【track 6 : そしてパーティーは始まった】
ケーキにキャンドルを立てる大役は、私が任されることになった。
「やっぱ最後の仕上げまでキチンとやんなきゃね」
とは、こなたお姉ちゃんの談。
七本――十歳分一本と一歳分六本――がバランスよく並ぶように、慎重に挿していく。
確かにやりたいって言い出したのも、一応とはいえ作ったのも私だけど……緊張するよぅ。
「え……じゃあ、これは、ゆたかが……?」
「う、うん。って言っても買ってきたスポンジにクリーム塗っただけなんだけど……」
しかもインターネットで調べた、一番簡単な作り方のだし。
だから、こうしてつかささんたちの作ったお料理と並べると、どうしても見劣りしちゃう。
家で完成させたときは会心の出来だと思ったのになぁ。
「ご、ごめんね。不恰好で……」
ああ、なんだろ、なんだかすっごく恥ずかしい。
自分がとんでもない勘違いのウヌボレ屋さんみたいな気がして。
「そんなこと……ない」
「そうだよ、ゆーちゃん」
だけど、みなみちゃんとお姉ちゃんはそう言ってくれる。
「確かに売り物にできるってレベルじゃないけど、初めてでこれだけできれば上等だよ。――ね?」
「えっ?」
突然問いかけを向けられて、つかささんがびっくりした声を挙げる。
「あ……う、うん。そうだよ。えっと……私が最初に作ったのなんて、ホントに酷かったから。
あはは……」
そして、どこか無理してるような言い方だったのは、本当は酷い出来だと思っているからなのか、
それとも……
「それにさ、これはゆーちゃんがみなみちゃんのために作った、世界でたった一つのケーキだよ。
どこにも売ってないよ」
「へっ?」
浮かびかけた疑問は、お姉ちゃんのそんな言葉で引っ込んだ。
「ええ。本当に、その通りです」
続いて高良先輩が相槌を打つ。
う、嬉しいけど……そんなふうに言われたらくすぐったいよ。
みなみちゃんの方まで赤くなっちゃった。
「へーぇ、いーコト言うじゃんちびっ子」
「まぁねー。……でも正確には最初でも唯一でもないんだけどね。失敗作が家に二つほど」
あう……
「そうなんスか? って先輩、そういうのは黙っときましょうよ」
「いやいや。決して妥協しなかったゆーちゃんの情熱を闇に葬るなんてマネ、私にはできないっ!」
「Good Job! コナタ!」
はうぅぅ。
手が震えちゃうよ。
「ちなみにソチラはスタッフが美味しく頂きました」
「スタッフ?」
「うん。おとーさん」
首をかしげる峰岸先輩に、簡潔に答えるお姉ちゃん。
ごめんなさい、叔父さん。
「いや……健康に悪すぎるだろそれ」
「帰ったら私もちゃんと協力するって。オタクでロリコンのエロオヤジにメタボ属性まで追加されちゃ、
さすがの私も困るからね」
「……容赦ねーな」
そしてお姉ちゃんとかがみさんとの、いつものやりとり。
でもいつもと違って、やっぱりどこかぎこちない。
無理やり「いつもどおり」を意識してるみたいなかがみさんだけど、
お姉ちゃんも薄々何かを感じ取っているのか、それともみなみちゃんを気遣ってくれているのか、
特に何も言おうとしなかった。
「やっぱ最後の仕上げまでキチンとやんなきゃね」
とは、こなたお姉ちゃんの談。
七本――十歳分一本と一歳分六本――がバランスよく並ぶように、慎重に挿していく。
確かにやりたいって言い出したのも、一応とはいえ作ったのも私だけど……緊張するよぅ。
「え……じゃあ、これは、ゆたかが……?」
「う、うん。って言っても買ってきたスポンジにクリーム塗っただけなんだけど……」
しかもインターネットで調べた、一番簡単な作り方のだし。
だから、こうしてつかささんたちの作ったお料理と並べると、どうしても見劣りしちゃう。
家で完成させたときは会心の出来だと思ったのになぁ。
「ご、ごめんね。不恰好で……」
ああ、なんだろ、なんだかすっごく恥ずかしい。
自分がとんでもない勘違いのウヌボレ屋さんみたいな気がして。
「そんなこと……ない」
「そうだよ、ゆーちゃん」
