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メドレーリレー・バースデー(7)

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だれでも歓迎! 編集
【track 7 : 九つのプレゼントと宙を舞う烏龍茶】


「じゃあ、まず私からね」
 プレゼントは、なんでか知んないけど名前の五十音順に渡すことになった。
 トップバッターのあやのが取り出したのは、片手に収まるサイズの小さな箱。
 水色の包装紙と白いリボンでラッピングされている。
「はい、岩崎ちゃん。あらためまして、お誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございます……」
 緊張ぎみに受け取って、けど岩崎はそこで固まってしまった。
 どうしたらいいのかわからない。
 そんな顔だ。あやのがくすくすと笑った。
「開けてみて」
「え? あ、はい。……すみません」
「いいのよ。久しぶりなんだもんね、こういうの」
 なるほど。馴れてねぇんだな。
 対してあやのは、人を落ち着かせて誘導するのが上手い。一番手になったのは正解か。
 ……柊のことも、やっぱもう全部任せよう。
 なんてことを改めて思っていると、たどたどしくも丁寧な手つきでリボンと包装が解かれて、
 ガラスの小瓶が姿を現した。
 逆台形をした縦長の容器。黄緑色の液体で満たされている。
「香水……ですか?」
「うん」
 うなずいて、あやのが胸のポケットからハンカチを取り出す。
 突然の動きに驚いたのか、岩崎の顔が少し強張ったように見えた。
「貸してみて?」
「……あ、はい」
 受け取りなおした香水を、あやのは、
「映画で見たの」
 言いながら手の中のハンカチにぽたぽたと数滴、そしてパッと広げて優雅な手つきでなびかせる。
 こないだ一緒に見たやつかな。確かそんなシーンが、あったような、なかったような。
 首をひねっていると……おお。
 さっぱりとしたライムミントの香りが私のところまで漂ってきた。
 他のやつらも鼻を鳴らしたり感心した顔になったりしてる。
 あんなちょっとでこんだけ広がるのか。すげぇな香水。
「――どうかしら?」
「あ……ええと……素敵、です」
 不器用っぽく、だけどたぶん本心でうなずく岩崎。
 うむ。
 香水とかそういうオシャレ系にど素人の私でも思うもんな、似合うって。
「そう? よかった」
 にっこり笑うと、あやのは瓶を返してハンカチを仕舞う。
「今みたいに少しの量でも思った以上に香るから、くれぐれもつけすぎには注意してね?
それから、つける場所なんだけど……」
 そして使い方とか保存するときの注意とかを説明していく。
 岩崎は熱心に聞いてたけど、私は途中で聞くのを諦めた。
 やっぱ無理だ。私にはあーゆーのは。


