第055話 会合 × ボス郎 × DEATH NOTE ~そして対主催へ ◆7NffU3G94s


三井の表情に戸惑いが生まれる、恐らく意味を把握できていないのかもしれない。

川島清志郎や。覚えとけ、お前がのほほんとしてる時俺は誰かを手にかけとる。
 覚悟せえ、次会うたらその首必ず落としてやる」
「ま、待て! 行かせるか」


その場から離脱を図るべく駆け出す川島を、慌てて追おうと三井も動こうとする。
しかし蓄積されたダメージがそれを許さない、ガクンと膝が崩れ三井はその場に尻餅をついてしまった。

「ちっく、しょー……」

遠ざかる川島の背中、しかし三井が追跡することは叶わない。
悔しさだけが込みあがる、何も出来なかったという無念の思いだけが三井の胸中を締めていた。

「み……つ、い……」

それは、小さな小さな呟きだった。
三井も最初は幻聴であると、そう思い込みそうになってしまったほどである。

「みつ、い……」

しかし、声は再度投げかけられた。誰に対してか。勿論、三井に対してである。

「魚住っ!!」

重い体を擦るようにして、三井は横たわっている魚住のもとまですぐさま駆け寄った。
表面が乾きかけた赤い土の上、その生臭さがあまりにも悲しく思えるそんな状態で魚住は薄く目を開け虚空を見つめていた。

「魚住……」

慌ててその手を取る三井、そうすることで魚住に自分が傍にいることを気づかせようとしたのだろう。
ゆっくりと眼球が動き、魚住のそれが三井の視線と重なり合った。
同時に緩められた頬を見て、三井の中に何とも言い難いせつなさが込みあがってくる。

「逃げればよかったんだ、俺なんかのこと気にしないで……」
「お前、だって……あいつのこと、見捨てなかったじゃ、ないか……それと、一緒……さ」

魚住の言葉の表す男、ジャガーの存在を三井はここに来て思い出した。
振り返り後方を確認すると、ぐでんと草の上に寝転んだまま微動だにしないジャガーの姿が三井の目に入る。
川島のアイアンクローをくらったことで、そのまま気絶したのかもしれない。
だが今はそんなことを考えている場合ではない、三井はかぶりを振って頭の中からジャガーのことを除外した。

「それにな……」

魚住の声、何かを紡ごうとしている掠れたそれを聞き逃さないよう三井はとにかく耳をすませる。
そして、言葉をせかさぬようにと魚住に次の言葉を静かに待った。

「は、はは……俺ぁ誓ったんだ……よか、ったよ、お前が無事で……」
「魚、住……?」

この状況で笑顔を浮かべる、魚住の意図が三井には分からなかった。

「赤木の代わりに……守れて、良かった……」
「えっ?!」
「あんな目に、あったあいつが……一番、苦しかったろう……三井ぃ、俺達の分も生きろ……それ、で……」
「あ、諦めんなよ! そんなこと言うんじゃねーよ……っ!」

徐々に白くなっていく魚住の顔が、唇が、物語っていた。
しかし今の彼の状況を、それを三井が認めるわけにはいかなかった。

「一緒に帰ろうぜ! そんな、ここで終わりだなんて……諦めんな、よ……」
「お前は……諦めんなよ」
「魚住!!」

閉じられた瞼、呼吸を繰り返していた口の動作も消えていく。
三井は両手で、ただただ強く魚住の右手を握っていた。
目を開けて、また言葉を綴ってくれと。ただただそれを願いまた魚住の名も呼んだ。

途端ぎゅっと痛むくらいの感覚が手に伝わる、魚住のごつい手が三井の手を握り締めていた。
握り、返していた。
三井の表情に希望が灯る、しかしそれは一瞬のこと。
それが、魚住の最期だった。



『諦めたらそこで試合終了だよ』

誰の言葉だったか。
不意に蘇ったのは三井がもう一度バスケットボールを手にすることになった際にも思い出した、中学時代に安西から言われた台詞だった。
しかし今、その安西こそが問題の渦中にもなっている。

