「うわー、またこれか……」
伊藤孝司は空を見上げて大げさなリアクションをとった。その声にはあきれ半分ウンザリ半分という色がある。一度メガネを外し、ハンカチで拭いてかけ直して、それでもまだ空が赤黒いままだと確認すると、「今回の鬼ごっこは変なところだな……」とこぼして周囲を見渡す。周りに広がる赤い霧と、火花散る空を見比べて、小走りに近くの木へと背中を預けた。
彼、孝司が命がけのゲームに巻き込まれるのはこれで三度目だ。前の時は首輪はなかったが、霧と空と主催者に見知った顔(知りたくは無いが)がいたことから、これがホンモノの殺し合いだと即座に理解する。
彼、孝司が命がけのゲームに巻き込まれるのはこれで三度目だ。前の時は首輪はなかったが、霧と空と主催者に見知った顔(知りたくは無いが)がいたことから、これがホンモノの殺し合いだと即座に理解する。
「……とりあえずかくれてみたけどこれからどうしよう……」
が、別に何か特別な力も何もないただの小六なので、理解したところでできることなど無いのだが。
そもそも彼はループしているので三度目どころの話ではない。これがもう少しなんか特別な境遇なら色々あって記憶を保ててたりするのだが、そんなもんはもちろんない。
そもそも彼はループしているので三度目どころの話ではない。これがもう少しなんか特別な境遇なら色々あって記憶を保ててたりするのだが、そんなもんはもちろんない。
「せめてルールの書いたプリントとか配ってくれないかなあ。あんな説明一回聞いただけじゃ覚えられないよ……おっと、なんだろこれ。」
前の鬼ごっこでは説明する気があるのかないのかわからないいい加減なものではあったが、いちおうはルール説明があった。黒板に気がついてたら書いてあったり店内放送で流したりとやり方は違ったが、さすがにあんな説明は説明になっていないと思う。まあでもそのうちおって放送とかあるだろう、と一人で勝手に納得していたところで、ポケットに突っ込んだ手が何かに触れる。
「えーと、なになに……『装備:切った爪コレクション" 場所:運送会社 説明:伸びた爪を爪切りで切ったもののコレクション』……うわあ、いらないわ……」
……なんでこんなもののありかをメモにして渡した? ていうかいつの間に入れた? そもそもなんでこんなもの集めた?
ツッコみたいことは多々あるが、まあ鬼のやることだしと頭を切り替える。だいたい子供を何人も誘拐するは命がけの鬼ごっこさせるはの鬼のような奴らなんだし、頭おかしいのは今に始まったことではない。
ツッコみたいことは多々あるが、まあ鬼のやることだしと頭を切り替える。だいたい子供を何人も誘拐するは命がけの鬼ごっこさせるはの鬼のような奴らなんだし、頭おかしいのは今に始まったことではない。
「あ、これに書いてある運送会社ってあそこかな。トラックいっぱい停まってるし。つまりこのメモは――」
「――どういうことなんだろう?」
なんかひらめきそうな気がしたがそんなことはなかった。
それはそれとしてとりあえず他に目的地になりそうな近場の建物もないので行ってみる。
こういうときに主人公とかだとひらめいたりするんだろうなあ、と同級生の顔を思い浮かべながらあっさりとたどり着いた。
それはそれとしてとりあえず他に目的地になりそうな近場の建物もないので行ってみる。
こういうときに主人公とかだとひらめいたりするんだろうなあ、と同級生の顔を思い浮かべながらあっさりとたどり着いた。
「あれー? なんか起こると思ったんだけどなあ。意外とボクってあんまり危ないシーンないよね。なんか脇役みたいでちょっと悲しいなあ。ボクだって命がけなのに……あ、おじゃましまーす。」
特に拠点を得ることのメリットやデメリットには考え至らずにどうでもいいことを考えながら建物の中へと入る。もちろんトラップへの警戒などしない。ちょっと聞き耳を立てて忍び足をするぐらいだ。
三度目(三度目とは言っていない)のデスゲームでも、彼は悲しいくらいに一般人であった。
三度目(三度目とは言っていない)のデスゲームでも、彼は悲しいくらいに一般人であった。
所変わって机に向けて難しい顔をしている和服の少女が一人。
着ている服装はしっかりと着付けられた紺の着物で、髪は後ろで一つ結びにされている。そしてあどけない顔立ちと身長から、彼女が十歳を過ぎたほどの年頃だとうかがえる。
そんな彼女は机の上に置かれた物をじっと見ていた。かれこれ数分はそうしている。そして散々に頭をひねり首をひねり、最後にほっぺたをつねったあと、冷や汗を流しながら呟いた。
着ている服装はしっかりと着付けられた紺の着物で、髪は後ろで一つ結びにされている。そしてあどけない顔立ちと身長から、彼女が十歳を過ぎたほどの年頃だとうかがえる。
そんな彼女は机の上に置かれた物をじっと見ていた。かれこれ数分はそうしている。そして散々に頭をひねり首をひねり、最後にほっぺたをつねったあと、冷や汗を流しながら呟いた。
