占い師と少女 日常編 02
南区にあるとあるビルの一室で、私は椅子に座り小説を読んでいた。
照明が少しきつく、紙に反射した光で少々目が痛いが大した問題ではない。
ふと、小説から顔を上げ、部屋の右と正面の壁に2つある内の一つ、正面の壁に目を移した。
その先の部屋で今、占い師さんは「占いの館」を開いている。
ついさっきお客さんが訪れた関係で、今は閉じているそれを見てふと、私もいつか占い師さんと同じような占いを行えるのだろうか、と思った。
――以前、私がまだ契約してから数カ月ほどの能力にもあまり慣れていない頃に、占い師さんに能力について聞いたことがある。
照明が少しきつく、紙に反射した光で少々目が痛いが大した問題ではない。
ふと、小説から顔を上げ、部屋の右と正面の壁に2つある内の一つ、正面の壁に目を移した。
その先の部屋で今、占い師さんは「占いの館」を開いている。
ついさっきお客さんが訪れた関係で、今は閉じているそれを見てふと、私もいつか占い師さんと同じような占いを行えるのだろうか、と思った。
――以前、私がまだ契約してから数カ月ほどの能力にもあまり慣れていない頃に、占い師さんに能力について聞いたことがある。
「ねえ、『必ず当たる占い師』ってどんな都市伝説なの?」
「そりゃ、自分がした占いが必ず当たる占い師に決まってるだろ」
「そんな事は分かってるの! 必ず当たるってその為にどんな力を使ってるの?」
「どんな力、ねぇ……」
「そりゃ、自分がした占いが必ず当たる占い師に決まってるだろ」
「そんな事は分かってるの! 必ず当たるってその為にどんな力を使ってるの?」
「どんな力、ねぇ……」
町から町への移動の道中であったが、占い師さんは説明のために立ち止まってくれた。
占い師さんはしばし悩んだ後に、2本の指を立てた。
占い師さんはしばし悩んだ後に、2本の指を立てた。
「まずな、世界には地域によって二種類の『必ず当たる占い師』の都市伝説がいる」
「初めに、占いでアドバイスをするだけで、依頼人がそれ通りの行いをするとその願いを叶えるように周囲の人間や環境が変化するっつータイプがある」
「次は、占いでアドバイスをした後、依頼人の願いが叶うようこっちで色々と外堀を埋める必要があるタイプだ」
「俺らは先に言った方を『自然型』、後に言った方を『必然型』って呼んでる。で、俺は後者だな」
「初めに、占いでアドバイスをするだけで、依頼人がそれ通りの行いをするとその願いを叶えるように周囲の人間や環境が変化するっつータイプがある」
「次は、占いでアドバイスをした後、依頼人の願いが叶うようこっちで色々と外堀を埋める必要があるタイプだ」
「俺らは先に言った方を『自然型』、後に言った方を『必然型』って呼んでる。で、俺は後者だな」
次に三本の指を立てる。
「で、『必然型』には大きく分けて3つの能力が備わってる。『対象の未来と過去、感情を読み取る』能力、『リーディング』の能力、『物に運命を与える』能力」
「リーディングで相手の環境を推理したりそれ使って相手の信頼を得て、物に運命を与える力を使って相手の悩みを解決するっつーのが常套句だな」
「……っつーか、リーディングと物に運命を与える力はお前も持ってるから分かるか」
「うん。でも、未来とか過去を見る力はもらってないよ?」
「あれは契約した後少ししてから増えた能力だからな」
「私も欲しいなぁ……」
「やめとけ。あんなもん滅多なことじゃ使えねえよ」
「なんで使えないの?」
「子供は知らなくていいんだよ。大人の事情だ、大人の」
「なんで?」
「聞け、話を」
「なんで?」
「………………」
「なんで?」
「……なんつーか、面倒くさい子供だよな、お前も……」
「リーディングで相手の環境を推理したりそれ使って相手の信頼を得て、物に運命を与える力を使って相手の悩みを解決するっつーのが常套句だな」
「……っつーか、リーディングと物に運命を与える力はお前も持ってるから分かるか」
「うん。でも、未来とか過去を見る力はもらってないよ?」
