【track 3 : わんこと卵とゴゴゴゴ時空】
「ちぇり~~~~っ!!」
「ワウッ!」
「ワウッ!」
――ひしっ!
およそ一ヶ月ぶりの抱擁を交わす。
うっわー、ふわふわのもふもふのもこもこの、ぽっかぽかだ。あちぃ。
まだまだ東京の残暑は厳しくて、けどこの感触は捨てがたい。どーしたモンか。
「へえー、ホントに懐いてるネ。チェリーってこんな子だっけ?」
「日下部先輩オンリーっスよ。コレは明らかな差別っス」
「そーなんだ。まー、ひよりんとみさきちとじゃイロイロと正反対だしねぇ」
「全否定と全肯定っスか、チェリー的に」
「病まない病まない。野生同士で分かり合うトコロがあるだけかも知んないし」
「そーいやなにげに犬語が分かるみたいっスよ、あの人」
ちびっ子と田村が後ろで何か言ってる。
無視して、さらに後ろにいる幼馴染の親友を振り返って呼びかけた。
「なー、あやのも来いってー。すっげー大人しいから」
「わ、私はいいわよ」
しかしあやのは、なぜか小早川の背中に小さくなって隠れちまってる。
言っちゃアレだけど、なんでわざわざ一番盾になりそうにないの選ぶんだ?
「大丈夫ですよ、センパイ」
「う、うん。みさちゃんを見ればそれは、分かるんだけどね……」
ダメかー。
あやのは、別に犬が苦手ってわけでもないんだけど、基本的に怖がりだからなー。
チェリーのこのでっかさは、さすがにいきなりハードルが高すぎたか。
絶対に逃げらんねぇって状況にでもなればまたキモも座るんだけど。もったいない。
「それよりも、みさちゃん、みんな。早く準備に取り掛かった方がいいんじゃない?」
「おお」
そーだったそーだった。チェリーと遊びに来たわけじゃなかったんだ。
今日は、チェリーの飼い主にして陸上部のホープ(予定)である岩崎みなみの誕生日を祝うのと、
その準備のために来たんだった。
岩崎本人は今は高良がどっか外に連れ出してて、その間に準備を整えて出迎えるっていう、
いわゆるサプライズパーティー。だから実は意外と慌しかったりする。
名残惜しいけど、チェリーと愛を確かめ合うのはまたあとだ。
うっわー、ふわふわのもふもふのもこもこの、ぽっかぽかだ。あちぃ。
まだまだ東京の残暑は厳しくて、けどこの感触は捨てがたい。どーしたモンか。
「へえー、ホントに懐いてるネ。チェリーってこんな子だっけ?」
「日下部先輩オンリーっスよ。コレは明らかな差別っス」
「そーなんだ。まー、ひよりんとみさきちとじゃイロイロと正反対だしねぇ」
「全否定と全肯定っスか、チェリー的に」
「病まない病まない。野生同士で分かり合うトコロがあるだけかも知んないし」
「そーいやなにげに犬語が分かるみたいっスよ、あの人」
ちびっ子と田村が後ろで何か言ってる。
無視して、さらに後ろにいる幼馴染の親友を振り返って呼びかけた。
「なー、あやのも来いってー。すっげー大人しいから」
「わ、私はいいわよ」
しかしあやのは、なぜか小早川の背中に小さくなって隠れちまってる。
言っちゃアレだけど、なんでわざわざ一番盾になりそうにないの選ぶんだ?
