ドクター 21
21:25頃
互いの動きを警戒し呼吸一つにすら意識を向ける
ザクロは同居時にバイトちゃんの鍛錬の様子を見ていた事がある
契約による強化は無いそうだが、そうだとしても人間にしては破格のものだった
そして、上司であり恩人であるはずのドクターへの躊躇のない一撃から、自分にも加減はしてこないだろうと判断する
ブラックドックとしての運動能力はバイトちゃんを凌駕してはいるものの、怪我をさせずに取り押さえるのは難しいだろう
ドクターは怪我をさせてもいいとは言っているが、万が一それ以上の事になったらと思うと迂闊に手を出せない
重苦しい沈黙の中、何度か廊下から足音や声が聞こえてきたが、この均衡を崩す事は無かった
だが――
「ガアアアアアアアアッ!」
『マリ・ヴェリテのベート』の咆哮
衝撃と振動
そして苦悶の声
それに反応してバイトちゃんが弾かれたように動いた
目の前に対峙するザクロとドクターには目もくれず、調理室から飛び出そうとして
「行かせませんわ!」
その真横から飛び掛るザクロを、床にモップの柄を突いて壁を蹴り空中を舞うようにして避けるバイトちゃん
そして、着地点の先に立ちはだかる白い影
「そう、行かせんよ。これ以上、君に人様に迷惑を掛けさせるわけには」
「退けぇぇぇぇっ!!!」
正真正銘、遠慮も加減も躊躇もない一撃が、ドクターの胸を打ち抜いた
ドクターの背後の空間が水面のように歪み
「今、だ――」
どぷん、と
その姿が沈み、消える
「……っ!」
攻撃にこそ躊躇は無かったが、その結果に僅かな躊躇が生まれ
「申し訳ありませんっ!」
次の瞬間、ザクロの前足がバイトちゃんの後頭部を捉え、そのまま勢いよく床に叩き付ける
「がっ……は……」
額が割れて血が飛び散りる
手にしたモップの柄が、からんと床を叩き
その口から『スパニッシュフライ』が、ぷぅんと飛び出した
「ドクターさん!?」
「ああ、無事だ無事だ。速攻で仕留めてくれたようで何よりだ」
虚空からがちゃりとドアを開けて出てくるドクター
その全身はずぶ濡れで
「けふっ……そのにおい……」
「ああ、ホルマリンだ。常人ならこれだけで死ねるものだがな。薬品の影響を受けない身体という事で泳いでプールサイドに上がって出てきた」
「出てこれるんですか……」
「無論、君が彼を倒してくれなければ、プールに控えたアルバイト達に延々と沈められてたがね。そうなれば普通に溺れ死んでたな」
「無茶はしないで下さい、ホントにもう」
「部下が迷惑を掛けてるんだ、上司が相応に対応して当然だろう」
そう言いながらざぱざぱとホルマリン漬けになった服を脱ぎ捨てていくドクター
「ちょ、ちょっと、何をなさいますの!?」
「こうもずぶ濡れでは動くに動けないのでな。何、向かいが科学準備室だったろう。白衣の一枚でも借りていこうではないか」
濡れた服を濡れた白衣に包んで抱え、ドクターは下着姿で調理室を出て行こうとする
彼女にとっては着飾ったドレス姿の方が下着姿より恥ずかしくないようだ
「ああ、できればそれを安全な場所に運んでおいてくれると嬉しいな」
「ドクターはどうなさいますの?」
「着る物を拝借したら、その馬鹿者を連れて帰る……と言いたいが。マッドガッサーに会ってみるのも一興かもしれんな」
――彼女達を守らなきゃいけない
「馬鹿な部下の尻拭いは、な」
――一人も欠けさせちゃいけない
「最後までしてやらんといけないだろう?」
――彼女を悲しませたくない
「説得できるかどうかはわからんが。強硬派への交渉材料ぐらいにはなれるかもしれない。そういう事だ」