「あれは契約した後少ししてから増えた能力だからな」
「私も欲しいなぁ……」
「やめとけ。あんなもん滅多なことじゃ使えねえよ」
「なんで使えないの?」
「子供は知らなくていいんだよ。大人の事情だ、大人の」
「なんで?」
「聞け、話を」
「なんで?」
「………………」
「なんで?」
「……なんつーか、面倒くさい子供だよな、お前も……」
わしゃわしゃと頭をかく占い師さん。髪がぼさぼさになってしまう。
せっかく綺麗な銀髪なのに、もったいないな……。
私のもったいないオーラを全く関知しない占い師さんだったが、ふと何かを思いついたように頭をかくのをやめた。
せっかく綺麗な銀髪なのに、もったいないな……。
私のもったいないオーラを全く関知しない占い師さんだったが、ふと何かを思いついたように頭をかくのをやめた。
「そうだ、お前もリーディングの能力を持ってんだろ。それ使って俺を調べろ。それで全部分かるだろ」
「私、まだ上手く能力使えない……」
「………………」
「………………」
「……なんつーか、面倒くさい子供よな、本当に」
「ごめんなさい……」
「いや、悪かった。悪かったから顔上げろ、な? 俺が説明すればいいんだから気にすんな」
「私、まだ上手く能力使えない……」
「………………」
「………………」
「……なんつーか、面倒くさい子供よな、本当に」
「ごめんなさい……」
「いや、悪かった。悪かったから顔上げろ、な? 俺が説明すればいいんだから気にすんな」
うなだれる私の頭をわしゃわしゃとなでる占い師さん。髪がぼさぼさってしまう。
ただ、私の髪が普通の黒髪だからかはよくわからないが、「もったいない」ではなく、何となくあったかい気持ちになった。
そんな私の様子には気付かず、占い師さんは話を続ける。
ただ、私の髪が普通の黒髪だからかはよくわからないが、「もったいない」ではなく、何となくあったかい気持ちになった。
そんな私の様子には気付かず、占い師さんは話を続ける。
「じゃあ、能力がどんなものか、から説明するぞ」
「うん」
「……まぁ、この能力は名前のまんまこれと決めた対象の未来、過去、感情を読む力だな」
「……私の未来も分かるの?」
「まぁ、使えばな」
「……そうなんだ」
「で、この能力には3つの中でも特に制約が強い」
「制約?」
「ああ。使うと精神に滅茶苦茶負担がかかるらしい」
「負担って……頭痛がするとか?」
「うん」
「……まぁ、この能力は名前のまんまこれと決めた対象の未来、過去、感情を読む力だな」
「……私の未来も分かるの?」
「まぁ、使えばな」
「……そうなんだ」
「で、この能力には3つの中でも特に制約が強い」
「制約?」
「ああ。使うと精神に滅茶苦茶負担がかかるらしい」
「負担って……頭痛がするとか?」
風邪になった時の事を思い返す。
……あれは辛かった。
……あれは辛かった。
「さあな。俺もリーディングの能力使って読み取っただけだから何とも言えねぇよ」
「ただ、使ったら少なくとも1か月は俺の全部の能力が使えなくなる事は確実だろうな。他にも色々と弊害があるんだろうが、怖くて試せもしない」
「何だか、凄いめんどくさいね」
「まぁ、未来や過去を見れんのは自然の摂理に反してるし、人間なんて複雑なもんの感情を読むのが面倒なのも当然だろ」
「ただ、使ったら少なくとも1か月は俺の全部の能力が使えなくなる事は確実だろうな。他にも色々と弊害があるんだろうが、怖くて試せもしない」
「何だか、凄いめんどくさいね」
「まぁ、未来や過去を見れんのは自然の摂理に反してるし、人間なんて複雑なもんの感情を読むのが面倒なのも当然だろ」
肩をすくめる占い師さん。
ひそかに後で自分の未来の姿を教えてもらおうと思っていた私だったが、わずか1分程度でその夢も潰えた。
ひそかに後で自分の未来の姿を教えてもらおうと思っていた私だったが、わずか1分程度でその夢も潰えた。
「リーディングと物に運命を与える力はお前も知っての通りだ。これでいいか、未来(みく)」
「まだ」