「大丈夫ですよ、センパイ」
「う、うん。みさちゃんを見ればそれは、分かるんだけどね……」
ダメかー。
あやのは、別に犬が苦手ってわけでもないんだけど、基本的に怖がりだからなー。
チェリーのこのでっかさは、さすがにいきなりハードルが高すぎたか。
絶対に逃げらんねぇって状況にでもなればまたキモも座るんだけど。もったいない。
「それよりも、みさちゃん、みんな。早く準備に取り掛かった方がいいんじゃない?」
「おお」
そーだったそーだった。チェリーと遊びに来たわけじゃなかったんだ。
今日は、チェリーの飼い主にして陸上部のホープ(予定)である岩崎みなみの誕生日を祝うのと、
その準備のために来たんだった。
岩崎本人は今は高良がどっか外に連れ出してて、その間に準備を整えて出迎えるっていう、
いわゆるサプライズパーティー。だから実は意外と慌しかったりする。
名残惜しいけど、チェリーと愛を確かめ合うのはまたあとだ。
ちなみに、私が今日のことを聞かされたのは、なんと昨日。
ちびっ子からだったんだけど、図書室で私に会ってる間は忘れてて、そのあと、
学校に忘れ物をして私と入れ違いになったあやのに偶然会えなかったら危ないところだったらしい。
信じらんねぇ。
図書室で岩崎の名前も出したってのに、忘れるかフツー。
けどまあ、おかげで柊がアイツに構いたがる気持ちが、ちょっとだけ分かったかな。
うん、こりゃ危なっかしくて見てらんねぇや。
ちびっ子からだったんだけど、図書室で私に会ってる間は忘れてて、そのあと、
学校に忘れ物をして私と入れ違いになったあやのに偶然会えなかったら危ないところだったらしい。
信じらんねぇ。
図書室で岩崎の名前も出したってのに、忘れるかフツー。
けどまあ、おかげで柊がアイツに構いたがる気持ちが、ちょっとだけ分かったかな。
うん、こりゃ危なっかしくて見てらんねぇや。
「それじゃあ皆さん、どうぞ、上がってくださいな」
チェリーとじゃれてる間、優しく見守ってくれていた岩崎のおばさんに促されて中へと入る。
てぇか前も思ったけど、若っかいなーこの人。お姉さんの間違いなんじゃねぇの?
「かがみとつかさは、もう来てるんですか?」
「柊さんたちね。ええ、台所にいますよ」
ちびっ子が訊くと、歩きながら少し振り返って丁寧に答える。声も若い。
「それにしても……あの子のためにこんなにたくさんのお友だちが来てくれるなんてねぇ……」
だけど、ふと。
感慨深げってゆーのかな。しみじみと言って、足を止めて振り返った顔は、上手く言えないけど、
確かに“母親”の顔だった。
「皆さん、本当にありがとうね? 無愛想な子だけど、これからもよろしくお願いします」
「は、はいっ! ここちらこそ、よろしくお願いしますっ」
代表する形で小早川が答える。
田村とパトリシアもうんウンとうなずいた。
みんなタイプばらばらなのに、仲いーよな。なんかこちまで嬉しくなるぜ。
「でも、なんで教えてくれなかったんだろーなぁ。そしたらこんなメンドクサイことしないですんだのに」
反面、そんなことを思ってしまう。
「……ごめんなさい」
だけどぼやくと、再び歩きかけていたおばさんが足を止め、悲しそうな顔になってしまった。
「あ、い、いや、いえ、そ、そんなじゃ」
「みさちゃん……」
「空気読もうよ、みさきち……」
あうあうあう。
「いいえ。私たちのせいでもあるの」
「え……」
「昔ね……あの子の誕生日が台無しになっちゃったことがあって……仕方のないことだったんだけど、
あのときは、私も主人もろくに構ってあげることもできなくて……」
「そ、それ、は、えっと……」
うおおおお。
なんだ? こんなときって、なに言やいーんだ?
「……だから、あの子のこと、恨まないでやって欲しいの」
「や、別に恨むとか、その――」
泡食ってると、不意に肩に優しい感触が降りてきた。
チェリーとじゃれてる間、優しく見守ってくれていた岩崎のおばさんに促されて中へと入る。
てぇか前も思ったけど、若っかいなーこの人。お姉さんの間違いなんじゃねぇの?
「かがみとつかさは、もう来てるんですか?」
「柊さんたちね。ええ、台所にいますよ」
ちびっ子が訊くと、歩きながら少し振り返って丁寧に答える。声も若い。
「それにしても……あの子のためにこんなにたくさんのお友だちが来てくれるなんてねぇ……」
だけど、ふと。
感慨深げってゆーのかな。しみじみと言って、足を止めて振り返った顔は、上手く言えないけど、
確かに“母親”の顔だった。
「皆さん、本当にありがとうね? 無愛想な子だけど、これからもよろしくお願いします」
「は、はいっ! ここちらこそ、よろしくお願いしますっ」
代表する形で小早川が答える。
田村とパトリシアもうんウンとうなずいた。
みんなタイプばらばらなのに、仲いーよな。なんかこちまで嬉しくなるぜ。
「でも、なんで教えてくれなかったんだろーなぁ。そしたらこんなメンドクサイことしないですんだのに」
反面、そんなことを思ってしまう。
「……ごめんなさい」
だけどぼやくと、再び歩きかけていたおばさんが足を止め、悲しそうな顔になってしまった。
「あ、い、いや、いえ、そ、そんなじゃ」
「みさちゃん……」
「空気読もうよ、みさきち……」
あうあうあう。
「いいえ。私たちのせいでもあるの」
「え……」
「昔ね……あの子の誕生日が台無しになっちゃったことがあって……仕方のないことだったんだけど、
あのときは、私も主人もろくに構ってあげることもできなくて……」
「そ、それ、は、えっと……」
うおおおお。
なんだ? こんなときって、なに言やいーんだ?
