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Affair 第7話

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 7-1. みゆき視点

 小刻みに揺れる新幹線の車内で、私は、ずいぶんと昔に書かれた推理小説を読んでいました。
 その中の一節に殺人は、事件が起こる何年も前から数多くの要因が既に発生しており、次第にある時点、
即ち、ゼロ時間へ向って集約していく。という趣旨の記述がありました。

 私は、今、ゼロ時間が起こる場所に向かっている予感がして仕方がないのです。

 もともと、今回の事の発端は1年前、泉さんと小早川さんが恋人同士になった前後から始まります。
 泉さんに好意を寄せていた私は、二人が結ばれたことが許せず、かがみさん、つかささん、
みなみさんを巻き込んで、仲を裂くために卑劣な策を巡らせました。

 しかし、頭の固い教師陣や小早川さんの家族に手を回すという、私の下策は裏目に出てしまい、
二人は駆け落ちという衝撃的な形で陵桜学園から去りました。

 彼女達が駆け落ちを敢行した数日後、今度はかがみさんの主導のもと、関係する生徒を総動員して、
二人を捕まえに名古屋へ行くことになりました。
 迷宮のような地下街を駆け回った結果、一旦は小早川さんを捕えたものの、
身体が弱いという先入観から生じた油断からか、翌朝あっさりと逃げられ、この企みも失敗に終わりました。

 しばらくは平穏な時間が過ぎ、私は陵桜学園を卒業しましたが、今年の初夏に、泉さんと小早川さんが名古屋の
メイド喫茶で働いていることが判明しました。
 ただちに、かがみさんの主導のもと計画が練られました。
 まず小早川さんを拉致して、彼女を餌にして泉さんを誘き出すという計画が実行に移されました。

 しかし、私達の動きは既に読まれていました。
 大須観音の近くにあるアーケード街で、迎撃準備を既に整えていた泉さん達と格闘することなり、
彼女達の脱出を許してしまいます。
 もっとも、別動隊として、二人が住んでいるアパートの最寄駅の近くで待ち伏せしていたつかささんによって、
首尾良く、小早川さんを捕まえることはできました。
 拉致した彼女を、知多半島沖に浮かぶ島にある別荘に監禁しましたが、不屈の闘志をみせる小早川さんに
不可能と思われた島からの脱出を許すという、不手際を犯してしまいました。
 無残な失敗に終わるかと思われましたが、泉さんの身柄を運よく確保できたことで、
半ばにしろ成果をあげることができました。
 泉さん達との間で妥協が成立して、限定的ではありますが、交流を復活させる協定が結ばれたのです。

 そして、この事件から、今までは私やかがみさんに追随するだけだった、つかささんが裏で画策するようになったのです。


 今年の12月。
 精神の安定を喪い、自己を制御できなくなったつかささんの暴走が始まりました。
 彼女は、昨夜小早川さんを言葉巧みに誘いこみ、自分が泊まっているホテルに連れ込んだのです。

 昨日の、つかささんとの会話を振り返ると、彼女が小早川さんに危害を加える危険性は極めて高いと言わざるを得ません。
 肉体的な危害は加えないとの発言も、残念ながら信用できません。

 今のつかささんは、天真爛漫な笑顔を浮かべながら、小早川さんの胸にナイフを突き立てるということを、
平気でしかねません。
 昨夜の通話後、単なる挑発なのか、余裕をみせているのかは分かりませんが、つかささんは私にメールを送ってきました。
そこには、つかささん自身の行動予定と、かがみさんが本日、泉さんの家に押し掛けることが記されていました。

 どんな結末が待っているのか分かりませんが、泉さんは、かがみさんをそう易々と許すとも思えません。
 かがみさんにとっては悲惨な結末が待っている気もしますが、今の私には彼女の心配をする余裕はありません。

 読み終えた小説を鞄に入れて、疲れた目を休める為に車窓を眺めると、流れるように景色が後方へ飛び去っていきます。
 数秒前に眺めていたはずの田園や家屋は、遥か後方に消え去っています。
 毎日が光り輝くような日々だった高校時代も、遠いぼんやりとした記憶に変わりつつあります。
 もし、泉さんと小早川さんを、不用意に追い詰めたりしなかったら、私達は仲の良い友達同士で
卒業式を迎えられたのでしょうか。
 私が余計な事をしなければ、皆さんは幸せを掴むことができたのでしょうか。

 しかし、こぼれた水はコップには戻りません。過去に戻ることは誰にもできません。
 私のような愚かな人間は、過去を悔やみつつ、泥にまみれながら、無様にあがくことしかできないのです。