「おもちゃ……だよね?」
関織子(原作版)ことおっこは、会社の事務所のような場所に平然と置かれていたショットガンを前に途方に暮れていた。
おっこはおばあちゃんのやっている春の屋という旅館の若おかみだ。小学生だてらに頑張って努めているが、さすがに銃の忘れ物というのは見たことがない。というかそもそも殺し合いに巻き込まれたことなんてない。そもそもここがどこかすらわからない。まさか自分が瞬間移動的なものをされたなど発想に至らず、おろおろと事務所内をうろつく。勝手に入ってしまって申し訳ないのと、勝手に出ていっていいかわからず右往左往。
いちおう携帯電話も持っているのだが、極度の機械音痴の彼女はそれを使うという発想も無い。まああったところでどこに通じるというわけでもないのだが。
やがてらちが明かぬと壁や窓まで調べ始める。そして彼女はその時初めて外の異常に気づいた。
いちおう携帯電話も持っているのだが、極度の機械音痴の彼女はそれを使うという発想も無い。まああったところでどこに通じるというわけでもないのだが。
やがてらちが明かぬと壁や窓まで調べ始める。そして彼女はその時初めて外の異常に気づいた。
「な、なにこの赤い霧!? スモークかしら? え、空も!?」
更なる困惑をもたらす情報に触れて、より一層パニックになる。こんな経験は初めてだ。ますます自分が見ているものが夢にしか思えずまたほっぺたをつねる。かわらず痛い。一体何がどうなっているんだろう……そう頭を悩ますところに更なる情報が来た。人影だ。
「あれー? なんか起こると思ったんだけどなあ。意外とボクってあんまり危ないシーンないよね。なんか脇役みたいでちょっと悲しいなあ。ボクだって命がけなのに……あ、おじゃましまーす。」
続いて声も聞こえてきた。窓ガラス越しでも真下の独り言って聞こえるんだなあ、などと変なところに感心するもすぐに思い直す。せっかく人を見つけたんだ、話を聞かなくては。
「すみま――うお!? 日本刀!? え、これホンモノ? うわスゴイホンモノだこれ!」
小走りに部屋のドアを開けようとして、聞こえてきた声にドアノブを回そうとした手を止める。
え、日本刀?
刀?
え、日本刀?
刀?
「おぉ……なんとなくこれからは、すごい『何か』を感じる。そんな『凄み』を感じる一品だ……!」
(な、なんで武器なんて持ってるんだろう……)
「こっちには拳銃!? なにここボーナスステージ!? スゴいなこれって、まるで…………いい例えが出てこないけれどとにかくスゴイな!」
「じゅ、銃!? あ!」
「だ、誰ですか!」
(な、なんで武器なんて持ってるんだろう……)
「こっちには拳銃!? なにここボーナスステージ!? スゴいなこれって、まるで…………いい例えが出てこないけれどとにかくスゴイな!」
「じゅ、銃!? あ!」
「だ、誰ですか!」
しまった! 大声を出してしまった!
どうしようどうしよう大変なことになってしまった何か身を守れるものは……あった!
どうしようどうしよう大変なことになってしまった何か身を守れるものは……あった!
「この部屋か! よし、手を挙げ「う、動かないでください!」え、ちょ、ショットガン!?」
ドアが開かれた。見知らぬ少年の顔が見えた。その鼻先に、おっこはショットガンの銃口を突きつけていた。
「――殺さないでください。」
そう言って孝司は武器を捨てると両手を上に挙げた。
ちなみに日本刀はただの日本刀だった。
「鬼ごっこ……?」
「そう、前に二回巻き込まれてさ、あのツノウサギっていうツノの生えたウサギに。」
「そう、前に二回巻き込まれてさ、あのツノウサギっていうツノの生えたウサギに。」
数分後、おっこは持ち前のコミュ力と明るさで孝司と打ち解けていた。簡単に自己紹介をすれば、孝司が前に似たようなことをした経験があるといい、あっさりと鬼ごっこについて話は移る。
「鬼だからなのか鬼ごっこさせられたんだよね。一回目が牛の鬼、牛頭鬼っていうのがボスで、二回目が馬の鬼、馬頭鬼ってやつ。なんか有名な鬼らしいんだけど、聞いたことある?」
「ないわ。それって本当に鬼、なのかな?」
「よくわかんないけど二本足で歩いて角生えてて食べようとしてくるんだから鬼でいいんじゃない?」
「ないわ。それって本当に鬼、なのかな?」
「よくわかんないけど二本足で歩いて角生えてて食べようとしてくるんだから鬼でいいんじゃない?」
内容の割にあんまり真剣さが感じられない表情と口調だが、おっこは孝司が嘘を言っているようには思えなかった。しかしおっこのよく知る鬼はイタズラこそすれどそんなひどい真似は絶対にしない鬼だ。なので孝司の言っていることに引っかかりを感じてはいのだが、結局困惑が深まるばかりだ。
