kairakunoza @ ウィキ

オタ嫁日記 そのに

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
 「な、何だよ……いきなりマジな顔してさ……」
  お義父さんが出て行った廊下の方を向いたまま、こうたろうがうろたえる。
 「あーあ、お父さん怒っちゃった。まさか、アレ全部持ってくる気じゃないだろうね……」
  こなたがぼやくと、こうたろうが振り向いて尋ねる。
 「何だよ、アレって!?」
 「あー、その」
  こなたが返答に詰まっていると、ドドドドドドドドと言う音を立てて、大量のダンボール箱を抱えたお義父さんが戻ってきた。
  ドサっ、ドサドサドサドサっ。
  お義父さんは大量のダンボール箱をリビングの床に置くと、再びリビングを出て行く。
 「な、なんだ、この箱の量は……」
  こうたろうが困惑している所へ、再びドドドドドドドドと言う音を立てながらお義父さんが戻ってきた。
  ドサドサドサドサドサっ。
  お義父さんは追加の大量ダンボール箱をリビングの床に置くと、再びリビングを出て行こうとする。
 「ちょっ、お父さん!! ストップストップ!! もう置く所ないよ!! もうこれで十分だって!!」
  慌ててこなたが静止すると、お義父さんが振り返ってダンボールの側へとやってくる。
 「そうだな……。まあ今日の所はこれ位でいいだろう」
  お義父さんはそう言って、8個ほどあるダンボール箱の中身をがさごそと取り出して、テーブルの上に置き始める。

 「な、なんだよ、コレ……」
  こうたろうはダンボールの中にぎっしり詰まった、DVDロムとアルバムを見て絶句する。
 「おまえの成長記録だよ」
  お義父さんはそう答えると、アルバムを一冊取り出してこうたろうに手渡す。
 「……俺の?」
  こうたろうは呆けたような声でそう聞き返すと、アルバムを開く。
 「……」
  無言のまま、ページをぱらぱらとめくっていく。
 「……じいちゃん」
 「なんだ?」
 「これ、一冊かけてもまだ、生まれたての頃から首が座る頃までの写真しかないんだけど」
 「3ヶ月目からはこれだな」
  こうたろうから最初のアルバムを受け取って、新しいアルバムを手渡す。
 「……」
  こうたろうは無言のまま、新しいアルバムをめくっていく。
 「こっちは3ヶ月目から6ヶ月目までしか載ってないんだけど……」
 「次はこれだな」
  そう言って、新しいアルバムを手渡そうとするお義父さんをこなたが制止する。
 「お父さん、アルバム一冊で3ヶ月分しか載ってないんだから、その辺にしときなよ」
 「いや、こいつには俺の愛がどれだけの物なのか、一度教えておかないとな」
 「そんな事言ったって、量が多すぎるよ。DVDロムに入ってる画像データだけで軽く1000枚以上あるんだからさ」
 「1000枚!?」
 「そうだよ。お父さん、こーちゃんが生まれてから毎日欠かさず写真と動画撮ったりしてたんだから」
 「な!? なんだよそれ。なんでそこまで……」
 「なんで? そんなのかわいい初孫だからに決まってるじゃないか!!」
  お義父さんは両腕を胸の前で組んで、自信満々に答える。
 「こーちゃんは覚えてないかもしれないけどね、お父さん、こーちゃんが小さい頃は私達親以上に子煩悩だったんだから」
  こなたはそう言うとダンボールの中をごそごそと漁って、一冊のアルバムを取り出すとテーブルの上に乗せてページをめくると、その
 場にいる全員がテーブルの上のアルバムを覗き込む。

 「……あ、お兄ちゃんがおじいちゃんに食べられてる」
  アルバムを見たそなたがそう呟くと、こうたろうが疑問を口にする。
 「……じいちゃん、これは虐待か?」
 「失礼な!! 俺の愛情表現だ!!」
  写真の中では、4ヶ月のこうたろうがお義父さんに抱っこされていた。
  ただし、普通の抱っこ写真ではない。
  こうたろうの左頬にお義父さんが大口を開けて齧り付いていた。
  頬に齧りつかれたこうたろうは目を細めて口をぽかんと開けていた。こんな顔→(-д-.)で。
 「だってどう見ても噛み付いてるだろ、この写真!!」
 「よく見ろ。こうやって、上唇と下唇を歯の上に引き込んで、歯型が付かないように齧り付いてるだろうが」
 「……なんでこんな事するんだよ」
 「それがお父さんの愛情表現なのさ。かがみんがけんちゃんあやす時によくほっぺにちゅっちゅってよくやってんじゃん。あれと同じ。ちっちゃくて、ぷにぷにしてたから、こーちゃんが赤ちゃんの時にはよくそれやってたよ」
  こなたがこうたろうの疑問に答えてやると、こうたろうは黙ってしまう。
 「お父さんたらさぁ、こーちゃんが生まれてから、こーちゃんが大きくなって嫌がるようになるまで、毎日ずっと成長記録を取ってたからね。これ以外にも成長記録が大量にあるはずだよ」
 「……」
 「なあ、こうたろう。じいちゃんにとって、こうたろうもそなたも大切な孫なんだよ。性別なんか関係ないんだ」
  お義父さんは真剣な目でこうたろうをまっすぐ見据えると、真摯に思いの丈をぶつけ出す。