 少々、終わりのない思考を巡らすことに、疲れてしまいました。
 いかに速い新幹線と言えども、名古屋に着くまでは、もうしばらくの時間が必要です。
 眼鏡を外して、瞼を閉じることにします。

 おやすみなさい。
 願わくば、夢の中だけでも、皆さんが仲良く過ごしておりますように。


 7―2. ゆたか視点

 バイキング形式の朝食をとってから、私とつかさ先輩はホテルを出た。
 つかさ先輩は、明日まで名古屋に滞在するので、ほとんどの荷物はホテルに置いてあり、
小さなポシェットしか持っていない。
「先輩。どこか行きたいところはありますか? 」
「そうだね。水族館に行きたいなあ」
 白い暖かそうなコートを着たつかさ先輩が、私の掌を握りしめながら笑顔をみせた。
「それでしたら、名古屋港水族館はいかがでしょうか? 」
「うん。いいよ。えっと、どこにあるのかな? 」
「名前の通り、名古屋港なのですが、一度金山駅にでてから地下鉄に乗り換える必要がありますので、案内しますね」
 私は、トレードマークとなっているリボンをつけた、つかさ先輩を見上げながら言った。

 名古屋港水族館には、JR金山駅から名古屋市営地下鉄の名港線に乗り換え、終点の名古屋港駅で降りて
5分も歩けば到着する。
 午前中からお昼にかけて、館内をゆっくり見てまわってから、やや遅い昼食を終える。
 隣接するグッズショップで買い物を楽しみ、幾つかのアクセサリーを買い終えると、時刻は既に午後4時を回っており、
西の空は夕日によって赤く染まっていた。

「ゆたかちゃん。少し歩こうよ」
 つかさ先輩と一緒に、柵で区切られた岸壁に沿って歩いていく。
 今日は、時折冷たい風が吹くけれど、空は良く晴れており、あちらこちらにそぞろ歩きを楽しむカップルや
家族連れを垣間見ることができる。
「やっぱり、水族館はいいね。」
「先輩は、ずいぶんと、はしゃぎまわっていましたよね」
 少しだけ、からかうような目を作ってみせると、つかさ先輩はちょっとだけ恥ずかしそうな顔つきで言った。
「だって、面白かったんだもん。大きいお魚さんがぐるぐる回っているのは凄い迫力だったよ」
 きっと、マグロのことかな。
「それにね。シャチとイルカのショーもよかったなあ。私もイルカに乗りたいなあ」
 イルカに乗ってはしゃぐつかさ先輩の姿は、すぐに想像できてくすりと笑ってしまう。

「先輩って、夢見る乙女って感じですね」
「そうかな」
「ええ。純粋なところって羨ましいです」
「でも、純粋という言葉は、ゆたかちゃんの方が似つかわしいとおもうけれど」
 先輩の言葉に思わず、苦笑してしまう。
「昔の、何も知らなかった私は、確かに純粋だったかもしれません」
 初冬の柔らかい日差しを浴びながら、私は少し寂しげな口調で言った。


 陵桜高校にいた頃の私は、比較的にしろ体調も良く、みなみちゃんや、田村さん、パティちゃん達と過ごす日々は
とても楽しくて、悩みは少なかったように思う。
 時には、心ないことを言う男子生徒もいたけれど、みなみちゃんが庇ってくれたし。
 幸せすぎたあの頃を振り返ると、辛くなってしまうけれど、今の自分を悔やんではいけないし、胸を張って、
幸せですと言わなければならない…… はずなのだけど。

「今の私は、純粋ではありませんよ」
 しかし、つかさ先輩は同意はしてくれなかった。
「ゆたかちゃん。それは違うと思うよ」
「そうでしょうか」
 つかさ先輩は、右手を握りしめながら、私を見据えた。
「うん。ゆたかちゃんは怒りたい時に怒り、泣きたい時に泣くことができる。つまりね。
自分の感情を素直に表すことができるんだよ」
 先輩は、どこか羨ましそうな表情で、私を見つめ続けている。
「ゆたかちゃんは自分の気持ちに嘘をつかない。だから純粋だと思うんだ」
「買いかぶりですよ」
 私は、ほんの少しだけ口の端を曲げて、言葉を返した。

