ほぅ、と白い息を吐き出す
人が集まる初詣
たくさんの人間の体温で、この辺りは少しは気温が上がっているのかもしれないが…それでも、寒い
青年はそんな集団から少し離れ、その人波を眺めていた
人が集まる初詣
たくさんの人間の体温で、この辺りは少しは気温が上がっているのかもしれないが…それでも、寒い
青年はそんな集団から少し離れ、その人波を眺めていた
初詣はもう済ませた
が、青年の兄は引き続き、教師としての仕事でここの見回りをしなければいけないとの事だった
昼食時までそれをやっているらしいから…自分は、それが終わるのを待つだけだ
そう考え、青年は何をするわけでもなく、人波を眺めていて
が、青年の兄は引き続き、教師としての仕事でここの見回りをしなければいけないとの事だった
昼食時までそれをやっているらしいから…自分は、それが終わるのを待つだけだ
そう考え、青年は何をするわけでもなく、人波を眺めていて
「…あれ?」
その中に
見覚えのある姿を見つけた
会うのは久しぶりで、懐かしさすら感じる
向こうも、青年に気づいたようで
するり、人波を抜けて、かけてきた
見覚えのある姿を見つけた
会うのは久しぶりで、懐かしさすら感じる
向こうも、青年に気づいたようで
するり、人波を抜けて、かけてきた
「はぁい、久しぶり」
「久しぶりだね、エリカちゃん」
「久しぶりだね、エリカちゃん」
その相手に、青年はにこりと笑いかけた
兄以外はどうでもいいヤンデレブラコンだが、一応外面はいい
兄以外はどうでもいいヤンデレブラコンだが、一応外面はいい
「高校卒業以来よねー、9年ぶりかな?」
「うん、そうだね」
「お兄さんの方とは、去年のクリスマスイブの日にちょこっと顔合わせたんだけどね」
「うん、そうだね」
「お兄さんの方とは、去年のクリスマスイブの日にちょこっと顔合わせたんだけどね」
そういえば、兄さんがそんな事言ってたなぁ、とふと思い出す
大して重要な話でもないので、気に止めていなかった
大して重要な話でもないので、気に止めていなかった
「あなたもお兄さんも、変わってないわね」
「そう?君は、昔より綺麗になったね。好きな人でもできたかな?」
「そう?君は、昔より綺麗になったね。好きな人でもできたかな?」
お世辞のつもりだった
の、だが
の、だが
「あら、よくわかったわね?」
くすくす、彼女は笑ってくる
おや、と青年は少し驚いてみせる
彼女の様子からして、これはもしや…?
おや、と青年は少し驚いてみせる
彼女の様子からして、これはもしや…?
「もしかして、好きな人、どころか・・・…恋人、かな?」
「うん、当たり」
「うん、当たり」
青年の言葉に、微笑みながら頷く彼女
青年は、ますます驚く
青年は、ますます驚く
「よく、君みたいな女の恋人になってくれる菩薩みたいな男がいたね」
「あっはっは、ひどぉい」
「あっはっは、ひどぉい」
青年の、あんまりにもあんまりな言葉に対して、彼女はけらけらと笑う
普通なら平手の一発でもとんできてよさそうなものであるのだが…彼女は青年の性格をわかっているのと、懐が広いので飛んで来ないのだろう
普通なら平手の一発でもとんできてよさそうなものであるのだが…彼女は青年の性格をわかっているのと、懐が広いので飛んで来ないのだろう
「私だって、恋人くらいできるわよ」
「えー、でも、エリカちゃん、変人通り越して変態だし」
「そんな事ないわよ」
「えー、でも、エリカちゃん、変人通り越して変態だし」
「そんな事ないわよ」
むー、と少し子供っぽく頬を膨らませてくる彼女
青年としては、嘘を言っているつもりはない
正直な気持ちを言っているだけのことである
それくらい…彼女はある意味で、個性的であり
恋人を作るのが、難しい性格に思えたのだ
…いや、実際、高校時代三年間を通して見て、彼女に恋人ができた形跡は見えなかった
そんな彼女に、恋人ができたなんて
青年からしてみれば、それは奇跡に等しい出来事
青年としては、嘘を言っているつもりはない
正直な気持ちを言っているだけのことである
それくらい…彼女はある意味で、個性的であり
恋人を作るのが、難しい性格に思えたのだ
…いや、実際、高校時代三年間を通して見て、彼女に恋人ができた形跡は見えなかった
そんな彼女に、恋人ができたなんて
青年からしてみれば、それは奇跡に等しい出来事
「それじゃあ、その恋人放しちゃ駄目だよ?多分そんな心が広い人、なかなかいないと思うし」
「むー、そこまで言わなくてもいいじゃない」
「むー、そこまで言わなくてもいいじゃない」
すっかり、拗ねた様子の彼女
じ、と青年を見つめてくる
じ、と青年を見つめてくる
「あなた達は、どうなのよ?」
「僕と兄さん?僕も兄さんも、恋人とかはいないよ。僕は兄さんが結婚するまで、女性と付き合うつもりはないし……兄さんに相応しい女の人って、なかなかいないんだもん」
