誘拐と人食い 07
突然聞こえてきた悲鳴に、顔色を変える『人攫いサーカス』の団長と軽業師の女
「何があった」
サロリアスが問うと、二人が答える前に梨々が耳打ちする
「こいつら、サーカスの敷地内で起こった事は感知できるようなんスけど。敷地の地下から奇襲されてるようっス」
「奇襲だと? 『組織』の連中か」
「違うっスね。例の『ソニー・ビーン一家』っス」
今思えば、『ソニー・ビーン一家』の事を伝えたπ-No.0の反応
『ソニー・ビーン一家』の子供達が倒されていたという話に、あからさまに動揺を見せていた
「あいつら、狩りをして増えやがるのか」
「視界に入ってきたところを読んでみない事にゃ、詳細はわからねっスね」
「そりゃ襲われる時だな」
そうこうしているうちに、ばたばたと一行の元へ逃げ込んでくる一人と一匹
「あれなんなんですか団長!? 事務室行ったらえらい事になってましたよ!」
全身傷だらけの猛獣使いの男が、同じく傷だらけのライオンに引き摺られるように現れる
「ワシだってわからんわい!? というか鍵はどうした!」
「敷地内の様子は団長も判るでしょう、逃げるので手一杯に決まってんじゃないですか! 無茶言わないで下さいよ!」
ぐったりと座り込むライオンを労うように撫でながら、半泣きで叫ぶ猛獣使いの男
そんな彼の後ろにふらりと現れた、服がぼろぼろになった道化師がじゃらりと鍵束を取り出した
「お前、あの状況でよく持ってこれたな……なに? 逃げるのとどさくさに紛れるのは得意? 自慢になんねぇけど良くやったよ」
道化師から鍵束を受け取ると、それを持ってまぐろが閉じ込められた檻にばたばたと駆けていく団長
「余計な事をやらかすんじゃねぇぞ?」
「今の状況でそんな事考えてられますか!? うちのサーカス団はほぼ全滅です! 逃げるにせよ何にせよ、一人でも戦力増やさないとどうしようもないでしょう!」
未だに警戒の色を解かないサロリアスに、団長は悲鳴じみた抗議の声を上げる
そうこうしている間に鍵は開けられ、風船を握ったままぼんやりとしたまぐろが檻から解放される
即座に大が駆け寄るが、まぐろはぼんやりとしたまま浮かぶ風船を見詰めている
「風船を手放させればいいのか?」
「放したがらないでしょうし、割っちゃいましょう」
確かに、風船を取り上げようと握った指をこじ開けようとするが、それを嫌がるように都市伝説の怪力で手を握り締めてしまう
団長が目配せすると、軽業師の女が見栄えの良い大振りなナイフを取り出し、風船目掛けて投げ付ける
ナイフは正確に風船のど真ん中を打ち抜いて、軽快な破裂音の後に檻に命中し
刺さる事も弾かれる事も無く、切っ先をぴたりとくっつけるかのように一瞬静止し、ぽろりと地面に落ちて乾いた音を立てる
「それも都市伝説捕獲用の素材か」
「え、ええ。『誘拐結社』で用意されている、都市伝説無効化素材でございます。都市伝説や契約者が関与した影響を一切無効化してしまいます」
「この檻ん中に引き篭もれば奴らも手が出ないんじゃないっスかね?」
「所詮は檻だ。出入りはできねぇだろうが隙間からの攻撃はされるだろうな。そうなると逆に逃げ場が無い」
まだ幾分かぼんやりしているまぐろを抱き寄せる大を尻目に、あれこれ相談を重ねるサロリアスと梨々
「『ソニー・ビーン一家』のスペックが情報通りなら、倒すのは不可能だ。なんとか逃げる為に包囲を突破するぞ」
「こういう時は地下の下水道とかが逃げ道になるんでしょうけど、そこはあいつらのホームグラウンドみたいっスし。どうしたもんスかねぇ」
ひたり
ひたり、と
遠巻きだった気配が近付いてくる
既に『人攫いサーカス』の団員は各個撃破の憂き目に遭い、加工前の食肉となってあちこちに散らばっている
サーカス団の敷地内という特殊状況が、食料を確保しての即時撤退という選択をせずに狩りを続行を選ばせたのだ
やがて現れたのは、何処にでもいるような西洋人の少年少女
死体から剥ぎ取ったちぐはぐな服と、その手に馴染んだ様々な武器
そしてそれら全てを赤黒く染める返り血が、真っ当な存在でない事を全力で主張していた
「コレデサイゴ」
「ゼンブコロス」
「ソシタラハコブ」
「ニクイッパイ」
「エイヨウイッパイ」
「コドモタクサンツクル」
片言で喋りながら、一人、また一人と人数を増やしていく『ソニー・ビーン一家』の子供達
「社長、あいつら全ての『詰み』までのチェスの棋譜ぐらいもの凄い手広く作戦立ててやがるっス。読んでも伝えてる暇は無いっスよ」
「チェスならまだ可愛いもんだ。将棋だって言われたら自決も考えたな」
まだ冗談を言える余裕があるサロリアスと梨々と、すっかり萎縮してしまっている『人攫いサーカス』の面々
そして大とまぐろは、ここまでの危機的状況に遭遇した事が無い為、逆に落ち着いた様子だった
「俺達は何かできる事はありますか?」
「よくわかんないけど、がんばるよー」
「とにかく自分の身ぐらいは自分で守れ。他人を気遣ってる余裕は無ぇぞ、多分な」
「来るっスよ!」
まるで一つの生命体であるかのように、統制の取れた動きで一行の周囲を取り囲む『ソニー・ビーン一家』の子供達
第一波が一斉に襲い掛かるのと同時に、相手の動きを見て即座に動くべく第二波が身構える
矢継ぎ早に飛び掛ってくる子供達を、それぞれがそれぞれの手段で迎撃し始める一行
サロリアスの拳銃が、梨々の体術が、軽業師の女のナイフが、猛獣使いの男の鞭が、まぐろの腕力が
攻め手を叩き返すものの傷は一切負わせる事は出来ていない
「セメロ、セメタテロ」
「タタカエナイヤツ、マズネラエ」
弾き返された第一波が態勢を立て直すより早く、第二波が飛び出して
今度は大、団長、道化師に狙いを絞って襲い掛かる
「団長は私が!」
「オッケー!」
連携なら負けてはいないと言わんばかりに、即座に立ち位置を修正し迎撃に移る軽業師の女と猛獣使いの男
「契約者は、ちゃんと守るよー」
単純な腕力だけで数人の子供達をまとめて薙ぎ払い叩き落し振り払い投げ付けるまぐろ
その理不尽なまでの暴力に、敵も味方も一瞬呆気に取られてしまう
「契約者持ちは違うっスね、やっぱり」
「腕力だけじゃねぇぞ……まあ相手はそれ以上の対応能力があるみてぇだがな」
まぐろの手には、いつの間にかいくつかの眼球が握られている
本来なら抉り取り致命傷を与える能力ではあるのだが、契約により傷付けずただ『奪う』事もできるようになったお陰か
取り外しただけでダメージは与えていないという点から、ルールの隙間を縫うように効果を及ぼせたようだ
ただ、敵の動きに全く変化は無い
子供達は作戦指示により視覚など無くても問題無く動けているのだ
「全員の視力を奪うのは無理か」
「持ちきれないよー」
片手に溢れるほどの眼球は、戦闘の合間に取りこぼして奪い返されている
傷付けないで視力を奪う反面、取り返されれば即座に復活されるというデメリットもあるのだ
「しかし、このままじゃジリ貧だぞ!? 戦力をひっくり返すアテとか無いのかよ!」
負傷の多い猛獣使いの男が泣き言を漏らす
「俺としちゃあ、お前らの数をアテにしてたんだがな。相手がそれ以上で、しかも攻め手に回ってきて、更にお前らを狙ってきたのは想定外だった」
「社長、そんなもん想定できんのは『ラプラスの悪魔』と『ノストラダムスの預言書』を同時にかつ完璧に使いこなせるような化物ぐらいっス」
「もしそんな奴が居たら、さっさと教えとけとぶん殴っておかんとな」
再装填をする気配も無く、ばかすかと拳銃を撃ち続けながらサロリアスは苦々しく呟いた
「何があった」
サロリアスが問うと、二人が答える前に梨々が耳打ちする
「こいつら、サーカスの敷地内で起こった事は感知できるようなんスけど。敷地の地下から奇襲されてるようっス」
「奇襲だと? 『組織』の連中か」
「違うっスね。例の『ソニー・ビーン一家』っス」
今思えば、『ソニー・ビーン一家』の事を伝えたπ-No.0の反応
『ソニー・ビーン一家』の子供達が倒されていたという話に、あからさまに動揺を見せていた
「あいつら、狩りをして増えやがるのか」
「視界に入ってきたところを読んでみない事にゃ、詳細はわからねっスね」
「そりゃ襲われる時だな」
そうこうしているうちに、ばたばたと一行の元へ逃げ込んでくる一人と一匹
「あれなんなんですか団長!? 事務室行ったらえらい事になってましたよ!」
全身傷だらけの猛獣使いの男が、同じく傷だらけのライオンに引き摺られるように現れる
「ワシだってわからんわい!? というか鍵はどうした!」
「敷地内の様子は団長も判るでしょう、逃げるので手一杯に決まってんじゃないですか! 無茶言わないで下さいよ!」
ぐったりと座り込むライオンを労うように撫でながら、半泣きで叫ぶ猛獣使いの男
そんな彼の後ろにふらりと現れた、服がぼろぼろになった道化師がじゃらりと鍵束を取り出した
「お前、あの状況でよく持ってこれたな……なに? 逃げるのとどさくさに紛れるのは得意? 自慢になんねぇけど良くやったよ」
道化師から鍵束を受け取ると、それを持ってまぐろが閉じ込められた檻にばたばたと駆けていく団長
「余計な事をやらかすんじゃねぇぞ?」
「今の状況でそんな事考えてられますか!? うちのサーカス団はほぼ全滅です! 逃げるにせよ何にせよ、一人でも戦力増やさないとどうしようもないでしょう!」
未だに警戒の色を解かないサロリアスに、団長は悲鳴じみた抗議の声を上げる
そうこうしている間に鍵は開けられ、風船を握ったままぼんやりとしたまぐろが檻から解放される
即座に大が駆け寄るが、まぐろはぼんやりとしたまま浮かぶ風船を見詰めている
「風船を手放させればいいのか?」
「放したがらないでしょうし、割っちゃいましょう」
確かに、風船を取り上げようと握った指をこじ開けようとするが、それを嫌がるように都市伝説の怪力で手を握り締めてしまう
団長が目配せすると、軽業師の女が見栄えの良い大振りなナイフを取り出し、風船目掛けて投げ付ける
ナイフは正確に風船のど真ん中を打ち抜いて、軽快な破裂音の後に檻に命中し
刺さる事も弾かれる事も無く、切っ先をぴたりとくっつけるかのように一瞬静止し、ぽろりと地面に落ちて乾いた音を立てる
「それも都市伝説捕獲用の素材か」
「え、ええ。『誘拐結社』で用意されている、都市伝説無効化素材でございます。都市伝説や契約者が関与した影響を一切無効化してしまいます」
「この檻ん中に引き篭もれば奴らも手が出ないんじゃないっスかね?」
「所詮は檻だ。出入りはできねぇだろうが隙間からの攻撃はされるだろうな。そうなると逆に逃げ場が無い」
まだ幾分かぼんやりしているまぐろを抱き寄せる大を尻目に、あれこれ相談を重ねるサロリアスと梨々
「『ソニー・ビーン一家』のスペックが情報通りなら、倒すのは不可能だ。なんとか逃げる為に包囲を突破するぞ」
「こういう時は地下の下水道とかが逃げ道になるんでしょうけど、そこはあいつらのホームグラウンドみたいっスし。どうしたもんスかねぇ」
ひたり
ひたり、と
遠巻きだった気配が近付いてくる
既に『人攫いサーカス』の団員は各個撃破の憂き目に遭い、加工前の食肉となってあちこちに散らばっている
サーカス団の敷地内という特殊状況が、食料を確保しての即時撤退という選択をせずに狩りを続行を選ばせたのだ
やがて現れたのは、何処にでもいるような西洋人の少年少女
死体から剥ぎ取ったちぐはぐな服と、その手に馴染んだ様々な武器
そしてそれら全てを赤黒く染める返り血が、真っ当な存在でない事を全力で主張していた
「コレデサイゴ」
「ゼンブコロス」
「ソシタラハコブ」
「ニクイッパイ」
「エイヨウイッパイ」
「コドモタクサンツクル」
片言で喋りながら、一人、また一人と人数を増やしていく『ソニー・ビーン一家』の子供達
「社長、あいつら全ての『詰み』までのチェスの棋譜ぐらいもの凄い手広く作戦立ててやがるっス。読んでも伝えてる暇は無いっスよ」
「チェスならまだ可愛いもんだ。将棋だって言われたら自決も考えたな」
まだ冗談を言える余裕があるサロリアスと梨々と、すっかり萎縮してしまっている『人攫いサーカス』の面々
そして大とまぐろは、ここまでの危機的状況に遭遇した事が無い為、逆に落ち着いた様子だった
「俺達は何かできる事はありますか?」
「よくわかんないけど、がんばるよー」
「とにかく自分の身ぐらいは自分で守れ。他人を気遣ってる余裕は無ぇぞ、多分な」
「来るっスよ!」
まるで一つの生命体であるかのように、統制の取れた動きで一行の周囲を取り囲む『ソニー・ビーン一家』の子供達
第一波が一斉に襲い掛かるのと同時に、相手の動きを見て即座に動くべく第二波が身構える
矢継ぎ早に飛び掛ってくる子供達を、それぞれがそれぞれの手段で迎撃し始める一行
サロリアスの拳銃が、梨々の体術が、軽業師の女のナイフが、猛獣使いの男の鞭が、まぐろの腕力が
攻め手を叩き返すものの傷は一切負わせる事は出来ていない
「セメロ、セメタテロ」
「タタカエナイヤツ、マズネラエ」
弾き返された第一波が態勢を立て直すより早く、第二波が飛び出して
今度は大、団長、道化師に狙いを絞って襲い掛かる
「団長は私が!」
「オッケー!」
連携なら負けてはいないと言わんばかりに、即座に立ち位置を修正し迎撃に移る軽業師の女と猛獣使いの男
「契約者は、ちゃんと守るよー」
単純な腕力だけで数人の子供達をまとめて薙ぎ払い叩き落し振り払い投げ付けるまぐろ
その理不尽なまでの暴力に、敵も味方も一瞬呆気に取られてしまう
「契約者持ちは違うっスね、やっぱり」
「腕力だけじゃねぇぞ……まあ相手はそれ以上の対応能力があるみてぇだがな」
まぐろの手には、いつの間にかいくつかの眼球が握られている
本来なら抉り取り致命傷を与える能力ではあるのだが、契約により傷付けずただ『奪う』事もできるようになったお陰か
取り外しただけでダメージは与えていないという点から、ルールの隙間を縫うように効果を及ぼせたようだ
ただ、敵の動きに全く変化は無い
子供達は作戦指示により視覚など無くても問題無く動けているのだ
「全員の視力を奪うのは無理か」
「持ちきれないよー」
片手に溢れるほどの眼球は、戦闘の合間に取りこぼして奪い返されている
傷付けないで視力を奪う反面、取り返されれば即座に復活されるというデメリットもあるのだ
「しかし、このままじゃジリ貧だぞ!? 戦力をひっくり返すアテとか無いのかよ!」
負傷の多い猛獣使いの男が泣き言を漏らす
「俺としちゃあ、お前らの数をアテにしてたんだがな。相手がそれ以上で、しかも攻め手に回ってきて、更にお前らを狙ってきたのは想定外だった」
「社長、そんなもん想定できんのは『ラプラスの悪魔』と『ノストラダムスの預言書』を同時にかつ完璧に使いこなせるような化物ぐらいっス」
「もしそんな奴が居たら、さっさと教えとけとぶん殴っておかんとな」
再装填をする気配も無く、ばかすかと拳銃を撃ち続けながらサロリアスは苦々しく呟いた
―――
「へくしっ」
マンションの一室で、パソコンに向かいながらくしゃみをする安芸葉鳥
「誰か僕の噂とかしてる?」
「噂とか気にしてると締め切り間に合わないんじゃない?」
その背後でけらけらと笑う、年齢も容姿も全く認識できない、ただ『友達』という存在感だけを発しているもの
「ねぇねぇ、この都市伝説なら君と相性も良いし、君の出鱈目な容量なら使いこなせると思うんだけどさぁ」
「何度も言うけど、それつまんないから嫌。『バタフライ・エフェクト』だけで充分だよ」
「君が望む『世界の滅び』をすぐに引き起こせるのに」
「僕は結果も好きだけど、過程がもっと好きなの。あとね、この世界そのものを滅ぼしても、それを僕が全て観測できなきゃ意味無いでしょ」
ひらひらと周りを飛び回る一匹の蝶を鬱陶しそうに追い払う
「というわけで、君が言う通り締め切りがやばいので今日はお帰り下さい、『友達』」
「ちぇー。でもまた来るよー、この『胡蝶の夢』の契約者になれそうな人、やっと見つけたんだから」
そう言って、ひらひらと舞う『胡蝶の夢』と共に姿と気配を消す『友達』
「全くもう……ドミノを台ごとひっくり返すような事の何が楽しいのやら。ちゃんと一つ一つ丁寧に並べて、色々な牌をたっぷりと巻き込み縦横無尽に駆け巡って最後まで倒し切るのが良いんじゃないか」
何年も何年も前に仕込んだ一つの蝶の羽ばたき
彼らの存在が暴かれ、様々な土地を渡り歩きこの町に辿り着くように並べたドミノの牌
『ソニー・ビーン一家』をこの町に呼び寄せた男は、昨今の騒動を楽しむ余りに仕事を滞らせ苦境に陥っているのであった
もっともそれを苦境を呼ぶ事は、『ソニー・ビーン一家』の被害者達に比べれば余りにも些細な事ではあったのだが
マンションの一室で、パソコンに向かいながらくしゃみをする安芸葉鳥
「誰か僕の噂とかしてる?」
「噂とか気にしてると締め切り間に合わないんじゃない?」
その背後でけらけらと笑う、年齢も容姿も全く認識できない、ただ『友達』という存在感だけを発しているもの
「ねぇねぇ、この都市伝説なら君と相性も良いし、君の出鱈目な容量なら使いこなせると思うんだけどさぁ」
「何度も言うけど、それつまんないから嫌。『バタフライ・エフェクト』だけで充分だよ」
「君が望む『世界の滅び』をすぐに引き起こせるのに」
「僕は結果も好きだけど、過程がもっと好きなの。あとね、この世界そのものを滅ぼしても、それを僕が全て観測できなきゃ意味無いでしょ」
ひらひらと周りを飛び回る一匹の蝶を鬱陶しそうに追い払う
「というわけで、君が言う通り締め切りがやばいので今日はお帰り下さい、『友達』」
「ちぇー。でもまた来るよー、この『胡蝶の夢』の契約者になれそうな人、やっと見つけたんだから」
そう言って、ひらひらと舞う『胡蝶の夢』と共に姿と気配を消す『友達』
「全くもう……ドミノを台ごとひっくり返すような事の何が楽しいのやら。ちゃんと一つ一つ丁寧に並べて、色々な牌をたっぷりと巻き込み縦横無尽に駆け巡って最後まで倒し切るのが良いんじゃないか」
何年も何年も前に仕込んだ一つの蝶の羽ばたき
彼らの存在が暴かれ、様々な土地を渡り歩きこの町に辿り着くように並べたドミノの牌
『ソニー・ビーン一家』をこの町に呼び寄せた男は、昨今の騒動を楽しむ余りに仕事を滞らせ苦境に陥っているのであった
もっともそれを苦境を呼ぶ事は、『ソニー・ビーン一家』の被害者達に比べれば余りにも些細な事ではあったのだが