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2人の誓い

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匿名ユーザー

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 いよいよ明日は卒業式。
 目の前には3年間お世話になったセーラー服が明日の最後の出番を静かに待っている。
 この3年という月日を振り返ってみると、あっという間だったと感じると共にとても充実した時間を過ごして来たんだな、とも思う。
 目を閉じれば楽しかった日々が簡単に思い出せる……かがみやつかさ、みゆきさんを始めとして、みさきちに峰岸さん、ゆーちゃん達1年組といった親友や後輩に囲まれた、かけがえのない宝物だ。
 特に3年になってからは本当に色んな事があったんだよね。
 ゆーちゃんと付き合うようになったり、今更ながら勉強に打ち込んでみたり、桜藤祭でチアダンスをやったり……中学までの私からは全く想像が出来ない、大切な思い出の数々を一つ一つ思い出しては心の引き出しにそっとしまっていく。

 そんな静かな時間も聞き慣れた車の音に中断させられる。
 しばらくするとチャイムが鳴らされ、お父さんが出迎えているみたいだ。
 私も顔を見せるべく1階に下りると、居間には見慣れた顔が1つと滅多に見る事のないけどよく知ってる顔が2つ……ゆい姉さんとゆーちゃんの両親が座っていた……

「珍しいですね、おじさん達がうちに顔出すなんて。どうしたんですか?」
「卒業祝いだよ、こなたちゃん。卒業式は明日だけど2、3日は友達と過ごすだろう? だからちょっと早いけど必ずいそうな今日に来た訳さ」
「こなたちゃん、卒業おめでとう。はい、これ。大した物じゃないけど使ってね」
「えっ、いや。そんな気を遣わなくてもいいですよ!」
「いーじゃん、こなた。もらっときなって。ゆたかがお世話になってるんだし、そのお礼も兼ねて、って事でさ」
「それじゃ尚更もらえないよ、ゆい姉さん。こっちこそゆーちゃんには色々手伝ってもらってるんだし」
「こういうのは素直に受け取っておくものよ? こういう言い方はずるいかも知れないけど、こなたちゃんに喜んでもらいたくて色々探したんだからね」
「むー、それは確かにずるいですよ。そこまで言われたらもらうしかないじゃないですか」
「はっはっは。1本取られたな、こなた。3人ともありがとうな、こんな時間にわざわざ来てくれて」
「いいんですよ、義兄さん。なかなか顔を合わせる機会が減ってしまいましたからね。それにこんな時じゃないと気軽にゆたかの顔を見れませんし」
「なんだ、こなたのお祝いはついでだったのか?」
「そんな訳ないでしょう、兄さん。あなたも変な事言わないの」
 そんな親同士のやり取りを聞きながら、もらう事が決定した包みを開けると中からオシャレなポーチが出てきた。
「お、可愛いですね、これ。ありがとうございます。大事に使わせてもらいますね」
「無理して使わなくてもいいけど、タンスの肥やしにはしないでね?」
「もちろんですよ、おばさん」