『優勝を成し遂げたいのなら、もはや何が起きても揺らぐことのない断固たる決意が必要だ。最後まで……希望を捨てちゃいかん。諦めたらそこで試合終了だよ』


あの時の言葉は、既に形を変え違う目標を強要している。
どうして安西があのような立場にいるのか、どうして安西はこんなことを自分達にさせているのか。
三井が分かるはずもない。理解できる、範疇ではない。
しかし、これだけは三井の中でもはっきりとしている事実だった。

「安西先生……」

何故魚住が死んだのか。
何故、川島という男が魚住を殺したのか。
このような状況を作り上げたのは、誰か。

仕掛けた側の人間……つまり安西達が、諸悪の根源であった。

川島に対する怒りが消えた訳ではない、何であれ人を殺す側に回った人間を許せるほど三井も懐が大きいわけではない。
憎かった。何の罪もない魚住を手にかけた川島のことが。
憎かった。そんな川島のような男を島に放った安西達のことが。

三井の中に憎悪と呼べるはっきりとした感情が、生まれだす。
それはしんしんと降る雪のように積み重なっていき、三井の心を埋めていった。

「……今、あなたにできる最善のこと。教えてあげようか?」

背後から投げかけられた言葉。
三井も気づいていたが、敢えて無視を決め込んでいたその気配がついに自己主張を始めてくる。
三井は振り向くことなく、黙ってそれを聞いていた。

「こんな殺し合いを止められれば、もう誰も悲しまないって思わない?」

静かな問いかけ、少女の声に聞き覚えはなく「ああ、この子は晴子ではない」程度のことしか三井は思えないでいた。
次の、一言までは。

「鎌石村小中学校、そこに主催側の人間がいるの。そこを陥落させれば、この殺し合いを終わらせることができるのよ」

ゆっくりと振り返る三井の目に、短いスカートと細くとも健康的な太ももが目に入る。
視線を上げれば、風に揺れる短い栗色の髪が印象的な同じ年頃の少女の姿が確認できた。
少女の表情は硬かった。しかしその深い決意が伝わってくる意志の強い瞳は、三井の全てを覗こうとするかのごとく真っ直ぐに彼の姿を射っていた。

「……お願い、一緒に来て。あなたにも協力して欲しい」

少女が言う、そしてそのまま頭を下げる。
三井はその一部始終を眺め、少女の必死さを噛み砕くように憎悪の隙間へと浸透させた。

「この人のような犠牲を、もう出したくないの」

頭を上げた少女が、三井の後方を見やりながら言葉を吐く。
三井も振り返る。そこにあるのは、身動きを止め冷たくなりかけた魚住の遺体が横たわるだけだ。
……しかし、それが決定打だった。

もはやいくら三井が力を込めても、魚住がその手を握り返してくる気配はない。
三井は静かに魚住の手を胸の前に持っていき、もう片方の手と組ませるようにそれを置いた。
痛む体を起こし、三井はそのまま少女を無視して茂みの方へと進んでいく。
あの時川島目掛けて投げた自身のデイバッグは、変わらぬ姿で主君である三井を出迎えた。
肩にしょいなおすと慣れた感覚が蘇る、足を止めず三井はそのまま茂みの奥へと踏み入った。
そこには、川島の手から離れたモスバーグが所在無さげに転がっていた。
ゆっくりと屈み回収し、銃を自身のデイバッグへと仕舞おうとする三井。
バッグを開けた瞬間三井の目に飛び込んで来たのは……三井自身へと支給された、一つのバスケットボールだった。

そう、バスケットボール。
三井とあの輝かしい日々を繋ぐ、唯一の絆。
……この殺し合いを終わらせることで、本当にあの日々に戻れるのか。
赤木のいない湘北が、魚住のいない陵南が三井の望んだ日常な訳はない。
しかし、それは既に起きてしまったことである。
もう取り戻せない、欠けたピースは永遠に今三井の存在する世界にはめ込まれることは無い。
最初からそうだった、この島に放り投げられた時点で赤木はもう……世界から、弾かれていたのだから。

