上々な天気に恵まれて、昼の楽しいひとときを過ごしたどこかけだるい、それでも
心地いい静かな時間のはずだったのだが、部屋の中の空気がどうにも重い。
ベッドに腰掛け、お気に入りのライトノベルを読んでいたかがみは、しかしいつもの
ようにあまり集中できずに、部屋の一角にちらちらと視線を飛ばしていた。
自分の勉強机に座っているのは、こなただ。
どうにもこうにもどうやら怒っているのか、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたまま動こうとも
しないで強烈な視線をびしばし飛ばしてきている。
普段からタレ気味な目をさらに細めて妙な威圧感を発せられると、かがみもたまらない。
「……こなたあ。何怒ってるのよう」
「……」
たまらなくなって声をかけるもスルーである。
普段は心配になるくらい楽観的であっけらかんとしているこなたが、ひとたび押し黙ると
こんなにこわい人間だとはかがみも知らなかった。
「ねえ。私が何かしたんなら謝るから。ちゃんと言ってくれないとわからないでしょう?」
「……」
ぎゅ、とぬいぐるみを抱きしめる手を強め、ますます目を細めた。
「かがみは……」
「ん?」
「かがみは、つかさのほうが大事なんだ」
「はあ?」
いきなり言われても、何がなんだかわからない。
「何言ってるのよ。私、あんたが一番大事よ。つかさは……まあ、そりゃ妹だし、大事だけど。
でもやっぱり、一番はこなたよ」
「うそつき」
低い声。刺すような視線。
うそつき、といわれても本当に思い当たるフシはない。心底困ってしまって、首をかしげた。
「ねえこなた。なんでそんなこと言うの?私、本当に何かしたの?」
「昼間……」
「昼間って、三人で遊びいったとき?……うーん。何もしてないと思うけど」
「……ばか」
ばか、って言われても。
正直濡れ衣を着せられたような気分であんまり愉快じゃなかったけど、今にも泣き出しそうな
こなたを見ると怒る気にもなれない。というか、こなたの泣き顔なんて見たくない。
私、何したっけ。本を閉じて、昼間のことに頭をめぐらせた。
心地いい静かな時間のはずだったのだが、部屋の中の空気がどうにも重い。
ベッドに腰掛け、お気に入りのライトノベルを読んでいたかがみは、しかしいつもの
ようにあまり集中できずに、部屋の一角にちらちらと視線を飛ばしていた。
自分の勉強机に座っているのは、こなただ。
どうにもこうにもどうやら怒っているのか、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたまま動こうとも
しないで強烈な視線をびしばし飛ばしてきている。
普段からタレ気味な目をさらに細めて妙な威圧感を発せられると、かがみもたまらない。
「……こなたあ。何怒ってるのよう」
「……」
たまらなくなって声をかけるもスルーである。
普段は心配になるくらい楽観的であっけらかんとしているこなたが、ひとたび押し黙ると
こんなにこわい人間だとはかがみも知らなかった。
「ねえ。私が何かしたんなら謝るから。ちゃんと言ってくれないとわからないでしょう?」
「……」
ぎゅ、とぬいぐるみを抱きしめる手を強め、ますます目を細めた。
「かがみは……」
「ん?」
「かがみは、つかさのほうが大事なんだ」
「はあ?」
いきなり言われても、何がなんだかわからない。
「何言ってるのよ。私、あんたが一番大事よ。つかさは……まあ、そりゃ妹だし、大事だけど。
でもやっぱり、一番はこなたよ」
「うそつき」
低い声。刺すような視線。
うそつき、といわれても本当に思い当たるフシはない。心底困ってしまって、首をかしげた。