     ☆


「じゃ、次はかがみとつかさ、行ってみよー」
 イツの間にか司会進行役に納まっているコナタが、spoon を mike 代わりに宣言シマス。
 ツカサがキョトンとなりマシタ。
「え? お姉ちゃんの次はこなちゃんじゃないの?」
「いや、だって双子だし」
「……意味わからんわ」
 柊カガミの溜息。双子は揃ってこそ萌えデアルと、理解できナイわけデモないデショウに。
 ソレにコレは伏線にもナッテいるのデス。
「別にいいけどね……じゃあ、はいこれ。誕生日おめでとう」
「みなみちゃん、おめでと~」
 カガミは campus note ホドの青い紙袋。ツカサは、透明な wrapper sheet に包まれたヌイグルミ。
「ありがとうございます……これは、犬ですか……?」
 それぞれ両手に受け取ったミナミは、まず見た目に分かりやすい方に反応しマシタ。
 Football のような輪郭をした、白い何かの…… animal?
 犬にも見えマスが、deformation が強すぎてイミフ。Polar bear や hamster にも見えマス。
「ううん。えっと……なんだっけ、お姉ちゃん」
「カピバラ、らしいわ。まぁ、私も詳しくは知らないんだけど」
 Hum? なぜカガミが答えるのでショウ。
「かぴ、ばら……?」
「南米に棲息するネズミの一種ですね」
 不思議そうにヌイグルミと見つめ合うミナミに、ミユキが解説を入れマス。
「げっ歯類の中では世界最大の種で、普通でも一メートル以上、大きなものでは一五〇センチ近くに
なることもあるそうです」
 150 centimeter トいうト……オオヨソ 5 feets ほどデスか。
 Wow! ユタカやコナタと同じ、もしくはソレ以上!
 そんなネズミは Florida や California のアレぐらいカト…… オゥット、stop。Danger danger。
 Grandma も言っていマシタ。ヤツラ――“D”ダケはネタにしてはイケナイと。
「へぇ~。ゆきちゃん詳しいね」
「いえ、たまたまテレビで見たことがあるだけです」
「……ま、別にそのあたりのことは関係なくて、見た目でね。ほら、あの子。チェリーちゃんだっけ?
あの子に似てると思ったから」
 Hum。言われてミレバ、似てマスね。Cherry もユタカやコナタより大きいデスし。
 ッテユーカ、
「ソチラが、カガミからなのデスか?」
 気になったコトを尋ねるト、カガミがコチラに向き直りマシタ。
「ああ、違う違う」
 デスガ微妙に視線を合わせてくれマセン。
「つかさのよ。料理の方に専念してもらいたかったからね、私が代わりに買ったってだけ。あ、選んだ
のは私だけど、ぬいぐるみってリクエストしたのはちゃんとつかさだから」
 言葉も早口デス。
 ……マダマダ危険な綱渡りが続きそうデスね。ヒヨリの life point は大丈夫デショウか。
 モゥいっそ、逆にコナタとぶつけた方が丸く収まる気がシマスが……
「I see」
 マ、我慢しまショウ。ヒヨリの選択ですカラね。
「私のは、そっち。――開けてみて?」
「はい」
 ヌイグルミはひとまず近くの sofa に退避させラレ、カガミの紙袋から出てきたのハ、
「ブックカバー……」