その上で、何を望むか。
今だ会えぬ仲間達を、晴子を救おうとするならば何をするべきなのか。

「行くさ、行ってやるさ。……さっさと終わらせてやるよ、こんな馬鹿げたこと」

呟かれた言葉は、今の三井の心情を吐き捨てたものである。
拳を握り締め、決意を露にした三井は振り返り……迷うことなく、少女の下へと歩みだすのだった。



軽い自己紹介の後、虎鉄が三井に事の説明をしている間つかさは少しだけ物思いに耽っていた。
銃声のした辺りまで駆けて来て、争う三井達の姿を発見した時つかさは襲われている側の人間が真中淳平であると判断してしまった。
遠目から黒の学ランが視界に入ったことで誤認してしまったのだろう、飛び出しそれが淳平でなかったことに対しつかさは自分の浅はかな行動をひどく後悔した。

しかし、それで得たものはこんなにも大きかった。
魚住と三井のやり取りを、つかさは隣にて佇む虎鉄と共に黙って眺め続けていた。
彼等に何が起きたのか、途中から輪に入ることになったつかさが知る由もない。
それでも、失われていく命を目の前に必死に抗おうとする三井の姿はつかさの心に響くものであった。
苦渋に満ちた嘆きが慟哭の塊と化す前にと……気づいたら、つかさはその手を差し伸べていた。
一緒に戦って欲しい、確かにそれも勿論あっただろう。
だがそれ以上に、つかさにとっては彼がこのまま悲しみに潰れてしまったらといった心配する思いの方が強かった。
亡くなった男が三井とどのような関係にあるかは分からない、でもそれがつかさにとっての淳平的存在であるならば……想像しただけて、つかさの涙腺は緩みだすほどのことだった。

そして同時に思ったこと。
ああ、本当に人が死ぬようなことがあるのだとつかさは再認識させられる。
殺し合わせられているということ、それに乗ってしまう人間もいるということ。
一刻も早く、こんな殺し合いを終わらせたいとつかさは心の底から思うようになっていた。
それは自然と、筋は違うものであるが三井の思いとも最終的に重なり合うことになる。

「ん? どうしたんDa、ぼーっとしてるZe?」

はっとなるつかさ、気づいたら虎鉄も三井もこちらに顔を向けていた。
慌てて笑顔を取り繕うつかさに近づき、虎鉄はそっと耳打ちする。

「いやいやかっこよかったZe、お姫様。危うく惚れ直すところだったYo」

虎鉄の賛辞を素直に嬉しく思うつかさだが、一緒に飛んできたウインクに対しては思わず苦笑いを零してしまう。

「それじゃ行くZe、早くしねーとハニー達が待ちくたびれちまうYo」
「あ、ちょっと待ってくれ。あいつがまだ気絶したままで……あれ?」

少し離れた場所にて倒れていたジャガーの姿は、いつの間にか掻き消えていた。
おかしい、三井が慌ててその近辺へと足を運ぶものの人の気配は全く感じられなかった。
その時、くしゃっと三井の靴が何か紙のような物をを踏みしめる。
慌てて地面を確認する三井、そこには一枚の葉書が落ちていた。


『ミッチーへ

 ボス郎の敵を取ってくる。
 あと、先に平瀬村行ってる。
 あと、俺の分の海老カツは取って置いてくれ。

                あなたのジャガーより』


「……」
「どうしたのKa?」
「いや、何でもない。急ごう、時間がないんだろ?」

くしゃっと葉書を握り締めズボンのポケットにつっこむと、三井はそれを無視して爽やかな笑顔を二人へと送った。
そして、いつの間にか魚住の振るっていた鉈を手にしていた虎鉄を先頭に、三人は一斉に走り出す。
勿論目的地は鎌石村小中学校。主催する側の人間が、いるはずの場所である。


