散らかったガラクタに負けず劣らずみすぼらしいモノがあった。
承太郎に首と上半身を手酷く破壊された
フー・ファイターズだ。
ガラクタに残っていた下半身は挟まれピクリとも動いていない。
死んでいる、と何も知らない人は思うだろう。だがよく見てみると、
無事なまま残っている下半身の脚部に光沢のある円盤が肉体に収まり切れず、露出していた。
フー・ファイターズの周囲の水溜まりが少しずつ干上がっていく。その後、下半身が独りでに立ち上がると
ズズズズ、と奇怪な音を立て上半身が元の形へと形成される。
「ハァハァッ、ハァ……」
なんと上半身を完全に破壊されたはずの、フー・ファイターズが復活を遂げたのだ。
「危なかったな…、DISCの位置を変えておいて正解と言ったところか。」
そう、フー・ファイターズは承太郎に自身の命とも言えるDISCが頭にあることがバレた時、DISCの居場所を脚の方へと移しておいたのだ。
とは言っても、私の動きを察して体を完全に破壊しようとした時は焦ったがな…
フー・ファイターズは両肩をぐるぐると回しながら、自身の状態を確かめる。水弾の乱射、分身の酷使、半身喪失からの再生、
疲労は限界に近いが身体は十分に動かせるようだ。
「奴らが立っていない、ということは作戦は成功したのか…?」
そもそもフー・ファイターズは一体何を仕掛けたのか、如何にして承太郎を追い込んだのかだろうか。
フー・ファイターズの狙いは以下の通りだ。
1.支給品の消防車をエニグマの紙に入れたまま空へと投擲し、それ目掛けて水弾を放ち破壊。
2.バラバラになった消防車で承太郎を攻撃。さらに消防車の貯水タンクのフー・ファイターズ入り(プランクトン状態)の水もばら撒く。
3.ばら撒かれた水を通して、気絶している霊夢の内部に侵入。そのまま身体を乗っ取り、破片の雨を対処している承太郎を水弾で攻撃する。
万全のスタープラチナ相手に真っ向から挑んでも勝機はない。フー・ファイターズはそう考えていた。
よって支給品と自身の能力をフルに使い、承太郎をなんとか戦闘不能に追い込もうと画策したのだ。
この作戦のカギはまだ承太郎に明かしていない能力の一つ、身体の内部に入ったフー・ファイターズがその肉体を乗っ取るところだった。
フー・ファイターズ入りの水が霊夢に浴びてしまった時、そこから彼女の肉体に侵入し、身体を操ったのだ。
おかげで、肉体の外側からしかフー・ファイターズの分身を作り出せない、という情報だけしか伝わっていない承太郎に奇襲をかけることに成功したのだった。
状態霊夢を視認した時には既に彼女の身体にフー・ファイターズの分身が潜行した後なのだから。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
フー・ファイターズは身体の調子を確認したところで、派手に散らかったガラクタの周辺を見渡す。
F・F弾の餌食になっているならば、自身の周辺に必ずいるからだ。
やりすぎてしまったな…
フー・ファイターズは少し後悔した。彼の目的はあくまでDISCの回収だ。
自身の保身のためでもあったが、消防車を落とすような無茶はやり過ぎだったと反省する。
だが、手の内を晒され弱点も知られてしまった以上、どうしてもこの場で決着を付ける必要があった。フー・ファイターズとしても苦渋の選択だったのだ。
しかし、悩んでもいられない。即座に承太郎を発見しDISCを回収せねば、そう気を引き締めた時、目標を見つけた。
視線の先には二つの影。見覚えのある二人の標的。上々の結果に内心ほくそ笑むと、仕上げに入るべく、意気揚々と歩き出した。
一人の少女が四つん這いの状態で地面を睨んでいた。その表情はあまりすぐれない、というよりは苛立ちを隠せない顔つきだ。
彼女は先ほどまで承太郎に抱えられていた
博麗霊夢である。
身体から生えてきた腕に殴られて、私は倒れた…その後はどうなったの?
未だ身体に走る痛みを抑えながら、霊夢は考える。
承太郎は霊夢のすぐ近くにいた。水弾を食らった後があるものの、脈はあり、気絶しているだけで幸いだった。
しかし、肝心のフー・ファイターズが見当たらない。周囲の様子を見てみると、当初はなかった様々なガラクタが散らばっている。
フー・ファイターズの仕業なのだろうが、今の霊夢にはその意図が掴めない。
承太郎から離れすぎない程度にフー・ファイターズを探そうと思い、身体を動かしたのだが…。
「…あっ、痛ッ!……ホントに、手酷くやってくれたわね…。」
殴られたダメージが思ったより大きく、すぐには立ち上がれそうになかったのだ。承太郎の様子を確認する時も、なんとか這って行ったという有様だ。
無様ね、あんな妖怪もどきに後れを取るなんて…。挙げ句、こいつに私は守られながら戦ってたというなら、泣きっ面に蜂よ。
またも悔しさを噛み締める霊夢だったが、打ちひしがれたままではいられない。むしろそれらをバネに、痛みを堪え立ち上がる。
足元がフラフラと覚束ないが何とか地に足をつけ、毅然とした佇まいを保つ。
霊夢がふうっと一呼吸整えると、背後からの気配に感づいた。
ガラクタから這い上がり、復活を遂げたフー・ファイターズだった。
あんたに任せっぱなしじゃあ、癪だわ。後始末ぐらい、私に任せてもらおうじゃないの。
霊夢は近くの承太郎を起こすことなく、振り返る。
「女の方は起きたか…まあいい……」
そこには霊夢を散々痛めつけたフー・ファイターズが歩いて来ていた。
「よくも好き勝手やってくれたわね…!きっちり落とし前つけてもらうわよ!」
「悪いが、お前は後回しだ。まず先に承太郎からDISCを奪うからな…」
霊夢は両腕を構えファイティングポーズを取り息巻くが、フー・ファイターズは霊夢のことは眼中にないとばかりに近づく。
「あんまり人をコケにするんじゃないわよ…!」
霊夢はそう言うと、デイパックから無数のお札を取り出し放つ。着ている巫女服のいたるところに
仕込んでいたお札は、濡れてしまったせいでダメになっていたようだ。
霊夢の攻撃を見ると、フー・ファイターズも流石に呑気に構えることなく駆け出す。迫るお札にF・F弾で最低限の対処をしながら。
「どうしたのよ、DISCとやらを奪うんじゃないの?」
弾幕と水弾の撃ち合いでは、手数や正確さで霊夢が圧倒していた。水弾を寄せ付けることなく、むしろフー・ファイターズにダメージを与えている。
「ちぃッ…少々鬱陶しい……だが!」
だが、フー・ファイターズは怯むことはなく、霊夢目掛けて突撃する。お札は何発か命中しているものの、足を止めるには威力不足であった。
接近して直に攻撃するつもりだろう、そう判断した霊夢は『警醒陣』を張ってこれ以上の接近を防ぐべく、霊力をより集中させる。
あんたが近寄ることを許可しないわ、食らいなさい!