「ううん」
 しかし、つかさ先輩は自嘲めいた私の呟きに、同意はしてくれなかった。
「ゆたかちゃんはとっても素直で純粋な女の子なの。それは、もう『決まったこと』なんだよ」
「はあ…… 」
 私は、先輩の言っている意味をきちんと理解できなかったけれど、これ以上、言い争うのも嫌だったので、
曖昧に頷いてしまった。

「さてと、穏やかな会話も楽しんだし、そろそろかな」
 つかさ先輩は妙なことを言い出した。
「どういう…… ことですか? 」
 不審を覚えて顔をみつめると、先輩は笑顔のまま、近くのベンチに座るように促した。


「ゆたかちゃん。少し真面目な話があるの」
「真面目な、お話ですか? 」
「うん」
 ベンチに座ってから、私がペットボトルのお茶を差し出すと、つかさ先輩はありがとうと言って口をつけた。
 いつの間にか、夕陽が西の空からゆっくりと沈もうとしている。
 遊覧船とおぼしき船が、港内をゆっくりと移動している。

「ねえ。ゆたかちゃん」
「はい」
 隣に座っているつかさ先輩の声は、妙に遠くに聞こえる。
「いま、生きていることが楽しいかな? 」
「えっと」
 先輩の言葉が唐突すぎて、戸惑う。
「ど、どういうこと…… ですか? 」
「ごめんね」
 説明不足を指摘されたつかさ先輩は、ゆっくりと話し始めた。

「あのね。私、19年と半分を生きてきた訳なんだけれど、今、生きていることが楽しいとは全く思わないの」
「えっ? 」
「普通の人は、生きることが楽しいとか辛いとかいう感想は、あまり持たないと思うのだけれど」
「は、はい」
 私は、先輩の話を聞くことしかできない。

「私、去年から、何をしても心から楽しいと思ったことはないの。表面上は笑顔でも、
内心は全然よろこんでないの」
「せんぱい…… 」
「例えて言うとね。砂漠があってね。いくら雨が降っても、乾いた地面に吸い込まれてしまって、
潤うことがないの。私は水を求めて右往左往するんだけれど、どんなに水を下さいといっても誰もくれないの」
 先輩の表情は穏やかなままで、口調も普段と変わらないのに、話の中身は悲痛そのものだった。

「せ、先輩、もしかして…… 」
「なに? 」
 私は、聞きたくなかったけれど、尋ねるしかなかった。
「つかさ先輩は今日、私と一緒にいて、全く楽しくなかったのですか? 心安らぐことはなかったのですか? 」
 私は先輩の手を握りながら、じっとみつめた。
 しかし、先程までは生き生きと煌めいていたはずの、先輩の瞳は、どんよりと濁ってしまっている。
「ごめんね。ゆたかちゃんはとっても良い子なのに」
 先輩は、全ての希望を失ったかのような、虚ろな表情をみせて、ぽつりと言った。

「それでね。ゆたかちゃん」
「はい…… 」
 つかさ先輩は、手元に置いたポシェットを取り出し、そこから小さな紙袋を取り出した。
 中をまさぐり、小さな錠剤を6つ掌の上にのせる。
「せ、先輩? 」
 動揺する私に構うことなく、つかさ先輩は淡々とした口調で告げた。

「ゆたかちゃんには、私と一緒に死んでほしいの」


「ど、どうして…… 私? 」
 衝撃で喉がからからになりながらも、辛うじて擦れた声をあげる。
「ゆたかちゃん。生きていて楽しい? 」
「あ…… その」
 私は、言葉に詰まる。
「ゆたかちゃんはいま幸せかな? 」
 矢継ぎ早に繰り出される質問が、私を崖っぷちに追い詰める。

「あの、私は、その…… こなたお姉ちゃんが」
「ゆたかちゃんが好きなはずのこなちゃんは、最近、ゆたかちゃんの相手をしてくれている? 」
「い…… いいえ」
 チーフに昇格したこなたお姉ちゃんの仕事はかなり忙しく、ここ2か月程はほとんど
遊びに出かけることはなかった。
「ゆたかちゃんの家族から、連絡はある? 」
「ありません」
 今、愛知県にあるアパートに住んでいることは、そうじろう伯父さんを通して知っているはずだけど、
私の両親からの連絡を受けたことはない。
 気を遣ってくれていると思っていたけれど。

「名古屋で仲の良い、友達はできた? 」
「残念ながら…… いません」
 バイト先の先輩方はみな優しくしてくれるけれど、休日に一緒に遊びにいくような親しい人はいない。

「ゆたかちゃんは、将来の展望を持っているの? 」
「…… 」
 私は言葉につまった。
 一応、高校の通信教育過程を受けているが、終了した後に就職するのか、大学に行くのかは決めていない。

「何より、ゆたかちゃんは、こなちゃんを愛し続けることができるのかな? 」


「あっ…… 」
 私は、叫んで自分の小さな胸をおさえた。
 心臓のあたりが酷く苦して痛い。

「ゆたかちゃんは、私が少し誘いをかけただけで、簡単に浮気をしてしまったよね」
「で、でも…… 」
 私は、私は! 

