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星に願いを 第13話

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 13. (つかさ視点)


 窓から眩いばかりの日差しが瞼に飛び込み、小鳥のさえずりが
微かに耳朶を叩く。
 時計を見ると7時20分を指している。
 パジャマ越しに伝わる、ぬくもりに気がついて隣を見ると、
小早川ゆたかちゃんが静かに寝息をたてて眠っている。
 抱きしめたくなってしまうくらい、愛らしい寝顔だ。思わず
食べたくなりそう、いや―― 食べちゃったか。

 眠気の残滓を振り払い、身体を起こしながら、未だ寝ている
ゆたかちゃんを揺り起こすと、瞼を何度も瞬かせてから、『こなた』
の姿になっている私の顔を見上げた。
「あ、こなたお姉ちゃん!? 」
「おはよう」
「あっ、ごめんなさい。かがみ先輩」
 ゆたかちゃんは、私とこなたが入れ替わっていることに気がつくと
顔を真っ赤にした。
「あ、あの、昨日は…… 」

 しばらくもじもじしながら俯いて、蚊の鳴くような声で言った。
「ご、ごめんなさい」
「ゆたかちゃん! 」
 私はちょっと口調を強める。
「入れ替わったことは謝らないでね。結構、面白い経験なんだから」
「は、はあ」
「あと、夜は激しかったわよ」
 ゆたかちゃんに向けてウインクひとつ。
 羞恥で顔を赤らめながらも、ゆたかちゃんはコクリと頷いた。


 朝食をとってから外に出ると、雲ひとつ無い青い空が頭上に広がっている。
 風がほとんど無い為か、寒さはさほど感じない。吐き出す息が白くなる
季節はもう少し後になるだろう。
 私が『こなた』になっても、こなたが『私』になっても、地上の営みは
何ら変わらない。

 校舎でゆたかちゃんと別れてから、こなたの教室に足を踏み入れる。
 座席を見渡すと、みゆきがいて、つかさがいる。
「おはよ」
「おはよう。『こなちゃん』」
 つかさの顔を見ただけで、私は驚いた。
 昨日と打って変わって、底抜けに明るい。表情に確固とした自信が
満ち溢れているようにみえる。
「泉さん。おはようございます」
 一方、みゆきは、いつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべている。
 こなた達と一緒のクラスになりたいと思ったのは、一番大切な
親友達がいるからだ。

 お昼休みになると、『私』の姿をしたこなたが教室に入ってきて、
4人でお弁当を広げる。
 昨日とは異なり会話が弾んだ。
 理由は、つかさが弾丸のように話題を振ってくるからだ。授業のこと、
テレビ番組のこと、近くのケーキ屋さんのこと。一つ一つをとても
楽しそうに話す。

 しかし、昨日との違いぶりに落差がありすぎて、私は聞かざるを
得なかった。
「つかさ。どうしたの? 」
「なあに、『こなちゃん』」
「いやね。昨日と雰囲気が違うから」
「ごめんね。ちょっと『あの日』だったから」
「ぶっ」
 隣で玉子焼きを摘んでいたこなたが、噴き出していた。


「つかさ! 」
「えへへ。う・そ」
「あのねえ…… 」
 私が言葉に窮していると、つかさはいきなり真顔になって、
「ごめんね。昨日は変なこといっちゃって」
 と、謝ってきた。
「気にしなくていいよ」
「そうそう」
「ええ。誰にも気分が優れない日はありますから」
 私と、こなた、そしてみゆきは、それぞれの言葉で返した。
「ありがとう」
 向日葵というより、真夏の太陽みたいな満面の笑み。

「まあ…… つかさが元気になったからいいわ」
「今日の『こなた』はツンデレだね」
 こなたは含み笑いをしながら近寄ってきて、私にだけ
聞こえるような小さな声で囁く。
 頼むから、『私』の顔でツンデレとかいわないでくれ。

「つかささん。何か良い事があったのですか? 」
 穏やかに微笑みを向けながら、みゆきは尋ねる。
「あはは」
 つかさは、からからと笑うと、こなたの腕を愛しげにとる。
「こなちゃんと昨日ね 」
「うおっ、つかさっ…… それはまずいって」
 こなたが明らかに狼狽している。


「ふふ。内緒だよ♪ 」
「はぁ―― 」
 こなたが大きくため息をつくなんて、あまりみられない。
「でも、つかささんがいつもの明るさを取り戻してくれて、
とても嬉しいです」
「ありがと。ゆきちゃん」
 しかし、次の行動は私の予測をはるかに飛び越えていた。

 つかさは、みゆきの頬にキスをしていた。

「つかさ? 」
 目を白黒している私とこなたを見ながら、つかさは微笑んだ。
「どうしたの? 」
「あの、つかささん。こういう場所では、少しお控えに
なったほうが…… 」
 みゆきは顔を真っ赤になりながら、辛うじて声を出す。
「だって、ゆきちゃんが、とっても可愛かったから」
「あっけらかんと言うなあ! 」
「泉さん? 」
 みゆきがまじまじと見つめる。しまった。地声を出してしまった。
「あはは、ごめんね」
 私は手を振ってごまかしたけど、みゆきの視線は鋭いままだった。


 放課後、私はこなたを誘った。
 鮮やかな黄色に染め上げられた銀杏の樹が並ぶ街を歩き、ちょっと洒落た
カフェの入り口をくぐる。
 外で話をするにはそろそろ寒い季節だ。

 飲み物の注文を済ませてから、私は、こなたに『入れ替わり』の
原因について話した。但し、私とゆたかちゃんのエッチについては伏せてある。
「ゆーちゃんが? 」
 こなたは難しい顔をして考え込んでしまった。
 まさか、あんなに素直な性格をしている(と皆から思われている)従姉妹が
『入れ替わり』の真犯人だなんて、とても信じられないのだろう。
「本人の口から聞いただけだから」
 敢えて、断定を避けた言葉を添えてみるが、こなたは首を横に振った。
「かがみが嘘を言うわけないから」

 こなたが信じてくれるのは嬉しいけれど、何故か胸が痛む。
「私が言うのもなんだけど、ゆたかちゃんを責めないで。
あの子は、こなたの事が好きでやったことだから」
 こなたはストローの端をくわえながら考え込んでいる。
 私も、返事を急がせるつもりはない。こなたにも考える時間が必要だ。

 暫く気詰まりな沈黙が続いた後――
「なんか。最近、いろいろありすぎだね」
 こなたは、深いため息をつくと、私の顔をじっと見ながら言った。
「脳みそがミルク粥になってしまいそうだよ」
 こなたの言葉に、私は、昔読んだライトノベルの一節を思い出したが、
題名は浮かんでこなかった。


 少し話題を変えることにする。
「つかさのことだけど。今日、弾けるほど元気だったけど何かあったの? 」
 明らかにはしゃぎ過ぎていた、つかさのことを聞くと、こなたは
何故か顔を赤らめて黙っていた。

 絶対隠しているな……
「教えなさいよ」
 確信を持って強く答えを迫ると、こなたはあきらめたように
首を振ってから、何故か腕をまっすぐに伸ばして親指を立てて
片目を瞑ってから、とんでもないことを言い放った。
「やっちゃったZE」
「やっちゃったじゃねえっ! 」
 私は絶叫した。まさか、つかさとこなたがあんなことを
していたなんて。
「もう。信じられない! 」

「そーゆーかがみはどうなの? 」
「えっ」
 予想されたはずのこなたの反撃に、あからさまに動揺してしまい、
じりじりと後ずさる。
「ま・さ・か、ゆーちゃんと、あーんな事やこーんな事してないよネ! 」
 ここぞとばかり顔を寄せられる。どこかに逃げたいぞ。
「え、えっと」
「図星? ねえ、図星? 」
 コイツ、むかつく! 
 私はぷいっと横を向くけど、猫口(これもやめてくれ)で指呼の間まで
迫られて、決して視線を外さない。ついに私は、観念して口を割ってしまった。

「わ、悪かったわねっ」
「こんな時でもツンデレな、かがみんに萌え」
「やかましい! 」
 こなたにしてやられるのは悔しいけど、『入れ替わり』なんて
非日常的な経験をすると、たわいもないやり取りをしている日常が
とても大切なんだと改めて気づかされる。


「でもさ。私とかがみって…… 」
「な、なによ」
「ある意味『最低』だね」
「う…… 」
 後悔の念が強くよぎる。
 いくら不可抗力な流れとはいえ、私はこなたが好きなのに、
ゆたかちゃんと『えっち』をしてしまったのだ。
 既に、ファーストキスを誰にあげるなんていう、女の子らしい
淡い想いなんて、銀河系の彼方にまでふっとんでいるのには、
ただ苦笑するしかない。

「過去を振り返っても仕方ないわ」
 罪悪感を振り払うかのような強気な言葉に、こなたも頷いた。
「確かにね。でも、これからどうするの? 」
「決まっているじゃない。ゆたかちゃんの召還魔法を解くには、
私とこなたが月食の時に…… 」
「えっちをするって。それってなんてエロゲ? 」

「しっ、声が大きい」
 私は注意すると、こなたに近寄って小声で続ける。
「仕方がないじゃない。ゆたかちゃんの話を信じるしかないんだから。
わ、わたしだってね。好きで言っているわけじゃないのよっ」
「かがみん。私の事キライなの? 」
 途端に、こなたが寂しそうな顔になる。反則だからその表情は
やめてくれ。

「そんな訳ないでしょ。私が一番好きなのはこなたなんだから! 」


「今の…… 告白だよね」
「う、うん。そうね」
 気まずい沈黙が二人を包む。
 私は無意味にポケットから取り出したハンカチを何度も畳んだり、
開いたりを繰り返す。それでも時間ばかりたってしまい、ついに
耐え切れなくなって尋ねた。

「あのさ。返事を聞かしてほしいんだけど」
「そ、そだね」
 こなたは、なおも少しの間ためらっていたが、ようやく想いを
はっきりと言葉にしてくれた。
「私も、かがみのこと好きだよ」
 珍しく顔を赤くして照れている。
 目の前にいるこなたは『私』の姿をしているので、自分が
もじもじしている姿を見ているのは、無性に恥ずかしくなってしまうが……

 正直、嬉しかった。

 それにしても、ずいぶんと遠回りをしてしまった感じだ。
なにしろ、告白より前にエッチの話をしていたのだから。
 私は、苦笑交じりに言った。
「両想いだって分かっていたのに、はっきりとは言わなかったね」
「かがみんがツンデレだから」
「アンタがいつもちゃかすからよ」
 私達は噴き出した。
 さっきまで悩んでいたのが嘘のように心が晴れてくる。

「ねえ。こなた。土曜日の昼って予定ある? 」
 私は暫く逡巡していたが、思い切って尋ねることにする。
「何もないけど? 」
「もし良かったら、土曜日、遊園地いこっか? 」
「いわゆる…… 初デートかな」
「そ、そうね」
 私は、こなたの瞳から視線を離さない。鼓動がひどく大きくなり、
ペースが速まる。
「うん。いいよ」
 こなたは、この上ない魅力的な微笑みを浮かべて首を縦に振ってくれた。


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星に願いを 第14話へ続く










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  • ( ̄▽ ̄)b -- チャムチロ (2012-08-23 22:09:55)

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