その間、フー・ファイターズが距離を大きく縮めてしまった。それでも焦ることなく、警醒陣を直接ぶつけるつもりで、タイミングを測って投げ放つ。
4枚の御札はある程度進むと、それぞれ長方形の頂点のポイントで静止。発光し、フー・ファイターズの侵入を妨げる障壁となった。
彼がその外側にいれば、だが。
「ウソッ!?な、んで?」
霊夢は括目した。フー・ファイターズは霊夢と警醒陣の間、つまり警醒陣に触れることなく突入を果たしていたのだから。
まさか、投げるタイミングを誤った!?―――ありえない、そんなミスなんてするわけが……
「残念ながら、貴様も私の手に踊らされているのだ。」
そうこうしている間に、フー・ファイターズとの距離が5mを切った。身体の無理を押して殴り合いに興じることになりそうだ。
まずは、牽制にいくつかの御札を扇状に投げるべく、腕をデイパックへと突っ込―――
「うぐぇえっ!?」
だが次の瞬間、霊夢の身体はフー・ファイターズから腹部を殴られ、くの字折れていた。
訳も分からず、霊夢はほんの少しだが殴り飛ばされた。
地面へと身体を放られると、今までの蓄積された痛みも刺激され、辺りをのたうち回る。
「~~~~~~~ッ!!」
だが、理解不能の事態は続く。
「ふん……立て、女。」
今度は全身が痛いというのに、その言葉通り身体が動き立ち上がったのだ。
「はぁ?ちょっ、とぉ…!?……やめッ…、づ痛うあぁああッ!……う…そぉ…はぁッ、なんでぇ………!?」
霊夢は流石に耐え切れず苦悶の声を晒してしまった。
「ふむ、意識を持った相手だと、完全に制御できるのはおおよそ3m以内といったところか…」
「あんた…また、私、の身体……に何か、したって、いうの…?」
霊夢は途切れ途切れになりながら、フー・ファイターズに尋ねる。
「ふん、単純なことだ。貴様の身体に私の一部が入り込んでいる。外側ではなく内側から操作しているのだ。」
「なに、よ…それ……!」
「覚えていないのか?
空条承太郎にある弾痕は貴様から受けたものだぞ?」
「今…何て、言ったのよッ!?」
「こんな風にな…!」
フー・ファイターズがそう言うと、霊夢の身体に異変が起きた。右手が人差し指を銃口にしたようなモノが、親指に引き金のようなモノが取りついていたのだ。
「これは…!?」
「貴様がそれを使って、承太郎に一杯食わせたのだ。そうでもなければ、たとえ消防車一つ犠牲にしても、奴を気絶に追い込めなかっただろうからな…」
「また……私のせい、だっていうのね…!」
承太郎のお荷物になった挙げ句、さらに足を引っ張ったという事実に霊夢は自身に強い怒りを感じていた。
「気に病むことはない。今から貴様は死に、その肉体を私が利用してやるのだからな…!」
「冗談じゃないわ!これ以上、あんたの好き勝手にされ―――むぐぅッ!?」
霊夢は言い返そうとするも、空いていた左手で自分の口を塞いでいた。
「静かにしていろ…、私の分身が入り込んだ貴様にもはや選択肢などない。」
「う、うぐうッ!」
霊夢はなんとか声を出そうとするも、自身の口を押さえ込んでいる左手の力は明らかに自分のものではなかった。
くそッ!今すぐ、入り込んでる分身をどうにかしないと…!
「もはや、私が手を下すまでもないな。他の誰でもない、貴様自身の手で死ぬといい…」
すると、霊夢の右腕が少しずつ動き出した。そう、手の一部が銃と化した右腕が。
「ぐむッ!?ぐぐぶッ!!」
霊夢はフー・ファイターズが何をさせようとするのか、即座に察した。身体を動かそうとするが…。
チクショウ!どうして動けないのよッ!!どうして、アヌビス神の時のように身体の主導権を奪い返せないの!?
必死に頭を回転させ、打開する術を模索する霊夢。だが、無常にも右腕は上がっていく。
私はもう、誰にも従いたくないのよ…!こいつにも、アヌビス神にも、何よりも……太田!あんたに対して…!
銃口はついに霊夢の右側のこめかみへと到達しようとする。
いつも通りなら絶対動けるのに…!普段の私と、今の私…一体何が違うっていうのよ……?
霊夢はそこまで考えると、ここに来て自分が何をしていたのかを掘り起こす。
いや、掘り起こすまでもないだろう、なぜならほんの数時間前の出来事だからだ。
ああ、そうか………私は、殺しちゃったんだっけ…?あいつを……ほとんど私が…
「これで、私の使命に一歩近づく…!私を生み出したDISCを再び、私の元で保管できるというものだ。」
フー・ファイターズの言葉も今の霊夢には聞こえてこない。
身体の自由がきかない?主導権を奪い返せない?そりゃあそうよ。だって、私は…
いくら霊夢が才気に満ちた人物でも、自らの手で人を殺した経験などあるはずもなかった。
あいつを殺した…!初めて、人の命を奪った。この手で…
その暗い思いが重みとなって、彼女の自由を知らず知らずの内に奪っていたのだった。
重い…重すぎるのよ…!この気持ちを捨てなきゃ、私は飛べない…でもッ!
「貴様の肉体を得て、承太郎からDISCを奪還する。これで…決着だ!」
できるわけ、ないじゃないッ!一時でも、なかったことになんて……私は…できないわよ……!
でも、それじゃあ………
不意に聞こえた気がした。
飛べないのなら…死ぬしかないわね、霊夢。もっとも……
死神の声か、あるいは―――
ボムを使い切らなくても、ステージクリアはできるのよ?『抱え落ち』する『覚悟』があればね…
救いの声か。
ドバァッ!
霊夢は自ら放った水弾を受け、一瞬ビクリと身体を跳ねると撃たれた方へと飛んだ。
頭から血を流しながら、糸の切れた人形のように身体を投げ出す。
最後には重力に従い地面へとぶつかった後―――消えてしまった。
「は?」
忽然と。
フー・ファイターズはほとんど反射的に周囲を360度、ぐるりと見渡すが影も形もない。
何が起きているッ!?女はどこだ!!