 「かなたが命がけで産んでくれた、大切な一人娘が産んでくれた、大事な孫なんだぞ。どちらか一方だけ、なんて馬鹿な事をするものか」
  そこまで言うと、お義父さんは目を閉じて、何かを思い出すかのように一呼吸置くと、再びこうたろうの目を見据えて語り出す。
 「……かなたが生前に言った言葉がある。例え、子供と引き換えに自分の命を失ったとしても構わない……。子供が元気に産まれてきてくれて、健やかに育ってくれれば、いつの日かその子が新しい命を育んで未来へと命が繋がっていくのだからって、な」
  お義父さんのその言葉に、その場にいる全員が黙り込んでしまう。
  しばらくの間沈黙が続き、やがてこうたろうが俯いたままぽつりと呟く。
 「……じいちゃん、ごめん」
  お義父さんは黙ってこうたろうの頭に手を乗せるのだった。
 「わかればいいんだ。ごめんな、コウ」
 「は?」
  にやりと笑い、お義父さんはこうたろうの頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
 「そなたばっかりで、じいちゃんが構ってやらなかったら、そなたに焼きもちを焼いたんだろ?」
 「ちょ、ちょっと待った。なんでそうなるんだよ!!」
  こうたろうが慌てて逃げようとするのを強引に引き寄せる。
 「よしよし、久しぶりにじいちゃんがかわいがってやろうなー」
  そう言ってお義父さんはこうたろうを抱きしめると、頬擦りを開始する。
 「ギャアーっ!! ヒゲが!! ヒゲが刺さってる!! 刺さってる!!」('д`.)
 『くすくす……』
  本気で嫌がるこうたろうと頬擦りをするお義父さんを、そなたとたまちゃんがくすくす笑いながら見ていた。

                     ※

 「そっか……。お母さん、そんな事言ってたんだね」
  不意に、こうたろうとお義父さんのやり取りを黙って見守っていたこなたが、しんみりした声でお義父さんに話かける。
 「……ああ」
  頬擦りを止めて、お義父さんが頷くと、その隙にこうたろうはするりとお義父さんの腕の中から逃れる。
 「今の言葉、しっかり覚えとくよ。いつか、こーちゃんとそなた、それと、これから産まれてくるこの子の子供達に伝えるためにね」
  そう言って、自分の腹部を優しく撫でるこなた。
  皆の視線がこなたの腹部に向く。
 「……そういえば、こーちゃんが生まれた時も大変だったよね」
  なんとなくしんみりした空気が流れる中、場の雰囲気が照れくさくなったのか、こなたが話題をすりかえる。
 「ああ、そう言えばお義父さんが大変だったな」
  俺が同意すると、こなたはうんうんと頷く。
 「そうだったか?」
 「そうだよー。覚えてないの?」
 「いや、コウが生まれた時の喜びしか覚えてないな」
 「お父さんだけじゃなくて、○○君も大変だったよね」
 「そうだっけ?」
 「そうだよー」
  こなたの言葉に、こうたろうが産まれた時の事を思い出す。
  あれは13年前の事か……。

                     ※

  13年前、こなたの出産が2週間後に控えた頃、奥さんを亡くした経験から、お義父さんはこなたを評判の良い産婦人科に入院させた。
  こなたはギリギリまで自宅にいると言ったが、お義父さんは絶対に駄目だ、もし何かあったらどうするんだと言って譲らず、半ば強引に入院させたのだ。
  産婦人科での入院生活が退屈らしく、こなたは会いに行く度にヒマだヒマだとぼやいていたが、俺も心配だったので何度も宥めたのをよく覚えている。
  何しろ、携帯ゲームやマンガを持っていっても、こなたはすぐに終わらせてしまうのだから、しょうがない。
  それに自分で孕ませておいてなんだが、こなたの小さい身体で出産に耐えられるのかが心配だったからだ。
  こなたは高校時代と現在は病気とは無縁で健康そのものなのだが、実は大学卒業間近に大きな病を患い、一年近く入院していた事がある。
  その病は無事に完治した物の、こなたのお母さんの事もあり、俺もお義父さんも心配でたまらなかったのだ。