だけど、みなみちゃんとお姉ちゃんはそう言ってくれる。
「確かに売り物にできるってレベルじゃないけど、初めてでこれだけできれば上等だよ。――ね?」
「えっ?」
突然問いかけを向けられて、つかささんがびっくりした声を挙げる。
「あ……う、うん。そうだよ。えっと……私が最初に作ったのなんて、ホントに酷かったから。
あはは……」
そして、どこか無理してるような言い方だったのは、本当は酷い出来だと思っているからなのか、
それとも……
「それにさ、これはゆーちゃんがみなみちゃんのために作った、世界でたった一つのケーキだよ。
どこにも売ってないよ」
「へっ?」
浮かびかけた疑問は、お姉ちゃんのそんな言葉で引っ込んだ。
「ええ。本当に、その通りです」
続いて高良先輩が相槌を打つ。
う、嬉しいけど……そんなふうに言われたらくすぐったいよ。
みなみちゃんの方まで赤くなっちゃった。
「へーぇ、いーコト言うじゃんちびっ子」
「まぁねー。……でも正確には最初でも唯一でもないんだけどね。失敗作が家に二つほど」
あう……
「そうなんスか? って先輩、そういうのは黙っときましょうよ」
「いやいや。決して妥協しなかったゆーちゃんの情熱を闇に葬るなんてマネ、私にはできないっ!」
「Good Job! コナタ!」
はうぅぅ。
手が震えちゃうよ。
「ちなみにソチラはスタッフが美味しく頂きました」
「スタッフ?」
「うん。おとーさん」
首をかしげる峰岸先輩に、簡潔に答えるお姉ちゃん。
ごめんなさい、叔父さん。
「いや……健康に悪すぎるだろそれ」
「帰ったら私もちゃんと協力するって。オタクでロリコンのエロオヤジにメタボ属性まで追加されちゃ、
さすがの私も困るからね」
「……容赦ねーな」
そしてお姉ちゃんとかがみさんとの、いつものやりとり。
でもいつもと違って、やっぱりどこかぎこちない。
無理やり「いつもどおり」を意識してるみたいなかがみさんだけど、
お姉ちゃんも薄々何かを感じ取っているのか、それともみなみちゃんを気遣ってくれているのか、
特に何も言おうとしなかった。
そんなこんなで、どうにか失敗せずに全てのキャンドルを立て終えて、火も灯すことができた。
照明が落とされて、みなみちゃんのお母さんによるピアノの伴奏に乗せて、
お馴染みの『Happy Birthday to You』をみんなで合唱。
最後の「みなみちゃーん」が「いわさきー」だったり「ミナミー」だったり、微妙にバラバラだったのが
逆にちょっと楽しい感じ。
ほっぺたを膨らませて一生懸命にキャンドルの火を吹き消すみなみちゃんの姿はなんだか新鮮で、
可愛らしかった。
続いてケーキを切り分ける。
私とみなみちゃんの初めての共同作業、なんてやらされそうになったけど、無理だよう。
手が震えて、絶対失敗しちゃう。
二人でそう主張して、結局みなみちゃんのお母さんにやってもらうことになった。
なんだろう。
今日はなんだか、みんなで寄ってたかってヘンなふうに背中を押してきてる気がする。
やっぱり……かがみさんのことが関係してるのかな。
照明が落とされて、みなみちゃんのお母さんによるピアノの伴奏に乗せて、
お馴染みの『Happy Birthday to You』をみんなで合唱。
最後の「みなみちゃーん」が「いわさきー」だったり「ミナミー」だったり、微妙にバラバラだったのが
逆にちょっと楽しい感じ。
ほっぺたを膨らませて一生懸命にキャンドルの火を吹き消すみなみちゃんの姿はなんだか新鮮で、
可愛らしかった。
続いてケーキを切り分ける。
私とみなみちゃんの初めての共同作業、なんてやらされそうになったけど、無理だよう。
手が震えて、絶対失敗しちゃう。
二人でそう主張して、結局みなみちゃんのお母さんにやってもらうことになった。
なんだろう。
今日はなんだか、みんなで寄ってたかってヘンなふうに背中を押してきてる気がする。
やっぱり……かがみさんのことが関係してるのかな。
「くさいよねー」
「デスねー」
「気がついたらくさいんだよね」
「なんでくさいのかなぁ」
