かがみ part
お風呂で盛大に転んだ私は、つかさに助け起こされ九死に一生を得た。
といっても原因はつかさなんだけどね・・・。
といっても原因はつかさなんだけどね・・・。
「だ。大丈夫? お姉ちゃん」
「ゴホッ、ゴホッ・・・あ、ありがと・・つかさ」
「ごめんね。いきなりドア開けたからびっくりさせちゃったんだよね?」
「ゴホッ、ゴホッ・・・あ、ありがと・・つかさ」
「ごめんね。いきなりドア開けたからびっくりさせちゃったんだよね?」
そう言ってつかさは、バスタオルを差し出した。
姉妹とは言えさすがに裸は恥ずかしい。
私は顔を赤らめながら、受け取ったタオルを身体に巻きつけて湯船の縁に座った。
姉妹とは言えさすがに裸は恥ずかしい。
私は顔を赤らめながら、受け取ったタオルを身体に巻きつけて湯船の縁に座った。
「だ、大丈夫だから」
「で、でも、どうしたの?何か苦しそうな声もしてたけど?」
「そ、そんな声聞こえてたの!?」
「うん。 『くる』とか『いく』とか」
「で、でも、どうしたの?何か苦しそうな声もしてたけど?」
「そ、そんな声聞こえてたの!?」
「うん。 『くる』とか『いく』とか」
きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
思わず湯船にずり落ちそうになる私を、咄嗟につかさが抑えた。
思わず湯船にずり落ちそうになる私を、咄嗟につかさが抑えた。
「あっ!危ない!! な、何!? どうしたの?」
「な、なな、ななななんでもないわ」
「ねぇ、お姉ちゃん。何かしてたの?」
「な、なな、ななななんでもないわ」
「ねぇ、お姉ちゃん。何かしてたの?」
不自然な私の様子に、つかさが怪訝そうな顔をする。
やばい! 誤魔化さなくちゃ!!
やばい! 誤魔化さなくちゃ!!
「そ、それは・・・えーと・・・そ、そう! う、運動してたのよ! 運動!」
「へ? うんどお?」
「さ、最近、また太っちゃったから新しい体操してたんだけど、これが結構きつくてさ~。
『くる』しい とか、『きく~』とか、つい言っちゃうのよね」
「そ、そうだったんだ・・・」
「へ? うんどお?」
「さ、最近、また太っちゃったから新しい体操してたんだけど、これが結構きつくてさ~。
『くる』しい とか、『きく~』とか、つい言っちゃうのよね」
「そ、そうだったんだ・・・」
って、おいっ! 人のお腹を見てうなずくな!
「そう! んで、これじゃまずいって思ったから、『今度こそする』って決意したの!」
一気にまくし立てると、つかさはポカンと口を開いて私を見つめた。
でも、すぐにいつもの笑顔に戻って私に笑いかけた。
でも、すぐにいつもの笑顔に戻って私に笑いかけた。
「そっか~。 わかった。がんばってね、お姉ちゃん。私も応援するから」
「あ、ありがとう、つかさ。がんばるわ」
「あ、ありがとう、つかさ。がんばるわ」
そんなにキラキラした目で見られるとちょっと苦しい・・・。
でも何とか誤魔化せたみたいね。よかっ・・・。
でも何とか誤魔化せたみたいね。よかっ・・・。
「あっ!! お姉ちゃん!!」
「うおぁっ!! な、何よ!!」
「大変!! お湯が抜けてる!」
「うおぁっ!! な、何よ!!」
「大変!! お湯が抜けてる!」
見ると、湯船のお湯がほとんどなくなっている。
「やばっ! さっき転んだ時に引っ掛けちゃったんだ!」
「あぁぁ・・・・・・。 なくなっちゃった」
「はぁ、またお湯いれなくちゃ・・・。ごめん、つかさ」
「ううん。大丈夫だよ。またテレビ見てるから」
「見たいドラマがあったんじゃないの?」
「そうだけど・・・、でも、見てから入るからいいよ」
「あぁぁ・・・・・・。 なくなっちゃった」
「はぁ、またお湯いれなくちゃ・・・。ごめん、つかさ」
「ううん。大丈夫だよ。またテレビ見てるから」
「見たいドラマがあったんじゃないの?」
「そうだけど・・・、でも、見てから入るからいいよ」
うぅぅ・・・。我が妹ながら、なんて優しいの・・・。
お腹を見てうなずいたことは許してあげよう。
お腹を見てうなずいたことは許してあげよう。
「ありがと。じゃ、お湯入れておくから」
「うん。お願いね」
「うん。お願いね」
つかさは脱衣所に着替えを置くと、また居間に戻っていった。
その後簡単に湯船を洗って、改めてお湯を張り直した。
そういうわけで、残念ながらお父さんはあのお湯に入らなかったのよ。安心してね。
・・・ん? 私、何言ってんだ?
その後簡単に湯船を洗って、改めてお湯を張り直した。
そういうわけで、残念ながらお父さんはあのお湯に入らなかったのよ。安心してね。
・・・ん? 私、何言ってんだ?
蛇口から勢いよく出ていくお湯を見つめながら、私はもう一度日下部のことを考えた。
あんな風に決心したものの、日下部に誤解されたままなのは事実であって・・・。
やっぱり、ちゃんと謝るしかないよね。
・・・そして今度こそ!!
あんな風に決心したものの、日下部に誤解されたままなのは事実であって・・・。
やっぱり、ちゃんと謝るしかないよね。
・・・そして今度こそ!!
翌日―――
そうは言ったものの、実際に謝るのは勇気がいるわけで・・・。
教室の前に立った私はひどく緊張していた。
教室のドア越しに中を覗くが、日下部の姿は見えなかった。
教室の前に立った私はひどく緊張していた。
教室のドア越しに中を覗くが、日下部の姿は見えなかった。
まだ来てないみたいね・・・。よし!この後日下部が来たら・・・。
教室に入りながら頭の中でシミュレーションしていると、突然誰かに肩を叩かれた。
驚いて振り向くと目の前には日下部が!!
教室に入りながら頭の中でシミュレーションしていると、突然誰かに肩を叩かれた。
驚いて振り向くと目の前には日下部が!!
「よ、よぅ、ひぃらぎ」
「う、うぐっ! ・・・・く、くさかべ!?」
「う、うぐっ! ・・・・く、くさかべ!?」
うおっ! いきなりかよ!
「あ、あぅ・・・お、おはよう・・・・」
「おはよ・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「おはよ・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
一瞬にして頭の中は真っ白になり、何も言葉が浮かんでこない。
う、うわ・・・どうしよ・・・。で、でも、今言わないと・・・。
う、うわ・・・どうしよ・・・。で、でも、今言わないと・・・。
「あ、あのさ・・・。昨日のことなん」
「おっはよー!かがみん!」
「おっはよー!かがみん!」
その時日下部の後ろからこなたが顔を出した。
みさお part
「あ、あんた、どっから出てくんのよ!」
「むふふ。私は神出鬼没なのだよ。 それより、置いてくなんて冷たいんじゃない?」
「むふふ。私は神出鬼没なのだよ。 それより、置いてくなんて冷たいんじゃない?」
突然現れたちびっ子は、そう言って頬を膨らませた。
ったく、なんでいっつもいいところで邪魔するんだよ。
せっかく柊と昨日のことを話そうと思ってたのに・・・・
ちびっ子に対して腹立たしさは感じていたけれど、それを気取られないように、
わたしはできるだけいつもと同じように声をかけた。
ったく、なんでいっつもいいところで邪魔するんだよ。
せっかく柊と昨日のことを話そうと思ってたのに・・・・
ちびっ子に対して腹立たしさは感じていたけれど、それを気取られないように、
わたしはできるだけいつもと同じように声をかけた。
「よ、よう、ちびっ子。今日はひぃらぎと一緒に来なかったのか?」
「そうなんだよ、みさきち。かがみったら、こんなか弱いおにゃの子を置いて、先に学校に行ってしまったんだよ! 冷た いよね~?」
「だ、だって、いつまで待っても来なかったじゃない。どうせまた、ネトゲのやりすぎでしょ?」
「う・・・。ま、まぁ・・・。だっ、だけどさ!それでもちょっと遅れただけじゃん?
はぁ、かがみんの愛も冷めてしまったのか・・・」
「ば、ばばばバカ言ってんじゃないわよっ!!」
「かがみ~ん。私を捨てないで~」
「大概にしろ!!」
「そうなんだよ、みさきち。かがみったら、こんなか弱いおにゃの子を置いて、先に学校に行ってしまったんだよ! 冷た いよね~?」
「だ、だって、いつまで待っても来なかったじゃない。どうせまた、ネトゲのやりすぎでしょ?」
「う・・・。ま、まぁ・・・。だっ、だけどさ!それでもちょっと遅れただけじゃん?
はぁ、かがみんの愛も冷めてしまったのか・・・」
「ば、ばばばバカ言ってんじゃないわよっ!!」
「かがみ~ん。私を捨てないで~」
「大概にしろ!!」
はぁ・・・、ちびっ子がくると、結局全部がちびっ子のペースになっちゃうんだよな・・・。
昨日のこと、柊にちゃんと聞こうと思ったのに・・・。
こんなんじゃ話なんてできねぇよ・・・。
昨日のこと、柊にちゃんと聞こうと思ったのに・・・。
こんなんじゃ話なんてできねぇよ・・・。
昨日の重苦しい気持ちが押し寄せ、わたしを包み込もうとしたその時、不意に横からあやのが声をかけてきた。
「あの~。柊ちゃん? 盛り上がってるとこ悪いんだけど、そろそろ授業行かないと遅れちゃうよ?」
「あ、もうそんな時間なんだ? つーかさ、こなたは何でここにいんの?」
「へ?だって、今日は調理実習で合同クラスじゃん? 一緒に行こうと思って」
「え?そ、そう・・・なの?」
「そう言えば柊ちゃん。玉ねぎ持ってきた?」
「へ? 玉ねぎ?」
「うん。今日、調理実習でカレー作るから」
「え? ・・・・・うわっ!わ、忘れてた!」
「あ、もうそんな時間なんだ? つーかさ、こなたは何でここにいんの?」
「へ?だって、今日は調理実習で合同クラスじゃん? 一緒に行こうと思って」
「え?そ、そう・・・なの?」
「そう言えば柊ちゃん。玉ねぎ持ってきた?」
「へ? 玉ねぎ?」
「うん。今日、調理実習でカレー作るから」
「え? ・・・・・うわっ!わ、忘れてた!」
ん?玉ねぎ?
「玉ねぎ持ってきてねーのか?」
「う・・・うん。つかさも何も言ってなかったし・・・。ごめん・・・。どうしよ・・・」
「う・・・うん。つかさも何も言ってなかったし・・・。ごめん・・・。どうしよ・・・」
珍しく、しゅんとする柊。
くふふふふ。 玉ねぎ持ってきて良かったー!!
ここで―
くふふふふ。 玉ねぎ持ってきて良かったー!!
ここで―
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「ふふふ・・・。じゃんっ!」
「あっ!玉ねぎ!」
「こんなこともあろうかと、みさお様が準備しておいたのさ」
「あ、あんた、気が利くじゃない!!」
「へへーん。だろ?」
「日下部最高! 大好き!! こなたなんて比じゃないわ!!」
「おぅっ! わたしもひぃらぎのこと大好きなんだゼ!!」
「あっ!玉ねぎ!」
「こんなこともあろうかと、みさお様が準備しておいたのさ」
「あ、あんた、気が利くじゃない!!」
「へへーん。だろ?」
「日下部最高! 大好き!! こなたなんて比じゃないわ!!」
「おぅっ! わたしもひぃらぎのこと大好きなんだゼ!!」
めでたしめでたし。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
ちょっとご都合主義的な気もするけど、今はそんなこと気にしてらんねーよな?
待ってろよー! ひぃらぎぃ!!
待ってろよー! ひぃらぎぃ!!
「あのさ、ひぃら」
「むふふふふ」
「むふふふふ」
わたしが声をかけようとすると同時に、横でちびっ子が笑い始めた。
「何よこなた。変な笑い方して」
「じゃ~ん」
「あ! 玉ねぎ!」
「じゃ~ん」
「あ! 玉ねぎ!」
なっ!? なにーっ!!
「偶然にも今回私が玉ねぎ担当だったのさ。大目に持ってきたから少しあげるよ」
「ほぉ~。あんたにしては随分気が利くわね」
「むぅ! そんなこと言うならあげないよ?」
「ご、ごめんごめん! ありがと、こなた」
「ほぉ~。あんたにしては随分気が利くわね」
「むぅ! そんなこと言うならあげないよ?」
「ご、ごめんごめん! ありがと、こなた」
そう言って柊は、ちびっ子の頭をわしわし撫でた。
あ、あ、あぁぁ、わたしの計画が・・・。
あ、あ、あぁぁ、わたしの計画が・・・。
「ん? どうしたの、みさきち?」
うぅぅぅ・・・。満足そうな顔しやがって・・・・。
なんでおいしいとこは全部ちびっ子なんだよぉ・・・。
なんでおいしいとこは全部ちびっ子なんだよぉ・・・。
「・・・なんでもねーよ・・・」
「みさきち。心配しなくても今日は玉ねぎ入りのカレーが食べられるよ」
「みさきち。心配しなくても今日は玉ねぎ入りのカレーが食べられるよ」
そんな心配してねーよ!! しかも憐れむような眼でこっちを見るな!!
「んじゃっ、かがみ。早くいこ」
「え? ちょ、ちょっと待っ」
「え? ちょ、ちょっと待っ」
ちびっ子は柊の手を掴み、教室の外に引っ張っていった。
柊は一瞬振り返って何かを言おうと口を開きかけたけれど、すぐにその姿は見えなくなった。
取り残されたわたしの中には、何ともいえない寂しさだけが残された。
あやのぉ・・・。わたし、早くもくじけそうだよ・・・。
柊は一瞬振り返って何かを言おうと口を開きかけたけれど、すぐにその姿は見えなくなった。
取り残されたわたしの中には、何ともいえない寂しさだけが残された。
あやのぉ・・・。わたし、早くもくじけそうだよ・・・。
かがみ part
実習室にはすでにほとんどの生徒がそろっていて、皆エプロン姿で話していた。
「んじゃまたね~」
「う、うん」
「う、うん」
こなたは私から離れ、楽しそうにおしゃべりをしているつかさとみゆきのところへ行った。
はぁ・・・、日下部とは話せず仕舞いか・・・。
憂鬱な気持ちでエプロンをつけていると、少し遅れて峰岸と一緒に日下部がやってきた。
実習室に入った日下部は相変わらず浮かない顔で俯いたまま、エプロンをつけ始めた。
実習室に入った日下部は相変わらず浮かない顔で俯いたまま、エプロンをつけ始めた。
日下部元気ない・・・。やっぱり昨日のこと気にしてるのかな・・・。
結局話しかけるタイミングも見つからず、躊躇している間に先生が来てしまった。
授業が始まり、カレーの作り方や栄養素の説明がされた後、班ごとに分かれて調理に入った。
私は日下部と一緒の班で、野菜の皮むきを担当することになった。
だけど日下部は、相変わらず暗い顔で黙り込んでいる。
授業が始まり、カレーの作り方や栄養素の説明がされた後、班ごとに分かれて調理に入った。
私は日下部と一緒の班で、野菜の皮むきを担当することになった。
だけど日下部は、相変わらず暗い顔で黙り込んでいる。
・・・こんなんじゃ告白なんて無理よ・・・。
そんな日下部の態度に、昨日決心したはずの私の心は揺らいでいた。
「いっ!」
その時、突然指先に鋭い痛みが走った。
視線を落とすと、親指に筋が入って血が滲んできていた。
視線を落とすと、親指に筋が入って血が滲んできていた。
「ど、どーした、ひぃらぎ?」
私の声に驚いた日下部が声をかけ、そのすぐ後に峰岸も慌てて近寄ってきた。
「大丈夫?柊ちゃん」
「あ・・・。少し切っちゃたみたい」
「ちょっと見せて?」
「あ・・・。少し切っちゃたみたい」
「ちょっと見せて?」
峰岸は私の指を掴むとすぐに水で洗い、ポケットからティッシュを取り出して私の指を包んで止血した。
ティッシュにはすぐに赤い染みが広がっていく。
ティッシュにはすぐに赤い染みが広がっていく。
「うーん・・・。ちょっと深いかな?」
「だ、大丈夫よ。そんなに痛くないし」
「だ、大丈夫よ。そんなに痛くないし」
私達の様子に気づいたこなたたちも、こっちにやってきた。
「かがみ、指切っちゃったの?」
「あ、うん。でもそんなに大したことないから」
「で、でも、お姉ちゃん。結構血がでてるよ?」
「あ、うん。でもそんなに大したことないから」
「で、でも、お姉ちゃん。結構血がでてるよ?」
こなたの横で、つかさが心細そうに私の指を見つめてそう言った。
「柊ちゃん。やっぱり保健室行った方がいいよ。ばい菌が入っちゃうかもしれないし」
「そうだよ、かがみ。このままじゃ指が腐ってポトッて落ちちゃうかもしれないし」
「縁起でもないこと言わないでよ! そんな痛くないし、大丈夫だか・・・ら」
「そうだよ、かがみ。このままじゃ指が腐ってポトッて落ちちゃうかもしれないし」
「縁起でもないこと言わないでよ! そんな痛くないし、大丈夫だか・・・ら」
ふと日下部を見ると、少し離れたところでさっきと同じように暗い顔で俯いている。
いつもの日下部とは真逆の姿に、私の胸はぎゅっと締め付けられた。
いつもの日下部とは真逆の姿に、私の胸はぎゅっと締め付けられた。
日下部・・・さっきよりも落ち込んでる・・・。
あんな顔してるのに・・・、私・・・何も言えない・・・。
あんな顔してるのに・・・、私・・・何も言えない・・・。
「どったの? かがみん?」
突然黙りこんだ私の顔を、心配そうにこなたが覗いてきた。
私、こんなに日下部のこと心配してるのに・・・。
こなたみたいに普通に声もかけられない・・・。
こなたみたいに普通に声もかけられない・・・。
こなたと自分を比較して、私はひどくみじめな気分になっていく。
このままじゃ私は・・・、何もできない・・・。何も変えられない・・・。
そんなこと・・・、そんなこと絶対イヤ・・・。
そんなこと・・・、そんなこと絶対イヤ・・・。
私は重苦しい気持ちを吐き出すかのように大きく息を吐き、ゆっくりと顔をあげた。
「・・・あ、あの、い、一応保健室行っとくわ」
「なんだ。やっぱりかがみも怖いんじゃん?」
「う、うっさい!!」
「なんだ。やっぱりかがみも怖いんじゃん?」
「う、うっさい!!」
こなたの冷やかす言葉に一瞬たじろぎながらも、私は日下部の方を向いて、思い切って声をかけた。
「ね、ねぇ、日下部。一緒に来てくれる?」
不意に声を掛けられた日下部は、驚いた顔で口を開けたまま私を見つめた。
「へ・・・? わ、わたし?」
「うん。やっぱり指が痛くて・・・ダメ?」
「う・・・。 ど、どーしてもっていうなら・・・」
「ちょっと待った~!! かがみは私の嫁なんだから私が一緒に行くんだよ?」
「だから嫁じゃないって!! それにあんたはクラス違うし、自分とこの料理を作らないといけないじゃない」
「むぅぅ。そうだけど・・・。でも、そしたらかがみの班は2人も抜けちゃうじゃん?」
「うん。やっぱり指が痛くて・・・ダメ?」
「う・・・。 ど、どーしてもっていうなら・・・」
「ちょっと待った~!! かがみは私の嫁なんだから私が一緒に行くんだよ?」
「だから嫁じゃないって!! それにあんたはクラス違うし、自分とこの料理を作らないといけないじゃない」
「むぅぅ。そうだけど・・・。でも、そしたらかがみの班は2人も抜けちゃうじゃん?」
あ・・・、考えてなかった。
んもーっ! せっかく勇気出したのにっ!
んもーっ! せっかく勇気出したのにっ!
すると私の気持ちを察したかのように峰岸が声をかけてきた。
「こっちはほとんど終わってるし大丈夫よ。後は野菜を煮るだけだから」
「え? ホントに?」
「うん。だから気にしないで保健室に行ってきて」
「あ、ありがと峰岸」
「え? ホントに?」
「うん。だから気にしないで保健室に行ってきて」
「あ、ありがと峰岸」
峰岸の言葉を聞いたこなたは、少し寂しげに笑ってため息をつき、日下部の肩を叩いた。
「ま、仕方ないか。んじゃ、みさきち、私の嫁をしっかり頼んだよ」
「嫁言うな!!」
「嫁言うな!!」
こなたに突っ込みを入れながら日下部の方をチラリと見る。
「お、おう・・・」
日下部は返事に戸惑いながらも、少しだけ表情が明るくなったように見えた。
その表情に安心した私は、事情を話すために先生のところへ向かった。
日下部のところに戻ると、峰岸が日下部に何か声をかけていた。
その表情に安心した私は、事情を話すために先生のところへ向かった。
日下部のところに戻ると、峰岸が日下部に何か声をかけていた。
「? どうしたの?」
「え? ううん。何でもないよ。ちゃんと手当てしてもらってきてね」
「ありがと。でもできるだけ早く戻るから」
「うん」
「じゃあ、日下部。いこっか?」
「あ、ああ・・・」
「え? ううん。何でもないよ。ちゃんと手当てしてもらってきてね」
「ありがと。でもできるだけ早く戻るから」
「うん」
「じゃあ、日下部。いこっか?」
「あ、ああ・・・」
何故か少しだけ顔を赤らめている日下部と一緒に、私は保健室に向かった。
みさお part
昨日からあやのには助けられてばっかりだな・・・。
朝からちびっ子と柊のじゃれ合いを見せられ、玉ねぎ作戦は失敗に終わり、
わたしの気持ちは真っ逆さまに落ちていた。
正直、さっきあやのに声をかけられなかったら、自分ではどうしようもできずに鬱々としたままだっただろう。
わたしの気持ちは真っ逆さまに落ちていた。
正直、さっきあやのに声をかけられなかったら、自分ではどうしようもできずに鬱々としたままだっただろう。
柊と一緒に保健室までの長い廊下を歩きながら、わたしはさっきあやのに言われたことを思い返す。
「ねぇねぇ、みさちゃん」
「ん?」
「がんばってね」
「いっ!?」
「ん?」
「がんばってね」
「いっ!?」
驚いて見返したわたしに、あやのはいつもよりも2割増しの笑顔を見せた。
あれって、全部知ってるってことだよな・・・。
あやのに気づかれて気恥ずかしい気持ちもあったけど、かと言って嫌な気持ちはしなかった。
むしろ安心したっていうか、気持ちが少し軽くなったような・・・。
よし! あやの、わたしがんばるっ!
むしろ安心したっていうか、気持ちが少し軽くなったような・・・。
よし! あやの、わたしがんばるっ!
少しだけ先を歩く柊に近づき、横顔をそっと覗くと、少し緊張したような顔をしているのが見えた。
その凛とした表情に胸の鼓動は次第に早くなっていく。
その凛とした表情に胸の鼓動は次第に早くなっていく。
あぁ・・・。やっぱり柊って可愛いというかカッコイイというか・・・。
その時わたしが見ていることに気づいた柊が声をかけてきた。
「な、何よ?」
「え? えっと・・・、そ、その・・・」
「え? えっと・・・、そ、その・・・」
うぅぅ・・・怖い・・・。
けど、ちゃんと話さねぇと・・・。
けど、ちゃんと話さねぇと・・・。
「・・・な、なぁ、ひぃらぎぃ・・・」
「うん?」
「あの・・・、ちびっ子と一緒じゃなくて良かったのか?」
「な、何でよ?」
「だって、ちびっ子あんなに心配してたし、一緒に来たがってたじゃん?」
「そ、それはそうだけど・・・」
「うん?」
「あの・・・、ちびっ子と一緒じゃなくて良かったのか?」
「な、何でよ?」
「だって、ちびっ子あんなに心配してたし、一緒に来たがってたじゃん?」
「そ、それはそうだけど・・・」
も、もしかしてなんかまずいこと言った・・・?
柊はそう言って口を噤み、少し怒ったような顔で上目づかいにわたしを見つめた。
「あ、ご、ごめん・・・」
昨日柊に怒られた場面が頭に浮かび、咄嗟に謝罪の言葉が口をついて出る。
だけど柊はわたしの言葉には応えず、真剣な顔でわたしを見つめた。
だけど柊はわたしの言葉には応えず、真剣な顔でわたしを見つめた。
「あんたは・・・」
「え?」
「・・・あ、あんたは心配してくれないの?」
「!? そ、そそそんな・・・そんなことないって!! めちゃくちゃ心配だってヴぁ!!」
「え?」
「・・・あ、あんたは心配してくれないの?」
「!? そ、そそそんな・・・そんなことないって!! めちゃくちゃ心配だってヴぁ!!」
柊の言葉に反射的にそう言うと、柊は顔を真っ赤にして一瞬だけ口元を緩ませた。
「そ、そう・・・。 なら・・・いいじゃない・・」
あ、あれ? 怒ってないのか?
そう言って柊はすぐに視線を逸らし、また歩き始めた。
柊の態度に違和感を覚えながらも、これ以上余計なことを言って昨日みたいに怒られたくはなかった。
なぜか真っ赤に色づいている柊の耳とうなじを見つめながら、わたしは黙って後をついていった。
柊の態度に違和感を覚えながらも、これ以上余計なことを言って昨日みたいに怒られたくはなかった。
なぜか真っ赤に色づいている柊の耳とうなじを見つめながら、わたしは黙って後をついていった。
その後会話もなく、何とも言えない微妙な空気のまま保健室に着くと、柊は無言で少し強めにドアをノックした。
「は~い」
柊がドアを開けると、天原先生がいつもの柔らかな笑顔で迎えてくれた。
1限目ということもあってか、ベッドはすべて空いている。
1限目ということもあってか、ベッドはすべて空いている。
「失礼します」
「あら? どうしたの?」
「あの、調理実習で指を切ってしまって」
「そうなの? ちょっと見せて。
・・・うん。少し深いけど、これなら縫わなくても大丈夫ね」
「あら? どうしたの?」
「あの、調理実習で指を切ってしまって」
「そうなの? ちょっと見せて。
・・・うん。少し深いけど、これなら縫わなくても大丈夫ね」
それを聞いた柊は、安心したように息を吐き出した。
「私、これから職員室に行かなくちゃならないんだけど・・・、任せても大丈夫かしら?」
「あ、はい」
「これ、消毒液と包帯ね」
「あ、はい」
「これ、消毒液と包帯ね」
天原先生は消毒液の入った瓶と包帯を棚から出すと、柊に手渡した。
手持ち無沙汰なわたしは、柊と天原先生のやり取りを傍から見ながら、特に興味もない保健室の掲示物を眺めていた。
手持ち無沙汰なわたしは、柊と天原先生のやり取りを傍から見ながら、特に興味もない保健室の掲示物を眺めていた。
「じゃあ、よろしくね」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
天原先生はそう言うと、長い黒髪を揺らしながら部屋を出て行った。
一通り掲示物を読み終え、ふと視線を移すと、柊が手に持った消毒液の蓋を開けようとしているのが見えた。
柊は指が痛いようで、蓋を開けるのに苦労しているみたいだった。
一通り掲示物を読み終え、ふと視線を移すと、柊が手に持った消毒液の蓋を開けようとしているのが見えた。
柊は指が痛いようで、蓋を開けるのに苦労しているみたいだった。
「あ、わたしがやるよ」
「え? だ、大丈夫よ」
「だって痛そうじゃん? それに、わたし部活でいつも使ってるし」
「あ、う・・・。じゃ、じゃあ、お願い・・・」
「え? だ、大丈夫よ」
「だって痛そうじゃん? それに、わたし部活でいつも使ってるし」
「あ、う・・・。じゃ、じゃあ、お願い・・・」
そう言って柊はベッドに座ると、おずおずと親指を差し出した。
わたしは天原先生の椅子を引き寄せて柊の前に座り、消毒液を含ませたガーゼをゆっくりと傷口につける。
わたしは天原先生の椅子を引き寄せて柊の前に座り、消毒液を含ませたガーゼをゆっくりと傷口につける。
「つっ!」
「あ、痛かった?」
「ん。ちょっと沁みただけ」
「最初はいてーんだよな」
「あ、痛かった?」
「ん。ちょっと沁みただけ」
「最初はいてーんだよな」
柊の指を処置していると、保健室に暖かな陽射しが差し込んできた。
無言のままのわたしたちの間を、とても静かな時間が過ぎていく。
無言のままのわたしたちの間を、とても静かな時間が過ぎていく。
なんか、こういう時間って久しぶりだな・・・。
最近柊と2人だけっていうのもなかったし。
最近柊と2人だけっていうのもなかったし。
二人だけで過ごせる時間に幸せを感じながらも、
一方でわたしはさっきまでのちびっ子と柊のやり取りを思い出していた。
一方でわたしはさっきまでのちびっ子と柊のやり取りを思い出していた。
・・・だけど、教室戻ったら結局ちびっ子がいるんだよな・・・。
そうなったら・・・、わたしはまた背景になって・・・柊と話なんて・・・。
そうなったら・・・、わたしはまた背景になって・・・柊と話なんて・・・。
わたしの心はひどく切ない気持ちでいっぱいになっていった。
その気持ちに反応してか、柊の指に包帯を巻く手が震えてうまく結べない。
わたしは一度包帯から手をはずし、寂しさを拭うかのように、緊張で汗ばんだ手をスカートで拭いた。
その気持ちに反応してか、柊の指に包帯を巻く手が震えてうまく結べない。
わたしは一度包帯から手をはずし、寂しさを拭うかのように、緊張で汗ばんだ手をスカートで拭いた。
ここで話をしなかったら・・・。
わたしのこと嫌いなのかも、ちびっ子のこと好きなのかも・・・。
何もわからない・・・。
わたしのこと嫌いなのかも、ちびっ子のこと好きなのかも・・・。
何もわからない・・・。
柊に気づかれないようにゆっくりと息を吐き、もう一度包帯の端を持ち直す。
わたしは・・・
わたしは、そんなの絶対にイヤだ!!
わたしは、そんなの絶対にイヤだ!!
そう思った瞬間、不思議と手の震えは治まっていた。
そして、今度こそしっかりと包帯を結んだ。
そして、今度こそしっかりと包帯を結んだ。
「できたよ。きつくない?」
「あ、う、うん。大丈夫。 ・・・ありがと」
「あ、う、うん。大丈夫。 ・・・ありがと」
わたしは柊の声を背中で聞きながら、消毒液の蓋を閉めて棚に置き、扉に手を添えた。
目の前で棚の扉が少し高めの金属音を立てて閉まる。
目の前で棚の扉が少し高めの金属音を立てて閉まる。
「なぁ、ひぃらぎ?」
その音を合図に、わたしは振り向きざま柊に話しかけた。
「ふぇ? な、なに?」
それまでじっと包帯が巻かれた親指を見ていた柊は、突然声をかけた所為か、慌てて顔をあげた。
心なし、顔が赤くなっているようにも見える。
心なし、顔が赤くなっているようにも見える。
「あのさ・・・、ちょっと聞きたいことがあって・・・」
「な、なに?」
「・・・そ、その・・・、ひぃらぎってさ・・・」
「うん・・・」
「な、なに?」
「・・・そ、その・・・、ひぃらぎってさ・・・」
「うん・・・」
柊を見つめながら、わたしの耳元では心臓がドクドクと大きな音を立てていた。
その音に合わせてわたしの胸は締めつけられ、徐々に呼吸は浅くなっていく。
喉元まで言葉が出かかっているのに、どうしても次の言葉が出てこない。
その音に合わせてわたしの胸は締めつけられ、徐々に呼吸は浅くなっていく。
喉元まで言葉が出かかっているのに、どうしても次の言葉が出てこない。
ど、どうしよ・・・。
このままじゃ・・・だめなのに・・・。
う・・うぅぅ・・。あやのぉ・・・。
このままじゃ・・・だめなのに・・・。
う・・うぅぅ・・。あやのぉ・・・。
「ど、どうしたのよ? すごい汗かいてるわよ?」
何も言えずに立ち尽くしているわたしに近づくと、
柊はポケットからハンカチを取り出して、わたしのおでこを拭った。
その柔らかな感触が当たった瞬間、突如あやのの言葉が頭に浮かんだ。
柊はポケットからハンカチを取り出して、わたしのおでこを拭った。
その柔らかな感触が当たった瞬間、突如あやのの言葉が頭に浮かんだ。
―――みさちゃんは、みさちゃんがしたいように、行動してみれば良いんだと思うよ。
「ひぃらぎっ!!」
気がつくとわたしは、反射的に柊の腕を掴んでいた。
「んなっ! ななな、な、なによ!?」
途端に柊の身体が強ばり、さっきよりも顔を真っ赤にして固まった。
「わ・・・わた、わた、わた・・・」
「ど、どうし」
「わたしのこと!! ・・・ど、どう思ってる?」
「ど、どうし」
「わたしのこと!! ・・・ど、どう思ってる?」
あ、あ・・・、い、言っちゃった・・・。
「は・・・? はぁぁぁぁ!?」
柊は素っ頓狂な声を出し、ポカンと口を開けたままわたしの顔を凝視した。
続
恋 の 病 ~ 告知篇 ~ 後編(かがみ&みさお)(かがみ みさお 両視点)
恋の病 ~治療篇 ~ 前編(みさお&かがみ)(かがみ みさお両視点)
恋 の 病 ~ 治療篇 ~ 中編(みさお×かがみ)(かがみ みさお両視点)(エロあり)
恋 の 病 ~ 治療篇 ~ 後編(みさお×かがみ)(かがみ みさお両視点)(エロあり)
恋 の 病 ~ 治療篇 ~ 中編(みさお×かがみ)(かがみ みさお両視点)(エロあり)
恋 の 病 ~ 治療篇 ~ 後編(みさお×かがみ)(かがみ みさお両視点)(エロあり)
コメントフォーム
- GJ!最高です! -- 名無しさん (2010-05-10 17:54:07)