kairakunoza @ ウィキ

星に願いを 第14話

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
星に願いを 第13話に戻る
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 14. (かがみ視点)

 私とこなたが入れ替わってから1週間が過ぎ、いよいよ
『入れ替わり』が解けるチャンスがある土曜日を迎える。
「おっす。こなた」
「おはよー かがみ」
 11時ジャストに、待ち合わせ場所とした駅の構内で、『私』の姿を
したこなたと会う。
 遅刻癖のあるこなただが、今日は時間通りに姿をみせてくれた。
 いよいよ今日は、決戦の日だ。

 新聞の朝刊で月食の詳しい時間は、チェックしてあるし、
ゆたかちゃんからは、召還魔法の解除方法を詳しく聞いてある。
 入れ替わった人格を元に戻すには、完全に皆既月食となる
8時47分から、9時38分まで、約50分の間で、こなたと「えっち」
をして、二人が絶頂を迎えることが必要だ。
 即ち、「イク」ことが元に戻る方法である。そして、忘れてはいけない
重要な条件がもう一つある。
 必ず月が見えている位置でエッチをしないといけない。

 その為に、事前にこなたの部屋の間取りはチェックしてある。
 こなたの部屋の窓からは、東から天頂へと上っていく月を望むことが
できるけど、ベッドの位置だけは東の窓際に移さざるを得なかった。
 人格の入れ替わりという壮大な『召還魔法』に対して、解除方法は
あまりにも馬鹿馬鹿しい程、俗なものであることには苦笑を禁じえない。

 私とこなたは、私鉄で都内に向かう。土曜日だけあって、
乗車客には、家族連れやカップルが目立っている。
 終点の巨大なターミナル駅から他社線に乗り換え、更に20分ほど乗ると、
遊園地の大観覧車が視界に入ってくる。
 マジカルランド。開館から既に5年以上経つが、アトラクションが
豊富で非常に人気がある遊園地だ。今日は休日だけあって、
多くの人が来場している。


「すごい人だねえ」
 私より頭一つ分だけ『背が高い』こなたが、周囲を眺めながら言った。
「アトラクションは、待ち時間かかるかも」
 私は、ちょっとため息をついた。
 園内の中心部にそびえ立つ大時計を見上げると、ちょうど正午を指している。

 帰りの時間を考慮すると、遅くとも5時には遊園地を後にしなければならない。
あまり遊ぶ時間がないのは、ちょっと残念だ。
 私が日中のデートを提案した理由は、やっぱり会って即エッチでは、
あまりにも味気ないということであって、『入れ替わり』の解除とは
何も関係はない。でも、ほら、ムードというのは大切だと思うわけで。

 それならば、集合時刻を早めればいいじゃない、といわれそうだが、
超夜型なこなたに早起きさせるのには、流石にためらいがあった。
 ちなみに、こなたは、柊家のPCから毎夜オンラインゲームに
興じているそうだ。
 黒井先生からなんでIPアドレス変わっているのとか突っ込まれていて
慌てたと、数日前に話していたことを思い出す。

 園内に入ると、やっぱり魔法関係のアトラクションが多いが、どこにでもある
スタンダードなものも、取り揃えてある。
 マジカルランドに人気のある理由は、従業員の来場客の捌き方が上手いと
いうこともあるかもしれない。
 客が多い割には流れはスムーズで、ジェットコースターで歓声をあげたり、
メリーゴーランドで写メを乗ったり、マジカルパニックと呼ばれる鏡だらけの部屋で、
きゃあきゃあ言いながら迷ったりして、思いっきり楽しめたと思う。


 しかし、秋の日は短い。午後4時半を回る頃には、空は暮色に包まれている。
 空を見上げても雲はない。携帯から見た天気情報でも今夜の天気の
崩れはないということだ。
 雲がかかって、月光が届かないと『入れ替わり』を解除できないと
ゆたかちゃんから聞いており、祈るような思いだったが、どうやらその点は
安心できそうだ。

「こなた」
「なにかな。かがみん」
 帰路に急ぐ人と、夜のイベントに参加するために交錯する大勢の来場者を
眺めながら、私はこなたに話しかけた。
「最後に、観覧車乗っていかない? 」
 私の提案に、こなたは肩を竦めている。
「かがみって、結構ロマンチストだねえ」
「だって、遊園地の最後の相場はコレでしょ」
 私が両腕を腰にあて、頬を膨らませて強く主張すると、こなたは舌を
少しだけ出して笑った。
「はいはい。わかりましたよ」
 既に空が暗くなりかけていることもあって、待ち時間もなくあっさりと
観覧車に入ることができた。

 係りの人が扉を開けてくれた小部屋に乗り込み、こなたと隣同士で座ると、
重心がずれて、ほんの少しだけ室内が傾く。
 扉を閉められると室内は静寂に包まれる。
「疲れたー」
 流石に、一日歩き回った疲れが出たのか、こなたが私の肩によりかかってくる。
「こなた。これからが本番よ」
「まあ、そうなんだけどね」
 『私』の姿をしたこなたの体温を感じながら、窓の外をのぞくと、視界が一瞬
ごとに広がっていき、遊園地の全容が把握できるようになってくる。


