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Poisson d'avril

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だれでも歓迎! 編集
それは春らしいとても暖かな陽が差し込む日のこと。
私達高校生は春休みに入っており、つかの間の休みを楽しんでいた。
とはいえ今年はもう受験生という事で、遊ぶ時間も作りながら私は勉強をし始めていた。
みゆきは安心だけどこなたもつかさもちゃんと勉強してもらわなきゃ困るわね、と考えていると
テーブルに置いた携帯電話がブルブルと震えた。ディスプレイを見ると泉こなたと表示されている。
電話に出ると間髪入れずに
「明日ヒマ?ヒマじゃなくても明日遊ぼっ」
と聞き慣れたこなたの声が受話口から聞こえる。
何とも強引な誘いだったが、次の日は何もすることも無かったのでわかったわよと言い電話を切った。

桜がそろそろ見ごろになる頃で、その日はてっきり花見に誘われたのかと思ってこなたの家へとつかさと一緒に行った。
みゆきは先にもうこなたの家にいて、縁側の日溜まりに身を置き談笑をしていた。
「おっ、かがみんにつかさ。いらっしゃーい」
私とつかさに気づくとこなたは立ち上がり自分の部屋へと私達を案内した。
しかし、つい数日前にも来た部屋なのにその部屋の変貌振りに私は驚いた。
こなたが集めていた漫画やフィギュアの数々がきれいさっぱり無くなっていたのだ。
「あれ?随分部屋が殺風景になってるじゃない」
そう聞くと全く予想もしていなかった答えが返ってきた。

「……私、引っ越すんだ」
あまりにも突然過ぎて私は言葉を失った。つかさやみゆきも固まったままでこなたを見ている。
「ど、ど、何処へ引っ越すんですか?」
みゆきは珍しく焦ったように質問をした。が
「えっとアメリカの方へ……」
ますます声を失った。えっ?とつかさが発してからしばらく沈黙が続いた。
それを破ったのはこなただった。すくっと立ち上がり
「だから最後に桜見ようよ。アメリカじゃ見れなさそうだし……」


近くの公園には花見客が沢山いた。昼間から酒を飲み交わしていてとても賑やかだった。
その中でも明らかに異質であろうこの四人。誰も喋ることなくだんまりとしつつ桜の下を歩く。
「ごめんねずっと黙っていて」
人があまりいない芝生に腰掛け、こなたは今回の件の説明を始めた。
実は引っ越す事は今年に入る頃には決まっていたこと、親の仕事の都合だということ、出発は明日の夜だということ、
今まで言わなかったのはみんなに気を遣わせたくなかったからということ。
こなたらしくないシリアスな面持ちで一つ一つを丁寧に説明していった。
どうすることもできない。そう思いながら私とみゆきは下を向いた。
「ほら泣かないでつかさ……」
そういうこなたの目も潤んでいる。私もみゆきも同じような目でつかさを見た。
「こなちゃん……行かないで……」
「私だってできれば行きたくない……行きたく、ないけど……」
ついにこなたが泣き出した。零れる涙を手で押さえようとするがどうにもならないようで、袖でそっと拭っている。
つかさもうずくまって泣き出してしまった。みゆきもすんすん、と鼻をすすりながらハンカチを目元にやっている。
わたしもいっそ泣いてしまえば楽なのだが、プライドが邪魔をして上手くいかなかった。

そうこうしている内に陽は落ち、公園ではライトアップが始まった。
私もそれに気づき桜の木々を見上げた。するとそこには、とても綺麗な光景が広がっていた。
満開とまではいかないが、ほとんどを桜色に染めた木々は昼間とはまた違う顔をしているようだった。
花見客もその事に気づいているかどうかは分からないが、缶ビールを片手にそれを眺めていた。
私たちのすぐそばにも桜の木があった。それは私の心をそっと癒してくれるように佇んでいる気がした。

「今日、家に泊まっていかない?もし良ければだけど」
公園を出ようとして立ち上がった私たちに目を幾分赤くしたこなたはそう提案をした。
「もちろんだよこなちゃん!」
「私もよろしければご一緒させていただきます!」
つかさはいつもと変わりないようだが、みゆきはいつにも増して積極的だ。
それもそうよね。だってこなたは大事な友達だもんね。
そんな事を思っているとこなたと目が合った。穏やかな優しい目をしていた。
「かがみも、泊まってくよね?」
いつまでも見ていたい目だった。でもそうはいかないようなので、私も精一杯の優しさに満ちた声で言う。
「当たり前じゃない」