「理想が高いわよねぇ」
「僕と兄さん?僕も兄さんも、恋人とかはいないよ。僕は兄さんが結婚するまで、女性と付き合うつもりはないし……兄さんに相応しい女の人って、なかなかいないんだもん」
「理想が高いわよねぇ」
くすり
先程の拗ねた様子はどこへやら、笑みを浮かべてくる彼女
コロコロと、表情が変わる
それも、昔と変わらないな、と思った
先程の拗ねた様子はどこへやら、笑みを浮かべてくる彼女
コロコロと、表情が変わる
それも、昔と変わらないな、と思った
「…………気づいてた?」
「うん?」
「私、昔…あなた達の事、好きだったのよ?」
「うん?」
「私、昔…あなた達の事、好きだったのよ?」
どこか、悪戯っぽく笑って
彼女は、そう青年に伝えてきて
彼女は、そう青年に伝えてきて
「……うん、知ってたよ」
と、青年は笑う
「でも、僕、君みたいな女の子タイプじゃないし。兄さんにも相応しくないし」
「ひどーい」
「えー、だって、君みたいな変態。兄さんに相応しくないもん」
「ひどーい」
「えー、だって、君みたいな変態。兄さんに相応しくないもん」
笑いながら、青年はコーラのペットボトルを開けた
く、と少し口に含む
く、と少し口に含む
「まぁ、君、今は恋人いるんでしょ?そんな昔の事、どうでもいいじゃない……君が、兄さんを狙ってるなら排除するまでだけど」
「あははは。双頭の狂犬は健在ね」
「あははは。双頭の狂犬は健在ね」
くすくす、笑う彼女
くるり、青年に背を向けた
くるり、青年に背を向けた
「それはそうだけどさ。ちょっとくらい、淡い思い出に浸ったっていいんじゃない?」
「んー、そうだけど…」
「んー、そうだけど…」
ペットボトルから、口を放し
青年は、告げる
青年は、告げる
「君の恋人の前で、君のあの言葉に対して傾くような対応も悪いかなぁ、って」
「え?…………あら」
「え?…………あら」
気づいてたのね、と
彼女は、楽しそうに笑った
彼女は、楽しそうに笑った
「あんまりヤキモチ焼かせちゃ駄目なんじゃないかな?」
「いいじゃない、ちょっとくらい」
「いいじゃない、ちょっとくらい」
くすくすくす
楽しげに、楽しげに、笑う彼女は綺麗だった
女は、恋をすれば美しくなるものだ
楽しげに、楽しげに、笑う彼女は綺麗だった
女は、恋をすれば美しくなるものだ
自分や兄に恋をしてきていた時よりも
彼女は、ずっと綺麗で
…今の相手が、どれだけ大切で愛しい存在か、はっきりとわかる
彼女は、ずっと綺麗で
…今の相手が、どれだけ大切で愛しい存在か、はっきりとわかる
「それじゃ、またね~。恋人欲しくなったら、探してあげるわよ?」
「いらない。兄さんに相応しい女性は、僕がちゃんとこの目で見て確かめるから」
「いらない。兄さんに相応しい女性は、僕がちゃんとこの目で見て確かめるから」
厳しいわねぇ、と彼女は笑って
…人波の中から、こちらを睨んできていた男性の元に駆け寄っていっていた
なにやら話しているようだが…その内容までは、興味ない
先ほどの自分とのやり取りが原因で、あの二人がどうなろうと知った事じゃない
…人波の中から、こちらを睨んできていた男性の元に駆け寄っていっていた
なにやら話しているようだが…その内容までは、興味ない
先ほどの自分とのやり取りが原因で、あの二人がどうなろうと知った事じゃない
「…本当、相変わらずだなぁ、エリカちゃん」
ただ、そうとだけ思った
昔と変わらず、明るく、真っ直ぐで、しかしどこか気まぐれで
昔と変わらず、明るく、真っ直ぐで、しかしどこか気まぐれで
…………ただ
かすかに、違和感も感じたが
かすかに、違和感も感じたが
「…都市伝説と、契約した、かな?」
僅かに感じた、都市伝説の気配
…まぁ、いいか
自分や兄の敵にならないのなら
万が一、敵になったならば…………
その時は、殺すだけだ
…まぁ、いいか
自分や兄の敵にならないのなら
万が一、敵になったならば…………
その時は、殺すだけだ
物騒な事を考えながら、青年は笑って
彼女たちが見えなくなった人波へと、また視線を移すのだった
彼女たちが見えなくなった人波へと、また視線を移すのだった
「………なぁ、エリカ」
「あら」
「あら」
くすくすと
彼女は、恋人たるマステマに笑う
彼女は、恋人たるマステマに笑う
「今の私にとって一番愛しいのは、もちろん、あなたよ?」
「………」
「………」
すっかりやきもちを焼いたらしい恋人の様子に、彼女は満足したように笑って
するり、その腕に抱きつき、綺麗に笑う
…そんな彼女の笑顔に
マステマは、ほんのりと、頬を赤く染めているのだった
するり、その腕に抱きつき、綺麗に笑う
…そんな彼女の笑顔に
マステマは、ほんのりと、頬を赤く染めているのだった
fin