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Surfer King

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「海だーっ!」
 高校生活最後の夏休み、こなたとかがみは二人で海に来ていた。
 これからテストや受験勉強で忙しくなるだろうし、少しぐらい二人の思い出を作っておきたかった。
 まだ午前中だが陽射しはかなり強く、既に多くの海水浴客が泳ぎ始めている。
「暑いわねー。よし、適当な場所にパラソル立てたら着替えて泳ごっか」
「そーだね。じゃあチャッチャとセットしてかがみの水着姿を堪能するとしますか」
「なっ、ば、バカなこと言わないの!」
「だってこの日をずっと楽しみにしてたんだもーん。」
「――っ、もう置いてくわよっ!」
 真っ赤な顔でそれだけ言うと、かがみは荷物を持ってさっさと砂浜へと降りていってしまった。それに続いてこなたも付いて行く。
 強い陽射しと潮風が心地良い。良い思い出が作れそうだ。


「よし、これくらいでいいかなっと」
 立てたパラソルを試しに少し揺らして、その強度を確かめる。深々と砂浜に刺さったそれは、ちょっとやそっとの力では倒れそうにない。
 これで良しとかがみは頭の中でOKサインを出す。
「じゃあこなた、ビニールシート敷いて」
「あいよー」
 かがみに言われてバッグの中からシートを取り出し、それを立てたパラソルの下に広げる。これで場所取りは完了。
「こんなもんだね。じゃあ水着に着替えよーかがみん!」
「はいはいもー、少しは落ち着きなさい」
 無意味にテンションの高いこなたをあしらいつつ、二人は更衣室へ向かって行った。


「うーん、やっぱり水着姿のかがみんは萌えるね~」
「萌えるとか言うな! まったくもう…」
 そうは言ってもどこか満更でもなさ気な表情のかがみ。やっぱり褒められてるのだと思うと悪い気はしない。
「…そう言うこなただって、その水着似合ってるわよ。」
「そりゃそうだよ、かがみが選んでくれたんだもん。かがみの目に狂いは無いね」
 少し照れくさそうにそう言われて、こなたはその場でくるっと一回転した。
 こなたが着ているのはいつものスクール水着ではなく、水色を基調にした一般的なワンピース水着。
 先日かがみと一緒に買い物に行ったときに勧められて買った物だ。
 最初は買うつもりなど無く、今日もスクール水着のままで良いと思っていたのだが、かがみに強く勧められたことが嬉しくて買ってしまった。
「じゃあかがみも水着になった事だし、早速泳ごう!」
「あ、ちょ、ちょっと引っ張らないでよ!」
 こなたはかがみの手を握ると、そのまま海の方へと駆け出した。
 こんな小さい体のどこにこれ程の力があるのだろうと思う位に手の力は強く、かがみは引っ張られる他無かった。
 そのまま何のためらいも無くこなたは海の中へ突っ込んで行き、二人もろとも水に足を取られて派手に水しぶきを立てて海の中へすっ転んでしまった。
「ぶはっ、しょっぱ…!」
「やー、やっと海水浴って感じがするね」
「準備運動もしないでいきなり危ないでしょうが!」
「固い事言いっこなしだよかがみ。それそれっ」
「うわっ、こ、こらっ」
 説教しようとしてきたかがみを気にする様子も無く、更には水をバシャバシャと掛けだしたこなた。
 最初は防御する一方だったかがみだが、やがて我慢の限界を超えると防御を止めてそのままこなたの元へと素早く近付いた。
「おおっ?」
「いい加減に…」
 一瞬怯んだこなたをお嬢様抱っこで抱き上げると、
「しなさいっ!!」
 思いっきりぶん投げた。
「おおおおぉぉ!!」
 放り出されたこなたは宙を舞った後、そのまま海の中へと吸い込まれるように落ちていった。
 水中へ落ちたこなたはパニクってしまいバシャバシャとしばしの間もがいた後、何とか体勢を立て直して姿を現した。
「うう…まさかここまでやるとは…。さすがかがみ、恐るべし…」
「あんたが悪いんだからね」
 ジト目で睨み合うこなたとかがみ。だけど二人とも全身ずぶ濡れで、その姿は何だか少し滑稽で。
「…はは」
「…ぷっ」
 あははははは。
 二人とも声を出して笑いあった。その光景は、どっからどう見ても完全なバカップル…。


 それから二人はひたすら海で遊びまくった。
 どっちが早く泳げるか競争したり、こなたが潜って綺麗な貝殻を拾ってきたり、ラジオの公開放送のロケを見たり、そのゲストであるバンドの生演奏を聞いたり。
 そうこうしている間に時間は過ぎ、気付けば昼過ぎになっていた。
「うう、お腹空いた…」
「もうこんな時間か…。そろそろお昼にしよう」
「さんせー」
 一旦昼休憩を取ろうと、定番である海の家へ。
 そこで昼食をとった後、腹ごなしにと浜辺を散歩して回った。
「王様キドリのメメメメメリケ~ン…♪」
「それ、さっきのあの曲?」
「うん。何だかインパクトあってついね」
「インパクトしか無い、って気もしないでもないけどね」
 他愛も無い事を話しながら、浜辺を歩いていく。しばらくそうしていると端の辺りまで来てしまい、人影もまばらになってきた。
 人が少ないせいか、泳いでいる人だけじゃなくサーフィンをやっている人もいる。
「さすがにここまで来ると人も少ないわね」
「そうだね。人が多いところじゃ危なくてサーフィンも出来ないし…ん?」
 ふと見てみると、そこには見知った顔があった。
 少し先にある緑色のパラソルの下にいる、赤い髪の小柄な女の子と、その隣にいる緑髪ショートのスレンダーな女性…。
 間違い無くみなみとゆたかだ。
「ゆーちゃんとみなみちゃんだ。おーい!」
「…あれ、お姉ちゃん? 柊先輩も?」
 こなたに呼ばれて二人がこちらに気付くと、二人とも駆け寄ってきた。
 二人とも水着の上にTシャツを着ている格好だ。
「奇遇だねえこんな所で。何してるの?」
「みんなで海水浴に来てたの。私はあんまり泳げないからここでゆっくりしてたんだ」
「へえ。みなみちゃんはどうしてたの?」
「…私はゆたかと一緒に休んでた」
「もう、気を使わないでみんなと遊んできても良いのに…」
「大丈夫。気なんて使って無いから。それに、ゆたかとこうしてるのも楽しいし…」
「みなみちゃん…」
 甘い、熱い。こなたとかがみに負けず劣らずな二人の空気にあてられそうになってしまう。
(…こりゃあ邪魔しちゃ悪いかな)
(そうね、お邪魔虫はさっさと退散しましょ)
 ヒソヒソとそんな話を交わす。
「あれ、泉先輩と柊先輩。奇遇っスねー」
「泉センパイ、柊センパイ。コンニチハ」
「あ、ひよりん。それにパティ」
「田村さんにパトリシアさんも。そう言えば“みんな”って言ってたっけ」
 いざその場を離れようとしたら、タイミング良く(悪く?)残り二人であるひよりとパトリシアが海から上がってきた。
「二人とも何してたんですか?」
「ん。かがみと海水浴にね。ちょっとブラブラしてたらたまたま二人を見かけて」
「そうなんですかー」
「…ところでさっきから気になってるんだけど、パトリシアさんが持ってるのって…。」
 かがみがパトリシアの持ってる物をしげしげと見ると、それを見せるようにパトリシアは自分の横にそれを立て掛けた。
 何かの萌え系のイラストがプリントされた板のような物。
「これ? サーフボードですヨ。」
「サーフボードって、サーフィン出来るの?」
「チョットだけですネ。まだ波にノルくらいで」
「へー、すごーい」
 尊敬に近いような眼差しでパトリシアを見つめるかがみ。
 パトリシアは少し照れくさそうに髪を掻いた。
 だけど、そんな光景を見せられてこなたは面白くない。
「ほらかがみ、お邪魔虫はさっさと…」
「よければ少しお見せしましょうカ?」
 こなたの言葉を遮り、パトリシアが言う。その言葉に、かがみの目がますます輝く。
「いいの?」
「ちょ、かがみ…」
「ええ、オヤスイゴヨウです」
 それだけ言うとパトリシアはサーフボードを持ち直し、海へと走りだした。
 パトリシアのサーフィンは、本人は謙遜していたがはっきり言ってかなり上手かった。
 波に華麗に乗り、滑るその姿はかがみは当然、ゆたか達の視線も釘付けだ。
「カッコイイなぁ。ねえ、こなた」
「…うん…。」
 歯切れ悪く、曖昧な返事をするこなた。はっきり言って、つまらない。かがみが他の人間に心を奪われたのが嫌だった。


 そうしてしばらくすると、パトリシアが戻ってきた。
「ドウデシタカ?」
 パトリシアがそう聞くと、かがみは盛大な拍手を送った。
 ただこなたは何の反応も無い。
「凄いカッコよかったよ! サーフィンってテレビぐらいでしか見たこと無いけどこんなカッコいいとは思わなかった」
「ソウデスカ。それはヨカッタ」
 かがみから賛辞を送られ、満更でもない様子で照れるパトリシア。
 海水と陽射しでキラキラと輝く金髪、悔しいくらいに決まっている。そんな中、こなたが黙って前へ出た。
「…パティ、ちょっとボード貸して」
「へ? 泉センパイ、サーフィン出来るんですか?」
「出来るよこれくらい!」
 少し声を荒げてそう言い、半ば強引にパトリシアからボードを借りるとそのまま視線を海へと向ける。
「なっ、こなた、あんたサーフィン出来るなんて一言も…」
「大丈夫。私はスポーツ万能だし、ゲーセンのサーフィンゲームで一位出したし」
「ゲームと現実は違うって…ってこなた待ちなさいよ!」
 後ろからかがみが引き止める声が聞こえるが、そんなの今のこなたには聞こえていない。
 かがみに見直させてやりたい、パトリシアに負けたくない、その二つだけがこなたの心を占めていた。
(えと、確かこの辺で…)
 ボードを水面に着けるとさっきのパトリシアの様子を思い出して、必死にその姿を真似ようとする。
 そして何とかその上に上がって立ち上がろうとする。が。
「おわぁっ!」
 立ち上がろうとした瞬間にバランスを崩し、そのまま海へとドボン。
 もう一度チャレンジしようと海面へ顔を出しボードにしがみつき、もう一度乗る。
 しかしこれもまた失敗して海へとドボン。
(このーっ!)
 もう一度、もう一度とトライするものの全然上手くいかない。
 波に乗るどころかボードの上に立つ事すら出来なかった。
「あれっ、ボードが…」
 何度目かのチャレンジに挑もうと海面に顔を出したが、ボードの姿が無い。
 どこに行ったんだ、と辺りを見渡す。すると、不意に後頭部に激しい衝撃を受けて目の前がフラッシュした。
 いくつもの星が目の前を飛び回っている。
(志村ー後ろ後ろー…かい…)
 薄れ行く意識の中、そんなしょうもないフレーズが頭を駆け巡っていった。


(う…ん…)
 後頭部のズキズキとした痛みで目を覚ました。
 どれくらい気絶していたのだろうか、空はすっかり茜色に染まっている。
(…ああそうか…私…)
「…ははっ…」
 気絶した時のことを思い出して自嘲的な笑みを漏らす。
 かがみにいいところ見せようとしたら思いっきりみっともない所を見せてしまった。
 こりゃあパティにかがみを持って行かれたかな、そんなネガティブ極まることを思ってしまう。
「こなた、目が覚めたの!? 大丈夫!?」
 不意にかがみの声が聞こえて、慌てて体を起こす。隣を見ると、涙目でこなたを見つめているかがみと目が合った。
「かがみ…」
「大丈夫、痛いところ無い!? ねえ!」
「大丈夫だよ、もう平気」
 そういって少しだけ笑って見せた。でも、それもすぐに沈んでしまう。
「かっこ悪いとこ、見せちゃったね…」
「かっこ悪いとこ?」
「うん。サーフィンやろうとして失敗して…。みっともないでしょ?」
 自嘲的に笑ってそんな事を言う。自分らしくも無い、こんな弱音を吐くなんて。
「ううん、そんな事無いよ」
「えっ?」
 予想していたのとは違う答えに、思わず聞き返してしまう。
 かがみの瞳は真っ直ぐで、一点の偽りも無い。
「必死に何度も挑戦するこなたの姿、なんて言うかその…カッコよかったよ」
「かがみ…」
 少し顔を赤く染めて言うかがみに、こなたは全てのモヤモヤが晴れていったような気がした。
 それと同時に、自分が凄いバカらしく思えてきた。
「…私さ、パティにかがみを取られるんじゃないかって思ったんだ」
「パティ…パトリシアさんに?」
「うん。あの時のかがみ、凄くパティに惚れてるように見えたから…。だからサーフィンで見返してやろうと思って…」
「そうだったの…」
 思っていたことを全て告白すると、かがみがそっと頬に手を添えてきた。
 そのままお互いに見つめあい、目を閉じるとどちらともなく唇と唇を重ね合わせる。
 数秒間経って唇を離すと、かがみの方から口を開いた。
「大丈夫。私はいつだって、こなたが一番だから…」
「…私だって同じだよ」


「あっ、お姉ちゃん目を覚ましたんだ。お姉ちゃ…」
 ゆたかがこなたに気付いて駆け寄ろうとしたが、みなみに肩を掴まれて足を止めた。
「みなみちゃん…?」
「…今は、二人きりにさせといた方がいい…。」
「…うん、そうだね」
 パラソルの下で微笑み合うかがみとこなたを見て、しばらく静かにしておこう。
 そう思って、二人はその場を後にした。



 その頃。
「ナイ! ナイ! 私のボードがナイ!!」
「もうそろそろ諦めようよ~…私もうヘトヘトなんだけど…」
「ダメ! あのボードは高かったんだから!!」
「…だったらそんなボード持ってこなきゃいいのに…」
 気絶したこなたを助ける際、そっちに気が回りすぎてボードの事を忘れた結果、気がつけばどこかへと流れて行ってしまったそうだ。
「ってか、私も何で手伝ってんだろ…。つくづくお人好しってやつね…」
「ひよりん、もっとガンバッテ!」
「あ~…」

<終>




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  • しぇ…青春だな~~~ -- 名無しさん (2011-04-13 05:39:49)

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