ふと振り返ると遠くなった桜が目に留まった。その桜が風を受けてせせらぎながらこう言った気がした。
――自分に素直になってもいいのよ
私は心の中で頷き、すっかり暗くなった空を見上げて一粒の涙を流した。


行きと違って帰りの道では四人で色々な話をした。
アメリカの住居の話や生活の話、現地のオタクの話など。
今までと全く違う、まさに異世界の事を楽しそうに、たまに不安そうに話していた。
私の横を歩いているその小学生のような小さな体躯に青紫の長い髪。
この声でかがみーんと呼ばれたり、私に引っ付いてきたりされることはもう無くなるのだと考えると悲しかった。
でもその感情を押し殺した。またいつか会える日が来るんだ。しばしお別れってとこよ。
決してさよならなんかじゃない。

こなたの家に着くとそうじろうおじさんが出迎えてくれた。
いらっしゃい、と申し訳なさそうにおじさんは笑い、四人を居間へと通してくれた。
そしておじさんはこちらにくるりと向き直り、私達三人の名前を一人ずつ呼んだ。
「俺の都合でこなたを連れ出して本当に申し訳ない。でもこれからもずっとこなたの友達でいてくれないか?」
おじさんはそう疑問系で返してきたが、三人の答えは既に決まっている。
つかさとみゆきを見てタイミングを合わせるようにして私は息を吸い込んだ。
「「「もちろんです!」」」

そう私たちが言い終えるとおじさんはありがとう、と優しい声で答えてくれた。
こなたはこういった事に慣れていないようでむず痒そうな顔をしていた。
じゃあ寿司でも頼むか!とおじさんは電話の子機を取りお寿司屋さんに注文の電話をし、
お茶を淹れるために台所にお湯を沸かしに行った。

お寿司が届く間、おじさんも交え引き続きアメリカでの生活のことについて話をした。
おじさんの話によると、しばらくは英会話スクールに通いアルバイトなどを始める、という事らしい。
永住するつもりはないのだが、仕事の進み具合や、こなたが外国人と結婚してしまったらどうなるかは分からないそうだ。
そんな話をしているとこなたのお腹がぐぅと鳴った。それとほぼ同時にピンポーンと家のベルも鳴る。
だってお腹空いたんだもーん、とこなたは恥ずかしそうに頭を掻いた。
壁に架かった時計に目をやると時刻は八時をとうに過ぎていて、私はしょうがないわねと笑った。


食べ終わった後、お風呂に入ると言いこなたは居間から出て行った。
するとおじさんは居住まいを直し、再び私達に申し訳ない、と頭を下げた。
寂しいけれど仕方ないですから、とみゆきは私の気持ちを代弁してくれた。
それから私達はおじさんからこなたの話を沢山聞いた。こなたから聞いたことのある話、聞いたことの無い話、
その全てを嬉しそうにおじさんは語った。
その時のおじさんは、失礼だけど子を持つ立派な親の顔をしていた。

「――でなー、その時の顔がまた可笑しくって」
「おとーさん何話してんのっ!」
お風呂から上がってきたこなたが自分の恥ずかしい話を楽しそうに話しているおじさんを早速ポカポカ叩いている。
お風呂の順番はじゃんけんで決めた。最初にみゆき、次につかさ、最後に私が入る順番となった。
今日で家のお風呂に入るのもひとまず最後だなー、と感慨深げにこなたは天井の方を向いた。
何となくしんみりした空気になるのは嫌だったので、私は必死に話題を変えた。
そのまま居間で楽しくお喋りをしていたのだが、おじさんがそろそろ引越しの最終確認をし始めるということで
私がお風呂に入る頃に三人は二階へと上がっていった。

脱衣所で服を脱ぎお風呂場へと入る。そして髪を洗い体を洗う。
いつもやっている作業なのだが今日は色々と思うように進まない。
こなたのいない学校生活を想像してみる。
登下校のときどうしよう。ちょっとオタクな会話は誰としよう。
何をするにもこなたが隣にいた。今更ながらその事に気づいた。
そういえばつかさがいたからこなたやみゆきと友達になれたのよね。つかさにも感謝しなくちゃね。
――寂しいな。
そう思わずにいられなかった。
それこそこなただって、つかさだって、みゆきだってそう思っている。
でも、ずっと離れたくないと言えば何とかなるわけでもない。
もうこなたはアメリカへと行ってしまうのだ。
すると突然脱衣所のほうからこなたの声がする。
「おーいかがみーん大丈夫?一時間近く入ってるよ」
どうやら私は考え事をしているうちに人の家で長風呂をしていたようだ。
「大丈夫よ!いま上がるから!」

