「また銃の音か。」
「なあ、やっぱり街から出ないか?」
「音がしないのは向こうの畑の方だぞ。」
「バイクで突っ切れば……撃たれそうだな。マシンガンみたいな音も聞こえるし。クソッ! どこに逃げればいいんだよ。」
「なあ、やっぱり街から出ないか?」
「音がしないのは向こうの畑の方だぞ。」
「バイクで突っ切れば……撃たれそうだな。マシンガンみたいな音も聞こえるし。クソッ! どこに逃げればいいんだよ。」
宇野秀明は助けてもらったときのまま竜人に抱きつきながら悪態をついた。
謎の少女、ビーストに襲われていたところをバイクで通りかかった彼に拾われてから無人の街を走ること二十分三十分。その間二人は安全な場所を探していたものの、四方八方から聞こえる銃声にバイクを停めることができないでいた。散発的に、時に連続して聞こえるそれは、素人からしても明らかに何種類もの音がある。つまりいろいろな種類の銃を何人もが持って打ち合っている、と見ていいだろう。たった一時間もしないうちからそんなに殺し合いに乗った奴が多いのかと二人で話しながら、なんとか安全そうな場所を探す。だが頑丈そうな建物は鍵がかかっていたり外から見えやすかったりといまいち入りにくい。かと言って中が見えない建物も入るのがはばかられる。結局バイクを走らせて銃の狙いをつけにくくすることしか二人(というか運転している竜人)にはできなかった。
だがそれも「ぴしぃ!」と割れた近くの窓ガラスによって終わった。
謎の少女、ビーストに襲われていたところをバイクで通りかかった彼に拾われてから無人の街を走ること二十分三十分。その間二人は安全な場所を探していたものの、四方八方から聞こえる銃声にバイクを停めることができないでいた。散発的に、時に連続して聞こえるそれは、素人からしても明らかに何種類もの音がある。つまりいろいろな種類の銃を何人もが持って打ち合っている、と見ていいだろう。たった一時間もしないうちからそんなに殺し合いに乗った奴が多いのかと二人で話しながら、なんとか安全そうな場所を探す。だが頑丈そうな建物は鍵がかかっていたり外から見えやすかったりといまいち入りにくい。かと言って中が見えない建物も入るのがはばかられる。結局バイクを走らせて銃の狙いをつけにくくすることしか二人(というか運転している竜人)にはできなかった。
だがそれも「ぴしぃ!」と割れた近くの窓ガラスによって終わった。
「撃ってきやがったぞ!」
「どこからだ!」
「どこからだ!」
ついいましがた通り過ぎた近くの建物の窓ガラスが唐突に砕ける。理由は明白、銃弾が貫いたのだ。
「プランBでいこう!」
「わかった。」
「わかった。」
プランB。それは二人がこれまでのツーリングの中で決めた作戦だ。
二人が使える道具は宇野の拳銃と竜人のバイクの二つのみ。
これだけでマーダーから襲われた時に取れる行動は、二つ。
一つはバイクの速度を活かして逃げる。撃ってきた場所が判ればそちらに向けて宇野が銃撃し、怯ませて逃げる。だがそのためには敵の位置がわからなければならない。もしそうでないのなら、走行中のバイクを狙ってくるような敵に無防備な姿を数秒とはいえ晒すことになる。それはあまり分の良い賭けとは言えない。
ならばもう一つは。
二人が使える道具は宇野の拳銃と竜人のバイクの二つのみ。
これだけでマーダーから襲われた時に取れる行動は、二つ。
一つはバイクの速度を活かして逃げる。撃ってきた場所が判ればそちらに向けて宇野が銃撃し、怯ませて逃げる。だがそのためには敵の位置がわからなければならない。もしそうでないのなら、走行中のバイクを狙ってくるような敵に無防備な姿を数秒とはいえ晒すことになる。それはあまり分の良い賭けとは言えない。
ならばもう一つは。
「捕まってろよ。」
「とっくに捕まってます!」
「とっくに捕まってます!」
バ リ ィ ン !