「本、よく読むって聞いたから。一応文庫用と新書用のセットになってるの」
 平凡デスネ。Design にも TSUKKOMI 要素がアリマセン。
 もっとコゥ、TSUN-DERE らしさのアル item を期待シタのデスが……
「……ありがとう、ございます」
 ミナミは喜んでイルようデスし、余計なコトは言わないでおきまショウ。


     ☆


「さぁて、次は私たちだね」
 続いて泉ちゃん……私、たち?
 あら、田村ちゃんとパトリシアちゃんも一緒に前に出た。三人で渡すのかしら。
「Yes! Jet Stream Attack を掛けマスよ!」
「……カブってなきゃいいっスけどね」
 どうやらそうみたい。
 三人とも同じようなサイズの、かなり大きな紙袋を手に、それぞれ見つめ合ってうなずく。
「そんじゃ、一斉に行くよ?」
「はいっス。では、いざ」
「ジンジョーに勝負デスっ!」
 コンビネーション……いや、この場合はトリオネーションかな。
 とにかく息ピッタリで、三人が同時に取り出したのは……制服?
 泉ちゃんのは、水色のセーラー服。なぜか冬服で、こげ茶色のカーディガンが付いている。
 パトリシアちゃんのはブレザータイプで、こちらはちゃんと夏服。色はくすんだブルーグリーン。
 そして田村ちゃんのは、白のワイシャツと黒のプリーツスカートという、普段着にも使えそうなもの。
 ただし、なぜが魔法使いが身につけるみたいな黒いマントと大きな杖がセットになっている。
「「「オォおぉOh~~~~!!!」」」
 取り出したものをお互いに眺めながら、三人が歓声を上げる。
「すごい! 見事にバラバラ!」
「It's a Miracle!」
「絶対カブると思ってたっス!」
 ええっと……
 これは、いわゆる“コスプレ”の衣装、なのかな。
 泉ちゃんたちのことだし、きっとそうね。さすがに何のキャラクターかまでは分からないけど。
「いやー、私としては長門が三つ揃うのを逆に期待してたんだけどね」
「ホゾン用とカンショウ用とフキョウ用デスネ?」
「いやいや、さすがにそれは。岩崎さんが三人いるならともかく」
 疑問符で一杯になっているみんなを、岩崎ちゃんすらをも置き去りにして盛り上がる三人。
「……」
「……」
「……」
 だけど私たちがまったくの無反応なのを不思議に思ったのか、これまた一斉に動きを止めて、
 ソロリと周りを見回すと、ヒソヒソと話し始めた。
「来てるよ来てるよー? “ついていけないオーラ”がぶわっぶわ来てるよー?」
「しょーがないっスっ。私らアウトローが一般人を祝おうなんてしょせん無理な話だったんスっ」
「ヤパリ plug suit にスベキでしたカ……?」
「いやそーゆー問題じゃないから」
「むしろなお悪いから」
 なんだろう。
 ネガティブな内容のわりには、三人とも妙に楽しそう。
「こいつらは……」
 救いがたい、とでも言いたげに柊が呻く。
 みさちゃんと妹ちゃんと高良ちゃん、それとおばさまたちは、ただただ不思議そうな顔。
 まあでも、あの三人らしいといえば、そうなのかな。
「……」
 肝心の岩崎ちゃんが不安そうにしてるけど、無理やり着せることまではしないと思うし。
 でも、ちょっと見てみたいかも。
 他はともかく、魔法使い姿の岩崎ちゃんなら。