――私、こなたがいなくて寂しいけど頑張るよ。約束する。
そう胸の中で決意し、私はお風呂場から出た。


お風呂から上がった私がタオルで頭を拭きながらこなたの部屋に入ると、何故かつかさとみゆきしかいなかった。
「あれ?こなたは?」
「おじ様に呼ばれて居間に行きましたが、すれ違ったりしませんでした?」
実はわたしも良く分かりません、といった顔でみゆきは答えた。
二人はオセロをやっていたようで、その対戦を私は眺めていた。
どうやらみゆきは相当強いようで、あっという間にボードが黒に染まった。
んじゃ次は私が、と言おうとしたところこなたが部屋に戻ってきた。
手にはある飲み物の缶を持って。あのこなたさん?それってもしかして……
「これ?ビール!」

「なっ……」
って持ってくるもの違う!てっきり私達への感謝の言葉が詰まった手紙とか持ってくるんだと思ってたのに!
「あの、私達未成年なんですけど……」
そうよみゆき、それが正しい突っ込みよ。どんどん言っちゃって。
「いいからみゆきさん、無礼講無礼講~」
こなた、その言葉使い方間違ってる。
「でもこなちゃんとの最後の思い出だしね……」
また少し空気が重くなる。そりゃそうだけど……てかつかさビール飲みたいの?
「そうだよみんな!最後だし無礼講だってば~」

ということで私が乾杯の音頭をとる事になった。
長ったらしい話をするとまたしんみりとしてしまう気がするので明るく振舞う。
「えー皆様、お忙しい中お集まり頂きありがとうございます」
いかにもな挨拶にみんなから笑いが起こる。
「長々と話もしたいものですが、こなたが早く飲みたそうにしているので皆さんご唱和願います。乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」

と同時にこなたはグビグビとビールを飲んでいく。慣れてるなコイツ。
みゆきはどうやらお酒を初めて飲むそうで、不思議そうにしながらチビチビと。
二人の姉さんに飲まされたり、近所の会合などで飲まされたりしているから私は平気だけど
つかさは飲まされるといっつもすぐにダウンしているからなぁ……。


最初は今日のお寿司の味の話やお酒にまつわる話をしていたのだが、いつしか高校での思い出のことに話はシフトしていった。
こなたは目を輝かせながらみんなの話に耳を傾かせ、そして嬉しそうに思い出を話し出す。
お酒が入るとさらに饒舌になるようで、マシンガントークと毒舌は冴え渡っていった。
みゆきもいつもののんびりな雰囲気を纏いながらこなたの話に相槌を打っていた。
つかさは顔を真っ赤にし、いつもよりトロンとした目で私達を見ていた。
私も時々こなたに突っ込みを入れつつ、こなたと過ごした二年間を振り返っていた。

初めてこなたに出会ったときの事。
一年生の春、引っ込み思案なつかさに友達ができたということで見に行ったのが最初の出会いよね。
ツンデレだぁー、とかいきなり言われて最初は変な奴だなって思ったけど
話をしているうちに、すごい砕けた奴だってことを知ってどんどん仲良くなっていったわね。
一緒に海に行った時のこと。
こなたの親戚の成美さんの運転テクニックにいきなりビックリしたけど
さらにビックリしたのがスクール水着ね。あれはある意味尊敬するわ……。
あの水着のせいで他の人たちには絶対家族連れだと思われてたわね。
でも別にナンパされたいわけであんな事言ったわけじゃないんだからね!
そういえばコミケにも行ったわね。
ホント人が多くて参っちゃったわ。こなたに誘われない限りもう行かないわ。
それから……
学校の登下校での何気ない会話や、放課後に二人でよく行ったゲマズ。
みんなで集まって昼休みお弁当食べた事に、休日集まってのテスト勉強会。
他にも色んなところに行ってたくさん話をしたわね。

ところが、いつも一緒にいたこなたが明日からいなくなってしまう。
お風呂の中では何とかやっていけるって思ったけど、今考えるとそうはいかないのだろう。
実際頭の中で高校生活からこなたを切り取ってみると、とても不自然なものになってしまった。

