医学系

小論文講座 第一回 山崎章郎『病院で死ぬということ』


モデル解答 Iくん

 課題文を通して、筆者は医師の立場から、患者に対して現実とどのように向き合ってもらうべきかという問題を提起している。筆者は、彼女の「不治の病であることを知った結果の絶望の深さ」と「だまされ続けたあげく、孤独の中で死が待っていることを知る絶望の深さ」との間での葛藤の末、真実を伝える決意をした。私は、究極的にこの二者択一の状況にあったならば、筆者と同じ選択をしただろうが、ここに到る過程に問題があったと考える。
 インフォームド・コンセントが浸透してきた現在の日本においては、末期ガンの場合でも、患者に病状を告知するケースが増えてきた。家族にのみ告知する場合の目的は、患者に精神的苦痛をなるべく与えないことであるが、いずれ死への底知れぬ恐怖と闘う身であるのならば、現実を正確に伝えた上で、迫り来る死と向き合える環境を提供することも医師の責務だと思う。
 長男は、母親の精神的苦痛への配慮から、真実を告げることを拒んできたが、最期まで嘘を貫けたとしても、母親が得体の知れない病気と孤独に闘っていたのだと知ったら、後悔にさいなまれることになるのではないか。それならむしろ、現実を受け入れ、残された日々を有意義に過ごすことを目指した方が、幸せになれるような気がする。
 この事故が起きた原因として、母親の末来への不安を長男が予測することができず、母親への配慮が逆効果になってしまったということが挙げられる。しかし、医師からすれば、この事態は全く予測できないものではない。つまり、母親がこのような心理状態になるかもしれないということを長男に予め知らせていれば、このような悲劇は起きなかっただろう。医師と患者・家族との相互理解がさらに重要性を増す時代において、患者の心理状態にも配慮した、新しいインフォームド・コンセントの在り方が問われるべきだと思う。

評価

読解力 3/3
具体性 2/5
主題設定1/5
展開力 2/3
設問対応1/4
計   9/20 評価:D

コメント

 この問題については、設問に対応していない人がとても多かった。この解答例がその典型。設問不対応は評価の対象にならないので充分注意しなくてはいけない。
 設問の意図は「のっぴきならないこの状況で、キミはどう行動するのか? 何ができるのか?」という切実な問いだ。評論家のように、「もっと早く対応すべきであった」とか「家族ももっと患者のことを考えるべきだ」といった解説が求められているのではない。
 相手がパニックを起こして血とゲロにまみれながら鬼の形相で「本当のことを言え」と迫ってきたときに、キミはどんな行動を取るのか?
 今までのキミの人生が問われているのであり、医者になる覚悟が問われているのだ。
 ここで評論家のように述べているようでは、その修羅場ではきっと逃げるタイプの医者になるに違いない。とこの小論文を採点する教官たちは考えて出題しているのではないか。
 自分をその場において、リアルに想像してもう一度書こう。
最終更新:2009年01月22日 21:55
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