「……だから、あの子のこと、恨まないでやって欲しいの」
「や、別に恨むとか、その――」
泡食ってると、不意に肩に優しい感触が降りてきた。
「――みさちゃん」
「あ……」
そして世界で一番柔らかく、私が一番安心できる声。
あやのが手を添えてくれている。
それだけで、なんかヘンな方向に引っ張られまくっていたココロが、すうっと平らになった。
「……ごめんなさい」
おばさんに向かって頭を下げる。
「恨んでなんかないです。ただちょっと、もったいないって思っただけです。本人には言いません」
「まぁ、そんな……いいのよ。私の方こそおかしなこと言っちゃってごめんなさい。それと、あの子の
ことは、むしろちゃんと叱ってやって?」
「……はい」
頭を上げたときには、もうあやのの手は離れていた。てか下げた時点で離れてたのかな。
――うしっ!
気合入った。最初から入ってたけど、入りなおした。
「「おおおお~~」」
そこにちびっ子と田村がヘンな声を上げる。なんだよ。
「すごいネ。見事なもんだ」
「よく仕込んでるっスねえ」
むう。コイツら、人をサーカスの猛獣みたいに……
「かっこいい……」
小早川まで!
ちくしょう。大人しいのはパトリシアだけかよ。
ん? でもヘンだな。そーいや電車で田村に引っ張られてってから急に静かになったような。
そんなマズイことだったのか? あのエヌなんとかって。柊が関係してるらしいけど……ま、いーや。
そんなことよりも、っと。
準備だ準備! 早くしねーとな!
そして世界で一番柔らかく、私が一番安心できる声。
あやのが手を添えてくれている。
それだけで、なんかヘンな方向に引っ張られまくっていたココロが、すうっと平らになった。
「……ごめんなさい」
おばさんに向かって頭を下げる。
「恨んでなんかないです。ただちょっと、もったいないって思っただけです。本人には言いません」
「まぁ、そんな……いいのよ。私の方こそおかしなこと言っちゃってごめんなさい。それと、あの子の
ことは、むしろちゃんと叱ってやって?」
「……はい」
頭を上げたときには、もうあやのの手は離れていた。てか下げた時点で離れてたのかな。
――うしっ!
気合入った。最初から入ってたけど、入りなおした。
「「おおおお~~」」
そこにちびっ子と田村がヘンな声を上げる。なんだよ。
「すごいネ。見事なもんだ」
「よく仕込んでるっスねえ」
むう。コイツら、人をサーカスの猛獣みたいに……
「かっこいい……」
小早川まで!
ちくしょう。大人しいのはパトリシアだけかよ。
ん? でもヘンだな。そーいや電車で田村に引っ張られてってから急に静かになったような。
そんなマズイことだったのか? あのエヌなんとかって。柊が関係してるらしいけど……ま、いーや。
そんなことよりも、っと。
準備だ準備! 早くしねーとな!
「おーっす、柊!」
おばさんに連れられて台所に入ると、真っ先にその姿が目に入った。
何畳ぐらいだ? フローリングだからよくわかんねーけど、私の四畳半の子ども部屋よりは広い。
入り口から向かって左に流し台やらコンロやらがあって、奥の壁には冷蔵庫と食器棚。
右側も何かの棚になっていて、それに面して大きな机――作業台? が置いてある。
「く、日下部……?」
そこに座って、何に使うんだか大量のゆで卵の皮を剥いてるのが、我が親友こと柊かがみ。
「おはよう、柊ちゃん。妹ちゃんも、おはよう」
「あ……おはようございます」
「峰岸も……なんで」
茫然としてる。
あと、まだちょっと顔色が悪い。……気付かねーフリ、しねーとな。
だってあやのと約束したから。
柊が抱えてる問題には、本人が何か言ってくれるまで、こっちから口出しはしないって。
「んー? なんでじゃねーだろ。そっちこそなんで教えてくんなかったんだよー」
「ご、ごめん……え? でも、なんで?」
「私が誘ったのだよ」
答えたのは、ちびっ子だ。
私の隣に並んで出て、無駄に偉そうに胸を張ってやがる。
……その姿を、見た瞬間、
おばさんに連れられて台所に入ると、真っ先にその姿が目に入った。
何畳ぐらいだ? フローリングだからよくわかんねーけど、私の四畳半の子ども部屋よりは広い。
入り口から向かって左に流し台やらコンロやらがあって、奥の壁には冷蔵庫と食器棚。
右側も何かの棚になっていて、それに面して大きな机――作業台? が置いてある。