「どったのーかがみん?やっぱ私がいなくなると寂しい?」
こなたはいつものニヨニヨした顔でこっちを向く。寂しい?
「当たり前じゃない!私の高校生活はあんたを中心に回ってるのよ!」
「ちょ、どしたのかがみん?」
「どうしたもこうしたもないわよ!私の中心が突然無くなるのよ!」
「……あの、かがみさん?」
「そんなの私耐えれるわけ無いじゃない!どうしてくれんのよ!」
気づくとみんなが私を見ていた。それもそのはず、突然私が怒鳴り始めたのだから。
つかさはビックリした目で、みゆきはオロオロと困惑した目で、当のこなたは私の話をちゃんと聞こうとするような目で。
声が大きいとかつかさとみゆきの事とか関係ない。私はただこなたに自分の思いの丈をぶつける事に集中した。
「これからもっと一杯色んな所に行きたかった!色んな話もしたかった!
あんたのオタク話にも付き合ってあげるし、コミケだって一緒に行ってあげるから!
だからアメリカに行くだなんていわないでよ!」


お酒を飲むと性質の悪くなる人がこの世にはいる。
色々愚痴を言う人、泣き上戸の人、テンションが上がる人、怒りっぽくなる人。
私がその中の一人だってことに今更気づいた。
あぁ私、今最悪な人間なんだろうな。ここまで自分を失うとは思ってなかった。
申し訳ないと思う気持ちと恥ずかしいという気持ちが混ざり合い、私はみんなに謝ろうとした。

「ゴメン、何か取り乱しちゃって……」
みんなが私を見ながら沈黙している。ホントにこれが最後だっていうのに……。
「ありがと、かがみ……」
と俯いた私にこなたは言ってくれたが、ありがとうは何に対しての感謝の言葉だったのだろうか。
少しの間それについて考えているとかがみ、とこなたに呼びかけられて顔をあげた。
するとこなたが目の前に座っていた。目に涙を溜め、私を見ながら。
私は気恥ずかしくなり、さっと横に目を逸らした。
だがその瞬間こなたに抱き締められていた。えっ?と私が言うよりも早く、こなたは
「ありがと、かがみ……」
と先程の言葉をリピートした。この状況でのありがとうという言葉の真意。それはもう一つしかない。
私が自分の事をこんなにも想ってくれているということに対しての言葉。
ありがとうの矛先が判明した今、私はすごく安心したのと同時に、鼻の奥が急速につーんとなり始めた。
何処を見ていれば良いのか分からずに目を泳がせているとこなたは言った。
「かがみ、もっと自分に素直になって良いんだよ?」
夜の桜に言われた言葉。そして今こなたに言われた言葉。
その二つが重なり合って生まれた一撃は、私の涙腺を決壊させていった。

こなたに抱き締められながら私はポロポロ涙を流した。
「こなたぁ……グスッ……離れたくないよぉ……お願いだから、行かないでぇ……」
無理だって分かっているのに。どうしても声に出てしまう。
大好き、だよ……こなたぁ……」
ずっとそう思っていた。これが恋なのかはよく分からないけれど。
「……うっ、うっ……離れたく、ない、よぉ……」
徐々に嗚咽が混じり、自分でも何を言っているのか分からなくなってきた。
それでもこなたはうんうん、と言って私の頭を撫で続けてくれた。
「グスッ、こなたぁ……うわぁぁぁぁん、こなたぁ、こなたぁ……」
ついに子供のようにわんわん泣き出した私を、こなたは一層優しく抱き締め、そして落ち着くまでずっとそのままでいてくれた。


「ありがと、こなた……ゴメンね?」
大分経ってやっと落ち着いた私はこなたに謝った。が、謝るような事じゃないよと優しく答えを返された。
つかさとみゆきを見ると、大分眠そうだが抱き締め合った二人を温かく見守ってくれていたようだった。
「んじゃ最後にかがみんに見せたいものがあるんだ。だから目瞑ってちょっと待ってて」
絶対目開けちゃ駄目だからね、と念を押されこなたは部屋を出て行った。
何かプレゼントでもあるのだろうか。私はドキドキしながらこなたの到着を待った。
何でしょうね、とみゆきと話をしながら待っているとすぐにこなたは帰ってきた。
「お待たせかがみっ。さっ、目開いて!」
私はパッと目を開くとそこには恐ろしい光景が……。