     ☆


「えー、でわ気を取り直しまして――次行ってみよう」
 ドン底まで冷え込んだ空気にもめげず、泉先輩が引き続き場を促す。ツッコミ不在は辛いっス……
「よっしゃ、あたしだな」
 ぱしん、手の平とこぶしを打ち合わせて、張り切った様子で進み出た日下部先輩は、
 けれどやっぱり何も持っていない。
「って言っても、今は渡せないんだけどな」
「……?」
 岩崎さんが首をかしげる。
「なんなんスか、結局?」
 他の人は何も言わないし、泉先輩もニヤニヤするだけだしで仕方なく私が尋ねると、
 日下部先輩はニッカリと笑った。
「靴だよ。こればっかりは本人がいなきゃ買えねーからな」
 ああ、なるほど。
 すごく納得。
 この中で唯一運動部に入ってる日下部先輩ならではのセレクションっスね。
「だから都合のいいときに買いに行こーぜ。明日にでも」
「はぁ……」
 しかし岩崎さんは困り顔。
 そーいや日下部先輩、岩崎さんを勧誘してるんだっけ。
 あの手この手で頑張るっスねぇ。小早川さんがいる限り無駄なのに。
「だぁいじょぶだってそんな顔しなくても。ソレ履いて陸上部で走れとかそんなこた別に言わねーから」
「しかしそれが逆に断りにくくなるという私の入れ知恵」
 と、泉先輩が口を挟んだ。
「なっ!? おまっ、バラすなよっ」
「いやぁ、さすがにフェアじゃないっぽいしー」
「契約違反だぞっ! せっかく勉強教えてやったのにっ!」
 そして何やら言い合いが始まった。
 ……嫌な予感。 、

「……日下部……」

 うわぁやっぱり! かがみ先輩が低い声を発したっス!
「……なに、ひぃらぎ?」
「……」
 訊き返されて、けれどかがみ先輩は少し押し黙って目を逸らした。そうしてから口を開く。
「いいかげんに、変に強引に誘うのはやめなさいよ。みなみちゃんに迷惑でしょ」
 どこか無理のある声。
 本心を――本当に言いたいことを、隠しているような。
 高良先輩が眉をひそめた。ヤバイっス、まずいっス!
「「――あのっ」」
 っと?
 声が、重なった。
 私と……岩崎さん?
「大丈夫です」
 きっぱりと言い切る、凛とした声。
 言われたかがみ先輩は――泉先輩も日下部先輩も、高良先輩も、そして私も。
 あっけにとられた。
「日下部先輩」
「え? あ、な、なに?」
「……この際ですから、はっきりと言わせてください。私は陸上部へは入りません」
「え……」
 表情を強張らせる日下部先輩。
 それを見て岩崎さんは、微笑んだ。
「ですが……プレゼントの靴は、ありがたく受け取らせていただきます」
「あ……」
 ゆっくりと。
「……わかった。諦める」
 日下部先輩の表情が、解きほぐされる。
「それと、最高の選ばせてくれな! そんで、たまには走りやすい靴履いてさ、チェリーと一緒に
思いっきり走ってみるとか、してくれ!」
「……はい」
 ええっと……
 なんとなく茫然としていると、誰からともなく拍手が巻き起こった。慌てて私も倣う。
 安堵の空気が広がっている。
 だけどその中で、かがみ先輩だけが、なんとも言いようのない表情をうつむかせていた。
 うぅ、心臓に悪いっス……