コンビニの窓ガラスが砕ける。
プランB、それはバイクに乗ったまま建物に突っ込むこと。
降りる時の隙を無くし、仮に建物の中に敵がいても奇襲できる。
鍛えている竜人だからできる荒っぽいやり方だが、功を奏したのか、追撃は来ない。それどころかコンビニ内の床にはライフルが落ちている。
「急げ」とそれを片手に抱えてもう片方の手で宇野を抱えると、竜人はスタッフルームへと踏み込んだ。
敵はいない。いわゆる普通のコンビニだ。ポツンと数本置かれていたペットボトルの一つを手に取る。二三口飲むと、残りは頭から浴びた。ミネラルウォーターが髪の毛に引っかかったガラス片を洗い流していく。
プランB、それはバイクに乗ったまま建物に突っ込むこと。
降りる時の隙を無くし、仮に建物の中に敵がいても奇襲できる。
鍛えている竜人だからできる荒っぽいやり方だが、功を奏したのか、追撃は来ない。それどころかコンビニ内の床にはライフルが落ちている。
「急げ」とそれを片手に抱えてもう片方の手で宇野を抱えると、竜人はスタッフルームへと踏み込んだ。
敵はいない。いわゆる普通のコンビニだ。ポツンと数本置かれていたペットボトルの一つを手に取る。二三口飲むと、残りは頭から浴びた。ミネラルウォーターが髪の毛に引っかかったガラス片を洗い流していく。
「竜人さん、あれ。」
宇野が炭酸にむせながら指を指す。そこには血痕。互いの身体を見る、までもなくそれが自分たちのものではないと気づく。血の位置は奥まったところ、裏手の出入り口に続いている。どうやら先客がいたようだ。それと同時に、上から銃声が聞こえる。
「このマンションの上から「ダァン!」」
「動かないで。」
「動かないで。」
そして近くのペットボトルが吹き飛んだ。茶色いお茶が二人に吹きかかる。
血痕の先の出入り口には、一人の少女がライフルを構えていた。
血痕の先の出入り口には、一人の少女がライフルを構えていた。
ピンポンポン。
ピンポンポン。
ピンポンピンポンピンポンポン。
ガチャ。
ピンポンポン。
ピンポンピンポンピンポンポン。
ガチャ。
「……誰だそいつら?」
「リュードとヒデアキだって。流れ弾に驚いて下のコンビニに突っ込んだみたい。」
「……ああ、バイク運転してたやつか。手榴弾じゃなかったんだな。」
「これ、ガーゼに使えそうなもの。そっちは?」
「相変わらずだ。アイツらバカスカ撃ってきやがる。」
「わかった。二人とも、アレがツバサ。こっちがセイジ。さあ手伝って。」
「よろしく(なんでインターホンを三三七拍子で鳴らしたんだ)。」
(たぶん合図とかそういうのなんだろうな。)
「リュードとヒデアキだって。流れ弾に驚いて下のコンビニに突っ込んだみたい。」
「……ああ、バイク運転してたやつか。手榴弾じゃなかったんだな。」
「これ、ガーゼに使えそうなもの。そっちは?」
「相変わらずだ。アイツらバカスカ撃ってきやがる。」
「わかった。二人とも、アレがツバサ。こっちがセイジ。さあ手伝って。」
「よろしく(なんでインターホンを三三七拍子で鳴らしたんだ)。」
(たぶん合図とかそういうのなんだろうな。)
それから数分後、二人はイチカと名乗った少女に連れられてコンビニの上のマンションの一室へと案内された。
銃口を向けられ、ときおり威嚇射撃を受けながら答えた尋問の結果、ビーストに襲われた部分はともかくそれ以外のマーダーから襲われてバイクで逃げていたら銃撃に巻き込まれたという話は信用されて、互いに互いへの敵意はないことを確認した。そして詳しい話を聞こうとして、人を待たせているというイチカに連れられて今に至る。その待たせている人こそが血痕を出した人間であると、二人は部屋の玄関に寝かされた少年を見て理解した。
銃口を向けられ、ときおり威嚇射撃を受けながら答えた尋問の結果、ビーストに襲われた部分はともかくそれ以外のマーダーから襲われてバイクで逃げていたら銃撃に巻き込まれたという話は信用されて、互いに互いへの敵意はないことを確認した。そして詳しい話を聞こうとして、人を待たせているというイチカに連れられて今に至る。その待たせている人こそが血痕を出した人間であると、二人は部屋の玄関に寝かされた少年を見て理解した。