目の前に立っているのはこなたではなく、作務衣を来た長身の無精髭を生やした男性。
こなたと同じ髪の色で、こなたと同じ左目の左下の泣きボクロ。
右手に『ドッキリ大成功!』と書かれたプラカード、左手にはビデオカメラが持っている。
「かがみちゃーん、エイプリルフールだってエイプリルフール♪」
泉そうじろうだった。
「やふー、かがみん引っ掛かったー♪」
「わーい、お姉ちゃん引っ掛かったー♪」
「かがみさん今日は、いや昨日はエイプリルフールですからー♪」
私の前で四人が小躍りをしている。声が出ない。体が動かない。どうしたんだろう。そうか、夢見てるんだ。ビックリしたなー。
「かがみん、夢オチな訳ないじゃないっすかー♪」
「こんなに長い夢見る訳ないじゃんっ♪」
「うふふ確かにつかささんの言うとおりですねー♪」
「その証拠にこのビデオテープ!毎年四月一日になったら見ようなーこなた♪」
「そうだねお父さん♪なんなら一緒にかがみんも見るー?」
それからしばらく四人の笑い転げる様を見せ付けられたが、肩を揺すっても全く動かない私を見てさすがにヤバイと感じたらしく、
パニックになりながら危うく救急車を呼びそうになったそうだ。





「――いやー、何回見ても良い物は良いね」
「ホントだねーこなちゃん」
「口を開けて動かなくなってしまうかがみさんのお顔は何回見ても……」
「でもこの後お姉ちゃん死んじゃうのかも、って思っちゃったよー」
「もしかしたらかがみんも咄嗟にドッキリ仕掛けたんじゃない?」
「う、うっさいうっさい!お前らみんな黙れ!」

私の突飛な思いつきで実行まで至った、名付けて『かがみんドッキリ大作戦』。
二ヶ月にも及ぶ長い準備期間と、数十回に及ぶ綿密な作戦会議を重ね実行した結果、計画は大成功に終わった。
この事に関してかがみは黒歴史として一切口を開かなかったが、週末集まってはよくこのビデオを見ている。
そんなに見たくなかったら毎回見に来なくたって良いのにねぇ。まぁ寂しがりなうさちゃんだから仕方ないか。
「それにしても漫画とか片付けたりして大変だったんじゃないの?」
「確かに大変だったけどさ、かがみんの驚く顔見るためならなんだってするつもりだったから」
あのなぁ、と目を顰めながらかがみは溜息をつく。
「むぅ。かがみんの反応がちょーっと悪いからちょっぴり拷問を、っと」
リモコンを操作し、かがみが唯一画面を全く見ずにずっと耳を塞いでいる問題のシーンまで巻き戻す。

『大好き、だよ……こなたぁ……』
「だぁぁー!分かったからやめてくれー!」
かがみは慌てて私からリモコンを取り返そうとする。それをかわしながら画面を眺める。
『……うっ、うっ……離れたく、ない、よぉ……』
もうかがみは諦め、このシーンでのお決まりのポーズになり、ただ時間が過ぎるのを待つ体勢になっているようだ。
『グスッ、こなたぁ……うわぁぁぁぁん、こなたぁ、こなたぁ……』

いつも思う。画面の中の泣いているかがみを見ると、自分はなんて愛されているんだろうと。
突然の事でかがみ自身パニックになっていたのを差し引いても、泣き喚いてしまうほどにかがみは私を想っていてくれたのだ。
そのことは単純に嬉しかった。他の場面での涙は演技だったんだけど、この時の涙は純粋な涙だった。
私もかがみの事は大好きだ。もちろんつかさやみゆきさんも大好きだけど、かがみを想う気持ちには敵わないと思う。
いつか私もかがみにちゃんと伝えてあげたい。かがみが言ってくれたのだから、私にだって言えるはず。

――私も大好きだよ、かがみ。と

fin.











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  • かがみのマジ泣き、可愛いですね! -- チャムチロ (2012-09-04 12:45:20)
  • はじめにオチは読めた…



    しかしなんだこの感動は!続きをよみに行ってきます(^-^)/ -- オビ下チェックは基本 (2009-07-10 12:35:16)
  • むふー(=ω=.)
    そのビデオダビングして
    私にください。 -- 無垢無垢 (2009-01-04 21:10:19)
  • なんつーードッキリだ…最高だな! -- 名無しさん (2008-09-24 02:47:42)
  • オチで終わると見せかけてちゃんと感動させてくれるのが素晴らしい
    -- 九龍 (2008-05-27 21:32:28)
  • 感動しました………… -- 名無しさん (2008-05-10 16:54:20)
  • GJ! -- 名無しさん (2008-04-02 18:45:53)
  • タイトルと序盤だけで、オチが予想できたにも関わらず、これほど感動させられるとは……。 -- 名無しさん (2008-04-02 20:19:50)
  • よかったよ。かがみん凄くかわいかった。 -- オレンジ君@オレンジって言うなぁ (2008-04-02 22:46:44)
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