「く、日下部……?」
そこに座って、何に使うんだか大量のゆで卵の皮を剥いてるのが、我が親友こと柊かがみ。
「おはよう、柊ちゃん。妹ちゃんも、おはよう」
「あ……おはようございます」
「峰岸も……なんで」
茫然としてる。
あと、まだちょっと顔色が悪い。……気付かねーフリ、しねーとな。
だってあやのと約束したから。
柊が抱えてる問題には、本人が何か言ってくれるまで、こっちから口出しはしないって。
「んー? なんでじゃねーだろ。そっちこそなんで教えてくんなかったんだよー」
「ご、ごめん……え? でも、なんで?」
「私が誘ったのだよ」
答えたのは、ちびっ子だ。
私の隣に並んで出て、無駄に偉そうに胸を張ってやがる。
……その姿を、見た瞬間、
「――ぁ」
柊は目をさらに見開かせて、完全に動きを止めた。
こなた、と、震えるように唇が動いた気がする。声自体は聞こえなかった。
そしてすぐに顔を伏せ、手の動きを再開。
「おはようございます。かがみさん、つかささん、おばさん」
「おはようございまーす」
「Good morning! Oh、ヤってマスネー」
「……おはよう」
後ろからぞろぞろ入ってきた一年組にも一応反応したけど、見るからに上の空だ。
卵剥くのに集中してるフリなんかしても、バレバレだぜ。
「? どったのかがみ?」
どったのじゃねーよちびっ子。
「なんでもない」
柊も、なくねーだろ。言ってやれよ。なんだか知んねーけど。
「……これ、難しいの。邪魔しないで」
卵じゃん!
私にだってできんよ!
あー……もぉ!
嫌いなんだよこーゆーの!
(……おいっ、ちびっ子っ。やっぱお前なんかやっただろっ)
我慢できなくなって、体をかがめて耳打ち。
ちびっ子が驚いた顔になる。
(えぇっ? 知らないよ。何もしてないよ)
同じように囁きで返してくる。
そんぐらいの空気は読めんだな。
(ウソつけっ。お前じゃなかったらなんなんだよっ)
(知らないってばっ。……みさきちじゃないの?)
(心当たりないから訊いてんだろっ)
(だって知らないものは知らないもん)
小声同士で言い合う。
「……」
柊が余計イラつき始めてる感じだけど、うわぁどーしよ。止まんねえ。
(柊をこんなにさせるヤツがお前以外にいんのかよ。一昨日ぐらいからずっとこんななんだぞっ)
(そなの? え? でも、だったらなおさら知らないよ)
(ないはずねーだろっ。思い出せよっ)
(知らないってっ。無関係だよ私はっ。言いがかり――)
こなた、と、震えるように唇が動いた気がする。声自体は聞こえなかった。
そしてすぐに顔を伏せ、手の動きを再開。
「おはようございます。かがみさん、つかささん、おばさん」
「おはようございまーす」
「Good morning! Oh、ヤってマスネー」
「……おはよう」
後ろからぞろぞろ入ってきた一年組にも一応反応したけど、見るからに上の空だ。
卵剥くのに集中してるフリなんかしても、バレバレだぜ。
「? どったのかがみ?」
どったのじゃねーよちびっ子。
「なんでもない」
柊も、なくねーだろ。言ってやれよ。なんだか知んねーけど。
「……これ、難しいの。邪魔しないで」
卵じゃん!
私にだってできんよ!
あー……もぉ!
嫌いなんだよこーゆーの!
(……おいっ、ちびっ子っ。やっぱお前なんかやっただろっ)
我慢できなくなって、体をかがめて耳打ち。
ちびっ子が驚いた顔になる。
(えぇっ? 知らないよ。何もしてないよ)
同じように囁きで返してくる。
そんぐらいの空気は読めんだな。
(ウソつけっ。お前じゃなかったらなんなんだよっ)
(知らないってばっ。……みさきちじゃないの?)
(心当たりないから訊いてんだろっ)
(だって知らないものは知らないもん)
小声同士で言い合う。
「……」
柊が余計イラつき始めてる感じだけど、うわぁどーしよ。止まんねえ。
(柊をこんなにさせるヤツがお前以外にいんのかよ。一昨日ぐらいからずっとこんななんだぞっ)
(そなの? え? でも、だったらなおさら知らないよ)
(ないはずねーだろっ。思い出せよっ)
(知らないってっ。無関係だよ私はっ。言いがかり――)
―― べ し ゃ あ 。
「「……っ!」」
私と、ちびっ子。
同時に固まる。
柊が卵を握りつぶした。白身の破片と黄身の欠片がぼたぼたと作業台に落ちる。
俯いてて、前髪に隠れて顔は見えないけど、怒ってる!
