「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - 占い師と少女-01

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uranaishi

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占い師と少女 日常編 01


ピチャッ……。
小さな金属のかけらが、ビーカーの中へと放られる。
水が小さな飛沫を上げ、それはビーカーを超え炬燵の上に小さなシミを作った。
ビーカーの内部、その水中をただ真っ直ぐに、少しの揺れも見せずに落ちていく金属片。

(暇だなぁ……)

それが底へと到達したのを見て、傍らに置いたピンセットを手に取り、金属片を取り上げる。
この作業を一体どれだけの間繰り返しただろう。

(表面の酸化具合は……大体98%位、かな)

取りだした金属片を見て、作業の達成率を測る。
このペースでいけば、あと少しで完全に酸化し終えることだろう。
『塩水に金属片を付けた場合、どれだけ酸化する速さが変化するのか』
退屈だから――ただこの理由だけで始めた作業だった。
定期的に塩水の中に金属片を潜らせ、取り出し、酸化するまでの時間数を測るという単純な作業。
ただ、単純な作業が退屈を紛らわさせてくれたのは最初だけで、今はもうその作業自体が少し億劫にもなってきている。
それを放りださないのは、単に一度始めたことを途中で投げ出したくない私の性分にあるのだろう。

「あー、暇だなぁ……」

今度は声に出して呟いてみたが、現状が変わるわけでもない。
12畳ほどの畳で区切られたマンション内の一部屋。その中へとただ空しく響き、吸い込まれていくだけだった。
その中央、やけに大きい炬燵の中に足を入れて、私はへたっている。
両手でビーカーを前へと押し出し、そのままそれをだらっと炬燵の上に放り出した。
顔も横にして炬燵の上にのせる。
長い髪が顔に少しかかってうっとおしいが、それを払いのける気力が今の私にはない。

「退屈だなぁ……」

本日何度目になるのかも分からない呟きを洩らしながら、横を向いた顔の視線がふっと窓に吸い寄せられる。
四角く切り取られたいつもの風景。
ここに来た当初は飽きずに眺めていたものだが、さすがにもう「いつもの」という形容詞が付くくらいには見飽きている。
そんな変わり映えがしないはずの四角い風景だったが、その端から見慣れない白く細長い物体が右から左へと動く物体が目に入った。

飛行機だ。
ここにきてから飛行機が飛んでいるのを見たことはないが、恐らく定期的に運航はしているのだろう。

「んー……」

風景の中へとはいってきた珍しい参入者を目にして、私は暇つぶし代わりに「能力」を使う。
特別な感覚は何もない。ただ私が機体を認識するのと同時に、それに付随する情報が頭の中へと流れ込んできた。

(機体はボーイング777-300ER型、全長73.9メートル、全幅64.8メートル、現在乗客数は413名……)

飛行機が窓から消えるほんの十数秒の間、私は出来る限り能力を使うことに費やした。
おかげで今の脳内はさっきの飛行機に関する情報で一杯だ。

(おー、なんか頭をフルに使ってるって感じだなぁ)

久々に使った能力と、それが与える影響を感じながら、脳内が整理されきるまでしばしまどろんだ。


私の与えられた能力――それは一般に超能力と言われるもので、さらに詳しく言えば 『リーディング』と呼ばれるものだ。
私の契約者である都市伝説、『必ず当たる占い師』の能力の一部であり、今の私の持っている2つの能力のうちの一つでもあった。
見た物の情報を読み、それを知識として得る力。
契約した当初、占い的な意味での『リーディング』の意味を聞いたことがある。
相手を観察し、そこから情報を得る。それは占い師にとってはごくごく基礎的な能力らしい。
『っつっても、普通の占い師にとっては一番重要な技術でもあるんだがな』
基礎であり最重要技術……その時はそんな矛盾しているようなしてないようなよく分からない説明をされた。
そんなよくわからない能力とは10歳の時に契約してから9年、それを与えてくれた都市伝説と一緒にずっと過ごしてきた。
各地を回り、他の都市伝説にも数多く出合った。少しばかり能力を使って戦うことも覚えた。
……そして今、私は「学校町」と呼ばれる都市にきている。

(早く帰ってこないかなぁ……)

脳の整理を終え、再び体を弛緩させる。
さっきの飛行機はもう意識の蚊帳の外で、今はこの部屋の同居人がいつ帰ってくるのかに意識が集中していた。
『……いいか、まだお前は外に出るなよ。まだこの辺りにどんな都市伝説がいるのか、分かったもんじゃねぇからな』
ついでに、彼の出かけ前に言われた言葉も再生される。
出会ってから数年がたつ今でも、無駄にぶっきら棒で無駄に心配性なのは変わらない。
もちろん、心配してくれるのは嬉しいのだが……。

「……なんでここに来る前にもっと調べておかないかなぁ」

以前この近くに住んでいたという都市伝説が既にいなくなっていたとかで、来た後に往生してしまった次第である。
前もって連絡を取っていればこんな事にはならなかったはずなんだけど……。
『悪いな、連絡先を書いた紙をなくしちまったわ。……なんだよ、その顔は。いいだろ、向こうに行けば会えるんだし、別に』
とは、ここを出発する前の彼の言葉である。
どうしてこういう重要な時にはあの心配性な部分が顔を出さないのか、時々ひどく疑問に思う。