  こなたが入院して、二週間ほど過ぎた頃だったろうか。出産予定日を5日過ぎても子供が産まれてこない。
  いつ病院から連絡があるのか、そればかりが気になって仕事も手に付かない状況が続いていたある日、お義父さんがこなたが産気づいた事を電話で連絡してきた。
  俺はすぐに会社を早退して病院に向かった。
  俺が到着すると分娩室の前ではお義父さんが、泣きそうな顔で何度も何度も廊下を行き来していた。
  最初は俺だけでも落ち着こうとした物の、30分も立つといても立ってもいられず、お義父さんと2人で何度も何度も廊下をうろうろしていた。
  やがて、1時間程立った頃だろうか。

 『おぎゃあぁぁぁぁぁっ、おぎゃあぁぁぁぁぁぁっ……』
  赤ん坊の元気な泣き声が分娩室から聞こえてきた。
  こなたの処置をするからと言われて、こなたの病室に一足先に戻った俺達は、看護士に抱かれて連れて来られたこうたろうと初めて対面した。
  最初は父親である俺に手渡された。
  小さな小さな我が子を、初めて抱いたあの時の感動を俺は生涯忘れないだろう。
  五分程抱いて、お義父さんにこうたろうを渡すと、お義父さんは泣きながら喜んでいた。
  そして子供と3人で待っていると、やがて産後の処置の済んだこなたが看護士に連れられて戻ってきた。
  初めての出産で体力を使い果たしたのか、こなたは弱弱しく俺達に言った。
 『ただいま、お父さん、○○君……』
 『こなた、よくがんばったな』
 『こなた、俺の子を産んでくれてありがとう』
  俺達の言葉にこなたは無言で弱弱しく微笑んで、お義父さんにこう答えた。
 『ごめんね、お父さん……。男の子だったよ』
 『何を言うんだ。大事なこなたが頑張って産んでくれた孫だぞ。性別なんて関係あるものか。俺はこの子を全力で愛するぞ』
 『……よかっ……た』
  お義父さんのその言葉に嬉しそうに微笑んでそう答えると、こなたはそっと目を閉じて、そして……ぴくりとも動かなくなった。
 『こなた?』
 『……』
 『お、おい、こなた』
 『……』
 『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! こなたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! こなたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
  お義父さんが号泣する。
 『こ、こなた……。嘘だろ……。こんなの……。こなたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
  あまりの展開に俺も涙を流してこなたの名を叫んだ。
  世界中で一番愛している女性の名前を……。

 『……うーん。人の名前を大声で叫ばないでよ……。初めての出産で疲れてんだからさぁ、ちょっと寝かせてよ……』
  突然、不機嫌そうに眠そうな目を吊り上げて、こなたが呟いた。
 『こ、こなたっ!!』
 『こなたが生きてる!!』
 『勝手に殺さないでよ……。赤ちゃん抱っこするのに満足したら、看護士さん呼んどいてね……。私少し寝るから。それと、赤ちゃんの名前早く決めといてね……』
  こなたはそれだけ言うと、すうすうと寝息を立て始めた。
 『よ、良かったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
  お義父さんと俺の安堵の声が同時に室内に響く。
 『おぎゃあぁぁぁぁ、おぎゃあぁぁぁぁぁっ……』
  寝ていたこうたろうが泣き出す。
 『おお、よしよし……』
  俺達は泣いているこうたろうをあやしながら、喜びの涙を流しあった。
  その後、遅れてやってきた俺の母親と父親に事の経緯を知られ、俺達は呆れられたのだった……。

                     ※

 「私がこーちゃん産んで、疲れて寝ちゃったのを死んだと勘違いして大声で泣き叫ぶんだもん。あの後、入院中の他の妊婦や看護士さんに色々聞かれて大変だったんだから」
  こなたが当時の事をぼやくと、こうたろうが口を挟む。
 「じいちゃんも父さんも大げさだな。母さんが死ぬわけないじゃん。殺そうとしたって死なねーよ、絶対」
 「言えてる」
  かがみんが同意すると、こなたはむっとする。
 「失礼な」

