「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - ヤンデレ弟の日常-03

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 何故私は殺されてしまったの?と彼女は嘆く
 どうして殺されてしまったのか、と嘆き続ける

 嘆く彼女は人を殺す
 理不尽に殺された自分と同じように
 理不尽に殺していく

 彼女が本当は殺された事なんてないと気付くまで、あとどれくらい?



              Red Cape




 ある小学校に勤めていた給食のおばさん、誰かに殺されちゃった
 工事現場に埋められたおばさん、そのうちそこはコンクリートで固められた

 出来たばかりの真新しい道路
 そこが一箇所だけ、黒く変色し始めた

 そこを歩く小学生
 面白がって、変色した場所を踏んで遊びだす


 …そこから、ず、と手が伸びて
 小学生の足を掴んだ
 足を捕まれた小学生、コンクリートの中に引きずり込まれて
 料理の具にされちゃった


 黒く変色したのは、おばさんの恨みが漏れたから
 だから、黒く変色したコンクリートを踏んじゃいけないよ
 理不尽に殺されちゃったおばさん、その恨みから気が狂って
 踏んづけてくる人を、問答無用で殺しちゃう


「…そう言う、都市伝説、だったっけ」

 黒く変色したコンクリートを見下ろし、青年は呟く
 …既に、数人の小学生が行方不明になっているそうだ
 きっと、行方不明になった子供たちは、もう見つからない
 骨が見付かれば、運がいいと言ったところか

「酷いよね。子供を殺すのはもはや人間でもない腐れ外道だって兄さんが言ってた
 ……あ、元々人間じゃないんだし、関係ないか」

 憤慨している様子もなく、かと言って、最早死んでいるであろう子供たちに同情した様子もなく
 青年は、ペットボトルの蓋を開ける
 …いつも通り、やればいいだけの事
 いつも通り、相手を溶かし尽くしてやればいい
 どうせ、他人に迷惑しかかけない都市伝説である
 消してしまっても、なんら問題はあるまい
 面倒臭いなぁ、とは思う
 どうして、自分に仕事が回ってきたのだろう
 時間が空いているからと、仕事を受けたのは自分だけど

「…まぁ、いいか」

 せいぜい、こちらを利用すればいい
 こちらも、利用させてもらうから

 こぽり
 ペットボトルから溢れ出すコーラ
 ごぽごぽと、黒く変色したコンクリートへと向かっていく
 相手の本体は、あのコンクリートの下
 ならば、相手が出現する前に、一気に溶かしてやるだけだ
 …もしかしたら、コンクリートの下を走る水道管とかをちょっぴり巻き込むかもしれないが、まぁ気にしない方向で
 ごぽぽぽぽぽぽ
 ……じゅうっ、と
 コーラがコンクリートを溶かし始めた

 …直後

「っ!?」

 ぞくり 
 殺気を感じ、彼は横に跳んだ
 っしゅ!と
 直前まで彼が立っていた場所を、包丁が通り過ぎていく
 ごぽりっ
 溶かされ出した変色したコンクリートから…それが、姿を現す

 血塗れの割烹着に身を包んだ、中年の女性
 割烹着姿で殺された訳ではないだろうに、「給食のおばさん」と言うイメージから、こんな姿なのだろう
 …いや、そもそも
 彼女と言う人間がかつて存在していて、それが殺された、と言う事実など、存在しないのだが
 噂から生まれる都市伝説
 根も葉もない噂から、事実に近いものまで
 これは、小学生が何気なく語る怖い話
 たまたま、色が変色していたコンクリートを見て、想像を膨らませた結果だろう
 その結果生まれた、都市伝説「給食おばさん」
 それが、青年が今回、始末を依頼された相手
 無差別に人を襲う凶悪さが、始末対象になった理由

 …だから
 その生まれに同情して手加減する理由などない
 根も葉もない噂
 そこから生まれた存在だ
 そんな事件は「起こらなかった」
 誰かが殺された訳ではない
 それでも彼女は生まれ、ありえなかった事件の代わりに誰かを殺す
 ならば、止めるべきなのだ
 殺して止めるべきなのだ
 何かの間違いで、兄が犠牲になってしまったら大変だし

「姿を現してくれたんだね、ありがとう。お陰で狙いやすくなったよ」

 にっこり微笑み、青年はコーラを放つ
 相手は実体を持っている
 ならば、溶かす事ができる
 いつも通り、溶かしてしまえばいい
 その口からコーラを注ぎ込み、じわじわと内部から溶かしてあげよう
 女性相手なんだから、顔が解けるのは最後にしてあげた方がいいよね、きっと
 間違った親切心を抱きながら、青年は給食おばさんを攻撃する