「コイツが?」
「そう。このマンションの前の道を歩いてたらいきなり撃たれたんだって。わたしやアンタたちと一緒よ。アイツらみさかいなしに撃ってくる。ここ抑えてて。」
「死んでる、のか?」
「まだ生きてるでしょ! だから助けてるんじゃない! そこテープで止めて!」
「わ、悪い……こうですか?」
「だが……そいつは多分、もうダメだ。」
「ハァ!? おいあんた! ふざけたこと言ってんじゃ……」
「やめろイチカ! リュードも!」
「そいつの撃たれた場所をもう一度よく見せてくれ……やっぱりな、腎臓だ。」
「なんでわかる?」
「キックやってる。講習会で習った。腎臓は血管が多い。直ぐに病院に連れてかなきゃ助からない。」
「救急車なら何度も呼んでる! 警察も! でもつながらないのよ!」
「だろうな。警察がいるならこんなことにはならねえよ。」
「そう。このマンションの前の道を歩いてたらいきなり撃たれたんだって。わたしやアンタたちと一緒よ。アイツらみさかいなしに撃ってくる。ここ抑えてて。」
「死んでる、のか?」
「まだ生きてるでしょ! だから助けてるんじゃない! そこテープで止めて!」
「わ、悪い……こうですか?」
「だが……そいつは多分、もうダメだ。」
「ハァ!? おいあんた! ふざけたこと言ってんじゃ……」
「やめろイチカ! リュードも!」
「そいつの撃たれた場所をもう一度よく見せてくれ……やっぱりな、腎臓だ。」
「なんでわかる?」
「キックやってる。講習会で習った。腎臓は血管が多い。直ぐに病院に連れてかなきゃ助からない。」
「救急車なら何度も呼んでる! 警察も! でもつながらないのよ!」
「だろうな。警察がいるならこんなことにはならねえよ。」
言い争う竜人とイチカを前に、宇野は困惑していた。
自分たちと同じように突然撃たれたらしい、ろくに名前も知らない少年、一歩間違えたら自分たちもそうなっていた。
そしてその少年と同じように撃たれて、同じように逃げ込んだコンビニで少年を見つけて、助けたイチカ。そんな二人を受け入れた、ツバサ? 人間関係も前後の関係もわからない。
ただ一つわかるのは、あのシャブキメコスプレイヤーのような危険人物が他にもいて、そのせいで人が一人死にかけている、というとだ。
自分たちと同じように突然撃たれたらしい、ろくに名前も知らない少年、一歩間違えたら自分たちもそうなっていた。
そしてその少年と同じように撃たれて、同じように逃げ込んだコンビニで少年を見つけて、助けたイチカ。そんな二人を受け入れた、ツバサ? 人間関係も前後の関係もわからない。
ただ一つわかるのは、あのシャブキメコスプレイヤーのような危険人物が他にもいて、そのせいで人が一人死にかけている、というとだ。
「なんだよこれ……なんなんだよ……もう意味わかんねえよ……」
「ヒデアキ! ヒデアキ!! 銃持ってんなら手伝え! 位置がバレた! 撃ち返さないとヤバい!」
「ヒデアキ! ヒデアキ!! 銃持ってんなら手伝え! 位置がバレた! 撃ち返さないとヤバい!」
ツバサ、と名乗った少年の声が遠くで聞こえる。宇野は抱えていた頭はそのままに、目を部屋の奥へとやった。カウンターらしきところには、雑貨やら何やらが積まれて、その切れ目には空薬莢らしきものが点々としている。少年は銃だけカウンターから出すと無茶苦茶な体勢で引き金を引いていた。撃たれた弾丸は部屋の中の天井や壁に穴を開ける。他の銃声がした。少年が出していた銃の近くに積まれていたフライパンが吹き飛び、少年は慌てた感じで床に伏せた。
(どうすりゃいいんだよこんなの――)
広がる困惑の中宇野は、だが熱と衝撃を感じて意識を手放した。
「くっ……爆弾……か……?」
宇野が意識を飛ばす一方で、竜人は比較的に状況を理解していた。
イチカと睨みあいながらも一応セイジという少年に応急手当をしていたところに、爆発が起こった。直撃ではないということは今生きていることから理解できるが、どうやら相当近くで食らったようだ。
