「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ハーメルンの笛吹き-28

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【上田明也の探偵倶楽部】

「前回までのあらすじだ。」
シャーロック・ホームズのコスプレに猫耳を装着した男。
名前は上田明也。
殺人鬼兼探偵。
趣味は猫耳(をつけること)。
「んー!んー!」
ここで猿ぐつわをかまされてあばれている少女は恋路。
都市伝説「電子レンジで猫をチン」の少女である。

「邪悪の権化であるこの俺は長年のライバルである正義の味方『明日真』の彼女を誘拐することに成功したのであった。
 これからこいつを人質にして彼をおびき寄せて正々堂々バトルしたいと思います。以上。
 茜さん、そいつの世話頼む。
 俺がやったらなんか悪役っぽくない。
 怪我はさっき渡した薬塗っておいて、腹減ること有るのか知らないけど腹減ったと言ったなら料理でも振る舞ってやってくれ。」 
「はーい。ていうか明也さんは何をやっているんですか?」
「女性を誘拐して人質にしてみた。最低だろ?」
「はい!」
嬉しそうに頷く茜さん。
「そうか、何よりだ。
 それじゃあ上田明也の探偵倶楽部、始まるぜ?」

【上田明也の探偵倶楽部8~優しい人~】


上田明也は紳士だった。
上田明也は恋路を直接攻撃することなく彼女を生け捕ることに成功していた。
上田明也は生け捕った彼女に何をすると言うこともなく、赤い部屋の中に軟禁していた。
上田明也は恋路の過去を知っていた。
上田明也は恋路を殺しても構わない人間だったと判断した。
上田明也はそれでもなお彼女を殺すという判断は下さなかった。
上田明也は嘘つきだった。
上田明也は嘘つきだが優しい男だ。
上田明也は極悪人だから幸せそうな人間や努力している人間や仲間には誰よりも優しかった。
上田明也は極悪人だからモラルや常識を無視する人間や人の痛みに無知な人間は容赦無く殺した。
「…………プハァ!」
赤い部屋の主、茜さんに猿ぐつわを外される恋路。
「いらっしゃいませお客様。ホテルカリフォルニアへ。
 チェックインチェックアウトはご自由ですが自らの意志で出ることは出来ません。
 酒ならなんでも有るが1969年以降の物は無いんだ。」
恭しくお辞儀をしてみせる上田明也。
圧倒的に勝った、と思っているからこその戯けた振る舞い。
「……ここは赤い部屋?都市伝説が使えない真っ赤な異空間なんてそれしかない。」
「その通り、君には自殺する自由さえ与えられていない。
 治療はしたけど両手は確り動くかい?
 先程は済まなかった、明日君をおびき出すにはあの方法しかなかったんだよ。」
「私を捕まえて真をおびき出すつもり?」
「そのつもりだったが……何か問題があったかい?
 例えば……、二人は喧嘩しているとか。」
「………なんで知っているのよ。」
「おや、本当に喧嘩していたのか。」
「――――――――――――!!!」
「成る程、頭脳戦はあまり得手ではないみたいだね。」
上田明也は楽しそうに笑った。

ドス!
「おぶう!!」
上田明也は思いきり殴り飛ばされた。
赤い部屋の壁に激突する上田。
「騙されて悪かったわね。自殺する自由が無くても殺人する自由なら有るかしら?」
頬がピクピクしている恋路。
割と腹が立ったらしい。
「ちょ、痛い痛い!茜さん止めてよこいつを!殺す気だよ?絶対殺す気!」
むくりと起き上がって腹をさする上田。
「だって………、面白そうだったんですもの。」
「あれ?殺す気でやったのに?」
「ほら、こんなこと言ってるよ茜さん!」
「良いじゃないですか、生きているんですから。」
ほっこり笑う茜さん。
上田との割と落ち着いた日々のおかげで性格もすっかり円くなったらしい。
「生きているんですから(ハート)じゃないよおおおおおおお!!!」
「だって生きていることって素敵な奇跡だと思いません?」
「だからって駄目!契約者の危機だよ!ちゃんと助けろよ!」
上田はちょっぴり怒ったようだ。
彼を知る人間からは考えられない表情だろう。

