火の鳥軍団の連中も相当な外道だと思っていたが、それを軽く上回る人間がいるなどと想像もできない。それにこんな状況でそんなことをしようとするなど秀人には発想すらできないものだ。
それは秀人だけでなくアスカも同様だ。彼女も多少はあくどい人間について普通よりかは詳しいが、さすがに突然誘拐されて殺し合えと言われておいて小さな女の子に襲い掛かるオッサンなど見たことも聞いたこともなかった。
とはいえ、普段の彼女を知る人間ならば思っただろう。なにか幼女と距離があると。
「……、……」
(? なんだ、今、誰かの声が聞こえたような。)
(? なんだ、今、誰かの声が聞こえたような。)
ささやくような声が聞こえた気がして、秀人は耳をすませる。しかしはじまった情報交換に紛れてか、すぐに聴こえなくなった。いぶかしく思いながらも、話しながら森の中を歩るく。幼女を保護したクローネもアスカの付けた傷を辿って合流したことから、幼女を襲った男が同じように傷を辿って来ることを考えて足を止めずに進み続ける。幸いクローネが自然の中にある孤児院で働いているために森の中を歩くことも慣れていて、4人の移動速度はそれなりのものだ。
秀人はその間、全員を観察していた。さっきの声もあるし、普通の人間とは体力が違う自分だが、それでも疲れるものは疲れる。にも関わらずやたらタフなクローネを警戒する。銃を持ちバケモノの話をした彼女を信頼することはできなかった。いくら慣れているとはいえ疲れた様子を見せないことから、見かけよりも高い持久力を持っていると推測できる。銃を持ったままなら尚更だ。
そしてアスカもまた疲れを感じさせない歩きぶりで秀人は警戒する。たしかに持久力という意味では秀人たちは常人とそこまで差があるわけではないが、それでもふつうの、ましてや女子に負けるというのは考えがたいことだ。
そして彼が一番警戒するのが、幼女。一度も顔を上げず、それでいて全く歩くスピードが落ちない。子供ならそもそも歩くことすら困難な森をクローネの誘導があるとはいえ誰よりも疲れ知らずで歩き続ける。その時点で秀人は幼女に目が釘付けになっていた。と、その幼女が足を止める。なんだと思って幼女の手を引くクローネを見ると、彼女は森の一画を見ていた。
秀人はその間、全員を観察していた。さっきの声もあるし、普通の人間とは体力が違う自分だが、それでも疲れるものは疲れる。にも関わらずやたらタフなクローネを警戒する。銃を持ちバケモノの話をした彼女を信頼することはできなかった。いくら慣れているとはいえ疲れた様子を見せないことから、見かけよりも高い持久力を持っていると推測できる。銃を持ったままなら尚更だ。
そしてアスカもまた疲れを感じさせない歩きぶりで秀人は警戒する。たしかに持久力という意味では秀人たちは常人とそこまで差があるわけではないが、それでもふつうの、ましてや女子に負けるというのは考えがたいことだ。
そして彼が一番警戒するのが、幼女。一度も顔を上げず、それでいて全く歩くスピードが落ちない。子供ならそもそも歩くことすら困難な森をクローネの誘導があるとはいえ誰よりも疲れ知らずで歩き続ける。その時点で秀人は幼女に目が釘付けになっていた。と、その幼女が足を止める。なんだと思って幼女の手を引くクローネを見ると、彼女は森の一画を見ていた。
「私たちは殺し合う気なんてないわ。出てきてもらえる?」
「こりゃ参った、大した勘の鋭さだ。」
「こりゃ参った、大した勘の鋭さだ。」
意外なほど近くから男の声がした。ついで男の姿が現れた。黒いスーツにもみあげと一体化するほど毛深い黒いヒゲ。黒いクツと合わせて、全身黒ずくめの男が、二三本先の木の影から出てくる。
ヤバイな。
直感でわかる。男の纏う雰囲気は、火の鳥軍団の連中よりなお黒い。間違いなく只者ではない。
ヤバイな。
直感でわかる。男の纏う雰囲気は、火の鳥軍団の連中よりなお黒い。間違いなく只者ではない。
「ん? その服はさっきの――」
「いやあああああっ!!!」
「いやあああああっ!!!」
なにか男が言いかけたところで、悲鳴が響く。幼女が彼の姿を見たとたんに顔を抑えてうずくまった。同時に、クローネとアスカの空気が変わった。
(この人、場馴れしてる?)
