2時間目の授業中。
老齢の数学教師が様々な数式を黒板に書き殴っては説明し、すぐに消している。
進学校だけはあって授業のスピードは相当速いらしく、ノートに写すだけで精一杯の生徒も多いようだ。
窓のカーテンが風にあおられて膨らみ、自分の存在を主張する。
窓際に座っている生徒は、露骨にうっとうしそうに顔をしかめて窓を閉めて風を遮断する。
いつもと変わらない授業風景だ。
老齢の数学教師が様々な数式を黒板に書き殴っては説明し、すぐに消している。
進学校だけはあって授業のスピードは相当速いらしく、ノートに写すだけで精一杯の生徒も多いようだ。
窓のカーテンが風にあおられて膨らみ、自分の存在を主張する。
窓際に座っている生徒は、露骨にうっとうしそうに顔をしかめて窓を閉めて風を遮断する。
いつもと変わらない授業風景だ。
しかし、緑色の髪に青い目を持った一人の生徒――名は岩崎みなみという――にとってはその限りでは無かった。
普段ならみなみが授業について行けない事など有り得ない。
だが、今日はノートを半分も取れていない。気付けばさっきまで黒板を埋めていた数式は、別の式に変わっていた。
完全に集中出来ていない。その証拠にみなみの視線は黒板や手元の教科書ではなく、一人の生徒の元へ向かっていた。
普段ならみなみが授業について行けない事など有り得ない。
だが、今日はノートを半分も取れていない。気付けばさっきまで黒板を埋めていた数式は、別の式に変わっていた。
完全に集中出来ていない。その証拠にみなみの視線は黒板や手元の教科書ではなく、一人の生徒の元へ向かっていた。
ゆたか……具合悪そう……。
「ゆたか」と呼ばれたその生徒は、体調が悪いのを無理して授業を受けているように見えた。
机に突っ伏してこそいないが力の無い体は今にも崩れ落ちそうで、額には嫌な汗も滲んでいる。
呼吸も心なしか荒いし、熱でもあるのだろうか、頬も赤く染まっている。
気丈にも授業に集中しようとはしているようで、必死で黒板と手元のノートを見比べシャーペンを動かしている。
だが、あの調子ではとてもついてはいけてないだろう。
事実、教師が説明を終えた問題を黒板から消すと、その問題の解説を写し終えていなかったようで少しだけ「あっ」と漏らした。
机に突っ伏してこそいないが力の無い体は今にも崩れ落ちそうで、額には嫌な汗も滲んでいる。
呼吸も心なしか荒いし、熱でもあるのだろうか、頬も赤く染まっている。
気丈にも授業に集中しようとはしているようで、必死で黒板と手元のノートを見比べシャーペンを動かしている。
だが、あの調子ではとてもついてはいけてないだろう。
事実、教師が説明を終えた問題を黒板から消すと、その問題の解説を写し終えていなかったようで少しだけ「あっ」と漏らした。
みなみは、心配でどうにかなってしまいそうだった。
彼女の体調が崩れやすいのはいつもの事だが、今日は少し酷すぎる。
何故学校を休まなかったのかと問い詰めたくなるほどだったが、そんな事はもはやどうだっていい。
とにかく早くゆたかを休ませてあげたかった。
早く授業が終わって欲しいというみなみの願いとは関係なく、時間はいつも通りにしか進まない。
なのに、一分一秒が一時間にも二時間にも感じられた。
カチカチカチカチ、とシャーペンをせわしなくノックしても、時計の針は進まない。
やけにのろく進む時計が恨めしくて仕方がなかった。
彼女の体調が崩れやすいのはいつもの事だが、今日は少し酷すぎる。
何故学校を休まなかったのかと問い詰めたくなるほどだったが、そんな事はもはやどうだっていい。
とにかく早くゆたかを休ませてあげたかった。
早く授業が終わって欲しいというみなみの願いとは関係なく、時間はいつも通りにしか進まない。
なのに、一分一秒が一時間にも二時間にも感じられた。
カチカチカチカチ、とシャーペンをせわしなくノックしても、時計の針は進まない。
やけにのろく進む時計が恨めしくて仕方がなかった。
やがて待ちに待った授業終了を告げる鐘の音が響き、みなみは教師が教室から退出するのも待たずにゆたかの元へ駆け寄った。
「ゆたか、大丈夫!?」
いつもとは違うみなみの剣幕に、ゆたかも、そして周りの生徒達も少々面食らったようだ。
普段はあまり話さないクールキャラで知られているみなみがこれほどまでに取り乱しているのを見て、しかしそれを茶化す生徒は一人もいない。
「え…だ、大丈夫だよみなみちゃん……。次の授業もちゃんと受けるから……。」
そう言って、えへへ、と安心させるかのように笑いかけるゆたか。
しかしその笑みに力はなく、安心させるどころか更に心配を煽るだけだった。
「……駄目。大丈夫じゃない。保健室に行こう。」
「え?い、いいってば……」
ぱたぱたと手を振って、ゆたかはみなみの申し出を辞退する。
だがみなみがそれを聞き入れるはずもなく、ゆたかの手をとって強引に歩き出した。
「ちょ、ちょっとみなみちゃん……?」
「具合の悪い人を保健室へ連れていくのが保健委員の仕事。
今のゆたかは……どう見たって具合悪いよ。だから、連れてかないと。」
「で、でも……」
「それに、ゆたかが辛いと私も辛い。正直、今の辛そうなゆたかは見てられない。
だから、早く行こう。……抱っこしようか?」
あくまで真面目な、そして心配そうな顔でゆたかにそう言うみなみ。
みなみの頭はゆたかへの心配で一杯で、ここが教室のド真ん中だという事など完全に意識の外である。
だがいくら熱に浮かされた頭でも、それがとんでもない申し出である事くらいはゆたかにも判断出来た。
何しろ、教室内のほぼ全員が二人に注目しているのだ。その中でそんな恥ずかしい事が出来るはずもない。
「い、いいよそんなの!」
「そう?じゃあ、行くよ……ほら。」
すたすたと教室から出て行くみなみ。
自然と手をつながれているゆたかも一緒に出て行く形となり、後にはぽかんとしているクラスメイト達(とじーさん一人)が残された。
「ゆたか、大丈夫!?」
いつもとは違うみなみの剣幕に、ゆたかも、そして周りの生徒達も少々面食らったようだ。
普段はあまり話さないクールキャラで知られているみなみがこれほどまでに取り乱しているのを見て、しかしそれを茶化す生徒は一人もいない。
「え…だ、大丈夫だよみなみちゃん……。次の授業もちゃんと受けるから……。」
そう言って、えへへ、と安心させるかのように笑いかけるゆたか。
しかしその笑みに力はなく、安心させるどころか更に心配を煽るだけだった。
「……駄目。大丈夫じゃない。保健室に行こう。」
「え?い、いいってば……」
ぱたぱたと手を振って、ゆたかはみなみの申し出を辞退する。
だがみなみがそれを聞き入れるはずもなく、ゆたかの手をとって強引に歩き出した。
「ちょ、ちょっとみなみちゃん……?」
「具合の悪い人を保健室へ連れていくのが保健委員の仕事。
今のゆたかは……どう見たって具合悪いよ。だから、連れてかないと。」
「で、でも……」
「それに、ゆたかが辛いと私も辛い。正直、今の辛そうなゆたかは見てられない。
だから、早く行こう。……抱っこしようか?」
あくまで真面目な、そして心配そうな顔でゆたかにそう言うみなみ。
みなみの頭はゆたかへの心配で一杯で、ここが教室のド真ん中だという事など完全に意識の外である。
だがいくら熱に浮かされた頭でも、それがとんでもない申し出である事くらいはゆたかにも判断出来た。
何しろ、教室内のほぼ全員が二人に注目しているのだ。その中でそんな恥ずかしい事が出来るはずもない。
「い、いいよそんなの!」
「そう?じゃあ、行くよ……ほら。」
すたすたと教室から出て行くみなみ。
自然と手をつながれているゆたかも一緒に出て行く形となり、後にはぽかんとしているクラスメイト達(とじーさん一人)が残された。
……………。
「「「「「キャ~~~~~~~!!!!!」」」」」
たっぷり五秒ほどの間を取ってから、クラスの空気は女子達の黄色い歓声によって一気に弾け飛んだ。
「何アレ何アレ!?岩崎さんめちゃめちゃカッコいいじゃん!!」
「まさしく王子様って感じ!?あ~、あたしにもあんな人現れないかなぁ……♪」
「あれで男子だったら岩崎さん絶対モテるよね!」
「うんうん!クールだし、でもここぞという時はバシっと決めるし、勉強もスポーツも何でも出来るし、顔も凄い整ってるし!」
「そこにあの一途な性格だよ!くぅ~、小早川さんが羨ましい!」
「岩崎さんにならかなり抱っこされたいかも~♪」
「ちょっと男子達!あんたらもちょっとは岩崎さんを見習いなさいよ!」
冷静に考えれば完全にみなみを男性扱いしており微妙に本人に失礼な気もするが、誰もそんな事は気にしない。
きゃあきゃあという女子達の歓声と王子様談義は、次の授業が始まってもしばらく止むことは無かった。
ついでに言うと、教室の隅のほうで一人の眼鏡っ子が鼻血ボタボタ、目をらんらんと輝かせながらもの凄い勢いでメモ帳にペンを走らせていたのだが、それはまた別の話だろう。
たっぷり五秒ほどの間を取ってから、クラスの空気は女子達の黄色い歓声によって一気に弾け飛んだ。
「何アレ何アレ!?岩崎さんめちゃめちゃカッコいいじゃん!!」
「まさしく王子様って感じ!?あ~、あたしにもあんな人現れないかなぁ……♪」
「あれで男子だったら岩崎さん絶対モテるよね!」
「うんうん!クールだし、でもここぞという時はバシっと決めるし、勉強もスポーツも何でも出来るし、顔も凄い整ってるし!」
「そこにあの一途な性格だよ!くぅ~、小早川さんが羨ましい!」
「岩崎さんにならかなり抱っこされたいかも~♪」
「ちょっと男子達!あんたらもちょっとは岩崎さんを見習いなさいよ!」
冷静に考えれば完全にみなみを男性扱いしており微妙に本人に失礼な気もするが、誰もそんな事は気にしない。
きゃあきゃあという女子達の歓声と王子様談義は、次の授業が始まってもしばらく止むことは無かった。
ついでに言うと、教室の隅のほうで一人の眼鏡っ子が鼻血ボタボタ、目をらんらんと輝かせながらもの凄い勢いでメモ帳にペンを走らせていたのだが、それはまた別の話だろう。
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- うん。わたし も ゆたか が 羨ましいと思う。 -- 名無しさん (2013-04-30 01:00:00)
- 女子の中で唯一落ち着き払ってるひよりん。
…その実、クラスで1番 興奮度MAXのひよりんであった。 -- 名無しさん (2011-04-14 04:46:38) - やはり ゆたか×みなみ のアクセントにひよりんは必要な訳ですよ -- 名無しさん (2008-04-30 18:25:39)
- 萌えた -- 名無しさん (2007-10-13 16:45:54)
- 自分のツボにはまりまくりな逸品。GJ! -- 名無しさん (2007-09-13 12:53:46)
- なんというグッジョブ、これはもう新作を書かざるを得ない……
ありがとう、ありがとう(つ∀`)
でもまたダーク小説の火が点き始めてですね(ぁ -- F.F. (2007-07-31 23:39:52)