「ねえこなた。なんでそんなこと言うの?私、本当に何かしたの?」
「昼間……」
「昼間って、三人で遊びいったとき?……うーん。何もしてないと思うけど」
「……ばか」
ばか、って言われても。
正直濡れ衣を着せられたような気分であんまり愉快じゃなかったけど、今にも泣き出しそうな
こなたを見ると怒る気にもなれない。というか、こなたの泣き顔なんて見たくない。
私、何したっけ。本を閉じて、昼間のことに頭をめぐらせた。
「うーん。今回のコンプ祭りもなかなか渋いトコ押さえてきたね。バイトの時間増やそうかなあ」
「あんたは、もう。単純すぎよ」
「あはは、こなちゃんらしい」
レトロなロックがかかる糟日部駅前マック、二階禁煙スペース。
ようやく中間テストが終わって普通の学生ならイヤッホウな気分真っ最中の時期で、三人も例に
もれず早速ショッピングに繰り出した。
こなたは相変わらずアニメのDVDだとか、新刊のマンガだとか、マイナーメーカーのこれまた
マイナーなシリーズの新作ゲームだとか。そういうちょっと一般女子の趣味趣向からはずれた
アイテムを漁る気まんまんで、いつも以上に目がきらきら輝いている。
「一応付き合うけどね、私たちの買い物にも付き合ってよ。そろそろ季節も変わる頃だし、あんたも
服くらい買ったら?」
「そんなお金あったらやっぱりマンガ買うよー。だいじょぶ、一昨年買った服まだまだ着られるし」
「そういえば、こなちゃんて結構同じ服着てること多いよね」
つかさがずず、とコーラをすすりながら苦笑した。かがみもため息をついて、少しだけ不満げな顔をした。
こなたとかがみは、一応公認の恋人同士である。とはいってもいつも二人だけでイチャイチャしてる
わけでもなく、付き合う前と同じようにつかさやみゆきを交えてみんなで遊ぶことのほうが多い。
やっぱりみんなに悪いし、恥ずかしいし。
まあそれはいいのだが、かがみとしては可愛い恋人の新しい服を着た姿なども見てみたいわけで、
そんな小さな期待をあっさり裏切るこなたにちょっと文句も言ってやりたい気分にはなる。
でも、これでいいのかもしれない。ムリに流行りのファッションに身を包んだこなたというのはどうにも
想像がつかなかったし、やっぱりこの方がこなたらしい。
たまごバーガーにかぶりついて、かがみは小さく笑った。
「んぐんぐ。うーん、これ……んぐんぐ。初めて食べたけど美味しいよ」
つかさが幸せ極まりない声を出した。
「それ、なんだっけ。あー、アレか。パンがホットケーキになってるやつ?」
「うん。お肉と意外と合うよ。この発想はなかったなあ。今度、ウチでも作ってみようかなあ。
お姉ちゃんもこっちにすればよかったのにー」
言いながらもう一口。頬を小さく動かしながら、つかさは心底嬉しそうな顔をする。
そんなに美味しいんなら、本当に私もそっちにしときゃよかったかな。
つかさの顔を見てるとこっちまで美味しいものを食べている気分になる。
「あ。つかさ、ケチャップついてる」
「え?」
ティッシュを取って、ちょびっとついたケチャップを拭いた。
「んぐ」
なぜかこなたが一瞬、動きを止めた。
「美味しいのはわかるけど、あんまり一口で一杯ほおばらないの。みっともないでしょ」
「う、うん。ありがと、お姉ちゃん」
えへへ、と恥ずかしそうに笑った。
「さてと、それで今日はどこから行く?こなたの用事を先に……ん。こなた、どうかした?」
「ん、んぐ、んぐ……」
「こなた、急にがっついてどう……」
「ん?」
顔をあげたこなたの顔は、ケチャップがべっちゃりついていた。
ビール髭のようなカンジだったが、どうにも間抜けである。
「何してんの?」
「……」
そのままの体勢でいつか見せたわくわくオーラを出している。……何を期待してるんだ?
