「閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。閉じよ(満たせ)。
繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。」
KASHIWAGI FREE JOURNAL INTER-OFFICE CHAT :SECURYTY LEVEL E
hitsuki:着いたー?
seiji__:―――あのさ、こっちもう深夜なんだけど。
hitsuki:あははゴメンゴメンこっちまだ午前でさ。オランダの空気はどう?
seiji__:ん、悪くない。ただね、これでただの旅行ならもっとよかったんだけど?
hitsuki:仕事はしっかりやりなよ。私は日本からそう動けないんだから。
―――オランダで次々起こる不可解な現象のネタ、ばっちり掴んでくるんだよ!!
seiji__:そんなもんマスコミに任せりゃいいじゃん…大体なんだよ謎の発光現象だの黒魔術の痕跡だの怪しいオッサンだの。
後半ただの不審者情報じゃん。
hitsuki:絶対なんかある。とびきり凄いなんかが。私の魂がそう言ってる!
seiji__:はいはい魂すごいですね。―――いい加減眠いから切るよ?おやすみ姉さん。
hitsuki:ん、おやすみ。星ちゃん。
hitsuki:{通話を終了します}
「――――――告げる。」
KASHIWAGI FREE JOURNAL INTER-OFFICE CHAT :SECURYTY LEVEL A+
seiji__:―――ちょっといい?姉さん。
hitsuki:何々?こんな深度で話なんて?一週間でさっそく情報掴んだ?
seiji__:超常現象とやらが僕の身に起こった。かも。
hitsuki:マジで!!?
seiji__:大マジ。左手に入れ墨?痣?みたいなのがある。しかも偶然のものとは思えないぐらい形が整ってる。
今から画像を送るよ。
hitsuki:オッケー。他にバレないように通話切れたら同時にログ消去するよ。さぁいつでもどうぞ!
seiji__:zu25876943.jpg
seiji__:―――姉さん?
hitsuki:{通話を終了します}{ 3 秒後に通話ログが消去されます}
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。」
KASHIWAGI FREE JOURNAL INTER-OFFICE CHAT :SECURYTY LEVEL EX
seiji__:―――ねぇ、どうしたの姉さん?こんな場所にまで。
hitsuki:これ資料。指令書も入ってるからしばらくはそれに従って。
xa26483.zip
英霊ゆかりの品は入手できなかったよ…この手の品が最近よく消えてるってのもある意味信憑性あるけど。
seiji__:…何コレ?さっきから何言ってんの?
hitsuki:例の超常現象の裏が取れた。聖杯戦争。魔術師達が英霊を呼び出して何でも願いを叶える聖杯求めて殺しあう儀式が始まろうとしてる。
―――ってのが例の入れ墨の解析結果。アレがこの戦争の参加資格ってわけ。
seiji__:聖杯?魔術師?なんだか穏やかじゃないねぇ。
hitsuki:―――で、その穏やかじゃない戦争に参加してほしいんだけど。
seiji__:―――マジで?
hitsuki:大マジ。
過去の記録とすり合わせてみたけど、この戦争、なんかおかしな点が多い。もう表で公表できるネタじゃないけど、
―――とんでもないのが隠れてる気がするんだ。面白いと思わない?
seiji__:根拠は、魂?
hitsuki:うん!
seiji__:―――わかったよ。やりゃいいんでしょ。終わったらボーナス出してね。今度はイギリスあたりでゆっくり休みたいなぁ。
seiji__:{通話を終了します}
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。」
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
―――
―――――
―――――――
「―――――――――」
できた。
溢れだした魔力は光となり、塊となり―――人の姿を成して、唐突に静かになった。
魔力は消失してなどいない。目の前のヒトガタに全て凝縮されている。近づけば蒸発してしまいそうなエネルギーが、その中で脈動している。
召喚を行った少年が、ヒトガタに問いかける。
「―――君が、僕の呼んだ―――サーヴァント?」
それは騎士の姿をしていた。身を包むのは物々しい黒い鎧。装甲は細かく分割され、重量はあるが強度と動きやすさを重視しているようだ。
騎士は剣を持っていた。騎士の身の丈に合わせた長大な直剣。鎧共々剣も漆黒に染まっていたが、その造形は禍々しさを否定するような美しさをも感じさせる。
そして―――その剣を携えた騎士には少し違和感があった。禍々しい黒の魔力すら、意識から遠のくほどの違和感が。
顔を上げて、騎士が応える。
「―――召喚に応じ参上しました。……貴方が、私のマスター、というものなのですね。」
女の、顔。
―――漆黒の鎧に身を包んだ騎士は、女性であった。
窓から差し込む月明かりに照らされたその顔立ちは、長い黒髪は、紫がかった青の瞳は、女性らしさというものの理想を突き詰めたかのように美しい。
「…えーと…うん、そうだよ。」
しばらく美人と鎧のギャップに呆気に取られていた少年が返す。
少年―――星司が一歩踏み出し、手を差し伸べる。騎士と同様に、彼の顔も月光が照らし出す。
長い白髪、白い肌、白い衣服。黒に染まる騎士とは対照的に色を抜き取られたかのように白い少年もまた、少女と見紛うほどの整った顔立ちをしていた。
―――あまりに整い過ぎて、精巧な人形に見えるほどに。
唯一色が存在する青い瞳は、純真無垢な子供のような、あるいは人形の眼にはめ込んだガラス玉のような光を伴い、じっと騎士を見つめている。
「真名は、
ランスロット。」
「貴方に仕え、貴方を守り、貴方の敵を打ち払い―――」
「―――やがてあなたに終焉をもたらす。裏切りの騎士です。」
最終更新:2016年09月28日 01:20