話の花が咲いている。
「ってゆーか何がくさいんだろーな」
「謎だよネ」
「最大の謎っスね……ってコレ言っていいんスか?」
最初はみんなで集まってワイワイやってたんだけど、
広いテーブルに置かれたお料理をそれぞれが追いかけているうちに、
今はなんとなく私たち一年生とお姉ちゃんたち三年生とに分かれている。
「ってゆーかうまっ! コレうまっ! うめーよこのミートボール、妹さん!」
「そ、それ作ったの、こなちゃんだよ……?」
「マジでっ!?」
「うわ、ひどっ。そこまで驚くことないじゃん。せっかく用意したのにさ」
「マジでかっ! うわー、ありがとなちびっ子!」
「よしよし。でも野菜も食べなきゃダメよ、みさちゃん」
「おいしいですよ、こちらのサラダ」
よかった。
お姉ちゃんと日下部先輩たち、ちゃんと仲良くなれたみたい。
最初にかがみさん絡みのことを問い詰められたときはどうなるかと思ったけど。
……ただ、
「……」
そのかがみさんだけが、そんな中でただ一人、笑顔を浮かべながらもほとんど喋っていない。
つかささんも、話しかけられたら答えているけど、
それ以外のときはチラチラとかがみさんに心配そうな視線を送っている。
「――ねえっ、小早川さんっ」
「え?」
「これ、このサンドイッチ、作ったの小早川さんだよね? おいしいよっ?」
「ミナミも食べてクダサイ。愛情たっぷりデスよ?」
そして、田村さんとパティちゃん。
お姉ちゃんとかがみさんがヘンな雰囲気になりそうになったり、
今みたいに私の意識がかがみさんに向きそうになったりすると、こうやって割り込んでくる。
最初は気が付かなかったけど、なるほど、確かに。
教えられた通りだ。
さっき台所で、まだお料理をしていたときに。
小声で何かを話していたこなたお姉ちゃんとつかささんの目を盗むようにして、
峰岸先輩がこっそりと耳打ちしてくれた通りの状況だ。
「デスねー」
「気がついたらくさいんだよね」
「なんでくさいのかなぁ」
話の花が咲いている。
「ってゆーか何がくさいんだろーな」
「謎だよネ」
「最大の謎っスね……ってコレ言っていいんスか?」
最初はみんなで集まってワイワイやってたんだけど、
広いテーブルに置かれたお料理をそれぞれが追いかけているうちに、
今はなんとなく私たち一年生とお姉ちゃんたち三年生とに分かれている。
「ってゆーかうまっ! コレうまっ! うめーよこのミートボール、妹さん!」
「そ、それ作ったの、こなちゃんだよ……?」
「マジでっ!?」
「うわ、ひどっ。そこまで驚くことないじゃん。せっかく用意したのにさ」
「マジでかっ! うわー、ありがとなちびっ子!」
「よしよし。でも野菜も食べなきゃダメよ、みさちゃん」
「おいしいですよ、こちらのサラダ」
よかった。
お姉ちゃんと日下部先輩たち、ちゃんと仲良くなれたみたい。
最初にかがみさん絡みのことを問い詰められたときはどうなるかと思ったけど。
……ただ、
「……」
そのかがみさんだけが、そんな中でただ一人、笑顔を浮かべながらもほとんど喋っていない。
つかささんも、話しかけられたら答えているけど、
それ以外のときはチラチラとかがみさんに心配そうな視線を送っている。
「――ねえっ、小早川さんっ」
「え?」
「これ、このサンドイッチ、作ったの小早川さんだよね? おいしいよっ?」
「ミナミも食べてクダサイ。愛情たっぷりデスよ?」
そして、田村さんとパティちゃん。
お姉ちゃんとかがみさんがヘンな雰囲気になりそうになったり、
今みたいに私の意識がかがみさんに向きそうになったりすると、こうやって割り込んでくる。
最初は気が付かなかったけど、なるほど、確かに。
教えられた通りだ。
さっき台所で、まだお料理をしていたときに。
小声で何かを話していたこなたお姉ちゃんとつかささんの目を盗むようにして、
峰岸先輩がこっそりと耳打ちしてくれた通りの状況だ。
かがみさんは、男の子から告白をされたらしい。
“だから、もし様子がおかしく見えても、気にしないであげてね?”