     ☆


「次は……みゆきさんか。みゆきさんは、みなみちゃんが着てるあの服ってことでいいんだよね?
他に何か隠し要素とかあったりする?」
「いいえ、服だけです。すみません、気が利かなくて」
 泉先輩の問いかけに、みゆきさんは丁寧に頭を下げた。
「や、念のため確認しただけだって」
 ということは、次はもうゆたかの番だ。
 どうしよう。また緊張してきた。
「それにしても、ホントよく似合ってるよねぇ」
「そ、そんなこと……」
 その上、泉先輩から改めて言われて、顔が熱くなる。
「ないことねーって。岩崎のイメージ変わったぜ。もちろん、良い方にな。フダンからそんなカッコ
すりゃいーのに」
「そうね。私ももっと見てみたいな」
「む、無理……です……」
 さらに日下部先輩と峰岸先輩も加わって、もう、どうすればいいのか。パニックで何も考えられない。
「大丈夫よ。本当に、すっごく可愛いし、似合ってるから」
「だよな。あやのもそう思うよな」
「うん。――ねえ、高良ちゃん」
「はい、なんでしょう」
「もし良かったらなんだけど、今度みさちゃんのことも見立ててくれないかしら?」
「へ?」
 うん?
「日下部さんを、ですか? ええ。私でよければ喜んで」
「え? ……なっ! ちょ、あやのっ! 何言い出すんだよいきなり!」
「だってみさちゃん、私がどんなの選んでもイヤだって言うんだもの」
「そりゃ、そんな――あやのがヘンなのばっか着せようとするからだろっ」
「うん。だから、ヘンじゃなくてちゃんと似合う服、高良ちゃんに選んでもらお?」
「んなっ!?」
 あれ、なんだか風向きが変わり始めてる。
 顔を上げると、日下部先輩が、たぶん私と同じぐらいに赤くなっている。
「む、ムリだよあたし、こんなの――」
 戸惑いつつ眺めていると、日下部先輩から思いっきり指を指された。
「……こんなの……」
「わあっ! 違う! 岩崎のはちゃんと似合ってるってば! そじゃ、なくてだからそのっ! あたしと
岩崎とじゃハナシが違うってハナシだよ!」
「そんなことありませんよ。確かに、みなみさんとはタイプが少し違っておられますから、これとまったく
同じ服では合わないかも知れませんが……」
 みゆきさんも乗り気だ。
「そうですね。日下部さんなら、カントリー調のエプロンドレスなどいかがでしょう?」
「わっ、すてき」
「おおー! いいねっ」
「え? ど、どんなだソレ? エプロン? ドレス?」
「さっすがみゆきさんだ。みさきちにスカートっていったら、私じゃテニスウェアぐらいしか出てこないよ」
「だからどんななんだよっ! すっげーヤな予感すんだけどっ! ちびっ子が喜んでるあたり特にっ!」
 エプロンドレス……とりあえず思い浮かぶのは『不思議の国のアリス』でアリスが着ていたもの。
 だけどカントリー調ということは、もう少し素朴にした感じだろうか。『若草物語』とか。
 ……ああ、似合うかも知れない。
 次女のジョオと四女のエミリーを足せば、日下部先輩のイメージに近くなる。……気がする。
「見てみたい、かも……」
「なぁっ! 岩崎!?」
 あ。
 声に出してしまった。
「ほらほらみさきちー、本日の主役もご希望だよー?」
「うぬぬぬぬ……」
 日下部先輩が頭を抱えてうずくまる。
 どうしよう。悪いことをしてしまった。
 と思ったら、がばり、身体を起こして、真っ赤な顔で泉先輩に人差し指を突きつける。
「わかったよ! その代わりちびっ子、お前もだ! お前もなんか着ろ!」
「私? おっけー。そんじゃ決まりだね」
 そしてあっさりと親指を立てる泉先輩。
 日下部先輩が愕然となる。
「なんでだよ! 嫌がれよ!」
「甘いネ、ミサオ。コナタは professional ダヨ?」
「バイトで慣れてるんスよねー、泉先輩」
 パトリシアさんと田村さんも加わった。
 ゆたかは……
「すぅ……はぁ……」
 深呼吸をしている。
 体調を崩したという感じではなさそう。彼女もまた緊張しているのだろうか。
 とりあえず、そっとしておこう。
 みゆきさんたちの方に目を戻す。
 かがみ先輩とつかさ先輩も、いつの間にかそばに来ている。しかしなんとなく近くにいるというだけで、
 会話には相槌程度でしか加わっていない。やはりまだ、完全に元気になれてはいないらしい。
「よし、それじゃついでにひよりんも行ってみよう」
「へ? ……はい!?」
「Nice idea、コナタ!」
「ちょ、まっ! なんでそうなるんスか! むっ、む無理! 無理っスよ私は!」
「だぁいじょーぶだぁいじょーぶ、みゆきさんに任せとけば。大船に乗った気持ちで」
「Nice boat、コナタ!」
「誰が上手いことを言えと言ったっスか!」
 しかし、みんなが楽しそうにしているのを見ると、指摘するのはためらってしまう。
 せっかく私のために集まってくれているのに、その私が雰囲気を壊すなんて、できるわけがない。
 悔やまれる。
 さっき外に出ていたときに、みゆきさんにもう少し詳しく言っておけばよかった。
 かがみさんと遭ったということだけは話したが、それだけだ。
 会話の内容や落ち込んでいた様子のことは、勝手に漏らすべきではないなどと思ってしまった。
 今日、こんなことになると知っていれば……
 いや、今さらそんなことを言っても始まらない。きっとまだ、機会はあるはずだ。