とにもかくにも逃げなければ。さっきから撃ってきたやつらがやったのかは知らないが、明確に攻撃を受けている。
竜人は宇野とイチカとセイジを見た。そのまま何秒か固まる。そして一度目を閉じて深く息を吐くと、肩から提げていたライフルを外して片手にイチカを、もう片手に宇野を担いだ。
イチカと睨みあいながらも一応セイジという少年に応急手当をしていたところに、爆発が起こった。直撃ではないということは今生きていることから理解できるが、どうやら相当近くで食らったようだ。
とにもかくにも逃げなければ。さっきから撃ってきたやつらがやったのかは知らないが、明確に攻撃を受けている。
竜人は宇野とイチカとセイジを見た。そのまま何秒か固まる。そして一度目を閉じて深く息を吐くと、肩から提げていたライフルを外して片手にイチカを、もう片手に宇野を担いだ。
「悪いが、お前は後回しだ……何か、言うことあるか。」
「同級生が……巻き込まれてるかも……しれないんです……あの、髪、茜崎さん……」
「……わかった。」
「同級生が……巻き込まれてるかも……しれないんです……あの、髪、茜崎さん……」
「……わかった。」
うずくまる体勢だった自分たちよりも寝転がる体勢だったセイジの方が爆発の影響は少なかったようだ。だがそれでも優先順位は変わらない。おそらくセイジは助からない。そもそもここから動かせない。
竜人は今まで言わなかったが、コンビニからここまでの出血は相当なものだった。イチカかあるいはイチカとツバサの二人か、とにかく安全な場所まで運ぼうとしたために完全に傷が開いてしまっていたようだった。見えている血であれなのだから、腹の中は大惨事だろう。
だから見捨てる。そう決めた竜人の片手から重さが消えた。
横を見る。頭から血を流しながらもしっかりとした足取りでツバサが立っていた。
竜人は今まで言わなかったが、コンビニからここまでの出血は相当なものだった。イチカかあるいはイチカとツバサの二人か、とにかく安全な場所まで運ぼうとしたために完全に傷が開いてしまっていたようだった。見えている血であれなのだから、腹の中は大惨事だろう。
だから見捨てる。そう決めた竜人の片手から重さが消えた。
横を見る。頭から血を流しながらもしっかりとした足取りでツバサが立っていた。
「イチカは持つ。一人で二人は無理だろ。」
「……いいのか?」
「当たり前だろ。」
「そうじゃない。コイツだ。」
「……いいのか?」
「当たり前だろ。」
「そうじゃない。コイツだ。」
竜人は首だけでセイジを指す。ツバサは目を伏せた。
「動かしたら、持たないだろ。」
「わかってたのか。なら、手当てしても……」
「ああ、無理だったろうな。先に行くぜ。」
「わかってたのか。なら、手当てしても……」
「ああ、無理だったろうな。先に行くぜ。」
ツバサはそう言って玄関を開けると、部屋から出ていった。間もなくしてエレベーターの開く音が聞こえる。竜人が玄関からやっと出た頃には、エレベーターは一階へと降りていた。と思ったら、表示板に上向きの矢印が出る。降りたあとでツバサが折り返させたのだろう。
「変なところでマメだな……」
後ろから漂ってくる焦げ臭い匂いと、次第に勢いを増す黒煙に急かされながら、なんとか宇野を抱えてエレベーターに転がり込むと一回のボタンを押す。どうやら自分の想像よりも相当ダメージを負っていたようだ。宇野より大柄なイチカを抱えながら歩いたツバサよりもおぼつかない足取りは、自分が気絶していないだけで宇野と大差ない衝撃を受けていたのだとわからされた。
ガァン!
また銃声が聞こえた。今度のは聞き慣れない種類のだ。位置は、下から。
まさか、と思う。やられた、とも思った。なんとなくだがもう展開が読める。エレベーターのドアが開く。
ツバサ、と声が出なかった。
エレベーターを出て道に面した通路に出る曲がり角。そこで頭を吹き飛ばされたツバサの死体が転がっていた。
ガァン!
