幼い頃から、色んなものが見えていた
柳の木の下に立つ、半透明の白い着物の女性、とか
お花見で皆が楽しく騒いでいる中、どこか陰気に俯いている男性とか
首のない人血塗れで歩き回っている人腰から下を無くして這いずり回っている人
色んなものが見え続けていた
はじめは、よくわからなかった
自分たちと同じ存在なのだ、と信じていた
……しかし、ある時から、それらが他の人々には見えていないのだ、と私は気付いてしまった
不思議だった
どうして、皆には見えないのか
当時の私は、その理由すら考えようとせず、その人々がどんな存在なのか、考えもしなかった
柳の木の下に立つ、半透明の白い着物の女性、とか
お花見で皆が楽しく騒いでいる中、どこか陰気に俯いている男性とか
首のない人血塗れで歩き回っている人腰から下を無くして這いずり回っている人
色んなものが見え続けていた
はじめは、よくわからなかった
自分たちと同じ存在なのだ、と信じていた
……しかし、ある時から、それらが他の人々には見えていないのだ、と私は気付いてしまった
不思議だった
どうして、皆には見えないのか
当時の私は、その理由すら考えようとせず、その人々がどんな存在なのか、考えもしなかった
……そう、あの瞬間までは
「はぁ……っ」
当時の私……いいえ、当時は僕、と自分を呼んでいた
僕は、それから必死に逃げていた
今まで見えていたものは、こちらが見ている事に気づいても、こちらに危害なんて加えてこなかった
親しげに、笑い返してくれる人もいたから…僕は、それらが怖いものである、なんて、考えた事がなかった
僕は、それから必死に逃げていた
今まで見えていたものは、こちらが見ている事に気づいても、こちらに危害なんて加えてこなかった
親しげに、笑い返してくれる人もいたから…僕は、それらが怖いものである、なんて、考えた事がなかった
襲われる、だなんて、考えた事も、なかったのだ
「ほらほらぁ、逃げないでおくれよぉ?」
血塗れた刃物を持った男性が、追いかけてくる
こちらを殺そうと、追いかけてくる
こちらを殺そうと、追いかけてくる
怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
ただただ、恐怖に支配されて、逃げ続ける
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
ただただ、恐怖に支配されて、逃げ続ける
「----っあ!?」
けれど
子供の足で、大人から逃げ切れるはずもなく
足をもつれさせ、転んでしまった
ガクガクと足が震えて、立ち上がれない
子供の足で、大人から逃げ切れるはずもなく
足をもつれさせ、転んでしまった
ガクガクと足が震えて、立ち上がれない
顔をあげると、狂気に支配された笑みを浮かべた男性が、刃物を振り上げてきていて…
殺される
瞬時にそう考え、僕は目を閉じた
瞬時にそう考え、僕は目を閉じた
-------くぅ
突然、場にそぐわない、何かの鳴き声が聞こえてきて
「……え」
ひょい、と
その体を、優しく抱き上げられた
恐る恐る、目をあけると…知らない男の人が、心配そうに見つめてきていて
その体を、優しく抱き上げられた
恐る恐る、目をあけると…知らない男の人が、心配そうに見つめてきていて
「大丈夫、ですか?」
「あ……う、うん」
「あ……う、うん」
…何が起こったのか、わからない
男の人の足元には、僕と同じくらいの年齢の男の子が、見た事もない生き物を抱いて、ぎゅう、と男の人に脚にしがみ付いていた
男の人の足元には、僕と同じくらいの年齢の男の子が、見た事もない生き物を抱いて、ぎゅう、と男の人に脚にしがみ付いていた
…聞こえてきたのは、絶叫
思わずそちらに視線をやると、こちらを殺そうとしていた刃物を持った男性の脚が……なくなっていた
思わずそちらに視線をやると、こちらを殺そうとしていた刃物を持った男性の脚が……なくなっていた
小さな、小さな……幼稚園児くらいの女の子が、男性の脚を、その小さな腕で抱きかかえている
切断されたと思わしきそれは、しかし、切断面から血が流れてすらいなかった
女の子は、逞しい体つきの男の人に片腕で抱き上げられていて、にこにこ、上機嫌に笑っていた
切断されたと思わしきそれは、しかし、切断面から血が流れてすらいなかった
女の子は、逞しい体つきの男の人に片腕で抱き上げられていて、にこにこ、上機嫌に笑っていた
「今だ、やれ!」
「わかってるわよっ!」
「わかってるわよっ!」
きらきらと、視界に輝くものが入り込んできた
キラキラ、キラキラと舞い散るそれは……金粉
それが、両足を失った、刃物を持った男性に降り注ぐ
その体が、金色に染まりあがっていく
キラキラ、キラキラと舞い散るそれは……金粉
それが、両足を失った、刃物を持った男性に降り注ぐ
その体が、金色に染まりあがっていく
「-------っ!!」
刃物を持った男性が、苦しげに暴れ出した
キラキラ、キラキラと
輝く金粉が体を覆うたび、苦しみ、暴れる
キラキラ、キラキラと
輝く金粉が体を覆うたび、苦しみ、暴れる
「子供を襲う、なんて悪い事は駄目よ?切りかかりおじさん」
キラキラ
金粉を周囲に漂わせた女性が、刃物を持った男性を見下ろしている
刃物を持ったおじさんは、もがいて、もがいて、苦しみ続けて……
とうとう、全身を、金粉に覆われてしまった
金粉を周囲に漂わせた女性が、刃物を持った男性を見下ろしている
刃物を持ったおじさんは、もがいて、もがいて、苦しみ続けて……
とうとう、全身を、金粉に覆われてしまった
直後、その体はびくりっ!!…と、大きく痙攣して
がくり、力尽きたように、動かなくなってしまった
がくり、力尽きたように、動かなくなってしまった
さぁ、と
その存在が、初めからなかったかのように、消えていく
小さな女の子が抱きかかえていた両足も、一緒に消えてしまった
その存在が、初めからなかったかのように、消えていく
小さな女の子が抱きかかえていた両足も、一緒に消えてしまった
ほっと、僕を抱きかかえてくれていた男の人が、息を吐く
「終わりましたね…もう、大丈夫ですよ」
「ぁ…」
「ぁ…」
優しく、頭を撫でられた
…助かったのだ、と
ようやく、僕はそれを実感して
男の人に抱きついて、わんわんと泣いてしまったのを、よく覚えている
…助かったのだ、と
ようやく、僕はそれを実感して
男の人に抱きついて、わんわんと泣いてしまったのを、よく覚えている
あの後、赤いはんてんを纏った男の人も、駆けつけてきて
他のも片付けた、とか、そう言う事を話していた
眠くなってきていた頭で、ぼんやりと聞いていたら…あの刃物を持った男性は、「都市伝説」と呼ばれる存在らしかった
今まで自分が見えてきたものも、大半はそうなのだと、その時に理解する
…そして
自分を助けてくれた、この人達も、また
その、「都市伝説」と呼ばれる力を使って…悪い都市伝説から、人々を護っているのだと
子供ながらに、自分はそう理解して
…その存在に、憧れた
自分を助けてくれた人々
自分も、いつか、こんな風になりたいな、と
そう、子供心に感じたのを、はっきりと覚えている
他のも片付けた、とか、そう言う事を話していた
眠くなってきていた頭で、ぼんやりと聞いていたら…あの刃物を持った男性は、「都市伝説」と呼ばれる存在らしかった
今まで自分が見えてきたものも、大半はそうなのだと、その時に理解する
…そして
自分を助けてくれた、この人達も、また
その、「都市伝説」と呼ばれる力を使って…悪い都市伝説から、人々を護っているのだと
子供ながらに、自分はそう理解して
…その存在に、憧れた
自分を助けてくれた人々
自分も、いつか、こんな風になりたいな、と
そう、子供心に感じたのを、はっきりと覚えている
あの人達が、あの後どうなったのか…私は、よく覚えていない
むしろ、あの後、自分があの人達と別れた瞬間すら、よく覚えていないのだ
ただ…確実であるのは
私が滝夜叉と出会い、契約したのは……それから、さほど時間のたっていない時期だと言う事
むしろ、あの後、自分があの人達と別れた瞬間すら、よく覚えていないのだ
ただ…確実であるのは
私が滝夜叉と出会い、契約したのは……それから、さほど時間のたっていない時期だと言う事
滝夜叉と契約することで、私は「都市伝説」に積極的に関わるようになった
あの人達のように、誰かを護りたかった、誰かを助けたかった
その思いだけで、「都市伝説」に関わり続けた
あの人達のように、誰かを護りたかった、誰かを助けたかった
その思いだけで、「都市伝説」に関わり続けた
息子が生まれて、息子を産んだ女がいなくなって………今のお店を、初めて
自由な時間は確実に減ってしまったけれど、今でも、できる限り、「都市伝説」にかかわり、悩んでいる人を、苦しんでいる人を助けようと、救おうと、努力し続けてきた
自由な時間は確実に減ってしまったけれど、今でも、できる限り、「都市伝説」にかかわり、悩んでいる人を、苦しんでいる人を助けようと、救おうと、努力し続けてきた
…そして、これからも
それは、変わらないのだ
それは、変わらないのだ
「うー!パパ、早くー!うー!」
「あらあら…落ち着いて。焦らなくても、大丈夫よ」
『きひひっ、そうじゃぞ?焦らずとも、父上は逃げんわ!』
「あらあら…落ち着いて。焦らなくても、大丈夫よ」
『きひひっ、そうじゃぞ?焦らずとも、父上は逃げんわ!』
…そう言う滝夜叉だって、気が急いているのが、よくわかる
ぐいぐい、私の手を引っ張ってきている息子に負けず劣らず…楽しみで、仕方ない様子
ぐいぐい、私の手を引っ張ってきている息子に負けず劣らず…楽しみで、仕方ない様子
……当たり前だ
彼女は、久しぶりに、父親に会えるのだから
彼女は、久しぶりに、父親に会えるのだから
息子が、何かしらの都市伝説の集団と関わっている事は知っていた
…けれど、それがまさか
滝夜叉の父親が率いる集団だったなんて
もっと、早く教えてくれれば良かったのに
そうは思ったけれど、息子は「うー?」と首を傾げてくるだけだった
滝夜叉も、知っていたようだったけれど、私に話してくれなくて
…もしかしたら、こちらが忙しい、と思って、遠慮してくれていたのかもしれない
だとしたら、滝夜叉には悪い事をしてしまった
父親と会えるチャンスを、ずっと放棄させてしまっていたのだから
…けれど、それがまさか
滝夜叉の父親が率いる集団だったなんて
もっと、早く教えてくれれば良かったのに
そうは思ったけれど、息子は「うー?」と首を傾げてくるだけだった
滝夜叉も、知っていたようだったけれど、私に話してくれなくて
…もしかしたら、こちらが忙しい、と思って、遠慮してくれていたのかもしれない
だとしたら、滝夜叉には悪い事をしてしまった
父親と会えるチャンスを、ずっと放棄させてしまっていたのだから
「うー!これからはパパも一緒ー!一緒に「首塚」で将門様の部下ー!うーうー!!」
楽しげに、楽しげに、息子は笑っている
…そうだ、私も、きっと楽しい
「首塚」に入れば、都市伝説と関わる機会が、増える
…都市伝説に困っている人達を、もっと救えるようになるかもしれない
…そうだ、私も、きっと楽しい
「首塚」に入れば、都市伝説と関わる機会が、増える
…都市伝説に困っている人達を、もっと救えるようになるかもしれない
まだ、私はあの人達には、きっと、遠く及ばない
もしかしたら、あの人達には一生敵わない
もしかしたら、あの人達には一生敵わない
…でも、ほんの少しでも
あの人達に近づきたい
あの人達のような存在になりたい
あの人達に近づきたい
あの人達のような存在になりたい
……私のその願いは、きっと、永遠に変わらないのだ
fin