「なんだよ……聞かれた事には答えたろ?」
「『物に運命を与える』力が全然使えないの。リーディングは少しだけど使えるようになったのに……」
「ああ、それか。んー……まぁ、確かにあれも微妙な制約があるといえばあるが、最初に説明したろ?」
「うん」
「言ってみ?」
「えと……『生命のない物体にしか使えない』ことと『与えた運命が他の運命に干渉する事はできない』……だっけ」
「ほお、よく覚えてるじゃないか」
「まだ」
「なんだよ……聞かれた事には答えたろ?」
「『物に運命を与える』力が全然使えないの。リーディングは少しだけど使えるようになったのに……」
「ああ、それか。んー……まぁ、確かにあれも微妙な制約があるといえばあるが、最初に説明したろ?」
「うん」
「言ってみ?」
「えと……『生命のない物体にしか使えない』ことと『与えた運命が他の運命に干渉する事はできない』……だっけ」
「ほお、よく覚えてるじゃないか」
日頃何度も使おうと練習し、その度に思い出していたのだ。これで覚えてなければ詐欺だと思う。
「その条件を覚えてるならあれだな。お前の与える運命が単純過ぎるんだろ」
「単純って……?」
「単純って……?」
確かに、私はいつも「粉砕」だとか「反転」だとか、それ単純な運命ばかりを与えてはいるけれど……。
「たとえば物を壊したいならただ『壊れる』っつー運命を与えるだけじゃ駄目なんだよ」
「その対象がコップだとしたら、『踏まれて壊れる』だとか何か少し具体的にしなくちゃ壊れない」
「『壊れる』なんて運命を与えていきなり木っ端みじんになったとしても、そんなのは運命じゃなくただの事象でしかないんだ」
「運命ってのは流れだからな。その流れをいきなり止めようとしても無理ってもんだろ」
「でも、『踏まれて』だと他の運命に干渉することになるんじゃないの?」
「その対象がコップだとしたら、『踏まれて壊れる』だとか何か少し具体的にしなくちゃ壊れない」
「『壊れる』なんて運命を与えていきなり木っ端みじんになったとしても、そんなのは運命じゃなくただの事象でしかないんだ」
「運命ってのは流れだからな。その流れをいきなり止めようとしても無理ってもんだろ」
「でも、『踏まれて』だと他の運命に干渉することになるんじゃないの?」
踏む人間、あるいは動物はそれを「踏まされる」わけだけど、それは干渉にならないのだろうか。
それを聞いた占い師さんはまた髪を少しくしゃっとした。
それを聞いた占い師さんはまた髪を少しくしゃっとした。
「ああ、『運命に干渉』って言い方が悪かったのか」
「干渉って言っても、具体的にはその他の対象を傷つけたり、相手の感情を操作したりしなけりゃいいんだよ」
「どういうこと?」
「つまり、だ。運命と運命を一瞬ぶつけさせんのは構わないんだよ。あくまでその一瞬だけで、後に影響がかねればな」
「例えば、さっき言った『コップを踏む』ために一瞬だけ生きてるやつの運命を操作するのはオッケーだ。踏んで一瞬運命の流れが乱れてもすぐに元に戻る」
「……よく分かんない」
「あー……じゃあこう考えろ。お前の目の前に小さな川がある。この流れが運命だ」
「うん」
「干渉って言っても、具体的にはその他の対象を傷つけたり、相手の感情を操作したりしなけりゃいいんだよ」
「どういうこと?」
「つまり、だ。運命と運命を一瞬ぶつけさせんのは構わないんだよ。あくまでその一瞬だけで、後に影響がかねればな」
「例えば、さっき言った『コップを踏む』ために一瞬だけ生きてるやつの運命を操作するのはオッケーだ。踏んで一瞬運命の流れが乱れてもすぐに元に戻る」
「……よく分かんない」
「あー……じゃあこう考えろ。お前の目の前に小さな川がある。この流れが運命だ」
「うん」
頭の中に小さな川を描く。
「で、お前の右手に小さな石がある。今回で言う所のコップを踏ませた分の衝撃だな。それを川に投げ込んでみろ。どうなった」
「石が川に入った」
「……そうじゃなくてだな。川の流れはどうなった」