なんか知んないけどめっちゃくちゃ怒ってる!
(お、おいちびっ子っ。いぃから謝れっ。とにかく謝っとけっ!)
(だから私じゃないってっ! みさきちこそ謝りなよっ!)
さらに言い合うけど、その間にも柊の怒りのオーラはどんどん黒くなっていく。
どーする? どーするよ私!
――はっ!
そーだあやのっ! 助けてくれ……って!
「――じゃあ、手作りなんだ、そのケーキ」
「は、はい。つかささんの方が上手なんですけど、どうしてもわたしがやりたくて……」
「うんうん。小早川ちゃんは岩崎ちゃんが大好きだもんね」
「えぇっ? ……えぇと、それは……」
「みなみもねぇ、家ではゆたかちゃんの話ばっかりなのよ」
「あらあらまあまあ」
「はうううぅ……」
おいおいおい、あやのぉ!
小早川と岩崎のおばさんと……あと、ダレだそれ。
高良……じゃないよな。高良のねーちゃんか? それともまさかこっちも母親か?
お金持ちのおくさまってのはみんなこんなに若いのか?
――ってそんな場合じゃなくてっ!
なんだよその超平和空間! なんで似たような顔みっつも並べて小早川イジってんだよ!
約束破ったから怒ってんのか?
「‥‥‥」
あああああちくしょー。とか言ってる間にも柊がどんどんヤバいことになってるし。
(ちょ、みさきちっ。どーすんのコレっ)
ちびっ子はこんなだし。あやのはあんなだし。高良は、いねーし。他に誰か頼れる人は――
私と、ちびっ子。
同時に固まる。
柊が卵を握りつぶした。白身の破片と黄身の欠片がぼたぼたと作業台に落ちる。
俯いてて、前髪に隠れて顔は見えないけど、怒ってる!
なんか知んないけどめっちゃくちゃ怒ってる!
(お、おいちびっ子っ。いぃから謝れっ。とにかく謝っとけっ!)
(だから私じゃないってっ! みさきちこそ謝りなよっ!)
さらに言い合うけど、その間にも柊の怒りのオーラはどんどん黒くなっていく。
どーする? どーするよ私!
――はっ!
そーだあやのっ! 助けてくれ……って!
「――じゃあ、手作りなんだ、そのケーキ」
「は、はい。つかささんの方が上手なんですけど、どうしてもわたしがやりたくて……」
「うんうん。小早川ちゃんは岩崎ちゃんが大好きだもんね」
「えぇっ? ……えぇと、それは……」
「みなみもねぇ、家ではゆたかちゃんの話ばっかりなのよ」
「あらあらまあまあ」
「はうううぅ……」
おいおいおい、あやのぉ!
小早川と岩崎のおばさんと……あと、ダレだそれ。
高良……じゃないよな。高良のねーちゃんか? それともまさかこっちも母親か?
お金持ちのおくさまってのはみんなこんなに若いのか?
――ってそんな場合じゃなくてっ!
なんだよその超平和空間! なんで似たような顔みっつも並べて小早川イジってんだよ!
約束破ったから怒ってんのか?
「‥‥‥」
あああああちくしょー。とか言ってる間にも柊がどんどんヤバいことになってるし。
(ちょ、みさきちっ。どーすんのコレっ)
ちびっ子はこんなだし。あやのはあんなだし。高良は、いねーし。他に誰か頼れる人は――
「――ふやあぁっ!?」
と、
悲鳴が上がった。切羽詰ってるわりには、妙に間の抜けた感じの。
驚いて振り返ると……何やってんだ、パトリシア?
「Wmm …… good taste!」
いや、見りゃ分かるけど。ソースか何かの味見だよな?
「ぱ、パティちゃん、自分の指でやってよぉ……」
でもなんで妹さんの指しゃぶってんだ?
「ダッテ、ワタシまだ手を洗ってマセン」
「だ、だからってぇ~」
妙に嬉しそうに身を寄せるパトリシアと、赤くなって「やんやん」と首を振る妹さん。なんかエロい。
てぇかイヤなら振りほどきゃいいのに。
「お、お姉ちゃん助けてぇ~」
「……何やってんのよ、あんたは」
「だ、だってぇ~」
「だってじゃないでしょ……パトリシアさんも、ふざけてないで手伝ってよ」
「Yes、Mom」
「誰がマムか」
……。
あ、あれ?
