「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ビター・スウィート・ビターポイズン-07

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 世界は、50%以上のビター・ポイズンと10%以下のスウィート・ポイズン、1%以下のヘル・ポイズン
 そして、それ以外で出来ている
 それ以外は、ビター・ポイズンでもなくスウィート・ポイズンでもない
 しかし、そのどちらにもなりうる存在
 苦い毒のような存在でもなく、甘い毒のような存在でもなく 
 毒でも薬でもない、そんな存在
 それは、たとえ困っている人を見かけても見ているだけであり、スウィート・ポイズンのように手を差し伸べるようなことは決してしない
 いや、できないだけかもしれない
 手を差し伸べる、たったそれだけの事にも勇気というものは必要であったりするのだ
 だから、決して彼らを責めるなどと言う事はできやしない

 よって、この俺、祐樹 ペリシャは、この危機に一人で立ち向かわなくてはならないのだ
 誰の力も借りてはいけない
 たった一人で、戦わなければならない


 ----ククージィと逸れたという、この現実から





「寒い……」

 はぁ、と白い息を吐き出し、祐樹はたくさんの人が行き交う中、当たりを見回していた
 ……ククージィの姿は、どこにも見えない
 完全に、はぐれてしまったようだ
 向こうも、祐樹とはぐれた事には気づいているだろうから、探しているはずだが…

「…はぁ」

 ため息を吐けば、それも白い
 …まさか、18歳にもなって迷子になろうとは
 日本の、それも故郷である学校町に帰ってきて、気が緩んでいるのだろうか
 これでは駄目だ
 ビター・ポイズンと戦い続けるという覚悟を決めている自分が、着を緩めてはいけない
 まぁ、新年明けてすぐのこの時期に、事件が起こるとも考えたくはないが…
 とまれ、すぐにククージィと合流しなければ

 人波を、掻き分けるように進む
 …探せど探せど、ククージィの姿は見えない
 この昼間の時間帯でなければ、ククージィが蝙蝠を飛ばしてくれているかもしれないのだが…
 ……いや、ククージィに頼ってばかりでは駄目だ
 そう考え、祐樹は自分だけで、ククージィを探そうとする

 これだけの人がいても、迷子の祐樹に手を差し伸べようとしてくる者は、いない
 ……いや、単に、祐樹が迷子に見えないだけかもしれない
 これで、祐樹が小学校低学年くらいだったならば、まだ迷子に見えたのかもしれないが…若干幼く見えるとは言え、祐樹は18歳である
 家族とはぐれた迷子には、普通見えないのだろう、多分
 かすかに、不安そうな様子を滲ませてはいるのだが、迷子には普通は見えないのだ


 そう
 普通、は


「…祐樹さん?」
「……え」

 声をかけられ、振り返る
 そこにいたのは、祐樹にとっての「スウィート・ポイズン」である黒服だ
 黒服の傍に、小さな少女の姿と、祐樹よりも年上らしい青年の姿があった
 その二人が、黒服と契約した存在である事を、祐樹は知っている
 そして、幸いにして、その二人が「組織」所属のものではない事も

 「組織」の黒服という存在が、人間と契約できるとは思っていなかった
 考えて見れば、「組織」の黒服という存在もまた、都市伝説に変わりはないのだから、契約は可能だろうと気づけたのかもしれないが
 …先に気づいていれば、自分が
 一瞬はそう考えて、だが、それは無理だったろう、と自覚する
 祐樹の中の、都市伝説を受け入れる器は、ククージィ一人ですでに埋まってしまっていて…この黒服と多重契約すれば、その器は崩壊し、祐樹と言う存在はククージィと言う都市伝説に飲み込まれてしまうだろうから
 だから、きっと、祐樹がそれを提案していたとしても、ククージィも黒服も反対してきただろう
 自分には、無理だった
 だが、あの二人には可能だった
 ……それが羨ましく、少し嫉妬する

「黒服、知り合い?」
「はい、以前知り合った契約者です」

 傍らの少女に尋ねられ、黒服はそう答えている
 たくさんの都市伝説契約者と知り合い、見逃してきている黒服
 その全ての顔と名前を、この黒服は全て記憶しているのだ
 …それくらいできなければ、黒服の仕事は勤まらないのかもしれない

「新年、あけましておめでとうございます……あの、祐樹さん、どうかなさったのですか?」

 改めて挨拶をしてから、黒服はもう一度、祐樹にそう尋ねてきた
 …祐樹がまとっていたかすかな不安を、感じ取ったらしい

 ……流石はスウィート・ポイズンだ
 そう考えつつ、祐樹は答える

「あけましておめでとう……ちょっと、ククージィと逸れただけだよ」
「ククージィさんと?」
「あぁ。逸れただけで、決して迷子になった訳じゃない」

 最後の部分を強調する祐樹
 ……が、なぜか、黒服達からは「あぁ、迷子になったんだな」と言う趣旨の視線が向けられた

「あの、ククージィさんを探すのを、手伝いましょうか?」
「いや、いい……それよりも、そっちの二人は?」

 もう知っているのだがあえて尋ねて見る
 …この黒服が、どう答えてくるのか
 祐樹は、少し興味があった

 祐樹の問いかけに、黒服は柔らかく微笑み、答えてくる

「私の、家族です」

 …家族、と
 躊躇いもなく、迷いもなく
 そう、答えてきた黒服

 …羨ましい、と祐樹は黒服の傍にいる二人に視線をやった
 この黒服に、家族と呼ばれる
 それが、酷く羨ましく感じたのだ

 ……もっとも
 羨ましい、と感じつつも…スウィート・ポイズン中毒になりかけている祐樹には、その輪に加わる勇気はない
 家族、と言う常に傍にいられるような環境にいたら、自分のスウィート・ポイズン中毒はさらに加速する
 それくらいの自覚はあったから

「そうか……はじめまして。祐樹 ペリシャだ。この黒服には、以前、助けられている」
「へぇ、お前も黒服に助けられてるのか。よろしくな」

 青年の方は、始めかすかに祐樹を警戒してきていたようだったが、黒服の紹介などで、警戒をある程度といてくれたようだった
 少女の方は…人見知りをしているのか、まだ、祐樹を警戒している
 黒服にくっついて、かすかに隠れるような体勢
 微笑ましいな、と迷子で不安になっていた心が、かすかに和む

「…それじゃあ、俺はこれで。あんたも、家族と逸れないようにな?」
「はい…ククージィさんと、すぐに合流できるといいですね」

 祐樹に、心配そうにそう言ってくれた黒服
 その優しさが、じわり、しみこむ
 スウィート・ポイズン特有の優しさ
 その優しさは、スウィート・ポイズン中毒者である祐樹にとって、酷く魅惑的なものだ
 その優しさに触れる事で、また更に中毒が進む

「ほら、行きましょう、黒服。「首塚」の新年会に行くんでしょう?」
「あぁ、はい…あの、そんなに引っ張らなくとも…」

 少女に手を引かれていく黒服
 青年が、慌ててその後を追いかけていっている

 ……あぁ、やっぱり、羨ましいな
 三人の後ろ姿を、祐樹は羨望の眼差しをむけて見送った

 羨ましいと、思うと同時に
 あの家族という関係が、壊れなければいいと願う
 スウィート・ポイズンである黒服には、祐樹のような味方も多いが…ビター・ポイズンのような敵も多い
 その安全が、平穏が、いつ壊されてしまうか
 それは、全く予測できないから

(……だから)

 あの平和そうな、家族と言う関係を壊させないためにも
 自分は、ビター・ポイズンを狩り続けよう
 それが、スウィート・ポイズンに助けられた自分の、彼に対する恩返しだ
 祐樹はそう考え、決意を固める







 ……あぁ、そうだ
 この学校町に帰ってきたからには、学校町に巣くうビター・ポイズンを狩り続ける
 それが、俺の新年の抱負
 スウィート・ポイズンを護る為にも
 スウィート・ポイズンの家族を護る為にも




fin





タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
記事メニュー
ウィキ募集バナー