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白石みのるの憂鬱

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だれでも歓迎! 編集
 今日も今日とて昼休み。
 昼休みといえば休息の時間。老いも若きも男も女も学業や生業から開放され、ほんのひとときでは
あっても限定的ではあっても、休息を満喫できる、そんな時間。受験生がひしめくこの三年B組の教室
も例外ではなく、和気藹々とした空気が漂っております。
 秋の気配が色濃くなり始めている九月の下旬。
 卒業まであと半年を切り、受験の本番までも僅か四ヶ月を残すところとなったこの時期ではあっても、
せめて昼休みぐらいはと、みなさんリラックスした様子で弁当なり菓子パンなりをぱくついております。
 もちろんこの俺こと白石みのるも例外ではありません。
 と、言いたいところなのですが。

「――でね? いざ食べようと思って冷蔵庫を開けたら、モンブランになってたんだよ。チョコケーキが」

 実際のところ、あんまりそうではありません。

「なんでだよ」
「どういうことです?」
「だから、こう……チョコケーキがね? 冷蔵庫に入れといたんだけど、食べようと思って開けてみたら、
モンブランになってたんだって」
「いや、何一つ情報が増えてないから」
「だから、確かにチョコケーキを買ったんだよ。で、冷蔵庫に入れたんだよ。でも開けてみたら、置いた
はずの同じ場所に、チョコケーキが消えて代わりにモンブランが。ぼくモンブラン嫌いなのに……」
「そんな情報を増やされても仕方がないんだが」
「誰かが入れ替えたという可能性は?」
「って、お前意味分かったのかよ今ので」
「ええ、だいたいは。――というか、ことの真相や全容ならともかく、まずなにが起こったのかということ
ぐらい、今の説明だけで十分に分かりますよ」

 俺にはさっぱりわかりません。
 何故だか俺と一緒になって昼飯を囲んでいる形になっているこの三人の男子生徒たちが何を話して
いるのか、それがビタイチ理解できません。こんな状態じゃリラックスなんかできようはずもありません。

「――で、どうなんです? 誰かが入れ替えたという可能性は」
「う~ん……ないと思うけどなぁ。うちみんな甘いものはそんなに好きじゃないから」
「思うって、訊けばいいだろ」
「だって、朝でバタバタしてたし」
「朝っぱらからケーキ食おうとするなよ。どんだけツッコミどころ満載なんだよ」

 俺としては、お前らがそもそもなんなんだと突っ込みたいです。
 俺の友人?
 違います。少なくとも俺には名前も知らない連中を友人と呼ぶような習慣はありません。
 いえ、紹介は受けたんですけどね。忘れました。
 だって初対面のときに一回名乗られただけなんですよ? そんなもんで野郎の名前なんか覚えられ
ませんよ。しかもこいつら、そういう習慣なのかなんなのか、会話するときでもお互いの名前を呼ばな
いものだからますます分からないわけですよ。そんなわけで便宜上、右から順に、「マロン」「ワッフル」
「ショコラ」と呼んでます。心の中で。ちなみに全員A組の所属だそうです。

「家族以外では? つまり、誰かが尋ねてきたということはありませんか?」
「ううん。だーれも来なかったよ、昨日は」
「ふむ……だとすると、考えられるのは一つですね」
「なに?」
「冷蔵庫自体がチョコレートケーキを情報分解し、モンブランへと再構成した、という可能性です」
「……えっと……」
「いや、もう、黙れお前」
「だって今ある情報が全て正確だとするなら、それぐらいしか考えられないでしょう」
「それすら考えられるか。どんな冷蔵庫だよ」
 そんな連中がどうしてこのB組にいて、なおかつ俺を囲みつつも俺を無視してランチ&談笑なんぞを
繰り広げているのかといいますと……話すと長くなります。
 聞いていただけますか?

「まぁ何にしても、帰ったらもう一度冷蔵庫を開けてみることをお勧めしますよ。もしかしたらモンブラン
が再びチョコレートケーキに戻っているかも知れません」
「それはさすがに……ないと思うな」
「つーか百パーないから。お前も諦めて大人しくモンブラン食っとけ」

 ……はい、では失礼して。
 まず一言でいいますとね、彼らは“あの”小神あきらのファンらしいんです。
 ええ。
 つまり要するに、バレてるわけです。俺がとあるラジオ番組で彼女のアシスタントをしてるってことが。
いや別にそんな積極的に隠してるというわけでもないですし、そもそも本名で出てますから、聞かれれ
ば一発なんですけどね。それにしてもこんな身近に視聴者が、ましてや彼女のファンだなどと名乗る
人間が三人もいるとは思いませんでした。スーパーアイドルという自称もあながち嘘ではないのかも
知れません。
 閑話休題。それはさておき。
 しかしながら、俺を通じてなんとかあの人とお近づきに、ということでは別にないそうです。最初の方に
一度だけサインを貰ってくれるよう頼まれましたが、直に会わせろだとか私生活の情報を寄越せだとか、
そんな要求をするつもりはないんだそうです。それはこうして俺のことを放ったらかしにしていることから
も明らかですね。そんな魂胆があるならもう少し愛想よくしてるでしょう。なくてもしろって気もしますが。
 では何が狙いなのかというと、単純な話、女子です。健全な男子高校生らしい理由ですね。
 といっても特定の誰か、というわけでもなく、この三年B組全体が目当てなんだそうです。なんでもA組
に比べてレベルが段違いなんだとか。要するにこいつらは、ランチタイムをより快適というか目に嬉しい
環境で過ごすための口実として、俺のことを利用しているわけです。俺にしてみればそれほど差がある
とは思えないんですけどね。
 そういえば、以前にそんなようなことを本人たちに言ってみたところ、なんか罵倒されました。
 なんでも俺は目が肥えてるんだとか。
 そりゃま、確かにですね、いわゆる「芸能界」で働いているわけですから。バイトのようなものとはいえ。
アイドルタレントとか呼ばれるような綺麗どころの女性たちと廊下で擦れ違う程度の経験には事欠いて
いませんよ。仕事相手というか上司というか、そんな感じなものに当たる小神あきらも、少なくとも外見
だけに限っていえば可憐な美少女と形容できないこともないわけですし。
 だからといってですね、どうして、

「王侯貴族はパンの代わりに蒟蒻ゼリーでも食べて喉に詰まらせて死んでください」

 などとまで言われなきゃならんのですか。
 確かに俺は番組内であきら様――もとい、小神あきらに散々いじめられていますけどね、それが俺の
キャラだなんて思われるのは心外もいいところです。なじられて喜ぶ趣味なんかありません。ましてや男
なんかに。
 それに、ですね。
 むしろどちらかといえば、そうやっていじめられることで、外見なんかアテにならないと学習してしまった
という方が大きい気がしますね。目が肥えたなどよいうよりは。
 どちらにしても、あのひとのおかげではあるわけですか。恩恵ではなく弊害の方の意味ですが。
 要するに俺は悪くありません。
 それに、俺にも彼らの言い分がまるで分からないわけでもないんです。全体的云々はともかくとして、
一部にハイレベルな御仁がいるのは確かなことです。その点だけは納得も賛成もしています。

「――では、次の土曜ということでよろしいですか?」
「うんっ、私はおっけーだよ。お姉ちゃんもいいよね?」
「ええ。でもいいのかしら、なんか遊んでばっかりな気がするんだけど」
「まだだいじょーぶだってっ。むしろ今の内に少しでも遊んどこーよ」
「じゃーやっぱ靴だけってことにしよーぜっ。そしたら早く済むぢゃんっ」
「ふふっ。往生際が悪いわよ、みさちゃん」
「大丈夫です。決して悪いようにはしませんから、安心してください」

 賑やかな教室の中でも特に賑やかな女子のグループに、彼女の姿はありました。
 容姿端麗にして頭脳明晰にして品行方正にして文武両道、我が三年B組の誇る学級委員。
 高良みゆきさん、です。
 彼女だけは外見そのままだと信じたいです、はい。
 周りにいる他の人たちもそれなりに美人だったり可愛かったりしますけど、あくまで「どこにでもいる
普通の女子高生」の範囲内です。高良さんだけは、なんといいますか、オーラが違います。それこそ
そこらのアイドルにも引けを取らないほどに。

「……なんか、さ」
 と……ええと、ワッフル。が、口を開きます。
「なんか今日はやたらと賑やかだよな」
「ってゆーか、増えてるよね? あの二人って誰だろ?」
 ショコラが続きます。あとマロンも、三人ともいつの間にか高良さんたちの方を向いていました。
 ……言われてみれば、なんか多いですね。確か先週までは彼女たちのグループは四人ぐらいだった
はず。高良さんと泉と……柊、でしたか。それに別のクラスから来てるらしい、カガミ。その四人。
 今日はそこに、ショコラのいうとおり、見慣れない顔が二人ほど加わっています。
 元気そうなショートカットと大人しそうなロングヘア。どちらにも見覚えはありません。
「恐らくは柊姉の友人でしょうね」
 と、俺を含めた三人分の疑問に、マロンがさらりと答えます。
 柊姉?
「知ってるの?」
「C組のほうで見たような覚えがあります。会話の感じからしても間違いないでしょう」
「なるほど」
「でも可愛いよね、二人とも。明日も来るのかな」
「そう願いたいですね。賑やかなほうが覗き見もしやすいですし」
「覗きとか言うな」
 まあ確かに賑やかなグループには自然と目が行きがちになりますが。
 そんなことよりも、ですね。
「……なぁ、」
「わ、なんかお姉さんにベッタリくっついてるよ」
「ほほう……これはもしや、泉さんにライバル出現でしょうか」
「お前またそれかよ。本人に聞かれないうちにやめとけって。特に柊姉の方に知れたら怒鳴られる程度
じゃすまんぞ」
 ……。
 そういえば昨日の放課後、なんか妙な雰囲気を醸し出してましたっけ、あの二人。
 さておき、ですね。
「なあ、おい。ちょっといいか?」
「なんですか?」
 声量を上げると、ようやくマロンが反応してくれました。
「『柊姉』って誰だ?」
 が、訊きたかったことをようやく訊くと、
「……」
「……」
「……」
 なんで黙るんですか三人して。
「何言ってんだ、お前」
「あそこにいるじゃない」
 片眉を歪めるワッフルに続いて、ショコラが視線で高良さんたちの方を示します。天然くさい野郎です
が、さすがに指を差すような真似はしないようです。
「……どれが?」
「せめて『誰が』と言いましょうね。――あのツインの人ですよ」
 ツイン……ドリルじゃなくて、テールの方ですか。
 確かにそういった髪型の人物は一人いますが。
「あれは“カガミ”だろう?」
「ええ、柊かがみさん。柊つかささんのお姉さんです」
 ……。
 えぇっと……マジですか?
「知らなかったんですか?」
「いや……え、でも、高良さんが『カガミさん』って呼んでたぞ?」
「妹の方と区別してるんだろ」
「ってゆーか、柊さんは『お姉ちゃん』って呼んでるよ」
「なんで三年生の姉が同じ学校にいるんだよ。留年でもしてるのか?」
「……あなたもあなたで大胆なことを言いますね。本人に聞かれたら殺されますよ。――双子だからに
決まってるでしょう」
 ……。
 マジっすか。
「やっばい……俺、何回か『カガミ』って呼んじゃってるよ……」
「えー、羨ましい」
「訂正されなかったのか?」
 されてません。
 そうですよ。してくださいよ。
 けど、うわぁ、どうしましょう。やはり馴れ馴れしい奴だと思われているでしょうか。
「やれやれ……本当に高良さん以外は眼中にないんですね」
 救いがたい、とでも言いたげにマロンが嘆息します。
 と同時に。

「「「――えぇええええっ!?」」」

 件のグループの方から複数の叫び声が挙がりました。驚いて目を向けると、泉と、あと新顔のショート
の方が椅子を押しのけるようにして立ち上がっていました。ロングの方とカガミ……改め柊姉も目を丸く
していて、そんな四人の視線の中心には、残りの二人、高良さんと柊――妹の姿が。二人とも真っ赤に
なって慌てています。「落ち着いて」とか「座ってください」とか言ってます。
「なんだろ?」
「さぁ?」
「……どうやらあのふんわりコンビが爆弾発言でもしたみたいな按配ですが……」
 確かにそんな感じの状況ですね。
 ところで「ふんわりコンビ」って、高良さんと柊妹のことでしょうか。無駄に分かりやすい辺りがムカつき
ます。というか、何故に俺を睨みつけてますかマロン。
「こっちに気を取られて聞いていませんでした」
 なんでそんな、何もかも俺のせい、みたいな言い方ですか。本来なら聞いていて当然、みたいな態度
ですか。
「……」
「……」
 お前らもですか。そんな目で見んな。
 俺は別に悪くないですよね? むしろこいつらの盗み聞きを阻止したってことでグッジョブですよね?
「……」
「…………」
「………………」
「……………………」
 なんとも言いがたい沈黙の空気。
 から、逃れるために、再度高良さんたちの方に視線を転じます。すると、やはりこいつらも向こうの方
が気になるのでしょう。責めるような視線からどうにか解放されました。
 六人はなにやらひそひそと、しかし十分に聞き取れる声で話しています。

「ってゆーかなにっ? いつの間にそんなフラグ立ってたの?」
「フラグ言うな。――ってか、つかさ。アレってつまり、そういうことだったの?」
「え、えっと、それは……別にそんなつもりじゃ、あのときはなかったんだけど……」
「なんだ? ヒーラギは何か知ってたのか?」
「あ、あの、みなさん。あまり大きな声は……」
「それより、みんな、移動しない? なんだか注目されちゃってるわよ……?」

 あ。
 行ってしまいました。ロングの発言にみんなで頷き、ぞろぞろと、或いはそさくさと、六人で連れ立って
教室を出て行ってしまいました。
 いや、別に俺は構わないんですけどね。彼女らの話になど興味は、まるでないとは正直なところ言え
ませんが、少なくともこっちの三人ほどには執着していませんから。行ってしまったのも俺が原因って
わけじゃないですし。
「あーあ……行っちゃった」
 だというのに、なぜそんな恨めしそうな目をしますか。
「なんだったんだろ?」
「さーな」
「考えられるのは、高良さんと柊妹が付き合うことになった、といった線でしょうかね」
「お前な……」
「おおー、なるほど」
「お前も! なるほどじゃねえ!」
 そしてまた無視ですか。
 いいですよ、もう。好きにしてください。
「大概にしとけよ、ほんとに。こないだからそんなのばっかじゃねーか」
「君は気にならないんですか? 他はともかく、あの泉さんがあそこまで驚くような事態ですよ?」
「知らん。……そりゃ、まるで気にならんとは言わないけどな、だからってそんな悪趣味していい理由に
ならないだろ」
「まぁ、確かに悪趣味という点は否定しませんが」
「しろよ」
「あはは……」
「さておき――そうやって頭ごなしに否定してしまうのも、どうかと思いますがね」
「何が」
「君はまるで僕が彼女たちを中傷しているかのように言っていますが、同性愛指向というのは決して
悪徳でも異常でもありません。ただ少数派なだけです。むしろそういった拒否反応こそが実質的に
よっぽど中傷行為なのでは、ということです」
「それは……そうかも知れんが……」
「でしょう?」
「なるほど」
「――いや待て。話を摩り替えてるんじゃねーよ。だったらそういうデリケートな問題を軽々しく扱ってる
お前の方はどうなんだよ」
「チッ」
「待てこら。今舌打ち――」
「だから言ったでしょう。僕は悪趣味なんですよ」
「開き直んな!」
「もう、やめなよ二人とも」
「失敬」
「こいつはっ……!」
「しかし、ですね。なんだかんだ言っても、ここにこうして来ている以上、君も同じ穴のムジナでしょう」
「一緒にするな。俺はお前らが暴走しないように見張りに来てるだけだ」
「男のツンデレはムッツリスケベと紙一重ですよ」
「……そろそろ殴っていいか?」
 ああ、もう。
 好きにしろとは言いましたが(思いましたが)、ケンカなら余所でやってくれませんかね。
「やめてください。暴力沙汰はさすがに彼に迷惑がかかります」
 都合のいいときだけ俺をダシにするのも。
 なんなんでしょうね、まったく。俺はただ静かに飯を食いたいだけなのに。なんでこんなわけのわからん
生温かい空間に座らせられないといけないんですか。
 俺が何かしましたか。
 ラジオに出るのはそんなにも悪いことですか。
 小神あきらのアシスタントをするのはそんなにも罪ですか。

「――ああ、そういえば白石君」
「……なんだよ」
「先日ネットのオークションで小神あきらのサインなる品が出回っているのを見ましてね」
 ……。
「……それが?」
「以前あなたから頂いたものと、筆跡から何から、色々と違ってるように思えたんですが」
「え? そうなの?」
 ……。
「……俺に頼ませたのが間違いだったな」
「どういう意味だよ」
「……『アンタの知り合いなんてどうせロクなヤツじゃないでしょ』とか言って、手抜きされた」
 ウソですけどね。
 こいつらに渡したサインは、実は俺が書いた偽物です。いや、なんかムカついたもので。
「ええ~?」
「マジでか」
「なるほど、ありそうな話ですね……」
 ありそうですけど、あるわけないでしょう。彼女はああ見えてファンのことは比較的大事にするタイプ
なんですから。
「一応、本人直筆には変わりはないし、レア版だとでも思って大事にしてくれ。ま、人に自慢はできない
だろうけど。あと転売とかも。偽物だと思われて恥かくだろうから」
「売る気なんかないけど……」
「むぅ……まぁいいか」
「仕方ありませんね」
 ふん。
 その程度のことも分からないようなら偽物で十分です。
 せいぜい俺のサインを拝んでやがれ、です。


















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  • 明日民法サボるなよ -- 名無しさん (2015-01-07 21:26:12)
  • あのただならぬ雰囲気を見てしまったけど、さらっと流す白石GJです。ちなみに、こちらの白石は、特にあきら様が好きとかはないんですかね? -- 名無し (2008-10-31 09:14:22)

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