 おしゃべりが一区切りついた頃、ゆーちゃんが皆のお茶を淹れて持って来てくれた。
「お、ちゃんとお手伝いしてるな。ゆたか」
「もちろんだよ、お父さん。これでも家事とかお料理とかお家にいた頃より出来るようになったんだからね。こなたお姉ちゃんやおじさんにはまだまだ敵わないけど」
「いやいや、ゆーちゃんには本当に助かってるよ。最近じゃお菓子作りまでしてくれて、仕事の合間に持って来てくれるしな」
「へぇ、随分頑張ってるのね。迷惑掛けっ放しかと心配してたけど、その分なら大丈夫ね?」
「はい、心配しなくても大丈夫ですよ。この頃のゆーちゃんは体調も大分いいみたいですし」
「私もちょくちょく来るけど、確かに最近は風邪引いたとか言わないよね。これもこなたのおかげかな?」
「へ? や、何でそこで私の名前が?」
「あら、違うの? 好きな人に迷惑掛けないように体鍛えたりしてるんじゃないんだ?」
「……はい?」「お……お母、さん?」
「さて、じゃあ今夜来たもう1つの用事を済ませようか」
 そう言っておじさん達は居住いを正すと、私とゆーちゃんを静かに、だけど強く射抜くような視線で見つめてくる。
「私達が知ってるって事は気づいたと思うけど。2人とも、私達に言う事があるんじゃない?」
「まだ君達からきちんと聞いてないからね」
 ふと2人の後ろのゆい姉さんが目に入る。済まなそうな表情で手を合わせてこちらを拝んでいる……どうやら姉さんがうっかり口を滑らせちゃったみたい。まぁ別に咎めるつもりはこれっぽっちもないけど。
 横にいるゆーちゃんが私の手をそっと握ってくる。ぎゅっと握り返して深呼吸を1つ。
「はい。私とゆーちゃんは恋人として付き合ってます。今まで伝えなかった事については謝ります。けど、悪い事をしてるとは思いません。」
「わ、私も本気だよ。お父さん、お母さん」
「同性の恋愛がある事は知ってるよ。まぁ身内から出るとは思いもしなかったけどね。それが悪いとは私達だって言わないさ」
「でもね。本当に2人とも理解出来てるのかしら? 自分達がどれほど大変な事をしてるのか。今は学校という狭い集団だから問題ないのかも知れないけど、実際に社会に出て、関係が周囲に知れた時の反応や対応を甘く見てない? インターネットで調べた? 本で読んだ? でもそれは他人の話で、実際に自分達が経験した訳じゃないでしょう?」
「もう1つ。こなたちゃん、こんな事を言うのは酷いかも知れないけど敢えて聞こう。バイトで頑張ってるようだけど、それで生活が成り立つのかい? 女性の1人暮らしだって大変なのに、2人分となると相当頑張る必要があるはずだよね」
 2人の言葉が胸を貫く。
 これでも自分なりに色々考えたつもりだったけど、こうしておじさん達の口から改めて聞かされると、その重みがずっしりと圧し掛かってくる。その表情から、口調から、2人がどれほどゆーちゃんの事を心配してるかが手に取るようにわかったから。
 だからこそ、私はきちんと言わないといけないんだと覚悟を決めて。
 握っていたゆーちゃんの手を離すと、
「もちろん考えてます。確かに今はまだバイトで、昇格が決定してると言っても会社員とかと比べたら色々見劣りする部分が多いです。でもメリットもいくつかありますよね。時間の制約や、給料の手取りが多いとか。だからこそ今のうちに資格を取ったり、貯金を蓄えたりするつもりでした。報告が遅れたのはそうした不安材料を少しでも減らしておきたかったからなんです」
「なるほど……」
「それに、このままバイトで終わらせるつもりもないですよ。今いるところで社員待遇されるかもしれないし、今後取れる資格を生かした仕事が見つかるかも知れませんし。確かに確定してるわけじゃないけど、それでもただ時間を過ごすような、2人を心配させるような生活を送る気は全くないです」
「つまりもう少し様子を見てほしい、そう受け取っていいのね? その結果、私達が納得出来なければ2人は別れてもらうけど構わない?」
「……はい。そのつもりです」
 私の返事を聞いて、それまで静かにしていたゆーちゃんが急に声を荒げた。
「?! お姉ちゃん! それ、本気で言ってるの?! 私、何も聞いてないよ!」
「ゆーちゃん、落ち着い」
「落ち着ける訳ない! なんで一言も相談してくれないの?! そんなに私は頼りない? 1人で背負い込むなんて卑怯だよ!」
「ゆたか、落ち着きなさい」
「いや! だって初めて自分で決めた事だもん! ずっとお姉ちゃんが好きだった! だから少しでも一緒にいたくて、頑張って陵桜に入学したんだよ。やっと想いが通じて一緒になって、これからも一緒でいられると思ったのに、お姉ちゃんのお仕事が納得出来ないから別れさせるなんて、それこそ納得出来ないよ!」
 一息にそこまで言い切ると、ゆーちゃんは大きく肩で息をする。ここまで激しい感情を見せたのは初めてだったのか、この場の誰もがゆーちゃんを黙って見つめるだけだった。
「いいよ、お金とかお仕事とか、そういうので納得いかないなら私進学しない。ううん、今すぐ学校辞めて、お姉ちゃんと一緒にはたら、っ?!」
 パン! と乾いた音がゆーちゃんの言葉を遮った。
「「「ゆたか?!」」」「ゆーちゃん!」
 おじさん達とゆい姉さん、お父さんの声が重なる。ゆーちゃんは頬を押さえて私を呆然と見つめて。
 私はゆーちゃんの頬を叩いた手で、今度は両手でゆーちゃんの頬を挟んで正面から見つめると、
「言い訳にしかならないけど、ちゃんと聞いてね? 相談しなかったのはね、ゆーちゃんには学校生活を楽しんで欲しかったからなんだよ。中学まではずっと体が弱くて学校生活を楽しめなかったんだよね? でも今は? 体調を崩してもフォローしてくれる友達もいて、楽しいよね?」
 ここでいったん言葉を切る。ゆーちゃんが小さくうなずくのを見て、言葉を続ける。
「だから今までの分をここで取り返して欲しかったんだ、私と同じようにね。私も高校入るまではつまらない日々を送ってたけど、かがみ達に会って、ゆーちゃん達が後輩として入学して、本当に楽しかった。だからこそ、この高校生活は何も気にしないで楽しんで欲しかったんだよ。その後でゆーちゃんにも一緒に色々考えてもらうつもりだったんだけど……やっぱり先に話した方がよかったみたいだね。ごめんね、2人の事なのに勝手に決めて」
 涙をポロポロ零しながら何度も頷くゆーちゃんを優しく撫でながら、おじさん達に向き直り、
「今すぐ認めて欲しいなんて言いません。せめてゆーちゃんが卒業するまで、自分の進路をきちんと決めるまで待ってもらえませんか? これなら安心してゆーちゃんを、娘を任せられる、そんな大人になって見せます。そしておじさん達が心配する必要のない、確かな道をゆーちゃんと一緒に歩いて行きます」
 2人は私とゆーちゃんを交互に見比べて、顔を見合わせて頷き合う。
「いや、まさかゆたかがこれほど自分を主張するとは思わなかったな」
「ええ、本当に。家にいた頃はあんなに弱い女の子だったのにね。これは間違いなくこなたちゃんのおかげね」
 苦笑交じりにそう言うと、優しい笑顔で私達を見て、
「元々そのつもりだったんだよ、こなたちゃん。今すぐ答えを出す気は全くなかったんだ。あんな事を聞いたのは、2人がどれだけ覚悟があるのか確かめる為だったんだよ」
「ゆいから2人の事を聞いてびっくりしたわ。ゆたかに恋人が出来た、なんて。しかもそれがこなたちゃんだって言うものだから、その場で兄さんに電話しちゃったわよ」
「ああ、あの時は凄かったな。電話越しでもお前の剣幕が目に見えたよ。2人の事を聞き出す様は正にマシンガントークって言うに相応しいものだったよ」
「え?」
「1月の末くらいかな、あれは。その頃にはもうゆき達は全部知ってたんだよ」
「本当はすぐにでも会いに来たかったんだけど、受験はなくても学校の試験はあるでしょ。だからそれが終わって、一番落ち着いてる今日にしたのよ」 
「そういう事。まぁこの分なら安心だな」
 声を上げて笑う親達3人を私はただ見つめるしか出来なかった……私達を認めてくれた感謝の気持ちで泣きそうだったから。