 ---しかし

 その攻撃は、彼女の直前で、止められた

「え?」

 ばちゃり
 それは、何かとぶつかり合い、給食おばさんに届かない
 白い、どろりとした液体
 …あれは

「ッシチュー!?」

 とろとろ、ごぽごぽと
 じっくり、煮込まれた状態の、シチュー
 それは、給食おばさんが何時の間にか抱えていた、大きな鍋から溢れ出ていた
 どろり
 煮込まれたシチューの中に…小さな骨が見えたのは、気のせいか?

「ッ駄目じゃない、食べ物を粗末にしちゃ…!」

 自分も、攻撃にコーラを使っていることを棚にあげ、青年はぼやく
 …しまった
 まさか、液体系の攻撃もしくは防御手段を、相手が持っていたとは…

 …いや
 それでも、自分の戦い方は変わらない
 本体が液体と言う訳ではないのだ
 本体さえ溶かし尽くしてしまえば…!

 しかし、一瞬、おのれの攻撃を受け止められた、その事実が
 致命的な隙を作ってしまった事に、青年が気付いたのは

「………え?」

 己の、腹部に
 深々と…包丁が刺さっている事を、確認した直後だった

「……っ」

 ずきり
 痛みを自覚する
 「骨を溶かすコーラ」と契約している青年だが…彼自身には、特別な強化などされていない
 あくまで、全てを溶かすコーラを自由自在に操れる程度の能力しかないのだ

 だから
 体に、深々と包丁など刺されては…当然、ダメージを食らう
 それも、致命的なダメージを

 青年は、思わず膝をついた
 コーラを操る為の集中力が途切れる
 新たに生まれたその隙を、給食おばさんは見逃してはくれなかった
 がし!!と
 腕を伸ばし、青年の足首を掴んできた
 ずるずると、そのまま恐ろしい力で、青年をコンクリートまで引きずり込もうとする

「か、は……っ」

 痛い
 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、いたい、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ……!
 痛みが、集中力を削いでいく
 青年が意識しなければ、コーラは何も溶かしてくれない
 ただ、空しく零れるだけだ

 …ニタリ
 給食おばさんが笑ったのを
 青年は、確かに見た

「…………っざけんじゃねぇぞ、糞ババァが!!!」

 叫ぶ
 こんな所で殺されてたまるか
 死んでたまるか

 自分が死んだら、兄さんはどうするのだ
 兄さんには、自分がいなければ駄目なのだ
 自分が、ずっとずっとずっとずっとずっとずっと傍にいてあげないと
 兄さんを、護ってあげないと

 …記憶が、フラッシュバックする
 あれは、両親が死んだ日
 両親が、誰かに「殺された」日
 両親の死体を前に、見るな、と自分の目を両親の死体へと向けさせようとしなかった兄
 首の無い死体という、あまりにもショッキングなそれを、こちらのトラウマにならないよう…見せないようにしてくれた、優しい兄
 両親の葬式の後、青年は決めていた
 …自分が、兄さんを護らなければ、と
 両親を殺したのが誰かはわからない
 でも、あぁ言う事態は、いつ、誰の身にも起こりうる可能性がある事なのだ
 だから、兄さんがあんな目にあわないように…自分が、兄さんを護らないと

 だから、ここで死ぬ訳にはいかない
 ここで自分が死んだら、兄さんを危険から護る事ができなくなってしまう……!!

 再び、意識を集中させる
 零れたコーラは、再び青年の意思に従って動き出す
 動き出したコーラは、狙いたがわず…青年の足首を掴む給食おばさんの手首に、命中した

「ッギャアアアアアアアアアア!!??」

 耳に突き刺さる悲鳴
 一瞬で手首を溶かされ、給食おばさんは痛みにうめく
 束縛から逃れ、青年は距離を取ろうとして

「ぐ……」

 しかし、立ち上がれない
 痛みが、体中の力を奪っていく
 そして…青年の足首を掴む、給食おばさんの手は
 本体から切り離されてもまだ、強く強く、握りつぶさんばかりの力で、青年の足首を掴み続けていた

 ならば、本体を溶かしきるまで
 青年が、給食おばさんにコーラを向けたのと
 給食おばさんが、青年に再び包丁を…それも、心臓目掛けて、放ったのと


 果たして、どちらが先だったのだろうか?

 ピュンっ、と
 まるで、安っぽいSF映画で聞こえてくるような音が、聞こえたような気がして
 キィン、と、カン高い音とともに、包丁がはじけ飛ぶ

 包丁は、青年に届く事なく、宙を舞って

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!??」

 給食おばさんの絶叫が、辺りに響き渡る
 じゅううう、と
 青年が放ったコーラを全身に浴びた給食おばさんは、どろどろとその体を溶かしていく
 手加減など、してやるか
 骨も、何も残さずに、溶かし尽くしてやる
 じゅうじゅう、じゅうじゅう
 やがて、悲鳴は鳴り止んで

 …後には、どろりと溶けたコンクリートだけが、残された


「…っう」

 ズキリ
 痛い、いたい、イタイ
 意識が、遠ざかっていく
 …どうしよう
 救急車を呼ぼうにも、はたして、今の自分はまともに声を出せる状態だろうか
 それでも…何とか、ポケットから、携帯電話を引っ張り出すと

「…だから、言ったでしょう。油断は禁物であると」

 ざん、と
 黒服の男が、青年の前に姿を現した
 黒服を見上げ、青年は笑ってみせる

「…見てた、んだ。助けてくれれば良かったのに」
「だから、助けたでしょう」

 そう言って、黒服は銃を見せる
 どこか現実味のない、SF映画に出てきそうな形の銃
 恐らく、給食おばさんの包丁をはじいたのは、銃から放たれた銃弾なり光線なりだったのだろう

「……それ、で。救急車か何か、呼んでくれるの?」
「いえ、騒動を大きくしたくありませんので、救急車は呼べません」

 そう言って、黒服は青年の前で屈む
 いつも持っているジェラルミンの鞄をあけ…中から、何かを取り出した
 それは、その鞄から取り出される物としては、どこか不釣合いな…古ぼけた、小さな壷
 黒服はそこから、どろりとした何かを取り出す

「………何、それ」
「妖しい物ではありませんよ。「蝦蟇の油」、古き時代に生まれた、由緒正しき都市伝説です」

 そう言って、黒服は青年の腹部に突き刺さった包丁に、手を伸ばす

「…また、痛みが走りますよ、少し、我慢してください」

 と、ずぷりっ、と包丁を引き抜いた

「……っ」

 痛みと共に、傷口から血が溢れ出す
 黒服は素早く、その傷口に蝦蟇の油を押し付けるように塗ってきた
 正直、それだけでかなり痛い
 だが…蝦蟇の油が塗りこまれた直後から、痛みが嘘のように引いていく
 黒服が青年から離れた時…青年の腹部には、傷一つ残っていなかった
 ただ、服に空いた穴と血の痕だけが青年が傷を負ったのだと言う事実を物語る

「これで、大丈夫でしょう。流石にその服の替えまでは用意できませんよ。
 家に帰るまでに警察に見付かって、職務質問されないよう、お気をつけください」
「うん、わかってるよ」

 立ち上がる
 もう、大丈夫だ
 この黒服に、貸しを作ってしまった
 そこだけがまぁ、不満ではあるが…感謝しなければなるまい

「ありがとう、助けてくれて」
「……仕事ですから」

 黒服は、感情を押し殺した声で、そう言って来た

「それに、この仕事をあなたに依頼したのは私です。
 …これで死なれては、目覚めが悪いですから」

 そう、呟くように言って、黒服はこちらに背を向けてきた
 相変わらず、得体の知れない組織の一員である事が嘘のように、感傷的な男だ
 人間臭い、とでも言うべきか
 …だからこそ、こちらとしても扱いやすい

「…さて、と。兄さんに気付かれる前に、帰らなくちゃ」

 服は…まぁ、いいや
 どうせ、安物だし
 兄さんからもらった物じゃないから、いいや
 そう考え、青年は蓋を開けっ放しだったコーラのペットボトルに蓋をして、帰路についたのだった


 誰も居なくなった道路
 後には、どろりと溶けたコンクリートと、大量の血の痕だけが、残って
 翌朝、ちょっとした騒ぎになったのは、また別の話……




 死んで生まれて 生まれて死んで
 私たちは、何度死に続ければいいのでしょう?

 私たちを噂しないで
 私たちの事を考えないで

 あなたたちが何の気なしに噂しただけでも
 私たちは、また生まれてしまうのです



             Red Cape



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