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こなたの毎日

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だれでも歓迎! 編集
  「んーっ……さてと、そろそろ夕飯の支度しないとね」
   原稿の執筆を切りの良い所で切り上げて、PCにデータを保存して電源を切る。
   1階にある寝室兼仕事部屋を出て2階に上がると、リビングでソファにお父さんが座っているのが目に入った。
   そのまま台所に向かって歩いていくと、お父さんの膝の上には娘のそなたが乗っているのも確認出来た。
   良く見ると、お父さんはそなたを膝の上に乗せながら、マンガを読んでいる。

  「……じいちゃん、そなに変なマンガ読ませるの、やめて欲しいんだけど」
   隣のソファに腰掛けてポテチを齧りながら、夕方の再放送ドラマを見ていた息子のこうたろうが不意に不機嫌そうな声で文句を言い
  出す。
  「コウ。人聞きが悪い事言うなよ。別にこれはいかがわしいマンガじゃないぞ」
  「……じいちゃん。一騎当千なんて小学一年生に見せる物じゃないと思う。それに十分いかがわしい。頼むからそなを母さんみたいに
  しないでくれ」
  「ふぇ?」
   突然始まった祖父と兄のやりとりに、そなたは付いていけず大きな瞳をぱちくりさせてる。
  「……コウはこなたの事が嫌いなのか?」
  「好きとか嫌いとかそう言う事じゃないんだよ。そなには健やかに育って欲しいんだ」
  「もし、そなが母さんみたいになったりしたら目も当てられない。それにじいちゃんだって、死んだばあちゃんに似て今のまま純粋に
  育った孫娘の方が萌えるだろ」 
  「……じいちゃんが悪かった」
   お父さんはそう言って、一騎当千のコミックを閉じる。

  「二人とも、それどういう意味!!」
  『うおっ!?』
   私のツッコミに父と息子はほぼ同時に飛び上がるのだった。

                     ※

  「でさ、昨日こんな事があったんだよ」
  「……ぷっ」
  「あははははははははははははははははははははははははっ」
  「……かがみ、笑いすぎ」
  「あはははは、ごめん、ごめん」
   次の日の昼。私は遊びに来た友人のかがみとリビングで女同士のおしゃべりを楽しんでいた。

  「それにしても、あのこーちゃんも言うようになったわね」
   そう言って、頬にかかった髪を後ろに手で流す。
   かがみは昔はリボンで髪をツインテールにしていたが、今は大き目のバレッタで髪をまとめている。
  「思春期だからしょうがないんだろうけどさ。最近つれないんだよねーあの子」
  「男の子なんて皆そんなもんよ」
  「ふんだ。今はかがみもそうやって笑ってられるけどさ、すぐに今の私と同じ気持ちを味わうことになるんだからね。ねーけんちゃん」
   私はそう言って、4月に生まれたばかりの二ヶ月になるかがみの子供のほっぺたをチョンと優しくつつく。
  「けんちゃんはそんなことないもんねー」
   そう言って、抱いてる我が子に笑顔で頬擦りするかがみ。
   けんちゃんはまだ良く見えない目で、きょとんとした様子で母親の顔をじっと見ていた。

  「うわ。親馬鹿だ」
  「あんただってそうだろ」
   高校生の頃からずっと変わらないかがみとのやりとり。
  「そういえばさ、こなた三人目が出来たんだっけ。予定日いつ?」
  「んー、12月」
  「だったら、けんちゃんと同学年になるわけね」
  「そだね。もし女の子だったら、けんちゃんはギャルゲーの主人公になれるね」
  「何よそれ」
  「女の子の幼馴染がいて、しかも周りにそなたやたまちゃんみたいな姉キャラがいたら立派なギャルゲーの主人公だよ」

  「……母さん、それ39歳にもなって言うセリフじゃないと思うんだけど」
   背後から声をかけられて振り向くと、こーちゃんが小さな紙袋を手に立っていた。
  「ん? おかえりこーちゃん」
  「ただいま」
  「おかえり、こーちゃん」
  「こんにちは、かがみおばさん」
  「中学校はもう慣れた?」
  「まあぼちぼち」
  「そっか」
  「ところで、何か大事そうに持ってるけど何か買ってきたの?」
   かがみと世間話をするこーちゃんが、大事そうに手にしている紙袋の中身が気になったので、何となく尋ねてみる。