“今日ここに来たくなかったとか、そういうことじゃじゃないはずだから”
“それと、田村ちゃんとパトリシアちゃんのことも”
“たぶん、なんだけど、柊ちゃんは泉ちゃんとケンカしてるって思っちゃってるみたいなの”
“訂正してあげたいんだけど……柊ちゃんの気持ちを考えると、ねぇ”
“だから二人のことも、不自然に見えても気付かないフリをして、できれば話も合わせてあげて?”
“今日ここに来たくなかったとか、そういうことじゃじゃないはずだから”
“それと、田村ちゃんとパトリシアちゃんのことも”
“たぶん、なんだけど、柊ちゃんは泉ちゃんとケンカしてるって思っちゃってるみたいなの”
“訂正してあげたいんだけど……柊ちゃんの気持ちを考えると、ねぇ”
“だから二人のことも、不自然に見えても気付かないフリをして、できれば話も合わせてあげて?”
「……」
ちらりと見上げる。みなみちゃんもまた、かがみさんに気遣わしげな視線を送っている。
やっぱり気が付くよね。
みなみちゃん、私が体調が悪いときはどんなに取り繕っててもすぐに見抜いちゃうから。
単に私の演技が下手だってだけかもしれないけど……と、
「……なに、ゆたか?」
「え? あ、ええと……」
視線に気付いたのか、みなみちゃんがこちらを見下ろしてきた。
どうしよう。
ちらりと見上げる。みなみちゃんもまた、かがみさんに気遣わしげな視線を送っている。
やっぱり気が付くよね。
みなみちゃん、私が体調が悪いときはどんなに取り繕っててもすぐに見抜いちゃうから。
単に私の演技が下手だってだけかもしれないけど……と、
「……なに、ゆたか?」
「え? あ、ええと……」
視線に気付いたのか、みなみちゃんがこちらを見下ろしてきた。
どうしよう。
“もちろん、みんなには内緒よ?”
“ただし岩崎ちゃんにだけは、もし気にしているようだったら教えてあげてもいいと思う”
“あなたとあの子にだけなら、たぶん、柊ちゃんも許してくれるわ”
“ただし岩崎ちゃんにだけは、もし気にしているようだったら教えてあげてもいいと思う”
“あなたとあの子にだけなら、たぶん、柊ちゃんも許してくれるわ”
峰岸先輩はそう言ってくれた。
けど、今は田村さんとパティちゃんがすぐ近くにいる。気付かれずに話すのは無理だ。
「……お化粧、してるんだなって……」
考えた末、そうごまかした。
けれどそれも、さっきから気になっていたことではある。
「こ、これは……みゆきさんが……」
みなみちゃんは恥ずかしそうに顔を背けて、さらに手で隠してしまった。
「……美容院に、連れて行かれて……」
「あ、そうなんだ」
「Oh、ソレは是非トモ見物したかったデスねェ……」
「や、やめて……」
パティちゃんがニヤリと笑って、みなみちゃんはさらにうつむく。
でも、そっか。
みなみちゃんは今日のことを知らなかったんだから、自分からおめかしをするはずがないよね。
「その、服も?」
「う、うん……」
ピンクのワンピースと、白いレースのカーディガン。
制服以外のスカート姿を見るのは、ひょっとしたら初めてかも知れない。
「こんなの……似合わない、のに……」
言いつつ、落ち着きない感じで襟元や裾をひっぱったりして、どうにか隠そうとするみなみちゃん。
さっきまで普通にしてたのに。悪いことしちゃったかな。
でも、そんな仕草がかえって可愛らしい、なんて思ってしまう。
自然と頬が緩んだ。
「そんなことないよ。すっごく似合ってるよ、みなみちゃん」
「そうそう。なんて言うか、眼福だよね」
「YES! 既存の image に拘ってイテハ萌えの地平は開けマセン!」
田村さんとパティちゃんも笑顔でうなずく。
「――ふふ。好評のようですね、みなみさん」
と、そこに高良先輩と、
