鳥獣人物戯文

「焼いてしまおう」と、霖之助が言った。

「うん、それしかないみたいだし、さっさと傷を焼いちゃおう」と、てゐが言った。

「焼くな」と、ジョセフが重たい、もつれる舌で言った。

「おや、起きてしまったのか。面倒なことだ」と、霖之助が文句を言った。

「焼かなくていい。小さな傷だ。
ただ止血をして、綺麗に拭いて、二、三針縫えば、それでいいんだ」と、ジョセフは不平がましく言った。

「だけど、私はまだ一回も手術をしたことがないの。折角の機会だし、別にいいよね? 
えっと、ハサミかな? ハサミで銃弾を取り除けばいいのかな?」と、てゐが疑問を口にした。

「ハサミは危ないよ。血管や神経を傷つける恐れがある。ピンセットも見当たらないし、
ここはもう手でいいだろう。他に手はないしね……フフッ」と、霖之助が笑い声を漏らしながら答えた。

「そういえば、手は洗ったの?」

「洗ってないね」

「だから、変なマネはやめろ。病院に連れて行ってくれ」と、
ジョセフは意識が霞みのように消え去りそうなのを何とか堪えて懇願した。 

「また余計な口出しをしてきたな。
ひょっとして手術の間、こんな調子でずっと話し続けるのかな」と、霖之助は皮肉っぽく文句を言った。

「病院だ。素人の手術はやめろ。病院に連れて行け」と、ジョセフは目を開き、起き上がろうとしながら言った。

「まだ喋る元気があるのか。何か黙らせる手はないものか」と、霖之助は驚嘆しつつも、冷静に呟いた。

「全身麻酔がいいんじゃないの?」と、てゐが天啓を受けたかのように晴れやかな笑顔で提案した。

「全身麻酔か。しかし、どうやって?」

「頭を思いっきり殴るとか」

「なるほど、妙案だ。アルコールを、たらふく飲ませるとかもいいな」

「傷口に塩をすり込んで、痛みで気絶させるとかもね」

「そいつは素晴らしい。じゃあ、早速塩を取ってこよう」

「ゾォ~。オーマイゴッド! こ、こいつら本気だ。オ、オレだけなのか。まともなのは……」


顔から一気に血の気が失せたジョセフは、失血のこともあってか、とうとう意識を失った。



      ――

   ――――

     ――――――――


荒木の不愉快の声――第一回放送を聞き終えると、
そこに訪れたのは圧し掛かるような重たい静寂であった。
十八人。あまりに多い失われた命の数だ。
しかも、その中に異変解決において名を知らしめた二人に、強者の代表格である鬼が含まれている。
その呆気ないまでの死は、如何にこのバトルロワイヤルが危険で絶望的なものかを、
放送に耳を傾けていた霖之助達に如実に分からせてくれた。


「正直、この人数は予想外だ。最初はもっと様子見に徹するかと思っていたよ」


霖之助は椅子に座り、のんびりと、気だるそうに微笑を顔に貼り付けながら呟いた。
果たして、その仮面に意味はあるのか。その答えは彼自身も気がついていただろう。
霖之助と相対している橙とてゐも同じく放送を聞いていたのだ。
しかも、笑みによって、何とか悲観を遠ざけようとしたのは、大した力もない半妖――霖之助である。
その効果は、火を見るよりも明らかであった。


「死んだ奴らも予想外だったね」


重々しい事実に顔を上げられないのか、目を伏せたままてゐは面倒くさそうに相槌を打った。
その視線の先では、彼女の手にあるマジックペンが、縦横無尽にジョセフの顔の上を動いている。
そのいたずらは、ウサギの単なる気まぐれなのか、それとも現実逃避の一環なのだろうか。


その答えが判然としない霖之助は、ぎこちない笑みを、困ったような苦笑に変えるのが精一杯だった。
自分が何をするべきなのか分からなかったのだ。てゐを怒ればいいのか、笑えばいいのか、あるいは励ませばいいのか。
放送によってもたらされた死と絶望が、薄暗い濃霧のように辺りに漂っているように霖之助は思えた。
目と鼻の先の相手が何をしているのか、何をしようとしているか、全然見えてこない。


霖之助は眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、縋るようにジョセフ・ジョースターに目を向けた。
彼こそ、殺し合いという暗中で、霖之助が確かに見つけた希望の光。
その黄金のように輝かしい光であれば、たちまちに迷霧を打ち払い、辺りを明るく照らしてくれるだろう。


だが、肝心のジョセフは、霖之助など露知らず、と呆けた顔を晒し、いまだに暢気に眠りこけている。
公然と灯された光に誘われたのは、何も霖之助だけではなかったというわけだ。
そしてそこで起きた激戦は、ジョセフの身体を痛ましいまでに傷つけた。
霖之助とてゐの慈愛溢れる治療により、どうにか彼の一命は取りとめたわけだが、
按配が優れないのか、どうにもジョセフが起きる気配はない。


もしかして、このまま起きることがないのだろうか。
霖之助が俄かにそんな疑問と不安を頭に浮かべた瞬間、彼は散々と悩んでいた問題――自分のやるべきことを唐突に理解した。


(そうか。光を絶やしてはならない。僕がやるべきことは、そういうことなんだ)


光が無くなれば、そこにはあるのは暗闇ばかりである。
血と腸(はらわた)が地面を彩り、その上では屍が無残に横たわり、死臭が蔓延する。
このバトルロワイヤルにおいて、希望が無くなれば、自ずとそういった暗澹とした未来がやってくるのだ。
生憎と、そんな絶望的で、陰々滅々とした光景を好むほど、霖之助は酔狂ではない。
であるのならば、そこにはジョセフのような煌々とした光が必要となってくるのは当然の帰結。
そしてその為に何をすべきか、霖之助は簡単に思い描くことが出来た。


「じゃあ、僕は行ってくるよ」


霖之助は晴嵐が吹き抜けたような爽やかな笑顔で言った。
その変貌に面食らったてゐは物凄い胡散臭い顔で訊ねる。


「どこにさ?」

「僕の店にさ」

「正気なの? 橙の話だと、そこにいる狐は殺し合いに乗っているんだろう? 私は自殺に付き合う気はないよ」 

「自殺か……言ってくれるね。
だけど僕の店先に人妖の首を並べてもらったら、たださえ少ない客が、また一段と少なくなってしまう。
それじゃあ、この異変を生き残った所で、僕は口を糊することすら出来なくなる。
まさか、てゐは僕に飢え死にしろとでも言いたいのかい?」

「場合によっては、その方がマシかもね」


実にそっけないてゐの言葉が、深く霖之助の胸に突き刺さった。
彼女の言うとおり最低最悪の最期が訪れる可能性もあるだろう。
少し楽観視していたかもしれない、と自省しつつも、やはり霖之助は自分の行動の必要性に疑いは持てなかった。


「大体、あの狐に会って、どうするの?」


無謀にも自分の考えを改める気配を見せない霖之助に向かって、
てゐは同情と嘲笑を器用にも混ぜ合わせた顔で訊ねた。


八雲藍を説得するよ。説得して、味方にする。光はたくさんあった方がいいからね」


霖之助は、この世の絶対普遍の真理を明かすように、自信を持って答えた。
てゐからの言葉は返ってこない。しかし「君は実に馬鹿だな」と、てゐはその憎たらしい顔で存分に告げていた。
その様子に、霖之助の顔から堪らず苦笑が漏れる。


「そういった反応をするってことは、自分でも馬鹿な行いだって理解しているんだね?」


霖之助のやるせない表情から、てゐは巧みに彼の感情を読み取って見せた。
しかし、そこに表れるのは誇らしさではなく、単なる呆れの混じった溜息だった。


「まさかてゐは僕の事を心配してくれるのかい?」


霖之助は押し寄せる不安を振り払うように、努めて軽口を叩いた。


「それこそ、まさかだよ。まあ、貴方の頭の中を心配しているっていうのは事実だけど」

「随分な言い草じゃないか、てゐ」

「否定出来る要素はあるの? というか、あの狐を説得する余地なんかあるの?
殺し合いに乗るというのは、曲がりなりにも知識と経験を兼ね備えた狐が出した結論だよ。
私には貴方がその両方を、あの狐以上に持っているとは、到底思えないよ」

「これでも僕は商人だよ。ふっかけた値段で相手を納得させる手は心得ているさ」

「まともな商人なら損得勘定ぐらい出来るけれど、アンタはそれすら出来ていやしないじゃないか。アレと知恵比べするのは、百年早いよ。
何を思いついたかは知らないけれど、アンタが頭の中に描いたのは、まさしく絵に書いた餅だ! 食べる手立てはないの! 分かった!?」


馬鹿な考えを臆面もなく披露する霖之助に苛立ちが募ったのか、てゐの語調は次第に激しいものに変化していった。
しかし、それでも霖之助の自信を揺るがすには足りないものだった。


「大丈夫、損得勘定はしているよ。その上での判断だ」

「じゃあ、根拠は何!? 死なない公算が高い、狐が説得出来る見込みがあるっていう根拠は!!?」

「いや、僕が言いたかったことは、そういうことじゃない。
僕が言おうとしたのは、ここで僕が死んでも、別に問題ないということさ。
実際問題、僕の死は、この異変解決の成否に何ら影響は与えない。
だけどそれとは逆に、八雲藍が持つ力や知識、経験は皆にとって必要不可欠なものとなる可能性が高い。
どうだい、てゐ? 何が損か得か、実に簡単な答えだろう?」


ペッ、とてゐは唾を吐きかけた。気に入らないのだ。
霖之助が自分の命ではなく、皆の命の為に、殺し合い全体の事を考えている。
しかも、自分のしていることは、この上なく正しいことだと言わんばかりに、霖之助は自信満々だ。
そしてその生意気な面で、てゐは霖之助に会った時から抱いていた己の苛々の原因をようやく理解した。


要するに正義感だか博愛主義だか知らない御大層な冠を掲げて、霖之助はこちらを下に見てきているのだ。
まるで自己保身を第一に考えるのは、卑小で惨めで情けない、と言外に言っているように。
実際の所は分からないが、少なくともてゐにはそう思え、自分が見下されたようなひどい恥辱を覚えた。
だからであろう。てゐの言葉に余計な棘が出てきたのは。


「アンタは八雲藍の所に行く! じゃあ、私らはどうなるのさ!?
まだ近くに馬鹿妖精はいるだろうし、また襲撃してくるかもしれないんだよ!
私達の命はいらないって!? 八雲藍の方が、私達より大切だって!?
それとも私達はこの先ずっと無事だって、根拠もなく信じているのかい!?
アンタが思い描いていることなんざ、自己犠牲に酔った単なる馬鹿の妄想でしかないんだよ!! 馬鹿ッ!!」


てゐは溢れ出す感情のまま、口角泡を飛ばす勢いで言い放った。
その常にないてゐの様子に多少泡を食ったものの、霖之助は落ち着いて返答する。


「大丈夫さ」

「はあ? 何がさ!? 本当に頭の中が腐ったの!!?」

「彼らを仕留める策がある」

「はいぃ?」


てゐは怒りも忘れて素っ頓狂な声を上げた。
自分の顔が間抜けなものになったのに気がついた彼女は、咳払いしつつ、慌てて顔に緊張の色を映す。
しかし、予想外の台詞に毒気が抜かれてしまったのか、どうにもそれは締まりのないものだった。
それがおかしかったのだろう、霖之助は声に微笑を含ませ、柔らかな口調で口を開く。


「策というのは、実に簡単なもので、罠を張るんだ」

「罠?」

「そう、罠だ。階段を上った所に少し大きな部屋があっただろう? あそこの中央にこのジョセフを置く。
周りに赤いペンキをぶちまけとくと良いかもね。チルノ達はジョセフの死体を確認する為に、彼に近づくだろう。
そこを天井か梁に隠れていた君達が一斉に弾幕を放つ。これで終わりだ。ね、簡単だろう?」

「ちょ、それ、その人間も死ぬでしょ!」


と、てゐがすかさずツッコミ、続いて橙が叫び声を上げてきた。


「ダメェェーー!! ジョセフお兄さんを殺しちゃダメーー!!」


キーンと耳が響いた。
今まで霖之助とてゐの会話を静かに窺っていた橙だが、ここは口を挟むべきと判断したのだろう。
恩人の命に関わるとなれば、それもむべなるかな。
しかし、そんな必死な橙に返ってきたのは霖之助の大口を開けた笑い声だった。


「ハッ、ハハハハハハッ。冗談だよ、冗談」

「冗談?」と、橙が怒りに安心と不安を混ぜ合わせ、恐る恐る訊ねた。

「手術の時も起き上がって文句を言ってきたし、またこんな冗談を言えば、彼が目を覚ますんじゃないかと思ってね。
どうやら目論見は外れたみたいだけど」


ジョセフは変わらず目を閉じ、いびきすらかいて、眠っていた。
見たところ、霖之助の冗談はおろか、橙の金切り声も耳に入らなかったらしい。


(やれやれ、随分と冷たいんじゃないか、ジョセフ・ジョースター?)


霖之助は心の中で独りごちた。橙の指先はふやけて血が滲んでいる。
彼女は止血させる際に負わせたジョセフの火傷を少しでも癒す為、何百回何千回と冷水で絞ったタオルで患部を冷やしているのだ。
幼い少女のその献身にいまだ応えないのは、男が廃(すた)るというものであろう。
尤もジョセフが起きない要因が怪我とは別にあるとしたら、霖之助が選ぶ選択肢も変わってくる。


「詮ずる所、僕は男女の関係の邪魔をしているということかな。なら、この森近霖之助はクールに去るとしよう」


霖之助が座っていた椅子から腰を持ち上げようとした。
すると、霖之助の気遣いは見当違いだったのか、
橙が急いで立ち上がり、そのあかぎれのある小さな手で、霖之助の裾を掴んできた。


「藍様の所に行くの? だったら、私も……!」


橙は目の端に涙を溜めて、霖之助を見上げながら、精一杯言葉を発した。
八雲藍にある恐怖は今なお残っているが、それを押し退け、何とか彼女は勇気を振り絞る。
八雲藍は恐いが、それ以上に優しい八雲藍に戻って欲しい気持ちがあるのだ。
だから、その為の手立てがあるのだとしたら、何とか助力したい。
橙は心の奥底から純粋にそう思った。だけど、そんな橙に返ってきたのは、霖之助のにべもない返事だった。


「いや。駄目。ノー。無理。断る」

「ふぇ?」

「君と一緒に行ったら、僕は殺されてしまうからさ」

「えーと?」

「八雲藍は八雲紫の為に参加者を殺したい。そしてこの殺し合いの参加者の数は多いし、会場の大きさもそれなりだ。
その上で早期の解決を望むなら、効率的に動く為、情報が必要となってくる。そこに僕と八雲藍との会話の余地があるんだけれど、
橙と一緒に行ったら、君から話を聞けばいいということで、僕の存在価値が無くなってしまうんだ。
つまり、出会った瞬間に僕の首は斬られるということになる。だから、僕の後を付いてくるのは、やめてくれ」


シュン、と橙はうな垂れた。
大好きな八雲藍に対して、何の役にも立てないという無力感が橙の中に生まれたのだ。
言い様のない哀しみが、橙を責め立てる。だけどしばらくすると、悲しいかな、
何よりも恐い八雲藍の前に行かなくて良いという安心感が橙を支配しだした。
そしてそれが済むと、今度はこの期に及んで尚、そんな感情を抱いてしまった自分に対する嫌悪感が橙を責め苛んだ。


下を見ていた橙の顔は、どんどんと陰鬱なものへと変化していく。
ひとしきりすると、もう橙が先ほど見せた一かけらの勇気は、綺麗さっぱり無くなっていた。
それに目ざとく気がついたてゐだが、別段慰めるわけでもなく、黙りこくった橙の代わりに霖之助へ言葉を放る。


「それでその先どうするの?」

「そこからは口八丁手八丁さ」

「口はともかく手なんかあるの?」

「あるよ。そこに」と、霖之助は横になっているジョセフ・ジョースターを指差した。

「……それってコレを連れて行くって事?」ポンとてゐはジョセフの軽い頭を叩いた。

「いや、そんな面倒な事はしなくても、彼自身がやって来てくれるさ」

「コレ、寝ているよ」

「起きるよ。きっとすぐに」


厚皮まとって、霖之助は疑いなく言い切った。そのどや顔に、てゐは思わずイラッとする。
しかし、彼女は山ほど思い浮かんだ反論の言葉を、霖之助にぶつけてやる気にはなれなかった。
てゐ自身も思ってしまったのだ。
幾度も逆転劇を見せ付けてくれたジョセフ・ジョースターなら、皆に危機が訪れた際に、またやってのけてくれるだろう、と。
その意を察した霖之助は慈母のような柔らかな笑みをてゐに送り、もう話すことはないだろう、と黙って家を出ていってしまった。


(なんかムカつくなー)


その場に残されたてゐは、いなくなった霖之助に文句を垂れた。
異変解決の為に自信を持って能動的に動く霖之助が、あろうことか輝いて見えてしまったのだ。
勿論、霖之助の力不足な点を考慮に入れれば、彼がすることは間違いなく愚行だと言える。
だけど、それでも彼の殺し合いを無事に解決したいという信念は、愚かとは程遠いものだ。
その点では、誰から見ても素晴らしいと言えるだろう。翻って、自分はどうか。
惨め、という言葉が真っ先に思い浮かんでしまったてゐは、苛立ち紛れにジョセフの頭を叩いた。


「ねえ、てゐ、そいうの止めようよ。ジョセフお兄さんは怪我しているんだから」


てゐの蛮行を見咎めた橙はおずおずと窘めた。


「はいはい。でも、マジックペンの時も言っただろう。これも治療に必要な行為なんだよ」

「で、でも……」

「そういうのはいいから。それとも何かい? 橙はコレの怪我が治らなくてもいいと思っているの?」

「ううん、そんなことない」橙は慌てて首を振った。

「じゃあ、することしなきゃ。そうでしょ?」

「へ?」

「ほら、マジックペン。怪我を治してくれる魔法の鉛筆だ。これでジョセフの顔に落書……ゲフンゲフン!
……ジョセフの顔におまじないを書けばいい。おまじないはペンを持ったら、自然と頭に思い浮かんでくる図形だよ」

「う、うん、分かった」

(よし! 共犯者ゲット!)


誇らしげにガッツポーズを取るてゐ。しかし、それはどうにも空しいものだった。
いつもしているイタズラが埋めてくれるの暇な時間であって、自らの心ではないのだ。
何だか、てゐは自分が空虚なものになっていくような感じがした。
自分のすることが全て無意味で無価値。だとしたら、果たして、そこに存在するべき理由があるのだろうか。


いやいや、とてゐは首を猛烈な勢いで横に振った。


(違うってば。何もしていないからって、自分を殺さなくてもいいの。
っていうか、私は霖之助に腹が立ってたんだよ。それを一体何故!?)


悶々と霖之助のことを考えていたら、またてゐの中に鬱憤が溜まり出した。


(大体、あいつ弱いくせに何なんだよ! 霊夢とかブチャラティとかの「力」のある人間が言うのだったら、
それは「強者の論理」として受け入れることが出来るよ。でも、あいつ弱いじゃん。私よりも弱いじゃん。
それなのに何であんな風に…………ッ!!)


最初に霖之助に会った時のような敗北感を、てゐはまた植えつけられた。
自分が卑しめられるような不快な感覚。それをこの先も抱えて生きていくのだろうか。
それはどうしようもなく絶望的で、どう考えても健康に悪いことだった。


それでは、てゐが望むような長生きは到底出来なくなるだろう。
それならば、取るべき選択肢は決まってくる。てゐは、この異変が始まって、初めてその重い腰を上げた。
自らの中に居座る不愉快な感情を拭い去り、霖之助をギャフンと言わせる神の如き一手を指す為に。


といっても、てゐは争いの渦中に身を投げ出す気はない。やっぱり自分の命は大切なのだ。
そんな掛け替えのないチップを、勝率の分からないギャンブルで失うような無謀は冒せない。
しかしだからといって、何もしないというわけでもない。
彼女には、唯一無二にして無謬なる手――人間を幸運にする程度の能力があるのだ。


そもそもの発端はジョセフ・ジョースターであった。
彼を治療している最中に、てゐは気がついた。ジョセフは並々ならぬ幸運の持ち主あることに。
かなりの浮き沈みがある(真に幸運なら、殺し合いに呼ばれない)が、その最大値はてゐが今まで出会った人間を越えている。


そのジョセフをラッキーアイテムで身を固め、さらに幸運にする能力でブーストをかければ、
かつて自分が幸運を一助として月人が施した仕掛けを破ったように、この殺し合いを打破することが出来るのではないだろうか。
てゐは、ジョセフ・ジョースターを間近で目の当たりにして、そんな風に思った。


たかだか寂れた古道具屋の主人を理由に行動を起こすのは、てゐにとって依然として癪なことだったが、
これで自らの身を危険に晒すということにはならないので、取り敢えず納得して受け入れ、
物は試しとばかりに、てゐは早速ジョセフに能力を使ってみた。


バタンッ!!




「うひゃっ!!?」


突然と窓が叩かれ、その音にビックリしたてゐは叫び声を上げながら、急いでジョセフと橙の影に隠れた。
チルノ達が襲撃してきたのだろうか。てゐは恐る恐る物音がした窓を眺めてみる。


「フクロウ?」


窓辺にいたのは一羽の鳥――フクロウであった。
襲撃者の正体を知ったてゐはホッと胸を撫で下ろす。


「んー、でもフクロウって死の象徴じゃなかったっけ?」


ジョセフを幸運にして招き寄せたのが死。
自分の考えは見当違いだったのか、とてゐは顔を赤くしながら頭を掻く。
しかし、落書きだらけのジョセフのマヌケ面を見て、その考えこそ間違いである、とてゐは気がついた。


「ああ、不苦労、福籠ね。最近じゃ、フクロウは幸運の象徴だっけ。ビックリさせんなよ」


エイッ、といまだ暢気にいびきをかいているジョセフの足を、てゐは蹴飛ばした。


【E-4 人間の里 虹村億泰の家/朝】

【ジョセフ・ジョースター@第2部 戦闘潮流】
[状態]:体力消費(小)、疲労(小)、胸部と背中の銃創箇所に火傷(完全止血&手当済み)
    DIOとプッチと八雲藍に激しい怒り、顔中に落書き、気絶中
[装備]:アリスの魔法人形@東方妖々夢、金属バット@現実
[道具]:基本支給品 、毛糸玉@現地調達、綿@現地調達、植物油@現地調達
果物ナイフ@現地調達(人形に装備)、小麦粉@現地調達
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。
1:待ち合わせ場所『香霖堂』に乗り込んで八雲藍をブッ飛ばすッ!
2:こいし、チルノの心を救い出したい。そのためにDIOとプッチもブッ飛ばすッ!
3:気絶中…
[備考]
※東方家から毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフなど、様々な日用品を調達しました。
 この他にもまだ色々くすねているかもしれません。
※虹村家の一階は戦闘破壊の痕があります。また凍り付いて破壊された『アラン』の人形が落ちています。


【橙@東方妖々夢】
[状態]:精神疲労(大)、藍への恐怖と少しの反抗心、ジョセフへの依存心と罪悪感
    指先にあかぎれ
[装備]:焼夷手榴弾×3@現実、マジックペン@現地調達
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョセフを信頼してついていく
1:ジョセフお兄さんの顔におまじないを書く
2:藍様を元の優しい主に戻したい。
[備考]
参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
八雲藍に絶対的な恐怖を覚えていますが、何とかして優しかった頃の八雲藍に戻したいとも考えています。
第一回放送時に香霖堂で八雲藍と待ち合わせをしています。
ジョセフの波紋を魔法か妖術か何かと思っています。
ジョセフに対して信頼の心が芽生え始めています。
マジックペンを怪我を治す為の道具だと思っています


因幡てゐ@東方永夜抄】
[状態]:健康 、霖之助にゐらゐら
[装備]:閃光手榴弾×1@現実
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット1、基本支給品、他(コンビニで手に入る物品少量)
[思考・状況]
基本行動方針:死にたくないので、異変を解決しよう。
1:保身を図りつつ、ジョセフを幸運にして、異変解決!
2:こーりんがムカつくから、ギャフンと言わせる。
3:暇が出来たら、コロッセオの真実の口の仕掛けを調べに行く。
4:鈴仙やお師匠様に姫様は…まぁ、これからどうするか考えよう。
[備考]
※参戦時期は少なくとも永夜抄終了後、制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。


【森近霖之助@東方香霖堂】
[状態]:健康、不安 、主催者へのほんの少しの反抗心
[装備]:なし
[道具]:スタンドDISC「サバイバー」@ジョジョ第6部、賽子×3@現実、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:対主催者を増やす。
1:香霖堂へ行って、八雲藍を説得する
2:ピンチの際にはジョセフが助けに来ることを祈る。
3:てゐとは上手く協力関係を築きたい。
4:魔理沙、霊夢を捜す。
5:殺人をするつもりは無い。
[備考]
※参戦時期は後の書き手さんにお任せします。
※ジョセフの戦いを見て、彼に少しの『希望』を感じました。


<マジックペン>
てゐが虹村家から調達した日用品シリーズ。
筆記用具の一つ。悪辣とも言える油性マーカー。
勿論、怪我を治す効果など、微塵もない。


<フクロウ>
死に際に二ッ岩マミゾウが、スタンドDISC「ドラゴンズ・ドリーム」を変化させた鳥。
ジョセフの幸運に導かれてやって来た。

092:Border of Soul 投下順 094:Green,Green
092:Border of Soul 時系列順 094:Green,Green
072:Trickster ーゲームの達人ー ジョセフ・ジョースター 114:燃えよ白兎の夢
072:Trickster ーゲームの達人ー 114:燃えよ白兎の夢
072:Trickster ーゲームの達人ー 森近霖之助 111:リンノスケ・ザ・ギャンブラー
072:Trickster ーゲームの達人ー 因幡てゐ 114:燃えよ白兎の夢

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最終更新:2016年01月16日 18:44