「……っと、そろそろまた塩水に付けないと」

もう後十数分で完全に酸化するであろう金属片を、再びピンセットで持ち上げ――

ガチャッ

「うひゃわっ」

先程まで静かだった空間に大きく響いた音に、思わず奇声を上げてしまう。
驚きついでにつまんでいた金属片が塩水の中に落ちてしまったが、今はそれどころではない。
壁に掛けられた時計を見る。15時20分過ぎ、彼が帰ってくるにはまだ早い時間だ。
『もしかしたら都市伝説か、その契約者がここを襲ってくるかもしれねーからちゃんと防犯には気をつけろよ。……まぁ、都市伝説相手じゃ大して意味もないんだろうけどな』
彼が毎回出掛けに言う言葉が脳内再生される。
今玄関の扉を開けたのは彼か、はたまた私を襲いに来た都市伝説か……。
もし別の都市伝説ならわざわざ鍵を開けて入っては来ないだろうし、多分彼だとは思うのだが……。

(用心に越したことはない、よね……)

ちらりと、部屋に隅に立てかけられた『防犯用』の紙を張られた金属バットを見る。
それを手に取ろうと炬燵から足を――

「――……っ!?」

上体を寝そべるような形に落とし、足を動かそうとした途端、言いようのない痛みのようなものが足を走った。

「……へ?」

足が、動かない……。

一瞬、自由を奪う都市伝説にでも操られたのかと思い、炬燵の裾を上げ、能力を使って足を見る。
私の能力は都市伝説にも影響力を持つので、彼(彼女)らを見れだけでその能力から弱点まで、幅広く情報を得ることができる優れものでもあったりする。
それと同様に、何か他の都市伝説の干渉にあっていれば私の目に映るは――

(うわぁ……)

自分の足を読み取って出てきた意外な情報に、思わず赤面する。

(ただの『足のしびれ』ですか、そうですか……)

確かに、ここ数時間、炬燵の中から足を動かした記憶がない。

(それに……何だか少し太ったのかな。足のもも周りの面積が少し拡大したような……)

恥ずかしさから、脳が別の情報へと現実逃避。というか、これ逃避になってない気がする。

「……いや、こんな事してる場合じゃないから」

こんな事をしている間に、足音はこの部屋のドアの前まで続き、止まっていた。
今、ドアの前に侵入者(仮)がいる……。
炬燵から上体だけを起こした状態(下半身を炬燵の中に入れたまま腕立て伏せをするような体制を思い浮かべるといいかも)で固まる私。
何ともしまらない。

ガチャッ

そんな一部の緊張感の無さなど関係もなしに、ドアが、開いた。

「……っ」

生唾を飲み込む。
そして、廊下から現れた影はと言えば――

「――何してんだ、お前」

……都市伝説『必ず当たる占い師』、つまりは私の契約者だった。

「あ、あはは……」

彼の疑問に、私は苦笑いで答える。

「えっと、あの……お帰りなさい、占い師さん」
「ああ。……ってか、さっきも玄関を開けた時に言ったぞ、俺」

……聞こえなかった。
多分、扉が開いた音に驚いた私の声でかき消されてしまったのだろう。
(……なんだかなぁ)
こんな体勢で占い師さんを迎えることになってしまったことと言い、つくづく情けない。

「まぁ、何があったのかは大体分かるけどな」

私の体勢とその先にある金属バット、ついでに炬燵の中でこわばっている私の足。
大体占い師と言えば基本的に推測で相手の未来を当てるものだ。これだけ材料が揃っていれば推測するには十分だろう。

「……それで、なんで今日は早かったの?」

この学校町の探索。それがここ最近の彼の日課だった。
見るだけで相手が人間か都市伝説かを識別でき、なおかつその具体的な能力まで見抜ける私と占い師さんの能力はそいういった探索の面でかなり便利だ。

「ん? この東区の探索が大方終わったから早めに帰ってきたんだろうが、察しろ」
何をどう察しろと言うのだろう。
「だから、明日からはお前も一緒に出るぞ」
「出るって……どこへ?」
「そこ」
占い師さんが指差した先は――
「……外?」
「ああ」
「いいの?」

ここへきてから数日、この部屋に半ば軟禁状態なのは、ここ周辺にいる都市伝説の数が明らかに異常だからだ。
何か事件でもあるのかもしれないし、はたまたここ一体が何かの集団の管轄下になっているのかもしれない。
そんな疑念が色濃い町だったのだ、ここは。

「もういい加減引きこもりには飽きたろ、お前も」

占い師さんが、炬燵の上に乗っているビーカーをちらりと見る。
確かに、さっきまで暇だ暇だ唸っているほどだったのだ。

「ほんとに、いいの?」
「くどい」
「…………」

しばし、事実を咀嚼。
それを頭が完全に理解するまでしばし続け

「いやったーーーーっ!」

大声で喜びを示す。
感動の意を分かち合おうと、ついでに占い師さんに抱きつき……

「……いっつぅ……」

足を動かそうとした時点でピリリとした痛みが走った。
そういえば、足痺れてたんだっけ……。

「……アホな事やってないで、これから言うことをよく聞いとけ。明日からの外出に関する注意事項が幾つもあるからな」

暗唱できなければ外では出さない……そう目が語っていた。

「うん」

幸い暗記には自信がある。
(あー、やっと出られるのかぁ)
この町にはどんな都市伝説がいるのだろう。
やさしいだろうか、恐ろしいだろうか。
以前に会った『生きたまま火葬にあった人間』だとか『ミカンを食べ過ぎると体中が黄色くなる』のようなグロテスクな都市伝説でなければいいんだけれど……。
(今から心配してても始まらないよね)
これから出会えるだろう都市伝説へと、様々な空想を向けながら、占い師さんの講釈に耳を傾けた。

忘れ去られた金属片は、既に完全に酸化を終えていた。

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