 観覧車が4分の1を回った頃。私に寄りかかっていたこなたが窓の外を
眺めながら、
「かがみ~ 見て」
と、感嘆の声をあげた。
 西の淵に日差しの僅かな残滓―― 濃い山吹色がみえる。しかし、
ほとんどは深い濃紺色になっており、いくつかの既に明るい星が瞬いている。
 地上を見下ろすと、数え切れない程の光の粒が毎に数を増しながら、
光の渦へと形作っていく。

「綺麗…… 」
 私は思わず息を呑んだ。光の道は東に伸びるにしたがって密度を増して、
新宿周辺の超高層ビルから、奥の都心部にかけて、もっとも明るく輝いている。
 観覧車の高度が最高点に達する頃には、眼下の街並みの輝きは幻想的と
いえるものになっていた。

「ねえ。かがみ」
 霞むような表情を浮かべながら、こなたが私の瞳を覗き込む。
「うん…… 」
「キスして」
 瞳を閉じたこなたが、心持ち唇をあげる。
 私は―― 吸い込まれるように、少女の唇を塞いだ。
「ん…… 」
 唇だけを触れ合わせる軽いキス。柔らかい感触が私を包む。
 誰よりも優しくて甘いこなたの口付け。

「本番はお預けね」
 暫く、フレンチなキスを楽しんだ後、私は悪戯っぽく笑いながら唇を離す。
「かがみのけちー 」
 こなたは頬を膨らましたけど、密室とは到底言えない観覧車の中では
これが限界だろう。
「ねえ。こなた」
「私達って、ずっと一緒にいられるのかな」
 静かに降下を続ける観覧車の中で、私は尋ねた。
 しかし、すぐには答えは返ってこない。


 張りつめたような無言の沈黙が続いた後――
「ずっと、一緒にいたいとは思う」
 こなたは、慎重に言葉を選びながら答えた。
 普段はおちゃらけているけど、肝心な時には、物事をとても
深く考える。
「でも、先のことなんて分からない」
「そっか」
 こなたの言うとおり、女性同士の恋愛は何かと障害が大きい。
 周囲の理解を得られることは、あまり期待できない。こなたの
お父さんは笑って許してくれるかもしれないが、私のお父さんは
正直言って分からない。
 性格はごく穏やかで、酷く怒られた記憶はあまりない。
 しかし、神主という職業に偏見をもっているのかもしれないが、
性に関しては、ごくノーマルな考えをもっているように思える。
 友達はどうなんだろう。みゆきは分かってくれると確信しているし、
峰岸や日下部はほとんど気にしなさそうだ。
 ただ、田村ひよりちゃんの同人誌に掲載されるのは勘弁願いたい。
 そして、先生方の意向も気になる。黒井先生や桜庭先生は理解して
くれるだろうか。

 いずれにせよ、こなたと付き合うからには、ある程度、好奇と
嫌悪の視線は覚悟しないといけないのだろう。
 無論、自分から公言する訳ではないけど、こそこそと人目を忍んで
逢い引きをするというような発想は、私にはない。
 堂々と付き合いたいというのも理由の一つだが、こういう話は
隠していても、自然と分かってしまうものでもあるからだ。


 また、肝心のこなたの気持ちが、向き続けてくれるとは限らない。
 私とこなたの間に割り込む、強力なライバル達がいることも
忘れてはならない。
 妹のつかさと、小早川ゆたかちゃんは、違う意味で私の脅威となる。

 つかさは、私達が両想いだと知ってからも、こなたにアタックを
かけ続けている。失恋を経験してなお、へこたれない精神的なタフさが
つかさにはある。
 人懐っこい笑顔で何かとひっついてくるつかさに、こなたも
悪い気分はしていないようで、それが私の嫉妬心を抱く原因に
なっている。
 それにつかさには私には無い強力な武器がある。言うまでもなく
料理だ。
 つかさの腕は、明らかに家庭料理の域を超えつつある。
 お昼休みにつかさ作成のお弁当を美味しそうに食べるこなたを
見ているのは、猛烈に悔しい。
 しかし一方で、自分の料理の下手さ加減は十分に自覚しているから、
こなたには美味しいものを食べて欲しいという気持ちもあり、
かなり複雑なところである。
 元に戻ったら、料理教室に通うことを真剣に検討しなくては
いけないかもしれない。

 そして、今回の事件の原因を作ったゆたかちゃん。彼女は極めて
危なっかしい。
 下手に触れると壊れてしまいそうなガラス細工のような繊細さと、
心の底にある深い闇が同居していることを、現在は知ってしまった。
 それに、彼女にはこなたと同居しているという、大きな
アドバンテージがある。もし再び、彼女の心がダークサイドに
落ちたらと思うと、身震いを禁じえない。
 事情を白状させたあの日以降は、「普段」のゆたかちゃんに
戻っているようだけど。