その時だ、頭上からボタリボタリと液体が降ってきているのに気が付いたのは。
ハッとした時には既に遅かった。
フー・ファイターズが見上げた時に視界を覆ったのは、白いドロワと黒い靴だ。
「ぶげぇッ!?」
顔を上げてしまったせいか、そのまま面長の顔面を思いっきり踏まれてしまった。
痛みを堪え、相手が降りた方へと向き直る。そこにいたのやはり、見失った博麗霊夢。
「貴様ぁッ!!」
間髪入れず、今度はこちらから強襲する。地を蹴りつけ、拳を握り締め、懐に一撃叩き込まんと駆ける。
対する霊夢は今の攻撃での負担か、身体がふらつき動こうとしない。
動けた……でも、次が正念場よ…!
霊夢はデイパックからできるだけ素早くお札を取り出す。
あえて……同じ手段であんたを迎え撃ってやる!あんたに操られることなく戦う…!
あいつを殺した重さを抱える『覚悟』、見せてやろうじゃないの!
4枚のお札を投擲させるが、身体の動きがどこかぎこちない。相手に操られていないか不安が溢れる。
それでも、逃げ出すわけにはいかない。知り合いを殺した罪悪感も、フー・ファイターズから受ける支配も、全て背負って飛び立つと決めたのだから。
『警醒陣』はついに光の障壁を発生させた。フー・ファイターズは―――
「同じ轍を踏むと思っていたかッ!食らえ!」
スデに迫っていた。お札の内側へと…
また……わ、わたしは…あ、操られて…?い、いや…まだよ……!諦めてたまるかッ!
霊夢は呼吸を整え、霊力を練り上げる。
フー・ファイターズはそんなものお構いなしに腕を走らせる。激突までにはコンマ数秒。
霊夢は両腕を左右に突き出し、息を吐き出すように、内に貯めたそれを放出する。
「吹き飛べッ!」
「なにぃッ!?」
『霊撃』。青い霊力の波が、霊夢の周囲に円形の衝撃となって現れた。
フー・ファイターズの拳は霊夢に触れるどころか、身体を大きく浮かせてしまった。
「もらったああぁッ!」
霊夢は痛む身体に鞭を打ち、僅かに助走をつけた後に自身も跳躍する。
そして、無防備なフー・ファイターズに飛び蹴りを見舞ませる―――だけに終わらず、追撃にお札を扇状に投げ放つ。
「ぐおおッ!?」
霊夢のライダーキック。お札による弾幕。立て続けにこのダブルパンチをもらったフー・ファイターズは、
その勢いのまま吹き飛ばされ、再びガラクタの方へと吹き飛ばされた。
霊夢はふわりと鮮やかに着地―――とはいかなかったが、両足を地につけることができた。
ああ、すんごい重いわ…。これからこんなもの背負うのね、私って…
でも、今はこれで勘弁してよね…一人までなら大量殺人犯じゃないって言うでしょ、咲夜。
手を強く握りしめ、自分が動くことを認識する。
自分の現状可能な最高のパフォーマンスだった、と安心した。
だが、これだけでフー・ファイターズが再起不能になったとは思えない。それ以前に自分の今の状態では追い詰めるのは厳しいことが分かった。
悔しいけど、承太郎を無理やりにでも起こさないと私だけじゃ……勝てな、ん?
承太郎に近づこうとした時だ、霊夢は一つのことに気が付く。普段ならすぐにでも気づいただろうが、
今ようやく冷静な状態に戻ったため、ある感覚が刺激していることに気が付いた。
やれやれね、結局こいつのおかげ、か…
霊夢を承太郎起こすことなく、フー・ファイターズの方へと行ってしまった。
一方のフー・ファイターズはガラクタに埋もれたのか、少し遅れて出てきた。
「やってくれたな…!まさか、今まで操られていたのは演技だったのか?」
「当たり前よ―――って言いたいけど、ギリギリだったわ。ほら、頭のところ切れてるでしょ。」
霊夢はこめかみ近くにF・F弾がかすっているところを指差す。傷そのものは大きくないが、それなりに出血しているようだ。
「何故動けた!?貴様の身体にはまだ私の分身が入っているはずだぞ!」
「知らないわよ、そんなの。私はもう二度と誰にも従わないだけよ、たとえ身体に何か入ってようと、私がそれに従う通りはないわ。」
「従わない、だと?そんなもの、答えになっていない…!ふざけているのか!?」
納得のいかない返答にフー・ファイターズは憤りを隠せない。あと一歩まで追い込んでいたとなればなおさらだ。
「それに、何故あの瞬間ギリギリに貴様は動けたのだ!従わないと言うのなら、最初から動けたはずだッ!」
「うるさいわねぇ…、別にあんたを悔しがらせるためじゃないわ。ちょっとだけ、いつもより身体が重かっただけよ。」
「身体が…重い?」
霊夢の言葉の意味が分からず、思わずオウム返しするフー・ファイターズ。
「そう。どれだけ『空を飛んで』も私はもう、いつものように飛べないのよ。だって―――」
「そいつの分も背負って飛ばないと、宙に浮かぶことはできないの。命を奪った事実からは決して逃れられない。
いや…私は逃げない!それがどれだけ重くても、抱え落ちたりするもんですかッ!!」
目には確かな光を宿し、フー・ファイターズに延いては全ての相手へと宣言する。
「訳の分からないことをッ!もう聞く必要はない…!貴様を殺し、その身体から直接聞き出すまでだッ!」
「やってみなさいよ?あんたにそれができるのならの話だけどね。」
霊夢は大胆不敵にもフー・ファイターズへの間合いを詰めていくように歩いて来ていた。
「忘れたのか…!この周辺に大量の水を撒いていたことを…!貴様の敵は私だけではないということをな…!」
フー・ファイターズの宣告と共に、辺りの水溜まりから無数の手が出現する。
「今の貴様の状態で、360度から放たれるF・F弾を凌げるかぁーーッ!!」
フー・ファイターズ自身も両腕を構え、霊夢を囲むように手が現れ、一斉に発射された。
ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバァ!ドバ…ドバァ…
だが、発射されたのはほとんどフー・ファイターズ本体からの水弾だけだった。お札をもう一度装備しなおした霊夢は、それらを難なく相殺して見せた。
「安い弾幕ねぇ、お話にならないわよ?」
「バカな!?一体何が起きている!?」
スタンドパワーが足りない―――いや、違う!それなら、増殖させることすらできないはず…!
「これでおしまいかしら?」
「嘗めるな…!こうなったら、私の分身を作り出すまでだッ!」
フー・ファイターズのすぐ隣にある水溜まりがズズズ、と奇妙な音を立てて、集まり出すが…。
「何故だ!?うまく出来上がらない…!一体何が、どうなっているんだ!?」
そう、フー・ファイターズの分身は完成することはなかった。精々、下半身のところまでしか出来上がらず、身体を保つことができずに崩れていっているのだ。
「あんたってさあ、鼻は付いてるかしら?匂わないの…?」
「何を言っている…?」
「あんたの周りにあるのは、既に水だけじゃなくなってるって言ったのよ。」
霊夢は承太郎から借りたミニ八卦路を取り出した。
「動くと撃つ、間違えた。撃つと動く…今すぐ撃つ…うん?……とにかく!動くと撃つわ。」
「ぐっ!ここまで来て、退けるか…!こうなれば、分身などに頼る必要はない…!今度こそ私の手で貴様を葬り、勝利してやるまでだッ!。」
フー・ファイターズは言うが早いが、霊夢へと全速力で接近し出す。
「いいや…もう、あんたの負けよ。この周囲にまき散らした『水』、その上にある『ガソリン』…!
あんたが…承太郎を攻撃するために作ったこの状況…ゆえにね…!」
そう、周囲に撒かれているのは水だけではなくなっていたのだ。消防車の破片での攻撃、破壊された自身の修復のための水の供給、この二つのメリットだけではなかった。
動力であるガソリンもまた、消防車の残骸同様に、いや、それ以上に辺りに撒き散らされているのだ。
霊夢は霊力をわずかにミニ八卦路に込める。
またも付喪神となった原因は気になるが、火力が増大していると考えれば、むしろ好都合だった。
「「食らええぇええッ!!」」
フー・ファイターズが霊夢を捉えるよりも先に、ミニ八卦路に光が灯り、勢いよく火が噴き出す。
狙いは地面、辺りに撒かれた大量の水に混ざることなく、水よりも軽いためその上に浮いているガソリン。
八卦ファイアが液体に触れた瞬間、霊夢とフー・ファイターズを分かつ炎の壁が発生した。
「ぐうおおぉぉおおッ!?」
霊夢へと伸ばした腕が一気に焼き払われ、たまらず腕を引くフー・ファイターズ。右腕はすっかり肘のところまで焼失していた。
「くっ…!ここまで来て、今更逃がしてたまるかッ!回り込んで―――」
フー・ファイターズはそれでも食い下がろうと、動こうとするが…。
「火の手が早い…!もう囲まれているだと…!」
周囲をぐるりと見渡すも辺りは火で囲まれてしまっていた。ガソリンが染み込んだガラクタが散乱していたためか、火が上がるスピードは早く、あっという間だった。
すぐさま支給品の水が入ったペットボトルの蓋を開け、中身を撒いてみるが効き目はないに等しい。焼石に水だった。
「このままでは……マズい…!」
火に飲み込まれていくガラクタ、熱さによってその形をより歪なモノへと変貌していった。絶妙なバランスで保たれていたそれらは崩れ、ガラガラと派手な音を立てる。
まるで、これからのフー・ファイターズを示すようだった。
「決着のようだな…」
大きく火の手が上がる様を暗視スコープで注視している男がいた。3人が戦っている地点から少し離れた、ジョースター邸の北側だ。
金髪の長髪にはパーマがかかっており、そのヘアースタイルに負けず劣らない長身の美丈夫。
ディエゴの贈り物を回収して、GDS刑務所に向かっていたが……少々出遅れてしまったな。
ヴァレンタインはお燐と別れた後にジョースター邸の内部の捜索はしなかった。
単にディエゴから贈られるスロー・ダンサーが予想より早かったためだ。
ディエゴは南の紅魔館で情報収集、お燐は東へと向かって行ったので、消去法で北へと向かうことにした。
しかし、湿地帯の途中まで来たところで、ジョースター邸から何やら物音が聞こえてきた。
この距離からしてただごとではない、そう判断したヴァレンタインはディエゴから連絡を取ってみるが、一向に出る気配もない。
仕方がなしに、ヴァレンタインはもう一度ジョースター邸へと戻ることにしたのだ。
戻ってきたら、既に3人とも戦っていたという流れだった。
「まあ、こうして様子を見ていたおかげで、相手の戦いぶりは見て取れた…。これから接触する上での状況は万全、というわけだ。」
幻想郷縁起に記載されていた、博麗霊夢。そして、聞こえてきた言葉から察するに、男の方は空条承太郎。火の海に閉じ込められたフー・ファイターズ。
霊夢と承太郎は両者共に、相手が圧倒的に有利な状況の中で屈することなく戦った様を見て信用できる相手だというのは伝わってきた。
もっとも、二人が私のことをどう思っているかによるだろうがね。
来た方角によっては既にお燐と接触している。幻想郷の異変を手掛ける巫女なら、お燐から話を聞いていても何らおかしくはない。
迂闊に化けの皮を被ろうものなら、ひっぺがえされる可能性もある。慎重かつ誠実に対応しなければいけないだろう。
「だが、戦局で言うところの…『一手』とはこれからだ…。そして、私は奴らのそれを超えて見せる…!荒木と太田、二人を消滅させるためにも…!」
ヴァレンタインが回収した『聖人の遺体』をこの会場にばら撒いたこと。挙句、父の形見のハンカチまで奪ったこと。
この二つを許すつもりはヴァレンタインにとってあり得ないことだ。
暗視スコープで様子を窺うと、霊夢と承太郎が火の手に飲まれることなく、無事に戻って来たようだ。承太郎も意識を取り戻しており、二人で何やら会話していた。
さて、彼らには一体どのタイミングで接触するべきか…?