「オッケー、だいたいわかった。」
「……なるほど、面白くなってきやがったぜ。」
「オッケー、だいたいわかった。」
「……なるほど、面白くなってきやがったぜ。」
男がそう言って背を向けて走り出すのと、クローネが安全装置を外して発砲するのは同時だった。
見事な射撃だ。火薬を使う銃なのに、反動を感じさせない美しい撃ち方。クローネもまた、火の鳥軍団の人間より危険な存在だと理解した。
見事な射撃だ。火薬を使う銃なのに、反動を感じさせない美しい撃ち方。クローネもまた、火の鳥軍団の人間より危険な存在だと理解した。
「クローネさん!」そうアスカが叫ぶ声を後ろにクローネは走り出す。
「置いてかないで」と幼女も追いかけていく。
こうなっては仕方がないと、秀人はアスカに合図して走り出した。
「置いてかないで」と幼女も追いかけていく。
こうなっては仕方がないと、秀人はアスカに合図して走り出した。
時間は再びさかのぼる。
「マリオネットなら糸を切ればいいって言ってもな。」
「繋ぎ直せるのは反則だろ!」
ギリギリで避ければ悪態を最後に、踵を返して逃げ出した。
次元が蜘蛛の鬼(母)の操る善逸ゾンビと戦い始めて数分、如実に追い詰められていた。
敵のタネは割れている。死体にワイヤーをつけて操るというものだ。ならばそれを銃弾で打ち抜けばいい。無論それは次元であっても極めて困難なのだが、この程度のピンチならば今までにいくらでもあった。しかし。
次元が蜘蛛の鬼(母)の操る善逸ゾンビと戦い始めて数分、如実に追い詰められていた。
敵のタネは割れている。死体にワイヤーをつけて操るというものだ。ならばそれを銃弾で打ち抜けばいい。無論それは次元であっても極めて困難なのだが、この程度のピンチならば今までにいくらでもあった。しかし。
「うおっ!」
直ぐ様追いつかれて転がるようにして刀を避け、その最中に撃った弾丸は糸を断ち切るもすぐに繋ぎ直される。ほぼ同時に自分に付けられた糸を同じように撃ち抜くと、次元は廃屋へと文字通りに転がり込んだ。
侍相手にあえて接近して至近距離からワイヤーを撃ち抜くという離れ業による攻略法は、どれだけ撃ってもすぐに繋ぎ直されることで無効化されていた。ならばと手足の関節を撃ち抜くも、死体だからかほとんど動きが鈍らない上、何発目からは回避されるようになった。そのおかげで攻撃の手は少しは緩まったが、事態が好転したかと言えばNO。マリナを守るために終わりのないディフェンスを強いられている都合、先に次元の体力がなくなるのは明白だった。
次元は隠れていた廃屋でライフルを見つけると、すぐさま飛び出す。追撃が来なかったということは、狙いはマリナに移ったということだ。この状況でマリナまで操られれば終わりだ。単に守る対象が敵の手に落ちるというだけではない、敵が一人増えかねないのだ。
侍相手にあえて接近して至近距離からワイヤーを撃ち抜くという離れ業による攻略法は、どれだけ撃ってもすぐに繋ぎ直されることで無効化されていた。ならばと手足の関節を撃ち抜くも、死体だからかほとんど動きが鈍らない上、何発目からは回避されるようになった。そのおかげで攻撃の手は少しは緩まったが、事態が好転したかと言えばNO。マリナを守るために終わりのないディフェンスを強いられている都合、先に次元の体力がなくなるのは明白だった。
次元は隠れていた廃屋でライフルを見つけると、すぐさま飛び出す。追撃が来なかったということは、狙いはマリナに移ったということだ。この状況でマリナまで操られれば終わりだ。単に守る対象が敵の手に落ちるというだけではない、敵が一人増えかねないのだ。
「つくづく悪趣味なやり口だぜ。」
案の定マリナへと背を向けて駆ける侍に向けて連射する。二発当たったがそれだけで腕を吹き飛ばせるわけもなく、侍は人間離れした動きで残りの弾丸を回避するとこちらに狙いを移した。
「次元さん!」
マリナの声に反射的に回避に移る。それは直感だった。一瞬後、次元の頭に衝撃が走る。愛用の帽子が飛ぶ。何かが掠めた、そう思ったときには侍に切りかかられていた。
ライフルで糸を切るべく狙い撃つ。弾丸は、当たらない。
ライフルで糸を切るべく狙い撃つ。弾丸は、当たらない。
(帽子が――)
次元の神技的な射撃技術は、帽子で狙いをつけることがその源泉にある。無くなれば素人並みの腕になることもあるが、基本的には少し劣るレベルの射撃が可能だ。だが、今求められているのは蜘蛛の糸を撃ち抜くレベルの技術。それでは足りない。つまり。
「ぐ、おおおおおっ!」
咄嗟にライフルを盾にする。受け流そうと斜めにしたそれは、容赦無く斜めに切断されほとんど勢いを落とさずに次元の腹を切り裂いた。その痛みが来るより早く、次元は抜き撃ちで侍の首輪を撃ち抜いた。
頼むから効いてくれよ、と言おうとして走った痛みで悲鳴に変わる。傷の感じからして内臓まではいっていないが、皮膚で止まらず肉まで切られた。たまらず仰向けに倒れる次元の目の前で、侍が刀を振りかぶる。それが振り下ろされて、目の前で止まった。
頼むから効いてくれよ、と言おうとして走った痛みで悲鳴に変わる。傷の感じからして内臓まではいっていないが、皮膚で止まらず肉まで切られた。たまらず仰向けに倒れる次元の目の前で、侍が刀を振りかぶる。それが振り下ろされて、目の前で止まった。
「予想通りだ!」
なるほど、この首輪は死体だろうと容赦無くカチコチにするようだ。糸よりは狙い易いと思い、オープニングでの光景から一か八かの悪あがきで狙ってみたが、幸運の女神は次元に微笑んだようだ。
次元はすぐに立ち上がり、侍の身体に付いた糸を肉ごと吹き飛ばした。同時に後ろから襲ってきた相手から距離を取る。追撃が無かったことから同じようなゾンビだろうと当たりをつけてそれを見てギョッとした。
首の無い、馬のような体表の身体が慌てたように腕を首輪の盾にしていた。そしてその後方の廃屋の屋根にいる白尽くめの和服の女と目が合った。その瞬間、ビクリと言う音が聞こえてきそうなほど馬人間のゾンビが震えた。
判断が遅い! 次元は自分を殴りたいと思いながらも拳銃を女へと発砲した。動揺で射撃が半秒ほど遅れた。そして帽子が無い事で生まれた照準のブレが、少し前の次元のように無様に転がって女が弾丸を回避する結果をもたらす。首輪を狙って撃った弾丸は肩を浅く裂いただけに終わった。女はそのまま背を向けて逃げ出す。そこを狙おうとして、次元は地面に這いつくばった。ゾンビ馬人間がピーカーブースタイルで首輪を守りながらハイキック、蹴りも馬並みなのか廃屋の柱を真っ二つに叩き折っていた。
次元はすぐに立ち上がり、侍の身体に付いた糸を肉ごと吹き飛ばした。同時に後ろから襲ってきた相手から距離を取る。追撃が無かったことから同じようなゾンビだろうと当たりをつけてそれを見てギョッとした。
首の無い、馬のような体表の身体が慌てたように腕を首輪の盾にしていた。そしてその後方の廃屋の屋根にいる白尽くめの和服の女と目が合った。その瞬間、ビクリと言う音が聞こえてきそうなほど馬人間のゾンビが震えた。
判断が遅い! 次元は自分を殴りたいと思いながらも拳銃を女へと発砲した。動揺で射撃が半秒ほど遅れた。そして帽子が無い事で生まれた照準のブレが、少し前の次元のように無様に転がって女が弾丸を回避する結果をもたらす。首輪を狙って撃った弾丸は肩を浅く裂いただけに終わった。女はそのまま背を向けて逃げ出す。そこを狙おうとして、次元は地面に這いつくばった。ゾンビ馬人間がピーカーブースタイルで首輪を守りながらハイキック、蹴りも馬並みなのか廃屋の柱を真っ二つに叩き折っていた。
「マリナ、向こうに走れ!」
「は、はい!」
「は、はい!」
ゾンビ馬人間が腕をうなじを守るような形にしたことで、次元はその意図を察した。走り出したマリナを、ゾンビ馬人間は追いかける。狙いを完全にマリナに移したようだ。回避も攻撃も捨てて、マリナを捕まえるための防御に振っている。だが、それなのに追う足は遅い。そして次元へと迫るのは糸。こちらも動きはやけに遅い。そして、女の行動。遠目に見える女は明らかに慌てた様子で森の中へと消えていく。間違いなく、あの女は糸の制御よりも自分の逃走を優先している。
次元はここで勝負を決めることにした。マリナを守りながらでは今の状況でもまたジリ貧だが、タイマンに持ち込めるのならやりようはある。そのためにマリナを女とは逆方向へ逃げさせた。あとは、ゾンビを倒すだけだ。
次元はここで勝負を決めることにした。マリナを守りながらでは今の状況でもまたジリ貧だが、タイマンに持ち込めるのならやりようはある。そのためにマリナを女とは逆方向へ逃げさせた。あとは、ゾンビを倒すだけだ。
「敵さんの狙いに乗るのは癪だが、仕方ねえ。」
這ってでもマリナを追いかけていたゾンビが一転して首を守りながら次元へと向き直る。そしてそのままジリジリと迫りときおり蹴りを繰り出してきた。次元はそれを冷静に躱して、手足を撃ち抜いていく。しばらくして次元は、腕のガードの隙間から銃弾を首輪へと叩き込んだ。
「見事に逃げられたな。」
先の侍との戦いが嘘のように簡単に倒せた馬人間を見て、次元は周囲を見渡した。
途中から明らかにゾンビの動きは落ちていた。次元が放置できないギリギリの程度に襲いかかり、足止めされている間に逃げた、というところだろう。もっとも、そういう展開にしたのは次元だったが。これでマリナを守りながらだったらもっと苛烈に襲われただろうが、こちらがマリナとの合流のためにあの女の追撃に移れない状況を作ってやれば、適当なところで諦めると踏んだ。
途中から明らかにゾンビの動きは落ちていた。次元が放置できないギリギリの程度に襲いかかり、足止めされている間に逃げた、というところだろう。もっとも、そういう展開にしたのは次元だったが。これでマリナを守りながらだったらもっと苛烈に襲われただろうが、こちらがマリナとの合流のためにあの女の追撃に移れない状況を作ってやれば、適当なところで諦めると踏んだ。
「さて、ここからどうするか――」
「――それでこうなるのかよ!」
そして現在、次元はシスター・クローネからの銃撃から逃げていた。
あの後マリナを追って森を探索し、アスカの付けた傷を追った可能性を考えて次元も辿ったのだが、その傷を先に見つけたのは彼から逃げていた蜘蛛の鬼(母)であった。
次元の誤算は、蜘蛛の鬼(母)の人間性を測りちがえたことだ。
蜘蛛の鬼(母)は外見こそ成人しているが、それは鬼特有の身体変形によりそうしているだけで、中身は子供である。そんな彼女は侍のゾンビを倒された時点でパニック状態にあった。というより元々パニック状態にあったために善逸の死体だけ操って馬頭鬼の死体を操らなかったり、銃を使うという発想が無かったため、次元もマリナも無傷だったのだ。
そんな彼女が、自分を殺した鬼殺隊の死体を鬼殺隊でもないオッサンに謎の手段で無力化されたらどうなるか。もちろんパニクる。パニクった末にいつもの癖でゾンビに首を守らせ、なんとか足止めのために戦うもすっかり調子を乱され、その上またやられたのを見ると完全にパニックになった。姿も元のものに戻り、脱げかけた服を僅かに残った羞恥心で抱えて走り、そこをクローネに見つかったということである。
あの後マリナを追って森を探索し、アスカの付けた傷を追った可能性を考えて次元も辿ったのだが、その傷を先に見つけたのは彼から逃げていた蜘蛛の鬼(母)であった。
次元の誤算は、蜘蛛の鬼(母)の人間性を測りちがえたことだ。
蜘蛛の鬼(母)は外見こそ成人しているが、それは鬼特有の身体変形によりそうしているだけで、中身は子供である。そんな彼女は侍のゾンビを倒された時点でパニック状態にあった。というより元々パニック状態にあったために善逸の死体だけ操って馬頭鬼の死体を操らなかったり、銃を使うという発想が無かったため、次元もマリナも無傷だったのだ。
そんな彼女が、自分を殺した鬼殺隊の死体を鬼殺隊でもないオッサンに謎の手段で無力化されたらどうなるか。もちろんパニクる。パニクった末にいつもの癖でゾンビに首を守らせ、なんとか足止めのために戦うもすっかり調子を乱され、その上またやられたのを見ると完全にパニックになった。姿も元のものに戻り、脱げかけた服を僅かに残った羞恥心で抱えて走り、そこをクローネに見つかったということである。
(顔見た途端に半裸の幼女に悲鳴を上げられる。ダメだ、言い訳のしようがねえや。)
「待ちなさい変態!」
「あの渡辺直美足速すぎんだろ!」
「待ちなさい変態!」
「あの渡辺直美足速すぎんだろ!」
どうやら完全に自分があの幼女に乱暴したと思われているようだと、ため息も吐けずに次元は走る。
さしもの次元も、あの幼女と先の戦いの女が同一人物とまでは思い至らない。服が同じところまでは察せられたが、成人が子供になるというレベルの変装は彼の相棒であるルパンでも不可能である以上その変装は無いとした。実際、変装ではなく骨格からして変わっている以上無理も無い。