「あー、やっぱりみゆきさんのセレクションだったんだ、ソレ」
その後ろから、お姉ちゃんたちも加わってきた。
ちょっと困ったかも。ますますかがみさんのこと言えなくなっちゃった。
でも、まあいっか。もうちょっとあとでも。
「ええ、お恥ずかしながら。ただ、私だけでなく、田村さんにもアドバイスを頂いたんですよ」
「へ? あ、いや私は」
「あー、そいや途中でなんか高良と電話してたよな。うんとカワイクとかなんとか」
「……田村さん……」
みなみちゃんの、珍しく恨めしそうな上目遣い。
田村さんが大慌てで首を振る。
「いやいやいやいやいや! 違うっス! いやま確かに言ったけどっ、それだけでっ。そもそも
服にするって言ったのもモノを見立てたのも高良先輩だから――ってゆーか! 似合ってるから!
すっごい可愛いから!」
言い訳から一転、拳を握り締めて力説する田村さん。
そのあまりの様子に、みんなから笑いが漏れた。
「――でも、さすがみゆきね。いいセンスしてる」
かがみさんからも。
「うんうん。みなみちゃんの、普段は隠れたオジョーサマ的萌え要素を存分に引き出しつつ、本来の
クーデレ属性も失わせていない……萌えブリーダーとしても完ぺきだね、みゆきさん」
「ありがとうございます」
お姉ちゃんの少しマニアックなコメントに、高良先輩がはにかんでお礼を言う。
「……」
「……」
けど、今は田村さんとパティちゃんがすぐ近くにいる。気付かれずに話すのは無理だ。
「……お化粧、してるんだなって……」
考えた末、そうごまかした。
けれどそれも、さっきから気になっていたことではある。
「こ、これは……みゆきさんが……」
みなみちゃんは恥ずかしそうに顔を背けて、さらに手で隠してしまった。
「……美容院に、連れて行かれて……」
「あ、そうなんだ」
「Oh、ソレは是非トモ見物したかったデスねェ……」
「や、やめて……」
パティちゃんがニヤリと笑って、みなみちゃんはさらにうつむく。
でも、そっか。
みなみちゃんは今日のことを知らなかったんだから、自分からおめかしをするはずがないよね。
「その、服も?」
「う、うん……」
ピンクのワンピースと、白いレースのカーディガン。
制服以外のスカート姿を見るのは、ひょっとしたら初めてかも知れない。
「こんなの……似合わない、のに……」
言いつつ、落ち着きない感じで襟元や裾をひっぱったりして、どうにか隠そうとするみなみちゃん。
さっきまで普通にしてたのに。悪いことしちゃったかな。
でも、そんな仕草がかえって可愛らしい、なんて思ってしまう。
自然と頬が緩んだ。
「そんなことないよ。すっごく似合ってるよ、みなみちゃん」
「そうそう。なんて言うか、眼福だよね」
「YES! 既存の image に拘ってイテハ萌えの地平は開けマセン!」
田村さんとパティちゃんも笑顔でうなずく。
「――ふふ。好評のようですね、みなみさん」
と、そこに高良先輩と、
「あー、やっぱりみゆきさんのセレクションだったんだ、ソレ」
その後ろから、お姉ちゃんたちも加わってきた。
ちょっと困ったかも。ますますかがみさんのこと言えなくなっちゃった。
でも、まあいっか。もうちょっとあとでも。
「ええ、お恥ずかしながら。ただ、私だけでなく、田村さんにもアドバイスを頂いたんですよ」
「へ? あ、いや私は」
「あー、そいや途中でなんか高良と電話してたよな。うんとカワイクとかなんとか」
「……田村さん……」
みなみちゃんの、珍しく恨めしそうな上目遣い。
田村さんが大慌てで首を振る。
「いやいやいやいやいや! 違うっス! いやま確かに言ったけどっ、それだけでっ。そもそも
服にするって言ったのもモノを見立てたのも高良先輩だから――ってゆーか! 似合ってるから!