助かった……のか?
「……あんたたちもよ」
どうやら、そうらしい。
まだ不機嫌は不機嫌だけど、さっきまでの噴火直前の火山みたいな怒気は、収まっていた。
あー。
怖かった。
悲鳴が上がった。切羽詰ってるわりには、妙に間の抜けた感じの。
驚いて振り返ると……何やってんだ、パトリシア?
「Wmm …… good taste!」
いや、見りゃ分かるけど。ソースか何かの味見だよな?
「ぱ、パティちゃん、自分の指でやってよぉ……」
でもなんで妹さんの指しゃぶってんだ?
「ダッテ、ワタシまだ手を洗ってマセン」
「だ、だからってぇ~」
妙に嬉しそうに身を寄せるパトリシアと、赤くなって「やんやん」と首を振る妹さん。なんかエロい。
てぇかイヤなら振りほどきゃいいのに。
「お、お姉ちゃん助けてぇ~」
「……何やってんのよ、あんたは」
「だ、だってぇ~」
「だってじゃないでしょ……パトリシアさんも、ふざけてないで手伝ってよ」
「Yes、Mom」
「誰がマムか」
……。
あ、あれ?
助かった……のか?
「……あんたたちもよ」
どうやら、そうらしい。
まだ不機嫌は不機嫌だけど、さっきまでの噴火直前の火山みたいな怒気は、収まっていた。
あー。
怖かった。
☆
やれやれ、危なかったっス。
グッジョブ、パティ!
峰岸先輩も、偶然でしょうけどナイスフォローっス!
いや、でもパティ、指を舐める必要はなかったんじゃないっスかね?
確かに一刻を争う事態ではあったけど、他にもやりようはあったんじゃないっスか?
なんか妙に嬉しそうにしてるのも、なんて言うか、なんか……
「えっと……かがみ?」
っと。
そんなこと言ってる場合じゃないっスね。
「はいはいはいはい」
パンパンと手を打ちつつ、泉、日下部、両先輩の間に割り入る。
「かがみ先輩の言うとおり。ケンカはそこまでっスよお二人とも。時間ないんスから、テキパキ行くっス」
「お、おう」
「ケンカって、ひよりん……」
素直にうなずく日下部先輩に対して、どこか納得行かない様子の泉先輩。
ここまで無自覚とは……まったく、いつの間にそんなヘタレ主人公属性開花させたんスか。
「ああ、スイマセンっス。――さて」
半分無視して、ぐるりと周囲を見渡す。
「じゃあ、つかさ先輩とおばさんたちは引き続き料理の方をお願いするっス。泉先輩と峰岸先輩も
こっち担当で、残りは会場の設営ってことでいいっスね? ――あ、かがみ先輩は、それが一段落
したら私たちの方に来てもらえるっスか? 指揮をお願いしたいんスけど」
「……わかった。終わったら行くわ」
はーいと適当に応えるみんなに続いて、かがみ先輩もうなずいた。
「……指揮ならひよりんが取りゃいーじゃん。てか取ってるじゃん」
「いやー、作業しながらの指揮は、私じゃさすがに」
一人不満げな泉先輩を照れ笑いでなだめる。
申し訳ないっスけど、今のお二人をこれ以上同じ空間に置いておくのはあまりにも危険っスからね。
グッジョブ、パティ!
峰岸先輩も、偶然でしょうけどナイスフォローっス!
いや、でもパティ、指を舐める必要はなかったんじゃないっスかね?
確かに一刻を争う事態ではあったけど、他にもやりようはあったんじゃないっスか?
