虹村形兆は奇妙な違和感を覚えていた。
自らのスタンド《バッド・カンパニー》が先程殺した名も知らぬ少年――タベケン――を川へと沈めた様子を確認していた形兆は、『何かが足りない』という気がしたのだ。
形兆は几帳面な性格である。神経質と言ってもいいかもしれない。気になったことは少しでも解消なり納得なりがなされなければ、喉に刺さった棘のように煩わしく感じる。よって、突然自分が感じた不合理な感覚への疑問を見逃すことはなかった。
自らのスタンド《バッド・カンパニー》が先程殺した名も知らぬ少年――タベケン――を川へと沈めた様子を確認していた形兆は、『何かが足りない』という気がしたのだ。
形兆は几帳面な性格である。神経質と言ってもいいかもしれない。気になったことは少しでも解消なり納得なりがなされなければ、喉に刺さった棘のように煩わしく感じる。よって、突然自分が感じた不合理な感覚への疑問を見逃すことはなかった。
「何かを忘れているような感覚でもなければ、何かを見過ごしているような感覚でもない……ただシンプルに、『あるべき何かが無い』という感覚、あるいは直感がある。経験したことのない事態だ。」
まさか今さら死体を処理したことで精神に変調をきたしているのだろうか、と己の正気を疑っても、呼吸も脈拍も正常だ。発汗もスタンドの使用で微かにあるかないか。なんらかのストレスを受ければ起こるであろう生理的反応は見られない。
⸺それは、前のループとの違いからくる違和感だ。
彼は前回の今ごろは藤原あすかと遭遇していた。そのことをほんの微かにだが記憶として引き継いでいたのは彼がスタンド使いだからだろうか。彼女と合っていないことが、小さな小さな違和感として形兆の心に残った。
もっともそれは、ふつうであれば即座に無視されるものだ。自分の心に前触れなく起こった変化をいつまでも気に留める人間はいない。
虹村形兆という、度を越した几帳面な男でなければ。
⸺それは、前のループとの違いからくる違和感だ。
彼は前回の今ごろは藤原あすかと遭遇していた。そのことをほんの微かにだが記憶として引き継いでいたのは彼がスタンド使いだからだろうか。彼女と合っていないことが、小さな小さな違和感として形兆の心に残った。
もっともそれは、ふつうであれば即座に無視されるものだ。自分の心に前触れなく起こった変化をいつまでも気に留める人間はいない。
虹村形兆という、度を越した几帳面な男でなければ。
(この赤い霧の影響、スタンド使いの攻撃、またはそれ以外の超常現象か。《バッド・カンパニー》にもう一度辺りを偵察させておこう。)
虹村形兆は見落とさない。自分の父親がスタンドとは違う肉の芽というもので化物になったのもあり、彼はスタンド以外の能力も考慮して違和感について考える。
スタンドの長時間の使用は体力を消耗するが、違和感を放置することはストレスとして結局体力を使うのだ。《バッド・カンパニー》を引き連れて形兆は近くを探索する。謎の感覚への答えを求めての行進だ。川を離れて公園の遊歩道を数分歩いて、ヘリが他の参加者を見つけた。
スタンドの長時間の使用は体力を消耗するが、違和感を放置することはストレスとして結局体力を使うのだ。《バッド・カンパニー》を引き連れて形兆は近くを探索する。謎の感覚への答えを求めての行進だ。川を離れて公園の遊歩道を数分歩いて、ヘリが他の参加者を見つけた。
「距離200。遠いな、群体型のスタンド使いか? それとも。」
《バッド・カンパニー》が見つけたのは、中学生ほどの少女だった。慎重に距離を詰め、スタンドを半包囲の陣形で展開させる。手に何か持っているのは、機械だろうか。
射程距離にまで踏み込む為に更に進む。ついに顔が伺えるところまで来た。整っているが気の強そうな顔の子供だと形兆は思った。スタンドにはその使い手の人間性が出る。あまり精神に変調をもたらすようなスタンドを持つタイプには見えないが、人を見かけだけで判断するようなことはしない。
先行させていた歩兵が少女の肩に取り付いた。今度は死体の処理に手間をかけないために、体内に爆薬を投げ込み殺すことにする。即死させずとも病院や救急が無ければ助からぬだろうし、万が一助かっても病気として処理されるようにする殺し方だ。《バッド・カンパニー》は単にミニチュアの軍隊ではなく、特殊な作戦もこなせる精鋭なのである。
射程距離にまで踏み込む為に更に進む。ついに顔が伺えるところまで来た。整っているが気の強そうな顔の子供だと形兆は思った。スタンドにはその使い手の人間性が出る。あまり精神に変調をもたらすようなスタンドを持つタイプには見えないが、人を見かけだけで判断するようなことはしない。