「ほら、あんたもみっともないでしょ。これで拭きなさいよ」
「え……」
ティッシュを手渡すが、なぜかちょっとショックを受けたような顔。
おずおずと手にとって、何か言いたげな顔のままもそもそと口を拭いた。
「……」
「拭けた?それじゃ、今日はこなたの用事から先に済ませちゃいましょ。そっちのほうが
時間かからないだろうし。つかさもそれでいい?」
「うん。私も見たいマンガあるし」
「そ。じゃあ、それで。こなたもいいわよね?」
「……」
無言のまま、小さくこくりとうなづいた。
なんだか急に元気がなくなったように見えて、少し『?』と思ったがどうせすぐ元気になると
思って何も言わなかった。
すぐにアニメとゲームの専門店に行ったが、なぜかこなたはうつむいたまま。
結局何も買わなかった。
「あんたは、もう。単純すぎよ」
「あはは、こなちゃんらしい」
レトロなロックがかかる糟日部駅前マック、二階禁煙スペース。
ようやく中間テストが終わって普通の学生ならイヤッホウな気分真っ最中の時期で、三人も例に
もれず早速ショッピングに繰り出した。
こなたは相変わらずアニメのDVDだとか、新刊のマンガだとか、マイナーメーカーのこれまた
マイナーなシリーズの新作ゲームだとか。そういうちょっと一般女子の趣味趣向からはずれた
アイテムを漁る気まんまんで、いつも以上に目がきらきら輝いている。
「一応付き合うけどね、私たちの買い物にも付き合ってよ。そろそろ季節も変わる頃だし、あんたも
服くらい買ったら?」
「そんなお金あったらやっぱりマンガ買うよー。だいじょぶ、一昨年買った服まだまだ着られるし」
「そういえば、こなちゃんて結構同じ服着てること多いよね」
つかさがずず、とコーラをすすりながら苦笑した。かがみもため息をついて、少しだけ不満げな顔をした。
こなたとかがみは、一応公認の恋人同士である。とはいってもいつも二人だけでイチャイチャしてる
わけでもなく、付き合う前と同じようにつかさやみゆきを交えてみんなで遊ぶことのほうが多い。
やっぱりみんなに悪いし、恥ずかしいし。
まあそれはいいのだが、かがみとしては可愛い恋人の新しい服を着た姿なども見てみたいわけで、
そんな小さな期待をあっさり裏切るこなたにちょっと文句も言ってやりたい気分にはなる。
でも、これでいいのかもしれない。ムリに流行りのファッションに身を包んだこなたというのはどうにも
想像がつかなかったし、やっぱりこの方がこなたらしい。
たまごバーガーにかぶりついて、かがみは小さく笑った。
「んぐんぐ。うーん、これ……んぐんぐ。初めて食べたけど美味しいよ」
つかさが幸せ極まりない声を出した。
「それ、なんだっけ。あー、アレか。パンがホットケーキになってるやつ?」
「うん。お肉と意外と合うよ。この発想はなかったなあ。今度、ウチでも作ってみようかなあ。
お姉ちゃんもこっちにすればよかったのにー」
言いながらもう一口。頬を小さく動かしながら、つかさは心底嬉しそうな顔をする。
そんなに美味しいんなら、本当に私もそっちにしときゃよかったかな。
つかさの顔を見てるとこっちまで美味しいものを食べている気分になる。
「あ。つかさ、ケチャップついてる」
「え?」
ティッシュを取って、ちょびっとついたケチャップを拭いた。
「んぐ」
なぜかこなたが一瞬、動きを止めた。
「美味しいのはわかるけど、あんまり一口で一杯ほおばらないの。みっともないでしょ」
「う、うん。ありがと、お姉ちゃん」
えへへ、と恥ずかしそうに笑った。
「さてと、それで今日はどこから行く?こなたの用事を先に……ん。こなた、どうかした?」
「ん、んぐ、んぐ……」
「こなた、急にがっついてどう……」
「ん?」
顔をあげたこなたの顔は、ケチャップがべっちゃりついていた。
ビール髭のようなカンジだったが、どうにも間抜けである。
「何してんの?」
「……」
そのままの体勢でいつか見せたわくわくオーラを出している。……何を期待してるんだ?
「ほら、あんたもみっともないでしょ。これで拭きなさいよ」
「え……」
ティッシュを手渡すが、なぜかちょっとショックを受けたような顔。
おずおずと手にとって、何か言いたげな顔のままもそもそと口を拭いた。
「……」
「拭けた?それじゃ、今日はこなたの用事から先に済ませちゃいましょ。そっちのほうが
時間かからないだろうし。つかさもそれでいい?」
「うん。私も見たいマンガあるし」
「そ。じゃあ、それで。こなたもいいわよね?」
「……」
無言のまま、小さくこくりとうなづいた。
なんだか急に元気がなくなったように見えて、少し『?』と思ったがどうせすぐ元気になると
思って何も言わなかった。
すぐにアニメとゲームの専門店に行ったが、なぜかこなたはうつむいたまま。
結局何も買わなかった。
「お姉ちゃん、こんなのどうかな」
「ああ、いいじゃない。うんうん、やーっと普通の服選ぶようになったわね」
駅前にたった一軒ぽつんと建つチェーンの洋服店は、かがみとつかさがいつも利用する店だ。
割と手ごろな値段で色々揃うので学校でも足しげく通う生徒は多い。
今日は夏に向けて少し薄めの服を選びに来たのだが、前々からどうもつかさはハデなガラモノを
選びがちで、かがみと一緒でないととても外に着て出られないものばかり買ってきてしまう妙癖が
あったのだが最近ようやく、自分にあったかわいらしい服を持ってくるのでかがみも安心だった。
「ああー。こっちもいいかも」
「うん、かわいいわね。似合ってるわよ、つかさ」
「えへへ。ありがと」
「試着してきたら?」
「うん。ちょっと行ってくるね」
両方を手に持って試着室に向かうつかさを見送って、かがみは自分の着るものを物色し始めた。
自分も最近はちょっとハデなものを買うことが多かったから、少し落ち着いた色のにしよう。
全面黒で胸に小さいロゴが入ったTシャツを手にとって熟考。少々お値段が張るが、これはしばらく
持ちそうだし買っておきたいかもしれない……。
「ねえねえかがみ、これどうかな」
「ん?」
珍しいこともあるものだ。いつもだったらかがみとつかさが服を見てるときはヒマそうに
してるか、休憩スペースで携帯ゲームをいじっているこなたがどうやら新しい服を選んでいるようで、
両手にハンガーを持ったままかがみに意見を求めた。
「へへ、似合うかな?」
「んー……」
右手。アニメキャラ、とまでは言わないがちょっとセンスを疑わざるを得ないキャラもののTシャツ。
左手。ハレンチ、とまでは言わないがこなたが着るにはスリーサイズが足りないと言わざるを得ない
ブランドもののワンピース。
また何かを期待したような目をくりくりさせて、かがみの目を真正面からわくわくオーラで見詰めてきた。
「……たぶん似合わない」
「ええー?じゃあどういうのならいいかな?ね、かがみが選んでよ」
さっきまでの落ち込み(?)がウソのように妙にテンションが高い。
というより、なぜか少し焦っているようにかがみには見えた。
「そうだなあ。こなたなら……」
「おねえちゃーん、ちょっとー」
「あ、つかさ。ごめんこなた、ちょっと待ってて」
「え」
また背中のホックが閉まらないとか言うんだろう。案の定背中のホック二つを止められなくて
困っていたつかさを軽くたしなめ、止めてやって鏡に映った姿を二人で見た。
やっぱり最初のハデハデなほうが気に入ったようでそっちを買った。……アレを着るときは一緒に
出かけないようにしよう。
ようやくこなたのところに戻ると、完全にさっきと同じ、ひどく落ち込んでいて『いいよ、もう』で話は
終わってしまった。
元気がないこなたに、かがみは『?』となりながら家に戻ってきて、今。
今日はこなたがお泊りの予定で、かがみもとっても楽しみにしていたのだが。
「……やっぱり、わかんない」
「……」
そろそろ変形しちゃうんじゃないか、というくらいぎゅうっとぬいぐるみを抱きしめ、こなたはますます
目を細めてかがみを睨みつけた。
「にぶちん」
「にぶ……」
なんとか聞き取れるくらいの小声だったが、明らかに怒っている声である。
うーん。本当になんだろう。もう一度記憶を再生する。
確かに、つかさにかかりっきりだったとは思うけど、だからってつかさが一番大事ってことに、なる?
あれくらいなら、いつもやってることだと思うんだけどなあ。
「ねえこなた。確かにつかさと一緒にいる時間多かったけど、それだけじゃつかさのほうが大事って
ことにはならないでしょ?何がイヤだったのよ」
「……」
相変わらずだんまりを決め込むこなたにかがみは頭を掻いた。
うーん。ううーん……わからん。
「私だって……」
こなたがようやく普通に聞える声で言った。
ちょっとだけ泣きそうだった。
「私だって、口拭いてほしかった」
「え」
「かがみに、服ほめてほしかった」
……
えーと、つまり。
「あんた、拗ねてたわけ?」
「……」
ああ、ああ、そうか、そういうことか。やっとしっくりきて、かがみは胸がすく気分になった。
そう、忘れてたけど、こいつは意外と寂しがりやなんだ。
私がつかさと一緒にいてノケモノにされた、っていうより、つかさにしてあげたそういう『ちいさいこと』を
してほしかっただけなんだ。
まったく。こどもなんだから。
小さく笑って、かがみは両手をひろげた。
「おいで」
「やだ」
「いいから。おいで。頭なでてあげる」
自分でもびっくりするくらい優しい声だった。まだしばらくじっとしていたこなたは、やっとぬいぐるみを
床において、おずおずとかがみの膝の上に陣取った。
左手をこなたのおなかのあたりに、右手をそのきれいな髪に乗せて、そっと撫ぜた。
「よかった。嫌われちゃったかと思った」
「……そんなこと、ない。絶対ない」
「そう」
いつもと違ってしおらしいこなたも可愛い。でも。
「気持ちいい?」
「ん……」
「なら、笑いなさいよ。嬉しいときは笑うもんよ?」
「……へへ」
こいつは、やっぱり笑ってるほうが、絶対可愛い。
ゆっくりゆっくり、髪を撫でながらこなたの耳元でささやいた。
「今度は、二人だけで出かけようね」
「うん」
「一緒にアニメ見たり、ゲームしたりしようね」
「うん」
「今度から、ちゃんと口拭いたり服ほめたりしてあげるからね。今日は、ごめんね」
「うん」
「……ずっと、一緒にいようね」
「……うん」
こなたの肩越しに、顔をのぞかせた。目の前に、こなたのきれいな目があった。
どちらともなく目を閉じて、そっとキスをした。
夜は、これから。
「ああ、いいじゃない。うんうん、やーっと普通の服選ぶようになったわね」
駅前にたった一軒ぽつんと建つチェーンの洋服店は、かがみとつかさがいつも利用する店だ。
割と手ごろな値段で色々揃うので学校でも足しげく通う生徒は多い。
今日は夏に向けて少し薄めの服を選びに来たのだが、前々からどうもつかさはハデなガラモノを
選びがちで、かがみと一緒でないととても外に着て出られないものばかり買ってきてしまう妙癖が
あったのだが最近ようやく、自分にあったかわいらしい服を持ってくるのでかがみも安心だった。
「ああー。こっちもいいかも」
「うん、かわいいわね。似合ってるわよ、つかさ」
「えへへ。ありがと」
「試着してきたら?」
「うん。ちょっと行ってくるね」
両方を手に持って試着室に向かうつかさを見送って、かがみは自分の着るものを物色し始めた。
自分も最近はちょっとハデなものを買うことが多かったから、少し落ち着いた色のにしよう。
全面黒で胸に小さいロゴが入ったTシャツを手にとって熟考。少々お値段が張るが、これはしばらく
持ちそうだし買っておきたいかもしれない……。
「ねえねえかがみ、これどうかな」
「ん?」
珍しいこともあるものだ。いつもだったらかがみとつかさが服を見てるときはヒマそうに
してるか、休憩スペースで携帯ゲームをいじっているこなたがどうやら新しい服を選んでいるようで、
両手にハンガーを持ったままかがみに意見を求めた。
「へへ、似合うかな?」
「んー……」
右手。アニメキャラ、とまでは言わないがちょっとセンスを疑わざるを得ないキャラもののTシャツ。
左手。ハレンチ、とまでは言わないがこなたが着るにはスリーサイズが足りないと言わざるを得ない
ブランドもののワンピース。
また何かを期待したような目をくりくりさせて、かがみの目を真正面からわくわくオーラで見詰めてきた。
「……たぶん似合わない」
「ええー?じゃあどういうのならいいかな?ね、かがみが選んでよ」
さっきまでの落ち込み(?)がウソのように妙にテンションが高い。
というより、なぜか少し焦っているようにかがみには見えた。
「そうだなあ。こなたなら……」
「おねえちゃーん、ちょっとー」
「あ、つかさ。ごめんこなた、ちょっと待ってて」
「え」
また背中のホックが閉まらないとか言うんだろう。案の定背中のホック二つを止められなくて
困っていたつかさを軽くたしなめ、止めてやって鏡に映った姿を二人で見た。
やっぱり最初のハデハデなほうが気に入ったようでそっちを買った。……アレを着るときは一緒に
出かけないようにしよう。
ようやくこなたのところに戻ると、完全にさっきと同じ、ひどく落ち込んでいて『いいよ、もう』で話は
終わってしまった。
元気がないこなたに、かがみは『?』となりながら家に戻ってきて、今。
今日はこなたがお泊りの予定で、かがみもとっても楽しみにしていたのだが。
「……やっぱり、わかんない」
「……」
そろそろ変形しちゃうんじゃないか、というくらいぎゅうっとぬいぐるみを抱きしめ、こなたはますます
目を細めてかがみを睨みつけた。
「にぶちん」
「にぶ……」
なんとか聞き取れるくらいの小声だったが、明らかに怒っている声である。
うーん。本当になんだろう。もう一度記憶を再生する。
確かに、つかさにかかりっきりだったとは思うけど、だからってつかさが一番大事ってことに、なる?