ザクロは同居時にバイトちゃんの鍛錬の様子を見ていた事がある
契約による強化は無いそうだが、そうだとしても人間にしては破格のものだった
そして、上司であり恩人であるはずのドクターへの躊躇のない一撃から、自分にも加減はしてこないだろうと判断する
ブラックドックとしての運動能力はバイトちゃんを凌駕してはいるものの、怪我をさせずに取り押さえるのは難しいだろう
ドクターは怪我をさせてもいいとは言っているが、万が一それ以上の事になったらと思うと迂闊に手を出せない
重苦しい沈黙の中、何度か廊下から足音や声が聞こえてきたが、この均衡を崩す事は無かった
だが――
「ガアアアアアアアアッ!」
『マリ・ヴェリテのベート』の咆哮
衝撃と振動
そして苦悶の声
それに反応してバイトちゃんが弾かれたように動いた
目の前に対峙するザクロとドクターには目もくれず、調理室から飛び出そうとして
「行かせませんわ!」
その真横から飛び掛るザクロを、床にモップの柄を突いて壁を蹴り空中を舞うようにして避けるバイトちゃん
そして、着地点の先に立ちはだかる白い影
「そう、行かせんよ。これ以上、君に人様に迷惑を掛けさせるわけには」
「退けぇぇぇぇっ!!!」
正真正銘、遠慮も加減も躊躇もない一撃が、ドクターの胸を打ち抜いた
ドクターの背後の空間が水面のように歪み
「今、だ――」
どぷん、と
その姿が沈み、消える
「……っ!」
攻撃にこそ躊躇は無かったが、その結果に僅かな躊躇が生まれ
「申し訳ありませんっ!」
次の瞬間、ザクロの前足がバイトちゃんの後頭部を捉え、そのまま勢いよく床に叩き付ける
「がっ……は……」
額が割れて血が飛び散りる
手にしたモップの柄が、からんと床を叩き
その口から『スパニッシュフライ』が、ぷぅんと飛び出した
「ドクターさん!?」
「ああ、無事だ無事だ。速攻で仕留めてくれたようで何よりだ」
虚空からがちゃりとドアを開けて出てくるドクター
その全身はずぶ濡れで
「けふっ……そのにおい……」
「ああ、ホルマリンだ。常人ならこれだけで死ねるものだがな。薬品の影響を受けない身体という事で泳いでプールサイドに上がって出てきた」
「出てこれるんですか……」
「無論、君が彼を倒してくれなければ、プールに控えたアルバイト達に延々と沈められてたがね。そうなれば普通に溺れ死んでたな」
「無茶はしないで下さい、ホントにもう」
「部下が迷惑を掛けてるんだ、上司が相応に対応して当然だろう」
そう言いながらざぱざぱとホルマリン漬けになった服を脱ぎ捨てていくドクター
「ちょ、ちょっと、何をなさいますの!?」
「こうもずぶ濡れでは動くに動けないのでな。何、向かいが科学準備室だったろう。白衣の一枚でも借りていこうではないか」
濡れた服を濡れた白衣に包んで抱え、ドクターは下着姿で調理室を出て行こうとする
彼女にとっては着飾ったドレス姿の方が下着姿より恥ずかしくないようだ
「ああ、できればそれを安全な場所に運んでおいてくれると嬉しいな」
「ドクターはどうなさいますの?」
「着る物を拝借したら、その馬鹿者を連れて帰る……と言いたいが。マッドガッサーに会ってみるのも一興かもしれんな」
――彼女達を守らなきゃいけない
「馬鹿な部下の尻拭いは、な」
――一人も欠けさせちゃいけない
「最後までしてやらんといけないだろう?」
――彼女を悲しませたくない
「説得できるかどうかはわからんが。強硬派への交渉材料ぐらいにはなれるかもしれない。そういう事だ」