もうすぐ放送が始まる時間だ。ヴァレンタインとしては、二人が放送を聞いてどういった反応をするのか、彼らの人となりを知るためにも少し興味があった。
ならばもうしばらく待つか、それとも時間を惜しんですぐに動くか逡巡していた時だ。ヴァレンタインは驚くことになる。
「む!?博麗の巫女がいない…!どこへ行った!?」
一瞬、自分がいることがバレたかと焦るが、頭上にも背後にも霊夢はいなかった。
「まさか…!火の手がある方へと戻って行ったのか!?」
暗視スコープで確認すると、後ろを向いた承太郎の背中から、やれやれだといった感じが見て取れた。
「もはや、ここまでか……」
ゴウゴウと燃え盛る火の海に取り残された、フー・ファイターズがポツリと呟いた。彼は何をするでもなく、ただ佇んでいた。
完敗だな…こうなってしまっては、手の打ちようがない……
彼とてむざむざ焼き殺されるつもりはなく、当初は強引に火の海を渡りきろうとしていた。
しかし、付喪神化し火力が増大したミニ八卦路の火力はかなりのモノだった。僅かに触れただけで、彼の身体を焼き払うほどに。
加えて、不可抗力とはいえ自ら撒いたガソリンによって、その炎は完全にフー・ファイターズを取り囲む形となってしまっていた。
フー・ファイターズにとって、もはやこの状況は完全な『詰み』そのものだった。
このまま死ねば、私はどうなる?いや、何がどう変わるようなこともないか…。悲しむ相手がいるわけでもないしな。
何もすることがなくなったフー・ファイターズは、DISCを与えられ生きた今を振り返ってみた。
偶然トラクターのDISCに気付いた連中を始末したぐらいだな。それ以外は………何もないか。
そう考えると、私にとってDISCの存在はやはり外せないな…
思い出すのは理由も知らないまま、ひたすらDISCを守っていた自分の姿だ。だが、
今の彼にとってはそれが『生きる』ことそのもので、おかしいとは露にも思わないだろう。
思えば、徐倫とエルメェスと戦い、敗北する寸前にここに呼ばれたのか…。だったら案外、死ぬ直前にまた殺し合いの場に呼ばれるのかもしれないな。―――ん?
我ながら下らない考えだな、と思いながらもフー・ファイターズは自身を振り返っていると、ふと今の自分で出来ることを思いついた。
「そうか…!一つだけ、できることがあったな。このまま死ねば、DISCは私の―「頭を冷やしたかしら?」―…!?」
フー・ファイターズの言葉を遮るように、少女の声が辺りに響いた。忘れるはずのない、博麗霊夢の声だ。
フー・ファイターズのから見て3m先で立っているのが見える。
「この熱い空間で冷える頭もない…!何をしに来たッ!私を嘲笑いに来たのか…?」
「まあ、それもあるかもね。こっちだって散々痛い目にあったわけだし。」
霊夢は痛む身体をさすりながら悪びれもなく言う。
「ふん!だったら飽きるまで、そこにいるんだな。うっかり焼け死んでも、私は知らんからな。」
「平気よ、私はそこまで間抜けじゃないわ。」
フー・ファイターズは思わずため息が漏れる。自分を死に際に追い込んだ相手が近くにいてうれしいはずもないから当然か。
「あんた、私を攻撃する気はないの?」
「そんな元気があると思うか…?生憎、こんな熱すぎる環境じゃ、煙一つ出すことができん。」
「煙なんて、そこいらで沢山出てるじゃない?」
「………」
火の海に囲まれて、本日二度目のため息が漏れるフー・ファイターズだった。
その時、彼は思い出した。ついさっき閃いた、自分のできることを。
「おい、女。一つ用件がある。」
「霊夢よ、博麗霊夢。ちゃんと名前で呼ばないと、あんたの用件なんて聞かないわよ?」
「博麗霊夢。おまえはもうすぐここを離れるのだろう?だったら、私のDISCをくれてやる。」
「はぁ!?」
フー・ファイターズの言っていることが理解できず、声を上げる霊夢。彼のDISCの存在を知っているわけではなかったので仕方ないか。
「手短に言うぞ。私がこのまま死ねば、DISCは私の死に引っ張られ消滅する可能性がある…。
私が死ぬのは…良くはないが、この際それは置いておく。だが、DISCまで失う必要もないだろう?
だから、今からDISCを外し貴様にくれてやる。」
「いらないわよ、そんなの。何で私にくれるのよ?」
「この空間にいるのが、貴様だけだから…それだけだ。私とて、貴様に渡したいわけじゃない…!
だが、DISCは結局は物にすぎない。物なら誰かの手に渡って有効に使われるのが本望のはずだ。全てはDISCを思っての行動だ…!」
フー・ファイターズが言い終えると、辺りの火の勢いが更に増し、霊夢にまで迫り始めた。
「もう、終わりだな…。私を倒した証を持って、精々生き延びて見せろ。霊夢とやら。」
フー・ファイターズは残り一本の腕を自身の側頭部まで動かし、手刀を振るった。
「勝手に決めつけないでほしいんだけど。」
いつまで経っても、腕が側頭部に当たる感触はない。見れば、腕はお札の弾幕にやられ、あっさりと壊れてしまったようだ。
「私を徹底的に消滅させるつもりか…。私に死に方を選ぶ権利すら奪おうというのか…!」
「だ・か・ら!勝手に話を進めるなって言ってんのよ!」
フー・ファイターズは怒りに震えているようだが、霊夢も霊夢で怒っているようだ。
「いつ私があんたを殺すなんて言ったの…!私はあいつらなんかに従う気は、毛筋一本分も、これっぽっちもないんだからね!」
霊夢は、ずかずかとフー・ファイターズの元へ歩いていくと、両腕を失くし、大分小さくなった彼をむんず、と掴んだ。
「何をする!この、放さないかッ!」
「いい加減、こんな暑苦しいところから出るわよ。あんたの処遇なんてその後で十分よ。」
そして、フー・ファイターズの返事も聞くことなく、『幻想空想穴』で見せた瞬間移動を用いて、この火の海から脱出を図った。
残念ながら飛距離は小さいので、連続して使うハメになったようだが。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「戻ってきたか…、勝手な行動は控えてほしいんだがな…。」
「ちゃんとこいつを拾いに行くって言ったでしょ?返事を待ってたら間に合わなくなるかもしれないんだし。」
空条承太郎は本日何度目になるか分からない、霊夢の身勝手さに辟易した。そろそろ耐性が付いてしまうかもしれない。
「それに、こいつから聞きたいことは山ほどあるでしょ?」
「ああ、確かにある。それがなかったら、あんたを絶対引き留めていただろうからな。」
『DISC』のこと、『ホワイトスネイク』のこと、そして『
空条徐倫』のこと。フー・ファイターズから聞いた話は承太郎には身に覚えのないことだ。
かといって、それらに一切合切耳を貸さないのは早計である。
今置かれている状況を理解するためにも情報は必要だった。
「…というワケだから、色々聞かせてもらうわよ?」
「待て…!私のDISCの話はどうなった…!?条件を飲むと、貴様の口から言っていないぞ…!」
「同じこと言わせるつもり?私は不必要な殺しはしたくないのよ。だから、あんたの話次第で決めるつもりよ。問題あるの?」
霊夢は素直に答えたのだが、フー・ファイターズは即座に反駁する。
「不必要な殺しはしたくないだと…?私は、貴様や承太郎を殺そうかしたのだぞ…!