先行させていた歩兵が少女の肩に取り付いた。今度は死体の処理に手間をかけないために、体内に爆薬を投げ込み殺すことにする。即死させずとも病院や救急が無ければ助からぬだろうし、万が一助かっても病気として処理されるようにする殺し方だ。《バッド・カンパニー》は単にミニチュアの軍隊ではなく、特殊な作戦もこなせる精鋭なのである。
「攻撃⸺」
開始、と言おうとして、形兆は命令を止めた。
突然あたりに場違いなポップスが流れたからだ。
スタンド攻撃か、と急いで《バッド・カンパニー》に索敵させるが、それ以上何かが起こるようなことはない。ややあって形兆は、それが少女の持つ機械から流れたのだと察した。
突然あたりに場違いなポップスが流れたからだ。
スタンド攻撃か、と急いで《バッド・カンパニー》に索敵させるが、それ以上何かが起こるようなことはない。ややあって形兆は、それが少女の持つ機械から流れたのだと察した。
久遠永遠は、公園のベンチに座りスマホに遺書を残すと、サブスクライブしておいたMERUのMVを流した。
画面の中では、ポップなキャラが歌い手の声にあわせて跳ねている。これを作ったのがクラスメイトだと思うと少し誇らしい気持ちになれた。
友達、というのとは違う。仲間ともまた違う。関係性を言い表すなら、被害者同士であり、反抗者同士、だろうか。
画面の中では、ポップなキャラが歌い手の声にあわせて跳ねている。これを作ったのがクラスメイトだと思うと少し誇らしい気持ちになれた。
友達、というのとは違う。仲間ともまた違う。関係性を言い表すなら、被害者同士であり、反抗者同士、だろうか。
永遠たち27人のクラスメイトは、ある日総理大臣が主催するデスゲームに巻き込まれた。
デスゲームと言っても、実際に殺し合わされるわけではない。生徒たちはSNSのフレンド機能やフォロワーの多さで競い合わされ、負けたものは死なない程度の高圧電流を流されるという、『平和的』なものだ。中学生が殺し合うような物語ならば国会で問題になるだろうが、これなら安心して子供にも読ませられるだろう。
ではなぜそんな教育上問題なさそうなイベントがデスゲームなのかといえば、それが社会的な死につながるならだ。
このゲームで『削除』された者は、超法規的措置により、生涯にわたってアカウントの使用が不可能になる。SNSで発信することも、誰かとつながることも、情報を得ることも不可能となる。
デスゲームと言っても、実際に殺し合わされるわけではない。生徒たちはSNSのフレンド機能やフォロワーの多さで競い合わされ、負けたものは死なない程度の高圧電流を流されるという、『平和的』なものだ。中学生が殺し合うような物語ならば国会で問題になるだろうが、これなら安心して子供にも読ませられるだろう。
ではなぜそんな教育上問題なさそうなイベントがデスゲームなのかといえば、それが社会的な死につながるならだ。
このゲームで『削除』された者は、超法規的措置により、生涯にわたってアカウントの使用が不可能になる。SNSで発信することも、誰かとつながることも、情報を得ることも不可能となる。
それは現代社会では死と同義だ。
仕事で誰かと連絡先を交換することができない。
知人たちのSNSグループに入ることができない。
家族と写真や動画を共有できない。
知人たちのSNSグループに入ることができない。
家族と写真や動画を共有できない。
これから更に発達していく超高度情報化社会の中で、それは文化的な最低限度の生活を送る基本的人権を剥奪されるに等しい。
「なにが、ネクストステージだあのクソ総理。今度は本当に殺し合いさせるとか、終わりだよこの国。」
前回のデスゲームはなんとかなった。クラスメイトは彼女の知らない友情や本性があって、いくつもの嘘と裏切りがあって、それでも腐った大人へのカウンターパンチが届きそうだった。届きそうだったのだ。
だが、主催者の総理の言葉に乗って新たなるデスゲームに挑戦することにした永遠を待っていたのは本当の殺し合いだった。
オープニングで見せられた、刀と暴力。喧嘩慣れしているから理解した、参加者の人選。間違いなく、物理的な殺し合いに長けている。
そして会場内に無駄にたくさんある、武器、武器、武器の山。これだけあれば、パニックになった参加者が一人でもでれば何人死ぬかわからない。
だから永遠は遺書を書いた。前回も書いたが、今回はちゃんと書ききった。
たぶん、自分は死ぬ。永遠は『ぼっち』だ。前は運と人に恵まれたからなんとかなっただけで、今回はそれが無い。たぶんクラスメイトも小学校の時のトモタチも参加者にいないだろうし、今回はいきなり脱落してもおかしくない。
それで小一時間会場内を歩いて、それでも武器を拾わずに、散歩途中で公園のベンチに座って遺書を書いた。幸い、まだ殺し合いに乗った人とは出会わなかった。この辺りには人はいないのだろう。落ち着いて書ける。書いて、曲を聞いて、誰かが現れるのを待つ。どうせこれ以上探すあてもないし、進んで殺すなんて絶対に嫌だから。
だが、主催者の総理の言葉に乗って新たなるデスゲームに挑戦することにした永遠を待っていたのは本当の殺し合いだった。
オープニングで見せられた、刀と暴力。喧嘩慣れしているから理解した、参加者の人選。間違いなく、物理的な殺し合いに長けている。
そして会場内に無駄にたくさんある、武器、武器、武器の山。これだけあれば、パニックになった参加者が一人でもでれば何人死ぬかわからない。
だから永遠は遺書を書いた。前回も書いたが、今回はちゃんと書ききった。
たぶん、自分は死ぬ。永遠は『ぼっち』だ。前は運と人に恵まれたからなんとかなっただけで、今回はそれが無い。たぶんクラスメイトも小学校の時のトモタチも参加者にいないだろうし、今回はいきなり脱落してもおかしくない。
それで小一時間会場内を歩いて、それでも武器を拾わずに、散歩途中で公園のベンチに座って遺書を書いた。幸い、まだ殺し合いに乗った人とは出会わなかった。この辺りには人はいないのだろう。落ち着いて書ける。書いて、曲を聞いて、誰かが現れるのを待つ。どうせこれ以上探すあてもないし、進んで殺すなんて絶対に嫌だから。
「お前に聞きたいことがある。」
ザッ、という音と共に背中から声がかかる。来たな。永遠はゆっくり両手を上げると、「武器は持ってないし、殺し合いもする気ないよ」と言った。
「なら、その手に持った機械から手を離せ。」
「機械って、スマホ?」
「機械って、スマホ?」
永遠は、ちょっと戸惑った。
誰かが現れるのを待ってはいたし、背中から声をかけられるんだろうなとも思っていた。
思っていたけれど、なぜスマホ?
誰かが現れるのを待ってはいたし、背中から声をかけられるんだろうなとも思っていた。
思っていたけれど、なぜスマホ?
「スマホ……?」
なぜか聞きなれない言葉聞く感じの声が返ってきた。
それから、お手上げの格好をしたまま根掘り葉掘り聞かれた。スマホについて、特別な経験について、デスゲームについて、ほか多数。
「とりあえずこれやめていい?」と聞いて、ようやく向き合ってふつうに話せるようになった。
それから、お手上げの格好をしたまま根掘り葉掘り聞かれた。スマホについて、特別な経験について、デスゲームについて、ほか多数。
「とりあえずこれやめていい?」と聞いて、ようやく向き合ってふつうに話せるようになった。
「俺達は別の時代から拉致された可能性がある。」
派手な格好の不良高校生は、ぼくのスマホを奪い取っていろいろ調べてからそう言った。
「総理大臣程度にこんな霧や空といった怪奇現象が起こせるものか。」
「まあ、それはそうだけど……」
「まあ、それはそうだけど……」
何言ってんだこいつという顔をしたぼくに、不良はふんってかんじで続けて言った。
たしかに、まあ、そう言われればそうなんだけどさ。
たしかに、まあ、そう言われればそうなんだけどさ。
「そもそも日本の最年少総理大臣は伊藤博文の44歳だ。それより若い総理大臣などいれば俺が知らないわけがない。なにより、こんな物は俺の時代には無い。」
「ちょ、投げないでよ。」
「ちょ、投げないでよ。」
スマホをポイッとされて、慌てて受け止める。文句は無視された。目は僕を見ながら、一人で何か考え込んでいる。
勝手なやつだな。まあでも、これはチャンスだ。
勝手なやつだな。まあでも、これはチャンスだ。
「ねえ、とりあえず協力しない? 他の参加者にはなんか知ってそうな人もいたし。」
僕の提案に少し考えて、不良は了解した。よし、まずは一人目。こんなわけわかんないこと、誰かに頼らなきゃどうにもならない。
ブスッとしながら言うけど、形兆からはなんだか殺気立った感じはなくなった。
⸺このとき、僕は知らなかった。
形兆が本当はゲームに乗っていることを。
⸺このとき、僕は知らなかった。
形兆が本当はゲームに乗っていることを。
【0035 住宅地と近くの公園】
【虹村形兆@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
優勝を目指す
●中目標
自分の存在を露呈しないように発見した参加者を殺していく
●小目標
目の前の少女(永遠)と話し情報を交換する
【目標】
●大目標
優勝を目指す
●中目標
自分の存在を露呈しないように発見した参加者を殺していく
●小目標
目の前の少女(永遠)と話し情報を交換する