「その程度の想いしかないのに、どうして駆け落ちなんかしているのかな? 」 
 つかさ先輩が振るう言葉の刃が、まともに突き刺さり、目の前が真っ暗になる。
 奥歯がガチガチと鳴って、華奢な身体が小刻みに震える。

 つかさ先輩の指摘は、とても身勝手だけれど、ある意味では正しい。

 私と、こなたお姉ちゃんが駆け落ちした一年は、つかさ先輩によるたった二日の誘惑で
崩されてしまう程にもろかった。
 家族も捨てて、学校も友達も捨て、懐かしい故郷も捨てた結果がこの有様だ。
「私、何をしているんでしょうね…… 」
 瞼から涙がこぼれて止まらない。
 私は、駆け落ちすらまともにできない人間なんだ。

「私、なんで生きているんでしょう」
 私は、スカートに落ちる涙の跡を眺めながら、自嘲めいた口調でつぶやく。

「ううん。ゆたかちゃんは悪くないよ」
 つかさ先輩は、私を抱きしめながら、悪魔のような甘い声で囁く。

「この世の中の仕組みが、ゆたかちゃんを追い詰めたのに過ぎないの。だから、
ゆたかちゃんは決して悪くないんだよ」
 先輩の声はとても優しくて、私は救われる。

「ねえ。ゆたかちゃん。こんな生き辛い世の中にこだわる必要はどこにもないよ」
「つかさ、せんぱい…… 」
 つかさ先輩の瞳はまるで吸い込まれそうな程、魅力的で慈愛に満ちていて……
 私は、自分自身も気がつかない内に、全ての行動を先輩に委ねてしまえば良い、
という気分に陥ってしまっていた。


「ゆたかちゃん。お薬を一緒に飲んで、全てを忘れて楽になろうよ」
 先輩は、取り出した6粒の錠剤のうち、半分を私の掌の上に置いた。

「これはね。睡眠薬と致死量の毒が入っているの。でも安心してね。睡眠薬がしっかり効いてからでないと、
効力は発揮されないから。だからなんの苦痛もなくこの世からバイバイすることができるんだよ」

「そう、ですね」
 私は、掌に載っている錠剤を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「怖いかもしれないけれど、大丈夫。眠っているうちに終わってしまうよ。それに、私も一緒に飲むから、
あちらの世界では一緒だよ」
「つかさ…… 先輩」
「うん。ゆたかちゃん。私、ずっと抱きしめているから、決心がついたら教えてね」
「…… 」
 そう言って、つかさ先輩はそっと私を抱きしめた。
 先輩の体はとても温かくて、伊吹山の方から吹きだす、冷たい冬の季節風を遮ってくれる。
 冬の弱々しい太陽は既に沈み、あたりは急速に暗くなっている。
 散策を楽しんでいたカップルや家族連れの姿も、今では見えなくなっている。

「せん…… ぱい」
 しばらく時間が過ぎた後、私は自ら命を絶つということの、重大さをほとんど認識しないまま決断した。
「お薬、飲みます」
「ありがとう」
 つかさ先輩は、天使のような微笑みを浮かべて頭をさげる。


「先輩、その前にお茶をくださいね」
 私は、薬を服用する為に必要な水分を求める。

「うん」
 つかさ先輩から返してもらったペットボトルで唇を濡らす。
 そして、死神が鎌をもたげて待ち構えている錠剤を、口に運ぼうとした時――

「待ってください! 」
 悲鳴混じりの声とともに、長い髪を振り乱しながら、一人の女性が飛び込んできた。

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  • うぁぁぁぁ!!ここでかよ!!って叫んでしまったorz
    全裸待機の始まり… -- 名無しさん (2009-06-05 07:50:55)
  • ただいまつかさが絶賛暴走中wワクテカしながら待ってます。
    -- 名無しさん (2009-06-05 00:29:24)
  • てかてかてか -- 名無しさん (2009-06-04 20:35:28)
  • ついに生き死ににまできちまったかww続き待ってます。 -- 名無しさん (2009-06-04 12:38:38)

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