誘拐と人食い 01
「むう」
壱岐大は通帳の残高を確認しながら、軽く溜息を吐く
朝食のトーストに齧りついていた、都市伝説『踏み切りで眼球を探す少女』であるまぐろが首を傾げる
現在、大は無職である
就職活動はしているのだが、高卒という学歴と、履歴書には書けない三年間の『マグロ漁船』生活がそれなりに響いているのだ
とりあえずはアルバイトをして日銭は稼いでいるが、都市伝説とはいえ同居人を一人養っていると出費はそれなりになる
一般人には、まぐろが見せようとしなければその姿は見えないようなのだが
どうやら霊感が強かったり、相手が都市伝説や契約者だったりすると普通に見えてしまうようなのだ
人間ではなく、本人にあまり自覚も無いのだが外見は高校生ぐらいの女の子である
身だしなみには気を遣ってあげるとそれなりにお金は掛かるのだ
「一年ぐらいは大丈夫だけど、きちんと稼がないと後々困るしな」
もぐもぐとトーストを咀嚼しながら、ぽっかりと空いた眼窩で見詰めてくるまぐろ
「お金、ないの?」
「大丈夫、まぐろは気にしなくていい」
そう言って頭を撫でてやると、僅かに頬を緩めて「んふー」と喉を鳴らす
一緒に生活するようになって判ったが、外見は16歳ぐらいではあるが、社会性や精神レベルは小学生ぐらいの感じである
本来なら外見相応か、生きてきた年月分の精神レベルを保つらしいのだが、野良の都市伝説として過ごしていた分その辺りが退化していたようである
「元締めは金貸しが本業だし、あんまり相談するわけにもいかないからな……やっぱり地道に就職活動か」
「お出掛け?」
「本を買いに行くのと、後は食料の買い足しだな。サングラス忘れるなよ」
「はーい」
都市伝説や契約者相手なら良いのだが、霊感があるだけの一般人相手にはまぐろの外見は少々衝撃的である
都市伝説としての特性で変わらない外見である眼球の無い眼窩、擦り剥けた指先と膝は、それぞれサングラス、手袋、ニーハイソックスで隠しているのだ
それらも害意を向けてくる都市伝説との遭遇戦になると、壊れたり破れたりするので消耗品だったりするのだが
それでも、初めて着飾った時のまぐろのはしゃぎようが忘れられない事と
そうでなくても自分のために身体を張って戦ってくれているのだからと考えてしまう辺りが損な性分である
壱岐大は通帳の残高を確認しながら、軽く溜息を吐く
朝食のトーストに齧りついていた、都市伝説『踏み切りで眼球を探す少女』であるまぐろが首を傾げる
現在、大は無職である
就職活動はしているのだが、高卒という学歴と、履歴書には書けない三年間の『マグロ漁船』生活がそれなりに響いているのだ
とりあえずはアルバイトをして日銭は稼いでいるが、都市伝説とはいえ同居人を一人養っていると出費はそれなりになる
一般人には、まぐろが見せようとしなければその姿は見えないようなのだが
どうやら霊感が強かったり、相手が都市伝説や契約者だったりすると普通に見えてしまうようなのだ
人間ではなく、本人にあまり自覚も無いのだが外見は高校生ぐらいの女の子である
身だしなみには気を遣ってあげるとそれなりにお金は掛かるのだ
「一年ぐらいは大丈夫だけど、きちんと稼がないと後々困るしな」
もぐもぐとトーストを咀嚼しながら、ぽっかりと空いた眼窩で見詰めてくるまぐろ
「お金、ないの?」
「大丈夫、まぐろは気にしなくていい」
そう言って頭を撫でてやると、僅かに頬を緩めて「んふー」と喉を鳴らす
一緒に生活するようになって判ったが、外見は16歳ぐらいではあるが、社会性や精神レベルは小学生ぐらいの感じである
本来なら外見相応か、生きてきた年月分の精神レベルを保つらしいのだが、野良の都市伝説として過ごしていた分その辺りが退化していたようである
「元締めは金貸しが本業だし、あんまり相談するわけにもいかないからな……やっぱり地道に就職活動か」
「お出掛け?」
「本を買いに行くのと、後は食料の買い足しだな。サングラス忘れるなよ」
「はーい」
都市伝説や契約者相手なら良いのだが、霊感があるだけの一般人相手にはまぐろの外見は少々衝撃的である
都市伝説としての特性で変わらない外見である眼球の無い眼窩、擦り剥けた指先と膝は、それぞれサングラス、手袋、ニーハイソックスで隠しているのだ
それらも害意を向けてくる都市伝説との遭遇戦になると、壊れたり破れたりするので消耗品だったりするのだが
それでも、初めて着飾った時のまぐろのはしゃぎようが忘れられない事と
そうでなくても自分のために身体を張って戦ってくれているのだからと考えてしまう辺りが損な性分である
―――
「元締めー、やっぱ駄目っスね。ガチで行方不明っス」
音門金融の社長室で、黒服の女が困り顔で語る
「何だ、父親の情で逃がしてやったとかじゃねぇのか。売られるって勘付いて逃げたか、あの娘」
「そりゃ無いっス。昨日顔を合わせた時も、この格好のあっしをただのお客人だと思ってたトロい娘っスからね」
元締めは机の上のパソコンに視線を移し、音声チャットソフトを立ち上げる
「つーわけで、ちょいと探してくれるか。一応携帯は持っていってるはずなんでな」
《あのー、うちは復讐専門なんですが》
映像は無い、音声だけの通話に出たのは若い女の声
「復讐とか不毛だと説いて回ってる癖にか? それとも何か、借金のカタに売られる娘を探すのは嫌か」
《私も一応女ですから、そういう風に扱われる女性を見るのは嫌ですけどね》
しばし悩んだように沈黙があったが
《ここしばらく、行方不明事件がやたら多いのは事実です。何らかの都市伝説事件に巻き込まれていないか、それだけで良ければ調べますよ》
「それで充分だ。最低限生きてるか死んでるか判れば、後はどうにでもなる」
《了解しました。では『橘あゆみメールサービス』、確かにその一件請け負わせていただきます》
通話が切れると、元締めはやれやれと溜息を吐いて煙草を取り出し火を点ける
「行方不明っつーと、何年か前にこの町から締め出してやった連中を思い出すな」
「ああ、いたっスねそんな奴ら」
「なんつったっけか……『誘拐結社』とか、そんな捻りもクソも無ぇ名前だったかな、確か」
ふうと紫煙を吐き出し、元締めは黒服の女に告げる
「あの娘売る予定だった狒々爺に話聞いて来い。あいつらが絡んでるなら、あの爺は上客のはずだ」
「うえっ!? 嫌っスよ! あの爺、若い女がエロい格好しないと会ってすらくれないんスよ!?」
「だからお前が行くんだよ。会えさえすりゃどうにかなるだろお前なら。他の奴だとベッドまで連れ込まれなきゃ何も聞けねぇ」
「そりゃそうっスけど……あの爺、四六時中エロい事しか考えてないから、近付くのも嫌なんスよね」
渋々といった様子で部屋から出ていく黒服の女
元締めは煙草を咥えたまま、中空を睨んで思案に耽る
「『誘拐結社』の仕業にしちゃ、ちょいと行方不明が多いな……『組織』の連中はちゃんと仕事してんのかよ」
都市伝説の仕事を紹介する折に使っている手帳に、栞代わりに挟んである一枚のカード
サロリアス サジャス
『Zacarias Zayas』という名が刻まれたその認識票に付いていた写真は、いかにも黒服といった格好をした元締めの姿だった
音門金融の社長室で、黒服の女が困り顔で語る
「何だ、父親の情で逃がしてやったとかじゃねぇのか。売られるって勘付いて逃げたか、あの娘」
「そりゃ無いっス。昨日顔を合わせた時も、この格好のあっしをただのお客人だと思ってたトロい娘っスからね」
元締めは机の上のパソコンに視線を移し、音声チャットソフトを立ち上げる
「つーわけで、ちょいと探してくれるか。一応携帯は持っていってるはずなんでな」
《あのー、うちは復讐専門なんですが》
映像は無い、音声だけの通話に出たのは若い女の声
「復讐とか不毛だと説いて回ってる癖にか? それとも何か、借金のカタに売られる娘を探すのは嫌か」
《私も一応女ですから、そういう風に扱われる女性を見るのは嫌ですけどね》
しばし悩んだように沈黙があったが
《ここしばらく、行方不明事件がやたら多いのは事実です。何らかの都市伝説事件に巻き込まれていないか、それだけで良ければ調べますよ》
「それで充分だ。最低限生きてるか死んでるか判れば、後はどうにでもなる」
《了解しました。では『橘あゆみメールサービス』、確かにその一件請け負わせていただきます》
通話が切れると、元締めはやれやれと溜息を吐いて煙草を取り出し火を点ける
「行方不明っつーと、何年か前にこの町から締め出してやった連中を思い出すな」
「ああ、いたっスねそんな奴ら」
「なんつったっけか……『誘拐結社』とか、そんな捻りもクソも無ぇ名前だったかな、確か」
ふうと紫煙を吐き出し、元締めは黒服の女に告げる
「あの娘売る予定だった狒々爺に話聞いて来い。あいつらが絡んでるなら、あの爺は上客のはずだ」
「うえっ!? 嫌っスよ! あの爺、若い女がエロい格好しないと会ってすらくれないんスよ!?」
「だからお前が行くんだよ。会えさえすりゃどうにかなるだろお前なら。他の奴だとベッドまで連れ込まれなきゃ何も聞けねぇ」
「そりゃそうっスけど……あの爺、四六時中エロい事しか考えてないから、近付くのも嫌なんスよね」
渋々といった様子で部屋から出ていく黒服の女
元締めは煙草を咥えたまま、中空を睨んで思案に耽る
「『誘拐結社』の仕業にしちゃ、ちょいと行方不明が多いな……『組織』の連中はちゃんと仕事してんのかよ」
都市伝説の仕事を紹介する折に使っている手帳に、栞代わりに挟んである一枚のカード
サロリアス サジャス
『Zacarias Zayas』という名が刻まれたその認識票に付いていた写真は、いかにも黒服といった格好をした元締めの姿だった