プロローグ的なもの
生まれて初めて見たものは、きっとあなたのその笑顔
その笑顔さえ見続けられれば、他には何も要らなかった
二人で一緒に。家族で一緒に
みんなで一緒に。ずっと一緒に
そう夢見たのはいつの日か
その幻想(ユメ)はもはや砕け散り、痕に残るはただ想いだけ
それでも彼は幸せを求め、ありえぬ理想(ユメ)を見続ける
その笑顔さえ見続けられれば、他には何も要らなかった
二人で一緒に。家族で一緒に
みんなで一緒に。ずっと一緒に
そう夢見たのはいつの日か
その幻想(ユメ)はもはや砕け散り、痕に残るはただ想いだけ
それでも彼は幸せを求め、ありえぬ理想(ユメ)を見続ける
―――夢を、見た。
それはとても懐かしくて、楽しくて…………それでいて、とても辛くて悲しい、そんな―――夢、だった。
それはとても懐かしくて、楽しくて…………それでいて、とても辛くて悲しい、そんな―――夢、だった。
「ねえねえ、おにーちゃん!」
「ん、なにー?」
「ん、なにー?」
二人の、全くと言っていいほど同じ顔をした子供達が、とんぼ達が飛び交う田んぼの脇道を歩いている。
「おにーちゃんは、わたしのこと、すき?」
「うん、すきだよ!」
「わーい! わたしも、おにーちゃんのこと、だいすきー!」
「うん、すきだよ!」
「わーい! わたしも、おにーちゃんのこと、だいすきー!」
とても、幸せそうだ。
まるで、これから別れることなどないと、言うかのように。不幸なことなんかありえなくて、ずっと一緒に幸せなのだと、そう言うかのように。
その小さな手をぎゅっ、と繋ぎ、同じ顔を見合わせて、笑っている。
まるで、これから別れることなどないと、言うかのように。不幸なことなんかありえなくて、ずっと一緒に幸せなのだと、そう言うかのように。
その小さな手をぎゅっ、と繋ぎ、同じ顔を見合わせて、笑っている。
―――場面は変わる。
それは近所の山の中、二人の秘密基地である、小さな廃工場の一画。
少し成長した子供達が、隣り合わせに座っていた。
それは近所の山の中、二人の秘密基地である、小さな廃工場の一画。
少し成長した子供達が、隣り合わせに座っていた。
「ねえ、お兄ちゃん。私のこと、好き?」
「もちろん、好きだよ! そっちは?」
「……えー、どうだろうなー?」
「もちろん、好きだよ! そっちは?」
「……えー、どうだろうなー?」
にたにたと笑いながらのその少年のような少女の言葉に、その少女のような少年は涙目になって、恐る恐るといった感じで尋ねる。
「……え。妹は、ぼくのこと、きらいなの………?」
そんな兄の姿を見て妹は、
「……なーんて、うそだようそ! 私もお兄ちゃんのこと、大好き!」
コロコロと笑いながら、全く同じ顔の、双子の兄に抱きついた。
しばらくじゃれあい、そして二人で一緒に起き上がる。
その時に妹が浮かべた笑顔はとても楽しそうで―――そして、とても苦しそうだった。
しばらくじゃれあい、そして二人で一緒に起き上がる。
その時に妹が浮かべた笑顔はとても楽しそうで―――そして、とても苦しそうだった。
―――また、場面は切り替わる。
それは夏祭りの日、二人だけの秘密基地の中で。
子供達は更に成長した。
小学生の中学年くらいだろう。
それは夏祭りの日、二人だけの秘密基地の中で。
子供達は更に成長した。
小学生の中学年くらいだろう。
「ねえ、お兄ちゃん。私のこと、どう思う?」
「いや、どう思うって………好きだけど?」
「………そうだよね。私もお兄ちゃんのこと、大好きだよ」
「いや、どう思うって………好きだけど?」
「………そうだよね。私もお兄ちゃんのこと、大好きだよ」
そう言って、はにかむ妹。
妹はそのまま立ち上がり、兄と背中会わせになるようにして座る。
妹はそのまま立ち上がり、兄と背中会わせになるようにして座る。
「あのさ、お兄ちゃん。―――私が死んじゃったら、どうする?」
なんでもないことのように、不自然なまでに自然な声で、妹は言った。
これに対してどう答えたのかは、実はよく憶えていない。
それでも大体、"お前を死なせたりなんかしない"というようなことを言ったのだと思う。
その答えを聞いた妹は、
これに対してどう答えたのかは、実はよく憶えていない。
それでも大体、"お前を死なせたりなんかしない"というようなことを言ったのだと思う。
その答えを聞いた妹は、
「―――そう、だね。もしそうなったら、助けてね? お兄ちゃん―――」
寂しそうに、申し訳なさそうに、微笑んだ。
―――場面は、また変わる。
前の場面からそう時間は経っていない。
場所は同じ、廃工場のとある一画。
違うのは、灰色のコンクリートが、赤く染まっているという所。
その赤の中心には、白や、ピンクや、紫や―――その赤よりも更に紅い赤。
そして―――最愛の妹の姿。
妹にはもう、在るべきものがなかった。
その胴体はまるで魚の干物のように切り開かれ、中身を空気に晒している。
血のぬるりとした感触を感じながら、妹に近づいていく。
だらり、と弛緩した手足。口はぼんやりと開いていて、その瞳は無機質に、ただ光を反射している。
その躯を抱き締めるとまだほんのりと暖かく、その小さな躯から流れ出る血が、全身を濡らしていった。
前の場面からそう時間は経っていない。
場所は同じ、廃工場のとある一画。
違うのは、灰色のコンクリートが、赤く染まっているという所。
その赤の中心には、白や、ピンクや、紫や―――その赤よりも更に紅い赤。
そして―――最愛の妹の姿。
妹にはもう、在るべきものがなかった。
その胴体はまるで魚の干物のように切り開かれ、中身を空気に晒している。
血のぬるりとした感触を感じながら、妹に近づいていく。
だらり、と弛緩した手足。口はぼんやりと開いていて、その瞳は無機質に、ただ光を反射している。
その躯を抱き締めるとまだほんのりと暖かく、その小さな躯から流れ出る血が、全身を濡らしていった。
―――場面は、次々に移り変わる。
―――泣き叫ぶ母さんの姿。
父さんは、そんな母さんと呆然と佇むこっちを抱きしめ、声を殺して哭いていた。
父さんは、そんな母さんと呆然と佇むこっちを抱きしめ、声を殺して哭いていた。
―――妹の、お葬式。
花に囲まれた妹の姿は、とても綺麗で。
参列していた誰かの、"妹さんを殺した犯人、捕まって死刑になるらしいわよ"という言葉が、妙に耳に残った。
花に囲まれた妹の姿は、とても綺麗で。
参列していた誰かの、"妹さんを殺した犯人、捕まって死刑になるらしいわよ"という言葉が、妙に耳に残った。
―――自分と妹の部屋。
妹が死んでしばらくしたある日、引きこもっていたこっちは、ふと思いついて、妹の服を着てみた。
部屋にあった姿見を見ると、そこには妹の姿が映っていた。
すがりついて、泣いた。
毎日、そうして、涙を流した。
妹が死んでしばらくしたある日、引きこもっていたこっちは、ふと思いついて、妹の服を着てみた。
部屋にあった姿見を見ると、そこには妹の姿が映っていた。
すがりついて、泣いた。
毎日、そうして、涙を流した。
―――妹の、お墓。
妹が死んで二年して、こっちは初めて外に出た。
連れ出したのは、父さん。
日差しが憎らしくなるほど眩しい、お盆のことだった。
妹のお墓に供えられていた、妹が好きだったクチナシの花。
季節はずれに咲いているそれに、何故か妹の怒った顔が重なって。
父さんの話と相まって、まるで、"二年間もずっと、お兄ちゃんは何してるの!?"と、妹に叱られているようだった。
妹が死んで二年して、こっちは初めて外に出た。
連れ出したのは、父さん。
日差しが憎らしくなるほど眩しい、お盆のことだった。
妹のお墓に供えられていた、妹が好きだったクチナシの花。
季節はずれに咲いているそれに、何故か妹の怒った顔が重なって。
父さんの話と相まって、まるで、"二年間もずっと、お兄ちゃんは何してるの!?"と、妹に叱られているようだった。
―――あの男の顔。
あいつは、その爬虫類のような顔をにたりと歪ませて、言った。
"ああ、あのガキかァ? クック、―――美味かったぜェ? あんな美味いもン喰わせてもらって、感謝感謝だ。ご馳走様、オニイチャン―――"
あいつは、その爬虫類のような顔をにたりと歪ませて、言った。
"ああ、あのガキかァ? クック、―――美味かったぜェ? あんな美味いもン喰わせてもらって、感謝感謝だ。ご馳走様、オニイチャン―――"
「―――ッ!?」
ガバッ! と、こっちは跳ね起きた。
時計を見ると、時刻は4時。早朝だ。
時計を見ると、時刻は4時。早朝だ。
「ハァ、ハァ……。―――全く、なんて夢だよ」
悪夢と言って差し支えない、そんな夢だった。
全身から冷や汗が出ている。汗が染み込んでパジャマも冷たい。
全身から冷や汗が出ている。汗が染み込んでパジャマも冷たい。
「このままじゃ、風邪ひくなあ………着替えるか。それにしても、縁起でもない…………冗談じゃないよ、ホント」
パパッと着替え、また布団を被る。
今日から休みで、この学校町では秋祭りが開催されるらしい。
こっちも、更には一緒に住んでいる同居人達も祭り好きなので、みんなでけっこう楽しみにしていたのだ。
今日から休みで、この学校町では秋祭りが開催されるらしい。
こっちも、更には一緒に住んでいる同居人達も祭り好きなので、みんなでけっこう楽しみにしていたのだ。
「なんか、不吉だけど―――みんな幸せに、楽しめるといいなあ」
そう呟いて、目を閉じる。
今度は幸せな夢を見られますように、と、ささやかに願いながら。
今度は幸せな夢を見られますように、と、ささやかに願いながら。
その少年は夢をみる
いつか安らぐ日々が来るのだろうか
もしも全てのしがらみがなくなり
背負うものから解放されたとき
もはやそこに涙は無く
ただ幸せが心を満たすような
いつか安らぐ日々が来るのだろうか
もしも全てのしがらみがなくなり
背負うものから解放されたとき
もはやそこに涙は無く
ただ幸せが心を満たすような
その少年は夢をみる
心の奥から洩れるそれは
どこにでもあるようなもので
それでもみんながそれを望んだとき
はっと我に返って
思わず祈ってしまうような
心の奥から洩れるそれは
どこにでもあるようなもので
それでもみんながそれを望んだとき
はっと我に返って
思わず祈ってしまうような
その少年は夢をみる
それは永遠の片想いの有り様にも似て
伸ばした手はきっと届かず
それでも足掻いて手にしようとするとき
それの全てには及ばなくとも
その欠片ならばそこに存在するかのような
それは永遠の片想いの有り様にも似て
伸ばした手はきっと届かず
それでも足掻いて手にしようとするとき
それの全てには及ばなくとも
その欠片ならばそこに存在するかのような
その少年は夢をみる
大切な人達がみんな幸せで
それらの顔には笑顔が溢れ
失うものなど何もない
そんなありえない幻想を
大切な人達がみんな幸せで
それらの顔には笑顔が溢れ
失うものなど何もない
そんなありえない幻想を
その少年は夢をみる
その少年は夢をみる
その少年は夢をみる