すっごい可愛いから!」
言い訳から一転、拳を握り締めて力説する田村さん。
そのあまりの様子に、みんなから笑いが漏れた。
「――でも、さすがみゆきね。いいセンスしてる」
かがみさんからも。
「うんうん。みなみちゃんの、普段は隠れたオジョーサマ的萌え要素を存分に引き出しつつ、本来の
クーデレ属性も失わせていない……萌えブリーダーとしても完ぺきだね、みゆきさん」
「ありがとうございます」
お姉ちゃんの少しマニアックなコメントに、高良先輩がはにかんでお礼を言う。
「……」
「……」
そして沈黙が降りた。
「……」
「……!」
一拍遅れて口を開きかけたかがみさんと、
「しまった」みたいな顔をしながらそちらを振り返ったお姉ちゃんとの視線が交わって、
二人の顔がかすかに強張る。
「……?」
「……っ」
高良先輩が小首をかしげる。田村さんが息を飲む。
日下部先輩に焦った顔を向けられて、峰岸先輩が眉を下げる。
つかささんが何かを言おうと口を開いて、何も言わずに閉じる。
恥ずかしさに縮こまっていたみなみちゃんが、異変に気付いて顔を上げて――
「……!」
一拍遅れて口を開きかけたかがみさんと、
「しまった」みたいな顔をしながらそちらを振り返ったお姉ちゃんとの視線が交わって、
二人の顔がかすかに強張る。
「……?」
「……っ」
高良先輩が小首をかしげる。田村さんが息を飲む。
日下部先輩に焦った顔を向けられて、峰岸先輩が眉を下げる。
つかささんが何かを言おうと口を開いて、何も言わずに閉じる。
恥ずかしさに縮こまっていたみなみちゃんが、異変に気付いて顔を上げて――
「――ヒヨリ?」
同時にパティちゃんが、不思議そうにつぶやいた。
「へっ!? ……あ、なに、パティ?」
「今、『ミユキが服にスルと言った』と言いマシタか?」
「え? えっと……言った、かな? ――あ」
言われて、田村さんは一瞬怪訝な顔をして、そしてハッとなる。
「そっか……言っちゃった」
?
なんだろ?
疑問に思ったのと同時、高良先輩がおずおずと口を開く。
「あの……どうか、なさったのですか、みなさん?」
「Present のことデス」
すかさず、困ったような笑顔で答えるパティちゃん。
こなたお姉ちゃんがそれに続く。
「あぁ……そっか。ネタバレしちゃったね、ひよりん」
「スンマセンっす。つ、つい……」
「……はい?」
高良先輩が疑問符を重ねて、私やみなみちゃんもそれに倣う。
ねたばれ?
「ん、だからね? 見てのお楽しみなプレゼントの、一つが一足先に判明しちゃったってコト」
あ、そっか。
お姉ちゃんのその言葉に、みんなの疑問符が霧散した。
そういえば、電車の中でもそんな話をしてたっけ。
日下部先輩が手ぶらで何の用意もしてないふうなのを、田村さんとパティちゃんが指摘して、
そしたらお姉ちゃんたちが「あとのお楽しみ」、とか。
高良先輩も納得顔になってうなずいた。
「ええ、確かにみなみさんの服は、私と母からということで送らせていただいたものですが……」
振り返って見てみると、部屋の隅で先輩のお母さんが笑顔で手を振っていた。
隣に立っているみなみちゃんのお母さんに、なぜか服の裾を捕まえられている。
「まだ言ってはまずかったのですね。申し訳ありません」
「いえいえ、今のは私が……」
「や、いーっていーって」
お互いに頭を下げあう高良先輩と田村さんを、お姉ちゃんが笑ってなだめる。
そうして――空気が変わった。
今の気まずい沈黙は、かがみさんの不調が原因ではなく、田村さんの失言のせいなのだと。
そのように、塗り替えられた。
「へっ!? ……あ、なに、パティ?」
「今、『ミユキが服にスルと言った』と言いマシタか?」
「え? えっと……言った、かな? ――あ」
言われて、田村さんは一瞬怪訝な顔をして、そしてハッとなる。
「そっか……言っちゃった」
?