「お、怒らないでよ!」
怒った上田に対して脅える茜さん。
「怒ってねえよ。」
「怒ってるでしょ。」
「怒ってねえってば。」
「ほら、怒っているじゃない!
 やっぱりそうだったんだ、どうせそんな事だろうと思っていた。
 私なんてその場限りの適当な言葉で言いくるめられた安い都市伝説だったんですね。
 なら半端に優しさなんか見せないでよ!
 ひどい!ひどいわ!怒ってるんでしょう!殴ってよ殴ればいいじゃない!
 暴力でも振るってくれた方がいっそ楽よ!
 どうせ私は誰にも必要とされてないんだうわ~ん!」
性格は円くなったようだがガラスのハートな所は変わらないらしい。
「あーあー、解った。俺が悪かった。
 だから泣くなよ、ほらな?
 今度お前の好きな物買ってきてあげるから。
 あ、ディズニーグッズが何か欲しいって言っていたよな?
 プーさん?プーさんでも買ってくればいいのかな?
 俺にはお前が必要なんだよ、お前無しでは何も出来ないんだ。
 俺もお前が一緒に居て楽しめる人間で居たいからさ、もう少し手伝ってくれよ?」
「本当?」
「ああ、勿論本当だ。」
「あのさー、ハーメルンの笛吹き?」
「あー、ちょっと待ってくれ恋路ちゃん。」
「ちゃんはつけなくて良い。」
「じゃあ恋路、今ちょっと茜さんに落ち着いて貰っているんだ。
 暇だったらそこらへんに紅茶とか有るから適当に飲んでおいてくれ。
 そうだ、Wi●とか●s3とかも有るからテレビに繋いで遊ぶなりしていてくれ。
 とりあえず王子様が殴り込みに来てくれるまで待機して頂く為に部屋用意してるから待っててくれない?」
恋路は完全に戦闘意欲を失っていた。
毒かもしれないので紅茶には手をつけずにゲームだけそこらへんから運び出すことにしたようだ。


「私、何やっているんだろう……。」
恋路は鉄拳6のアーケードモードのタイムアタックを開始していた。
彼女のスティーブは面白いくらいにコンボを決めまくっている。
とてもじゃないが彼女が人質とは思えなかった。

コン、コン、コン、コン
「どうぞ。」
「すまん、少しバタバタした。」
上田明也が顔にひっかき傷をつけて部屋に入ってきた。
おそらく茜さんにひっかかれたのだろう。
「……ずいぶんやられたみたいだね。」
「いい女だぜ?少しハードなプレイを好んでいらっしゃるが。」
「はいはい、そうですか。」
「明日真が来るまではのんびり過ごしてくれ。
 俺はお前に恨みはない。むしろ恋人と幸せに日々を生きている事に対してほほえましく思っている位だ。」
「恨みはない?恨みがない人間に向けて良く殺すなんて言えたわね。冗談に聞こえなかった。」
「いやだってそりゃあ、殺すのも悪くないって思ってたから。」
「……なにそれ。」
「いや、人質にしてもぶっ殺しても真君は来るだろう?
 ただ愛し合う二人を死で分かつのはとても………無粋だ。」
「それだけの理由でわざわざ生け捕りにしたの?」
「何者にも優先するだろう?」
「粋なことがそんなに大切?」
「粋な悪役で居ることが大切なんだ。
 例え億千の無辜の市民を戮そうとも無粋にだけはなっちゃいけない。」
「理解できない。」
恋路のスティーブが簡単にラスボスを倒してゲーム終了。
とてつもなく早く終わった。


「うまいもんだな。」
「慣れているから。」
「前から思うんだけどお前さ、人間だった頃の記憶、有るだろ?」
「………その問は無粋じゃないの?」
「嫌ならば今の話は忘れても良い。」
「あんた正直さ、粋だの無粋だのすらどうでも良いんでしょう?」
「粋な人間はつまらないことに拘らない。」
「もう、……どっちでも良いや。」
恋路は今度はプラクティスモードを始めた。
主人公キャラで基礎的なコンボから一つ一つ丁寧に決める。
「別に私は後ろめたいことをしたとは思っていないよ。やらなきゃやられてた。」
「俺のがもっと後ろめたい事しているから一々言う気は無いよ。」
「悪役の悪事自慢に付き合う気はない。」
「残念だ。じゃあ俺はすこし仕事に行ってくる。
 これでも真面目な社会人なんだ。」
ドアを開けると上田明也はどこかに行ってしまった。
「これから暇だなあ……。」
恋路はベッドに寝転がって目を閉じた。