「それにしても、兄さんから聞いてはいたけど2人ともここまでしっかりした子に育ってたなんて。あの兄さんの下じゃ不安で仕方なかったけど」
「ゆき……それはあまりにひどいぞ? 俺だって大事な娘達はちゃんと育てるさ。じゃなきゃ、かなたに会わす顔がないからな」
「冗談よ。こなたちゃん、これからもゆたかをお願いね?」
「ゆたか。こなたちゃんを心配させたらダメだぞ? 自分をはっきり出せるようになったのはいいが、どうも危なっかしい気がするからな」
「「はい!」」

 おじさん達とゆい姉さんはその後すぐに帰ってしまった。
 色々と話したい事もあったけど、それはゆーちゃんが春休みに入ってからのお楽しみになった。
 お父さんも作業部屋に戻り、居間には私とゆーちゃんの2人っきりだ。
「お姉ちゃん、さっきはごめんね……変な事言って」
「いやいや。私こそちゃんと話さなかったからね。おあいこって事にしておこう?」
「ん……」
「どしたー、元気ないぞ~? あんな事の後じゃ仕方ないかもしれないけど、ゆーちゃんには笑ってて欲しいな」
「お姉ちゃん、私頑張るね。勉強も学校生活も。お姉ちゃんの気持ちは無駄にしないから」
「うん。一緒の学校生活は終わっちゃうけど、この家にいる限りずっと一緒だよ……その先も、ね?」 
「その為にもいっぱい頑張らないとね!」
「そうそう、その調子。明日は卒業式だからね。学校生活の最後の記念に、感動して泣いちゃうゆーちゃんの顔でも拝ませてもらいましょーか?」
「むー……お姉ちゃんこそ、寂しくて泣いちゃうのを見てあげるんだから!」
「私は卒業生だから泣いちゃってもいーんです」
「それなら私達だって、先輩達と別れたくないから泣いたっていいんだよね?」
「それもそうだね。ふふふっ」
「あははは」
「さて、卒業式で遅刻したら末代までの恥だね。そろそろ寝よっか?」
「ねぇお姉ちゃん……」
「一緒に寝る?」
「うん!」
「じゃあ着替えておいで~。待ってるからさ」
「はーい」
 ゆーちゃんを送り出してから、私は仏壇に向かう。
「おかーさん。色々心配掛けちゃったけど、明日で学生生活を卒業するよ。大変な事が山積みだけど頑張るからさ、おかーさんも見守っててね。おやすみ……」
 お線香を上げて、私も部屋へ戻る。
 まだ開いていた窓から風が吹き込んできて、私の髪をわずかになびかせる。
 その感じが、頭を撫でられたような気がした……



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