     ☆


 そうして。
 話はますます盛り上がって、最終的に、日下部さんとみなみちゃんが靴を選びに行くときに
 ゆきちゃんやこなちゃんたちも付いていって、ついでに――といった感じでまとまった。
 私とお姉ちゃんも誘われたけど、行ければ行くって答えたけど、たぶん行かないと思う。
 少なくとも、お姉ちゃんが今のままでいる限りは。
 もちろん、イヤだ。
 でも今はどうしようもない。
 何を考えてるのかわからない人だけど、峰岸さんの言うことは、間違ってはいないんだ。
 今日は、パーティーが終わるまでは、みなみちゃんのことが最優先。
 ってゆーか、勢いとはいえひどいこと言っちゃったよ、私。
 やっぱりもう大人しくしとこう……

「――さて、脱線しちゃったけど、いよいよオーラス行ってみよっか。ゆーちゃん、ばっちり決めちゃって!」
「う、うンっ!」
 こなちゃんに呼ばれて、ゆたかちゃんの声が少し裏返った。
 なんだかかなり緊張してるみたい。大丈夫なのかな。
 目を閉じて、もう一度短く深呼吸をして。
 そして目を開けると、ゆたかちゃんはプレゼントを手に中央に進み出た。
「みなみちゃん」
「……うん」
「お誕生日、おめでとう」
「……ありがとう」
 両手で捧げ持たれた大きな紙袋を、みなみちゃんは壊れ物を扱うように、そっと受け取った。
「あ、開けてみて」
 こくり、うなずいて。
 白いきれいな指が、袋の口を止めているリボンを外す。
「……」
 出てきたのは、一抱えほどもある平らな直方体。
 みなみちゃんが意外そうな顔になる。私も、お姉ちゃんも、他のみんなの反応も、だいたい同じ。
「い、いろいろ、考えたんだけど……やっぱりみんなで遊べるものがいいかな、って……」
 自信なさげに説明するゆたかちゃん。
 なるほど。
 『モノポリー』のボードゲーム。
 一瞬意外に思ったけど、考えてみれば確かにゆたかちゃんらしいチョイスだ。
 みなみちゃんのことを本当に思ってるんだなぁってことが、顔だけ見てもよくわかるよ。
「もし、よかったら……あとでみんなで……とか、だめかな……?」
 だからこそ、不安なんだね。
 わかる。わかるよ、その気持ち。喜んでもらえなかったらどうしよう、って思っちゃうんだよね。
 でも、大丈夫だよ。
 その証拠に、ほら、みなみちゃんの顔がみるみる優しくなっていく。
「……うん」
 そしてうなずいた。嬉しそうに。
「……やろう、ゆたか」
「あ――う、うんっ! ありがとうみなみちゃん!」
 うつむかせていた顔を上げて、輝かせて、ゆたかちゃんも勢いよくうなずきを返す。
「ごフっ」
 血を吐くような声がした。
 ――え?
 振り返ると、魂の抜けたような顔のひよりちゃんの肩を、パティちゃんががくがくと揺さぶっていた。
「ヒヨリ! シッカリ! 傷は腐海デス!」
「ウフ、ウフフフフフフフフフフフフ……独占……やらないか……」
 こなちゃんがため息をついた。
「いや、ひよりんマジ自重」
「お、お姉ちゃん? 田村さん、どうしたの……?」
 ゆたかちゃんが訊くと、こなちゃんは肩をすくめる。
「さー? 唐揚げでも喉に詰まらせたかな?」
 そんなふうにはとても見えないけど……
 やっぱり、疲れてるのかな。
 そうだよね。朝からずっと、お姉ちゃんとこなちゃんの間で頑張ってたもんね。
 ここまで何ごともなく来られたのは、間違いなくひよりちゃんのおかげだよ。
 ……どっちかって言えば、できれば、二人がちゃんと話せる場を作って欲しかったけど、
 時間的にもそんなのは無理だったし、そもそも何もしなかった私に言えることじゃない。
「田村さん、これ、お茶……」
 と、みなみちゃんが素早く動いて、烏龍茶の入ったグラスを差し出した。
「ああ、岩崎さん……もったいなや、もったいなや……」
「モゥ、シカリするですヒヨリ」
 視線や手元がおぼつかないひよりちゃんの代わりに、パティちゃんが手を伸ばす。
「さっすが保健委員」
 こなちゃんが言って、
「――」

 みなみちゃんは、動きを止めた。

 目が見開かれて、全身が石像ように静止する。焦点を失った瞳に映りこむのは、恐怖の色。
 恐怖?
「サ、ヒヨリ――」
 パティちゃんは気付かず、グラスをひよりちゃんに渡そうとして、
「―― Wm?」
 できなかった。
 グラスはみなみちゃんの手を離れていなかった。
 だけでなく、しっかりと握り締められている。指にかなりの力が込められているのがわかる。
 まるで握りつぶそうとするかのように。
 あるいは、決して渡すまいとするかのように。
「ミナミ?」
 パティちゃんが呼びかける。
 数瞬の間を置いて、みなみちゃんは弾かれるようにグラスから手を離した。
 弾かれるように。
 熱いものに触れてしまったときみたいに、腕がかなりの速さで後ろに向かって振り抜かれた。
 人に当たったら怪我をする勢いだ。
 さいわい誰にも当たらなかったけど、代わりに。
 グラスが宙に浮いた。
 液体を七割ほど注がれたガラスの容器が、誰の手からも離れて、ほんの一瞬、空中に静止した。
 落ちる。
 そう思うよりも、早く。

「にょわっ! ――っとぉー……」

 持ち前の運動神経を発揮したこなちゃんがギリギリのところで受け止めた。
 中身もほとんどこぼれていない。
 ちょっと信じられない神業に、私は息を飲む。
 そしてそれは、他のみんなも同じだったらしい。
「……」
「……」
「……」
 空気が止まった。
「……」
「……」
「……」
「……え? なに?」
 ひよりちゃんが我に帰ったみたい。
 きょとんとした顔で疑問をもらすけど、当然のように誰も答えない。
 訝しげになって、みんなを見渡して、
「――!」
 彼女もまた、息を飲んだ。
 その視線の先で。
 みなみちゃんが真っ青になって震えていた。
 限界まで目を見開いて、お化粧の上からでもわかるぐらいに顔を蒼白にして、凍えるように、カタカタと。
 尋常じゃない。