    * * *


「はて。ここはどこだろうな」

高原池にてノート片手に立ち尽くす男、ジャガーは辺りを見渡しボソッと呟いた。
っていうか、ここでもまたジャガーは道に迷っていた。

「おーい! カワシマ~~! か~わ~し~ま~! 出てこーい!」

呼んでも出てくる気配はない、ジャガーはポツンと一人残されている。
前を向いても、後ろを向いても、横を向いても。誰も現れる気配はない。

「くそっ、けしからんヤツだな……カワシマめ、どれどれ早速この呪いのノートに書いてやる!!」

―― 一分後。

「よし! これであいつも終わったな」

ジャガーは満足そうに微笑みながらノートを閉じ、今度こそ本当に平瀬村を目指し歩き出すのだった。
ちなみに、ノートは一度使用を試みると六時間の制限があるので、勿論これで川島が死ぬわけはなかった。
その上ジャガーがノートに書いた名詞は「カワシマ」というフルネームでもなければ漢字にすら変換されていない文字だったので、絶対これで川島が死ぬわけはなかった。
っていうか実はこのノートはジョバンニの複製バージョンなので、人を殺すという行為自体がそもそもできるわけなかったのだ。
とりあえず、ジャガーの行為は全て無駄の一言で片付くことになる。

「フ~、さっぱりさっぱり」

表面だけの爽快感に酔いしれるジャガーがその真実を知る気配は、今の所……全く、なかった。



そして、そんなはた迷惑な男にまで名前を知られてしまった男、川島はというと。

「ふ~。あたいとしたことが恐怖のあまりウン時間も無駄にしちゃうなんて、これじゃ犬っコロにも笑われてってうわあぁ?!」

こっちはこっちで、また厄介な輩に出会ってしまっていた。
あの場を離脱することに成功した川島は、進路を南西に取り平瀬村へと向かおうとしていた。
とにかく今彼が優先すべきことは、魚住に切られた左腕の怪我を治療することである。
鎌石村から新手の参加者が現れたことであの村を探索することを諦めた川島が、次に狙いを定めたのが平瀬村だった。
医療の道具があるならば場所はどこでも良かったというのが、川島の出した結論なのだろう。
気配を消しながら、川島はただ黙々と足を動かしていた。
治療もそうだが、失くした獲物の存在も大きい。
殺し合いをする上での道具の確保も必要となり、川島はその悪すぎる幸先に苛立つ思いを隠せないようで小さく舌を一つ打つのだった。

ちょうどその時だった、偶然と呼ぶしかない神様の与えたカウンターヒットが川島に直撃する。
目の前には同世代の男子高校生が、よく分からないことををブツブツ呟いていたと思ったら川島を見やるなりいきなり大声を上げてきた。
見通しの悪い森林地帯ということもあり、お互い目で見える範囲に近づくまで気づかなかったのが原因であろう。
二人はかなりの近距離でばったりと会うことになった。
川島は顔をしかめながら、すぐに構えを取り現れた少年にいつでも殴りかかれるよう準備する。
怪我をしている身では無理はできない、最低限の動きで相手を止める必要があると川島は改めて気を引き締める……が。

「って、おい?! 何だその怪我はどうした誰にやられた、救急車救急車参加者の中に医者はいませんかーー!!!」

少年は無防備にも、川島が殴りかかろうとしているにも関わらず彼の元へとすぐさま駆け寄って行った。
血に染まった白い学ランというのも確かに目立つ、朝焼けの中主張する赤の大きさが少年を焦らせる原因にもなったのかもしれない。

「騒ぐな、黙らんかい」

顔をしかめドス声を上げる川島、だがそれでも少年が怯む様子は無い。

「うげ、結構切れてんな」

川島の断りも無く、少年はいきなりその傷を覗き込んできた。
余りにも大胆な行動、この少年が何を考えているのか川島の中でも疑問は膨らんでいくばかりである。

「血はもう乾いてんのな。傷洗ったりしたか、ちょっとコレ脱いでみろよ」
「……」
「おら、早く早く」

何やら自身のデイバッグを漁りだす少年、ここで油断させておき仕留めようとしてくるか……川島は隙を作らず、少年の動きを見つめ続けた。

「あ? 早くしろって」

しかし次の瞬間彼が取り出したのは、川島にも支給されているデイバッグに詰められていた飲み水の入っているペットボトルだった。
……どうにも、この少年は人を疑おうとする気配が無い。
それでもおかしな動作をしないか見張りながら、川島は詰襟を開け傷のある片腕をさらけ出す。
生地と擦れることで痛みを感じるものの、傷の出血自体は既に止まっているようだった。

「ああん、美味しそうな上腕二等筋。明美、思わずかぶりつきたくなっちゃう♪」
「……」
「じょ、冗談だって。そんな怖い顔すんなよ……。ほれ、ちょっと沁みるかもしんないけど我慢してくれ」

熱。直に空気にさらけだすことで感じた肌寒さの中で与えられた温かさは、川島の腕を固定するためにと添えられた少年の手の温度だった。
しかしそれも一瞬で掻き消える、次の瞬間ドパドパと水をかけられその感触に思わず川島も顔をしかめる。

「ちょっと待ってろよ」

半分ほど減ったペットボトルに蓋をした後、少年は川島の目の前で着ていたシャツを脱ぎだした。
そして、そのまま左腕部分の布地を裂く。

「こうして、こうしてっと……うーむ。とりあえずさっさと清潔なもんに取り替える必要はあるだろうけど、今はこれで勘弁な」

川島が何か言う前に患部に布地を巻き上げると、少年は満足そうに笑った。
そんな、一連の流れ。川島は呆然となっていた。
殺し合いに投げ込まれた状況でこんなにもお人よしな行動を取るこの少年の存在が、川島にとって想定の範囲外なのだろう。
あくまで少年のペースに乗せられ、呆気に取られながらも川島はこのような応急手当を受けたことになる。

「俺は猿野天国。あんたは?」
「……」

猿野の声かけを無視したまま、川島はただ自分の世界へと入っていた。
そして思い出されるのは、川島が兄の仇を討つべく徒党を組んでいた時のことだった。
そう、この島に来て川島が最初に否定した彼の経路である。
手駒だろうが何であれ群れるという行為を否定したあの時の決意を思い出し、川島は揺れ始めた感情を再び凍結させるべく自身の拳をぎゅっと握り締めた。

川島の心中に気づかないからか、猿野は人懐っこい笑顔を浮かべながらもずっと自分のことを話し続けていた。
参加者の中には知り合いでもある心強い仲間がいるということ、そして最後はこの主催であるオッサン共を倒してやりたいと猿野は語る。

「なあなあ、あんたも協力してくれよ。人手は少しでもあるとありがたいからよ~」
「……」

夢を語るということ、そんな猿野の様子は昔の川島の姿とも重なる所もある。
自覚のないその愚かな様、吐き気がする程前向きな姿勢を前に川島の心は邪悪な考えに染まっていた。

―― ああ、汚してみたいと。その希望を、目の前で折り曲げてやりたいと。

気づかせてやりたかった、仲間を集めるという行為が弱者の持つ群集心理の塊であることを。
見せつけてやりたかった、本当に力ある者が行える覚悟の違いを。

『何が起きても揺らぐことのない断固たる決意が必要だ』

今一度、あの最初に集められた場所で聞いた台詞を川島は反芻する。
そう、一度固められた川島の決意は揺ぎ無く、今もこうして彼の行動理念の一つとなっていた。
それは決して破られることのない、川島の意思の強さでもある。

「そういえば、その傷誰にやられたんだ?」
「……んかい」
「は?」
「黙らんかい、クソが」

視線を定め、川島は調子付いている猿野を押さえるべく低い声で脅すように言葉を出した。
猿野も三井も、川島からしてみれば皆同じだった。
仲間が何だ、目の前の事態を整理した上で優先順位を誤る人間を川島は認めようとは考えない。
主催を倒すだの、そんなことはどうでもいいのだ。
ただ生き残るために武力を振るえるかどうか、その覚悟がないならば身をもって教えてやるだけである。

「うわ、わ、わっ!」

左腕を庇いながら放たれた川島のパンチ、空を切っていく目の前の情景に思わず猿野は腰を抜かす。
何が起きたか理解しきれていないだろう、それでも反射的に軌道から逃れることができたのはひとえに猿野の身体能力の高さである。

「理想を語って、潰れろ」

深追いはしなかった。川島は万全ではない自身の状態を読んだ上で、猿野に背を向け歩き出す。
猿野が追ってくる様子はない、川島も振り返ることなくただ足を動かし続けた。
それは揺らぐことの無い断固たる確かな決意である、川島は瞳を真っ直ぐ正面に据え自分の信念を貫こうとする。
まずは当初の予定通り平瀬村へ、そして腕の治療を済ませたら川島は新たな武器を手に入れるべく村を探索するつもりだった。
新たな武器を見つけることができたならば……もう、決まっている。
行動を起こすにしても力が及ばないのであれば意味はない、しかし川島には成し遂げられるだけの実力があるということ。
あくまで川島の目的は、この殺し合いから生き延び優勝することである。

仲間という概念を捨てた男は孤独であり、孤高でもある。
兄を失った原因とも言える「信頼」という名の心理的メカニズムを掻き捨てた今、川島の道を邪魔するものはなかった。
そんな一方的に遠くなっていく川島の背中を、猿野は黙って見送ることしか出来ないようだった。

「なんなんだ、あのツンデレは……」

一人ごちるものの下半身に力が入らないのか、猿野は立ち上がることができないようでしばらくその姿勢を保つままだった。
怪我をした同年代の厳つい男、愛想は良くないものの決して悪い人間だと猿野は思わなかった。
それは直感としか表すことができない一種の勘でしかないが、それでも猿野は川島からこのような仕打ちを受けることをなど思ってもみなかったのだろう。
俯く猿野の表情に、本来彼の持ち味でもある活気な面が浮き出ることはなかった。

ふと。その時猿野の心を占めたのは、初期に感じた恐怖としか呼ぶことの出来ない心細さも含まれる感情だった。
三人の主催者による見るも無残な宴の合図、その始まりを着飾るショーの如く晒された男の生首。
怖いと思った。ふざけるタイミングすらもそこには微塵も無く、猿野は目の前の事態に対し何も出来なかった。

「くっそー……っ」

悔しいと思った。いつものテンションを保てずこんな情けない状態になってしまう自身に対し、猿野は歯がゆさを隠せなかった。
心の靄を拭うべく大きく頭を振る猿野、パンッと両手で頬をはたいて自身に渇も入れ直す。

「よし、悩むの終わり! とにかくキザトラ先輩達を早く見つけないとな」

川島の去っていった方向とは逆方向へと目を向けながら、猿野はゆくりと立ち上がる。
この島に放り込まれたという状況に対し、竦み上がる思いを抱えたままの猿野が踏み出すその一歩。
まだ震えが残る足では、ほんの僅かな距離しか刻めなかった。


【C-04/1日目・午前5時前】
【女子12番 槇村香@CITY HUNTER】
状態:健康
装備:ラケット(テニスボール×3)@テニスの王子様
道具:支給品一式
思考:1.鎌石村小中学校へ太尊と向かう
   2.リョウと合流
   3.虎鉄、つかさと協力
   4.冴子、海坊主を捜す

【男子33番 前田太尊@ろくでなしBLUES】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式(※ランダムアイテムは不明)
   虎鉄のデイバッグ(包丁、まな板、皿、フォーク、ロープ、鋏、ライター、支給品一式、ランダムアイテム(不明)入り)
思考:1.鎌石村小中学校へ香と向かう
   2.千秋を見つけ、守り抜く
   3.ヒロト、小平次、中島と合流