また銃声が聞こえた。今度のは聞き慣れない種類のだ。位置は、下から。
まさか、と思う。やられた、とも思った。なんとなくだがもう展開が読める。エレベーターのドアが開く。
ツバサ、と声が出なかった。
エレベーターを出て道に面した通路に出る曲がり角。そこで頭を吹き飛ばされたツバサの死体が転がっていた。
時を戻そう。
「あったよ! RPGが!」
「「「でかした!」」」
「「「でかした!」」」
ツバサたちと銃撃戦を繰り広げていたアキラ、マキト、リョウタロウの三人は、歓声を上げてゲンを迎えた。
民家が初期位置だったアキラが近くを通りがかる同学年ぐらいの男子に声をかけて集まった三人は、目下自分たちのいる民家に向けて隣のマンションから銃を乱射してくる謎の敵と戦っていた。
なぜ自分たちが撃たれているのか。なぜ民家に銃がやたらあるのか。わからないことだらけだが、四人全員お互いに情報を持っていないが武器はあると確認しあえば、必然的に銃を撃ち返す流れになっていた。だって撃ち返さないと怖いもん。
しかし彼我の戦力差は歴然としていた。あっちが連射の効く銃なのに対しこちらは拳銃が十丁ほど。部屋数が多い割に一部屋一部屋が小さい間取りのせいでそんなことになっていたのだが、彼らにそれを知るよしはない。わかるのはこのままなら撃ち負ける、ということだった。
では当然逃げようという話になるのだが、あいにくマンションから民家を盾にして脱出できるルートが無かった。敵は高所から撃ち下ろしてくるのに、悠長に塀を乗り越えていたらパララララとやられてしまうのは目に見えている。かと言って塀の切れ目はマンションの真ん前。まさしく逃げ場ゼロという有様だ。
そこに現れたのが、ゲンだった。
元々彼は街で見かけた同級生を探していたのだが、マンションの敵から銃撃を受けてアキラの横の倉庫に避難したのだ。
そして彼はそこで起死回生のアイテムを見つけた。
RPG。いわゆるロケランである。
後はお隣さん同士で情報交換し、撃ってきてるっぽいマンションの一室に向けて撃つだけである。
民家が初期位置だったアキラが近くを通りがかる同学年ぐらいの男子に声をかけて集まった三人は、目下自分たちのいる民家に向けて隣のマンションから銃を乱射してくる謎の敵と戦っていた。
なぜ自分たちが撃たれているのか。なぜ民家に銃がやたらあるのか。わからないことだらけだが、四人全員お互いに情報を持っていないが武器はあると確認しあえば、必然的に銃を撃ち返す流れになっていた。だって撃ち返さないと怖いもん。
しかし彼我の戦力差は歴然としていた。あっちが連射の効く銃なのに対しこちらは拳銃が十丁ほど。部屋数が多い割に一部屋一部屋が小さい間取りのせいでそんなことになっていたのだが、彼らにそれを知るよしはない。わかるのはこのままなら撃ち負ける、ということだった。
では当然逃げようという話になるのだが、あいにくマンションから民家を盾にして脱出できるルートが無かった。敵は高所から撃ち下ろしてくるのに、悠長に塀を乗り越えていたらパララララとやられてしまうのは目に見えている。かと言って塀の切れ目はマンションの真ん前。まさしく逃げ場ゼロという有様だ。
そこに現れたのが、ゲンだった。
元々彼は街で見かけた同級生を探していたのだが、マンションの敵から銃撃を受けてアキラの横の倉庫に避難したのだ。
そして彼はそこで起死回生のアイテムを見つけた。
RPG。いわゆるロケランである。
後はお隣さん同士で情報交換し、撃ってきてるっぽいマンションの一室に向けて撃つだけである。
「よし、今のうちに逃げるぞ。」
「ハシゴの用意できたぞ。」
「キャタツだろ。」
「もっとホンシツを見ようよ。」
「いいから早く!」
「ハシゴの用意できたぞ。」
「キャタツだろ。」
「もっとホンシツを見ようよ。」
「いいから早く!」
民家の塀に立て掛けると、三人は一気に登る。銃撃は来ない。ゲンは一応直撃しないように(そして普通に狙いがずれて)目標とは別の部屋を攻撃したが、狙い通り相手を怯ませることには成功したようだ。そして四人合流すると、更に隣の民家に身を潜める。そこに一発の銃声が響いた。ガァン!
「うそだろ、まだやる気なの?」
「こっちはもう弾無いぞ。」
「この家にも銃落ちてないか?」
「それより逃げよう! ここからならさっきの部屋からは見えないはずだ。」
「こっちはもう弾無いぞ。」
「この家にも銃落ちてないか?」
「それより逃げよう! ここからならさっきの部屋からは見えないはずだ。」
ゲンの言葉を受けて、四人はヘトヘトな体に鞭打って走り出す。幸いこの民家の玄関はマンションから死角であり、道の端を進めば安全に戦場から離れられそうだ。
なによりゲンは彼の同級生、小林聖司が気になっていた。赤い霧もありちゃんと確認できたわけではないが、彼は銃撃されていたような気がする。マシンガンのような銃声が、彼の背中をぶち抜いた。
ゲンは思う。あの時直ぐに聖司を助けに行っていれば。銃声にビビらずに走っていれば、彼を見失わなかったのに。
ゲンは知らない。彼が撃ったRPGによる火災が今まさにセイジこと小林聖司の命を奪っていることに。
ゲンは知らない。聖司を撃ったのもアキラに銃撃を加えたのもそもそもマンションの人間たちに銃撃を加えたのも、ここにはいないトト子が乱射した銃弾の流れ弾だったことに。
なによりゲンは彼の同級生、小林聖司が気になっていた。赤い霧もありちゃんと確認できたわけではないが、彼は銃撃されていたような気がする。マシンガンのような銃声が、彼の背中をぶち抜いた。
ゲンは思う。あの時直ぐに聖司を助けに行っていれば。銃声にビビらずに走っていれば、彼を見失わなかったのに。
ゲンは知らない。彼が撃ったRPGによる火災が今まさにセイジこと小林聖司の命を奪っていることに。
ゲンは知らない。聖司を撃ったのもアキラに銃撃を加えたのもそもそもマンションの人間たちに銃撃を加えたのも、ここにはいないトト子が乱射した銃弾の流れ弾だったことに。
「なんで撃った!」
「撃たなきゃ撃たれてましたよ山田さん! 視たでしょ! ライフル持ってたの!」
「でも!――ぐっ!」
「ほら、その傷だって! アイツらが撃ったんですよ!」
「撃たなきゃ撃たれてましたよ山田さん! 視たでしょ! ライフル持ってたの!」
「でも!――ぐっ!」
「ほら、その傷だって! アイツらが撃ったんですよ!」
前原圭一はショットガンを取り落として慌ててフラついた山田奈緒子を支える。そしてすぐにショットガンを拾い直して移動し始めた。
圭一が山田と会ったのはゲーム開始直後であった。最初は警戒していたものの、山田の美人さと残念さに彼は割と警戒を緩める。だが何よりも、目の前で山田が撃たれたことが、彼女への警戒感を減じさせていた。
始まって、もとい出会って十五分ほどだろうか。未だ山田をまるで殺人鬼でも見るような目で見ていた圭一の前で、彼女は何者か――彼の中ではマンションの上の方にいる奴ということになっている――に撃たれた。
不幸中の幸いにして撃たれたのは太腿の表面、かすり傷程度のものだ。だがそれでも、実際に目の前で人が撃たれて助けを求められたら、ここは人殺しが平然にいる場だと理解する。そして同時に、山田がそれを是としないことも理解する。殺し合いに乗っていたら銃で撃たれることは無いからだ。
なぜそうなるのか、と言われれば本人にも答えられない。だがともかく、圭一の中で山田以外は殺人鬼という『視点』が出来上がった。
圭一が山田と会ったのはゲーム開始直後であった。最初は警戒していたものの、山田の美人さと残念さに彼は割と警戒を緩める。だが何よりも、目の前で山田が撃たれたことが、彼女への警戒感を減じさせていた。
始まって、もとい出会って十五分ほどだろうか。未だ山田をまるで殺人鬼でも見るような目で見ていた圭一の前で、彼女は何者か――彼の中ではマンションの上の方にいる奴ということになっている――に撃たれた。
不幸中の幸いにして撃たれたのは太腿の表面、かすり傷程度のものだ。だがそれでも、実際に目の前で人が撃たれて助けを求められたら、ここは人殺しが平然にいる場だと理解する。そして同時に、山田がそれを是としないことも理解する。殺し合いに乗っていたら銃で撃たれることは無いからだ。
なぜそうなるのか、と言われれば本人にも答えられない。だがともかく、圭一の中で山田以外は殺人鬼という『視点』が出来上がった。
(なんなんだよ殺し合いって! どうしてそんな簡単に殺し合うんだよ!)
圭一は山田に肩を貸して歩く。
この数十分、断続的に銃声が聞こえてくる。最初は自分の幻聴かと思ったが、目の前で撃たれた人間がいる以上これは現実である。それに、どうだろう。近くの道には血痕が点々とし、マンションからは銃声が大きく響き、その下のコンビニにはバイクが突っ込み、少しして上の方で爆発が起きる。これが殺し合いでなくてなんなのか。
だから圭一は撃った。ライフルを片手に、人質らしき少女を抱えて逃走を図る殺人鬼を。驚くべきことに、犯人はこどもだった。彼と同じ部活のメンバーである、北条沙都子や古手梨花ぐらいの。そして自分もエアガンで女子を撃ったことがあるがゆえにわかる。実銃で殺しにかかりにくるような奴は自分たちとは一線も二線も越えた存在であると。
そして、同時に思う。もしかしたらこの殺し合いは、そういう一線を越えた人間を集めて行われているのではないかと。そういえばオープニングで和服で刀を持ってたヤンキーがいた。その後出てきたのもリーゼントのヤンキーだ。ということはこの殺し合いはヤンキーや前科者を集めたものだろうか?
この数十分、断続的に銃声が聞こえてくる。最初は自分の幻聴かと思ったが、目の前で撃たれた人間がいる以上これは現実である。それに、どうだろう。近くの道には血痕が点々とし、マンションからは銃声が大きく響き、その下のコンビニにはバイクが突っ込み、少しして上の方で爆発が起きる。これが殺し合いでなくてなんなのか。
だから圭一は撃った。ライフルを片手に、人質らしき少女を抱えて逃走を図る殺人鬼を。驚くべきことに、犯人はこどもだった。彼と同じ部活のメンバーである、北条沙都子や古手梨花ぐらいの。そして自分もエアガンで女子を撃ったことがあるがゆえにわかる。実銃で殺しにかかりにくるような奴は自分たちとは一線も二線も越えた存在であると。
そして、同時に思う。もしかしたらこの殺し合いは、そういう一線を越えた人間を集めて行われているのではないかと。そういえばオープニングで和服で刀を持ってたヤンキーがいた。その後出てきたのもリーゼントのヤンキーだ。ということはこの殺し合いはヤンキーや前科者を集めたものだろうか?
(待てよ、山田さんがそんな風に見えるか? クールだ、クールになれ、前原圭一。)
圭一は、傍らの山田が自分に向ける視線に気づかずに歩く。
圭一は知らない。山田が撃たれたのはツバサの流れ弾の跳弾であり、単なる偶然であることを。
圭一は知らない。この街には他にも何人も流れ弾で身の危険を感じ、銃を使い、流れ弾を生み出す側になった人物が多くいることを。
圭一は知らない。まさに自分自身が、それであることを。
圭一は知らない。山田が撃たれたのはツバサの流れ弾の跳弾であり、単なる偶然であることを。
圭一は知らない。この街には他にも何人も流れ弾で身の危険を感じ、銃を使い、流れ弾を生み出す側になった人物が多くいることを。
圭一は知らない。まさに自分自身が、それであることを。
【0045 住宅地】
【岬涼太郎@無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄(無限×悪夢シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
生き残る
●小目標
四人で安全なところに行って話し合う
【目標】
●大目標
生き残る
●小目標
四人で安全なところに行って話し合う
【前原圭一@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
生き残る
●中目標
敵(山田以外の参加者)と出会ったら、戦う……?
●小目標
山田と安全な場所に移動する
【目標】
●大目標
生き残る
●中目標
敵(山田以外の参加者)と出会ったら、戦う……?
●小目標
山田と安全な場所に移動する
【脱落】
【新庄ツバサ@生き残りゲーム ラストサバイバル 最後まで歩けるのは誰だ!?(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【小林聖司@IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。(天才推理 IQ探偵シリーズ)@カラフル文庫】
【小林聖司@IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。(天才推理 IQ探偵シリーズ)@カラフル文庫】
【残り参加者 273/300】