「石が入ったところから少しだけ丸い環が広がって消えた」
「だろ。それが今回他の運命に与えた影響だ。すぐに消えてまた元の流れに戻る」
「で、今度は相手に傷をつける程の衝撃……川に入れても頭が隠れない、大きな岩がある。それを川に投げ込んでみろ」
「……そんな大きな岩、持てない」
「……いや、まぁ別に転がしてもてこを使ってもいいから」
「うん」
「どうなった?」
「川の流れがそこだけ2つになった」
「だろ。今度のはすぐ消えはしない。一度操作をすると川の流れが微妙に変わっちまう。だから俺らはそういった運命を物に与えることはできない」
「石が川に入った」
「……そうじゃなくてだな。川の流れはどうなった」
「石が入ったところから少しだけ丸い環が広がって消えた」
「だろ。それが今回他の運命に与えた影響だ。すぐに消えてまた元の流れに戻る」
「で、今度は相手に傷をつける程の衝撃……川に入れても頭が隠れない、大きな岩がある。それを川に投げ込んでみろ」
「……そんな大きな岩、持てない」
「……いや、まぁ別に転がしてもてこを使ってもいいから」
「うん」
「どうなった?」
「川の流れがそこだけ2つになった」
「だろ。今度のはすぐ消えはしない。一度操作をすると川の流れが微妙に変わっちまう。だから俺らはそういった運命を物に与えることはできない」
……なるほど。
今度は少し理解ができた。
今度は少し理解ができた。
「分かったか?」
「うん」
「よっし、じゃあ今回の講釈はお終いだ。日が暮れる前にホテルか民宿かに転がり込みてぇからな。さっさと行くぞ」
「うん」
「よっし、じゃあ今回の講釈はお終いだ。日が暮れる前にホテルか民宿かに転がり込みてぇからな。さっさと行くぞ」
さっさと歩いて言ってしまう占い師さんを、私は小走りで追う――そんな所で、私の記憶は途切れていた。
もちろんこれ以上も思い出そうと思えば思い出せるが、いい加減もう時間だ。
いつの間にか部屋から見える外の景色は暗くなっていた。
……もう占い師さんは営業を終えているだろうか。
そんな事を考えていると、正面のドアが開いた。
もちろんこれ以上も思い出そうと思えば思い出せるが、いい加減もう時間だ。
いつの間にか部屋から見える外の景色は暗くなっていた。
……もう占い師さんは営業を終えているだろうか。
そんな事を考えていると、正面のドアが開いた。
「……悪いな、遅くなった」
「それ、ここ最近の口癖になってますよ」
「そうか?」
「そうです」
「ふむ……後で考え直そう」
「それ、ここ最近の口癖になってますよ」
「そうか?」
「そうです」
「ふむ……後で考え直そう」
……口癖って、考えて直すものだったんだっけ?
「……まぁ、いい。いい加減暗いからな。さっさと帰るぞ」
「うん」
「うん」
コート掛けにかぶせたコートを剥ぎ取り、占い師さんがさっさと出口へ向かう。まるであの日のようだ。
しかし、今の私はもう小走りで追う必要もない。
外へ出ると、もう辺りはすっかり暗くなっていた。
しかし、今の私はもう小走りで追う必要もない。
外へ出ると、もう辺りはすっかり暗くなっていた。
「真っ暗だな」
「そうですねー」
「そうですねー」
……そう、私はあの日のように幼くはない。
占い師さんが仕事の際隣の部屋に私を置いて行くのも、あの日小走りで宿屋を探したのも、全て心配性な性格から来ている事に、今の私は気付いていた。
(……いつか私も、占い師さんに心配をかけずに済むようになれるのかな)
少し弱気に考えて、かぶりをふる。
(なれるかな、じゃなくて、なる。……うん、頑張ろう)
決意を新たに、私は占い師さんの後を追った。
占い師さんが仕事の際隣の部屋に私を置いて行くのも、あの日小走りで宿屋を探したのも、全て心配性な性格から来ている事に、今の私は気付いていた。
(……いつか私も、占い師さんに心配をかけずに済むようになれるのかな)
少し弱気に考えて、かぶりをふる。
(なれるかな、じゃなくて、なる。……うん、頑張ろう)
決意を新たに、私は占い師さんの後を追った。