なんだろ?
疑問に思ったのと同時、高良先輩がおずおずと口を開く。
「あの……どうか、なさったのですか、みなさん?」
「Present のことデス」
すかさず、困ったような笑顔で答えるパティちゃん。
こなたお姉ちゃんがそれに続く。
「あぁ……そっか。ネタバレしちゃったね、ひよりん」
「スンマセンっす。つ、つい……」
「……はい?」
高良先輩が疑問符を重ねて、私やみなみちゃんもそれに倣う。
ねたばれ?
「ん、だからね? 見てのお楽しみなプレゼントの、一つが一足先に判明しちゃったってコト」
あ、そっか。
お姉ちゃんのその言葉に、みんなの疑問符が霧散した。
そういえば、電車の中でもそんな話をしてたっけ。
日下部先輩が手ぶらで何の用意もしてないふうなのを、田村さんとパティちゃんが指摘して、
そしたらお姉ちゃんたちが「あとのお楽しみ」、とか。
高良先輩も納得顔になってうなずいた。
「ええ、確かにみなみさんの服は、私と母からということで送らせていただいたものですが……」
振り返って見てみると、部屋の隅で先輩のお母さんが笑顔で手を振っていた。
隣に立っているみなみちゃんのお母さんに、なぜか服の裾を捕まえられている。
「まだ言ってはまずかったのですね。申し訳ありません」
「いえいえ、今のは私が……」
「や、いーっていーって」
お互いに頭を下げあう高良先輩と田村さんを、お姉ちゃんが笑ってなだめる。
そうして――空気が変わった。
今の気まずい沈黙は、かがみさんの不調が原因ではなく、田村さんの失言のせいなのだと。
そのように、塗り替えられた。
すごい。
みんな、すごい。
だとしたらさっきのパティちゃんのつぶやきは演技だってことになるけど、全然そうは見えなかった。
「てか、もうそろそろいい頃だし、このままプレゼントタイムに突入しちゃおう」
「おー、いーな。待ってたぜ」
お姉ちゃんも、日下部先輩も。
かがみさんのことが気になって仕方がないはずなのに、
いったいどれだけ我慢すればこんなにも自然に振舞えるんだろう。
田村さんも、みなみちゃんやかがみさんのために、自分を悪者にしてまで頑張って。
本当に、みんな、すごい。
すごく、優しい。
私にはとても真似できそうにないや…………って。
ダメだよそれじゃ!
私も頑張らないと!
頑張って、チャンスを見つけて、早くみなみちゃんを安心させてあげないと。
だとしたらさっきのパティちゃんのつぶやきは演技だってことになるけど、全然そうは見えなかった。
「てか、もうそろそろいい頃だし、このままプレゼントタイムに突入しちゃおう」
「おー、いーな。待ってたぜ」
お姉ちゃんも、日下部先輩も。
かがみさんのことが気になって仕方がないはずなのに、
いったいどれだけ我慢すればこんなにも自然に振舞えるんだろう。
田村さんも、みなみちゃんやかがみさんのために、自分を悪者にしてまで頑張って。
本当に、みんな、すごい。
すごく、優しい。
私にはとても真似できそうにないや…………って。
ダメだよそれじゃ!
私も頑張らないと!
頑張って、チャンスを見つけて、早くみなみちゃんを安心させてあげないと。
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- 絶対壊れると分かっている吊り橋を渡っている気分だぜ…。 -- 名無しさん (2008-04-06 07:00:17)