「みなみ……ちゃん?」

 むしろ場違いにも思える、呆けたような声。
 びくり。
 ひときわ大きく、みなみちゃんの肩が震えた。痙攣したと言ってもいい。
 眼球がぎょろりと回って、声の主、ゆたかちゃんに向けられる。
 さっきと同じ。
 ううん、さっきよりも深い。
 怯えの色。
 まるで怪物でも見るみたいな、恐怖の眼差し。
 それが、ゆたかちゃんに向けられている。
 ――なに?
 何が、起こったの?


     ☆


 迂闊でした。
 今日のことを――昨日までの小早川さんたちのよそよそしさが、
 内緒で誕生パーティーの準備をするためだったということを明かした時点で、
 みなみさんの不安は全て解消されたものと思い込んでしまっていました。
 詳しいことを知っているわけではありません。
 ですが、今朝になっていきなりあんなことを言い出した、そのきっかけとなる出来事があったはず。
 恐らくは、昨日。
 その放課後の、帰り道で。
 完全に……失念していました。
「……」
 ちらりと窺い見てみると、しかし“その人”もまた、純粋な戸惑いを見せているだけでした。
 もしかしたら、無関係なのでしょうか。
 ――いえ。
 いずれにしても、彼女のことは後回しです。

「……みなみちゃん? どう、したの?」
 目を戻すのとほぼ同時、小早川さんが再度の呼びかけをします。
 ぎしり、と音が鳴るほどのぎこちなさで、みなみさんの唇がわななきました。
「ち……ちがう……」
 蚊の鳴くよりも小さな声。
 小早川さんが眉を寄せます。
「……え?」
 混乱しきった顔。若干の怯えも見て取れます。
 さすがに、無理でしたか。
 みなみさんの感情を、場合によっては私以上に読むことのできる彼女なら或いは、と思ったのですが。
 致し方ありませんね……
 なるべく出しゃばりたくはなかったのですが……

「みなみさん」

 声をかけると、再び痙攣するように長身を震わせて、彼女はこちらを振り返ります。
 助けを求める目。
 応じてあげたい。手を差し伸べてしまいたい。
 ですが……
「……大丈夫です。話せば、ちゃんと伝わるはずです」
 断腸の思いで突き放すと、みなみさんは絶望に顔を歪ませました。
「で、でも……」
「小早川さんのことが、信用できませんか?」
「そんなこと……!」
 搾り出すような呻き声。
 苦渋に満ちた顔。
 ですが、手助けはできません。するわけにはいきません。
 今日という日を親友たちとの良き思い出の日として心に残すためには、ここはあなた自身の力で
 乗り越えなければならないのです。
 他の人に助けられてしまえば、そこに成長はありません。
 自分だけの力で、人に踏み込み、また踏み入らせなければ。
 私は、来年もまた同じことをしたくはないのです。
「でしたら、ちゃんと説明して差し上げるべきです。たとえどれほど信頼していても――しあっていたと
しても、言葉にして話さなくては分からないことというのは、あるものなのですよ?」
 偉そうなことを言って申し訳ありません。
 ましてや、事情をよく知りもしないのに。
 ですが、それは真理であるはず。
 私もつい先日痛感したばかりのことですから。
「……」
 みなみさんは、うつむいて、肩を震わせました。
 そして――しかし。
 予想よりも遥かに早い時間で顔を上げ、再び目だけで、続いて全身で、小早川さんに向き直ります。
「……ゆたか……」
 それを受けて、小早川さんは、
「……うん」
 小さく、ですがはっきりと頷きました。
「聞かせて」
 ……良いお友達を持ちましたね。
 さあ、みなみさん。
 次はあなたの番です。
 もし、“あの人”が――かがみさんが関係しているのなら、そちらのフォローは私が引き受けます。
 ですから、今、この場だけは。
 どうか勇気を出してください。




















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  • ふぅ…、ハラハラドキドキが止まらんぞ… -- 名無しさん (2008-04-14 01:44:36)

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