 「……ねえねえ、おじいちゃん、これ全部お兄ちゃんの赤ちゃんの頃のなんだよね」
  そなたがお義父さんの服の裾を引きながら、ダンボールを指差して言う。
 「そうだよ」
 「そなた、見たーい」
 「わたしも見たいな……」
  そなたとたまちゃんがせがむと、お義父さんはわかったわかったと言いながら、DVDロムを取り出して、リビングのデッキで再生を始めた。
  すやすやと寝息を立てる幼いこうたろうが画面に映し出される。

 「わあ、これがちっちゃい頃のお兄ちゃん?」
 「そうだよ」
 「お兄ちゃん、かわいい……」
  そなたとたまちゃんがかわいいを連発する。
 「こーちゃんはねあんまり手がかからなかったんだよ。寝てる間に洗濯物片付けたりしてる時に起きても泣かなかったし」
 「そうなの?」
 「うん。大抵の子は寝起きはぐずるもんなんだけど、こーちゃんは誰もあやしてないのに何故か、ご機嫌で起きてることが多かったよ」
  確かにそうだった。別室で寝てるこうたろうが泣きながら起き出しても、こうたろうの所に行くとまるで誰かにあやされてたみたいにすんすん、と泣き止んでる事が多かった気がする。
  そなたの時はそんな事はまったくなかった。今でも不思議に思う。

 「そのかわり、おっぱいへの執着が凄かったんだけどね」
  そう言ってこなたは笑う。
 「確かにそなたが生まれるまで、乳離れできなかったしな。こなたと三人でこうたろうを真ん中にして寝てると、いつの間にかこなたのパジャマをめくって、こなたの胸に吸い付いてるか、胸を触りながら顔を押し付けてたな」
 「そうなんだー」
  そなたがこちらに振り返ってそう笑うと、こうたろうがムスっとした顔で俺とこなたを睨む。
 「そなちゃん、そなちゃん」
  1歳半頃のこうたろうがトミカを片手に1人遊びしている映像が、画面に映し出されると、たまちゃんは食い入るように見ながらそなたの腕を引く。
 『こーちゃん、おいでおいで』
 「あっママだ」
  そなたの言葉どうり、画面の中では昔のこなたが膝立ちの姿勢でこうたろうに両手を広げて呼びかけている。
  うーん。……今もこの頃とあんまり変わらないなぁ、俺の嫁。横目でこなたを見ながら、俺はそう思う。
 「何?」
 「いや、なんでもない」
  俺はこなたの問いかけにそう答えると視線を画面に移す。

 『まー』
  幼いこうたろうはにこにこと笑いながら、こなたの方にとことこと歩いていき、こなたの胸に飛び込む。
 『こーちゃん、ちゅーして、ちゅー』
  画面の中のこなたがこうたろうを抱っこしながらそう言うと、こうたろうはこなたのほっぺたにちゅっと自分の唇を押し当てる。
 『お兄ちゃん、かわいいーっ』
  そなたとたまちゃんが声をハモらせて言う。
 「……もういいだろ、早く消してくれ」
  こうたろうが不機嫌な声で言うが、誰一人聞く耳なんぞ持っていなかった。
 『こーちゃん、こっちにもおいでー』
 「あっ、たまちゃんのママだ」
  画面の中ではかがみんが、こなたと同じようにしてこうたろうを呼んでいる。
 「懐かしいね。かがみんが遊びに来た時のかな」
 「そういや、そんな事もあったっけ」
  かがみんが懐かしそうに頷く。
 「かがみん当時も良くうちに来てたから、こーちゃんが良く懐いてたよね」
  こなたは画面を見ながら、ダンボールに手を入れてアルバムを取り出そうとする。
 「!? こなた、それは駄目だっ!!」
  お義父さんは突然叫ぶと、こなたが取り出した金箔仕立てのアルバムを奪う。
 「これだけは駄目だ、こなた」
 「あっ……ごめん」
  こなたとお義父さんの様子にかがみんが訝しげな顔をする。
  あれは確か……。

  ひょい。

  こうたろうがお義父さんの手からアルバムをあっさり奪うと、アルバムを無造作に開く。
 「……まさか、おねしょ写真とかじゃないだろうなって……!?」
  こうたろうが固まる。
 「どうしたのって……何コレ!?」
  こうたろうの背後からアルバムを覗き込んでかがみんが固まる。
 「これって……心霊、写真……?」
  かがみんが呆けたような声で呟く。
 「あー、見られちゃったか……」
  こなたが罰が悪そうに後頭部をぼりぼりと書く。