なんか妙に嬉しそうにしてるのも、なんて言うか、なんか……
「えっと……かがみ?」
っと。
そんなこと言ってる場合じゃないっスね。
「はいはいはいはい」
パンパンと手を打ちつつ、泉、日下部、両先輩の間に割り入る。
「かがみ先輩の言うとおり。ケンカはそこまでっスよお二人とも。時間ないんスから、テキパキ行くっス」
「お、おう」
「ケンカって、ひよりん……」
素直にうなずく日下部先輩に対して、どこか納得行かない様子の泉先輩。
ここまで無自覚とは……まったく、いつの間にそんなヘタレ主人公属性開花させたんスか。
「ああ、スイマセンっス。――さて」
半分無視して、ぐるりと周囲を見渡す。
「じゃあ、つかさ先輩とおばさんたちは引き続き料理の方をお願いするっス。泉先輩と峰岸先輩も
こっち担当で、残りは会場の設営ってことでいいっスね? ――あ、かがみ先輩は、それが一段落
したら私たちの方に来てもらえるっスか? 指揮をお願いしたいんスけど」
「……わかった。終わったら行くわ」
はーいと適当に応えるみんなに続いて、かがみ先輩もうなずいた。
「……指揮ならひよりんが取りゃいーじゃん。てか取ってるじゃん」
「いやー、作業しながらの指揮は、私じゃさすがに」
一人不満げな泉先輩を照れ笑いでなだめる。
申し訳ないっスけど、今のお二人をこれ以上同じ空間に置いておくのはあまりにも危険っスからね。
違和感は昨日からあったんス。
昨日の放課後、今日の段取りの最終確認をするために先輩たちのクラスに足を伸ばして、
そこに高良先輩しかいないのを見たときから。
かがみ先輩が『体調を崩して』帰り、つかさ先輩は『それを送っていった』。
高良先輩はそう説明してくれたんスけど、それもどこか歯切れが悪い感じだったんス。
てゆーかぶっちゃけウソっスね。
この間のインタビューの一件で、先輩の話し方のクセはだいたい把握したから分かるっス。
そして今朝、泉先輩が日下部先輩たちといきなり仲良くなっているのを見せられて、
違和感は疑念に変わったっス。
普通逆じゃないっスか?
日下部先輩はかがみ先輩目当てなんスから、『体調を崩す』のは泉先輩の方のはず。
何かがこじれている――そんな感じがしたっス。
しかし、「何が」なのかまでは分からない。
決定的に情報不足で、パティと話し合っても「とりあえず様子見」って結論しか出せなかったっス。
泉先輩に直接訊くのはNG。日下部先輩と峰岸先輩と、何より小早川さんがそばにいたっスからね。
彼女は本日のMVPっスから、下手なことを耳に入れて余計な心配をさせるわけには。
もちろんただ眺めてただけじゃないっスよ。
まず私が、すぐ隣から泉先輩にいろいろと話しかけて反応を引き出しつつ、その一挙手一投足を
一歩離れた位置からパティに観察してもらったんス。
逆でも良かったんスけどね、『観る』能力としてはパティの方が格段に上っスから。
世に氾濫するオタ文化の数々を日々リアルタイムで取捨選択し続けているパティの分析力は
ハンパじゃないっスよ。
で、その見立てによると、しかし泉先輩はやっぱり完全に普通。
ハイテンション気味なのも単にお祭モードに入っているだけで、別に不安の裏返しとかではない、と。
今にして思えば、この時点で多少の危険は冒してでも何か言っておくべきだったっス。
今の、かがみ先輩の、あの態度。
単純に怒ってるとか気まずいとか、そんなチャチなもんじゃ断じてないっス。
もっと深い、暗い、絶望の片鱗を味わったっス。
そしてそれを目にしてなお、ただただ不思議そうな顔をするだけの泉先輩。
エプロンに「朴念仁」て書いて着せてやりたくなるっスね。
さておき――確信したっス。
昨日の放課後、今日の段取りの最終確認をするために先輩たちのクラスに足を伸ばして、
そこに高良先輩しかいないのを見たときから。
かがみ先輩が『体調を崩して』帰り、つかさ先輩は『それを送っていった』。
高良先輩はそう説明してくれたんスけど、それもどこか歯切れが悪い感じだったんス。
てゆーかぶっちゃけウソっスね。
この間のインタビューの一件で、先輩の話し方のクセはだいたい把握したから分かるっス。
そして今朝、泉先輩が日下部先輩たちといきなり仲良くなっているのを見せられて、
違和感は疑念に変わったっス。
普通逆じゃないっスか?
日下部先輩はかがみ先輩目当てなんスから、『体調を崩す』のは泉先輩の方のはず。
何かがこじれている――そんな感じがしたっス。
しかし、「何が」なのかまでは分からない。
決定的に情報不足で、パティと話し合っても「とりあえず様子見」って結論しか出せなかったっス。
泉先輩に直接訊くのはNG。日下部先輩と峰岸先輩と、何より小早川さんがそばにいたっスからね。
彼女は本日のMVPっスから、下手なことを耳に入れて余計な心配をさせるわけには。
もちろんただ眺めてただけじゃないっスよ。
まず私が、すぐ隣から泉先輩にいろいろと話しかけて反応を引き出しつつ、その一挙手一投足を
一歩離れた位置からパティに観察してもらったんス。
逆でも良かったんスけどね、『観る』能力としてはパティの方が格段に上っスから。
世に氾濫するオタ文化の数々を日々リアルタイムで取捨選択し続けているパティの分析力は
ハンパじゃないっスよ。
で、その見立てによると、しかし泉先輩はやっぱり完全に普通。
ハイテンション気味なのも単にお祭モードに入っているだけで、別に不安の裏返しとかではない、と。
今にして思えば、この時点で多少の危険は冒してでも何か言っておくべきだったっス。
今の、かがみ先輩の、あの態度。
単純に怒ってるとか気まずいとか、そんなチャチなもんじゃ断じてないっス。
もっと深い、暗い、絶望の片鱗を味わったっス。
そしてそれを目にしてなお、ただただ不思議そうな顔をするだけの泉先輩。
エプロンに「朴念仁」て書いて着せてやりたくなるっスね。
さておき――確信したっス。
この二人は、危険だと。
このまま放置すれば衝突は免れず、十中八九ケンカ、下手したら破局まで一直線。
けど今からじゃ修復はもちろん満足な情報収集も不可能。完全に後手に回ってしまったっス。
まったく……どうしてよりによってこんな大事な日に。
けど今からじゃ修復はもちろん満足な情報収集も不可能。完全に後手に回ってしまったっス。
まったく……どうしてよりによってこんな大事な日に。
「あの――田村さん」
「……なに?」
ぞろぞろとリビングに向かいかける中、小早川さんに呼び止められる。
「私も、こっちでお料理しちゃダメかな?」
「……。あぁ、そっか――」
どうする?
素早く計算する。
キッチンかリビングか――泉先輩とかがみ先輩、どちらと一緒にいてもらうのが安全か。
かがみ先輩もまだヤバげっスけど、泉先輩も違和感を覚え始めてるし……いや。
「――小早川さんも料理できるんだったよね」
「う、うん。お姉ちゃんに教えてもらってるから、いちおう。まだまだ全然なんだけど……」
「大丈夫だって。その方が岩崎さんも喜ぶよ、きっと」
うん、それは本末転倒っス。
ここで「駄目」なんて言ったら、先輩たち関係無しに私自身がぶち壊すことになっちまうっス。
「頑張ってね、小早川さん」
「うんっ。ありがとう田村さんっ」
「……なに?」
ぞろぞろとリビングに向かいかける中、小早川さんに呼び止められる。
「私も、こっちでお料理しちゃダメかな?」
「……。あぁ、そっか――」
どうする?
素早く計算する。
キッチンかリビングか――泉先輩とかがみ先輩、どちらと一緒にいてもらうのが安全か。
かがみ先輩もまだヤバげっスけど、泉先輩も違和感を覚え始めてるし……いや。
「――小早川さんも料理できるんだったよね」
「う、うん。お姉ちゃんに教えてもらってるから、いちおう。まだまだ全然なんだけど……」
「大丈夫だって。その方が岩崎さんも喜ぶよ、きっと」
うん、それは本末転倒っス。
ここで「駄目」なんて言ったら、先輩たち関係無しに私自身がぶち壊すことになっちまうっス。
「頑張ってね、小早川さん」
「うんっ。ありがとう田村さんっ」
げふぉ。
ふ、ふふふ……鼻血モンの笑顔っス。
やはり彼女の前で言わないで正解だったっスね。今度は選択肢間違えなかったっス。
そして、今ので覚悟も決まったっス。
泉先輩、かがみ先輩。
申し訳ないっス。あとでいくらでも詫びるっスし、どんな協力も惜しまないっス。
でも今は、今日だけは大人しくしていてもらうっス。このまますれ違い続けていただくっスよ。
小早川さんのこの笑顔を、曇らせることなく岩崎さんに届けるために。
そのためには、この田村ひより、たとえお二人といえども容赦はしない! っス!
やはり彼女の前で言わないで正解だったっスね。今度は選択肢間違えなかったっス。
そして、今ので覚悟も決まったっス。
泉先輩、かがみ先輩。
申し訳ないっス。あとでいくらでも詫びるっスし、どんな協力も惜しまないっス。
でも今は、今日だけは大人しくしていてもらうっス。このまますれ違い続けていただくっスよ。
小早川さんのこの笑顔を、曇らせることなく岩崎さんに届けるために。
そのためには、この田村ひより、たとえお二人といえども容赦はしない! っス!
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- ご指摘ありがとうございます
修正しました -- 23-49 (2008-03-25 23:25:41) - かがみと同じ目にあって、そのまま破局した経験があるっス
反乱→氾濫の誤字だと思うっス -- 名無しさん (2008-03-24 21:14:32) - わくてかっス -- 名無しさん (2008-02-29 02:33:27)