 もっとも、こなたの恋人の座を虎視眈々と狙っているふたり
気持ちは理解できなくはない。
 いくら趣味がおたくといわれていても、こなたには、ひとに
好かれてしまう要素がたくさんあるのだ。
 小さな身体からあふれ出す、はちきれんばかりのパワーと、
底抜けに明るい性格。
 それにやられてしまった者が、他ならぬ自分なわけで。

「かがみ。何考えているのかな? 」
 ふと気がつくと、こなたが私の瞳を覗き込んでいた。
「あんたが浮気しないか心配してるのよ」
「やきもち? ねえ、やきもち? 」
「あー もうっ」
 がっくりと肩を落とした時に、ドアが係員によって
開かれた。一周15分の小旅行は、唐突に終わりを告げた。

 観覧車から降りると私は大きく伸びをした。外の空気は
かなり冷たくなっている。
 それから、こなたの隣によりそって、腕を伸ばして掌を握る。
 こなたは驚いたように私の顔をみたが、握った手は離さずに、
そのまま歩き始めた。
 私がこなたの恋人になったんだなと、心の底から感じることが
できた瞬間かもしれない。


 既に日がすっかり暮れている。私達はリズミカルだがどこか
もの哀しげに聞こえるマーチを耳にしながら、遊園地のゲートを
くぐって外にでた。
 帰りの電車の中で、半日遊びまくった反動が出たこなたは、
私の横にしなだれかかって寝息をたてている。
 『私』の寝顔はとても無防備で、なんだか、とても恥ずかしく
なってしまう。
 こなたの体温だけを感じながらも、流れるように過ぎ去る
街の光をぼんやりと眺めていた。

 電車から降りて、駅前からほど近い料理店で、少しだけ奮発した
夕食をとった後、泉家にたどり着いた。
 時計の針は午後7時30分を過ぎており、月食は既に始まっていた。

 「ただいま~」と、言いながら鍵をあけるけど、家の中には誰もいない。
 こなたのお父さんは、出版社が主催する慰労パーティに出ており、
帰りがかなり遅くなる…… 少なくとも夜10時を回ることを聞いている。
 ゆたかちゃんは、明らかに私達に気を遣って、彼女の親友である
岩崎みなみちゃんの家に泊まりに行っている。
 つまり、月食の間は私とこなたと二人だけ。何やら図ったような
シチュエーションだ。
 居間でお茶を飲んだ後、こなたの部屋に入って東の空を眺めると、
既に月は普段ではありえない形で欠け始めている。
 例えるならば、お腹の空いている子供に差し出して、顔の一部が
欠けたアンパンマンといったところか。
 少しずつ形を変えていく月を眺めていると、後ろからこなたが
声をかけてきた。
「かがみ…… 月、欠けてるね」
「うん」
「この一週間、かがみの家にいたけど。やっぱり自分の部屋は落ち着くよ」
 東の空からゆっくりと高度をあげつつある月を見上げながら。
話しかけてきた。私は、こなたの傍に寄り添いながら言葉を返す。
「家のことが分からなくて、大変だったでしょ」


 しかし、こなたはゆっくりと首を横に振った。
「ううん。つかさがいつもフォローしてくれたから助かったよ」
「そう…… なの」
 私は、ほっと胸を撫で下ろした。
「つかさ。いつも私にくっついてね。かがみのご両親や、お姉さんたちとの
会話を全部フォローしてくれたんだ。小声で教えてくれたり、会話に
混ざってくれたりしてね」
「そっか」
 つかさの献身的な努力があったから、一週間、こなたはぼろを
出なかったのだ。
 私はつかさに感謝しつつも、同時に動揺してしまう。
「こなた…… 」
「うん? 」
「つかさを恋人として好きにならないよね」
「え…… なんでそんなこと? 」
 こなたは目をぱちくりさせていたが、やがて、にんまりと微笑んだ。
「もしかして、また焼きもち? 」
「う、うるさいっ」
 頬を朱に染めた私を、こなたはぎゅっと抱きしめた。
「心配しないでよ。かがみ」
「こなた…… 私、不安なの。つかさは本当にいい娘だから」

 私は、正直に自分の気持ちを打ち明けた。そして、こなたは――
「大丈夫だって、私の一番はかがみだよ」
 優しく囁いて、私の肩に手を置いて再び空を見上げた。

 刻、一刻とやせ細っていく月。
 つい先程までは、薄い影ができるほど強かった月光が急速に弱まり、
無数の星たちが、己の存在を主張し始めている。
 三日月のような形になった月が、更に痩せて細くなり、ついに
完全に闇にとけこんで……
 午後8時47分が過ぎ、赤銅色の月が暗闇に浮かびあがる。

 私とこなたにとって、最大の戦いが無言のうちに幕を開けた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
星に願いを 第15話へ続く











コメントフォーム

名前:
コメント:
  • かがみは、絶対無二の存在です -- チャムチロ (2012-08-24 07:45:48)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー