「それじゃ、こなた」
「ん」
放課後。
私の知る限りで最高の笑顔を浮かべながら片手をあげるかがみに、曖昧にうなずいて返す。
上手く笑えている自信はない。
けど、かがみに不審そうな様子は一切ないから、特に不自然な顔もしていないのだろう。
それとも私がどんな顔をしていようが、もうお構いなしなのか。
「私、今日もあの子と帰るから」
あの子。
誰のことかというと、例のラブレターの差出人だ。そしてかがみの“カレシ”。
結局付き合うことになったらしい。
どんな人かは知らない。「あの子」ってことは、下級生なのかな。
どうでもいい。
興味がないといえばウソになるけど、知りたくないといえばウソにはならない。
本当だ。
知りたくもない。
知ってなんかやるもんか。
「じゃあね」
私に背を向けながら軽く手を振って、かがみが去っていく。
「かがみ」
反射的に呼び止めた。
「……なに?」
イヤそうな、迷惑そうな顔。
水を差された顔。
それでも、ちゃんと立ち止まって振り向いてくれるんだね。優しいね、かがみは。
「……また、明日ね」
「ああ、うん。また明日」
私の声の未練がましい響きに気付いているのかいないのか、おざなりな相槌と軽やかな足音を
残して、今度こそかがみは去っていった。
そこに、声がした。
「ん」
放課後。
私の知る限りで最高の笑顔を浮かべながら片手をあげるかがみに、曖昧にうなずいて返す。
上手く笑えている自信はない。
けど、かがみに不審そうな様子は一切ないから、特に不自然な顔もしていないのだろう。
それとも私がどんな顔をしていようが、もうお構いなしなのか。
「私、今日もあの子と帰るから」
あの子。
誰のことかというと、例のラブレターの差出人だ。そしてかがみの“カレシ”。
結局付き合うことになったらしい。
どんな人かは知らない。「あの子」ってことは、下級生なのかな。
どうでもいい。
興味がないといえばウソになるけど、知りたくないといえばウソにはならない。
本当だ。
知りたくもない。
知ってなんかやるもんか。
「じゃあね」
私に背を向けながら軽く手を振って、かがみが去っていく。
「かがみ」
反射的に呼び止めた。
「……なに?」
イヤそうな、迷惑そうな顔。
水を差された顔。
それでも、ちゃんと立ち止まって振り向いてくれるんだね。優しいね、かがみは。
「……また、明日ね」
「ああ、うん。また明日」
私の声の未練がましい響きに気付いているのかいないのか、おざなりな相槌と軽やかな足音を
残して、今度こそかがみは去っていった。
そこに、声がした。
「――いいの? 泉ちゃん」
背後。
振り返る。
どうしてこの人がここにいるのか。
「峰岸さん……なんで……」
「なんでって、何が?」
だけど疑問に対して返ってきたのは、不思議そうな顔。何の裏も計算もなさそうな、疑問符。
……そっか。ここ、С組だったっけ。道理でつかさやみゆきさんがいないわけだ。
みさきちはどうしたんだろう。
部活かな? ま、なんでもいいや。
「ごめん。なんでもない。ってゆーか、いいのって、何が?」
「もちろん、柊ちゃんのことよ」
「かがみが、なに?」
「行かせちゃっていいの?」
……何を言ってるんだろうこの人は。
「いいに決まってるじゃん。ってか、行かせない理由がむしろないよ」
「嘘」
「――」
「行かせたくないんでしょう?」
「……」
そんなことを、どうして笑顔で言えるんだろう。
やっぱり、凄い人だ。
怖い人だ。
「そりゃ――ま、正直、そうだけど」
「だったら」
「でもかがみの気持ちとか、無視するわけにいかないし」
「無理することないのに」
「無理なんか……してない」
「嘘」
「嘘じゃない!」
怒鳴った。
思わず、怒鳴ってしまった。峰岸さんが首をすくめる。
「……ごめん」
「ううん、いいの」
だけどこっちが声を落とすと、またにっこりと、笑顔。
つくづく、読めない。
「……確かに、嘘かもね。うん、少しは無理して強がってると思う」
半ば諦めの気持ちで、ちょっと開き直ってみる。
っていうと、ちょっと違うかな。
なんていうか――本当に、なんていったらいいのか。そういう計算とかなしに、この人相手だと
本音が出しやすい。操られちゃってるのかな。別にいいけど。
「でも、やっぱりワガママは言えないよ」
「どうして?」
どうしてって……
そりゃ確かに、今さらだけどさ。私とかがみとの間でそんな遠慮なんて。
でも私は反省したんだよ。
「だってそんなの、私一人だけの勝手な都合だもん。だけど――」
「向こうは、柊ちゃんとそのお相手、二人分の都合?」
先回りされた。
わかってるなら、言わせないで欲しいな。
「……そうゆうこと。私だってちゃんと考えてるんだよ」
「そっか。それが泉ちゃんの主義だったわね」
ん?
……ああ、そういえばそんなこと言ったっけ。
どの口がって感じだよね。自分のことしか考えてないくせに。
「じゃ、私ももう帰るから」
そろそろ苦痛になってきた。背を向ける。
そして扉に向かいかけた私の耳に、
振り返る。
どうしてこの人がここにいるのか。
「峰岸さん……なんで……」
「なんでって、何が?」
だけど疑問に対して返ってきたのは、不思議そうな顔。何の裏も計算もなさそうな、疑問符。
……そっか。ここ、С組だったっけ。道理でつかさやみゆきさんがいないわけだ。
みさきちはどうしたんだろう。
部活かな? ま、なんでもいいや。
「ごめん。なんでもない。ってゆーか、いいのって、何が?」
「もちろん、柊ちゃんのことよ」
「かがみが、なに?」
「行かせちゃっていいの?」
……何を言ってるんだろうこの人は。
「いいに決まってるじゃん。ってか、行かせない理由がむしろないよ」
「嘘」
「――」
「行かせたくないんでしょう?」
「……」
そんなことを、どうして笑顔で言えるんだろう。
やっぱり、凄い人だ。
怖い人だ。
「そりゃ――ま、正直、そうだけど」
「だったら」
「でもかがみの気持ちとか、無視するわけにいかないし」
「無理することないのに」
「無理なんか……してない」
「嘘」
「嘘じゃない!」
怒鳴った。
思わず、怒鳴ってしまった。峰岸さんが首をすくめる。
「……ごめん」
「ううん、いいの」
だけどこっちが声を落とすと、またにっこりと、笑顔。
つくづく、読めない。
「……確かに、嘘かもね。うん、少しは無理して強がってると思う」
半ば諦めの気持ちで、ちょっと開き直ってみる。
っていうと、ちょっと違うかな。
なんていうか――本当に、なんていったらいいのか。そういう計算とかなしに、この人相手だと
本音が出しやすい。操られちゃってるのかな。別にいいけど。
「でも、やっぱりワガママは言えないよ」
「どうして?」
どうしてって……
そりゃ確かに、今さらだけどさ。私とかがみとの間でそんな遠慮なんて。
でも私は反省したんだよ。
「だってそんなの、私一人だけの勝手な都合だもん。だけど――」
「向こうは、柊ちゃんとそのお相手、二人分の都合?」
先回りされた。
わかってるなら、言わせないで欲しいな。
「……そうゆうこと。私だってちゃんと考えてるんだよ」
「そっか。それが泉ちゃんの主義だったわね」
ん?
……ああ、そういえばそんなこと言ったっけ。
どの口がって感じだよね。自分のことしか考えてないくせに。
「じゃ、私ももう帰るから」
そろそろ苦痛になってきた。背を向ける。
そして扉に向かいかけた私の耳に、
「――でもね、泉ちゃん」
声が届いた。
振り返る。
「ちゃんと考えて、最善の選択をして……」
表情は見えない。
「……それだけじゃ足りないときもあるんだよ?」
影が落ちたような、のっぺらぼうの顔。
「言葉にして伝えるべきことを」
それなのに、声だけが。
「伝えるべき相手に」
深い。
深いところから、一気に突き上げてくるような。
「手遅れになる前に」
声が。
まるで脳の奥から発せられているように。
響いて。
「あなたは、言えるのかしら……?」
弾けて。
次の瞬間、私の意識は急激な浮遊感に襲われて、消えた。
振り返る。
「ちゃんと考えて、最善の選択をして……」
表情は見えない。
「……それだけじゃ足りないときもあるんだよ?」
影が落ちたような、のっぺらぼうの顔。
「言葉にして伝えるべきことを」
それなのに、声だけが。
「伝えるべき相手に」
深い。
深いところから、一気に突き上げてくるような。
「手遅れになる前に」
声が。
まるで脳の奥から発せられているように。
響いて。
「あなたは、言えるのかしら……?」
弾けて。
次の瞬間、私の意識は急激な浮遊感に襲われて、消えた。
☆
冷気。
最初に感じたのは、何かの冷たい感覚だった。
風になでられたのだとなんとなく理解して、窓が開けっ放しになっているんだなと、ぼんやりと思う。
「……う?」
そんなとりとめもない、けれど比較的ハッキリと文章化された思考をきっかけに、意識が急激に
醒めていく。
最初に感じたのは、何かの冷たい感覚だった。
風になでられたのだとなんとなく理解して、窓が開けっ放しになっているんだなと、ぼんやりと思う。
「……う?」
そんなとりとめもない、けれど比較的ハッキリと文章化された思考をきっかけに、意識が急激に
醒めていく。
目が、覚めた。
「あぁ……」
寝ちゃってたのか、と。口の中で呟きながら身を起こす。
寝ぼけまなこに真っ先に飛び込んできたのは、ほの暗いオレンジに染め上げられた椅子と机。
深緑色に照らされた黒板。視線を転じると、開け放たれた一枚のガラス窓と、吹き込む風に
たなびく日焼け色のカーテン。
そして呆れるぐらいに透明な朱色をした、きれいなきれいな夕焼け空。
放課後の教室の風景だ。
記憶を探ってみると、六時間目の途中辺途切れてしまっている。また寝落ちしてしまったらしい。
ということは、今のは夢か。
なんだかヘンな夢だったな。
よく憶えてないけど、確か峰岸さんが出てきて……なんか、いろいろイジワルを言われたような。
あれが私の中の彼女のイメージなんだろうか。だとしたら、相当酷い気がする。
ってゆーか……
「……あれ?」
不意に気付いた。
誰もいない。
椅子に座ったまま、上体を捻って前後左右を確認する。
するとやっぱり誰もいない。なぜだかすぐ隣の席に誰かのカバンが一つだけ放置されているのと、
遠くから吹奏楽部のラッパの音が聞こえてくること以外には、人の痕跡は見つけられなかった。
どうやらみんな帰ってしまったらしい。
「……なんで?」
いや、なんでも何も。放課後だからなんだろうけど。
でも、それにしたって、起こしてくれてもいいのに。他のクラスメイトはともかく、つかさとみゆきさん
までいないなんて。何か怒らせるようなことしたっけかな?
……いや。それはない。
考えかけて、首を振る。
うん。それはないよ。仮に何かで機嫌を損ねちゃったんだとしても、それで私を置き去りにして帰る
ような陰湿さなんて、あの二人にはないはずだ。
ない、と思う。
……ない、よね?
むぅ、なんか確信できないな。昨日あんなことがあったばかりだから。
やっぱりもうちょっとよく考えてみよう。
寝ちゃってたのか、と。口の中で呟きながら身を起こす。
寝ぼけまなこに真っ先に飛び込んできたのは、ほの暗いオレンジに染め上げられた椅子と机。
深緑色に照らされた黒板。視線を転じると、開け放たれた一枚のガラス窓と、吹き込む風に
たなびく日焼け色のカーテン。
そして呆れるぐらいに透明な朱色をした、きれいなきれいな夕焼け空。
放課後の教室の風景だ。
記憶を探ってみると、六時間目の途中辺途切れてしまっている。また寝落ちしてしまったらしい。
ということは、今のは夢か。
なんだかヘンな夢だったな。
よく憶えてないけど、確か峰岸さんが出てきて……なんか、いろいろイジワルを言われたような。
あれが私の中の彼女のイメージなんだろうか。だとしたら、相当酷い気がする。
ってゆーか……
「……あれ?」
不意に気付いた。
誰もいない。
椅子に座ったまま、上体を捻って前後左右を確認する。
するとやっぱり誰もいない。なぜだかすぐ隣の席に誰かのカバンが一つだけ放置されているのと、
遠くから吹奏楽部のラッパの音が聞こえてくること以外には、人の痕跡は見つけられなかった。
どうやらみんな帰ってしまったらしい。
「……なんで?」
いや、なんでも何も。放課後だからなんだろうけど。
でも、それにしたって、起こしてくれてもいいのに。他のクラスメイトはともかく、つかさとみゆきさん
までいないなんて。何か怒らせるようなことしたっけかな?
……いや。それはない。
考えかけて、首を振る。
うん。それはないよ。仮に何かで機嫌を損ねちゃったんだとしても、それで私を置き去りにして帰る
ような陰湿さなんて、あの二人にはないはずだ。
ない、と思う。
……ない、よね?
むぅ、なんか確信できないな。昨日あんなことがあったばかりだから。
やっぱりもうちょっとよく考えてみよう。
今日、九月十七日の月曜日は、その朝は、夕べ寝つけなかったせいで寝坊しそうになった。
ってゆーかした。
いつもより一時間近く遅い時間になってようやくお父さんに起こされて、朝ごはんは断念して顔だけ
洗ってそのまま家を飛び出した。
ちなみにゆーちゃんは普段どおりの時間に、先に出発したらしい。
まぁ、巻き添えで遅刻させるわけにはいかないからそれでいいんだけどね。
で、微妙に人通りの少ない通学路をひた走り、電車とバスを乗り継いで、どうにかギリギリで遅刻
することなく学校に着くことができた。
その代わりってゆーか、空腹と疲労もあって一時間目の記憶はきれいサッパリ無いんだけど。
マァいつものコトか。
ともかく、それから休み時間になってようやくつかさとみゆきさん、二人に挨拶をした、と。
そのときの二人の様子は……どんなだったかな。
んと……とりあえずおかしなところはなかったと思うけど……うん。
少なくとも目に見えて明らかな異変とかはなかった。次とその次の休み時間も、たぶん同じ。
私の方も、別に変な話とかはしなかった。
っていっても二人には絶対通じないようなオタネタを飛ばしたり軽くからかったりはしたけど、いつも
やってるのと変わらないレベルだったはずだ。むしろいつもより抑え目だったかな。
昼休みのときも同じだった……けど。
そういえば、かがみがこっちに来なかったよね。
昼だけじゃなく、他の休み時間も。
だから――今日はまだ、一度もかがみと会っていない。
いや、一度も会わなかったって言うべきかな。もう帰っちゃっただろうし。
もしかしたら、初めてかも。
二人とも学校に来てるのに一度も顔を合わせなかったなんて。
例の、みさきちとの“かわりばんこ”になってたときもなんだかんだで会ってはいたのに。
もっとも、主に私の方から押しかけてたんだけど。
今日は何か用事があるとかつかさが言ってたけど……それってやっぱり、アレなのかなぁ。
返事。
……ラブレター、の。
ってゆーかした。
いつもより一時間近く遅い時間になってようやくお父さんに起こされて、朝ごはんは断念して顔だけ
洗ってそのまま家を飛び出した。
ちなみにゆーちゃんは普段どおりの時間に、先に出発したらしい。
まぁ、巻き添えで遅刻させるわけにはいかないからそれでいいんだけどね。
で、微妙に人通りの少ない通学路をひた走り、電車とバスを乗り継いで、どうにかギリギリで遅刻
することなく学校に着くことができた。
その代わりってゆーか、空腹と疲労もあって一時間目の記憶はきれいサッパリ無いんだけど。
マァいつものコトか。
ともかく、それから休み時間になってようやくつかさとみゆきさん、二人に挨拶をした、と。
そのときの二人の様子は……どんなだったかな。
んと……とりあえずおかしなところはなかったと思うけど……うん。
少なくとも目に見えて明らかな異変とかはなかった。次とその次の休み時間も、たぶん同じ。
私の方も、別に変な話とかはしなかった。
っていっても二人には絶対通じないようなオタネタを飛ばしたり軽くからかったりはしたけど、いつも
やってるのと変わらないレベルだったはずだ。むしろいつもより抑え目だったかな。
昼休みのときも同じだった……けど。
そういえば、かがみがこっちに来なかったよね。
昼だけじゃなく、他の休み時間も。
だから――今日はまだ、一度もかがみと会っていない。
いや、一度も会わなかったって言うべきかな。もう帰っちゃっただろうし。
もしかしたら、初めてかも。
二人とも学校に来てるのに一度も顔を合わせなかったなんて。
例の、みさきちとの“かわりばんこ”になってたときもなんだかんだで会ってはいたのに。
もっとも、主に私の方から押しかけてたんだけど。
今日は何か用事があるとかつかさが言ってたけど……それってやっぱり、アレなのかなぁ。
返事。
……ラブレター、の。
――って、違う違う。
今はかがみじゃなくつかさとみゆきさんのことだってば。
でも……うん。やっぱり、何もない。
二人におかしなところはなかったし、私の方も怒らせるようなことは何もしなかった。少なくとも、
自覚できる範囲では。
だから――うん。
きっと二人とも、何か急ぎの用事があったんだ。そんで、私があまりにも気持ち良さそうに寝てた
から起こすに起こせなくて、とか、そんな感じだ。たぶん。
でも……うん。やっぱり、何もない。
二人におかしなところはなかったし、私の方も怒らせるようなことは何もしなかった。少なくとも、
自覚できる範囲では。
だから――うん。
きっと二人とも、何か急ぎの用事があったんだ。そんで、私があまりにも気持ち良さそうに寝てた
から起こすに起こせなくて、とか、そんな感じだ。たぶん。
――でもね、泉ちゃん。
不意に。
そんな声が響いた。脳内で。
峰岸さんの、声だった。
そんな声が響いた。脳内で。
峰岸さんの、声だった。
――ちゃんと考えて、最善の選択をして、
さっき夢の中で聞いた声だと、すぐに思い当たる。
それにしては妙に耳に残っている。夢の中のセリフが「耳に」ってのもおかしな話だけど。
本当にこの耳で直接聞いたみたいに、妙に鮮明に残ってる。
それにしては妙に耳に残っている。夢の中のセリフが「耳に」ってのもおかしな話だけど。
本当にこの耳で直接聞いたみたいに、妙に鮮明に残ってる。
――それだけじゃ足りないときもあるんだよ?
これは、つまり。
いわゆる「夢のお告げ」というヤツなんだろうか。
いわゆる「夢のお告げ」というヤツなんだろうか。
――言葉にして伝えるべきことを、
――伝えるべき相手に、
――手遅れになる前に、
――伝えるべき相手に、
――手遅れになる前に、
やっぱり私はつかさとみゆきさんに何かをしてしまって。
そのことを謝らなければならないと、そういうことなんだろうか。
そのことを謝らなければならないと、そういうことなんだろうか。
――あなたは言えるのかしら……?
でも。
何を、どっちに、いつまでに言えばいいんだろう。
さっぱり、わからない。
それとも、「わからない」ということを素直に告げればいいんだろうか。
……なるほど。
そっか、うん。きっとそうだね。
よし。
それで、必要だったら謝ろう。うん。それがいい。それでいい。
そうと決まれば。
でもまぁ、とりあえずは明日だ。いつまでもここでこうしてても仕方がないし、今日はもう帰ろう。
席を立つ。
まずは先に窓を閉めて、鍵を掛ける。まったく誰だろね、開けっぱにしてるのは。
意味もなくぼやきつつ、なんとなく外を眺める。
「……」
夕日って、こんなに赤かったっけ?
空気が澄んでるのかな。――いや、確か夕焼けの赤は赤外線以外のアレが空気中のチリとかに
乱反射して散っちゃうからそう見えるって仕組みだったはずだから、逆だよね。
ある程度濁ってたほうが赤く見える、と。
なんか……ヤだな、それって。
「――いやいやいや」
首を振る。
勢いで舞い上がった髪が肩に首に絡んでくる。
「……もぉ……」
ときどき――そう、ほんのときどきだけど、この髪をうっとうしく思ってしまうことがある。
雨の日とか、風で目や口に入ってきたときとか。
まぁ、お母さんの形見みたいなモンだから短くしようとは思わないんだけど。やっかいだね。
ため息を吐きつつ、解いて降ろした。
なにやってんだか。
なに考えてんだか。
やっぱヘンだ、私。テンションがおかしい。
ダメだな。こういうときはさっさと帰って二次元にダイブ! それに限る。
うん。
自分の席にとって返す。机のフックに引っ掛けてあるカバンを手にとって――そこで、ふと気付いた。
隣の机。
その上に、ぽつんと置かれた誰かのカバン。
そういえばこれ、誰のなんだろう。
この席の子のじゃないよね。
学校指定のカバンなんだからみんなおんなじなんだけど、毎日見てるからそれぐらいはわかる。
ってゆーか彼女のにはストラップやらキーホルダーやらがじゃらじゃら付いてるから、一目で。
でも、これには何も付いてない。
目立った傷とかもなくて、持ち主を特定できそうな要素は何もない。
それなのに。
何を、どっちに、いつまでに言えばいいんだろう。
さっぱり、わからない。
それとも、「わからない」ということを素直に告げればいいんだろうか。
……なるほど。
そっか、うん。きっとそうだね。
よし。
それで、必要だったら謝ろう。うん。それがいい。それでいい。
そうと決まれば。
でもまぁ、とりあえずは明日だ。いつまでもここでこうしてても仕方がないし、今日はもう帰ろう。
席を立つ。
まずは先に窓を閉めて、鍵を掛ける。まったく誰だろね、開けっぱにしてるのは。
意味もなくぼやきつつ、なんとなく外を眺める。
「……」
夕日って、こんなに赤かったっけ?
空気が澄んでるのかな。――いや、確か夕焼けの赤は赤外線以外のアレが空気中のチリとかに
乱反射して散っちゃうからそう見えるって仕組みだったはずだから、逆だよね。
ある程度濁ってたほうが赤く見える、と。
なんか……ヤだな、それって。
「――いやいやいや」
首を振る。
勢いで舞い上がった髪が肩に首に絡んでくる。
「……もぉ……」
ときどき――そう、ほんのときどきだけど、この髪をうっとうしく思ってしまうことがある。
雨の日とか、風で目や口に入ってきたときとか。
まぁ、お母さんの形見みたいなモンだから短くしようとは思わないんだけど。やっかいだね。
ため息を吐きつつ、解いて降ろした。
なにやってんだか。
なに考えてんだか。
やっぱヘンだ、私。テンションがおかしい。
ダメだな。こういうときはさっさと帰って二次元にダイブ! それに限る。
うん。
自分の席にとって返す。机のフックに引っ掛けてあるカバンを手にとって――そこで、ふと気付いた。
隣の机。
その上に、ぽつんと置かれた誰かのカバン。
そういえばこれ、誰のなんだろう。
この席の子のじゃないよね。
学校指定のカバンなんだからみんなおんなじなんだけど、毎日見てるからそれぐらいはわかる。
ってゆーか彼女のにはストラップやらキーホルダーやらがじゃらじゃら付いてるから、一目で。
でも、これには何も付いてない。
目立った傷とかもなくて、持ち主を特定できそうな要素は何もない。
それなのに。
「……かがみ?」
そんな声が、私の口を衝いて出た。
……。
……。
いや、なんで?
そんなわけないじゃん。なんでそうなるのさ。かがみのカバンがここにあるわけないよ。
そりゃ言われてみれば――って、言ったの自分だけど――そんなような気がしないでもないけど。
でも。
違うよ。
だって。
そんなわけないじゃん。そうだよ。かがみのカバンがここにあるわけがない。あるはずがないんだ。
って、なんでこんな必死に否定してるんだろ、私。
ヘンだな、やっぱり。なんか混乱してる。別にかがみのだっていいじゃん。
……。
いや、なんで?
そんなわけないじゃん。なんでそうなるのさ。かがみのカバンがここにあるわけないよ。
そりゃ言われてみれば――って、言ったの自分だけど――そんなような気がしないでもないけど。
でも。
違うよ。
だって。
そんなわけないじゃん。そうだよ。かがみのカバンがここにあるわけがない。あるはずがないんだ。
って、なんでこんな必死に否定してるんだろ、私。
ヘンだな、やっぱり。なんか混乱してる。別にかがみのだっていいじゃん。
「……駄目だよ」
……。
……。
うん。
ダメだよ。それはダメだ。そんなのは――そんな可能性は、考えちゃダメだ。
期待しちゃダメだ。
もしこれがかがみのだったとしたら、どうなる? つまりどういうことになる?
それは、例えば――
……。
うん。
ダメだよ。それはダメだ。そんなのは――そんな可能性は、考えちゃダメだ。
期待しちゃダメだ。
もしこれがかがみのだったとしたら、どうなる? つまりどういうことになる?
それは、例えば――
かがみは、ここに来た。
そして、私の隣の席に、カバンを置いた。
寝ている私を起こそうともせず――あるいは起こそうとしたけど、失敗して諦めて。
つかさとみゆきさんを先に帰して。私が起きるのを一人で待つことにして。
だけどなかなか起きないから、ラノベでも読んで時間を潰して。それにも飽きて。
ちょっとトイレとかに行きたくなって、だからカバンを置いたまま席を外した。
そして、私の隣の席に、カバンを置いた。
寝ている私を起こそうともせず――あるいは起こそうとしたけど、失敗して諦めて。
つかさとみゆきさんを先に帰して。私が起きるのを一人で待つことにして。
だけどなかなか起きないから、ラノベでも読んで時間を潰して。それにも飽きて。
ちょっとトイレとかに行きたくなって、だからカバンを置いたまま席を外した。
――ああ、なんか今、凄くリアルに想像できた。
うん。そういうことになっちゃうよね。もしこれがマンガやギャルゲだったらソレでFAだよね。
だとしたら物凄い勢いでネタバレなモノローグじゃん、私。さらにメタ発言のおまけつき。ダメじゃん。
でも、まぁ。
そんな心配はいらない。
だって、ほら。
うん。そういうことになっちゃうよね。もしこれがマンガやギャルゲだったらソレでFAだよね。
だとしたら物凄い勢いでネタバレなモノローグじゃん、私。さらにメタ発言のおまけつき。ダメじゃん。
でも、まぁ。
そんな心配はいらない。
だって、ほら。
ゆっくりと。
カバンに――“かがみのカバン”に、ゆっくりと手を伸ばす。
留め金に指先を乗せる。
ひんやりとした感触。
ほんの少しの力を込めて、押し込む。
カチリと、軽い手ごたえ。
留め金が外れた。
と、同時に――
カバンに――“かがみのカバン”に、ゆっくりと手を伸ばす。
留め金に指先を乗せる。
ひんやりとした感触。
ほんの少しの力を込めて、押し込む。
カチリと、軽い手ごたえ。
留め金が外れた。
と、同時に――
“――ちょっと、なにやってんのよ。人のカバンに”
「……」
ほら、ね。
そんな声は響かない。私の脳内以外には。
だってこれはマンガでもギャルゲでもないから。二次元じゃなく三次元だから。
だからそんな“お約束”は、発生しない。
ため息をついて、留め金を元に戻す。
もうやめたんだよ、そういうのは。
二次元を棄てる気なんてさらさらないけど、そこで起こるような奇跡を現実に求めるのは。
もうやめたんだよ。
やめにしなきゃって、そう決めたんだよ。
かがみはツンデレじゃない。つかさは天然じゃないし、みゆきさんも萌え要素のかたまりじゃない。
そういう部分も少しはあるかも知れないけど、そんなひとことで片付けられるような存在じゃない。
三次元の、現実のこの世界で生きてる生身の人間なんだ。
それぞれの意思があって、考えがあって、好き嫌いとか都合とかもあって、ときには妥協もして。
そうやって、私なんかとは関係なく動いてるんだ。
だから、宿題がヤバいときに限って風邪で休んでたりとか。
別に用事もないのに寄り道に付き合ってくれなかったりとか。
カラオケで英語の曲を無理やり歌わせようとしたりとか。
寝ている私のことをほっぽいて先に帰っちゃったりとか。
知らないうちにカレシを作ってたり、とか。
そういうこともある……ってゆーか、それが当たり前なんだよ。
三次元は、現実は、そうなんだよ。
もちろん、だからといって付き合いをやめようなんて思わない。そんなことしたら、つかさなんかは
たぶん泣いちゃうだろうし。そしたらかがみが黙ってないだろうし。
ただ、折り合いをつけるだけ。
そういうものなんだって認めて、丸ごと受け止める。寂しくなったら二次元に逃げる。
つまり、今までどおりだ。
ただ、そのことを今までよりもっとしっかりと自覚するだけ。
そして、ごくごくたまに、二次元みたいな奇跡を三次元でも見ることができたら、それでいい。
それだけで十分に幸せだ。
誰に迷惑をかけることもないしね。
「……うん」
帰ろ。
うん。いつまでも未練たらしくぐずぐずしてないで、さっさと帰ろう。
カバンの持ち手を握りなおして、教室の出入り口へと歩く。扉の取っ手に手をかけて――
ほら、ね。
そんな声は響かない。私の脳内以外には。
だってこれはマンガでもギャルゲでもないから。二次元じゃなく三次元だから。
だからそんな“お約束”は、発生しない。
ため息をついて、留め金を元に戻す。
もうやめたんだよ、そういうのは。
二次元を棄てる気なんてさらさらないけど、そこで起こるような奇跡を現実に求めるのは。
もうやめたんだよ。
やめにしなきゃって、そう決めたんだよ。
かがみはツンデレじゃない。つかさは天然じゃないし、みゆきさんも萌え要素のかたまりじゃない。
そういう部分も少しはあるかも知れないけど、そんなひとことで片付けられるような存在じゃない。
三次元の、現実のこの世界で生きてる生身の人間なんだ。
それぞれの意思があって、考えがあって、好き嫌いとか都合とかもあって、ときには妥協もして。
そうやって、私なんかとは関係なく動いてるんだ。
だから、宿題がヤバいときに限って風邪で休んでたりとか。
別に用事もないのに寄り道に付き合ってくれなかったりとか。
カラオケで英語の曲を無理やり歌わせようとしたりとか。
寝ている私のことをほっぽいて先に帰っちゃったりとか。
知らないうちにカレシを作ってたり、とか。
そういうこともある……ってゆーか、それが当たり前なんだよ。
三次元は、現実は、そうなんだよ。
もちろん、だからといって付き合いをやめようなんて思わない。そんなことしたら、つかさなんかは
たぶん泣いちゃうだろうし。そしたらかがみが黙ってないだろうし。
ただ、折り合いをつけるだけ。
そういうものなんだって認めて、丸ごと受け止める。寂しくなったら二次元に逃げる。
つまり、今までどおりだ。
ただ、そのことを今までよりもっとしっかりと自覚するだけ。
そして、ごくごくたまに、二次元みたいな奇跡を三次元でも見ることができたら、それでいい。
それだけで十分に幸せだ。
誰に迷惑をかけることもないしね。
「……うん」
帰ろ。
うん。いつまでも未練たらしくぐずぐずしてないで、さっさと帰ろう。
カバンの持ち手を握りなおして、教室の出入り口へと歩く。扉の取っ手に手をかけて――
――ガラッ。
開いた。
開けた、じゃなくて、開いた。私はまだ手に力を込めていない。なのに勝手に。ひとりでに。
つまり。
外側から、開いた。
開けた、じゃなくて、開いた。私はまだ手に力を込めていない。なのに勝手に。ひとりでに。
つまり。
外側から、開いた。
「――って、うわっ」
言っちゃなんだけど、間抜けな声をあげてその人物がのけぞる。
そりゃま、驚くよね。ドアを開けたらいきなり人が、なんて。
もちろん私も驚いた。とっさに声が出せないぐらいに。
「びっくりした……なんなんだよ、泉」
「いや……帰るとこだけど。セバスチャンこそなんでいるのさ」
「白石だよ。――ちょっと忘れ物をな」
言って、セバスチャン――もとい、白石君は、立ち尽くす私の脇を迷惑そうにすり抜けると、
そのまま机の群れへと分け入っていく。
やっぱり、ね。
あのカバンはかがみのじゃなかった。
ってゆーか忘れ物って。カバンを丸ごと忘れるって、どんだけですか。執事にあるまじき
間抜けっぷりだね。
苦笑いを噛み殺しつつ、きびすを返した私の視界の端で。
だけど彼は、カバンをスルーした。そして全然別の席へと辿り着き、中をあさり始めた。
……え?
ってゆーか、よく見たら彼は手にカバンを持っている。
あれ?
確かに彼の席はあのへんだった……ような気がしないでもないこともない、けど……あれ?
そりゃま、驚くよね。ドアを開けたらいきなり人が、なんて。
もちろん私も驚いた。とっさに声が出せないぐらいに。
「びっくりした……なんなんだよ、泉」
「いや……帰るとこだけど。セバスチャンこそなんでいるのさ」
「白石だよ。――ちょっと忘れ物をな」
言って、セバスチャン――もとい、白石君は、立ち尽くす私の脇を迷惑そうにすり抜けると、
そのまま机の群れへと分け入っていく。
やっぱり、ね。
あのカバンはかがみのじゃなかった。
ってゆーか忘れ物って。カバンを丸ごと忘れるって、どんだけですか。執事にあるまじき
間抜けっぷりだね。
苦笑いを噛み殺しつつ、きびすを返した私の視界の端で。
だけど彼は、カバンをスルーした。そして全然別の席へと辿り着き、中をあさり始めた。
……え?
ってゆーか、よく見たら彼は手にカバンを持っている。
あれ?
確かに彼の席はあのへんだった……ような気がしないでもないこともない、けど……あれ?
「――こなた」
「……」
教室と廊下の境界線上で、混乱しながら室内の方に首を向けていた私に。
背後から。
死角から。
聞きなれた、声がした。
振り返る。
陰の落ちた薄暗い廊下。
そこに佇むシルエット。
窓とドアの隙間をすり抜けた夕陽を受けて、不思議な色合いで揺れるのは、特徴的なツイン・テール。
教室と廊下の境界線上で、混乱しながら室内の方に首を向けていた私に。
背後から。
死角から。
聞きなれた、声がした。
振り返る。
陰の落ちた薄暗い廊下。
そこに佇むシルエット。
窓とドアの隙間をすり抜けた夕陽を受けて、不思議な色合いで揺れるのは、特徴的なツイン・テール。
柊かがみが、そこにいた。
「……かがみ?」
何かと見間違えたかと思った。
だけど見間違えるわけがなかった。
「……なんで起きてんのよ、あんたは」
ぼやくような声。見下ろしてくる、呆れたような目。
その口調も、眼差しも、間違いなく、紛れもなくかがみのものだ。
でも。
「なんでいるの?」
「いちゃ悪いのかよ。――あんたを待ってたんでしょうが。起きるのを」
待……ってた?
私を?
「なんで?」
「なんでって……ってゆーか、どうしたの? ひょっとして寝ぼけてるの?」
言いながら一歩近づいて、かがみが私の顔を覗き込む。
「え、いや……」
目が逸らせない。
寝ぼけてる。そうかも知れない。むしろまだ寝てるのかも知れない。
夢をみているのかも、知れない。
手を伸ばす。
かがみの手に。
そして、掴んだ。
掴めた。
温かい。
「ちょ……何よ」
訝しむ声。
戸惑った顔。
だけど振り払おうとはしない。
何かと見間違えたかと思った。
だけど見間違えるわけがなかった。
「……なんで起きてんのよ、あんたは」
ぼやくような声。見下ろしてくる、呆れたような目。
その口調も、眼差しも、間違いなく、紛れもなくかがみのものだ。
でも。
「なんでいるの?」
「いちゃ悪いのかよ。――あんたを待ってたんでしょうが。起きるのを」
待……ってた?
私を?
「なんで?」
「なんでって……ってゆーか、どうしたの? ひょっとして寝ぼけてるの?」
言いながら一歩近づいて、かがみが私の顔を覗き込む。
「え、いや……」
目が逸らせない。
寝ぼけてる。そうかも知れない。むしろまだ寝てるのかも知れない。
夢をみているのかも、知れない。
手を伸ばす。
かがみの手に。
そして、掴んだ。
掴めた。
温かい。
「ちょ……何よ」
訝しむ声。
戸惑った顔。
だけど振り払おうとはしない。
――ガラリ。
そんな音がした。
驚いて掴んでいた手を離す。そして見ると――忘れ物の回収を終えたのだろう。私たちが塞いで
しまっているのと反対側のドアを抜けて、白石君が教室を出て行くところだった。
「……」
「ねぇ」
それを呆然と見送る私に、再度の呼びかけ。
半ば自動的に向き直ると、かがみがまっすぐに私を見下ろしていた。
それは真剣な眼差し。
敵意はない。
冷たさもない。
だけど友好的な色も、またなかった。
「あんた、これから時間ある?」
「え……あ、うん」
今日は月曜日。ゴールデンタイムにアニメはない。
いや、仮にあったとしてもうなずいていただろう。有無を言わせぬ雰囲気だったから。
「そう。よかった」
かがみが私の脇を抜け、教室に足を踏み入れる。
その姿を追った目に、飛び込んできたのは。
朱い、
朱い。
朱い夕日の、差し込む教室。
その中に佇む、ツインテールのシルエット。
驚いて掴んでいた手を離す。そして見ると――忘れ物の回収を終えたのだろう。私たちが塞いで
しまっているのと反対側のドアを抜けて、白石君が教室を出て行くところだった。
「……」
「ねぇ」
それを呆然と見送る私に、再度の呼びかけ。
半ば自動的に向き直ると、かがみがまっすぐに私を見下ろしていた。
それは真剣な眼差し。
敵意はない。
冷たさもない。
だけど友好的な色も、またなかった。
「あんた、これから時間ある?」
「え……あ、うん」
今日は月曜日。ゴールデンタイムにアニメはない。
いや、仮にあったとしてもうなずいていただろう。有無を言わせぬ雰囲気だったから。
「そう。よかった」
かがみが私の脇を抜け、教室に足を踏み入れる。
その姿を追った目に、飛び込んできたのは。
朱い、
朱い。
朱い夕日の、差し込む教室。
その中に佇む、ツインテールのシルエット。
……そのときの私の気持ちを、どう表現すればいいだろう。
「ちょっと話したいことがあるのよ」
浮遊感。
高揚感。
あるいは――既視感。
どれも当てはまるような気もするし、どれも外れているような気がする。
ただ一つ言えるのは、おかしな、だけどはっきりと形をもった認識が頭に浮かんでいたということ。
「私とあんたと、一対一で」
ああ、ここなのか、と。
浮遊感。
高揚感。
あるいは――既視感。
どれも当てはまるような気もするし、どれも外れているような気がする。
ただ一つ言えるのは、おかしな、だけどはっきりと形をもった認識が頭に浮かんでいたということ。
「私とあんたと、一対一で」
ああ、ここなのか、と。
「二人っきりでね」
ここが最終ステージなのか、と。
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- これは素晴らしい・・・ 続きをw -- 名無しさん (2008-09-23 07:40:55)
- 「ラブレター」の正体を知らないこなた。切ない。 -- じょん (2008-09-23 00:20:38)
- 待ってました!
『メドレーリレー・バースデー』の「後は読者の想像にお任せします」な終わり方も良かったけど、
やっぱりきっちりとした結末が見たい。
首を長くして続きを待ってます。 -- 名無しさん (2008-09-23 00:16:46) - ドキドキします、続きを・・・ -- kk (2008-09-22 23:45:20)