あれくらいなら、いつもやってることだと思うんだけどなあ。
「ねえこなた。確かにつかさと一緒にいる時間多かったけど、それだけじゃつかさのほうが大事って
ことにはならないでしょ?何がイヤだったのよ」
「……」
相変わらずだんまりを決め込むこなたにかがみは頭を掻いた。
うーん。ううーん……わからん。
「私だって……」
こなたがようやく普通に聞える声で言った。
ちょっとだけ泣きそうだった。
「私だって、口拭いてほしかった」
「え」
「かがみに、服ほめてほしかった」
……
えーと、つまり。
「あんた、拗ねてたわけ?」
「……」
ああ、ああ、そうか、そういうことか。やっとしっくりきて、かがみは胸がすく気分になった。
そう、忘れてたけど、こいつは意外と寂しがりやなんだ。
私がつかさと一緒にいてノケモノにされた、っていうより、つかさにしてあげたそういう『ちいさいこと』を
してほしかっただけなんだ。
まったく。こどもなんだから。
小さく笑って、かがみは両手をひろげた。
「おいで」
「やだ」
「いいから。おいで。頭なでてあげる」
自分でもびっくりするくらい優しい声だった。まだしばらくじっとしていたこなたは、やっとぬいぐるみを
床において、おずおずとかがみの膝の上に陣取った。
左手をこなたのおなかのあたりに、右手をそのきれいな髪に乗せて、そっと撫ぜた。
「よかった。嫌われちゃったかと思った」
「……そんなこと、ない。絶対ない」
「そう」
いつもと違ってしおらしいこなたも可愛い。でも。
「気持ちいい?」
「ん……」
「なら、笑いなさいよ。嬉しいときは笑うもんよ?」
「……へへ」
こいつは、やっぱり笑ってるほうが、絶対可愛い。
ゆっくりゆっくり、髪を撫でながらこなたの耳元でささやいた。
「今度は、二人だけで出かけようね」
「うん」
「一緒にアニメ見たり、ゲームしたりしようね」
「うん」
「今度から、ちゃんと口拭いたり服ほめたりしてあげるからね。今日は、ごめんね」
「うん」
「……ずっと、一緒にいようね」
「……うん」
こなたの肩越しに、顔をのぞかせた。目の前に、こなたのきれいな目があった。
どちらともなく目を閉じて、そっとキスをした。
夜は、これから。
おわり。
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- でもさすがに舐めとるのは外では気が引けるかな -- 名無しさん (2023-02-04 01:22:11)
- こなたも乙女なのだよー。
なお、百合ADVゲームならば、ケチャップは「舌で舐め取る」
ショッピングは「甘ロリ服をコーディネイトしてあげる」が正解ルートですね。 -- ゲーム脳 (2011-04-11 06:28:58) - かがみんは、絶対にいい母親になれますね! -- 名無しさん (2010-08-24 22:29:05)
- 夜は、これから.... -- 名無しさん (2010-08-15 11:19:01)
- 母性全開のかがみん萌え( ´ ▽ ` )ノ -- ユウ (2010-03-23 14:12:12)
- いやされた(・∀・) -- 名無しさん (2010-02-19 21:33:45)
- こなた可愛い、こういうこなかがっていいな -- 名無しさん (2009-02-11 20:35:21)