  「ああ、今日発売のラノベの新刊」
   そう言って、紙袋の中から同じ本を3冊取り出して見せる。
  「何? 同じ物3冊も買ってきたの?」
   かがみが驚いた表情でこーちゃんに尋ねる。
  「当然だよ、おばさん。好きな作家の本は読書用、布教用、保存用を買うのは当たり前じゃない」
  「……やっぱ、あんたの子だわ」
   かがみは横目で私を見ながら、こーちゃんに聞こえないようにぼそっと呟く。
  「別にお小遣い使って買わなくても、言ってくれれば一冊編集部からもらってあげるのに」
   かがみがそう言うと、こーちゃんはきっぱりと言い放った。

  「……おじいちゃんが言っていた」
  「素晴らしい作品を生み出してくれたクリエイターに、その対価を支払うのはファンが出来る感謝であり義務である!!」
  「だから、おばさんの気持ちだけもらっておくよ」
  「あ、あははは……。ありがとね、こーちゃん」

   私の息子の言葉に苦笑いを浮かべている親友の職業。
   それは今、息子の手に握られているラノベの執筆だ。
   そう、かがみは今や売れっ子の人気小説家なのだ。
   あれはそう、大学時代の頃の話だ……。

                     ※

  『やふー、かがみん。遊びに来たよー』
  『あら? 珍しいわね。彼氏はどうしたの?』
  『大学のサークルの先輩達に、夏合宿に無理矢理引っ張ってかれたよ』
  『それでひとりになって、私んとこに来たと』
  『まあそんなとこ』
  『私は彼氏の代わりかよ』
  『やだなあ、純粋にかがみんに会いに来ただけだよ。高校出てから、最近会ってないし』
  『電話はしょっちゅうしてるけどな』
   ………。
   ……。
   …。
  『かがみ、ちょっとパソコン貸して』
  『何よ? 何かあるの?』
  『実は今入札してるオークションがあってさ、もうすぐ終了時刻なんだ』
  『別にいいけど。勝手にアイコンとか弄らないでよ』
   ………。
   ……。
   …。
  『ん? 電話だ。誰だろ』
  『やったー!! 落札完了!!』
  『ん? 何だろ。このフォルダ』
  『うん、うん、大丈夫。もう……心配性なんだからお父さんたら』
  『……』
  『うん、お盆にはそっちに帰るから。それじゃ切るね』
  『……』
  『うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 何勝手にファイル開いて見てんのよ!!』
  『かがみ!!』
  『な、なによ……』
  『これ、最後まで書き終わってるんだよね?』
  『い、一応はね』
  『これ、かがみが書いたんだよね?』
  『……そうよ、悪い? 大学の往復と勉強ばっかりじゃ息が詰まっちゃうもの。息抜きも兼ねて何となく書いてみただけよ』
  『気が向いたらネットのSS掲示板にでも貼ろうかと思ってただけだし。結局、長くなりすぎたし、投稿するのもやっぱり恥ずかしく
  なったからやめたけどさ』
  『どうせ、似合わないとか、うわ、こんなの書いてるなんて馬鹿じゃんとか思ってんでしょ。もういいでしょ。さっさとその画面閉じ
  てよ』

  『……かがみ、お願い!! 最後まで読ませて!!』
  『はあ?』
  『これ、すごく面白いよ!! ハルヒやフルメタに負けないくらい面白い!!』
  『ちょっ、やめてよ、こなた』
  『ねーいいでしょ。見せて見せてぇー』
  『わかった、わかったから引っ付くなって!! その代わり最後まで読んでがっかりしても知らないからね!!』
   ………。
   ……。
   …。
  『……かがみ』
  『何よ』
  『これ、角川スニーカー文庫の新人賞に送ろう』
  『いきなり何言い出すのよ!!』
  『だって、これすごく面白いよ!! このまま誰にも見せないなんて惜しいよ!!』
  『無茶言わないでよ。出したってどうせ落選するに決まってるじゃない』
  『そんな事ないよ!! かがみは才能があると思う。だって小説とか読むの苦手な私がプロローグだけでぐいぐい引き込まれたんだよ』
  『絶対、イケると思うから!! ねぇかがみぃー!!』