さしもの次元も、あの幼女と先の戦いの女が同一人物とまでは思い至らない。服が同じところまでは察せられたが、成人が子供になるというレベルの変装は彼の相棒であるルパンでも不可能である以上その変装は無いとした。実際、変装ではなく骨格からして変わっている以上無理も無い。
「女難の相ってのは聞いたことあっても幼女難の相なんて聞いたことねえぞ全く……うおっ!」
服を掠めた銃弾に驚く。どうやら追ってきてるのはかなりの手練だ。そんな相手に敵対視されるのは先が思いやられるが、今は走る。誤解を解く時間はない。こうしている間にもマリナがあの女に狙われているかもしれないのだから。
その女がさっきの幼女だとはまるで気づかず次元は森を駆けた。
その女がさっきの幼女だとはまるで気づかず次元は森を駆けた。
「まずいですよアスカさん。たぶんあの子は鬼です!」
「鬼でもほうっとけないよ!」
「鬼でもほうっとけないよ!」
そしてクローネを追うアスカ。速度を落として秀人の後ろに回ると、こっそり鈴鬼と話す。
アスカは鈴鬼からそれとなく話しかけられ続けていた。近くに人がいたためにアスカも無視せざるを得ず、そもそも何言ってるか聞き取れなかったが、何かあの子が危険だということはわかった。
だがそれでも、小さい子を放っとけ無い。あとなんとなくだが、さっきの男に見覚えがある。
とにかく止めなくてはならない。アスカはそう思って森を駆ける。
アスカは鈴鬼からそれとなく話しかけられ続けていた。近くに人がいたためにアスカも無視せざるを得ず、そもそも何言ってるか聞き取れなかったが、何かあの子が危険だということはわかった。
だがそれでも、小さい子を放っとけ無い。あとなんとなくだが、さっきの男に見覚えがある。
とにかく止めなくてはならない。アスカはそう思って森を駆ける。
【0200前 廃村周辺の森】
【紅月飛鳥@怪盗レッド(1) 2代目怪盗、デビューする☆の巻(怪盗レッドシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いから脱出する。
●中目標
知り合いが巻き込まれていたら合流したい。
●小目標
クローネさん達と一緒に行動する。
【目標】
●大目標
殺し合いから脱出する。
●中目標
知り合いが巻き込まれていたら合流したい。
●小目標
クローネさん達と一緒に行動する。
【鈴鬼@若おかみは小学生! PART11 花の湯温泉ストーリー(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
脱出を図る。
●中目標
自分の知る魔界の知識や集めた情報を残す。
●小目標
信頼できる人に存在を証して同行する。
【目標】
●大目標
脱出を図る。
●中目標
自分の知る魔界の知識や集めた情報を残す。
●小目標
信頼できる人に存在を証して同行する。
【シスター・クローネ@約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
優勝する
●中目標
対主催集団を作っておく
●小目標
とりあえず次元を子どもたちに引かれない範囲で攻撃しておく
【目標】
●大目標
優勝する
●中目標
対主催集団を作っておく
●小目標
とりあえず次元を子どもたちに引かれない範囲で攻撃しておく
【蜘蛛の鬼(母)@鬼滅の刃 ノベライズ~きょうだいの絆と鬼殺隊編~(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
生き延びる
●小目標
???(パニック中)
【備考】
※蜘蛛の鬼(母)が見つけた刀は、「三日月宗近@劇場版刀剣乱舞」です
【目標】
●大目標
生き延びる
●小目標
???(パニック中)
【備考】
※蜘蛛の鬼(母)が見つけた刀は、「三日月宗近@劇場版刀剣乱舞」です
【次元大介@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いからの脱出
●中目標
マリナと合流する
●小目標
この場を切り抜ける
【目標】
●大目標
殺し合いからの脱出
●中目標
マリナと合流する
●小目標
この場を切り抜ける