  そう。こうたろうが持っているアルバムはお宮参りや七五三、幼稚園の入園など、子供の成長過程で特に記念となるイベントの写真ばかりが収めてあるのだが……。
  どういう訳か、こういった大切な記念写真の時だけ、黒い人影のような物が写り込むのだ。
  それも何度撮っても、カメラを変えても、いつもいつも写り込む。
  俺達一家は何かにとりつかれてるんじゃないのか、と俺もこなたもお義父さんも心配になって、本気で霊能力者(本物かどうかは知らん)をネットで調べて会いに行き、見てもらった事がある。
  結果は、悪い霊じゃないから心配しなくていいと言う答えだった。
  正直、本当に霊が憑いているのかどうかは俺達には判らない。
  俺もこなたもお義父さんも、勿論俺の両親も、誰も霊感とかそういう物は持ち合わせていないのだから。
  だが昔、一度だけ似たような写真を撮った事があると、お義父さんは言っていた。
  こうたろうが生まれてからというもの、こういう写真が撮れる頻度がやたら多くなったとお義父さんとこなたは言っていたが、それで別に誰かが大きな病気や怪我をする訳でもなく、身内に不幸があった訳でもないので、気にしない事にするのが俺達の暗黙の了解になっていた。

 「いや、心霊写真に見えるけど、たまたまそういう風に撮れてるだけなんだ!!」
  お義父さんが慌てて、フォローを入れる。
 「カメラの調子が悪かったり、フィルムが切れたり、写真撮るのを頼んだ人がたまたま上手く取れなかったりで、こういう写真があるだけでな……」
 「そうそう。それでも大切なこーちゃんの思い出だから、大事に取ってあるんだよ。ごめんね、こーちゃん。綺麗に撮れてなくて」
  冷や汗を掻きながらフォローを入れるこなたにこうたろうは曖昧に頷いて返事をする。
 「……あ、ああ。別に気にしてないからいいよ」
 「そう?」
  こなたはこうたろうからアルバムを受け取ると、ダンボールの中に戻す。

 (……なにやってんだよ)

 「こーちゃん、何か言った?」
  何かを呟いたこうたろうにこなたが振り向いて聞き返す。
 「別に」
  ピンポーン……。
  こうたろうがそっけなく答えるのと同時にチャイムの音が鳴り響く。
 「ん? 誰か来たみたいだな」
  こうたろうはそう言うとリビングを出て行った。  

                     ※

 『だあ』
  画面の中では2歳になったばかりのこうたろうが、にゃもーと言う名の尻尾があるだけの丸い猫のクッションを引きずって、こなたに乳を寄越せとせがんでいる。
 「……お、懐かしいねー。あの頃はあのクッションを枕代わりにして、おっぱいあげてたんだっけ」
  気分を切り替えようと、こなたが懐かしそうに言う。
 『こーちゃん、もうおっぱいやめよーね』
 『やー』
  こうたろうがこなたの上着の裾を掴んで引っ張る。
 『だってこーちゃんおっぱい噛むんだもん。ママ痛いの嫌だよ』
 『うー』
 『ダーメ』
  そう言ってこなたがその場でうつ伏せになる。
 『まー、まー』
  床に膝立ちになって、こなたの背中を何度も押して体勢を変えようとするこうたろう。
 『ダーメ。おっぱいおしまい』
 『……ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!』
  こうたろうが泣き出して、大声で泣き続ける。
 「……なんか、猿の断乳方法みたいね」
  かがみんがぼそっと呟いた。
 「かがみん、今のどういう意味かな?」
 「いや、前にテレビの動物番組で見たんだけど、子猿に乳離れさせる為に母猿が同じ事をしてたなって」
 「失礼な!!」
 『おいおい、こなた。まだまだ小さいんだからかわいそうじゃないか。まだ乳離れさせなくてもいいんじゃないのか?』
 『もー、しょうがないなぁ……。噛んだら嫌だよ?』
  画面に映っていない、カメラを回しているお義父さんの言葉に渋々頷くと、こなたはこうたろうに母乳を与えるのだった。
  嬉しそうにおっぱいを吸ってるこうたろうが画面に映し出される。
 「よかったね、お兄ちゃん」
 「そうだね」
  そなたとたまちゃんは画面を見ながら微笑ましそうに笑う。
  皆でテレビ画面を見ていると、不意に一階からこうたろうの声が響いた。

 「おーい、ばあちゃんが来たぞー」
                                                           つづく
















コメントフォーム

名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー