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そういえば、と泉こなたは振り返った。だがそれは少し遅かったらしく、後ろ十メートル先の方に、五人が一人一つずつ持っている提灯の灯りが一つの大きな光りになって揺れていた。
こなたも提灯を持っているのだけれど、こんなもの一つで周囲の暗闇にどう対抗しろと言うのか。怖さと面倒くささを九対一くらいで前に向き直って、未だに震える足に力を入れて歩き出す。
ざり、ざり、と草履が地面と擦れる音が響く度、五人とこなたの距離は遠くなっていく。普段あまりスカートの類を履くことの無いこなたに取って、浴衣はかなり歩きにくい。
もし白い着物で、若干透けていらっしゃる異様に髪の長い女性でも出れば、いつも通りの速さでは走れないだろうなと考えただけで、ただでさえ遅い歩みがまた遅くなる。
「あーああ、――不幸だあああぁぁぁーっ! ってか……」


墓場の入り口。こう表現するとどうも死にに行くような雰囲気がある。
そこで、先ほど出発したこなたを抜いた五人、柊かがみ、柊つかさ、高良みゆき、小早川ゆたか、成美ゆいの五人が、旅館の人が貸してくれた提灯を手に待機していた。
去年の冬から計画されていたこなたの旅行計画は遂にこの夏実現され、電車とバスを乗りついで南に向かう小旅行に出かけていた。
今日はその二日目の夜。三泊四日のこの旅、その中盤ということでテンションが極まったのか、夕食を食べ終えたこなたはこの『ドキッ☆女だらけの肝試し大会! (肝は無いよ)』を計画した(反泣きだったつかさとゆたかは無理矢理連れて来られたのは言うまでもない)。
提灯は腕より少し長い程の木の棒の先に付けられている所為で、その先端でさっきからゆらゆらと揺れている。
提灯の中の蝋燭が傾いて、枠に貼り付けられた和紙に燃え移ったりしないだろうか、と一人つかさが首を傾げようとした瞬間、
「不幸だあああぁぁぁーっ! 」
向こうでこなたの叫びが聞こえた。こなたの声は囲まれた山に語尾だけ跳ね返って、そのまま空に溶ける。
五人揃って跳ねるように体をビクつかせ、つかさとゆたかに至ってはこなたに勝るとも劣らない叫び声を上げるところだったが、隣のゆいとかがみに危うく抑えられた。流石に叫び声の連鎖になることは避けたいのだろう。
「全く、あいつはすぐにマンガのネタ使うんだから。TPOをわきまえてほしいわよ」
かがみは、前にこなたに勧められて読んだ漫画のセリフだったな、と思い出しながらため息をついた。
「なんだ、あれマンガのセリフだったんだー。びっくりしたぁー」
私もですー、と苦笑いしたゆたかとつかさは顔を見合わせて笑いあいながら、内心では未だに跳ね続けている心臓を落ち着かせていた。
「もうこんな時間ですねぇー」
携帯の画面に照らされた白い顔でゆたかが呟く。え、本当? とつかさが携帯を取り出そうとして、浴衣のポケットに手を入れる。
「あ、あれ? おかしいなぁ……」
「どうしたの、つかさ? 」
ゆかたをばふばふ叩いて携帯の感触を探すつかさは、次に眉をハの字にして笑った。
「えへへ、携帯忘れちゃったみたい」
「もう。身に付けてなきゃ携帯電話の意味無いじゃない」
かがみの呆れるような声にまたえへへ、と笑って誤魔化すつかさ。ゆいはいつも通りの余裕そうな二人を見せられて、これが若さかと一人関心する。
唯一大人であるものの、このような状況になっては一番頼りなくなってしまうゆいはまた静かになってしまった空気を変える為に話題を振る。
「そ、それにしてもこなたはイベント作りが好きだねぇー。まさか旅行先までイベント求めてるとは思わなかったなぁー」
「それも泉さんに言わせてみれば、『旅行先だからこそ』なのでしょうね」
上品に笑うみゆきとその隣にいるかがみは、この手のものは苦手ではないが、取り分け好きという訳でもなかった。以前のオリエンテーションで、四人で山中迷ったときのことをみゆきは思い出す。
今でこそ笑って話せる思い出だが、そのときのどうしようもない焦燥と恐怖は本物だったし、今はそれに似た感情がほんの少しではあるが沸いてくる。
第六感というものだろうか、と今度は書籍で目にした第六感にまつわるエピソードを思い返した。
何か行っては行けない気がして、いつもと違う通りを通って出勤したら、いつも通る道で事故が起きていた。今日はどうしても行きたく無かったので学校を休んだら、その日から学校でインフルエンザが流行し始めた。
だが、そういう話の大半は信憑性が皆無なことも、他の書籍を読んで知っている。
「どうせギャルゲか何かで同じような展開があって、そこに自分を投影したいだけですよ、アイツは」
呆れた風に提灯を揺らすかがみの言葉に、ゆいは警官として未成年の18禁ゲームしようを忠告しようと思ったが、自分にはそんな余裕は無いことに気付く。
「ゆたかちゃん、具合大丈夫? 」
もう平静を取り戻したのか、つかさが軽く覗き込むようにして声をかける。
「はい。こなたお姉ちゃんにも何度か声をかけられましたけど、今日はなんだか調子良いんですよ」
「そっかぁ、良かったねぇゆたか」
ゆいはゆたかの頭を撫でながら、今角を折れたらしいこなたの提灯の灯りが消えたことに気付いて、
「こなた、行ったね」
無意識に声を漏らしていた。
「あの、さっきからまさかと思っていたんですけど、怖いんですか……?」
「えぇぅっ!? い、いやっ!怖いってわけじゃなくてさっ! ほっ、ほらよく言うじゃんっ。人が怖がってるのをみると怖くなくなるって!」
「大丈夫ですよ、実は私も少し怖いんです……」
ゆいの心情を察したのか、みゆきがフォローをいれた。
「私もすっごく怖いよーっ。てっきり誰かとペアで行くもんだと思ってたから、余計怖くなって――」
「えぇっ!? 一人ずつ行くんですかっ?!」
つかさの言葉を遮って、ゆたかが声を跳ねさせる。
「あれ、ゆたか聞いてなかった? くじ引きのときに六人分順番決めたじゃん」
「えぇぇ……」
聞いてないよー、とその場に消沈しながらしゃがみ込むゆたかの背中を、ゆいが苦笑いしながらさすってやる。
「そう考えると、こなたさんは一人で行ってすごいですね……」
みゆきの言葉に五人で暗闇を見遣る。こなたが出発してから五分は経ったのだろうか、こなたのあの様子だともう五分も経たないうちに帰ってくるだろうな、と五人は初めてこなたが大人に見えていた。


「言いだしっぺは先頭切って特攻して、戻って来れないフラグなんだよなぁ……」
暗闇で一人口を尖らせる。一時期ハマって2chで怖い話を収集していた頃に知った、山中の怖い話を思い出す。何も今思い出さなくてもいいのに、と自分の記憶力に文句垂れながら、また気分が下がっていく。
言い出したときこそノリとテンションで忘れていたものの、自分も実は怖いものは苦手なのだった。あのオリエンテーションのときはつかさが人一倍怖がってくれたおかげで自分はふざけていられたが、今となってはそのつかさが恋しくなってくる。
気を紛らわすためになるたけ明るい曲思い出して、口ずさんでみる。
「~♪」
これはいいな、と少し怖さを忘れかけているうちに、今の目的を確認する。
この墓場に来るまで、肝試しをすることは決まっていたものの、定番の神社のお札を取ってくるだの、大樹の葉を一枚取ってくるだの、肝心の内容までは考えていなかった。
しかしここに来る間、六人で歩いていた車道の途中で会った、若い男女の一行に話を聞いてみると、墓場に入って真っ直ぐ行き、突き当たってから左に折れ少し歩くと、子どもの背丈くらいの地蔵があるという。
その地蔵の頭を撫で、帰ってくるというのがあの旅館に泊まる人の間で、いつしか定番になっていったらしい。
わざわざ撫でに行かなくても、ある程度時間を潰してから戻るだけでいいのが、この利点だ。実際、その一行と話をしていた時点で怖さを思い出し始めていたこなたは、自分への保険の意味でもこれを採用した。
だが、
「ここの墓場で長い間同じ場所に止まってたら、幽霊が現れるって話があるらしいじゃん……」
無駄に親切な彼らは最後にそう付け加えてくれた。それでまた怖さを思い出しそうになって、慌ててさっきの続きを口ずさむ。
妙に長く感じるこの直線は、一向に地蔵に突き当たってくれない。もう随分歩いた気もするが、気がするだけでまだ少ししか進んでいないのかもしれない。
「およっ、あったあった」
等と考えているうちに、揺れる提灯に照らされる地蔵が見える。真顔なのか、笑っているのか微妙な表情の地蔵は漫画などで見たことのあるポーズでそこに立っていた。
地蔵の後ろには、正に鬱蒼とという表現が似合う林が生い茂っている。その向こうは暗く、数メートル先から突然全体的にぼやけた感じの足が無い少年が向かってきてもおかしくはないような雰囲気だ。
「やっと、見つけましたよ地蔵さん。さ、さっさと戻ろう戻ろう」
もう恐怖が最高潮に達してしまった今の自分では、地蔵に触れることすらもできない。さっさと戻って、次の番のかがみに交代してもらおう。
そう思って無駄に明るい口調で自分に言い聞かせながら、少しかかりすぎてしまった時間を取り戻すために小走りで戻る。
走り出すと、なぜか急速に恐怖が高まっていく。自分のものだけのはずの足音が、なぜか二つに聞こえる気がする。自分のものではない荒い吐息が、耳元から聞こえる気がする。
気になりだすともうだめだ。もうなりふり構わず全力で走っていた。すぐに角は見えて、そのまま速度を落とさずに曲がって皆のところへ走る。
あぁ、怖かったー。あんた、怖くないんじゃなかったの? そんなおちゃらけた会話を想像しながら、走っているうちに違和感に気付く。

その違和感は決して消えることなく、
「冗談は……よしこさんだよ」
ついには――誰もいない墓場の入り口に、一人で辿り着いてしまった。



「……こなた遅くない? 」
五人がそれを言うことを躊躇っていたのだが、流石にそれどころじゃないことになってきたと、かがみが口を開く。
「ちょっと、これは心配ですね……」
「こなたお姉ちゃん……探しに行った方がいいんじゃないですか? 」
ゆたかの少し震える声に、つかさも同意する。
「そうだね、何かあってもこっちは五人だし、警察さんもいるしね」
つかさの言葉に言葉も出ないほど驚き慌てるゆいを横に、かがみは一人考え込んでいた。
「どうしたのお姉ちゃん、行くよ? 」
「……ん、ごめん。今行く」
つかさに声をかけられて、かがみは四人の中に小走りして混ざりに行った。

かがみは一人、矛盾に気付いていた。いや、みゆきも気付いているのかもしれないけれど、しかしそれをみゆきに確認してわざわざみんなの恐怖心を煽ることは無い、とまた考え始める。
もしゆたかがくじ引きに加わっていなかったとしたら、どうしてその時点で誰もゆたかが居ないことに気付かなかったのか。ゆたかがいない状態でくじ引きをしても、全員分の順番は決められるはずが無い。
もしかしたら自分が気付いていなかっただけで、誰かがゆたかの代わりにくじを引いたのかもしれない。しかし、それでも矛盾は残る。
今訪れている旅館は、かがみ達以外宿泊客がいない。元々そのような穴場を探して、こんな山奥の旅館に足を運んだのだ。宿泊の手続きをした際にかがみ自身がそれを確認しているので、間違いはない。
ならば、来るときにすれ違った彼らは誰だったのだろう。さきも述べたようにここは山奥で、ふもとの人たちもあまり知らない穴場だ。肝試しをするだけならわざわざこんなところまで来なくとも、他に場所はあるはずだ。
しかも、会ったときの彼らは徒歩だった。仮に遠出覚悟でここまで肝試しに来ていたとしても、来るなら車で来るはずだろう。加えて言うなら、旅館の駐車場には車一台も停まっていない。
ゆたかとゆい、こなたとかがみとつかさとみゆきのグループで、それぞれここまではタクシーで来た。つまり、旅館の駐車場に一度停めてからここまで来ることは、まず不可能なのだ。
「……」
考えすぎだ、とかがみは頭を振ってそのツインテールを揺らす。そんなの、上手い具合に偶然が重なったにすぎない。偶然だ、たまたまだ、都合の良い、質の悪い冗談だ。そう思おうとした矢先、
「えっ……」
「あら……」
「うわぁ……」
「怖いよぉー……」
誰とも会わずに、五人は地蔵に突き当たってしまった。


全員の動揺が収まり始めた頃合を見計らって、みゆきが深刻な眼差しで皆を見据える。
「まず、状況を整理しましょう。あの墓場の入り口からここまでは、一度角を折れるだけであとは分かれ道は無い一本道。
 泉さんのことを考えれば、お墓の間に上手く隠れて、私達を怖がらせようと待ち伏せしている可能性も考えられます。ですが、泉さんは自分の持つ提灯の光は隠しようがありません」
そこで、みゆきの言葉が途切れて、同時にみゆきは俯いてしまう。
「もう、あいつは皆に心配ばっかりかけて……」
言うかがみも、やはりこなたへの心配からか、恐怖からか、それともその両方からか表情には余裕が無い。
「私、一応電話かけてみたけど、圏外で……」
まるで都合の良いホラー映画だ、とつかさの言葉にかがみはため息をつく。
「こなたのことは、大丈夫。私が探してるから、皆は先に入り口まで戻ってて」
ここでゆいが珍しく警察官の顔を見せる。しかし、それを制したのはゆたかだった。
「だめだよっ、これでゆいお姉ちゃんまでいなくなるかもしれないよっ」
そんなゆたかの頭をゆいはあけすけに笑って撫でてやった。
「だぁーいじょぶっ。そーゆーのは映画や漫画の中でだけだよっ! ここはシャープシューターゆいちゃんにまっかせなさいっ! 」
涙を溜めるゆたかの顔の前に、ゆいは親指を突き立てて笑ってみせる。それを見てゆたかは、姉に負けないように目じりに溜まった涙を弾け飛ばすような笑顔をした。
「絶対に帰ってきてねっ」


「いや、ホラーには定番の流れだけど……」
流石に自分の身に降りかかると、怖さは段違いだ。走っている間感じた違和感は、いくら走っても五人の提灯の灯りが見えなかったからだ。
地蔵からここまで、分かれ道のようなものは見当たらなかった(焦っていて気付かなかったかもしれないが)。冗談で先に帰ってしまった、というのも考えられない。
「洒落にならないって、明智君……」
こんな誰かが聞いていたら確実に流されるようなギャグを言う余裕が自分にはある、と無理矢理自分を落ち着かせる。大丈夫、幽霊とかオカルトとかは科学で証明できないのだ。科学で証明できないことは信じないのだと、体は子どもで素顔は大人の少年探偵も言っていたのだ。一度深呼吸して、浴衣のポケットから携帯を取り出す。
「ここまでの流れを考えると、携帯は多分……」
フリップを開けようとした瞬間、着信を告げる場違いに明るい曲が、特有の萌え声で辺りに響く。こなたはもたつく手で、何度も汗で滑りながらやっとフリップを開き、画面を確認する。

着信は、柊つかさからだった。



「さて、思わずかっこつけちゃったよ……ゆい姉さんは」
一人残されたゆいは取りあえず周りを見回してみる。茂る林の向こうにぼんやりと輪郭をぼやつかせる墓石、そして目の前には地蔵。何とも不気味な表情でそこに佇んでいる。
「一見したところ、証拠っていうか手がかりみたいなのは無いか……」
下にも目を落としてみるが、こなたの消息をつかめそうなものは何も無い。携帯だ、と思い出しポケットから取り出してみるが、来るときにあまりに怖くて、提灯を持っていながらも先を照らしながら来た所為か、開いて五秒と経たないうちに、電池切れを示すマークが画面に出てきてしまった。ため息をついてフリップを閉じる。
「こなたじゃなくても、これは叫びたくなるなあ」
こんなシチュエーションは映画や漫画の中だけじゃなかったのか、とすっかり我を忘れて突っ走ってしまっている現実君に文句を垂れる。提灯の灯りは照らすというより、光がそばにあることで安心するものなので、何かを照らすことには不向きだ。足元はぼんやりとしか見えていないのでは、探すも何もあったもんじゃない。
「幽霊の仕業ってことを抜きにして考えても、私たちとこなたがどう動けばこうなるか検討がつかないなぁ……」
これでは屋外での密室事件だ。閉鎖された空間での失踪事件。いつかこなたに推されて読んだ、憂鬱な女子高生の名前がタイトルの小説を連想させる言葉だ。
 五人が真っ直ぐここまで歩いてきたことは疑いようがない。だから、疑うとなれば必然的にそれはこなたに向けられるのだが、平静を装っているように見えて実は内心怖がっていたのを見抜いていたゆいは、こなたがどこかに隠れている可能性を疑うことは難しかった。
「とりあえず、ゆい姉さんも戻ろうかな。流石に怖くなってきたぁ……」
何となく肌寒く感じることを考えないようにしながら、ゆいは来た道を戻っていった。

程なくして、ゆいが戻ってきた。提灯の灯りが二つに増えていなかったことに消沈しながらも、内心ゆいが戻ってこれるかどうか不安だった五人はそれでも胸をなでおろした。
「ごめんねぇー。こなた、見つからなかったよ」
「仕方ありませんよ」
みゆきの言葉の後に、しばらくの沈黙が訪れる。それぞれの表情は、不安と恐怖が入り混じった複雑なものだった。だが沈黙を破って、その表情のまま顔をあげたのはかがみだった。
「私、ちょっと向こうまで歩いて電話してきます。ちょっと歩けば、繋がるかもしれませんし」
一応最年長であるゆいにそう許可をもらって、かがみは墓場を出て歩いていった。かがみが電波の立つところに行っても、肝心のこなたが山中では意味は無いのだけれど、それでも試さないよりはマシだ。他の四人はこなたが戻ってくるかもしれない可能性を考えて、その場に残ることにした。
 その中で、次に違和感を覚えたのはゆたかだった。なぜかさっきから違和感が拭えない。何が原因で、どの類の違和感なのかは分からないが、頭のどこかで矛盾に似たものを感じている。それは誰もいない地蔵に突き当たって、そこから四人でここまで戻ってくるときからずっとだった。気のせいだと楽観して捨て去ることができないということは、それほど重要なことなのだろうか。
 思い出せ、と真新しい記憶の中から矛盾する部分を探す。どこか、どこかがおかしいのだ。そしてそれはこなたの失踪と繋がっているはずだ。
 違和感は地蔵に突き当たったときから始まった。ということは、あのときの行動、会話の中に違和感の要素があるはずだ。まず、一番始めにみゆきが状況を整理した。入り口から地蔵まで分かれ道が無いので、こなたが失踪した理由については理解できない、とかいった内容だったはずだ。しかし、これではない。そして次に、かがみが嘆息した。こなたが皆に迷惑をかけたことを嘆くフリをして、心配していたのだ。これはどうだ? ――これも違う。では、その次か。その次は確か、つかさが――――
「みんなっ!! 」
思考を妨げさせたのは、夜の空気に響き渡るかがみの声と、かがみに手を引かれて歩いてくるこなたの姿だった。

こなたが登場してからというもの、五人は口々にこなたに問いかけていた。なぜいなくなったのか、今までどこにいたのか、そもそも本当に怖くなかったのか、などなど。
「いやぁ~、みんながあんまり本気で心配するもんだからつい出てきちゃったよ~」
それら全てを流し流し答えてから、こなたは提灯の灯りに照らされた顔でいつものように笑った。
「こなたお姉ちゃん、本当に心配だったんだからっ」
「そうだよこなちゃんっ。もうこんなことしないでよ~っ」
半泣き状態のゆたかとつかさに泣きつかれながら、こなたは流石にホントにごめんね、と謝った。
「全く、ふざけるにもTPOをわきまえてないんだから」
それに本音の裏側で返すかがみに、ゆいも続く。
「こなた、ふざけるにも限度ってのがあるんだから。ゆい姉さんこれでも警官で最年長だし、こなたがいなくなったら私だって困るんだよ」
警察官として最年長として、同時にこなたの友人としてこなたを叱るゆいの目じりに小さく光ったのは、提灯の灯りに反射する小粒の涙だった。
「それにしてもこなたさん、今までどこにどうやって隠れていたんですか? 」
「ああ、それはね。提灯の灯りは角を曲がってからすぐ消して、そのまま林のほうに入っていって隠れてたんだ~。流石にちょっと怖かったけどね」
「林の方って、随分無茶したわね……。あっちって足元も落ち着かないし、浴衣着ながら入っていくにはキツいでしょ。あれ? でもあんたの提灯、今点いてるじゃない」
ふっふっふとわざとらしく笑いながら、こなたが浴衣のポケットから取り出したのはマッチ箱だ。
「事前にマッチを持ってきておいたのだよワトソン君」
「はいはい」
そろそろ気持ちが落ちついてきたかがみは、こなたを軽くあしらう余裕も出てきた。何はともあれ、こなたは見つかった。問題は解決した。みゆきもゆたかもかがみも頭に残っていた矛盾など振り払って、安堵から笑いあっている。
「今日はもう帰ろうか。時間も時間だし、みんなも今からあっちまでは行きたくないでしょ」
たはは、と困ったように笑うゆいに五人は同意して、墓場を後にした。

夜の車道。来るときもそして今も、歩いているのに未だにここを車は一台も見当たらない。流石にこんな時間に山奥に用がある人なんていないのだろう。六人は車こそ通らないが、一応車道の端に寄りながら帰路についていた。こなたとゆいが、つかさをはさんで怖い話で怖がらせている数メートル後ろを、みゆきとかがみとゆたかが並んで歩いていた。右手には林が薄暗い闇を携えて生い茂り、今にもそこから何かが飛び出してきそうで内心怖がりながらも、ゆたかは改めて胸をなでおろしていた。こなたを見つけたことと、肝試しをしなくて済んだことから来る安堵感が今またわいてくる。しかしその横で、かがみはまださっき捨てたばかりの矛盾を拾いなおしている。それはみゆきも同じだった。
「ねえみゆき、気付いているでしょ? 」
「はい……」
二人の短い会話に首を傾げたゆたかだったが、ほんの少しだけ二人が話していることに心当たりがあるゆたかは、せっかく戻った安堵感を惜しみながら聞いてみる。
「何に、気付いているんですか……? 」
「おかしいのよ。何かがおかしいわ。今改めて考えてみて、矛盾がたくさん出てきた」
みゆきもそれに黙諾して同意を示す。
「まず、来る前に宿の駐車場でやったくじ引きよ。こなたが作った割り箸のくじをみんなで引いたじゃない? その時点でどうやってもゆたかちゃんがいないことに気付くはずなのよ。それなのに、誰も気付かなかった――」
「私が覚えているかぎりでは、ゆたかさんの代わりに二本くじを引いた人はいませんでした」
二人の言葉に、ゆたかは自分の違和感が浮き彫りになってくるのが分かった。
「それにこなたの言い分。私が電話しようとしたら、なんでか私たちが来た方からこなたが歩いてきて、それでみんなと合流したのよ。けどこなたは角を曲がってからすぐ隠れたって言ったわよね」
「林を通って道路に出るまで歩くなんて、この視界では不可能です。ましてや、私たちに見つからないように提灯の灯りを消したのなら尚更です」
「それにお姉ちゃん、私たちが心配しているのを聞いて出てきたって言ってたけど、それじゃあ私たちの声は聞こえませんよね」
「そして、つかささん。つかささん、私たちがこなたさんを待っているときに、携帯を忘れてきたって言っていましたよね。ですが、つかささんはその後に私たちがこなたさんを探しに行ったときに――」
「そうだ、『電話してみたけど圏外だった』って言ってたわ」
ゆたかが気づいていた違和感はこれだった。そうなると、つかさは嘘をついたことになる。だが考えても、つかさが携帯を忘れたと嘘をつく理由が分からない。ではなぜあのときつかさはそう言ったのか。良からぬ理由が先に思いついたのはかがみだった。
「幽霊……」
あのときのつかさが幽霊が成りすましたつかさだったら――。来るときにあった男女の一行が言っていた、長い間同じ場所にとどまると幽霊が出るという話。入り口とはいえこなたを待つ間ずっとあそこにいたのだ。彼らが言っていたことが本当ならば、あの時点で幽霊がいたとしても説明はつく。
「けど、そんなこと――」
ありえないわよ、と笑って続けようとしたかがみだったが、ポケットの中で震える携帯に気付いて取り出す。画面には知らない番号が表示されていた。
「はい、もしもし――」
「かがみん!!今どこ!?」
聞き覚えのある声が耳をつんざき、それは両脇の二人にも聞こえたようだった。
「え……こ、こなた? 」
「そうだよっ! 入り口に戻ったら誰もいなくてさっ、そしたらちょうどつかさから電話が来て、やっぱりつかさ宿で寝過ごしちゃったらしくてさ、それで一人であんなとこいるの怖かったから、私宿まで走って帰ったんだからね! 」
みゆきもゆたかも、かがみの携帯から漏れるこなたの声に冷や汗が流れる。
「だってあんたもつかさも目の前に――」
「何言ってんの! だから、私もつかさももう宿にいるから、早く帰ってきてよ! もう、ふざけるにも限度が――」
携帯ごしに聞こえる声はこなたの声だ。そしてそのこなたは、宿にいるのだと言う。つかさも一緒にいるのだと。
 こなたの怒鳴り声の向こうで、かすかにつかさの声も聞こえる。三人は知らず、足を止めてしまっていた。視線は向こうを歩く三人に移る。では、それでは。
ゆいと並んで歩いているあの二人は、一体誰なのだろうか?

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