なによりこの首輪とか殺し合いについては、孝司の口から何一つ情報を得られなかった。今の所無関係なデスゲームの話を聞かされただけである。
というわけで、孝司が知る鬼の知識と聞き出した情報を比べての考察はあっさりと終わった。元々二人とも頭を使うのはあまり得意ではない。体育が得意科目のおっこはもちろん、読書は好きだが殺し合いの考察などしたことのない孝司も色々考えたがわざわざ口に出すほどの考えはない。残念ながら彼はコメディリリーフである。
なによりこの首輪とか殺し合いについては、孝司の口から何一つ情報を得られなかった。今の所無関係なデスゲームの話を聞かされただけである。
というわけで、孝司が知る鬼の知識と聞き出した情報を比べての考察はあっさりと終わった。元々二人とも頭を使うのはあまり得意ではない。体育が得意科目のおっこはもちろん、読書は好きだが殺し合いの考察などしたことのない孝司も色々考えたがわざわざ口に出すほどの考えはない。残念ながら彼はコメディリリーフである。
「ま、そういうのはもっと賢い誰かがなんとかしてくれるよ。ぼくらはできることからやろう。」
おっこの持ってきたお茶菓子を食べつつそう言うと、孝司は大きく伸びをする。その姿に安心と不安のどちらを感じればいいかわからず答えに窮するおっこをよそに、デスクや棚を漁って雑貨を集め始めた。
「なにしてるの?」
「アイテム収集。前回もスーパーマーケットで商品ゲットたりお店のカートで爆走したんだ。」
「それって泥棒なんじゃ、いいのかな?」
「命の危機だし多少はね? 銃も落ちてるしご自由にどうぞ全品百パーセントオフってやつだよ。」
「でも、集めている間にみんなに何かあったら……」
「心配だよね。でも、地図も何もないのに突っ走って『あ! ここ重要そうだ!』なんていくと危ない目に合う。怪我するかもしれないし、知り合いが自分のことを聞いたときに不安になって危ないところに呼び寄せちゃうかもしれない。それに、運良く見つけたけど怪我してるのに救急グッズありません、とかもありそうじゃない? とりあえず包帯ぐらいは持っていきたいよね。」
「アイテム収集。前回もスーパーマーケットで商品ゲットたりお店のカートで爆走したんだ。」
「それって泥棒なんじゃ、いいのかな?」
「命の危機だし多少はね? 銃も落ちてるしご自由にどうぞ全品百パーセントオフってやつだよ。」
「でも、集めている間にみんなに何かあったら……」
「心配だよね。でも、地図も何もないのに突っ走って『あ! ここ重要そうだ!』なんていくと危ない目に合う。怪我するかもしれないし、知り合いが自分のことを聞いたときに不安になって危ないところに呼び寄せちゃうかもしれない。それに、運良く見つけたけど怪我してるのに救急グッズありません、とかもありそうじゃない? とりあえず包帯ぐらいは持っていきたいよね。」
孝司はポイポイと雑貨を集めていく。言っていることも正しいっぽい。正しいと思いたい。
「迷子になったときはそこから動かない、動かないといけないなら一番近くの目印に行く。これが正解。」
ガサリと音を立てて孝司はポケットからメモを取り出しておっこに見せた。
「だからここを目指したんだ。道の真ん中でずっと立ってるわけにもいかないし、だったら安全そうな目印のある場所に行こうって思ったんだ。もしかしたら他の鬼ごっこの参加者も同じメモを持ってるかもしれないし、切った爪のコレクションが置いてある所になんて危ない人とか鬼とか来なさそうだしね。」
「そのメモはなに?」
「あれ? 持ってないの? なんか気がついたらポケットにあったんだけど。」
「和服だからポケットは、そうだもしかして──あった!」
「どこから出したの?」
「そのメモはなに?」
「あれ? 持ってないの? なんか気がついたらポケットにあったんだけど。」
「和服だからポケットは、そうだもしかして──あった!」
「どこから出したの?」
孝司の言葉に慌てて身体を調べると確かにあった。全く同じ内容だ。
(最初は図太いだけの人だと思ったけど、孝司くんは冷静な人だわ。)
第一印象が低めだからか、振り幅で高い評価をおっこからもらう。
そんなことに気づかず、孝司は『女の子とペアなんだし吊橋効果とか起こってなんか覚醒展開とか起らないかな』と思いながら家捜しを続けた。
そんなことに気づかず、孝司は『女の子とペアなんだし吊橋効果とか起こってなんか覚醒展開とか起らないかな』と思いながら家捜しを続けた。
【0055 郊外・運送会社】
【関織子@若おかみは小学生! PART13 花の湯温泉ストーリー (若おかみは小学生!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
よくわからないけど家に帰りたい。
●小目標
孝司くんに着いていく。
【目標】
●大目標
よくわからないけど家に帰りたい。
●小目標
孝司くんに着いていく。