「……さーん。…じさーん。恋路さーん?」
頬をペチペチ叩く音が響く。
茜さんが恋路のベッドの隣に立っていた。
「……何?」
「ビーフストロガノフ作ったんだけど食べますか?」
「要らないです。」
「むぅ~……。」
むくれる茜さん、可愛い。
「人質なんだから殺すわけ無いじゃないですか。」
「信じられない。一応極悪殺人鬼の根城だよ?」
「あの人悪い人だけど私に優しいですよ?」
「貴方に優しいことと私を殺すかもしれないことは別でしょう。」
「そうかなあ?あの人貴方にも優しいよ?」
「優しいことと殺すことは別でしょう?」
「そっか。」
「そうだよ。」
ベッドからムクリと起き上がると恋路は時計を見る。
確かに丁度夕飯時だった。
「名前なんだったっけ?」
「茜です、あの人がつけてくれました。」
「アキナリ……、だっけ?」
「はい、明也さんです。江戸時代の作家の名前と読みが一緒だと笑っていました。」
「じゃあ茜、貴方は普段どうやって過ごしているの?」
「基本NEETです。」
「ずばり言うね……。」
「偶にアキナリさんが料理を作ったりお話に来てくれたりします。」
「あいつって料理作るの?」
「すごく上手です。」
「嘘………。どうやって出会ったの?」
「私が彼を襲おうとしたら返り討ちにされて……。」
「ああ、ハーメルンの笛吹きの能力は強力だものね。」
「いえ、彼は都市伝説を使わずに私を……。」
茜さんの頬が赤く染まる。
赤い部屋の中の為にそれも解りづらいのだが。
「………やっぱり無茶苦茶だ。」
どうやら恋路は普通に倒したのだと思ったらしい。
「この前はウサギの尻尾のキーホルダーをくれました。
 彼も同じ物を持っているんです。」
「へえ……。」
「ほら、都市伝説の性質上、私って人とあんまり交流できないじゃないですか?
 でも彼のおかげで今はそこそこ楽しいんですよ。
 誰かに必要とされている、っていうか……。」
「茜には彼が必要なの?」
「はい。」
また、ほっこり笑う。
赤い部屋の彼女は間違いなく幸せなのだろう。
恋路は確信していた。
自分は明日真に必要なのだろうか?
恋路は急に考えさせられた。


「良い香りだなあ。」
ドアの向こうから声が響く。
上田明也が帰ってきたようだ。
「あ、帰って来たぁ!」
嬉しそうに声の方向へ走る茜さん。

「とりあえず明日に宣戦布告してきたから、明日辺りにでもバトるから今日は早く寝な。
 俺倒れるまで出てくるのはやめてね?
 ほら、人質いきなり帰したらテンション下がるだろう?」
「どうせ私に拒否権は無いんだろう?」
「勿論。真君やる気満々だったぞー。」
悪戯を終えた悪ガキのように笑う上田。
「ふふっ、やれやれだ。とりあえず夕飯でも食べるのかい。」
恋路はため息をつく。
だが、嫌そうな顔はしていない。
真が自分の為に必死で戦いに来る。
そう思うとなぜだか少し、否、すごく嬉しいのだ。
明日真は彼女を必要としている。
「お、喰う気になってくれたか。」
「アキナリさん、今日はビーフストロガノフです。」
「俺大好きなんだよ~。」


「思うにね、誰もが誰かを必要としているんだ。」
「は?」
「へ?」
茜さんと恋路が同時に首をかしげる。
テーブルの上には美味しそうな料理が並ぶ。
三人は同じテーブルを囲んでいた。

「世界には様々な化け物が居る。
 それらは全て超人的な身体能力にスーパーコンピュータの如き頭脳を持ち、
 何時だってそれを使って命のギリギリを見定めるような戦いを続ける。
 それだけならまだマシだ。
 俺達の想像も付かないような特殊能力を操る奴だっている。
 でもね、俺にはそいつらが恐ろしく見えない。
 むしろ悲しく見えるんだよ。
 親にしかられ野辺をさまよう哀れな童に見える。
 だって彼ら寂しそうなんだもの。
 都市伝説も人間も互いが互いを必要としているんだ。
 そうじゃなきゃ人間は都市伝説を語らない。
 だからどんな人間にも都市伝説にもそいつと相性の合うパートナーが居るし、
 逆に言えばそれが見つかっていない人間も都市伝説も恐るるに足らない。

 ………まぁ、なんだ。気にせず食べてくれ。」

「変な人。」
茜さんはまた、ほっこり笑った。
【上田明也の探偵倶楽部8~優しい人~ fin】

「いやはや、恋路君は意外と人質生活に馴染んでくれて助かったよ。
 あの女は正義の味方とかそういうのよりはこっちよりの人間、もとい都市伝説なんだろうな。
 まあだからこそ……明日真、あいつは気に入らない。
 彼女に自分を曲げさせてまで正義の味方か?
 人は知らない他人に好き勝手悪意をぶつけるから大切な人を大切にできるんだ。
 人間の心は一つに偏りなんてできない。
 何が無償の正義の味方だ。
 そんなことをしていたら傍に居る人間を絶対に傷つけるに違いない。
 そんな人でなしな真似俺は出来ないしたくない。
 好き勝手に生きて好き勝手に人を好きになればいいじゃないか。
 正義の味方なんて俺は認めない。
 人間は自分の味方以外の何者にもなれない。
 さて、来週の上田明也の探偵倶楽部はー!
 上田明也、二股がばれてぶっ殺される。
 上田明也、ラスボスになる。
 上田明也、猫耳状態で年上お姉様に(ピュー)の三本、ってなんじゃこりゃあああああ!?」
「アキナリさんどこ~!もしや、捨てられた……?
 ウワーーーーーーン!!」
「うわ、茜さんが泣き出したのでなだめに行って来ますそれでは。」
チャンチャンってか。
【上田明也の探偵倶楽部 続】

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