【D-02/1日目・午前6時前】
【男子08番 川島清志郎@ろくでなしBLUES】
状態:左腕に切り傷あり(現在猿野のシャツの布が巻かれている)
装備:モスバーグM590の予備弾20
道具:支給品一式
思考:ゲームに乗っている
   1.平瀬村に向かい改めて傷の手当てをする
   2.その後武器などを見つけ、再び参加者を襲う

三井寿を要注意人物と判断(容姿のみの情報)
※猿野天国の知人の情報を得ている


【男子16番 猿野天国@Mr.FULLSWING】
状態:健康(シャツの左腕部分の袖がない)
装備:縦笛@ピューと吹く!ジャガー
道具:支給品一式 (水半分程消費)
思考:ゲームに参加させられたことに対する戸惑いが拭いきれていない
   1.虎鉄、もみじ、御柳と合流する (現在北部に移動開始)
   (自衛できる武器を持っていてゲームに乗ってない奴とも合流したい)
   2.主催者を潰す

※川島清志郎に不信感を抱く(容姿のみの情報)

【C-03南部/一日目・午前5時半ごろ】

【男子37番 三井寿@SLAM DUNK】
[状態]:満身創痍
[装備]:無し
[道具]:モスバーグM590(弾数8+1)、バスケットボール@SLAM DUNK、支給品一式 、ジャガーからのメッセージ入り葉書
[思考]:ゲームに乗った参加者、主催した面子に対し激しい憎悪を抱いている
    1.つかさ、虎鉄と共に鎌石村小中学校へ向かう
    2.湘北メンバーと晴子を探す
    3.生き残って、バスケのある日常へと帰る

※川島清志郎を危険人物と判断
※ジャガーの知人の情報を、名前だけ知っている
 (ピヨ彦、ハマー、高菜)

【女子09番 西野つかさ@いちご100%】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式(※ランダムアイテムは不明)
思考:淳平やほかの参加者を守るためにも、早く殺し合いを止めさせたい
   1.鎌石村小中学校へ虎鉄、三井と向かう
   2.真中と合流
   3.香、虎鉄と協力

※川島清志郎を危険人物と判断


【男子11番 虎鉄大河@Mr.FULLSWING】
状態:健康
装備:大きめの鉈
道具:無し
思考:1.鎌石村小中学校へつかさ、三井と向かう
   2.香、つかさに協力
   3.可愛い女の子と仲良くする

※川島清志郎を危険人物と判断

【D-04高原池/1日目・午前6時前】

【男子17番 ジャガージュン市@ピューと吹く!ジャガー】
状態:健康
装備:なし
道具:支給品一式 DEATH NOTE(複製ver) ハガキ19枚
思考:1.平瀬村へ向かいピヨ彦と高菜を探す
   2.湘北メンバーに会ったら魚住のことを伝える

備考:DEATH NOTEについて
DEATH NOTEはジェバンニの複製バージョンです、なので人を殺す機能などは一切ありません。

※川島清志郎は死んだと思っている

【男子4番 魚住純@SLAM DUNK 死亡確認】

【 残り51人 】




結成!?対主催チーム 槇村香 夢から醒めた夢
彷徨い人 前田太尊 夢から醒めた夢
決別、そして目覚め 川島清志郎
宇宙最強のスラッガー 猿野天国 サルノコシクダケ ~語るべきは理想ではなく~
湘北の柱 三井寿 果てしなく青い、この空の下で
結成!?対主催チーム 西野つかさ 果てしなく青い、この空の下で
結成!?対主催チーム 虎鉄大河 果てしなく青い、この空の下で
ハガキは盗んだ ジャガージュン市 ボス郎が繋ぐ縁
ハガキは盗んだ 魚住純 死亡

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最終更新:2008年04月02日 17:49