三面鏡の少女 30
「にゃー……まだちょっと違和感」
襟元も帯もきっちり締めて、外見には何の異常も見られないのだが
平面状態でどっこい生きてる少女の素肌なド根性蛇も、力を大きく殺がれているせいもあって完全に素肌に同化しているわけではない
ついでに身体の一部のみを別の物体に平面化して張り付くような事もできず、蛇の一部は下着の更に下に潜り込んでいるのだ
「とりあえずバイトが終わって神社から出たら、鞄とかに入ってもらうからね?」
「心得た。それまでは大人しくしていよう」
うなじの辺りに張り付いている蛇の頭が鷹揚に頷く
「ひゃふっ!? だ、だから大人しく! 動かない! 喋らない!」
「それでは返事もできぬ。ともあれ約束を違えるような真似はせぬ、我を信じよ」
襟元も帯もきっちり締めて、外見には何の異常も見られないのだが
平面状態でどっこい生きてる少女の素肌なド根性蛇も、力を大きく殺がれているせいもあって完全に素肌に同化しているわけではない
ついでに身体の一部のみを別の物体に平面化して張り付くような事もできず、蛇の一部は下着の更に下に潜り込んでいるのだ
「とりあえずバイトが終わって神社から出たら、鞄とかに入ってもらうからね?」
「心得た。それまでは大人しくしていよう」
うなじの辺りに張り付いている蛇の頭が鷹揚に頷く
「ひゃふっ!? だ、だから大人しく! 動かない! 喋らない!」
「それでは返事もできぬ。ともあれ約束を違えるような真似はせぬ、我を信じよ」
―――
「お、いたいた」
「あれ、Hさん」
社務所から出てきた少女に、すぐ近くの木に背中を預けて立っていた黒服Hが声を掛けてくる
「迷子だった連れが見つかったんでな、知らせに来た。済まんな、仕事中に気を遣わせて」
「ううん、いつもお世話になってるしこれぐらい何でもないよ」
巫女服姿に反応しているのか、髪の毛先がにょろにょろと動いているが、最近は割と気にならなくなってきた
慣れって怖いなぁと内心苦笑が浮かぶ
「Hさんも何かと忙しいんだし。こういう時ぐらい頼ってくれるのは、あたしとしては嬉しいな」
照れたように笑顔を浮かべる少女の姿に、髪の毛は素直にもそりと反応してしまう
――思春期のガキじゃあるまいし
そんな風に思考を切り替えて髪の毛の動きを抑えたものの
黒服Hの鼻は、少女の異常を嗅ぎ取った
黒服としての感知能力ではない
無論、言葉通りに何かのにおいに反応したわけでもない
彼が彼足りえるためのセンサーとも言うべき感覚でだ
服の下に何かがある
下着をつけていないとか、縄で(検閲削除)とか、(禁則事項)が(教育的指導)とか
そんな気配を察知した上で、彼女の異常を察知するべく都市伝説の感知能力を働かせる
彼女が自主的に自分を喜ばせるためにこういう事をするとは思えなかったし、何より迷子の話をしていた時にはそんな気配は無かった
つまりはその間に何かの影響を受けたという事だからだ
「お前さん、何があった?」
「ふぇ?」
一瞬首を傾げる少女だが
「身体に何か強い力のあるものが絡み付いている。しかもどこかに引っ張ろうとしているな」
それは身体に張り付いた白蛇がトイレに引かれているのだが、そこまで細かい状況は判別できていない
もっとも強い害意は無いと判別できたため、黒服Hの心には充分な余裕があった
「気付いていないのか? 危険は無いと思うが確認しなきゃいかん、引き離すぞ」
「え、あ、ちょっと待って!? 今説明するから!」
少女が声を上げるが、ざわりと伸びた髪の毛が、袖、裾、襟元から服の内側に入り込み、その肌を丹念に探り撫で回す
「ふにゃぁっ!? ダメだってば! ふわ、あ、んっ……」
細い髪の毛は遠目には見えず、少女が一人で悶えているようにしか見えない
「随分とぴったり張り付いてるな。あまり力を入れたら勢いで服が破けそうだ」
「やらないよね!? 流石にやらないよね!?」
「勿論だ」
黒服Hは至極真剣な表情で告げる
「全裸より着衣プレイの方が断然エロいだろう」
「そういう意味じゃなーい!?」
髪の毛から逃れようとじたばたと暴れているうちに、襟元や腰周りが緩んでいき
負荷に耐えかねた帯は凹凸の少ない少女の身体には保持されず、あっさりと足元まですとんと落ちてしまい
白蛇が張り付く際に蹂躙された下着もまた、緩み力を失って袴と運命を共にした
「………………」
「………………」
少女の股下を、新年の冷たい風が直に撫でていく
そして、彼女の悲鳴じみたツッコミの声を聞きつけて現れた少年は、その光景に一瞬固まったもののすぐに視線を逸らす
「……獄門寺、くん?」
「あー、いや。逢瀬……見てないからな」
視線を明後日の方向に向けたまま、何か思案するように頷く
「趣味や性癖にあれこれ言う気は無いんだが……流石にあまり人目のあるところでやるのはどうかと思うぞ?」
「にゃ――――――っ!? 違う! 違うから!? Hさんも説明……」
「それじゃあ人目の無いところへ行こうか」
「誤解が加速する!? というか放してくれないと袴下がったまんまで上げれないから!」
「俺としては実に良い眺めなのでしばらくはこのままでも」
「まあアレだ……人には話さないようにしておくから」
「説明っ! まず説明をさせて! あと黙ってないで説明しようよ蛇さん!? 動かない喋らないって約束はいいから!」
結局、この騒動が落ち着くまでにはそれなりの時間を要し
少女はバイト仲間への平謝りと休憩時間超過分の減給が言い渡されたのであった
「あれ、Hさん」
社務所から出てきた少女に、すぐ近くの木に背中を預けて立っていた黒服Hが声を掛けてくる
「迷子だった連れが見つかったんでな、知らせに来た。済まんな、仕事中に気を遣わせて」
「ううん、いつもお世話になってるしこれぐらい何でもないよ」
巫女服姿に反応しているのか、髪の毛先がにょろにょろと動いているが、最近は割と気にならなくなってきた
慣れって怖いなぁと内心苦笑が浮かぶ
「Hさんも何かと忙しいんだし。こういう時ぐらい頼ってくれるのは、あたしとしては嬉しいな」
照れたように笑顔を浮かべる少女の姿に、髪の毛は素直にもそりと反応してしまう
――思春期のガキじゃあるまいし
そんな風に思考を切り替えて髪の毛の動きを抑えたものの
黒服Hの鼻は、少女の異常を嗅ぎ取った
黒服としての感知能力ではない
無論、言葉通りに何かのにおいに反応したわけでもない
彼が彼足りえるためのセンサーとも言うべき感覚でだ
服の下に何かがある
下着をつけていないとか、縄で(検閲削除)とか、(禁則事項)が(教育的指導)とか
そんな気配を察知した上で、彼女の異常を察知するべく都市伝説の感知能力を働かせる
彼女が自主的に自分を喜ばせるためにこういう事をするとは思えなかったし、何より迷子の話をしていた時にはそんな気配は無かった
つまりはその間に何かの影響を受けたという事だからだ
「お前さん、何があった?」
「ふぇ?」
一瞬首を傾げる少女だが
「身体に何か強い力のあるものが絡み付いている。しかもどこかに引っ張ろうとしているな」
それは身体に張り付いた白蛇がトイレに引かれているのだが、そこまで細かい状況は判別できていない
もっとも強い害意は無いと判別できたため、黒服Hの心には充分な余裕があった
「気付いていないのか? 危険は無いと思うが確認しなきゃいかん、引き離すぞ」
「え、あ、ちょっと待って!? 今説明するから!」
少女が声を上げるが、ざわりと伸びた髪の毛が、袖、裾、襟元から服の内側に入り込み、その肌を丹念に探り撫で回す
「ふにゃぁっ!? ダメだってば! ふわ、あ、んっ……」
細い髪の毛は遠目には見えず、少女が一人で悶えているようにしか見えない
「随分とぴったり張り付いてるな。あまり力を入れたら勢いで服が破けそうだ」
「やらないよね!? 流石にやらないよね!?」
「勿論だ」
黒服Hは至極真剣な表情で告げる
「全裸より着衣プレイの方が断然エロいだろう」
「そういう意味じゃなーい!?」
髪の毛から逃れようとじたばたと暴れているうちに、襟元や腰周りが緩んでいき
負荷に耐えかねた帯は凹凸の少ない少女の身体には保持されず、あっさりと足元まですとんと落ちてしまい
白蛇が張り付く際に蹂躙された下着もまた、緩み力を失って袴と運命を共にした
「………………」
「………………」
少女の股下を、新年の冷たい風が直に撫でていく
そして、彼女の悲鳴じみたツッコミの声を聞きつけて現れた少年は、その光景に一瞬固まったもののすぐに視線を逸らす
「……獄門寺、くん?」
「あー、いや。逢瀬……見てないからな」
視線を明後日の方向に向けたまま、何か思案するように頷く
「趣味や性癖にあれこれ言う気は無いんだが……流石にあまり人目のあるところでやるのはどうかと思うぞ?」
「にゃ――――――っ!? 違う! 違うから!? Hさんも説明……」
「それじゃあ人目の無いところへ行こうか」
「誤解が加速する!? というか放してくれないと袴下がったまんまで上げれないから!」
「俺としては実に良い眺めなのでしばらくはこのままでも」
「まあアレだ……人には話さないようにしておくから」
「説明っ! まず説明をさせて! あと黙ってないで説明しようよ蛇さん!? 動かない喋らないって約束はいいから!」
結局、この騒動が落ち着くまでにはそれなりの時間を要し
少女はバイト仲間への平謝りと休憩時間超過分の減給が言い渡されたのであった