   ……結局、しつこく食い下がる私にかがみが根負けする形で折れて、その後現役の小説家であるお父さんにアドバイスしてもらいな
  がら一部手直しをして投稿したんだよね。
   そしたら、見事に大賞を取っちゃったんだっけ。
   それからかがみは編集部に説得されて、何本か短編も書いたんだけど、それら全部読者アンケートで上位を取っちゃって。
   気が付いた時にはかがみは現役大学生でありながら、連載を持つプロの小説家になっちゃった。
   本人は元々、弁護士志望だったんだけど、読者からのファンレターが沢山届いたのに感激して、本気でプロとしてやってく道を選ん
  だんだ。
   流石にかがみの両親は、せっかく大学まで進学したのにって、反対してたけど。
   かがみは頑張って、雑誌の連載と大学の勉強を両立させた。
   結局、かがみは弁護士の資格試験には落ちちゃったけど、それでも優秀な成績で大学を卒業して、一度も落とす事無く連載を最後ま
  で続けた。
   数年後にはかがみの書いた作品はアニメ化もされた。
   私はそんながんばりやのかがみの事を尊敬している。
   勿論、絶対に口には出さないけどね。
   ちなみにかがみの書いた本や、アニメ化された作品のDVDは全部持ってる。
   何を隠そうこの私こそがかがみのファン第一号だからだ。
   2年前、こーちゃんが小学5年生の時、夏休みの宿題の読書感想分用の本を探してた時に、何気なくかがみの作品を読ませた。
   それがきっかけで、こーちゃんはかがみの書くラノベを愛読するようになった。
   そして、今に至る。

                     ※

  「話は変わるけどさ」
  「何? こーちゃん」
  「いいかげん、母さんもおばさんもこーちゃんと呼ぶのやめてくれないか」
  「どうして? 赤ちゃんの頃から、ずっとそう呼んでるんだから今更だよ」
  「……俺も中学生になったし、いいかげん恥ずかしいんだよ」
  「別にそんなに気にしなくてもいいんじゃない? こなたなりの愛情表現なんだし」
   かがみがそう言ってフォローする。

  「……ハァ」
  「……何で大抵の母親ってのは、息子の事を君付けやちゃん付けで呼ぶんだろうな」
   ため息をひとつついて、ぼやくこーちゃん。
  「そう言われてみれば、そうね」
  「今日もさ、同じクラスの日下部と帰り道歩いてたらさ、買い物帰りの日下部の母さんが、日下部を見かけて呼び止めたんだけど……」
  「日下部の母さんも、自分の息子の事を君付けで呼んでたな」
  「ああ、あやのんなら君付けで呼んでそうだ」
   私がそう言うと、かがみが同意して頷く。
  「それと若い頃に悪さばかりしてたような、頭の悪い喋り方する母親だと、呼び捨てで子供を呼んでたりつまらない事で怒鳴ったりす
  るよな」
  「ああ、あるある。小さい子相手に本気で怒鳴りつけてたり、ほったらかしにしてたりするの見ると腹立つよね」
  「ああいう光景みると悲しくなるわよね。子供がかわいそうで」

  「こーちゃんは私の子で良かったねぇ」
  「……まあ、虐待とか育児放棄されなかっただけマシかもな」
  「失礼な子だね。小さい頃はあんなにかわいがってあげたのに」
  「記憶に無いな」
   あまりにそっけない態度なので、少しカチンときた。
  「いつもおっぱいおっぱいって、毎晩泣いてせがんだのは誰だっけ?」
  「……」
  「私が隣で寝てるとさ、いつの間にか人のパジャマの隙間から手を突っ込んで、おっぱい触ってたよね」
  「……」

  「こーちゃんが生まれた時もさ、初めておっぱい飲ませた時、自分で私のおっぱいをちっちゃな手で掴みながら吸ったんだよ」
  「えっちな赤ちゃんねぇって看護士さんに笑われたんだよ、こーちゃん」
  「……ああ、そういえばこなたの出産祝いに行った時にも、同じような事を言ったような気がするわ」
  「そうそう。かがみにも同じ事言われたんだっけ」
  「そういえば、ベビースイミングにお父さんに無理矢理行かされた日に、たまたま泳ぎに来てたかがみと行き会った日があってさ」
  「シャワー浴びて着替えさせる時に、かがみに抱っこしてもらってたら、いきなりかがみのおっぱい吸ってた事もあったっけ」
  「ああ。そういやそんな事もあったわね」
  「あの時のかがみの困った顔は今でも覚えてるよ。あん時はごめんね。かがみん」
  「まあ、赤ちゃんのした事だしね。別にいいわよ」
  「そうそう、かがみだけじゃなくて、皆で新しく出来た健康ランドに行った時にも、ゆーちゃんにつかさ、みゆきさんのまで……」
  「……頼むからもうやめてくれ」
   そっぽを向いて羞恥に震える息子。

   ……勝った。

  「ただいまー」
   私が生意気盛りの失礼な息子をへこませてやって悦に入っていると、1階からとたとたと音を立てて小さな女の子が2人、リビング
  にやってきた。
  「おかえり、そなた。たまちゃん」
   一人は私の娘のそなた。

   私に似て、とても愛らしい泉家の長女だ。

   反論は み と め な い 。

  「おかえり、たまき」
  「ママ、ただいま」
   もう一人の女の子はかがみの娘のたまきちゃん。
   顔立ちや髪質なんかはかがみにそっくりなんだけど、くりくりとした愛らしい大きな瞳はかがみの旦那似だ。
   そのせいか、かがみの子なのに、なんとなくつかさを連想させる。
   肩までかかる程度の長さの髪をまっすぐ伸ばして、リボンを頭の左側にだけ着けているのが特徴だ。
   ちなみにそなたはたまちゃんより髪が長く、日によって髪型を変える事がある。
   ……そう言えば、つかさは今頃仙台で元気にしてるかな。
   早く旦那の仙台出向が終わって帰ってくるといいんだけど。

  「あれ? お兄ちゃんどうしたの?」
   そなたがうな垂れてるこーちゃんを見て首を傾げる。
  「お兄ちゃん、大丈夫?」
   たまちゃんが心配そうな顔でこーちゃんに尋ねる。
  「……大丈夫だから、心配しなくていい」
   こーちゃんはそう言って、たまちゃんの頭を優しく撫でてあげる。
  「えへへ……」
   くすぐったそうに目を細めて笑うたまちゃん。
  「……さて、いいかげん俺は自分の部屋に戻るかな」
   そう言って、今いるリビングの隣にある、自室に戻ろうとするこーちゃん。
  「ん?」
   リビングを出て行こうとするこーちゃんの服の裾を、たまちゃんがしっかりと握っていた。
  「どうした? たまき」
   私には頑なに見せようとしないけど、そなた達には見せる穏やかな表情で優しく尋ねるこーちゃん。

  「あ、あのね……」
  「お兄ちゃん、一緒に……あ、遊んで……」
   もじもじと上目遣いでお願いするたまちゃん。
  「……ああ。いいよ」
   こーちゃんの返事を聞いて、ぱあっと嬉しそうに笑うたまちゃん。
  「ちょっと荷物置いて着替えてくるからそなと一緒に待っててくれ」
   そう言ってリビングを出て行く。
  「たまちゃん、嬉しそうだね」
   たまちゃんに目線を合わせて微笑みかける。
  「えへへ……」
  「たまきはこーちゃんの事が大好きなのよね」
   かがみがそう言うと、たまちゃんは顔を赤くして俯く。

  「くぅーっ。いつ見てもかわいいなぁこの子は。とてもかがみの子とは思えない。素直で純粋で恥ずかしがりやさんで」
  「素直じゃなくて、不器用で、ツンデレなかがみとは大違いだ」

  「うるさいよ」
  「何。かがみん? いきなり不機嫌になって?」
  「声に出てたわよ」
  「うへぇ」  
   かがみがジト目でこっちを睨んでる。慌てて私は話題を逸らす。

  「たまちゃんはこーちゃんの事、好き?」
  「えっ? ……う、うん。好き……」
   恥ずかしそうにもじもじと両手の指を絡めながら、呟くように答えるたまちゃん。
   かわいいなぁ。
  「あのね、お兄ちゃんはね、たまちゃんの王子様なんだって」
   そなたがそう言うと、たまちゃんはたちまち真っ赤になって怒り出した。
  「そなちゃんひどい。誰にも言っちゃ駄目って言ったのに」
   ありゃりゃ、たまちゃんの大きな瞳に涙が溜まって泣き出す寸前だ。

  「あっ……。ふぇ……ごめんね、たまちゃん」
   泣きそうな顔のたまちゃんを見て、そなたまで泣きそうになる。
  「ああ、ほら、二人とも泣かないで。お兄ちゃんが戻ってきたらびっくりするよ」
  「だって……」
   たまちゃんが泣きそうな顔で私の顔を見上げる。
  「大丈夫。おばさん、お兄ちゃんにも誰にも言わないから。ねっ」
  「ぐす……ほんと」
  「ホントホント」
  「ママも?」
   自分の母親の方を振り向いて涙目で尋ねるたまちゃん。
  「ママも言わないから」
  「ぐす……うん」
  「ふぇ……ごめんね、たまちゃん」
  「……そなちゃん、もういいよ」

  「はい、それじゃ二人とも仲直りの握手」
   私はそう言ってそなたとたまちゃんに握手をさせる。
  「ほら、二人とも」
   テーブルの上からティッシュを取って目の端に溜まった涙を拭ってやる。
  「えへへ」
  「うふふ」
   ああ、いいコンビだ事。 
   たまたま、かがみの旦那の実家、つまりかがみの家が我が家のすぐ近くにあるので、このふたりは幼馴染なのだ。
   誕生日も一ヶ月しか違わないし(そなたのほうが一ヶ月お姉さんになる)、背丈も同じくらいだからお互いに格好の遊び相手だ。
   それに書くジャンルは違えども私とかがみは同じ作家だ。
   主婦業をしながら、原稿を執筆するので二人共あまり友人と会う機会がない。
   けれど同じ年の娘がいて、偶然とはいえ、近所に住んでるのでかがみとだけは良く会う。
   先日、かがみが二人目の子供であるけんちゃんを出産する時も、たまちゃんを家で預かったりした。
   そんな訳で、私達は親娘で親友同士という関係だったりする。

  「たまき、そなた。おまたせ。何して遊ぼうか」
  『お兄ちゃん』
   着替えたこーちゃんが二人に声をかけると二人は声をハモらせて、こーちゃんのほうに駆け寄っていく。
  「そうやって三人でいると、まるで三人とも兄妹みたいね」
  「おばさん、俺にとってはそなもたまきもかわいい妹だよ」
  「そなは実妹だけど、たまきはさしずめ、魂の妹ってとこかな」
  「あはは、魂の妹か」

   そなたとたまちゃんにとっては、6歳年の離れたこーちゃんは頼れるお兄さんなんだよね。
   純粋で素直で人懐っこいそなたと、純粋で素直ではずかしがりやのたまちゃん。
   ふたり共、理想の妹達って感じかね。
  「こーちゃん、君は勝ち組だね」
  「ハア?」
   私の言葉に怪訝な顔で反応するこーちゃん。
  「今の内にしっかりフラグを立てておくんだよ、こーちゃん」
  「……母さん。また締め切りを忘れてて、徹夜で原稿でも書いたのか?」
   訳が分からないといった表情のこーちゃん。
   その、夏休みの宿題を最終日に泣きながらやる子供を見るような目が、少しムカツク。

   ……まあ、いいさ。
   フラグは既に立っている。
   それになんて言ったって、この子はお父さんの孫で、○○君の息子なのだ。
   絶対にロリコンに決まっている。
   将来、たまちゃんをこーちゃんが嫁にすれば、たまちゃんも私の娘だ。
   実の娘のそなたと、義理の娘のたまちゃんと一緒に暮らす生活。
   うん。萌えるね。
   私がそんな事を考えていると、いつの間にかこーちゃんはそなた達を連れて、さっさと外に出て行ってしまった。

                     ※

  「こーちゃん、そなた、たまちゃん。ママ達ちょっと夕飯の買い物に行くから、一緒においでー」
   家の外で縄跳びをして遊んでる子供達に、ベビーカーにけんちゃんを乗せて、出かける準備をしているかがみに代わり声をかける。
  「はーい」
   こーちゃんとたまちゃんが回してる縄を跳んで、そなたがこちらに駆け寄ってくる。
  「俺も行かなきゃ駄目なのか?」
   不満そうな顔で聞いてくるこーちゃん。
  「当然だよ。荷物持ちなんだから」
  「……へいへい」
   私の答えにひとつため息をついて、かったるそうに返事をする。
   昔は置いていこうとすると泣きながら追いかけてきたのになぁ。

  「こなた、準備出来たわよ」
   ベビーカーを押しながら、かがみが声をかけてくる。
  「りょーかい。そんじゃ、ちょっくらスーパーまで行きますかね」
   私達はぞろぞろとスーパーまでの道程を歩き始めた。

                     ※

  「こなた、今日はたまごのMサイズが安いわよ」
  「んじゃ、今晩はオムライスにでもしようかねぇ」
   かがみとそんな会話をしながら、スーパーの食品売り場の中を、買う物をかごに放り込みながら歩いていく。
   かがみはベビーカーを押している為、かがみの家の買い物かごはこーちゃんが持っている。
  「そなた、たまちゃん。欲しいお菓子あった?」
   しばらく歩いていくと、お菓子売り場に到着した。

   先に行ってお菓子を見ていた二人に声をかけると、二人は食玩のコーナーを見ていた。
  「ん? それがいいの?」
   二人が手に持ってたのは、おもちゃのアクセサリーとラムネ菓子が入ってる食玩だった。
  「でもそれだと、食べるお菓子ほとんど入ってないんじゃないの?」
   かがみがそう言うと、たまちゃんは悲しそうな顔で手に持ってた箱を棚に戻す。
   それを見て、そなたも一人だけ買ってもらう訳に行かないと思ったのか、たまちゃんと同じように棚に戻す。

  「ああ、戻さなくていいよ。二人ともいつもいい子にしてるから、私が買ってあげる」
   私はそう言って、二人の側に歩いていくと、二人が戻したのと同じ物を買い物かごに放り込む。
  「……なんか、私が悪者みたいじゃない」
   かがみがぼそっと呟くのが聞こえた。
   子供の気持ちももうちょこっと考えようね、かがみん。
  「良かったわね、たまき。ちゃんとおばさんにお礼言わないとね」
  「ありがとう、そなちゃんのママ」
  「いいって」
  「そなは?」
   私とたまちゃんのやり取りを黙って見ていたこーちゃんが、そなたにそう声をかける。
  「ママ、ありがと」
   そなたがそう言うと、こーちゃんは黙ってそなたの頭を撫でてあげるのだった。

  「ところでこーちゃんは何か欲しい物ないの?」
  「別にないな」
  「そう。あのガンダムのカードが入ってるチョコとか、欲しいかと思ったんだけど」
  「ああいうカードを集める趣味はないな。金がいくらあっても足りやしない」
   こーちゃんはお父さんと○○君の教育のせいか、生粋のガノタだ。
   部屋には1/60PGガンダムVer.Kaとかが飾ってあったりする。
   おまけに全MSのスペックや全ガンダムシリーズのサブタイトルを空で言えたりする。
   本人は俺はオタクではない。ガンダムは男の嗜みだろ、とか言ってたりする。

  「それより母さん、そろそろ例のブツの入荷陳列時間だ」
   腕時計を見て、こーちゃんが私に報告する。
  「よし。行こうか」
   私は頷くと、こーちゃんと一緒に目的地へと向かい歩き出す。
  「ちょっと、二人共どこ行くのよ」
   かがみが子供達を連れて慌てて追いかけてくる。

  「母さん、時間ぴったりだ」
  「よし、それではミッションを開始する」
  「了解。こうたろう、目標を確保する」
   この時だけは非常にノリが良い息子だった。

                    ※

  「……で、その買い物かごの中にある大量の物は何」

   かがみがジト目でこーちゃんが持ってる我が家の買い物かごを見る。
  「見りゃわかるじゃん。チョココロネだよ」
  「そんなに沢山買ってどうするのかって聞いてるんだけど」
  「そりゃあ食べるんだよ」
  「あんた一人で?」
  「ううん。私とこーちゃんで」
  「それ、一日で食べきれるの?」
  「まさか。とりあえず、次の入荷があるまで少しずつ味わって食べるよ」
  「意外とチョココロネって生産数少ないんだよねー。ある時に買っとかないとね」
  「母さん、次の入荷は2日後だから」
  「オッケー。2日後にまた買いに来よう」
  「ああ」
  「おまえらチョココロネの入荷日を把握してんのかよ!!」

   かがみの突っ込みも、ミッションを遂行した今は気にならない。
   昔と違って、今は余り需要がないのか、チョココロネを中々見かけない現在、チョココロネを手に入れるのは至難の技だった……。
   大量のチョココロネを手に入れ、清清しい気分で私達はスーパーを後にしたのだった。

                    ※

   帰り道の途中で、かがみの家に寄って、こーちゃんが持ってた買い物袋を置いてこさせ、かがみ達と別れる。
   我が家に帰ると、私はすぐに夕食の支度を始める。
   こーちゃんに風呂掃除をして風呂を沸かすように指示を出し、夕食をてきぱきと作っていく。
   丁度夕食が完成する頃、一階の奥の部屋から原稿執筆を切り上げてお父さんがやってきた。

   私が学生の頃は2階のリビングの横の部屋がお父さんの部屋だったが、こーちゃんが生まれてたっちが出来るようになって、色々と
  動き回るようになった頃、リビングの横にあるお父さんの部屋に入っては色んな物を弄繰り回すいたずらをしてくれた。
   まだ喋れない赤ちゃんだったから、何度言ってもいたずらするのが直らない。
   結局、お父さんは使ってなかった1階の奥の部屋に移り、そのまま2階の部屋は子供部屋になってしまったのだった。
   その後、リフォームをしたのであの頃の家と今の家では中が大分変わっていたりする。

   出来た夕食の盛り付けをしていると、やがて○○君も会社から帰ってきた。
   夕食が出来ると、家族全員で食卓に着き、全員で夕食を取る。
   今日あった出来事や夏休みにどこかへ行こうか等、途切れる事無く話題は続く。
   毎日毎日、とても賑やかな家族だ。
   やがて食事が終わると、お父さんはそなたを連れてお風呂場へ。
   こーちゃんは自分の部屋に戻り、○○君は疲れたと言ってリビングのソファーでへたり込んでる。

   私は一人台所で食器を洗いながら、ふと、この家にお父さんと私の二人しか住んでなかったあの頃の事を思い出した。
   あの頃も決して、寂しくはなかったけれど、今ほどにぎやかではなかったな……。
   結婚をして、家族が増えて……。
   友達もみんな、家庭を持って……。
   少しずつ、少しずつ、毎日が変わっていく。
   生きているんだから、当たり前なんだけど……。
   このまま、ずっと変わらない毎日が続くといいなと思う反面、いつかみんな離れ離れになるのかなという不安を感じる事がある。
   もしも、私がお母さんみたいにいなくなったら、子供達はどうなるだろう。
   もしも、お父さんや○○君、こーちゃんとそなたの誰か一人でもいなくなったら……。
   それが怖い。
   このまま、ずっと家族みんなで暮らしていきたいな……。

  「こなた、どうかしたのか?」
  「え?」
  「何か心配事でもあるのか? なんだか神妙な顔して」
   いつの間にか、リビングからやってきた○○君が私の側に立っていた。
  「ああ。ちょっと、昔の事とか思い出してて、ね」
  「昔の事?」
  「うん。お父さんと二人だけで暮らしてた時の事と、今の暮らしを比べちゃってね」
  「……」
  「別に昔の生活にも今の生活にも、不満なんてないんだけどね。もし、私や家族の誰かがひとりでもいなくなっちゃったら、なんて考
  えちゃってね」
   私は明るい口調で濡れた手を拭きながら、心配そうな顔の○○君に言う。

  「……大丈夫だよ」
  「誰もいなくなったりしない。こなたをひとりにしたりしないから」
   そう言って、○○君は私をぎゅっと抱きしめる。
  「ちょ……」
  「大丈夫だから」
  「……うん」
   私は彼の腕の中で小さく頷くと、自分の両手を彼の背中に回そうと……。
  「あー。パパがママを抱っこしてる」
  「え?」
   唐突に聞こえた娘の声に、旦那の背後を横から覗き見ると、そなたとこーちゃん、お父さんが立っていた。

  「……子供の起きてる時間にいちゃつくのは止めて欲しいぜ」
  「……既に孫がいるとはいえ、手塩にかけて育てた娘が、他の男に抱かれてるのを見るのは嫌な物だな……」

  「あ、あぅ……」
   嬉しそうなそなたと、呆れ顔のこーちゃん、涙目のお父さんに私達夫婦はお互い何も言えず狼狽するだけだった……。

                    ※

   ジリリリリリリリリリ……。

  「……ん」
   耳元の目覚ましの音を止め、隣で寝ている旦那を起こさないように起き出す。
   顔を洗って着替え、エプロンを付けて朝食の準備を始める。

  「おはよう、こなた」
  「お父さん、おはよう」
   朝食の準備をしていると、まずお父さんが起き出して来る。
  「おじいちゃん、ママ、おはようー」
   しばらくしてそなたが起きてくる。
  「おはよう」
  「おはよう、そなた」
  「そなた、そろそろパパとお兄ちゃん起こしてきて」
   朝食の支度をしながらそう言うと、こーちゃんが制服のボタンを留めながらやってきた。

  「もう起きてるよ」
  「おはよ、こーちゃん」
  「おはよ」
  「それじゃ、パパ起こしてくるね」
  「お願いね」
   そなたが旦那を起こしにとてとてと音を立てながら走っていく。
  「こら、廊下を走ったら駄目だろ」
  「はーい」
   こーちゃんがそなたに注意する。いいお兄ちゃんだ。

  「可愛い娘と孫に囲まれて、俺って勝ち組だよなー」
   新聞を読みながら、お父さんが不意にそんな事を言う。
  「お父さんがそういう事ばっか言うから、○○君も自分の事、勝ち組とか言うんだよ」
  「若くて可愛い嫁さんと可愛い子供に恵まれて、俺って勝ち組だよなって」
  「なんだか○○君がどんどんお父さんに似てくるんで困るよ」
   なんだかんだで○○君とお父さんは似た者どうしだからか、同居も上手く行ってるんだけど、どんどんお父さんに似てくるのはいか
  がなものか。
   この前、その、あっちのほうで変な事をしてきたからロリコンって言ってやったら、合法ロリだから無問題とか言って開き直ったし。
   変なところでマニアックで、昔からこっちが本気で泣くまで変な事したがるから余計に……。
   って朝から言う話題じゃないや。今のは忘れて欲しい。

  「パパ起こしてきたよー」
  「ふぁ……おはよう」
   まだ眠そうな旦那と元気一杯のそなた。
   旦那とそなたが椅子に座ると、こーちゃんが席を立つ。

  「……こーちゃんもいずれ、お父さんや○○君みたいになるのか。不憫な子」
  「俺はじいちゃんや父さんみたいにロリコンじゃない。至って健全で普通の男子だ!!」
  「普通の男子はそんな事しないと思うぞ、孫よ」
  「激しく同意だ。息子よ」
   お父さんと旦那がこーちゃんをジト目で見る。
  「文句なら母さんに言ってくれ」
   席に着いたそなたの髪を櫛で梳かして、手際よくポニーテールにするこーちゃん。
  「だってこーちゃんのほうが、そなたの髪いじるの上手いじゃん」
  「んな訳ねーだろ」
  「いやいや、謙遜しなくていーよ。こーちゃん」

   以前、私もお父さんも締め切り寸前で修羅場ってる時に、そなたの髪をこーちゃんが私の代わりに見よう見まねでいじったのが始まり。
   以来、そなたの髪はこーちゃんが毎朝梳かしてその日の気分で三つ編みにしたり、ツインテールにしたり、お団子にしたりしてる。
   ……それにしても母親より女の子の髪をいじるのが上手い息子って一体。
   こりゃ将来はカリスマ美容師かね。

  「はい。出来たよ」
  『いただきまーす』
   朝食が出来上がると、全員で食事を取る。

  「○○君、そろそろ行かないとやばいんじやない?」
   食事が終わって一服している旦那にそう声をかける。
  「ん? そうだな」
   そう答えて席を立つ旦那に、すかさず朝食と一緒に作った愛妻弁当と一緒に、中身の詰まった透明の袋をパス。
  「今日、燃えないゴミの日だから捨てて行ってね」
  「……ああ」

  「そな、俺達もそろそろ学校に行くぞ」
  「うん、お兄ちゃん」
   こーちゃんとそなたが兄妹仲良く学校へと出かけていく。
  「車に気をつけるんだよ」
  「わーってるよ」
  「はーい」

  「さてと、原稿の続きを書くとするかな」
   お父さんも席を立って自分の部屋へと戻っていく。

  「ふう。みんないなくなったし、そろそろ洗濯しなきゃね」
   私は既に回しておいた洗濯機から、家族全員の洗濯物を出してかごに放り込むと、庭へ向かう。

  「うーん。いい天気だー」
   洗濯物を干す前に、伸びをしながら深呼吸。
   青く澄んだ青空の下、洗濯物を干し始める。
  「さてと、子供達が帰ってくる前に、掃除と連載分の原稿もやっちゃわないとね」
   私は誰に言うでもなくそう独り言を呟くと、家族の分の洗濯物を干していく。

   これは6月上旬のある日常。
   特にすごいイベントがあるわけでもない、普通の日々。
   ……だけど。
   明日も明後日も明々後日も。
   ずっとずっと、こんな毎日が続くといいな。

                                                           おわり












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  • 『なぁ、なんであんたの息子は・・・その、ツンデレとか、えぇ、その、アレなんだ?』


    『決まってんじゃん?息子をかがみみたくしたら毎日いぢり倒し放題だからだよ!

    だからパラメーターもかがみに極力近づけながら育成したんだから。』

    『待て。なんか色々と待て。』 -- 名無しさん (2009-01-27 23:24:02)
  • 人物、オリキャラ、周辺環境、全ての作り込みがマジパねぇッス! -- 名無しさん (2009-01-27 00:35:24)
  • この作者様のシリーズすごく好きです。
    頑張ってください! -- さすらいのらき☆すたファン (2009-01-26 19:45:25)
  • つかさの事もkwsk -- 名無しさん (2009-01-26 04:20:15)
  • すごく、和んでgood -- 名無しさん (2008-07-21 23:08:03)
  • チョココロネ買占めに吹いたw -- 名無しさん (2008-07-16 10:54:42)
  • とても好きな話です。 -- 名無しさん (2008-07-15 04:12:50)
  • なまら、良い家族だな~特に親子でチョココロネを買い占めるってところも仲良さそうで良いな~理想の家族だな。  -- 有拳 (2008-04-09 05:50:56)
  • かがみ視点のもみたい。 -- 名無しさん (2008-03-24 21:36:58)
  • 買い占めるなwww -- 名無しさん (2008-02-22 00:11:51)
  • なんという良い家庭 -- 名無しさん (2008-02-18 02:30:50)
  • 心温まる、いいssでした。
    しかし、親子そろってのチョココロネ買占めはwww -- 名無しさん (2008-01-31 10:04:33)
  • 中々良い(^^) -- 名無しさん (2008-01-13 12:23:11)
  • チwョwコwコwロwネw -- 名無しさん (2007-12-31 15:31:57)
  • 作者はいい家庭で育ったんだなというのが目に見えました -- 名無しさん (2007-12-23 01:48:27)
  • 親子揃ってのチョココロネ買い占め吹いたwwww -- 名無しさん (2007-12-18 05:38:04)

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