信じられるものか…どうせ、期待を持たせようとして殺すつもりなのだろう…?お前なら、やりそうなことだ。」
「ずいぶん、信用がないようだが…あんた、何かこいつにしたんじゃねえのか…。」
先ほど自害したのを止めたのを根に持っているのだろうか、フー・ファイターズに疑われてしまったようだ。
挙げ句、承太郎にも一言おまけされる始末だ。それに対して霊夢は若干の苛立ちを覚えるが、それを抑えてデイパックから何かを取り出した。
「しょうがないわねぇ…、だったら『対等』に話をしようじゃないの、フー・ファイターズ。」
霊夢の手にあったのはペットボトルだった。彼女は蓋を開けると、中身をフー・ファイターズに浴びせた。中身はもちろん…
「貴様!?何を考えている…!何の真似だ!」
水だった。基本支給品である水をフー・ファイターズに与えたのだ。そのおかげで、両腕を失い、大分小さくなってしまった身体も元通りに治っていった。
「何も蟹もないわよ。これで少しは信用する気になったでしょ?私が問答無用であんたの命を奪う気はな―――」
「動くな…!」
フー・ファイターズは右手を構え、人差し指を霊夢へと向けていた。銃口は霊夢のこめかみに向けられ、ほとんど零距離に近い位置にあった。
「何のつもり?悪いけど、あんたの弾幕なんか一つも当たらないと思うけど…?」
「貴様の『気持ち』が分からない…!火の中で貴様は言ったな…?主催の言いなりになるのが嫌だと。そのために私を殺さないとな。」
霊夢の信用の得るための行動は却って、フー・ファイターズの疑念を最高潮にさせてしまった。
「貴様の、その『自由』への執着は何だ!?不気味だ、不気味すぎる!そんなモノのために命を天秤に乗せる、貴様の『気持ち』が理解できん…!」
フー・ファイターズは大きく狼狽していた。霊夢の行動がどうしても納得いかないことが気に入らないからだろうか。
「『自由』ねぇ…。まあ、あながち間違いとは言わないけど、別に私はこの状況に命をかけてる、なんて思ってないわよ…?」
「………」
フー・ファイターズは黙り込む。霊夢に向けた右腕を下ろす素振りもなく、何か動きを見せれば、即座に水弾を撃とうという算段か。
「信用されてないようだな…」
「ホントに手がかかるわね…。良い?私は一応、あんたが無暗やたらに攻撃しないって信用してるのよ。」
「一体どこから、そんなことを判断した…!」
霊夢はペットボトルに余っていた水に気付くと、一気に飲み干す。事態の剣呑さとは我関せずと、陽気な振る舞いだ。
飲み干して、ペットボトルから口を離すと同時に話し出した。
「あんたにとって一番大切なのはDISCなんでしょ?私が火の中に来た時だって、自分の命よりも優先するぐらいに。」
「ああ…」
「そして、あんたは自分自身を作り出したDISCを守ろうっていう、私からしたら堅っ苦しい考えの持ち主よ。」
「…」
「そんな奴が、あんたとDISCを救った私を殺せるかしら?」
霊夢は意地悪そうに微笑む。先に仕掛けのもあんただったわね、と耳が痛くなるおまけ付きだ。
「ぐっ…!」
フー・ファイターズは霊夢の言う通り、銃口を向けているものの、即座に撃つつもりなどなかった。
自身が仕掛けた戦いで負け、助けられ、その上水まで与えられ、万全の状態にまでしてもらったのだ。
自身の考えが見透かされている、フー・ファイターズはそう思わざるを得なかった。
「それと承太郎。あんたの頭、スタンドで一発叩いてみなさいよ。それで白黒つくんでしょ?」
「あんたは俺に、もう一回ぶっ倒れろって言ってるのか…?」
「そうするのが一番手っ取り早いでしょ?ほら、さっさとしなさいよ!」
「待て、もういい…。」
フ二人のやり取りを見て毒気を抜かれたのか、フー・ファイターズは霊夢のこめかみに当てていた銃口を下ろした。
「おまえの『自由』への気持ち…いまいち理解できないが、おまえらとはもう闘う気がしない。そして……わたしの負けだ……完璧に。」
「…そう?それじゃあ、何から聞こうかしら?気になるのは…うん、やっぱりDISCね。―――っていうか、そもそもDISCって何なのよ?」
「そこから説明が必要か……」
ため息交じりに、フー・ファイターズは霊夢たちとの情報交換を始めることとなった。
それから数十分経った。
フー・ファイターズから聞いた話には有益な情報が満載だったと言えるだろう。大きく分けて『DISC』、
『ホワイトスネイク』、そして『空条徐倫』の三つを知るに至った。
「あんたは、俺から見て未来の存在ってことになるのか…。しかし、俺に娘がいるとはな……」
「貴様の年齢が17歳だと…!『ホワイトスネイク』の話では確か40歳だったのだが…」
「まあ、こいつの見た目じゃあ17には見えないわよね、普通。」
各々が口々に思ったことを、漏らしていた。
「意外というか動揺する方がらしくないけど、驚かないのね、承太郎。」
「逐一取り乱したところで、何も変わらんしな…。時間を止めるスタンドがあるなら、巻き戻したり、
先に進めたりするスタンドがあっても、まだ納得はいく。……って言っても、驚いていないわけじゃあないがな。」
「そりゃあそうよ、私ならまず信じないでしょうし。」
突然あなたの娘さんは刑務所にいます、など言われたら一蹴するものだが、承太郎は大して動揺することなく、フー・ファイターズの話に耳を傾けていた。
「それよりも今気になるのは『ホワイトスネイク』の存在だな。フー・ファイターズ、俺は確かにそいつにDISCを抜かれたんだな…?」
「そうだ、なんせDISCの内の一つを私が預かっていたのだからな。間違えようもない。」
目下、承太郎の悩みは自身を狙う『ホワイトスネイク』の存在だ。
「そして、未来の俺の娘…空条徐倫がDISCの奪還のために隠し場所へ乗り込み、あんたと戦うが、勝利。」
「私が絶体絶命のところでここに呼ばれた、という流れだ。」
承太郎はふむ、と一旦考え込むと霊夢が先に口を開いた。
「やっぱり『ホワイトスネイク』が何者かは知らないの?」
「残念ながらな…先ほど話した特徴の通り、見た目しか分からん。ここでの制限があるから、確かではないが本体から100mほど離れて行動できるからな。」
「名簿から割り出すのはちょっと厳しいかしらね…」
霊夢はゴロリと仰向けの状態で、さらにいつ取り出したのか、名簿をぼんやりと眺めながらぼやく。少々気を緩めすぎな気がしないでもないが。
「フー・ファイターズ。あんたが知っているのは空条徐倫、
エルメェス・コステロ、
ウェザー・リポート、
エンリコ・プッチの4人なんだな?」
「ああ、ウェザーとプッチは面識はないが、囚人の身体を乗っ取った時に奪った『知性』にそいつらの名前があった。おそらく同一人物だろう、詳しくは知らないが。」
「ここにいるってことは、徐倫とエルメェスの様に二人ともスタンド使いか…?」
「そして、そのどちらかが『ホワイトスネイク』って言うの?」
霊夢は承太郎の考えていることを予測し問いかける。
「まあ、同じ時代に同じ場所にいるからな。俺と面識がある連中もスタンド使いだから、可能性はある。憶測にすぎんかもしれんが…」
「そうね、とりあえずは頭の片隅にでも眠らせとけばいいでしょ。さて―――」
霊夢は視線をフー・ファイターズへと向けた。
「―――フー・ファイターズ、あんたはこれからどうすんの?」
「ん?あっ、ああ……そうだな…」
一瞬悩む素振りを見せるが、すぐに思い出すように口を開く。
「私はDISCを集める、それだけだ。」
「結局、それなの?」
「…そうだ、私にはそれしかないからな。DISCを守ることは私自身のためでもある。」
「私たちの時みたく、殺してでも奪い取るつもり?」
「…最悪、そうなるだろうな。」
霊夢はそこまで言葉を交わすと、黙り込む。なおも人を襲うと言うのなら、妖怪退治の巫女が放っておくわけがない。
やがて、霊夢は徐にこう言った。
「悪いけど、あんたは私たちと来てもらうわよ。それで、この殺し合いをブチ壊すの。良いわね?」
「人の話を聞いていなかったのか?私にはDISCを守る使命があるのだと。」
話の流れをまるで気にしない霊夢にフー・ファイターズは言い返すが、霊夢も霊夢で突っかかってきた。
「あんたのせいでさあ、二人揃ってボロボロなわけよ。しばらくの間、一緒にいてくれてもバチは当たらないんじゃないの?」
「ぐッ…!だが、私の使命がだな……」
「それに結局はあんたって一方的に襲った上に、ただの勘違いだったわけじゃない?
少しは誠意ある対応がほしいかな~って私は思うのよね~?」
「済まなかった…!この通りだ……」
「私って一応、あんたの命の恩人なのよね?」
「………」
「だるいわー身体だるいわー」
「……」
「怖いわー饅頭怖いわー」
「…ああ、くそッ!分かった、分かった!今から6時間の間、お前たちと一緒に行動する。それでいいんだな?」
霊夢が恩着せがましく(と言っても実際命の恩人なわけだが…)フー・ファイターズに喰らい付いたお蔭で、彼が折れる形となった。
「うーん。まあ、一先ずはそれで良しとしますか。」
そう言うと霊夢は、今度は逆にフー・ファイターズへと情報を伝えるべく、名簿を開くのだった。
一先ずは、という霊夢の言葉にフー・ファイターズはげんなりとしたが、仕方ないと考えることにした。
実際に霊夢に助けられたという点は、彼にとっても気にしていたところだった。それをチャラにできるのなら、まあ納得できなくもなかった。
それに、霊夢や承太郎と話すことで得られる情報は彼にとって新鮮で、少しの間なら、そのためにいるのもいいかと妥協したのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「まさか…手を組むつもりなのか…?」
ジョースター邸の外の影から、様子を暗視スコープで見ながら、ヴァレンタインは少なからず驚いていた。
あそこまで徹底的に相手を叩きのめして、再度その仲を保ち、協力し合うというのは流石に想定外と言わざるを得なかった。
「妖怪を引きつける魅力という天性の才能か…なかなか面白い人間だな。霊夢…」
ヴァレンタインにある『愛国心』に似た何かを持っているのでは、そう思うと少しだけ、親近感が湧いた。
「フフ、これはこのヴァレンタインも負けてはいられないな…」
ヴァレンタインはこの後、どのようにして、彼ら3人と接触しようか頭を働かせる。
協力できる間柄ならば、そのまま手を組む。彼の目的には憎き主催の打倒は当然含まれている。
協力できない間柄だったら?
「分かってもらえるように『話しをする』か…?」
黙々と、ヴァレンタインは思案し続ける。『聖人の遺体』の奪取、主催の打倒、いずれも超えるべきハードルは高い。
だが、それでもこの男はその二つのハードルを超えるために行動するだろう。
そして、その過程において彼は時に非常に徹する―――全ては愛する国のためにだ。
『愛国心』を掲げるこの男は、まずはこの3人をいかに協力するか、利用するのか算盤をはじき出した。
あいつは……創造主に操られている。
霊夢がフー・ファイターズと話していて感じた一番の印象だった。特に今の霊夢にとっては敏感に感じるのだろうが。
自分のためって言ってるけど、それすらも『ホワイトスネイク』の手の平の上でしょうね…。
―――っていうか、何で自由になった私の元に来ちゃったのかしらね?偶然?
『創造主』の呪縛から飛び出した霊夢の元に『創造主』に未だ捕らわれているフー・ファイターズと出会った。
霊夢はこのことに何か作為的なモノがないか、ふと思ってしまった。
考えるだけ無駄ね。今、私ができることはこいつを、私と同じように自由にしてやること。
それが、こいつにとってそれがいいのか分からないけど……
霊夢が思うのは『創造主』に縛られた結果、何かを失う。そんな経験をしてほしくない、それだけだった。
とりあえずは、先に『創造主』から飛び立った先輩として、あいつに道を指してやるぐらいはしましょうか?
そんなことをぼんやりと考えながら今、情報交換をしている。
「それじゃあ、私がここに来るまで何をしていたかでも、話しますか…」
気乗りしないが、伝えないわけにはいかないことだ。それに、もうすぐ放送が始まる。
咲夜を失った悲しみ以上の重みを感じるだろう。
だからこれから連れ添う仲間ぐらいには、せめて話そう。
自由のために失った友人を背負えるようになった霊夢だが、
果たしてそれを最後まで背負い通すことができるのか、道中で潰されてしまうのか
時計を睨みながら、彼女はただ、その時を待つ。
【C-3 ジョースター邸(西側)/早朝】
【ファニー・ヴァレンタイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康
[装備]:楼観剣@東方妖々夢、聖人の遺体・左腕、両耳@ジョジョ第7部(大統領と同化しています)
紅魔館のワイン@東方紅魔郷、暗視スコープ@現実、スローダンサー@ジョジョ第7部
[道具]:通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を集めつつ生き残る。ナプキンを掴み取るのは私だけでいい。
1:遺体を全て集め、アメリカへ持ち帰る。邪魔する者は容赦しない。
2:形見のハンカチを探し出す。
3:放送後、霊夢たちと接触を図る。
4:
火焔猫燐の家族は見つけたら保護して燐の元へ送る。
5:荒木飛呂彦、太田順也の謎を解き明かし、消滅させる!
6:
ジャイロ・ツェペリ、
ジョニィ・ジョースターは必ず始末する。
7:ディエゴと連絡が取れないが…
※参戦時期はディエゴと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※幻想郷の情報をディエゴから聞きました。
※最優先事項は遺体ですので、さとり達を探すのはついで程度。しかし、彼は約束を守る男ではあります。
【博麗霊夢@東方 その他】
[状態]:右肩脱臼(処置済み。右腕は動かせますが、痛みは残っています) 左手首に小さな切り傷(処置済み)、
全身筋肉痛(症状は少しだけ落ち着いてきています)、あちこちに小さな切り傷(処置済み)
肉体疲労(中)、霊力消費(大)、全身打撲(大)
[装備]:いつもの巫女装束、アヌビス神の鞘
[道具]:基本支給品、自作のお札(現地調達)×たくさん(半分消費)
DIOのナイフ×5、缶ビール×9、不明支給品(現実に存在する物品、確認済み)
その他、廃洋館及びジョースター邸で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:この異変を、殺し合いゲームの破壊によって解決する。
1:放送を聞いた後に、紅魔館へ移動。
2:戦力を集めて『アヌビス神』を破壊する。殺し合いに乗った者も容赦しない。
3:フー・ファイターズを創造主から解放させてやりたい。
4:いずれ承太郎と、正々堂々戦って決着をつける。
5:出来ればレミリアに会いたい。
6:暇があったらお札作った方がいいかしら…?
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※太田順也が幻想郷の創造者であることに気付いています。
※空条承太郎@ジョジョ第3部の仲間についての情報を得ました。
また、第2部以前の人物の情報も得ましたが、どの程度の情報を得たかは不明です。
※白いネグリジェとまな板は、廃洋館の一室に放置しました。
※フー・ファイターズから『スタンドDISC』、『ホワイトスネイク』、6部キャラクターの情報を得ました。
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:右手軽い負傷(処置済み)、全身何箇所かに切り傷(処置済み)
肉体疲労(大)、F・F弾による弾痕(処置済み)スタンドパワー消耗(中)
[装備]:長ラン(所々斬れています)、学帽、ミニ八卦炉 (付喪神化)
[道具]:基本支給品、DIOのナイフ×5、缶ビール×2、不明支給品(現実に存在する物品、確認済み)
その他、廃洋館及びジョースター邸で役立ちそうなものを回収している可能性があります。
[思考・状況]
基本行動方針:主催者の二人をブチのめす。
1:放送を聞いた後に紅魔館へ移動。
2:花京院・ポルナレフ・ジョセフ他、仲間を集めて『アヌビス神』を破壊する。DIOをもう一度殺す。
その他、殺し合いに乗った者も容赦しない。
3:霊夢他、うっとおしい女と同行はしたくないが……この際仕方ない。
4:あのジジイとは、今後絶対、金輪際、一緒に飛行機には乗らねー。
5:霊夢との決着は、別にどーでもいい。
6:ウェザーにプッチ、一応気を付けておくか…
※参戦時期はジョジョ第3部終了後、日本への帰路について飛行機に乗った直後です。
※霊夢から、幻想郷の住人についての情報を得ました。女性が殆どなことにうんざりしています。
※星型のアザの共鳴によって同じアザの持つ者のいる方向を大雑把に認識出来ます。
正確な位置を把握することは出来ません。
※フー・ファイターズから『スタンドDISC』、『ホワイトスネイク』、6部キャラクターの情報を得ました。
【フー・ファイターズ@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:プランクトン集合体(むき出し)
[装備]:なし(本体のスタンドDISCと記憶DISC)
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット2
[思考・状況]
基本行動方針:スタンドDISCを全部集めるが、第2回放送までは霊夢たちと行動する。
1:霊夢たちと同行する、一先ずDISCは後回し。
2:寄生先の遺体の確保したいが、一応提案してみるか…
3:墓場への移動は一先ず保留。
4:空条徐倫とエルメェスと遭遇すれば決着を付ける?
5:承太郎、霊夢と話すのも情報の悪くはないな。
[備考]
※参戦時期は徐倫に水を掛けられる直前です。
※能力制限は現状、分身は本体から5~10メートル以上離れられないのと
プランクトンの大量増殖は水とは別にスタンドパワーを消費します。
※霊夢と承太郎から情報を交換しました。
【支給品紹介】
消防車
【出典:現実】
幼い子供の将来の夢―――ではない。火災を始めとする災害に際してその鎮圧や防御を行う際に使用される
特殊な装備を持つ自動車。日本では外装は主に赤色である。
モデルは指定してないが、水槽付消防ポンプ自動車の一種ではある。
ミニ八卦炉(付喪神化)
【出典:東方輝針城】
「跡形も無く丸焼きにしてやるぜ、この八卦炉でな!」
打ち出の小槌による魔力をスタンドパワーに変換させることで、再び付喪神化を果たしたミニ八卦路。
時間軸は東方輝針城終了直後だったので、わずかに残った自律性からスタンドパワーを回収しようとしたようだ。
付喪神となったので、自律して動くことが可能、火力の増大など利点はあるものの、
これらの恩恵を受けられるのはスタンドパワーを充電した本人のみになる。さらに燃費も悪い。
他の人が使うとただのミニ八卦路として機能する。どれほど付喪神状態が続くか、充電にどれほど要するのかは不明。
ジョナサンの研究ノート@現地調達
ジョナサン・ジョースターが記した石仮面の研究ノート。数年前にディオとの喧嘩によって偶然発覚した石仮面の仕掛けが、
ジョナサンを大学で考古学を専攻させるほどに興味を持たせるきっかけとなった。
石仮面の情報がジョナサンの視点で載っているはずだが、肝心の石仮面を用いれば吸血鬼になれるといった記載はない。
しかし、仮面に血が付着することで、骨針が動き出し脳を刺激するという事実なら載っているとされる。
最終更新:2015年06月08日 00:52